【15】
人目のない開拓地の外れにて、ウォール教の司祭、中央憲兵、村娘という一見何の共通点もない三人が集まっている。
「「お招きいただき感謝します。レイス王」」
うち二人が村娘に対し頭を垂れた。クリスタ、否、壁内の王たるシャルル・レイスは紫色の瞳でそれを見下ろす。
「直りなさい。こちらこそ、差出人のない手紙を信じ参じていただいたことを感謝します。ニック司祭、トラウテ・カーフェン」
「ウォール教は常に王とともにある。当然のことです」
ニック司祭はかつてシガンシナ区にて布教を行っていた司祭だ。あの惨劇を見た彼はウォール教の中でも教えと現実の両面の調和を考えることのできる数少ない人材である。
「私はケニーに言われてきたので」
トラウテは女性ながら中央第一憲兵隊長ケニー・アッカーマンに次ぐ副官の地位を持つ。壁の中の世の中を無意味と断じる虚無主義的一面を持ちながらケニーの夢に魅せられた者のうちの一人だ。
「しかし、随分可愛らしい姿になられたようで。以前は……」
「以前も何も、私はこれまで座標を通した声でのみ外部と接触してきました。今もそれは変わりません。この肉体はロッド・レイスの妾の娘の身体です」
シャルルはレイス家と共に表からは隠匿したが、裏で顔つなぎ程度は行っていた。貴族、ウォール教、中央憲兵、一部の商会を掌握し、そうすることで壁内の情報、軍事、経済の統率を図っていたのだ。レイス家から逃走した際のツテもこれである。
「妾……と、言うことは?」
「問題が起きました。直接会うのもそれが理由です。簡潔に説明いたしましょう」
シャルルは二人に包み隠さず話した。始祖の巨人がクリスタに受け継がれたこと。故にレイス家に追われているが、少なくとも今はクリスタを死なせるつもりはないこと。座標の力が制限されていること。壁の破壊から『不戦の契り』は破棄されたとみなし、反撃に出るつもりであること。
「ひとまず、私とクリスタは来年の訓練兵団に志願するつもりです。壁外からの侵入者がいた場合、きっとその者たちも兵団に潜入を謀るはず」
「王自らが戦場に?」
「……もはや私を王と呼ぶ者は少ない。高貴なる者の責務を放棄していたのですから当たり前です。故に私は最前線に出なければならない。そうでなければ……かつての選択全てを無駄にしてしまう気がするのです」
シャルルもまた自分の意思を持ち行動しようとしている。脳裏にはあのとき礼拝堂で会ったグリシャ・イェーガーの警告があった。
『いずれ壁外から巨人が攻めてくる』と……そのときは信じようとしなかったが事実であった。故に自分の盲目さが招いた地獄に責任を果たそうとシャルルは感じている。
「……ところで、貴族たちの動向はいかがですか? 特にレイス家について」
「手紙で伝えられた通り調べましたが……貴族たちはいつもと同じですね。保守的で、少なくとも他者を救済するような家はありません。ウォールマリア奪還作戦をみればお分かりでしょうが」
シャルルは黙って頷く。壁の中の貴族はユミルの民の血が入っていないエルディア人が主である。それはかつて帝国時代にユミル系エルディア人に顎に使われ、屈辱を強いられた彼らなら弱者を理解し、善政を敷くだろうという期待からきたものだ。
しかし、シャルルが得られたのは『意思は世代が変われば呆気なく潰え変わってしまうものだ』という教訓だけであった。
いずれ始祖の力を取り戻せば彼らの家は取り潰し平民にしてやろう。そう心に誓った。なお王都のどこかに頼りになるが変態な同志がいることをシャルルはまだ知らない。
「他のウォール教徒にも探らせていますが、どうもレイス家は積極的にあなたを探してはいないようです」
「そうですか……引き続き調査をお願いします。あぁ、あともう一つ。最後にお願いが──エレン・イェーガーの身柄の調査をお願いします」
「……誰ですかそれは?」
「この開拓地に住む少年です。シガンシナ区に住んでいたようですが、気になるのですよ」
「そういうのは憲兵ではなく探偵に依頼しては? 大体、年の差いくつです? そもそもあなたは男でしょう? 男色ですか?」
「これ! 先ほどから王に対し無礼であろう!」
トラウテを諌めるニック司祭をシャルルは制した。
「良いのですニック司祭。あとでケニー・アッカーマンに告げ口しておきます」
「ありがとうございます。ケニーなら王に反抗したその精神をきっと褒めてくれるでしょう」
「……もう良いです。エレン・イェーガーは始祖ユミルの関心を強く引いているので気になるだけです。私の方でも調べてみますが……恐らく父親の筋で何か情報が出るでしょう。頼みます」
シャルルは己の精神の本体がある『死のない世界』に意識を向けた。一度追い出された結果座標は使えないが、何とか復帰することはできた。しかし再び座標を使えばまた追い出されるのであろう。
シャルルは始祖ユミルの横顔をみる。やはり何を考えているのかさっぱり分からない。始祖ユミルは巨人の体躯を作るとき以外は空の道を眺めてぼうっと座っているだけだ。一時は彼女の未練を晴らし、巨人の力を消滅させられないか試したが無駄骨に終わった。
そんな彼女がエレン・イェーガーに対しなみなみならぬ興味を抱いているのである。まるで名画を見て感動しているかのような視線を、その小さな少年に四六時中向けていた。
(エレン・イェーガーの父親はおそらくグリシャ・イェーガーでしょう。それとなく、クリスタを介して親の話題を振ってみましょうか)
「さて、本日はご苦労でした。用件は以上となります。各自責務を果たすように」
「はっ……ときに王よ、本気で兵団に入隊されるのですか?」
「何か問題でも?」
「いえ、しかしウォール教はいつでも王を歓迎しますぞ」
それを聞いてシャルルは呆れたように言った。
「教祖を宗教勧誘ですか? 面白い冗談ですね」
「憲兵でも構いませんよ。特にケニーが喜びます」
話を聞いていたトラウテが割って入る。
「それは近くにいた方が殺しやすいからでは……?」
「そうですね。なぜ王はそんなにケニーに嫌われてるのですか?」
「彼が生涯唯一心を通わせた友の寿命を減らしたせいですかね。あとアッカーマンが迫害される遠因を作ったせいかもしれません……」
「それは嫌われますよ。何してるんですか」
「まぁ、アッカーマンが迫害されたのは私のせいではないのですがね……結局彼らが困窮したのも私の思想にそぐわぬと離職した結果、その素行の悪さと怪力のせいで再就職できなかったせいですし。と言うか真実を知る者たちが壁の中の出来事を全て私のせいにする風潮、やめていただきたいのですが……」
「「それは仕方がないでしょうね(でしょうな)」」
「……そうですか」
シャルルはため息をついた。王として軽んじられている気がする。だが少なくともかつて孤高であった頃より、今のようなあり方のほうが彼の本質に近いのかもしれない。
すなわち、苦労人である。でなければ2000年続いた悪習を正そうなどとは思わなかっただろう。
【原作との違い】
・中央憲兵が壁の真実をより深く知っている。
・始祖ユミルがエレンに関心を持っている。
覚醒アッカーマンってコミュ力とか性格、素行に難ありそうで迫害されてなくても普通に困窮してそうなイメージなんですけど、どう思います?
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