結束いのり、スターフォックスへ   作:山倉衛

103 / 123
103話 夜鷹の指導者遍歴 前編

―――夜鷹純の回想。光のノービスA一年目。R国、サンクトペテルブルク

 

「だる……」

 そろそろ、光の指導がキツくなってきた。

 『トリプルアクセル跳んだ天才少女』とか言われているけど、その裏ではいろいろ限界を感じ始めていた。最初に限界を感じたのはPCSだった。

 

 だって、アレってセンスの問題じゃん。見様見真似で身につくモンじゃない。見様見真似でもある程度まで高得点取れるように気合い入れてお手本見せてやったけど、動作の再現だけではもうそろそろ頭打ちに近い。

 ノービスだとまだ敵なしかもしれないけど、ジュニアだと怪しい。というか、推薦全ジュニで対戦するいるかちゃんやダリアちゃんあたりに負けるかも知れない。

 

 そもそも、僕自分はびびびっとくるインスピレーションとセンスだけでやってきたから、他人にどーやって教えたらいいのかなんてわからないよ! PCSとかもう、どうしようもない。

 

 そんな事で悩んでたら、光がつまんない事言い出した。

『バレエを基礎から学び直したい。世界水準のバレエを身に付けたい』

 キミ、特殊な才能はあるけどセンスは僕に及ばないから世界水準のバレエとか無理だよ、と言いかけたが、そう言えば世界水準のバレエと言えば、R国に僕並みの天才がいた。

 

 レオニード・ソロキン。現役の最後らへん、R国拠点で活動してた時に、すげー気合い入った振り付けしてくれた。狼嵜だか洛湖だかにお金出してもらったら光の振り付けしてくれるかな? あいつの振り付けなら光はジュニア相手でも勝てるかも。

 

 てなわけで、R国サンクトペテルブルクまでやってきて、光のバレエ研修とついでに振り付けやってくれない、と言ったら大喜びで、日本までついて来てくれると言ってくれた。

 狼嵜だか洛湖だかは理由さえあれば光に湯水のようにお金出してくれる。ソロキン君の方も、どうもR国のお偉いさんとモメて仕事干されてたみたい。ちょうどよかった。

 

 ソロキン君、『光くんほどの才能なら、自分が直接演技指導する』とまで言ってくれた。ふふ、わかってくれるじゃないか。僕の教えたスケーティングスキル等の下地あるしな。

 まあ、細かい指導の通訳とか僕は無理なんで、そこは慎一郎君にやってもらうし、動作再現で僕も踊る必要あるけど、PCS絡みはソロキン君に丸投げ、もとい、任せてOKだね!

 

 バレエ研修の方はどうだったかって? まあ、動作の再現性の才能のおかげか姿勢がちょっと良くなったから、まるきり空振りではなかったよ。

 

 

―――帰国後、中部ブロック予選の日

 

 ブロック予選エントリーせずにR国行った甲斐があった。今から振り付け作って今シーズン間に合うのかと思ったけど、僕が手本見せればこの子は割といい感じに見取ってくれるから全日本ノービスには何とかなりそう。ソロキン君も気合い入れて「箱庭のダンス」で振り付け作ってくれた。

 ソロキン君の演技指導も順調に滑り出したようでラッキー。

 

 と、心の中でニコニコしてたら、中部ブロック予選あった日に慎一郎君が恐ろしい情報を教えてくれた。

『今日のブロック予選、純君の助言のおかげもあり、うちの夕凪が3Lz+3Lo跳んだが優勝できなかった』

 嘘……

 

 実は、夕凪くんには注目していた。慎一郎君には今シーズン前に『夕凪くん、3Lz+3Loイケるかもね』とアドバイスしていた。

 まあ、他の選手見てるとごくたまに「コイツ、このジャンプ跳べそう」って、びびびっと感じるコトあるんだよね。で、夕凪くんには昨シーズン末から『3Lz+3Lo』跳べる予兆を感じていた。

 

 修得前に必ず感じるわけでも、感じたからっていって必ず跳べるようになるとも限らない。例えば、光からはこれまでも何も感じてこなかったけど3Aまで修得したし、慎一郎君には『4Lz跳べそう』と感じてたけど結局跳べないまま引退した。

 

 けれども、夕凪くんの3Lz+3Loは絶対イケる、って側から思ってた。僕は慎一郎君に一言言っただけなんだけど、慎一郎君は頑張って習得させるの成功した。

 コレは嬉しかったね。光が3A跳んだ時よりずっと嬉しかった。ブロック大会だと使わないかもとは言っていたが……使って負けるとは、残念。

 なんでも、勝った子は後半ジャンプで2A+1Eu+3Sとバクチ打ってきてノーミスかましたらしい。そりゃ仕方ない、すごい子だな。今日の夜に貸切リンクで慎一郎君と話す予定だから、その時に詳しく聞くか。

 

 って、慎一郎君のトコ行ってみたら司くんいてびっくり。あー。こいつ教え子がブロック優勝って、コイツの生徒に夕凪君負けたのか。

 気まずい……ってか、なんでコイツ、コーチなんてやってるんだよ。アイスダンスうまかったのに。

 しかも、コイツ、こっちに合わせてめっちゃ滑るし、上達速度すげー!

 あー。わかったわ。こいつ光と同じ、特殊な才能の持ち主だわ。引退してんのもったいないな!

 

 で、経歴聞いてみたら、競技始めるの遅かったらしい。うわ、環境に恵まれず出遅れ、現役中に芽が出なかった可哀想なヤツか。こういうヤツ、なんとかしてやりたいね。

 光と同じ歳でまだ初級の子とかも教えたりして時間無駄にするより、キミ、アイスショーのキャストとかやりなよ! 君、まだ滑れるでしょ!

 

 と、思って良く見てみたら、びびびっと来たね。そう、コイツの跳べるジャンプの予兆見えた! 来た! コイツがバックフリップ出来る予兆見えたぜ!

 おー! バックフリップできたら、アイスショーのキャスト、今からでもイケるんじゃね? イイじゃん! コイツ才能というか特殊な能力あるし、今、この場で覚えるとか出来るんじゃね?

「……キミ。バックフリップ、できる?」

 

 そう言って目の前でお手本にバックフリップ跳んで見せたら、司くん、10分足らずで修得しやがった。やっぱり、狼嵜光並みの特殊能力持ちだわ、こいつ。

 教えてやった甲斐あったわ。こっちも達成感たまんねー。

 

 ……などと、はしゃいでしまい、「アイスショーのキャストオーディションもう一度行きなよ」と言ってやった。初級の子の指導とか辞めて生徒数絞れば、慎一郎君のとこのアシスタントコーチの雉多君みたく兼業でキャストやる時間とかあるでしょと思ったが……

 

 

―――引き続き夜鷹回想、リンクからの帰り

 

 リンクからの帰り、慎一郎君が聞いてきた。

「司くんとは前から知り合いだったんだね」

「……知り合いと言うほどじゃない。ははっ」

「機嫌良さそうだね」

 

 いやー。司くん、生徒思いのいいヤツだったな。思わず、久しぶりに笑ってしまった。

 今日夕凪ちゃんに勝ったような強い生徒の指導に集中したいからキャストは諦めた、じゃなく、初級の子にも全力を注いで金メダルまで連れて行く、だってさ。かっこいー! 光のようなチートな再現能力持ちの子だけ相手限定のコーチモドキな僕とは月とスリッパだわ。

 

 あの初級だった子は『結束いのり』って名前だったのか。今何級なんだろうな。なんか光の友達らしかったからと邪険にしちゃったかな。

 とりあえず、来月の全日本ノービスでは夕凪ちゃんに勝った子と光が対戦するのか。『来月の全日本で証明してよね』とか言っちゃった……。そっちはそっちでどんな子なんだろう? 光には敵わないだろうけど司くんの生徒だから気になるな。

 

「あの司君の教え子、夕凪くんを負かした方の子はどんな子なの?」

「『結束いのり』という子だ。光と同じ歳だが、4月生まれだからスケート年齢では1年上だね」

「……? 名前間違ってない? 結束いのりって、さっき司くんが言っていた子で、去年の名港杯に初級で出てた子の名前でしょ。僕も知ってる子だけど」

「ああ。去年始めたばかりの子がブロック優勝したと、打ち上げの食事会でも話題になっていた」

 

 頭がバグった。顎が外れた。

 え!? 今日夕凪ちゃん負かした子って、去年初級だったあの子!? 同一人物!?

 

 いや、再現能力お化けの光にしかロクに指導できない僕だけどさ。それでも7年弱かけてここまで強くしたワケよ。

 1年ちょいで中部ブロック優勝の方が絶対すごい。

 うわ、超恥ずい。そんなすごいコーチやってる男に『絶対はあるよ』なんて見栄を張っちゃったんだ。世間知らずはコッチの方だった……

 今度会ったら、謝った方がいいかな?

 

 

―――引き続き夜鷹の回想、全日本ノービス前

 

 今年の全日本ノービス、異様にレベル高そう。100点、いや110点超えからの表彰台争いになりそう。

 なんか、ブロック予選勝ち抜いてきた鹿本すずちゃんとか胡荒亜子ちゃんとかが3A仕込んでるって情報あった。こっちも光に3Aからのコンビネーション仕込んだりして対抗策は打ってるけど。

 ……結束いのりちゃんまで3A跳んだりしないよな?

 

 流石に、狼嵜光が結束いのりちゃんに負けたりしたら、僕、立ち直れない。あそこまで大見栄切っておいて、去年スケート始めた子に負けるとか耐えられない。

 しかも、こっちの生徒は再現能力チートの狼嵜光だよ。全日本経験クラスのコーチなら誰が教えても全日本行ける才能のギフテッドだよ。

 これで負けたら悔しくて夜しか寝られなくなるよ!

 

 結束いのりちゃん、ルクス東山所属ってコトは、大須リンクか。昔馴染みのリンクだし、一応偵察しに行ってみるか。

 というわけで、こっそり大須リンクに偵察に行った。何気に、他の選手の偵察とか初めてかもしんない。

 

 いのりちゃんいた。特殊な能力はないみたいだったけど、司くんの弟子だけあってスケーティングめっちゃ上手かった。スケーティングだけなら光に勝ってる。

 ……センスは感じないな。てか、こんな凡才を無級から育てて、1年ちょいで6級合格まで間に合わせて、トドメにブロック優勝!? 司くん、すげー。

 

 しかもこの子、跳べるジャンプの予兆がびびっと来たね。さて、この子の跳べるジャンプの予兆は……3Aとかじゃないよな? 3A跳ばれて全日本ノービスで負けたりしたら恥ずかしすぎる。

 ……3A跳ぶなよ、3A跳ぶなよ

 

 頭の中に予兆のイメージ来た。うん、3Aじゃなかったよ。

 4Sだったよ! ふざけるな!







夜鷹純は、表情筋をスケートに全て捧げてしまっているので、頭の中の思考がこんなんでも、側から見るとニヒルなカッコいい男に見えてしまう、ある意味かわいそうな愛すべき男という解釈です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。