中央第一憲兵と対人立体機動部隊を混同していたた修正しました。
【13】
あのあと、四人の仲はすぐに深まった。クリスタには今まで同年代の友人は存在しなかったが、やはり子供の遊び相手は子供が一番だったのだろう。
クリスタにとって三人は憧れの対象となった。
アルミンは頭が切れる上に多くの知識を持っていて、壁の外の世界について多くを語ってくれた。
ミカサは力が強く、請えば身体の使い方だったり、身を守る術を教えてくれた。
エレンは勇気……というか意志の力が強かった。我慢の「が」の字も知らないし、相手が誰であろうと理不尽なことには反発する。正直生きづらそうな性格だとは思ったが、自分の意志が弱いクリスタにとって強い意志を貫き結果をつかむエレンを尊敬した。
そしてもう一人、新たに出会った大人であるカルラもまたクリスタに良い影響を与えた。クリスタは本質的に母親を知らぬ娘である。そんな彼女にとってお節介焼きで気の強い母親のカルラは脳を焼かれるには十分だった。
足の悪いカルラが家事をしていれば手伝うようになったし、料理や刺繍、男の扱い方もカルラから倣った。酒場でウェイトレスをしていたカルラの手法は開拓地で燻る男たちを相手取るのに十分だった。
「お水とお弁当持ってきましたよー! もちろん、早いもの勝ちですからね! 遅れるような間抜けは夜までご飯抜きますから!」
「おー、クリスタちゃんいつもありがとうな」
「いやー、ほんと助かる」
「ちょ、ちょっとだけ待ってくれんか?」
「ダメです!」
クリスタの良い子レベルが上昇したのはそのおかげだろう。自分を消して相手に奉公することだけが、良い子の条件ではないのである。
なんだか良い子ではなく良い女……いや良い女房に寄ってる気がしなくもないが……。
かくしてクリスタがカルラに懐くのに時間はかからなかった。
ある日のこと。いつものようにカルラと共に食事の用意をしていたときのことである。
「クリスタ、これをテーブルに持っていってくれる?」
「うん! 分かった、『ママ』! ……あっ」
うっかりそう言ってしまったクリスタであったが、カルラは『また娘が増えちゃったわね』と笑っただけであった。
かつて母親に『お母さん!』と言って抱きついた時に投げ飛ばされたのとは大違いである。
その後声を上げずただ呆然と涙を流すクリスタをカルラがゆっくりと抱きしめ慰めるという流れがあったが、結果としてクリスタは信頼できる大人を得たのである。
そして次の日からなぜかエレンとミカサ、そしてそれに巻き込まれる形でアルミンが家事を手伝う頻度が激増したのであった。幼い嫉妬である。
【14】
「よお、お前ら! 元気にしてるか?」
「「「ハンネスさん!」」」
クリスタがいつものように家事手伝いをしていると、一人の男がやってきた。金色の短髪で駐屯兵団の男だ。
「ハンネス! 今日は仕事で来たの?」
「あぁ、ちょいと同伴でな。っとそっちの嬢ちゃんは……」
「私、外に行ってるね!」
何となく居心地の悪さを感じたクリスタは小屋を出た。……この頃には開拓地の全員が小さな小屋で暮らせるようになっていた。
「……なんか嫌われたか?」
「クリスタは意外と人見知りだからね」
アルミン曰くそうらしい。彼が未来で発揮した人を見抜く力は伊達ではない。
「酒臭かったんじゃねーの?」
「ばっか、もう仕事中に飲むことはしねぇよ……え、臭くねぇよな?」
「少しおじさん臭い」
「年頃の娘はみんなそう感じるものよ、ハンネス」
ハンネスは泣いた。
クリスタが外に出ると、開拓地の広場ではウォール教の司祭が説法をしていた。その隣には兵士がいる。服についた馬のような紋章は憲兵団の印であった。
憲兵団……この壁の中を支配している王政に仕える兵団である。王政……と言えど実際に王が政治を行っているわけではない。シャルル以降100年間、王位は空位である。それはシャルルから見て壁内を任せるに足る人物がいなかったこと。真の王家および始祖の巨人を秘匿すること。貴族たちにとって上位者たる王がいないほうが都合が良かったことが理由で、奇妙な王無き王政が続いた。
その憲兵を見てクリスタは思わず近くの木陰に身を隠す。自分を探しにきたと思ったのだ。
『クリスタ、大丈夫です。彼女は中央第一憲兵の者……私たちの味方です』
クリスタはシャルルの声を聞いて安心した。シャルルの声を聞くのはほんの数日ぶりであった。だがそれが無性に懐かしく感じたのはそれだけこの数日が彼女に変化をもたらしたからだろう。
中央第一憲兵……この壁の中、王無き王政において唯一『姿無き王』に忠誠を誓う謎の集団だ。つまり、シャルルが使える唯一の武装勢力である。そしてあの場にいる彼女は中央憲兵の秘密部隊、対人立体機動部隊の一員である。
なお中央憲兵の中でも対人立体機動部隊に限っては隊長ケニー・アッカーマンに集うイカれた集団であり。王への忠誠など一切、欠片も、微塵もない。そもそも隊長のケニーからして『将来国王になるか、できなきゃ王を殺す』などと王に対して公言する狂人である。シャルル曰く『なぜこんな狂人と優男のウーリが友人になったのかさっぱり分からない』。
そんな部隊の副官たる彼女を呼んだのは円滑に会談を行うためである。対等な話し合いでの忠誠心は要らないノイズだ。
「神は我々は人類を守るために、壁を創り給うたのだ! 故に、神の御業たる壁に人の穢れた手を加えるべきではない!」
そして憲兵の隣で警句を唱える男はニック司祭。ウォール教の聖職者である。
ちなみにウォール教とは真の王家、つまりシャルルが組織した壁内の真実を隠すための諜報組織であり、やはりシャルルの手駒であった。
もうお分かりであろう。彼らをここに呼んだのは他でもないシャルルその人である。
『今しばらく話が終わるまで待ちましょう。クリスタ』
「うん」
あたりを見渡せば熱心に説法を聞く者、暇つぶしに聞き流す者、気にもとめず立ち去る者など様々であった。
ただ話を聞いても退屈である。ので、クリスタは質問を投げかけることにした。
「すいません司祭様」
「よって──ん? どうかしたのか、迷える子羊よ」
「神様が人を守るために壁を作ったなら、どうして壁は破られてしまったのですか?」
周囲がざわめいた。皆がこの問答に興味を持ち耳を傾けている。古今東西、宗教問答とは一種の娯楽であった。
「それは……信仰が足りなかったからであろう。神への献身が足りなかったから、神はお怒りになり、試練をお与えになったのだ」
「献身……って努力のことですか?」
「まぁ、そうとも言えるな」
「なら、頑張ってみんなで壁を強くするべきじゃないんですか? そうやって人が努力することで壁がどんどん強くなったら、破壊されることはないんじゃ? そもそも壁は神様が人類を守るために作られたんですよね? だったら人の手を加えず破壊されるより、人の手を加えて防御力を高めたほうが神様の気持ちに沿うんじゃ──」
『クリスタ!』
矢継ぎ早に言葉を紡ぐクリスタ。ハッと気がつけば、その場の人間が異質なものを見る目でこちらをみていた。クリスタはやっと馴染んできた開拓地で、再び孤独を感じた。
(あれ……なんだろう、いまの……)
不意に既視感を感じた。それは同じく周りから囲まれていて、どこか疎外と孤独を感じる光景だった。囲む人の表情は皆同じく異質なものをみるような目で、唯一違うのは全員から指を刺されていることである。
「いや──まったく素晴らしい見解だ! 大変結構。君、将来大学で神学を学ぶ気はないかね?」
「え、あ……今のところは……」
その雰囲気を破ったのは意外にもニック司祭であった。
「そうか残念。さて、回答するとしよう。確かに、壁をよく知らぬものはそう考えることもある。が、それは己の無知を知らぬからこそ言えるのだ。我々ウォール教徒は自らが壁に対して無知であることを知っている。これがどういう意味か分かるかね?」
「えっと……分かりません」
「つまりだ。壁がどのようにして作られたのか、壁は何を材料に作られたのかを知らないということ知っているのだ。無論それが人知を超えた神の御業であることに疑いようはない。だが正確な材質や製法が分からない以上壁をより強固にする方法も分からないのだ。下手に手を加えて壁が崩壊してしまう危険性もある。それに……ここだけの話、壁の破壊を受け壁上の砲門の数を増やしたり、昇降機を増築する計画はあるのだ。ウォール教は教えに盲目的なわけではなく、現実と民の暮らしを十分に考えていると理解してもらいたい!……これで満足だろうか?」
「ありがとうございます」
周囲から『おお!』や『すごい……』、『ウォール教のことを誤解してたな……』、『クリスタちゃんは天才だな』などと聞こえてくる。何とか場は収められたようだった。
『ニック司祭。流石、言葉巧みな聖職者なだけはあります。まぁ、この程度していただかなければ本物の知恵者に理詰めされたときに困りますが』
「ねぇ、シャル。私、なんだか怖かった……」
『あなたがエレン・イェーガーの影響を受け自分の意思を明確に示すようになったのは良い兆候です。ですがそれは周囲からの疎外を生む場合もある、ということを頭に入れておいてください』
「……うん」
『さて、私はあの憲兵と司祭に話があるのでしばし身体を借ります。少しだけ眠っていてください』
その声を最後にクリスタの意識は心の奥へと沈んだ。
【原作との違い】
・王政なのに王位が100年間空位である。偽りの王は存在しない。
・中央憲兵、ウォール教がシャルルの手駒。
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