やわらか不戦の契り   作:妄想壁の崩壊

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開拓地5

【18】

 

クリスタ達が12歳を迎え次期訓練兵団の招集まで残り半年ほどとなる。これまでの間少年少女らは開拓地にて平凡な日常を過ごしていた。

 

そしてそんな平穏な日々が続くほどそれを眺める傍観者──シャルルの苦悩は増していった。それはクリスタを己の使命に巻き込む罪悪感である。

 

(もはやクリスタは友人と日常を持つ普通の少女に過ぎません、彼女を巻き込むのは……。しかし、彼女の身体を借りなければ座標をなくした私が現実に介入できないのも事実)

(──いいえ、悩む必要などない。これまでレイス家に課してきたものをまた別の人間に継がせるだけのこと。だと言うのになぜ……)

 

シャルルの頭には常に彼女がいた。継承して僅か数年でなくなったにも関わらず己の心に深く爪痕を残していった先代、フリーダが。

 

『クリスタ、よろしいですか?』

 

「あれ……シャル? なんだか久しぶりな気がするね。どうかしたの?」

 

『外へ行きませんか?』

 

「え……もう夜だけど」

 

『少し、話したいのです』

 

深夜にクリスタを家から連れ出したシャルルはゆっくりと話し始めた。

 

『今の暮らしはどうですか?』

 

「すっごく楽しいよ。昔は友達なんていなかったけど、今はエレンにミカサにアルミン。それからシャルもいる。あとはマ……カルラさんも優しいし」

 

『幸せですか?』

 

「うん、とっても」

 

星を眺めながらクリスタは笑顔でそう断言した。

 

『フリーダと雲を眺めた日を覚えていますか?』

 

「……覚えてる」

 

それはクリスタが牧場で過ごした最後の日だ。

 

『あの日フリーダは私に言いました。私とクリスタとフリーダ、三人が共に話せる日が来てほしいと』

 

「そうなの? そっか、私も久しぶりにお姉ちゃんに会いたいな」

 

『半年後には訓練兵団の召集があります。私たちはこれに参加する予定でした。それは食い扶持を確保するためと以前伝えましたね?』

 

「うん」

 

『あれは嘘です』

 

「えっ……?」

 

『今宵はあなたの意志を確かめに来ました。知る意志があるかを』

 

「知る……意思?」

 

『そうです。何故、あなたが故郷からここまで逃げてきたのか。何故、あなたに私の声が聞こえるのか。何故、あなたの母も姉もあなたを探しに来ないのか。何故、私が訓練兵団にあなたを入れようとしていたのか』

『もし、聞きたくないのなら……』

 

「──聞く」

 

クリスタがそう言うとしばらくお互いが言葉を発さない時間が流れた。夜風が木々を揺らす。

 

『何故、聞こうとするのですか』

 

「だって、シャルは私に聞いて欲しかったんでしょ? だから私を呼び出した。違う?」

 

『……ッ全てを知れば苦難の道を行くことになる。何も聞かなければ痛みを知ることもないのですよ……?』

 

この残酷な世界を知るのは自分ただ一人で良い。かつて楽園を築こうとしたときの思いがシャルルを支配する。

 

「それでも聞くよ! だってシャルは話せないせいで苦しんでるんでしょう? 家族が苦しんでるなら、私もそれを背負いたい。それに、お姉ちゃんもきっと同じ選択をしたと思うから」

 

『分かりました。私のすべてを伝えます。時間がかかりますがよろしいですね』

 

「お願い」

 

シャルルは知る記憶を全て、言葉でクリスタに伝えた。自分が初代レイス王の遺した遺志であること。代々それはクリスタの父の家系、レイス家に伝わってきたこと。フリーダがレイス家の者であり、クリスタを救うために命を犠牲にしたこと。そしてクリスタに、自分の使命を手伝わせようとしていたこと。

 

「そっか……お母さんもお姉ちゃんも死んじゃったんだ」

 

真実を知り涙を枯らしたクリスタはまずそう呟いた。

 

『辛くは、ないですか?』

 

「……毎日夢を見るの。血まみれのお母さんの隣に座る自分に注射を刺す夢。結末は分からないけれど、目覚める前には声だけが聞こえるんだ『愛してるよ』って」

「良い子でいれば、愛が手に入ると思ってた。確かに愛されたけど、良い子のままじゃ何も守れないんだね、シャル……」

 

『大丈夫ですか?』

 

「……正直、悲しい、苦しいよ。お姉ちゃんがどうして自分より私を優先したのか分からない。だけど、ただ座ってうずくまってるだけじゃ奪われるだけ」

「だから私は、変わりたい。自分の命をかけて私の命を救ってくれたお姉ちゃんの思いに応えたい。それが私を愛してくれたお姉ちゃんに対する、これ以上ない恩返しだと思うから」

「私は強くて優しいクリスタになる。シャルと一緒に兵団に入って、壁の中の世界を守る方法を探す。だから私を助けて──シャルル!」

 

そう言って健気にも立ち上がり、クリスタは天に手を伸ばした。シャルルは触れずとも確かにその手を取った。

 

『ならば、私も変わるよう努力します。クリスタ、フリーダに誇れるように……』

 

シャルルは記憶に負けず強い眼差しを宿す少女を見て思う。かつて自分は民に無知でも無痛であることを願った。しかしそれは、民を信じていないことの表れだったのだろう。

 

世界を疑った独善主義者が今夜初めて、他者を信頼することを知った。

 

(フリーダ。あなたの愛した娘はその意思も強さも受け継いでいます。どうか道から見守っていてください)

 

その晩を境に、開拓地からクリスタの姿は消えた。一枚、『訓練兵団に入るので、修行してきます』と置き手紙を残して。

 

かくして、その日は訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私を座標から追い出したくせに覗き見とは良い度胸ですね。始祖ユミル』

 




【原作との違い】
・覚悟完了メンタルつよつよクリスタ

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