「すいませんね。なんだか気が動転してしまって……」
闇堕ちから回復した司は、ライリーと美蜂に頭を下げた。
「いえいえ。私こそ、なんだか怖がらせてしまってすいません」
ライリーはそう言うと、最後の確認の為の質問に入った。
ライリーは用心深い能力者だった。
この2人が「自分のもう一つの能力」に気付いていないか等、探りを入れておく必要があった。
「さて、色々大事な事をお話ししましたが、他に聞きたい事はありませんか? 例えば、お話しした以外に、能力者ではないかと思われる人や、既に話に出た能力者でも別の能力を持っているのではないかと思う人がいる際にはお話し下さい」
司が手を挙げた。
「確認ですが、いのりさんは何かの能力者である、という可能性はありませんか? 自分が言うのもなんですが、成長が早すぎる、と感じるところがあります」
ライリーが答える。
「表面化していないだけで何かの特殊能力を持っている可能性はあると思います。しかし、一番身近にいたあなたの能力で判別できないものが、私にわかるわけもありません。
そうですね、例えば、あなた自身は、自分の特殊能力がいつ発現していたと思いますか?」
司は少し考えて答えた。
「わかりません。学生の頃には何らか自分には運動能力に特別なものがあると漠然と感じてはいましたが……」
「そうですね。例え特殊能力を持っていても、何らかのきっかけがないとなかなか自覚、判別しにくいものです。
特殊能力の中には、発現するとかえって厄介なものもあります。よく見て、気をつけてあげて下さい」
「わかりました。あともう一人気になる選手がいます。
名港の申川りんな選手のあの能力は、そういった『発現するとかえって厄介な特殊能力』が、無意識的に発現してしまっている例と言えるでしょうか?」
「その可能性が極めて高いと考えます。何もしてあげられそうにありませんが」
「わかりました。以上です」
「他に、心当たりや気になる事項は?」
「ありません」
「美蜂さんは?」
「ありません」
ライリーは司を見て思った。
『嘘のない男だ。ここまで全く嘘をついてない。
しかし、万が一、私の能力に反応しない特殊能力の持ち主だった場合、私は身の破滅だ。念には念を入れる必要がある。美蜂と同じように、わざと嘘をつかせて確認する必要がある』
「さて、それでは今日はこれで解散ですが、最後にこれを司先生にもお渡ししておきましょう」
ライリーはそう言って机を探るふりをして、さきほどトイレに行った際に開けておいたジャージのジッパーの隙間から、司だけに見えるようにわざと下着を見せた。
「!?……美蜂さん。ちょっと……」
司はライリーの思惑どおり、こっそりと美蜂に近づき耳打ちする。それを受けて、美蜂がライリーに歩み寄る。
「……ライリー先生。ちょっと……ジッパーが開いてますよ」
「あらあら。私ったらはしたない……司先生。何か見えちゃいましたか?」
ライリーは照れたフリをしてそう言うと、司の答えに神経を向けた。
司は平静を装って答えた。
「いえいえ。何も見えていませんよ」
<<<<嘘嘘嘘嘘>>>>
ライリーは安堵した。
『……ああ、良かった。この男の嘘は私の特殊能力にちゃんと引っ掛かる。確認できた』
実は、ライリーは他人の言葉から嘘を看破できるというコミュニケーション系の特殊能力の持ち主でもあった。
―――スターフォックス近くの路上
司は美蜂と並んで歩きつつ、ライリーから渡された金属製の栞に目を落とした。
「能力者の存在を知る者の証、ですか」
「ええ、私や前任のメディカルトレーナーの方も持ってます。後は、狼嵜光選手や夜鷹純にも渡されたようです」
と、美蜂は答えた。
栞は、狐をかたどった金色と青色の合金で出来ており、宝石がいくつかはめ込まれていた。さらに、裏側にはICチップも埋め込まれ、「No.8」のロット番号が刻まれていた。
「ライリー先生が能力者の存在を教え、協力を約束した相手にだけ渡されているようです」
「あまり、他の人に見せない方がいいですよね」
「そうですね。もう、しまわれたほうがよろしいかと」
他にはどんな人物が持っているのか、と気になった司であったが、あまり特殊能力の事に気を取られるのも危ういと考え、明日からの指導に気を入れ直した。
―――その夜。市内レストランの個室
ライリーは個室をとり、鷹峰匠と話していた。
「……と、いうわけで、全くあなたの能力に気付いた様子はありませんでした。自分の能力も、昔から持っていたのではないかと誤認しているようでしたよ」
「そうか……くどいようだが。あんたの目から見ても、本当に夜鷹のようにはなっていないんだな?」
「ええ。ちょっと自信に欠けるところと、情緒の振れ幅が大きいところはありますが、精神に異調をきたしているとまでは言えません。
あなたの推測どおり、十分に成長した人格だった為か、幸運にもあなたの能力の悪影響が最小限に止まったのでしょう。
これからも自分の能力を駆使して、コーチとしてではありますが、輝かしい道を歩いていけると思いますし、私もできるだけのサポートはしてあげたいと思います。
あなたもどうです? もう、話して楽になられたらいかがですか?」
その問いに鷹峰匠は目を伏せて答えた。
「……話して許されたいなんて思ってねぇよ」
<<<<嘘嘘嘘嘘>>>>
「俺は、娘のパートナー探しの為だけに、あいつの人生の事なんてこれっぽっちも考えず、力を使ってしまった」
<<<<嘘嘘嘘嘘>>>>
「夜鷹の時と違い、危険も自覚していたのに、だ。最低の男だよ。俺は。許される資格すら無い」
ライリーはそんな鷹峰を見て溜め息を吐いた。
「まあ、私もあなたを楽にしてあげたい訳ではありませんしね。あなたのしたことは許される事とは思ってませんし」
<<<<嘘嘘嘘嘘>>>>
「光選手の方はどうします?」
ライリーの問いに鷹峰は頭を掻きつつ答えた。
「夜鷹の奴がどう思ってるか知らんが、幾ら精神が十分に成長している子であっても、俺がこの力を二度と使うことはない。第一、既に持っている能力に苦しんでいる面すらあるじゃないか。
夜鷹から指導を引き受けたのも、少しでもあいつが指導のやり方を覚えてはくれないかと期待したからだ。
まあ、やはり無理だったがな。
司が立派なコーチとしてやっていけてるんなら、狼嵜選手の事も任せた方が、俺なんかがやるよりずっといい。
2人のこと、よろしく頼む」
鷹峰匠は、椅子から立ち上がるとライリーに深々と頭を下げた。