結束いのり、スターフォックスへ   作:山倉衛

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90話 文化祭 後編

―――立川市立西第三中学校。文化祭。2年2組

 

 光がいのりを見つけ近づくと、いのりは知らないメガネの女の子とゲームをしながらおしゃべりを楽しんでいた。

 いや、この子、どこかで見たことある気もするが、メガネをかけているのでわからない。

 すると、メガネの子の方から声を掛けて来た。

「あ、狼嵜光ちゃん?」

 

 光は笑顔をつくりながら答えた。

「そうだよ。あなたはいのりちゃんの友達?」

 ここでいのりがメガネの子を紹介した。

「そうだよ。亜昼美玖ちゃん。新潟に行った時知り合ったんだ。2年前までシングルの選手だったよ。覚えてない?」

 

 光は思い出した。2年前の全日本ノービス。有力シード選手だったのに光の次の滑走だったこともあり、実力出せなかった選手だ。

「あ……久しぶりだね。今日はどうして東京に?」

 美玖は答えた。

「隣町の高校の学校説明会。昨日から伯父さんの家に泊めてもらってるんだけど、スターフォックスが近いし、いのりちゃんに会えるかもって連絡したら、今日文化祭だって知って。

 学校説明会は午後だから午前中にいのりちゃんに会いに来たの。でも、まさか光ちゃんにまで会えるなんてなぁ。JGPファイナル進出おめでとう! 両方金メダル、すごいよね! オーストラリア戦でのバックフリップもカッコよかったよ!」

「あ、ありがとう」

 光は顔をひきつらせながら礼を言った。

 

 いのりはこの子を『2年前まで』選手だったと言っていた。ということは、今は辞めたという事だ。確か、すずちゃんや亜子ちゃんと同じくらいの実力のあった子だ。

 そんな子がスケートを辞めてしまうなんて、何があったんだろう。大怪我だろうか? 自分の直後のあの大崩れの演技が原因だろうか?

 

 光が考え込んでいると、いのりが言ってきた。

「えっと、ただおしゃべりしてると、サボってるみたいになっちゃうからゲームしながらにしよっか」

 

―――

 

「わ、綺麗なゲームね」

 光は目を輝かせた。いのりが選んだゲームの箱から、宝石の描かれたチップやカードが場に並べられる。

「『宝石の煌めき』ね。新潟でやったことあるから知ってる」

「美玖ちゃんは知ってるんだ。じゃあ、光ちゃん、ルール説明するね」

 いのりのルール説明が始まった。

 

 ルールは簡単で、順番に宝石のチップを取ったり、貯めた宝石のチップで宝石カードを買ったりする。その宝石カードとチップで新しい宝石カードを買っていくのだが、宝石カードは使っても無くならないので、どんどん高得点の高いカードが買えるようになる、という拡大再生産ゲームだ。

「最終的にはどうなれば勝ちなの?」

 光が聞くといのりは別のカードをめくった。

「こっちの街カードで決まるの。今回はこの3つのうちどれかかな?」

 勝利条件の示されたカードには、目標得点と集める宝石カードの種類と数が書かれている。

「ふふ。どれかの目標を早く達成した人の勝ちね。オーケー。じゃ、始めようか」

 光がルールを理解すると、ゲームが始まった。

 

 順番は光からだった。光は宝石チップをつまみながら、直球質問をした。

「美玖ちゃんは、今はフィギュアやってないの?」

 これにはいのりが代わりに答えた。

「美玖ちゃんのホームリンク、閉鎖してクラブもなくなっちゃったんだ……」

 光は顔をしかめた。

「そうなんだ。もったいない……」

 

 美玖はチップを選びながら、いのりに聞いた。

「洸平コーチは元気?」

「うん。この春まではルクスで教わってたし、元気だったよ」

 光は宝石チップを払ってカードを取る。

「美玖ちゃんは他のクラブに移籍とか考えなかったの?」

 

 美玖は少し苛立ったようにチップで机をコツコツ鳴らしながら答えた。

「全く考えて来なかったわけじゃないけど、中学生一人で引っ越しとかとなるとね」

 いのりも続ける。

「スケートのために引っ越しとか厳しいよね。私はちょうどお父さんが東京に行く話があったから良かったけど」

 

「運も大事よね」

 美玖はカードを見るが、順番が早い光といのりに目当ての宝石カードを取られてしまったので、仕方なくカードの予約をして、チップを1枚だけ取る。カードの予約をすれば他のプレイヤーにカードを取られることはないが、通常3枚取れるチップが1枚しか取れない。回り道の手だ。

 

「運は大事にしないとね」

 光は早い順番の利を活かし、有益な宝石カードを先に取っていく。いのりも対抗して次善のカードを取っていくので美玖に得点の高いカードが回らない。

「あー。そのカード取られちゃった……。そう言えば、いのりちゃんの衣装『白鳥の湖』?」

 

 いのりは笑顔で答えた。

「そう! ジュナさんに振り付けてもらったの!」

 美玖はひきつった笑みをつくりながらうらやましがる。

「いいな……私、ジュニア推薦狙ってショートプログラムとか練習してたのに、できなかったしね」

 また、カードの予約をする美玖。

「2人はシングル選手としての道を着々と進み、私は受験勉強、と。ちょっとうらやましいな……やっぱり、2人とも進学は日乃出桜佳高?」

 

 光はまたカードを取り、ニマニマといのりに笑みを向けながら答えた。

「私は桜佳中からの内部進学だけど、いのりちゃんも高校から来る?」

 いのりは恥ずかしそうに頭を掻く。

「あまり考えてないなぁ……でも、光ちゃんと同じ高校ってのも嬉しいかも」

 

 美玖はカードを取ってひらひらさせながら口にした。

「東京はいいよね。私立高校の授業料実質無料で。

 スターフォックスリンクの近くだと、スポーツ推薦なら日乃出桜佳が一番よね。光ちゃんも自分で選んだの?」

 光は机の上で目を泳がせながら答える。

「選んだのは慎一郎先生だけど……」

 

「中学生だと、自分の進路とかってなかなか自分で選べないよね。……まあ、2人ほどすごい選手だと進学くらいはよりどりみどりだろうけど」

 そんなことを言う美玖に、いのりは質問した。

「美玖ちゃんは今年度受験? どんな高校受けるの?」

 

「今日聞いて来るのは八応寺学園の説明会、スポーツ推薦もあるところだけど、もちろん普通に受験するよ。

 伯父さん家から通えるところで、お父さん納得させられるくらいの進学校探してるの。お父さんは地元の高校、新潟高か新潟南にしなさいって言ってくるんだけど。

 伯父さんに味方してもらえるように、手堅く勉強も頑張らないと……」

 

「家族と過ごせるのも大事だものね……」

 と、そこで光は気づいた。

「あれ? カードがない……」

 

 美玖が気の毒そうに言う。

「いのりちゃんと同じ緑の宝石カード取り合ってたもの。もう、緑のカード枯れてるんじゃないの? いのりちゃんはしっかり他の色のカードも押さえてたけど」

「うん。光ちゃんと同じ勝利条件狙いだったら負けちゃうかなって」

「あらら……これはやられた」

 一点集中で得点を稼いでいた光だったが、ここで足踏みを余儀なくされた。

 

 その隙にいのりが勝利条件を満たす。

「これでこの都市の勝利条件満たしてあがりだけど……」

 しかし、勝ったのは美玖だった。

「順番は最後の私まで回るよね。なら、予約しておいたこのカード買って、私もこっちの都市の勝利条件であがり。

 同じターンであがって、得点も同点だと、順番の遅い方が勝ちだよね」

 

「わー。最後の勝ち筋見据えて、最初にそのカード予約してたんだ……すごい先読み」

 感心する光に美玖はとんでもないといった表情で答えた。

「偶然だよ。光ちゃんといのりちゃんがカード取った後で山から出てきたカードが、たまたま私に都合がいいカードだっただけ」

 照れる美玖をいのりが褒めたてる。

「いや、手堅い手で機会待って、チャンスを逃さなかった美玖ちゃんがすごいよ」

「てへへ……まあ、ゲームでうまくいってもね……」

 美玖は笑いながら、少し寂しい表情をした。

 

「じゃあ、もう行くね。おしゃべり楽しかったよ」

 美玖はそう言って、席を立った。

 いのりと光はそれを後ろから見送った。

 

「……やっばり、うらやましいな」

 教室から出た美玖がそう呟いて行こうとすると、後ろから手を引かれた。

「……!?」

 いのりだった。

 

 いのりは少し声をうわずらせながら懸命に言った。

「あの、美玖ちゃん。あの、今晩とか時間があったらスターフォックス。見にこない?」

 

 

―――その日の夜。スターフォックスリンク

 

「何で美玖ちゃん呼んだの?」

 光はJGPトルコ戦の詰めの練習をしているいのりに聞いた。

「美玖ちゃん。歩いている姿勢、すごく良かった。多分、バレエ毎日やってるんだと思う」

 いのりの答えに光は少し悲しそうな顔をした。

「そう……本人は復帰したいと思ってるのかもね。

 伯父さん家? 八応寺からなら、スターフォックスに通えるよね。

 でも、正直、2年のブランク? 司先生、どう思います?」

 

 司は少し考えて答えようとした。復帰だけなら問題ないだろうが……

 司が口を開こうとした時、ちょうど美玖がやってきた。

「いのりちゃん。来たよ!」

「美玖ちゃん。ようこそ」

「光ちゃんも練習中なんだね……」

「うん」

 

 美玖はいのりに聞いた。

「どうして今日は呼んでくれたの?」

「うん……美玖ちゃん。ひょっとして高校からフィギュア復帰したいのかな、って思って」

 美玖は驚いた顔をした。

「わかっちゃった? 実はそうなんだけど、今の女子ジュニアってすごくレベル上ってるから、さすがにシングルは無理かなって思ってて。スターフォックスは伯父さん家から近くていいけど……」

 

 そんな美玖の後ろから声をかける者がいた。

「あれ? 新潟の亜昼美玖ちゃん? なんでスターフォックスに来ているの?」

 神宮からシンクロナイズドスケーティングの立ち上げの支援に来ている蕨だった。

 

「あれ? 蕨コーチ、美玖さんご存知なんですか?」

 司の質問に蕨は答えた。

「神宮FSCの鯨臥先生のところに、高校に進学したらシンクロでフィギュアに復帰したいって相談してきた子でね。でも、神宮だと伯父さん家から遠いから家族の説得に悩んでるらしくって」

 

 そのまま蕨は驚いた顔の美玖に向き直り、言った。

「そうだ。スターフォックスならどう? 美玖ちゃん。

 ここもシンクロチームすぐできるよ」

 美玖は目を丸くした。

「本当ですか!? い、いつ?」

 興奮する美玖に蕨はのんびりした声で答えた。

「僕が手伝えるの来年度いっぱいまでだから、もう半年以内にはジュニアチーム立ち上げまで持ってかないと鯨臥先生に怒られちゃうなぁ……。ここなら家族説得できそう?」

 

 美玖は感極まり、その場にしゃがんで号泣した。

 これが後の「アウトフォクシーズ」のキャプテン亜昼美玖と、スターフォックスとの最初の出会いだった。

 




ファンブック2で亜昼美玖ちゃん、いのりより1学年上と判明しましたので、修正しました。来シーズンよりスターフォックス加入予定です。
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