結束いのり、スターフォックスへ   作:山倉衛

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70話 ジュニア合宿 その5

 ジュニア合宿2日目

 曲かけの際にちょっとハプニングがあった。

 

 自曲の終わった白花がインストラクターにクレームを入れた。

「なんか、今流れた曲、私の曲と違う曲ねだが?」

「え? ……本当だ、ごめん! 男子の似た曲とまちがえた! もっかい最後にかけるから許して!」

「しょうがねだね、それでお願いしあんす」

 白花のコーチの日瀧常も頭を下げる。

「ごめん。すぐ気づいだども、白花さ楽しゅう踊ってだもんだば、止められねがったんだなぁ」

 

「白花ちゃん、曲違ってたの? 途中で気づいたの?」

 いのりが聞くと、白花はイタズラっぽい笑顔で答えた。

「イントロがら気づいでらったよ。いい曲だすけ踊りだぐなったし、終わってがら言えば、もっかい踊らせでもらえて得だべな」

 

 いのりはショックを受けていた。

「私、アドリブで振り付けとか絶対ムリ……」

「それでいいんでねが? 踊りてぇ時だげ踊ればいんだべ」

 

 そこで白花はいのりに質問してきた。

「いのりさはなんでわざわざ好ぎじゃね曲で踊るんだじゃ?」

「え? なんでそう思うの?」

 

「違ったが? なんが、好ぎじゃねぇ曲むりくり踊ってるみてぇだばって、先生さやらされだんでねが?」

 白花の鋭い指摘に、いのりは正直に答える。

「曲選んだのは私。

 えっと、これ、他の人に言わないでね。これ、私のお姉ちゃんがケガしちゃった時の曲なんだ」

 

「そうなんだべか……」

 驚く白花にいのりは説明を続ける。

「そう。私、去年の全ジュニで、いるかちゃんの怪我に動揺しちゃって大コケしちゃって……。

 それで、もう他人のケガとかのショックで動揺しないよう、お姉ちゃんがケガしちゃった時の曲で、一昨年に引退しちゃった亜昼美玖ちゃんの曲、今年の課題にしたの」

 白花も納得した。

 いのりが踊っている時の様子に何か違和感を感じていたが、そういうことだったのか。

 

「これ、司先生にもナイショだから、絶対に言わないでね」

 いのりが念押しすると、白花は静かな笑顔で答えた。

「姉様が怪我した時のジャンプ、2Aだっけが?」

「うん、そう」

 

 白花は立ち去りつつ言った。

「なら、きっとうまぐいきあんすよ」

 

―――

 

 ……シュタッ、シュタッ

 ジャンプ練習をしていた光は3Lz+3Loの再習得に成功した。

「よし! 光さん! 決まったね」

 

 光はつまらなそうな表情をつくって答えた。

「どこかの担任コーチが見取り稽古させてくれるまで待ってたらシーズン終わっちゃいますしね」

 

 グサリと刺さる言葉に司はたじろぎながら何とか笑顔をつくって答える。

「ははは。僕は3Lz単独まででやっとだったね。でも、君は自分の力でジャンプを磨き、再習得まで漕ぎつけた。偉い!」

 

 司の褒め言葉にも光は反応せず、冷たい表情をつくり直す。

「『偉い』なんて言葉で褒め倒せば済むのはノービスまでですよ。今日はこれでジャンプ練習は終わりにしておきますね」

 そう言うと、光はサブリンクに向かった。

 

 サブリンクでは夕凪とミケがハーネスを使用して高難度ジャンプ挑戦をしていた。

 光は夕凪に快活な声をかけた。

「夕凪! 夕凪のおかげで3Lz+3Lo、跳べたよ!

 昨日今日と、見せてくれたおかげだよ!」

 

 夕凪は息を切らしつつも、白い歯を見せて笑みを返す。

 

 光ちゃんの女王のジャンプ、しっかりと戻せて良かったよ。

 次は3A。すぐに追いついてみせるよ。

 慎一郎先生のためにも!

 

 ……シュタッ

「よし!」

 

 気合いを入れ直した夕凪はハーネス付き着氷を次々と成功させていく。

 慎一郎は夕凪に歩み寄った。

「よくここまで来ました。

 ここからはハーネスで手伝うことはできません。

 しかし、夕凪君ならきっと成し遂げられると確信してます」

「先生のおかげでつかめました。

 もう離しません。

 3A。しっかり仕留めて見せます」

 

 かちゃり

 ハーネスが外され、八木夕凪がリンクに解き放たれた。

「夕凪!」

 光がリンクサイドから手を出す。

 

 ばしっ

 

 光からのタッチを受けた夕凪が跳ぶ。

 

 ……シュタッ、ばしっ

「!!っ。よしっ!」

 

 慎一郎が声を上げる。お手つきこそあったが、一発目のジャンプで着氷成功させてみせた。

 

 これを見て気炎を上げたのは鞠緒とミケだ。

「おう、太郎。こっちも景気づけに跳ぶぞ。

 狼嵜光が見ている」

「おう。全ジュニでいきなり見せてビックリさせるわけにもいかんだら。ここで見せてあげんとダメだに」

 

「慌てるなよ。いまのお前だと最高速出ている瞬間に跳ばんと4回転にならん。しっかりスピード出してけ。

 それで跳べたら軸作ってやる。それをつかめば八木選手のようにハーネス外せるからな」

「おう。そっちもしっかりやるだに」

 

 ミケの助走

 それについていく鞠緒は感じている。

 みるみるうちにスピードがついていっている。昨日とは段違いだ。

 

 ミケは気持ちに波があるが、その分、波に乗れば驚くべきパフォーマンスを見せる。気持ちが重力に乗り、エッジに乗り、スピードが加速する。

 

 そして跳び出し。

「よし!」

 身体の締めと助走の勢いが噛み合った。

 それを見てとった鞠緒はすかさず軸を補正する。

 

「いっけぇー!」

 鞠緒の声と共に着氷

 ……シュタッ

 ハーネス付きだが見事な4Sだった。

 

 光は息を切らしているミケに視線を合わせた。

 『煽るな』って、亜子ちゃんにも言われているけど、ガマンできない。ちょっとだけ。

 

「ミケちゃん!」

「……なんら?」

「全ジュニ、いのりちゃんと待ってるよ!」

 そう言うと光はサブリンクを去った。

 

 鞠緒は満足気だった。

「ふふ。全ジュニで待ってるとさ。ノービスは敵なしでしょ、って言ってくれてるね」

 対して、ミケは息を整えつつ言った。

「今はうまく跳べたに。だけんど、もっちょっと余裕もって助走せんとダメだら。ジャンプにもってく余裕なくなっちゃうで。

 今日はもうハーネス外して、残りの時間でスリーターンからやるだに」

 

 鞠緒は驚いた。

 ジャンプを最も重視するミケが基本のターンから鍛え直すと自分で言い出した。

 自分のジャンプのために必要とするステップを自ら見極め、取り掛かる。トップジャンパーとしての大きな成長だ。

 鞠緒は湧き上がる高揚感に拳を震わせつつ言った。

「よしきた! 最高の発射台、作り上げてやろうぜ!

 地味な練習になるが、気持ち、張り切っていくぞ!」

 

―――

 

 男子の練習時間になると、理凰と朱蒴が再びサブリンクに入る。

 昨日からと同じ調子で、着々と上達しジャンプ成功率を高める朱蒴に対し、理凰はハーネス付きなのにクリーンな成功がない。

 

 慎一郎がハーネスを持ち間近で見守る他、司やライリーも目を向けているが、不調の要因は掴めていない。

 

 焦る理凰に、慎一郎が声をかける。

「理凰、さっき光が来たよ。修正に苦労していた3Lz+3Lo、再習得に成功したらしい」

「!? ……そうなんだ。3Lz+3Lo、修正してたんだ。知らなかった」

「うん。昨シーズン末かららしい。大変だっただろうね」

「……」

 

 慎一郎が伝えたいことは理凰にもわかった。

 狼嵜光のように理想的な選手でもジャンプの修正に半年以上かかることはある、と言いたいのだろう。

 対して、自分はまだ半月にもならない。

 

 しかし、自分にとっての3Aは頼りなくとも、光と肩を並べるための手掛かりなのだ。跳べない事は1日でも耐え難い。まして、それが光もいる合宿の場であればなおさら。

 

 このまま跳べないまま続けるのはダメだ。

 父さんももう今日は諦めろと言い出すだろう。

 何とかしないと……

 ……そうだ

 

 理凰はプライドを捨てて、朱蒴に声をかけた。

「すいません、朱蒴先輩! ちょっと。

 参考までに3A、一本、跳んでもらえますか?」

 

 朱蒴は『よしきた。待ってました』とばかりに快諾する。

「いいよ! よく見ておいて!」

 

 それを見て、ライリーもニコニコ顔になる。

 きっかけになればと朱蒴の3Aを見せることは考えていたが、理凰から言い出してもらうのが一番良かった。

 

 ……シュタッ

 お手本のような3Aが決まった。

 

 朱蒴は跳ぶ前、内心上手く跳べるか緊張していたが、カッコつけて跳んでみたら思ったよりうまくいった。

 

 理凰はその3Aを観察し、再び自分の3Aに考えを巡らせた。

 スターフォックスリンクで習得した際は跳べていて、朱蒴や光、亜子とシンクロジャンプまでできた。名古屋に戻ってしばらくしてプログラムに組もうとすると成功率が落ち始め……

 とりあえず、今見た朱蒴のジャンプを糸口に、シンクロジャンプの時のことを思い出して跳ぼう。

 

 ……シュタッ

 

「……跳べたね」

「……今のは良かったぞ。軸の修正もほとんど必要なかった。ハーネスなしでも跳べてたかもしれない」

 

 なぜか理由も原因もわからず改善した。

 シンクロジャンプのことを思い出して跳ぼうとはしていたが……

「……ちょっと、ハーネス外して、シンクロジャンプ挑戦してみていいですか?」

 

 これには皆驚いた。

「え? シンクロジャンプかい? 別にいいけど……」

 少し戸惑う朱蒴に理凰は説明する。

「なんだか、シンクロジャンプするつもりでやったら、何か掴めた感じがあったんで……」

 

 ライリーはノってきた。

「いいね! あの時と同じように私が手拍子しようか? カメラ操作も司先生にやってもらって」

「はは、いいですね」

 

 慎一郎はかしこまって頭を下げる。

「すいません、皆さん。ご協力お願いします」

「じゃ、手拍子いくよー」

 ライリーの楽し気な声で、理凰のシンクロジャンプ挑戦が始まった。

 

 理凰は最初の3A習得時のシンクロジャンプの時のことを思い出して手順を辿った。

 最初に各ジャンパーの位置とスタンバイ状況確認

 あの時は4人で、対角線、今の朱蒴の位置に光がいた。

 

 少し、手に力がこもる。

 手拍子の4つ目で脇の力チェック

 6つ目で全チェック完了

 7つ目で跳ぶ

 

 ……シュタッ、と、ドテッ

「!!」

「おおっ」

 

「今、着氷乱れ転倒しましたけど、跳び出しカンペキでしたよね?」

 ライリーの分析に理凰が答える。

「はい!

 何か掴めたかもしれません。

 次、手拍子だけお願いします」

 

 皆も目を見張る。

 今のジャンプはうまくいったと思う。

 理凰は小さくガッツポーズを作る。

 

 再び、ライリーの手拍子が始まる。

『チェック項目も内容も順番も変えてないのに……なぜできた? タイミング?』

 理凰も改善ポイントは掴めてなかったが、とりあえず手拍子だけで跳んでみる。

 

 ……シュタッ、タタッ

 着氷乱れるも、堪えた。

「よし! 次は手拍子なしでやってみます!」

 何かわからないけど、この手に掴んだ。

 理凰はもう逃さないとばかりに拳を握る。

 

 ……シュタッ

 クリーンな着氷音とともに理凰の快哉がリンクに響き渡った。

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