結束いのり、スターフォックスへ   作:山倉衛

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42話 JGP選考会 後編

 選考会は順調に進み、スターフォックスの面々は結果を待つばかりだった。

「さあ、みんな。発表聞きに行くよ」

 今回はミスなく受験できたこともあり、いのり、光、亜子の3人は落ち着いて向かうが、当落線上の萌栄は心穏やかではない。

 

 一応、先月に千葉の地方大会で4Sを跳び、公式戦での4S着氷記録はある。昨年は全日本ノービス6位。しかし、推薦で出場した全日本ジュニアでのショート落ちは痛い。今日の審査でどれほど挽回できたか。

「1戦派遣でもいいです。神様神様……どうか3戦目のフランスに連れて行って下さい」

 その微妙な高望みはよくない。

 

 発表会場では選手やコーチが集まり、派遣選手発表が始まった。

「それでは2戦派遣選手から」

「狼嵜光さん」「はい」「結束いのりさん」「はい」「鹿本すずさん」「はいな!」「胡荒亜子さん」「はい」

 ここまではほぼ確定のメンバー

 

 他の少女達が一斉に祈願のポーズになる。

 

「大蜘蛛蘭さん」「はい!」

「八木夕凪さん」「はいっ! やたっ!」

 二人ともガッツポーズだ。二人は去年1戦派遣選手だったが、それぞれ派遣戦で4位、5位を取っている。順当な昇格だろう。

 

「続いて1戦派遣選手」

「子出藤絃さん」「はい」

「小雀白花さん」「はいっ!」

 この2人も、昨年全日本ノービスから推薦で全日本ジュニア出場、並いるジュニアを追い抜いて9、10位に入っていた。

 

「うう。落ちた、、、」

 萌栄はがっくりうなだれる。

 もっとも、2戦派遣6名の半分の3名を占めただけでもスターフォックスは大快挙である。

 

 心穏やかでないのは中部ブロックの担当か。昨年、中部からスターフォックスへの2名の移籍者が両方、2戦派遣選手である。

 申川りんな、都中井のと、足利刹那も頑張ってはいたが、一歩及ばなかった。中部では派遣枠はかろうじて八木夕凪が1枠勝ち取ったのみであった。

 

 中部はスケート王国と言われるほどにフィギュアスケートが盛んだが、選手数に比べて通年営業のリンクはまるで足りていない。

 中部の担当はスケートリンク増設により選手の流出を食い止めようとはしているようだが、肝心の資金がクラファン頼り等々計画がままならないという。

 

 ただ、選出メンバーの中身は至極予想できたものだった。昨年選出されたジュニア選手と、昨年のノービス長野合宿で好成績を出してジュニア合宿に参加していた今期ジュニア入りの選手とが、順調に選出されていた。

 

 ただ一人を除いては。

 

「絵馬ちゃん……」

 隣にいるいのりが気づくと、大和絵馬は歯を食いしばり、涙を堪えていた。

 すずやいのりの背中を追い続けること数年、ついに昨年は長野合宿成績優秀者に選ばれ、ジュニア合宿ではすずやいのりとともに汗を流した。

 ジュニア入りした今年も一緒に合宿へ。海外へ。

 そう、思っていた。

 

 再び、すずといのりの背中が遠のいた。

 蛇崩が慰める。

 

「大丈夫や。まだまだ、絵馬には伸び代がある。

 今日で何も終わったりはせん。

 まだまだ道は長いんや。ちゃんと歩いていけばいい」

「うん。大丈夫や。

 まだうちは、がんばりなおしていける」

 

 師弟は絆を新たにした。

 

 一方で、挫けてしまった子たちもいた。

 この選考会を最後の賭けと考えていた者もいたのだ。

 上桐天音、斑羽継美、御古所悠貴花

 蓮華茶FSCてジュニアとして3年間頑張って来た者達であった。

 

「蛇崩先生」

「なんや、3人とも? 残念やったな? ……どうしたん? 神妙なツラして」

 蛇崩は嫌な予感に襲われた。3人の表情が普通じゃない。

「私達、決めてたんです。この選考会で今年もダメだったら、シングルやめようって……」

「!!」

 

 いるか世代4人が抜けた今シーズンは、チャンスであり、契機であった。

 しかし、蓋を開けてみれば派遣選手は全員狼嵜世代。彼らの心を折るに十分だったのだろう。

 

「あ、そ、そんな……」

 3人は年度当初から意思を固めていたようだが、蛇崩は何とか慰留の道を探る。

 3人とも全日本ジュニアまで出てる選手だった。

 上桐に至っては、ジュニア初年度にJGP1戦派遣選手に選ばれている。しかし、怪我で1シーズン休養、復帰した昨年はブロック大会、西日本大会を突破し、全日本ジュニア出場を果たしたものの、最終順位17位と不本意な結果に終わっている。

 同じく全日本ジュニアまで進出するも、斑羽は21位、御古所はショート落ち。しかし、逆に考えれば少なくとも日本の女子ジュニア世代の20位前後の実力者である。軽々にスケート界から手放せる選手ではない。

 

「そうや! 悠貴花はペア興味あるって、少し練習させてもろとったな? みんなペアやアイスダンスへの転向はどうなん?」

 蛇崩は3人の表情を伺う。

「はい、ペア転向は相談したいと思ってました。二刀流でやられている紅熊先輩にも及ばないにしても……」

「悠貴花がまだ頑張るなら、私も考えたいとは思ってました。でも、ペアにせよアイスダンスにせよ、カップルがいるか……」

 元々フィギュアは男女比の差が大きく、男子のカップル探しはかなり難しい。しかし、蛇崩はここで食い込んだ。

「よし、継美も悠貴花も、転向の相談進めたる。カップルも探して来たる。だけど、代わりにシングル継続ももう一回考えてくれ」

 口約束で猶予得られただけとはいえ、まず何とか2名、スケート継続の方向までこぎつけた。

 

 問題は転向の話にも全く反応しない天音だ。

 上桐天音は世界戦経験もある選手だ、ここで辞めさせるわけにはいかない。

 しかし、天音は濁った目のまま答える。

「ボクはペアやアイスダンスに向いてないと思います。シングルの代わりになるとは思いません」

 そう答える原因に心当たりはある。上桐天音は男性コーチと話す時すら一定の距離を保つ、潔癖症で男性嫌いなところがある。男性と物理的接触の多いペアやアイスダンスを受け入れられないのだろう。

 

「そや! シンクロナイズドスケーティングはどや? 宇治のチームがよくリンク借りに来ているやろ? 1チーム16名やで? まだオリンピック種目やないが……」

「……」

 返事はないが、上手い断り方が思い付いてないだけなのは明白だった。

 

 そんな中、そばで聞いていた絵馬がたまらず口出しした。

「上桐先輩。こんな場所で結論出すことないんじゃないですか? 蛇崩先生も困りますよ」

「なに? 絵馬ちゃん。この世界、勝者が敗者にかける言葉なんてないんやよ」

 

 絵馬はその言葉にむしろ怒りさえ覚えた。

「勝者ってなんの事ですか? うちも選出なんてされませんでしたよ?

 去年の全日本ジュニアの順位? 1つ位違いでうちと0.7点差くらいやないですか? 今日だって選出可能性あるからわざわざ呼ばれたん違います?」

「……」

 

 後輩に詰められ、少し表情が和らいだ天音だったが、絵馬の少し大きい声が余計な闖入者を招いた。

 いのりだった。

「絵馬ちゃん。どうしたの」

「あ、いのりちゃん。ちょっと先輩とお話ししてて」

 

 天音がいのりを見つめ、そして聞いた。

「あ、結束いのりちゃん……結束いのりちゃんって、スケート始めて4年目だっけ?」

 天音がジュニアに上がった年だ。

「? そうだよ」

 屈託なく答えるいのり

 

 まぶしい……まぶしい……

 スケート始め、3年でJGPファイナルメダリスト

 そして、今年も選出

 

 その同じ時間に、ボクは何をしていたんだろう?

 

 いのりの輝かしさが、天音の心の中にあった最後の柱をへし折った。

 蛇崩がマズいと感じたが、もう遅すぎた。

 

「いのりちゃん。帰るよー」

「あ、待って、亜子ちゃん。じゃ、絵馬ちゃんまたね」

 いのりは天音のおかしな様子を感じはしたが、亜子たちに呼ばれそのまま去っていった。

 

 いのりが去った後、天音は蛇崩と絵馬に頭を下げた。

「絵馬ちゃんごめんね。蛇崩先生もごめんね。退会の話はまた、帰ってからにするよ」

 そう、口では言っていたが、天音の目の端からは涙が一筋落ちていた。

 蛇崩も絵馬も、天音の心がもう声の届かない所に行ってしまったのを感じてしまった。

 

 天音と絵馬が去った後も、蛇崩は無力感から呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

 そこに司が通りがかった。

「あ、蛇崩先生。今日はお疲れ様で……」

 司が言い終わる間もなく、蛇崩は司の肩を引っ掴んだ。

「!? 蛇崩先生?」

 驚いた司だが、悔恨と悲嘆に暮れる蛇崩の姿に何もできなかった。

 蛇崩も、ただ司の肩をつかみ、震えうなだれるばかりであった。

 




蓮華茶3人の外見は、3巻10Pあたりから好きな外見あててあげてください。

あと、7巻122P、亜子の両隣の選手も、スターフォックス選手のハズですが(この年、スターフォックスは関東ブロック表彰台独占なので)名前わからない、、、同巻P143順位表からするに、鉱森神楽、百瀬繭香、雨宮蛍、浅利伽奈?、美波鮎あたりから2人?
>>ファンブック2情報より、鉱森神楽、百瀬繭香の2名と判明しました。
シードの蝉丸ひまりも、他に登場orクラブ等情報ないなぁ
>>蝉丸ひまり選手は荒川グロー所属との情報いただきました!
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