【19】
南方領土ににおける訓練兵団駐屯地。カンカン照りの中、兵舎の広場に第104期訓練兵が集められた。
そしてその中にクリスタの姿はある。
「(シャル。あっちにいるの、エレンじゃない? 懐かしいね。もう半年ぶりかぁ……)」
『クリスタ、呆けていてはどやされますよ。教官殿が前を通ります』
クリスタが顔を引き締めると、日焼けしたスキンヘッドの男、キース・シャーディスが前を通る。教官はクリスタを一瞥したが、特に何か言うことはなかった。
「(あれ……何もないのかな)」
クリスタはそう疑問に思ったが、ちょうど隣ではクリスタに見惚れていた少年が首根っこを掴まれ怒鳴られている。
この半年、クリスタはシャルルからマンツーマンでの座学指導、肉体訓練を受けていた。後援にウォール教、教師に中央憲兵の対人立体機動部隊がつくという破格な環境で過ごした結果、キースから見ても通過儀礼が必要ない程度には気迫を身につけることができていたのだろう。
もっとも外面だけで中身は『久しぶりに会う三人と何を話そうかな?』と考えていたが。……王族の血筋なら面の皮の分厚さはいくらあっても足りないので丁度良いだろう。
「貴様は何者だ!何しにここへ来た!」
「ウォールローゼ南区、ジナエ町出身、マルコ・ボットです! 憲兵団に入り、王にこの身を捧げるために来ました!」
現在通過儀礼を受けているのはクリスタとは教官を挟んで反対側の列に立つ黒髪で長身の少年だった。一目見た印象は気弱そうである。
彼は純粋な瞳で王への忠誠を語った。……なお王位が100年空位であることを一般人は知らない。それが逆に民衆の前に顔を出さないというある種の神聖さを生み出していた。そこに『姿無き王』の逸話が加われば、視界に映る意地汚い貴族より不可視神聖な王に一定の人気が発生するのは摂理だった。
憲兵でもとりわけ優秀な中央憲兵だけが謁見できるという噂(事実)もまたそれに拍車をかけている。
シャルルは純粋な少年の目をみて心が痛んだ。彼は近頃、かつて捨てた人間性が舞い戻ったように物事を思うようになった。少なくともそれは良い変化だろう。
「そうか、それは結構なことだ。目指すと良い。だが──王は貴様の体なんぞ欲しくない」
『不愉快ですね……』
念を押すが初代レイス王は男色ではない。もともと生前はとても女顔で顔立ちは奇しくもクリスタに似ており、頻繁に男色を疑われたが間違いなく異性愛者である。
「(うわっ……あの丸坊主の人敬礼間違えちゃったみたい。持ち上げられちゃってるよ……)」
『あれではむしろ侮辱と取られかねません。必要な教育で──ふぁッ!?』
「(……ふぇ?)」
そこで二人は言葉を失った。
「おい、貴様……何をやっている……?」
二人の、いやこの場全員の疑問を教官が代弁してくれた。
「(あの人なんで芋食べてるの……? あ、分けた。わけ……た……?)」
クリスタと共にその光景を見ていたシャルルはかつての記憶がフラッシュバックした。
統率の効かないエルディア貴族、巨人の人食いを娯楽にする者たち。『何故巨人に人を食わせるのですか?』と理由を問えば『それは
『け、獣ですか? 百年たってもエルディア人はやはり人間になれなかった? 畜生のままなのですか? でも分け合おうとするだけマシ? あぁ、へーロス、ウィリアム……あぁ……』
シャルルはトラウマを発症し、影響を受けたクリスタもまた気絶した。
「きょ、教官殿! 一人が暑さにやられて倒れました!」
「──彼女を担いで医務室運ぶ許可をください!」
「なっ、抜け駆けか!?」
「ずるいぞ! なら俺も!」
「教官!」
「やかましい! 今声を挙げたものはその場で腕立て伏せ100回だ! おい、貴様……いつまで芋を食ってるのだ阿呆がッ! 罰として貴様が彼女を医務室に運べ! それから死ぬまで外周走と……」
「はっ! 承知しました」
「……次に日が昇るまで食事を禁止する」
「へ……? な、何故ですかぁぁぁ──ッッッ!!??」
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