結束いのり、スターフォックスへ   作:山倉衛

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34話 白鳥の湖

 白鳥ジュナの作った、いのりのための「白鳥の湖」の振付けが出来上がった。早速、ライリー、司、いのりを加え、リンクにて振り付けの確認が行われる。

 

「これは……一昨年の全日本ノービスの亜昼美玖のものより、かなりブラッシュアップされてますね。ジュナさん。かなり気合い入れて作り直しましたね」

「いのりさんに合わせたのか。身体の末端の動きが増えている。その中でも何より……」

 振り付けはライリーと司が息を呑む出来だった。そして、何より特徴的だったのは頭の動きだった。

 

 時折入る、素早く細かい頭の動き。いのりに実演させるまでパッとはわからなかったが、実際にリンクの上でやってみると、ジュナの意図が良く分かる。

「ジュナさん。これって、鳥の頭の動きですよね! 面白い!」

「御名答! いのりちゃん。良くできました」

 

 ライリーや司もジュナのやりたい事がはっきりわかってきた。頭の動きや羽の動きの「鳥の動き」と、優雅さを強調した「人の動き」を分けて使う事で、呪いを受けて白鳥に姿を変えられ、月光の下でのみ人間に戻るオデッサ姫のストーリーを銀盤の上で再現しようとしているのだ。

 

 ジュナは得意げに解説する。

「バレエでも勘違いしている人は多いけど、『白鳥の湖』は湖で優雅に舞う白鳥の話じゃないからね。」

「それでも、これはないんじゃないか? せっかくのいのりちゃんの笑顔が……」

 司が文句をつけたのは表情の指定だ。

 ところどころ笑顔も入るが、全体的に「恐れ」「戸惑い」の表情の指定が多い。

 

 ジュナは「何言ってんだ」と言わんばかりに首を振る。

「あー。ツーくんはわかってないなぁ。呪いかけられて笑顔で優雅に舞う奴がどこにいるんだよ? そんなの、チャック開けたままハイテンションで予選会場入りしたツーくんぐらいだよ」

 変顔トロールフェイスで司を煽りにかかるジュナに、ライリーは口をおさえて笑う。

「ふふふっ。面白い。さすがは顔芸でも芸能界で一目置かれる方ですね。いのりちゃんのためにここまで入魂の振付をなさっていただけて

 噂ではこちらの振付に集中するため、お笑い番組の仕事を減らされたとか」

 

 ジュナはキラリと笑顔に戻って返す。

「はは。そんなことありませんよ。あくまで噂です」

<<<<嘘嘘嘘嘘>>>>

 本当にこちらの仕事に注力してくれているんだ。

 ライリーはちょっと心配だったが、顔に出さずに聞き入る。

「まあ、後輩のツーくんの頼みだというのもあるけど」

<<<<嘘嘘嘘嘘>>>>

 あらら、そこは嘘なんだ。

 

「あえて1番の理由を挙げるとすれば、いのりちゃんが『白鳥の湖』で指定してくれたからかな。これは僕にとっても思い入れのあるテーマ曲でね」

「思い入れのある、と言いますと、やはり一昨年の全日本ノービスですか?」

「そうです。『チームあひる』のことはツーくんから聞いてますよね? 今回同じテーマで臨むのは言わばリベンジ、狼嵜光への意趣返しの思いがあります」

「狼嵜光、への意趣返し、ですか?」

 ライリーが確認する。

「そうですね。『チームあひる』はリンク閉鎖でどのみち解散の予定でした。亜昼美玖の全日本ノービスは言わば最後、十南町アイスアリーナと『チームあひる』の記憶を残す為のものでした。

 結果は知ってのとおりです。

 輝かしい狼嵜光世代の絵巻の中では、僕らのことは全て埋もれ、消えていくでしょう。全日本ジュニア推薦に向けた準備も孵らぬ卵でした」

 

 ここでジュナは銀盤の上のいのりに目を移した。

「それが、狼嵜光世代の一人、結束いのりの武器になるなら、これ以上にない供養です」

 ライリーはそこに畳み掛ける。

「ふふふ、そうですか。このスターフォックスには、狼嵜光もそのライバルたちもたくさんいます。供養ついでに、もう少しフィギュアのお仕事なされてはいかがですか? ジュナさんの振付、お願いしたい生徒さんはたくさんいますよ」

 ジュナは快く返答した。

「それはこちらこそお願いしたいですね。こちらのクラブには僕のファンの方もかなりおられるようですし。フィギュアに関わる仕事も増やしたいと思っていたところなんです。芸能活動との両立も、こちら、やりやすい立地ですしね」

 

 ライリーは満足気に軽くうなづく。

 フィギュアの世界にジュナが帰ってきた。でかしたぞ、いのりん!

 

 ジュナは司の方に向き直る。

「まだまだエレメンツとの整合考える時期じゃないけどさ。どうなの? いのりちゃん。3Aとか跳ばないの? 全日本ノービスでは挑戦してたじゃん。うるさいコウももうこのクラブにはいないし」

 司は苦い顔で答える。

「別に洸平くんが挑戦に反対してたから手を出さなかったわけじゃないよ。

 分かるだろ、あの身長の伸び。これまでのジャンプを維持し、磨き直すのが精一杯さ。スピードと加速度はむしろ向上してるから4Sは問題ないんだけど」

「やっぱりか……」

 ジュナも気付いていたとおりだった。

 

「伸びる手足に演技の美しさを乗せるのが振付師の仕事さ。オデッサ姫の呪いを王子様との出会いにつながる祝福に変えてやろうじゃないか」

 ジュナの決意表明を横で聞きつつ、いのりは別の事を考えていた。

 

 実叶のこと。そして、自分に降りかかっている「呪い」について。

 

 去年の全日本ジュニア、いるかちゃんのケガで動揺なんてしちゃいけないって、わかってたはずなのに。

 身体が呪いにかかったかのように動かなくなった。

 3Lzが跳べなくなった時もそう。

 司先生のケガなのに、自分が跳べなくなってしまった。

 お姉ちゃんのケガを思い出してしまった。

 他人のケガで動揺なんかしてたら、もういけないんだ。

 あんなショート落ちはもう、許されないんだ。

 

 わたしは、この呪いを克服する。

 お姉ちゃんからスケートを奪った、この「白鳥の湖」で。

 

 光ちゃん。待っててね。あなたのところまでたどり着くから。もう二度と、あんなことは起こさないから。

 

 いのりの目指す先には、王子様ではなく狼嵜光がいた。

 

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