やわらか不戦の契り   作:妄想壁の崩壊

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誤字脱字報告に感謝です。


南区2

 

【73】

 

ウォールローゼの内側で巨人を発見した調査兵団はすぐさま行動を開始した。彼らは周辺地域に情報を伝えるため馬を走らせる。

 

監視のために武装を禁じていた104期の者たちも馬に乗せられ、連絡要員として上官たちについていく。即座に東西南北の班に振り分けられた彼らは、巨人を回避するように離散した。

 

「ゲルガー! 南班の指揮はお前に任せた!」

 

ミケは走り出した巨人を足止めするため、一人陣形を外れる。普通に考えればそれはただの自殺行為にすぎない。だが彼は調査兵団きっての精鋭である。『知性巨人が相手でなければ』、そうやすやすと死ぬことはないだろう。

 

「ミケさん!」

 

「我々が援護に行こう。ゲルガー殿、任務を忘れるなよ」

 

去り際にゲルガーに念を押し、同行していた中央憲兵四人のうち三人がミケを追った。彼らは偽装のため羽織った自由の翼の外套をはためかせ、馬を駆る。

 

「……行ってしまいますか」

 

ライナーとベルトルトを監視するため南班に配属を願い出たシャルルはその様子を見て、懐からペンを取り出した。

 

先ほど、シャルルにはミケにわざと伝えなかった情報がある。それは、無垢の巨人はエルディア人から生成されるということだ。

 

殺してきた敵が実は自分たちの同胞だったとあの場で暴露すれば混乱は必至だっただろう。なので隙を見て伝えようと思っていたのであるが、彼は行ってしまった。

 

シャルルはメモの切れ端に情報を記し、一人残った中央憲兵に告げる。

 

「私の護衛はいりません。これをミケ・ザカリアスに渡してください」

 

「よろしいのですか?」

 

「あなたはあなたの為すべきことをなさい。私もそうしますので」

 

「……承知しました」

 

兵士は手綱を引き、進路を変えて離脱する。その背中を見送りながらシャルルは彼らの無事を祈った。

 

(ライナー・ブラウンとベルトルト・フーバー……二人が少しでも怪しい行動を取れば私が殺さなければならない。特に、超大型巨人は巨人化させた時点で負けだ。だから……今しばらく眠っててください、ヒストリア)

 

【74】

 

ゲルガー率いる南班は複数の村を巡った後、コニーの故郷であるラガコ村を訪れていた。

 

ちょうど巨人が来た南側に位置する村であるそこは、想像通りの被害を受けていた。家屋は破壊され、人っ子ひとりいない。

 

「俺だ! コニーだ! 帰ってきたぞ! 誰か……誰も、いないのか……?」

 

村の真ん中でコニーの悲痛な叫びが響く。しかし返事はない。残酷な静寂だけがそこにはあった。

 

「そうだ、俺の家!」

 

「おい、待てコニー!」

 

コニーは己の生家を目指し走り出す。暴走気味な彼の後を全員が追った。

 

そして、そこには彼の家族ではなく一体の巨人がいた。大きさは7,8メートルくらいだろうか、コニーの生家をまるまる押し潰すようにして横たわっている。足と腕が胴体と比べて異常に小さいため、動くことができないようだった。

 

「そんな……」

 

コニーは仰向けになった巨人と目を合わせたまま動かない。

 

「こいつ、動けないのか……? いや、それよりもだ。今はとにかく生存者を探すぞ。まだ誰かいるかもしれん」

 

「……はい」

 

見かねたゲルガーはコニーの肩を叩き、生存者の捜索を始めた。その場に俯いていたコニーも顔を袖で拭い、一縷の望みをかけて村を探そうと生家をあとにする。

 

「クリスタ。俺はもう行くぞ……クリスタ?」

 

コニーは振り返り、仰天した。クリスタが心ここにあらずといった様子で、巨人の額に手を当てていたからだ。

 

「お、おい! お前、どうしちまったんだよ! 巨人に近づくなんて危ないだろ!?」

 

「すいません」

 

「ク、クリスタ……?」

 

コニーはクリスタの手を掴み巨人から引き剥がす。顔を覗き込めば、そこにあった表情はコニーの知るいつもの明るいクリスタとは違った。

 

歯を食いしばり、どこをみているのかも分からないような暗い目をしている。

 

「すいません……コニー・スプリンガー……私のせいで……」

 

「な、何謝ってんだよ。とにかく行くぞ。もしかしたら、一人くらいは生存者がいるかも知れないしな……」

 

「そうであれば、良いのですが……」

 

「ほんとにどうしちまったんだよお前……」

 

様子のおかしいクリスタに戸惑いながらも、コニーはラガコ村にて生存者を探す。

 

その後得られた情報は、少なくとも村民は『食われたわけではない』という曖昧な憶測と、『ならば逃げただろう』という願望的予想だけであった。

 

松明を手に取った彼らはラガコ村を後にし、壁に空けられたであろう穴を探しに向かうことになる。

 

「──あれ? シャル、もう良いの?」

 

『すいません、クリスタ。少し……休みます』

 

その時、馬に乗りながらクリスタは意識を取り戻す。様子のおかしいシャルルに違和感を覚えながらも、彼女は壁の穴を探すことに集中した。

 

(おかしい……以前の私ならば、村一つが壊滅した程度でこれほどの精神的ショックを受けることなどなかったのに……)

 

シャルルは『死のない世界』に戻り、頭を抱えた。クリスタと関わる中で、己の根幹が変わっていく自覚はあった。だがこれほどまでに脆弱になった自分の心に、彼は困惑を抱く。

 

シャルルはコニーの家にいた巨人──無垢の巨人にされたコニーの母親に触れて、その記憶を見た。平穏な日々を過ごしていたはずなのに、ある日突然村が霧に包みこまれ、そして体が光る。コニーの母親が最後に思ったのは、兵士となった息子のことだった。彼女は巨人になってなお、息子の帰りを待ち続けていた。

 

その記憶が、座標を通してシャルルに流れ込む。そしてそれが、彼の心を蝕んでいく。

 

シャルルは──第145代エルディア皇帝カール・フリッツにして初代レイス王は、たった一人の人間の記憶に心を悩ませるような人間性に溢れた人物ではなかったはずだ。

 

生前の彼は破壊者だった。15で始祖の巨人を継承してから、この世界の終焉を願って止まない復讐鬼だった。

 

(違う! 私は……私は平和を願ったはず……『復讐』とは一体……? だめだ、思い出せない……私は……私は『何』だ……?)

 

彼は砂の上に膝をつき、その両手は砂となって崩れていく。自分を保てなくなっていく。

 

砂に埋もれていく彼が最後に見たのは、無表情で己を見下ろす少女、始祖ユミルの姿だった。

 

【75】

 

穴は見つからなかった。

 

それはそうだろう、そもそも穴など存在しないのだから。

 

だが、現に巨人がウォールローゼの内側に出現した以上、無垢の巨人の発生原因を知らない調査兵たちは壁に空いた穴を探すしかないのである。

 

夜間、壁沿いを歩き穴を探した調査兵たちであったが、それは徒労に終わった。

 

「……見落とした可能性は?」

 

「あり得ない……巨人が通れるほどの破壊跡だぞ? もう一度、確認してみるか?」

 

西と東から穴を見つけることなく合流した、ナナバとゲルガーは話し合う。

 

「そうすべきだと思う……けど、流石に馬も私たちも限界が来てる。せめて月明かりでもあれば……」

 

ナナバの願いが通じたのか、雲が晴れ月光が彼らに降り注いだ。そしてそれはまるで導くかのように、一つの古城を映し出す。

 

ウドガルド城、パラディ島に壁が築かれるずっと昔から存在している古城だ。その始まりはシャルルも知らない。ただ巨人に対する防衛設備が何もないことから、少なくとも巨人がこの島を訪れる前から存在するということだけは予想できた。

 

調査兵たちは、都合良く存在するその古城で休息を取ることに決めた。奇しくも少し前までここにいた侵入者と同じように。

 

一方、ウォールローゼ陥落の報を聞き夜間行軍していたハンジたちのもとに、一人の来訪者が現れる。

 

「ハンジ……!」

 

「ミケ!? 君は104期のところにいたんじゃ? それに、酷い怪我だ。一体何が……?」

 

「俺のことは後で良い。それより聞け、壁は……破られてなどいなかった」

 

「なんだって? なら出現した巨人たちは……?」

 

「敵の援軍、知性巨人によるものだ。そして……巨人の……正体は……」

 

その言葉を最後に、ミケ・ザカリアスは馬の上で気絶した。中央憲兵より預けられた紙片を握りしめて。

 

慌ててハンジは荷台の上に彼を乗せ、そして迫真の演技で叫んだ。

 

「ミケ……? ミケ! 死ぬな! ミケ──ッ!」

 





モブリット「分隊長! 気絶しただけです!」
ハンジ「ごめん、一度やってみたかったんだよね……ん? 何か持ってるな……」

【原作との違い】
・ミケ生存

ちなみに中央憲兵の人たちはミケさんにメモを託して殉職しました。おのれ獣の巨人、あなたは犯罪者です!リヴァイをぶち込まれる楽しみにしておいてください。良いですねッ!?

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