結束いのり、スターフォックスへ   作:山倉衛

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12話 スタッフブースは救護室

 司のジャンプを見ながら、光はジャンプの修正を続けていたが、クセの発生を抑える事が出来ないばかりか、ミスによるお手つきまで始めた。

 練習効果が落ちている。そう判断した司は光に諭した。

「これ以上はやめよう。疲れが出ている」

「いえ、続けます。跳んで下さい」

 拒む光に司は答える。

「じゃあ、5分休憩。その後、5分実施で。俺も疲れちゃうよ」

「……」

 光は「休憩を受け入れさせるため、最初は『やめよう』と言ったな。姑息なドアインザフェイス……」と思ったが、司がその気になれば「疲れたからやめ」で、この練習を終えられてしまうので、仕方なく従った。

 

 司は、光の緊張を解こうとドリンクを勧め、雑談で間を持たせようとした。

「スターフォックスはすばらしい環境だね。俺やいのりさんもここに来れて良かったよ」

「……ここの環境がルクス東山より良い事なんて分かりきった事だと思いますが。もっと早く来てれば良かったんじゃないですか」

 光は仏頂面のまま、冷たい声で答える。司は少しでも光の態度を解きほぐそうと、穏やかに答えた。

「いやいや、いのりさんもまだ中学生だし、転校とか大変だからね。まだまだ家族の助けも必要な年頃だし」

 

 そんな余裕ある司の口調が、光をより苛立たせた。

「はぁ……。ここにいる子たちは私も含めて、引っ越しも転校もしてここに来ている子たちばかりですよ。それぐらい強くなるためなら当然のことじゃないですか?」

 苛立ちを言葉にぶつけてくる光を、司はなんとか受け流そうとする。

「そんなことないと思うよ。練習環境だけじゃない。学校や家庭の環境変わることで負担になることもあるからね」

 

 家庭の環境……

 光は、つい鴗鳥家とのつらい別れを思い出してしまった。いのりちゃんもお父さんやお母さんとそんな別れを経験したのだろうと、光は少し心を痛めた。

「……いのりちゃんも、寮生活とか大変でしょうね」

「? いや、いのりちゃんは両親と一緒に来てるよ。お姉ちゃんも一緒らしい」

「!?」

 

 光は、温かい家族を失わずにいるいのりに少なからず嫉妬してしまい、つい、キツい言葉を返してしまった。

「まぁ。いのりちゃんは宿題や時間割とかかなりフォロー必要な子でしたから、仕方ないですね。代表選手としてどうかと思いますが」

 これには、さすがに司も少し腹立たしく思った。

「選手として、というのがJGPファイナリストにかけていい言葉かは甚だ疑問かな。第一、君だってスターフォックスに来たのは半年違うだけじゃないかな」

 司も抑えめの言葉にも少し怒気が交じるのを抑えきれなくなり、光の方はどんどん司への煽りをエスカレートさせていく。

「私は専用リンクで練習できる環境があったので、鴗鳥先生が元気でしたら移籍する必要まではありませんでした。いのりちゃんはタイ戦の際にはスカウト来てたんでしょ? そこで決心していれば、少しでも成績伸ばせたんじゃないですか?」

「そこまで焦る必要がなかったからに過ぎないよ。いのりさんは移籍も自分で決めた。立派な子だ」

「あら。焦られてはなかったと? タイ戦の4位で司先生大泣きされてたとのことだったので、全ジュニではどれだけ司先生残念がられてるかと心配してましたが杞憂でしたね。

 危機感仕事してました? 結局、いのりちゃん自身が言い出すまで、責任取りたくなくていのりちゃんをぬるま湯に浸からせたままだったんでしよ?」

「あのね……誰もが望めば簡単に環境変えられるわけではないよ。親御さんの重い決心が必要だったり、大変なんだ。できる子もいるけどね。勘違いを」

「あーあー、はいはい。どーせ私は望めば専用リンクや海外研修、高峰匠先生の個人レッスンまで手に入る勘違い女ですよ。それが出来ない子に言い訳にされたら仕方ないですね」

「……時間だ。リンクに行こう」

 

『お前は何をやってるんだ! 練習成果を焦る子供の話くらい黙って聴いてなだめてやれよ!』『面目ない! 五里先生…』

 司は光をなだめることができなかったばかりか、逆に怒らせてしまった事をイマジナリー五里先生と共に恥じていた。

 

―――スタッフブースC

 

 いのりは亜子に連れられてスタッフブースにいた。

 様子がおかしいことに気付いた亜子が、他の生徒に気づかれないように、そっと押し込んだのだ。

 案の定、いのりは座らされるなり泣き出してしまった。

「……ぐすっ……聞いて……亜子ちゃん」

「ちょっとだけ待って」

 耐え切れず、口を開こうとするいのりを、亜子は少しだけ制止する。

「全部話して楽になりたいのはわかるけど、喋っちゃダメな事まで私に話しちゃったら、後でいのりちゃんが苦しくなるよ」

「!」

「大丈夫。落ち着いて。私、あなたのサポート役って事になってるから。時間は気にしなくていいよ」

 いのりは、少し落ち着くと口を開いた。

「……亜子ちゃん。私が盗み聞きしてた事、気付いてたんだね……」

「うん。ジャンプ動画見直してる訳でもないのにイヤホン付けてたらね。

 でも、『リンクの上では秘密はなし』が、うちのルールだし、いのりちゃんも元自分のコーチが他の子にどういうコーチしてるか気になるよね。だから、気になっても仕方ないよ」

「……」

「大丈夫。指導法参考にしたかっただけだよね? それで聞こうとしたら、たまたま嫌なコト聞いちゃっただけだよね?」

 いのりは泣きながらコクコクとうなづく。

 亜子は、諭すように言った

「あのね。誰でも、切り取ればすごい悪口に聞こえたりすること、みんな平気で言ってるよ。亜子だって、」

 ここで、亜子はひどいデスボイスで憎々しげに言う。

「『あのクソババア。また弁当に私の嫌いなブロッコリー入れやがって』って、朝5時起きでお弁当作ってくれたお母さんに裏ではそれくらい言っちゃうことあるもん」

「……」

 

 亜子はいのりをなだめようとしたが、鉄板ネタをかましても反応がないいのりを見てほぞを噛む。

『あちゃー。こりゃ重症だ。……一体、何言ったの? 狼嵜光!』




明日は娘にせがまれ、立川市のスケートリンクに行ってきます。
ついでに取材して、今後の話に活かします。
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