結束いのり、スターフォックスへ   作:山倉衛

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20話 呪われた妖狐

―――スターフォックス、リンクサイド

 

 リンクサイドでは女子生徒が、先日のいのりの様子をネタに恋バナに花を咲かせていた。

「ねえ、朱蒴君といのりちゃんって付き合ってるのかな?」

「案外、ああ見えて進んでるんじゃない?」

「そういう莉子こそ、陸上の彼氏とラストまでいってたりしてー。なんてねー」

「えーっ。そんなことある訳ないじゃん。もー」

<<<<嘘嘘嘘嘘>>>>

「あ、バカ! ライリー先生来てるって!」

 

 恋バナを聞かされ怒ったライリーが激越な金切り声で女子生徒を追い散らす。

「くぉら! クソガキども! まじめに練習しなさい!」

「はーい」

 

 ライリーが恋バナを嫌うのは、今のように生々しい嘘を無意識に暴いてしまう事がひとつ。

 もう一つは……誰にも言えない。

 

 

―――レッスン後。マネージャールーム

 

 プルルルル……

「はい。もしもし? 山崎さん?」

 ライリーがかかってきた電話に出ると、連盟の国際企画担当者からだった。

 内容はいつも通りで「アメリカのスケート連盟との関係を改善されたし」というものだった。

 ライリーは16歳で金メダル取って日本に来て以来、アメリカのスケート連盟とは没交渉を続けている。有力クラブのヘッドコーチとして日本のスケート界にすっかり馴染んだライリーだが、アメリカとの関わりはあからさまに避けていた。

 専用リンクを持つただの新興のいちクラブだった時はそれで良かったが、女子ノービス東京ブロックの表彰台を独占する等目覚ましい活躍を見せ、日本で5本の指に入るクラブとなった今では話が変わった。今度は日本スケート界の有力クラブ、日本の顔としての役割が求められるようになったのだ。

 そんなクラブがいつまでも、「イタリアや韓国の遠征が来た時はリンク貸すけど、アメリカは嫌、来ないで、ダメ、絶対」という態度では、日本スケート連盟としても顔が立たないのである。

 アメリカとしても、自国出身の金メダリストに訳もわからず蛇蝎のごとく嫌われている現状を何とかしたい。選手に「せっかく日本に遠征に来たのだから、尊敬する米国人金メダリストが自分の名前をつけて建てたスターフォックスリンクを見たい。ライリー・フォックスに会いたい」とリクエストされた際に、「いや、あの人、実は大のアメリカのスケート界嫌いで」とは答えられないのである。

 ライリーもなぜアメリカスケート界嫌いか、誰にも一言も口にしないものだから、また話が進まないままだった。

 

 ライリー・フォックスにしてみれば、言える訳もなかった。

 理由はただ一つ。

 元ジャンプ担当コーチである、リチャード・ミラーに会いたくなかっただけである。

 

 ライリーはいつも通り、のらりくらりとかわそうとする。

「えっと、向こうの連盟のアマンダ女史がこちらに来られるのですか? その日はあいにく、所用がありまして」

<<<<嘘嘘嘘嘘>>>>

 

 ライリーの特殊能力の嘘看破能力は自分の嘘にも反応するので、先ほどよりライリーの脳内には嘘アラートが響きまくりである。

 

「え? リチャードさんもご一緒で? はい、ご存知のとおり、その方は、私の元コーチで」

 よりによって、一番会いたくない人物を連れて来ると言う。ライリーは断ろうとした。

 

 できなかった。

 

 口が震えて声が出ない。

 

『ライリーさん?』

 電話の向こうの声が心配そうに問い返す。

 

「あ、スケジュールをずらせないか、再確認してました」

 <<<<嘘嘘嘘嘘>>>>

「あ、大丈夫ですね……」

「あ、会いたい、です。はい」

 

 電話を終えて、ライリーは絶望した。

 自分で「会いたい」と、言ってしまった。

 嘘アラートも鳴らなかった。

 

 ライリーはよろよろと椅子に崩れ落ちた。

 

 

―――ライリーの回想。オリンピック4ヶ月前

 

 ……シュタッ

 4回転フリップ初着氷成功

「やったよ! すごいじゃないか! ライリー!」

「できました! コーチ!」

「これでオリンピックのメダルはいただきだ! ははは!」

 歓喜の声とともにリチャードのハッピーリフトを受けるライリー。

 

 ひとしきり2人で喜んだ後、ライリーは聞いた。

「でも、コーチ。結構腰に負担感じるんですけど、これって大丈夫ですか?」

「大丈夫! 選手生命を縮めるようなことはないさ!」

<<<<嘘嘘嘘嘘>>>>

 嘘だった。

「そうですね。練習後に違和感覚えることもありませんし」

<<<<嘘嘘嘘嘘>>>>

 嘘だった。

 

 練習後、チームメイトが心配そうに聞いてきた。

「ねぇ。ライリー。心配なんだけど、あの4F。男子選手でもあんなに強引に身体の捻りで回転数稼ぐやり方したら……」

「大丈夫だよ。今のところなんとも感じないよ」

<<<<嘘嘘嘘嘘>>>>

「ライリー、本当? 今回のオリンピックの金メダルさえ取れればいいとか思ってない?」

「まさか! 人生長いのに」

<<<<嘘嘘嘘嘘>>>>

「……ライリー。コーチのいいなりになってたりしない? というか、コーチに惚れてたり、しないよね?」

「はははは! それこそまさかだよ!」

<<<<嘘嘘嘘嘘>>>>

「というか、リサ。私の前では恋バナやめてって、いつも言ってるよね?」

「はいはい。ライリー。この話はおしまいにするよ」

 

 

―――マネージャールーム

 

「うう……ああ……」

 ライリーは鍵のかかったマネージャールームの隅にひとりうずくまり、むせび泣いていた。

 

 リチャードは嫌い、会いたくない

 リチャードが好き、会いたい

 

 どちらも嘘ではなかった。

 もう、10年以上前の事なのに、ライリーの心は16の頃の恋の呪いに囚われたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次話、解呪
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