九つの巨人全部喰う(完結)   作:雄魔雌

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10 完食

 世界を壊すのは特別な悪魔じゃなくて、いつだって末端の凡人のささやかな欲望から始まる。

 ただ、その欲望を生み出すのは……もっと大きな絶望なのかもしれない。

 

 

 

 

 俺はあの時、別にアルミンに喰われてもいいと思っていた。

 団長だってジャンだってコニーだって、あいつだったら文句ないんだろう。

 アルミンは俺なんかよりずっと賢くて、仲間達からの信頼があって、どんな事態でも打開できる奴なんだって。考えなしに喰うことしかできない俺とは違うんだって。

 

 でもアルミンは俺を噛まなかった。その甘さが俺を生かしてしまった。

 超大型巨人の胃の中で俺は思った。

 これは偶然じゃない。

 俺という愚かな怪物が、償うことのできない責任を何らかの形で果たすまで、この物語は終われない。

 

 

 

 頭の中は戦場のようだった。

 いくつもの音が同時に響き、俺の意識を引き裂いていく。これはただの耳鳴りだと、最初はそう思った。しかし違う。耳を塞げば視界に現れ、目を閉じれば耳元で囁いてくる。

 これは継承者たちの記憶。

 

 

「私は絶対に父のもとに帰る。どんな手段を使ってでも」

「俺がアニキの分まで顎の巨人としての使命を果たす」

「胸を張って生きろ……ヒストリア」

 

 脳裏に血のように滲み出す、過去の記憶たち。

 愛する人への想い、自己犠牲への覚悟、最期まで貫いた矜持……声は途切れることなく続いた。

 

「私は兄さんをずっと見守ることしかできなかった。ここで、タイバー家の使命を果たす」

 

 一族の重責と、それを背負い切れなかった無力感。

 

「……私は、自分を信じてよかったと思いたい」

 

 ピークの記憶。寒い夜、震える手で書いた父への手紙。

 

「母さん。俺は……間違ってなかった、のか……」

 

 ライナーの震えるような声。

 

 

 いくつもの声が、交互に、時に同時に、頭の中で重なる。

 俺の中に入ってきた人間たちが、誰も黙ってくれない。俺は彼らに侵食されている。

 

「エレン。君が見たかった世界は、ミカサと逃げた先にあったのか?」

 

 アルミンに宿るエレンの記憶。友情と困惑、そして理解しきれない選択への苦悩。

 

「仕方がなかったんだ。誰も悪魔なんかじゃないし、殺したくなんかない。でも……僕だって……」

 

 ベルトルトの声。友情と任務の板挟み、そして最期の瞬間まで抱えた孤独。

 

「生まれてきたこと自体が、間違いだったのかもな」

 

 ジークの記憶に眠る複雑な感情。

 

 

 

 

 頭の中に響く声は、突如こちらに矛先を向ける。

 

「お前は誰も愛さずに、ただ他人を消費しているだけだ」

「一人になって、やっと分かったか? 彼らが何を捨てて戦っていたか」

「お前は喰って、知ったつもりになってるだけだ。俺たちは、血の中で背負ってきた」

「自分が悲劇の主役だとでも思ってるのか?」

「違う。お前は逃げるために『食欲』という名の信仰にすがっただけの、凡人だ」

「わかるか? それが違いだ。なぜお前が誰とも信頼を築けなかったか」

 

 

 歩きながら頭を振った。

 俺はいつの間にか、巨人から人間の姿に戻っていた。頭の中は黙ることがなく、永遠に俺に語り続けてくる。

 

「うるさい……うるさいんだよ……!」

 

 そんな正論だけぶつけられて止まれるような真人間なら、俺だって巨人を喰い続けたりしなかった。

 

 呟きは風に攫われた。足音だけが、静寂の山に響いていく。

 少し離れた場所に、ポツンと建てられた小屋が見える。

 

 

 

 自分が女型の継承者に指名されたとき、「選ばれた」ような気がして、高揚したのも事実だった。

 しかし俺は誰の期待にも応えられなかった。選ばれたなんて、俺の順番が来たなんて、気のせいでしかなかった。

 俺が過去に無垢の巨人を喰ったということが、兵団に筒抜けだった。俺が候補になった理由はただそれだけ。気味が悪くて頭の狂ったフィンという一兵卒が、つなぎとして兵団に使い捨てられただけの話。

 

 俺にできることなんて捕食だけなのに、俺は喰うほどに信頼を失っていった。喰うことで俺のものになるはずだった「憧れの景色」は、喰べるたびに俺のもとから遠ざかっていった。

 

 世界はパラディ島に怨嗟を投げつけてきたけれど、島の中でも同じことが起きていた。勝手に巨人化能力を独占した俺という異端は、格好の捌け口だった。

 イェレナが俺を懐柔しようと近付いてきたとき。嘘だってバレバレだったけど、あんな言葉でも少しだけ嬉しかった。ただ、ジークの安楽死計画とかいうやつには賛同しかねる。

 

 俺は、そんな悠長な計画には耐えられない。

 かといって、兵団に従って部分的な地鳴らしを実行するなんてつもりも、毛頭ない。

 

 俺は進撃と始祖の巨人を喰った後、自分自身をヒストリアに喰わせる。「不戦の契り」だ。全部の力を女王が保有すればいい。

 兵団の抵抗? 知るか。九つの巨人の力さえあれば、女王への接近くらいどうとでもなるだろ。

 

 ヒストリアが九つの巨人を全部喰えば、この力を兵器運用できるような奴はこの世からいなくなる。マーレからもパラディ島からも知性巨人という抑止力は失われ、どちらもただ世界に滅ぼされるのを受け入れるだけ。

 

 こんな島、滅べばいい。

 マーレもパラディ島もエルディア人もユミルの民も、全部知ったことか。

 

 壁の外も内側も、全部壊れてしまえ。

 

 

 

***

 

 

 

 山小屋の扉が軋んだ。

 木枯らしが吹き抜け、暖炉の炎が震えた。扉を開いたのは――フィン。虚ろな瞳、そして荒い息遣い。足取りは重く、まるで死神だった。

 服に付着した血は乾きかけていて、布地にこびりついている。それが彼のものなのか、それとも他者のものなのか――ぱっと見では、判断がつかない。

 

 扉は半開きのまま、冷気が室内に流れ込んでいる。フィンは片手で扉の縁を掴み、もう片方の手は腹部を押さえていた。内臓に深刻な損傷があることは明らかだった。

 

「……来たか」

 

 エレンの声は、嵐の前の凪のように静かだった。彼は薪を暖炉にくべながら、この瞬間を何年も前から知っていたかのように佇んでいた。

 薪が弾ける音が室内に響く。オレンジ色の炎が揺れる影を壁に作り出し、二人の男を不気味に照らしていた。

 台所の方から、包丁がまな板に当たる音が聞こえた。ミカサが夕食の準備をしているのだろう。だが突然の訪問者に、その音は途切れた。彼女も異変を察知したに違いない。

 

 フィンは扉の前で立ち尽くしていた。

 言葉が喉に詰まる。何を話せばいいのか、何から始めたらいいのか……。

 

 時計の針の音が静寂を刻んでいたが、しばらくして、胸の奥から湧き上がる激情が、フィンの口を開かせた。

 

「俺は必要のない存在になった」

 

 罪を告白する罪人のように、その声は震えていた。

 

「この島にとっても、世界にとっても」

 

 その言葉は山小屋の空気を重くした。血の匂いが部屋に漂い始める。

 ミカサは台所で手を止めている。包丁を持ったまま固まっているということが分かった。エレンが暖炉の前で肩を強張らせる。

 

「いや」

 

 フィンは自嘲的に笑った。

 

「最初から、俺なんていらなかったんだろうな」

 

 沈黙が流れた。暖炉の火だけが、パチパチと音を立てている。

 

「でも、このままでは終われない」

 

 彼は拳を握りしめた。爪が掌に食い込んでいく。

 

「進撃と始祖を食べなきゃ、俺は終われない」

 

 フィンの目に、狂気じみた光が宿っていた。それは諦めとは正反対の、執念深い炎。

 

「だからエレン、全部渡してくれ。俺は今度こそ、世界が望むような……」

 

 フィンの声が高まった。その激情は、すでに爆発寸前だった。

 

「正しい悪魔になる」

 

 その言葉に、エレンがゆっくりと顔を上げた。

 

 

 

 

 

 台所から皿の割れる音が聞こえた。ミカサが手を滑らせたのだろう。陶器の破片が床に散らばる音が、この場の緊張を一層高めた。

 

「進撃の巨人は、未来の継承者の記憶をも覗き見ることができる」

 

 エレンは静かに首を振った。ゆっくりと立ち上がる。

 

「この意味がわかるか?」

 

 エレンの問いかけは、まるで最後の審判のようだった。

 フィンは凍りついた。血の気が引いていく。膝が震え始め、壁に手をついて身体を支える必要があった。理解が、恐ろしい理解が彼を襲った。

 

「……そうか」

 

 震え声で呟く。魂が身体から抜け出ていくかのようだった。

 

「そういうことか」

 

 彼は床に膝をついた。力が抜けて、立っていることができなくなったのだ。血溜りが広がり、膝を染めていく。

 

「やっぱり俺は、最初から……いらなかったんだな」

 

 しかし、その絶望の中に狂気じみた笑いが混じった。彼は顔を上げ、天井を見上げながら乾いた笑い声を上げた。

 

「ここで死ぬのか。何も果たせず、何者にもなれず、ただ他人の人生を強奪して……」

 

 フィンのいる場所から、ミカサの姿が見えた。

 

「なあ。どっちがやるんだ。さっきからミカサが刃物を構えてるの、バレてるぞ」

 

 ミカサの手が震えた。暖炉の明かりを反射して、包丁が鈍い光を放っている。彼女の顔は見えなかったが、その肩は小刻みに震えているようだった。

 エレンは首を振った。その動作には、確固たる意志があった。

 

「ここじゃない」

 

 彼は立ち上がった。そして外套を手に取る。

 

「場所を変えよう。ミカサ、待っててくれ」

 

 

 

***

 

 

 

 外は雪が降り、薄らと積もり始めていた。細い雪片が二人の男の頬を打ち、すぐに溶けて水となって流れ落ちる。

 

「お前を悪魔にしたのは、オレの選択によるものだ」

 

 エレンの声が響き、フィンは顔を上げた。

 

「この世界に、過去も未来もない。それでも、その世界にも……当たり前だが、オレとミカサ以外の人間の生活がきちんと存在している」

「この世界? なんだそりゃ」

 

 フィンは笑った。皮肉に満ちた笑いだった。

 

「何の話だか分からんが……」

 

 フィンはよろめきながらエレンに近づいた。

 

「あれだけ自由を声高に唱えてたエレンが、女と逃げるような選択をするとはな」

 

「羨ましいよ。それは、お前が人間だったことの証だろ」

 

 その言葉を発した瞬間、フィンの中で何かが崩れた。

 膝から崩れ落ち、雪の中に倒れ込む。雪が彼の血を吸い込み、周囲を赤く染めていく。

 

「俺はどこで人間をやめたんだろう。やっぱり、実験用巨人の肉を食っちまった時か?」

 

 声が震えた。自分への嫌悪が溢れ出した。彼は雪を掴み、顔に押し付けた。冷たさが火照った頬を冷やす。

 エレンの瞳に衝撃が走った。

 

「……お前、そんなことをしたのか」

「知らなかったか? 調査兵団の連中なら、もう全員知ってると思ってたよ」

 

 フィンは自分を嘲笑った。仰向けになり、空を見上げる。雪片が彼の瞳に落ち、涙のように頬を伝った。

 

「でもそんなの、今更だろ。もう喰っちまったんだから」

 

 ついに、本音が溢れ出した。

 

「……羨ましかったんだ、巨人が。辛かったんだ、現実が」

 

「どうかしてるよな……」

 

 フィンは小さく呟いた。しかしそれは、心の底からの、魂の奥底からの叫びだった。

 

「生きる目的とか、理想の政治とか、信じるべきものとか。俺は……みんなが大好きな、そういう『大きな物語』の一員になれなかった。だからずっと、訓練兵の中でも浮いていた」

 

 彼の声は絞り出すようだった。エレンは黙ってフィンの話を聞いていた。

 

「動物は、欲望を満たすのに他者なんか要らない。食欲、睡眠欲、性欲……満たしてしまえばそれで終わり」

 

「でも人間はそうじゃない。欲望を満たすには、他者が必要だ。誰かに必要とされたいとか、認められたいとか、嫉妬されたいとか」

 

 フィンは起き上がり、拳で胸を叩いた。

 

「俺は即物的な方法で欲望を満たそうとしたから、人間をやめて動物に成り下がってしまった。薬物中毒者と何も変わらない。巨人の捕食という行為を通して、今も他人の記憶を貪るだけ」

 

 右目から、一筋の涙が流れた。

 

「俺の物語はとても小さい。世界という大きな物語を、俺という空っぽの人間が……こんなに小さくしてしまった」

 

「アニも、ポルコも、ラーラも、ピークも、ライナーも、アルミンも、ジークも。俺みたいな人間が食っていい存在じゃなかった。俺が人間性を捨てたせいで、こんなことになった。たくさん死んだ。たくさん殺した。サシャだって、結局……あれは俺が殺したんだ」

 

 彼は、彼が捕食した者たちの名前を呼んだ。一つ一つ、大切に、痛みと共に。

 

「でも」

 

 風が吹いた。雪を巻き上げ、二人の姿を一瞬見えなくした。

 

「それでも、止められないんだ。始めたからには、終わらせなきゃならないんだ」

 

 

 

 

 

 巨人の咆哮が響いた。

 雷鳴が轟く。

 

 雪は巨人化の熱で溶け、蒸気となって立ち上がる。森の木々は倒れ、大地には深い亀裂が走っていた。

 

 フィンの体が発光し、巨人化の爆発により発生した熱風が立ちのぼる。

 

「来いよ、エレン」

 

 全てが一つの肉体に無理やり詰め込まれ、継ぎ接ぎの怪物と化した姿。あちこちに開いた口が、好き放題に言葉を語りだす。複数の声が重なり合った不協和音だった。

 

「俺はここで死ぬらしいが、九つの巨人全部を喰えないと決まったわけじゃない。喰ってから死ぬか、喰われて死ぬか。それが俺の最後の二択だ!」

 

 沢山の口から、血のような涎のような、涙のような液体が流れていた。

 それは彼が喰らった者たちの悲しみなのか、それとも彼自身の絶望なのか。

 フィンが硬質化した拳を振り上げ、巨人化したエレンに突進する。

 

 

 しかしその腕はエレンに届くことなく、彼は突如膝から崩れ落ちた。

 

 身体はいたる所から血を吐き続け、その内部構造は破綻しかけていた。彼の精神も、肉体も――もう戦う力など残っていなかった。

 

 自分自身の限界こそが、彼の「最後の敵」だった。

 

 

 エレンの巨人が静かに歩み寄る。そして、フィンの巨人の首に手をかけた。

 

 そして、たったの一噛みで。

 

 フィンの巨人は崩れ落ち、その傷口は蒸気となり、少しずつこの世界から消え始める。

 

 

 そして、エレンが――九つの巨人全てを喰った。

 

 

 

***

 

 

 

 

「フィン」

 

 突然、サシャの声がした。

 お前のことなんか、食べていないのに。少し猫背気味に笑っている。いつものあの顔で。

 

「全部、一人で食べちゃったんですか?」

 

 声は柔らかい。でも、そこには確かな重さがあった。

 

「……食べてない」

「食べてますよ」

 

 サシャは決して俺を責めていないのに、俺には逃げ場がなかった。

 

「あの日、一緒に実験用の巨人を見学に行ったとき……フィンは、巨人のことを羨ましそうに見ていましたね」

 

 サシャは雪の上に膝をつき、俺の頭を膝の上に乗せていた。

 

「どうして、自分じゃない誰かになりたいだなんて……」

 

 俺は答えた。最後の告白を。

 

「自分が、何者かになれる気がしたんだ。喰えば、その人になれるって」

 

「でも結局、誰にもなれなかった。喰っても、俺は『俺』のままだった」

 

 ずっと頭の中に蠢いていたのは、ただの継承者の「記憶」じゃない。聞こえてくる声、見えてくる景色、全てが彼らの「願い」だった。

 俺を責め立ててきた声も、決して彼らの記憶じゃない。あれは俺自身の声だった。

 

 帰りたかった場所。守りたかった家族。失いたくなかった絆。俺が踏みにじった、他人の物語。

 

「自分の物語じゃ、足りなかったんですか」

 

「私のあげたパンじゃ……物足りなかったんですか」

 

 その声に、俺は胸ポケットに手をやった。マーレに発つときにサシャがくれた……結局、一口も手をつけられなかったパン。

 もうだいぶ前の話だ。こんなところにあるはずがない。

 しかし、手に何かが触れた。それら小さく、硬いもの。取り出してみると、それはボロボロと崩れて小さなクズになっていく。

 

 俺は……あれだけ優しくしてくれたサシャにすら、何も自分から渡したことがなかった。

 

「……ごめん」

 

 雪が小さな結晶となって輝いている。

 俺はもうここで終わるけど。

 もし違う道を選んでいたら。

 

 次は……

 

 

 

***

 

 

 

 エレンは山小屋に戻った。扉を開けると、暖かい空気が彼を包んだ。暖炉の火は相変わらず燃え続けており、部屋に温かな光を投げかけている。

 ミカサは食卓で待っていた。二人分の食事が用意されているが、彼女の分は手つかずのままだった。彼女の目は赤く、泣いていたことが分かった。

 

 エレンは静かに席に着いた。

 しかし、食事にはほとんど手をつけなかった。フォークを持つ手が震え、食べ物を口に運ぶことができない。そして、手が止まった。フォークを置いて、ぽつりと呟く。

 

「……違うんだ、フィン」

 

 ミカサが顔を上げた。彼女の瞳には疑問があった。

 

「選択を間違えたのはお前じゃない」

 

 エレンの声は震えていた。

 

「オレが、お前に責任をなすりつけただけ」

 

 彼は立ち上がった。椅子が床に擦れる音が響く。

 

「本当に終わらせなきゃいけないのは、オレの方だ」

 

 エレンは窓辺に歩み寄った。外では雪がまだ降り続けている。フィンが倒れた場所も、もう雪で覆われているだろう。

 

 世界は自分たちだけでできているわけじゃない。他人の人生を無視して、己の幸せだけを享受することはできない。

 フィンは、エレンの選択が作り出した悪魔でもあった。

 ささやかな生活に憧れて――ただそれだけのために選んだ世界の裏でも、結局誰かが犠牲になる。どんな場所で生きようとしても、結局その裏には散っていく多くの命がある。その象徴が、フィンという動物化した男だった。

 

「お前はあの日、巨人を喰うべきじゃなかった」

 

 風が吹いた。冷たい風が、窓ガラスを震わせた。

 

「だから……」

 

 言葉は静かに消えた。しかし、その決意は揺るがなかった。

 

 エレンは顔を上げ、ミカサを見つめた。彼女の瞳には涙があった。しかし同時に、理解もあった。

 

 窓の外で雪が降り続ける中、エレンとミカサは静寂の時を過ごした。

 

 夢のような「道」が終わる瞬間が、二人のもとに近付いていた。




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