結束いのり、スターフォックスへ   作:山倉衛

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33話 夜鷹を継ぐ者

33話 夜鷹を継ぐ者

―――多目的室

 

 ライリーは多目的室に司と光を集め、プログラム用の編曲と振り付けの概成と、担当コーチの引き継ぎを行った。

「では、まず編曲です。ショート、フリーとこのとおり。

やっぱり、元の曲が金かけてるといいわー。楽だったわ。さすが、『画より金かけている』、『監督の道楽ぶりが前面に出ている』と評価されるだけあるわー」

 それは評価というより酷評ではと司も光も考えたが、とりあえずライリーのノリはおいといてチェックする。

「曲の方は、ジュニアには少し重めですが良い編曲だと思います。」

「……はい。私のイメージどおりです」

 

「前後しましたが、今回のプログラムのテーマは『継承』です」

「継承、ですか?」

 ライリーの言葉に、光は少し詰まった反応をした。

 去年、自分は夜鷹から遠ざかる努力をしていた事はライリー先生は知っているはず、それなのに「継承」とは?

 疑念の目を向ける光にライリーは熱弁を振るう。

「この『群狼』から読み取れるメッセージは色々ありますが、そこからあなたに向けて与えるテーマとして『継承』を選びました。

 『群狼』ではエゾオオカミは滅びました。彼らは自分の生態も生息地も変えることはできなかったからです。討伐隊長は士族の末裔ながら、侍としての自分を捨て、新天地で軍人として生きることでその家系を繋ぎました。

 『継承』には、生き延びる為の変化、変容を受け入れる事が必要です。

 あなたの根底にあるのは夜鷹純の技。しかし、それだけではあなたは生き延びられない。子供が親の遺伝子を継ぎつつ、新たな遺伝子を得て子孫へと繋いでいくように、あなたにはスターフォックスで新たな技を受け入れ、磨き、成長して欲しい。

 環境に応じた変化は、すべて進化と言えるプラスの変化ではなく、4回転の封印といった苦しい停滞も伴うでしょう。しかし、あなたにはこのつらい冬を乗り切り、夜鷹を『継承』して欲しい。『模倣』でも『脱却』でもなく『継承』です」

 ライリーの言葉を受けて、光の眼に、表情に、全身に力が宿った。今まで、漠然としていた自分の衝動に型枠が与えられた。

「素晴らしいです。私、『群狼』を選んだ時には、私の衝動は何か、自分自身ではよく分かっていませんでした。

 これこそ自分が求めていたテーマです。

 私、夜鷹さんを一番かっこいいと思うと同時に、破るべきではない箱庭のように感じていました。夜鷹さんがなぜ、自分の元から離れてしまったのかも、理解不足だったと思います。

 夜鷹さんを継ぐが、夜鷹さんには囚われない。自分自身の才能と向き合うとはこの事です」

 

 ライリーは光の至極前向きな反応にうんうんうなづくと、続いて振り付けのペーパーを取り出した。

「では、振り付けですが、ペーパーはこのとおりで、細部についてはこの後リンクで合わせます。

 それをもって、担当を司コーチに引き継ぎます」

「心得ました。よろしく、光ちゃん」

 司と光が握手を交わす。

 

 ライリーは最後に付け加えた。

「というわけで、ここからは担当コーチとしてではなく、保護者として関わるようにしていきます。明浦路司担当コーチ、狼嵜光をよろしくお願いします」

「はい! お任せ下さい!」

 司も胸を張る。もう、トップ選手を任されて物怖じしないだけの自信が身についてきたようだ。

 

「ライリー先生……」

「もう『先生』はいったん封印しなさい。呼び捨てでいいわよ。あ、『お母さん』とかはありかも」

「あはは。では、ライリーさん。よろしくお願いします」

「ぴかるんよろしく! では、早速……」

 

 そこでライリーは衣装イメージ図を取り出した。

「これ決めよ! ぴかるんの衣装! 衣装は保護者サイドで口出しできる領分だもんね。張り込んじゃうぞ!

 装飾は狼のイメージの灰色マーブルのフェイクファー! 銃創のイメージの赤いビジューに、流れる血と血脈のイメージの刺繍とラインストーン! タイツは軍人っぽい脚甲模様! どうよ、コレ?」

 やたら凝った衣装案を持ち出したライリーに、光も司も苦笑いをこぼした。

 

―――

 

 リンクでひととおり振り付けの細部確認を終えると、光と司は今後の方針についてリンクサイドで話始めた。

「振り付けの詰めはこれぐらいにしておこう。エレメンツの内容はまだまだ決められないし、あまり固めてしまうのも、光ちゃんの特性上良くない」

「そうですね。いざとなれば直前での修正も問題ありませんし、あまりエレメンツとのつながりを固めすぎると今度はリカバリー等応用効きにくくなってなってしまいますから」

「そうだね」

 

 振り付けの確認についての話をそこらで切ると、光は続いてジャンプの話を始めた。

「司先生は3Lz、跳べるようになりました?」

「もう少し待ってほしい。まだ成功率イマイチで、君に教えるのに十分な形にもなっていない」

「随分と慎重なんですね」

「そうだね。せっかく見取り稽古するんだから、良い見本とならなきゃね……」

 

 光の見取り稽古要員に別コーチを雇うという検討はあったが、結局は見送られた。現役選手並みに跳べて体格も似たコーチなどなかなかいないし、司のような動作再現性の高さは望むべくもない。もちろん、別選手に見取り稽古をお願いするのはその選手の負担になってしまうし、何より光が嫌がった。

 ただ、いくら司の能力を持ってしても高難度ジャンプの見本をホイホイ提供できるわけでもない。司もシューズ経費等金がかかった分、練習に打ち込んではいるが……

 

「夏のジュニア合宿までには間に合わせます! 光ちゃんも頑張ってるから、俺だって頑張るからね!」

 やや強火の情熱を見せる司に光はため息をつく。

「そんな調子のいい事言って、いのりちゃんの方が優先なんでしよ?」

 

 司はその質問を予期していたように答えを返す。

「そこは、確かに厳密には少しだけ差がある。ここに移籍した時の契約で、ライリーヘッドコーチは俺をいのりさんの担当から外すことはできないし、俺はいのりさんのコーチに支障をきたすようなら、新たに担当を増やすのを拒否できる。しかし、担当を任され、それを受け入れたからには公平に全力で頑張るよ。それが仕事だからね。

 えこひいきなんてしないよ。そんなことしたらライリー先生にお仕置きされちゃう。ね、ライリー先生?」

 横で見ていたライリーはニッコリ笑って付け加える。

「ぴかるーん。司コーチが嫌だったりサボってるようだったら言ってね! ライリー先生が楽しく折檻するから!」

 

 光もわかっている。自分の能力を最大限に活用して成長するためには、明浦路司の能力は非常に相性がいいのだ。

 光は司をまじまじと見つめて、自分を諭すように言った。

「これも『継承』の為に受け入れる必要のある『変容』ですね。

 改めてお願いします。司コーチ」

 光は恭しく頭を下げた。

 

 コーチと選手。2人の「夜鷹を継ぐ者」がここに新たな契約を交わした。

 

 

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