結束いのり、スターフォックスへ   作:山倉衛

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41話 JGP選考会 中編

「いのりちゃん! 久しぶり!」

「白花ちゃん! 久しぶり!」

 

 いのりが見つけたのは、東北・北海道ブロックから新たにジュニアに上がってきた小雀白花だ。昨年も長野合宿で優秀な成績を収め、ジュニア合宿にも来ていた。

 

「えっと、白花ちゃん……実は……」

 いのりが申し訳なさそうにしているのを見て、白花がキョトンとしている。

「どうしたの? いのりちゃん」

 

「私、もう、キーホルダーはペンくまぬいじゃないんだ……」

 いのりのバッグのキーホルダーは、スポンサーの「五条工務店」のキャラ「五条くん」になってた。

 それを聞いて白花は笑い出す。

「あはは! 偶然。私も中学になったし、ペンくまのキーホルダーはやめにしたの。でも、ティッシュケースとかはまだペンくま!」

 

 それを聞いて、いのりもホッとする。

「良かった! 私もペンケースはまだペンくま」

「ペンケースは私も。おじいちゃんが買ってくれた限定のだから。あと、キーホルダーは……」

 白花がバッグを出すと、バッグにはもうこれ以上付けられないほどのお守りがついていた。

「実はもう、つけられるところなくて」

 

 いのりは妙なところで共感した。

「大人の人にもらったものって、外せないよね」

「うん」

 

 そこに、意外なところから話に入ってきた子がいた。

 大蜘蛛蘭選手だった。

「確かに、なかなか外せないのあるよね」

「あ、蘭ちゃんも久しぶり。そう言えば、蘭ちゃんいつもサンタクロースのキーホルダー付けてるよね」

 いのりの指摘に、蘭が眉をひそめて答えた。

「そうなんだ。もとはノービスの時、サンタクロース杯への派遣費出してくれた叔父が縁起担ぎにキーホルダーを持たせてくれたんだけど……

 外すタイミング失ったままつけてたら、ファンの皆からサンタクロースが好きだと思われて、それから毎年大量にサンタクロースグッズがプレゼントされるように……」

 

 白花がそこに心ないツッコミをいれる。

「ああ、それで蘭ちゃん『サンタクロースを信じてる』って噂があるんだ」

「言っとくけど、信じてないからね」

 即答で否定する蘭

 

「でも、流石にクリスマスの時だけつければいいんじゃない?」

 いのりの指摘に蘭は肩を落とす。

「去年までにそうすべきだったんだけど、もう間に合わなかった。実は、今シーズンからキャラクター会社のサンミオがスポンサーについてくれて……」

「……」

 いのりと白花は気づいた。

 よく見ると、蘭のキーホルダーのサンタはサンミオのキャラクターのサンタで、ジャパンジャージにスケート靴まで履いている。おそらく、蘭のための一点モノだろう。

 

 なぜか、いのりと蘭は同病相憐れむとばかり、ひしと抱擁を交わした。

 

 そんな緊張感のない少女たちをよそに、ピリピリしている大人たちがいた。

 中部のアシスタントコーチ陣、王仁敦士、雉多輝也、千羽輪太郎の3人だ。

「あの裏切り者は?」

「あっちにはいなかった」

「絶対に集合時間までには捕まえる……いのりちゃんの近くに必ず来るはずだ」

 

 そこにノコノコ標的=司が現れた。

「いのりさーん。ストレッチ用のマット……」

 言い終わらないうちに、王仁たち3人が司を連れ去った。

「?」

 いのりが振り向いた時には、ストレッチ用のマットが転がるのみであった。

「あれ? 司先生いたような……私、マットこんなところに置いたっけ? まぁいいや。

 蘭ちゃん、白花ちゃん。一緒にストレッチしない?」

 

―――

 

 司は、自販機の陰に拉致られるように連れ込まれていた。

「おうおう、司先生。ご無沙汰しておりますなぁ。東京の居心地はどうですかねぇ?」

 千羽が司に絡む。司も雰囲気に押されオドオドと弱々しく答える。

「あ、あの。みなさん何か?」

 

「いやいや。司先生のご活躍、耳にしてますからねー」

「移籍後すぐ、ジュニア女子1名に4S跳ばせたとか」

「ノービスBの子に4T跳ばせたとか」

「いのりちゃんを中部から連れ去ってからまあ、張り切って飛ばし過ぎじゃないかと心配してるんですよねー」

 どう聞いても心配している風ではない。しかし、何となく司にもわかった。

 

 要するに、敵情視察だ。中部ブロックは去年大躍進したとは言え、JGPの派遣枠に対して席は少なすぎる。

 JGPだけではなくこれからのシーズンを占う上で、自分やスターフォックスの様子を探りに来たのだろう。中部のコーチ先輩風吹かして強引に聞いてくるのは気に食わないが……

 

「4回転については、完全に本人たちの素質です。平新谷選手は一昨年のノービスでいのりさんの4Sのキモ、見抜いていましたし、鬼寅カンナ選手は一級の時から2回目のジャンプが1回目より高い怪力ぶりでした」

 そんな司の弁明で収まるわけがない。

「3A4人シンクロとかあれ何? 何か秘密あるのと違うか?」

 

 司は細い逃げ道を辿った。

「俺、魚淵先生からハーネスの使用方法等、指導受けまして。ライリー先生通していただければ、皆さんの選手の指導も請け負ってますよ。自分もジャンプ指導法の経験積んでいるところなので」

「……マジかよ」

「はい。ライリー先生の方針です。

 あと、魚淵先生も日本に戻っていて高難度ジャンプ指導を本格化するようです。今年はあと11人ほど4回転跳ばす目標だとか」

「11人!?」

 3人とも目を丸くする。

 

 おそらく、一部ヘッドコーチクラスには情報流しているのだろうが、やや高額な料金やリンク枠、選手のスケジュール問題もあり、アシスタントコーチクラスには情報がいってなかったのだろう。

 

「選考会の前に知りたかった……」

「とりあえず、五里ヘッドコーチに相談するか……」

「りんなの親。臨時コーチ代に納得してくれるかな……」

 3人ともそれぞれ、司の秘密なんてものへの興味は失せたようだった。

 

 一方、司にはまだ隠している秘密があった。

 スターフォックスで知った秘密

『特殊な能力の存在』

 その危険性から、ライリーには口外することを固く禁じられていたはずだった。

 

 しかし司は、それが選手の将来に関わるようなものであるなら尚更、例え、他人の教え子であっても、例え、自分では何の力にもなれないような事であっても、黙ったままでいられるような男ではなかった。

 

 司はとうとう、良心の呵責に耐えかねて、今にも去ろうとしていた3人を呼び止めてしまった。

「待って下さい。もう一つ、言わなければならないことが……」

 

 振り向いた3人は驚いた。

 司が苦悩の表情を浮かべ、何かを言おうとしている。

 

 司は渇いた口を開いた。

「雉多先生……」

「何ですか?」

 

 

「申川りんな選手の、いつも滑走順で一番を引いてしまうことについては、俺は何もしてあげられません。すいません」

 

 

「なあ、コイツ殴っていいか?」

 怒る雉多に、王仁と千羽はかぶりをふった。

 




すいません。
JGPの結果発表は次回です。
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