―――スターフォックス、サブリンク
土曜朝のスターフォックスのサブリンクに鴗鳥理凰の姿があった。慎一郎の姿もリンクサイドにある。
「やるぞ、やるぞ……やってやるぞ……」
気合いの入った理凰のところにハーネスを持った司がやってきた。
「やあ! 理凰君、久しぶり。今日はよろしくね!」
「よろしくお願いしますっ!」
杭打ち機のようなすごい勢いで頭を90度下げる理凰の横で、慎一郎もリンクサイドから頭を下げる。
「大丈夫! 陸トレの動画も確認させてもらったよ。さあ、やろうか、トリプルアクセル」
トリプルアクセル。世界トップスケーターでも難しいこのジャンプをジュニアで跳べる男子選手は少ない。理凰はジュニア初年度だがこのジャンプに挑もうとしていた。
陸トレ動画などでフィジカル等の基盤が十分であることを司は確認している。
理凰は練習に入る前に司に確認した。
「あの、光は来てますか?」
「うん。今はまだ陸トレかな? そのうちリンクに下りて来るよ」
「よし……時間内に習得できれば、まだ光いますよね?」
「うん。光さんは昼過ぎまでいるんじゃないかな?」
「よしよし……やるぞ……」
理凰からは「3Aを跳んで光に見せてやる」という気概が陽炎のように立ち上がっていた。
―――数時間後
……シュタッ
補助具なし着氷成功、3回目
ついに理凰は3Aを習得した。
「やったな。理凰!」
慎一郎が感極まってリンクに入り、理凰を抱きしめる。
理凰はまだ信じられないといった顔をしていたが、間も無く我に返ると、疲労したフラフラとした足取りでをメインリンクの方に歩いていった。
「光に見せなきゃ……」
メインリンクでは女子がジャンプ練習をしていた。
リンクを回ろうとする理凰の目の前で、
平新谷萌栄が4Sを跳び、結束いのりが4S+2Tを跳んだ。
理凰の足が一瞬止まった。
「……いやいや。アイツらが4S跳ぶのは知ってたじゃないか。3Aの方が難しいところだってある……」
気を取り直して再度リンクサイドを歩く理緒の前で、
胡荒亜子が3A+3Tを跳んだ。
「……」
その向こうで光が助走するのが見えたが、3A+3Loを見るのが怖くなった理凰はいったんサブリンクに戻る事にした。
……シュタッ
サブリンクでは、鵯朱蒴が3Aをタノジャンプで跳んでいた。
理凰はリンクサイドにがっくりヒザを落とした。
理凰の姿を見た朱蒴は、駆け寄って興奮した声で言った。
「理凰君! 司先生から聞いたよ。3A跳べたんだって? 僕も先月、司先生のハーネス練習で跳べるようになったんだ。一緒にシンクロジャンプ動画とか撮らない?」
しかし、理凰の様子はおかしかった、
「……カス……」
「え?」
問い返す朱蒴に、理緒は両膝をつき、うつむき震えながら答えた。
「ぼ、僕は、3Aが跳べるようになったくらいで狼嵜光に追いつけると勘違いしていたカスです……。こんな自分の3Aで恐縮……」
何があったのか悟った朱蒴は理凰を揺さぶり正気を取り戻そうとする。
「理凰君! 正気に戻って! ウチの女子とかが特異点なだけだから! ジュニアで3Aは世界トップレベル! 自信を取り戻して!」
横で見ていた朱蒴の母は「うちの朱蒴より繊細な子っているんだ……」と驚いていた。
なかなか正気に戻らない理凰の背中にスクールバッグが飛んできた。
「あいたっ!」
正気に戻る理凰
「もう! 理凰のバカ! さっきの私のジャンプ見てなかったでしょ。理凰がいるのが見えたからコンビネーション跳んだのに……」
慎一郎が光を連れてきたのだ。
「ご、ごめん」
謝る理凰に光はイタズラっぽく微笑んだ。
「ふふ。聞いたよ! すごい技練習してきたんだって?」
「ぼ、僕の3Aなんて……」
自信なさげに呟く理凰に光は膨れっ面で返す。
「そっちじゃないってば! 名古屋で練習してきた必殺技があるんでしょ? ルクスの瞳先生から教わったやつ。
私だってそれ聞いて、司先生と準備したんだからね!」
理凰は我に返った。
そうだ、練習してきたんだった。
―――
理凰が練習してきた技というのはアイスダンスのリフトだった。
「本当に簡単なのしかできないから、あまり動かないでね」
「はーい。お任せしまーす」
理緒が軽く光の腰を掴んで、そのままおっかなびっくりリフトの態勢で滑る。
「わわ、なかなかの安定感ではないか。褒めてつかわす」
「どうも……」
得意になって体重を預けてくる光を、理凰は先程の3A練習以上に真剣になって全身全霊で支える。
司と慎一郎はそんな2人を温かく眺めていた。
「あれ、リフトされる方が難しいところありますからね」
「明浦路先生、御指導いただきありがとうございます」
「いえいえ。……実は、そろそろ光さんの担当、俺になりそうで」
「そうですか。光を、これからもよろしくお願いします」
また深々と頭を下げる慎一郎と、恐縮しまくる司の姿があった。
しばらくの間サブリンクで2人がアイスダンスをしていると、ライリーがいのりと亜子を連れてやって来た。
「ぴかるーん。そろそろぴかるんの曲かけの番だよー……って、あら。甘酸っぱい」
いのりは、光と理凰がアイスダンスをしていたのを見ると憤慨し、司に向き直った。
「まさか司先生! 光ちゃんや理凰君にだけアイスダンスの技教えたんですか!」
「い、いや。理緒君は名古屋の合同練習で瞳先生から……」
「光ちゃんにだけ技を教えるなんてズルいです! 私にも教えて下さい!」
「え? ちょっと待って……」
たじろぐ司に朱蒴が、助け舟を出そうとする。
「あの、いのりちゃんのカップル相手なら僕が……」
しかし、朱蒴は亜子に引っ張られる。
「アンタはこっち。光ちゃんの曲かけ終わったら、メインリンクで鴗鳥君の3A習得記念に4人シンクロ3A動画撮るって言ってたよね?」
「ええー! 僕リフトの方が……」
「はいはい。すうくんもらっていきまーす」
朱蒴はライリーと亜子に引きずられ、光や理緒と共にメインリンクに連れられていった。
―――
メインリンクで、4人がシンクロジャンプ動画を上手く撮ろうと試行錯誤しているのを、ライリーと慎一郎が見守っていた。
「いいですね。まさに青春といった感じですね」
「ライリー先生には、本当に光を良くしていただいているようで、感謝しています」
「いえ。もう夜鷹さんから預かってますから。ちなみに、あれから夜鷹さんから連絡は?」
「いえ、全く」
「ちょっと、この後マネージャールームでお話ししません?」
ライリーの手には、DNA鑑定結果の封筒があった。
光ちゃんのリフト習得のための見取り稽古は、ライつかでイチャイチャ、もとい協力してやったんや!
おしゃべり遺伝子研究所の鑑定結果は次話
お楽しみに!
---そしてまた予約投稿ミスったんや!