結束いのり、スターフォックスへ   作:山倉衛

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104話 夜鷹の指導者遍歴 中編

―――夜鷹の回想、全日本ノービス前

 大須スケートリンクにいのりちゃん見に行ったら、びびびっと来たよ。この子の4S跳ぶイメージ。

 しかも、めっちゃ安定感と迫力あるイメージだった。

 

 将来、いいライバルになるかもね。僕が現役の時にあんな子がライバルにいたら楽しかったのにな。見ていて楽しい。光はわりと上手いけど僕のスケートの猿真似だから、あまり面白くないんだよね。

 

 まあ、流石に4Sは来月の全日本ノービスまでには間に合わないだろうがな! まだ、3F、3Lzでつまづいているみたいだし。

 

 とか思ってたら、その数週間後、全日本ノービスの打ち合わせの電話の時に慎一郎君が言ってきたワケよ。

『そういえば、風の噂で明浦路先生の生徒さんが……』

 ……いのりちゃんか。まさかと思って、冗談めかして聞いたよ。

「4回転サルコウとか跳ぶんだろう」

『……』

 え? マジ!? なんで慎一郎君、黙っちゃった? お願い! 違うと言って!

「……違ったかな?」

『いや……なぜわかったのかなと』

 マジか……

「光に勝つ可能性がある手札はそれぐらいだからさ」

 動揺を隠して取り繕ったが、ヤバいわー、と思った。

 

 『将来いいライバル』とか思ってる場合じゃなかった。今シーズンでも油断したら負けちゃうよ!

 3Aを跳ぶリンク上の光を眺めながら、頭を悩ませた。

「さあ……どうしようかな」

 ……4T仕込む? 今から? 

 

 

―――引き続き夜鷹の回想。光のノービスA1年目シーズン終了後

 

 4Tもなんとか間に合って、シーズンも乗り切れた。学校の授業全ブッチして、教師から苦情来てたらしい。全部慎一郎君が対応したから知らんけど。

 ソロキン君のおかげでPCSも稼げて、いるかちゃんにも辛うじて勝てて、何とか推薦出場のジュニア大会も優勝できた。ノービス大会も3A跳ぶ子が出てきて少しヤバかったが、4Sを2回も跳んで来たいのりちゃんも転倒とかしてくれたので助かった。

 

 でも、ここからは先は僕の指導ではもう伸びない……。頭打ち感ある。成長速度爆速のライバル達とどう戦おう?

 と、悩んでたら光が『ステップシーケンスのレベル4が取りたい』と言って来やがった。

 

 は? ふざけてんのか!? ステップシーケンスレベル4とか、地味地味な練習を延々と繰り返してようやく、うまくいったら取れるかな、ってなモンだぞ?

 僕みたいな超一流の天才ならともかく、光のようなちまい準天才はちゃんとしたコーチに教わらないとダメだ。光は動作の再現性だけは天才だが、それではいくら見本が良くても限界がある。

 

 だから言ってやった。

『他の先生に頼まないと無理』

 そしたら、ぬかしやがった。

『他の先生、オリンピックに出場経験のあるアイスダンスの先生に教わりたいです』

 僕じゃダメだとわかってるんだよな、コイツ。腹立つ……

 今までの僕のコーチ達もこんな気分だったのかな……

 

 あー。いのりちゃんのせいだ。絶対、いのりちゃんのせいだ。4Sに加え、ノービス11年ぶりステップシーケンスレベル4とかで話題になったからだ。司先生もアイスダンス出身だからだー! おのれー!

 

 オリンピックに、出場経験のあるアイスダンスの先生で知ってる人なんて……高峰匠先生しか思い浮かばない。

 うわ……今更匠先生に頼み事できない……。そもそも移籍の度に方々で後足で砂かけまくっているから、あちこちで顔出ししにくい事この上ない。

 

 あああ……とは言え、僕の技仕込んだ子が負けたら悔しいし、「出る大会全部金メダル取れ。僕はできた」とか言ってきた手前、こちらも無視するわけにもいかない。

 匠先生が教えてもステップシーケンス4レベル取るとか、そうすぐには無理だろうけど、とにかく頼むしかない。主に僕の見栄のために。

 

 でも、匠先生に頼み込むのダルいわ。

 そうだ、手紙書かせよう。僕も、最初匠先生に教えてもらえた時って、手紙で頼んだんだよね。

 

 で、手紙書かせて渡したら、引き受けてくれたけど色々ネチネチ言われたよ。『7年間は長すぎる。優勝し続けることなんて強要するな』って。

 わかっとるわ! コッチも引っ込みつかなくて困ってるんだよ! この世代の女子シングルがマンガかと思うくらい異常なんだよ!

 

 

―――夜鷹の回想、鴗鳥慎一郎の病室

 

「間違いない。4Lzだ。光の腰の不調のきっかけはそれだ」

 慎一郎くんはそう言った。

 

 昨シーズンもギリギリだったこともあり、色々ムキになって、既に習得させた4Tを磨くと共に4Sも仕込んでいた。

 しかし、4Lzは試しに見せただけで、跳ばせようとまでは思ってなかった。光が習得した時はびっくりして珍しく褒めてしまった。

 まさか、アレが腰を痛める原因になってたとは……

 

「……ゴメン。僕の教え方が悪かったから」

 教え方って言っても、実演見せてから「やって」って言うだけなんだけどね。光に対してしかできない。

 正直へこんだ。意図的ではなかったにせよ、僕の仕込んだ4Lzで故障とか、だるい……。

 腰の使い方が悪いとか、全然わからなかった。

 

「気づかないのも仕方がない。見ていてもなかなか分からない。純君は体のバネがすごくあるから、同じような跳び方に見えて全然問題なく跳べる。

 対して、光の方は無理に跳ぼうとして無意識にアレンジしている。このアレンジは腰の使い方が悪く、いわゆる『猫捻り』になってしまっている。空中でも回転力を加えられる跳び方だが、女子には腰の負担が大きすぎる」

 へー。あの跳び方、猫捻りって言うんだ。

 

「ヘッドコーチとして、光を預かっている僕が気づいてあげるべきだった。申し訳ない」

 こっちの方が申し訳ない。光のせいで散々、倒れるまで苦労かけて。

 てか、慎一郎君の方が心配。

 

「同じような跳び方で腰を壊した女子メダリストがいてね。有名な人。ライリー・フォックス先生知ってるよね? 今、東京でクラブ開いてる。胡荒亜子選手とかのコーチ。

 あの人も金メダルを取った4Fで腰を壊している。同じ『猫捻り』だ」

 ライリー・フォックス。あー、あの子か。

「……よく知ってる。あの子のクラブ立ち挙げ、僕も絡んでるから」

「そうだったの? 知らなかった」

 

 

―――夜鷹の回想、ライリーとの出会い

 

 最初に会ったのは、彼女が金メダルを取って即引退してまもなく、日本に来ていた時だ。

 スケート誌か何かの企画で、金メダリスト同士の対談とかだった。

 まだ未成年で、付き人に30過ぎのオバさん連れてた。後で知ったけど、この付き人が胡荒亜子ちゃんの母親の胡荒コーチだった。

 

 このライリーとかいう子、僕より若く引退して好き勝手できてる。ちょっとむかつく。

「私が16歳でオリンピックに出られたのは夜鷹選手のおかげ!」なんて、あの子は大はしゃぎで喋ってきた。日本語すごく上手で、アメリカ人と思えなかった。

 

「どこでクラブ立ち上げるか悩んでいて、自分の理想が体現できるリンクを探しているんですけど……」

 そんな話を聞いて、僕はある建築中のスケートリンクの事を思い出した。

 

 そのリンクの話を持って来てくれたのはアイチの藤原さんだった。

 ショッピングモールの隣の住宅展示場の一角に、客寄せでスケートリンク作るとかで、話題作りに僕の名前をつけたいとかいう話だった。

 

 「どうせなら自分の名前がついたリンクで好きに滑ってみないか?」なんて藤原さんは言ってくれた。

 でも、その時にはもう光がいて、狼嵜家だかがいつも僕が滑るリンクを取っててくれたから、そのリンクは僕には要らなかった。

 第一、「ヨダカリンク」とかって恥ずかしすぎる。変な店かよ。この人、「夜鷹」って女の人の良くない職業の意味があるって知ってるのか? 僕は生まれた時からの名字だからもう諦めてるけど。

 

 そういう訳で、その計画についてライリーさんに話した。

「……立川のらららぽーとだったかな? 住宅展示場だったかな? 話題作りに金メダリストの名前をつけたスケートリンクを、ショッピングセンターの隣に建てたいとかいう話があってね」

「え!? その話、くわしく教えて下さい!」

 

 僕はそんな話を教えただけなんだけど、その付き人が自分の元スポンサー通して話を持っていって、なんかいろいろな偉い人たちの間で話がまとまったらしい。

 

 2、3年後にリンクができた時、そのリンクにはスターフォックスリンクという名前が付けられ、ライリーさんはヘッドコーチになった。

 え? 20才でヘッドコーチとかすごい。僕は無理だと思った。めんどくさすぎる。

 

 

―――再び慎一郎との回想から

 

「ライリーさんは自身の辛い経験もあって、ヘッドコーチとなってクラブを開いた今、特に女子選手の怪我のケアやリハビリにものすごく力を入れて取り組んでいる」

 病室のベッドの慎一郎君はそう教えてくれた。

 

 まあ、僕には関係ないや。ライリーさんが名古屋に来て、光のリハビリとか手伝ってくれたらラクだけど、ヘッドコーチなんだからムリだろう。

 

 そう考えてたら、次にリンクで会った時、匠先生が言ってきた。

「光くんが、『私も夜鷹純と同じ道を進みたい。移籍するための手続きを教えてください。療養で立ち止まってた分、取り戻したいんです』と、相談してきた。

 どうする? 俺は良くないと思うが……」

 

 何考えてるんだ。あの子は。

 僕だって好きで毎年移籍してたわけじゃない。

 最初の3回くらいは父さんがクラブとかとお金で揉めて出ていかざるを得なかった。あとは、僕がクラブの子と揉めたとか、気候がなんとなく合わなかったとか、なんかつまらない理由で辞めてばかりだった。部屋が散らかって片付けるより引っ越したほうがいいやと思って移籍したこともあったし、ホームリンクが新しくてカッコよかっただけで移籍したこともあった。

 

 コーチなんて誰でもよかったから、居心地いいところ求めて移籍ばかりしていたが、結局わかったのは大会の手続きとかリンクの貸切手続きとかさえなければ、一人でリンク貸し切って滑るのが一番居心地いいということだった。

 

 さて、そんな僕の苦労も知らず「移籍したい」なんて言ってきた、この生意気な子をどうしよう。もし「世話になった慎一郎君のとこから移籍したいなんて恩知らずめ」とか僕が言ったら、さすがに説得力マイナス100%だ。

 慎一郎君の負担になっていることだし、こんな事言い出した機会に移籍させた方がいいかもしれない。

 

 でも、こんな親ナシの厄介な子、引き取ってくれるクラブあるかな……と思ったけど。さっき、うってつけの人物の話をした。

 そうだ、彼女には売った恩がある。

 故障した選手のリハビリにも熱心だと聞いている。ちょうどいいや。押し付け……いや、頼んでみよう。






ミラノ・コルティナオリンピックのおかげで筆が進む。
あと、雪のせいで部屋から一歩も出られないからかな!
灯油の残量が微妙……
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