結束いのり、スターフォックスへ   作:山倉衛

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28話 狼のルーツ

―――マネージャールーム

 

 ライリーは邦画「群狼」を見ていた。

 

 ラスト近く、全滅免れぬと悟ったボス狼は群れの全てを囮にして、討伐隊長に一矢報いんとする。

 だが、討伐隊長はそれを悟り、背後の茂みに拳銃を向ける。

「そこにいるんだろう! 出てこい!」

 飛び出すボス狼。

 拳銃が火を吹くが外れる。

 ボス狼が隊長の右腕に喰らいつく。落ちる拳銃。

 隊長が叫ぶ。

「俺ごとやれ!」

 ダーン! 部下のライフル銃でボス狼はついに仕留められる。

 

「あんだけ見栄切って、拳銃外すんかーい! 結局部下に撃たせるんかーい!」

 ライリーはツッコミと共にプレイヤーの電源を切った。

 

 そこで、司がお茶を持って入ってきた。

「ライリーさん。お茶にしましょうか。

 やっぱり『群狼』難しいですよね」

「あー。ほんとそう。コレだるいわー」

「ちゃんと原典の理解から進めようとするライリー先生は立派です」

「うんうん。ライリーちゃんは立派。ほめてほめて」

「……」

 頭が疲れたのか、幼児退行しかけているライリーに司は苦笑いする。

「甘いものでも買ってきましょうか。

 おや、こちらは原作小説ですか」

 司は机上の原作小説「群狼」に気付いた。

「そうなの。原作と違うところ、結構あるよね。

 例えば、原住民の首長、後で酒で寝返るやつ、が土地の接収逃がれるために娘差し出そうとする所、原作では働き手としての少年だよね」

「そうですね。確か、この辺で……」

 司はページを開き、首を捻ると奥付を確認した。

「ああ、このシーン。初版とまた違いますね」

「マジで? 映画と原作と原作初版でまた違うの? くー。どうゆう罠なの! それ!

 ……で、どう違うの?」

「俺の読んだ初版では、少年の受け取りを断られた首長は『お前らのお上も認めてるだろうが』って捨てゼリフ言うんですけど……」

 ライリーは首を捻る。

「え? どゆこと? お上って、明治政府? 流石に人身売買認めてないよね?」

 司も首を捻る。

「……うちの兄貴なら知ってると思います。初版本も兄貴が持ってたんで。兄は鎌倉で作家やってるんですが、聞いてみましょうか?」

「……」

 ライリーは少し考えると、面白そうな顔をして言った。

「ちょっと司先生。スケジュール合わせられますか?」

 

 

―――数日後、鎌倉に向かう車内

 

 司とライリーはクラブの休みを利用して、鎌倉に住む司の兄、肇の所に向かう車内にあった。

 ライリーは肇の著作である小説「夜明けの喇叭」を、助手席で読み耽っている。

 

 司は尋ねた。

「『夜明けの喇叭』全巻買ったんですか? 自分も持ってたんですが」

 ライリーは答えた。

「作家さんに会いに行くのに、『あなたの本読んでません、買ってません』はないでしょ。それにコレ、すごく面白いよ。あーでも、流石に全巻読了は間に合わない……」

 

 「夜明けの喇叭」は終戦直後の日本を題材としたスパイものの小説である。主人公、喇叭出版社に勤める大隈三吾の正体は、吉田茂の右腕と呼ばれた敏腕官僚白州次郎の命を受けて行動する工作員=乱破であり、GHQやS連邦の工作員、時には国内の右左翼団体、旧軍残党と隠密戦を繰り広げる、というストーリーだ。

 

 司は「夜明けの喇叭」を読み耽るライリーに聞いた。

「あの……。どうしてそこまでなさるんですか?」

 元々は、狼嵜光が邦画「群狼」の曲でブログラムを組みたいという話だったはず。原作のそのまた原作の理解のために詳しそうな一作家のところにまで足を運ぶとなると、フィギュアスケートのコーチとしては少々やりすぎにも思える。

 

 ライリーは本に目を落としたまま返す。

「光ちゃんね。表には出さないけど、やっぱり自分は何者なのか、狼嵜の家って何なのか、って知りたがってると思うの。でも、彼女の里親だという狼嵜の家って謎で連絡も取れない」

 司も運転しつつ、疑念を口にする。

「光ちゃんのレッスン代や学費、生活費を振り込んでくる口座も毎月違うとか……事務でも不気味がっていました」

「そもそも『おおかみ』の『狼嵜』って名字も珍しいどころか、光ちゃん以外存在確認できないし」

 ライリーは「群狼」のDVDを再生しつつ言った。

「そんな光ちゃんが、この『群狼』をテーマに選んだのは単なる『おおかみ』かぶりが理由だとは思えない。彼女なりに口では言えないところで、この『群狼』に自分のルーツを感じるところがあったんじゃないかと思うんだ」

 

 司は少しライリーを心配した。

「あの……。光ちゃんのルーツを調べるところまでライリー先生がなさる必要もないかと」

 ライリーは神妙な顔をした。

「光ちゃんがそういう事を全く気にしないなら、私も関与しようとしない。でも、彼女が『群狼』を選んだところを見ると、そうではない。

 プログラムの題材とは別に、私は彼女の母親代わりとしての責任を持つ大人として、できる範囲で彼女のルーツを調べておく義務がある」

「母親代わり、ですか」

「そう。夜鷹純が私にこの子を託して去った以上、鴗鳥慎一郎でなく私が彼女の保護者としての全てを担うことになる。例え、光ちゃんが他のクラブを望み移籍したとしても、保護者としての義務は私が負う。

 夜鷹はもう帰ってこないかもしれないのだから」

 

 司も夜鷹の事が気になり、ふとした疑念を口に出す。

「あの。そもそも、光ちゃんが夜鷹純の隠し子という可能性は?」

 ライリーは即答する。

「それはない。多分、あの人は不能よ」

 ライリーは嘘看破能力で得た情報を口にした。

 司はライリーがどうやってその情報を得たのか全力で考えないようにした。

 

「一応、2人にバレないようにこっそりDNA鑑定かけたから、そっちはそっちで結果待ち。

 狼嵜の家の方は詮索しない約束になってるし、下手につついて連絡つかないようになったり、送金途絶えたりすると困るから何もしてないけどね。

 あ、ここまでの話。秘密厳守でよろ」

 ライリーの話が段々ヤバくなってきたので、司は運転に集中することにした。

 

 ライリーもDVD鑑賞の方に戻る。

「あー。この最後の方のシーン。崖から落ちた妊娠中のボスの娘、わかりにくいけど生きてるよね。彼女が生き残ってエゾオオカミ実は絶滅してないとかいうオチ、あるかな?」

 司は申し訳なさそうに答える。

「その崖下、序盤の現代の調査シーン、大学教授になった討伐隊長の孫がキタキツネの親子を見つける水場と同じ場所ですが、『キツネの親子には全く警戒する様子はなかった』って、原作にもあります。つまり……」

 ライリーはやりきれない思いに天を仰いだ。

「ぴかるーん! なんでキミはこんなに誰も彼も救われない鬱映画選ぶの? 大丈夫かーい? キミは暖かく見守られてて、明るい未来が待ってるんだよーっ!」




光ちゃんの出生ネタについて、独自設定でやらせていただきます。
(13巻発売後追記)公式設定とズレましたが、このまま行きます
司の兄、肇については「『司』がコーチなら、『肇』は作家っぽい」で決めました。
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