Epic of spring song   作:日彗

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リハビリです。それ以上は何も聞くな!お願い!



第一楽章 想いを見つける物語
第一話 Hello World


 

 あれはいつのことだっただろうか。俺は親友に言ったのだ。

 

『この世のあらゆる現象には、それがどれだけ偶然に見えても必ず必然性がある。故にたとえ理解が及ばずとも一つ一つ紐解いていけば未知は既知へと成り下がるんだ』

 

 いやはや、我ながら少々カッコつけすぎたなとは思う。だがあれは一つの真理を射ていることは経験上明白だ。

 

 

「とはいえ、どこだここ……」

 

 

 まあ経験なんて大して役に立たないのが人生なのかもしれないが。

 

 俺はスマホを片手に周囲に視線を向ける。そこは先ほどまでいたはずの見慣れた自室ではなかった。言語化するのが難しいよく分からない空間。何も無いように見えてその実()()()()()()()のだと直感で感じさせるあまりにも広大な広場がそこにはあった。

 別に似たような経験が無い訳ではないため表立って喚いたりはしないが、それはそれとしてこれだけは言わせてほしい。

 

 

「ここどこォォォ!?」

 

 

 ………………。うぅむ、音がまったく反響していない。それだけこの空間が広大だということなのだろう。

 これは参った。誘拐の類ならば誘拐犯を半殺しにして解決なのだが、その犯人さえ見つからないとなるとお手上げだ。だって手掛かりになりそうな物何もないし。

 いっそのことこれが夢であればすべて解決するのだが、どうもそんな感じがしな───

 

 

「───こんにちは。初めまして」

 

「……どうも、はじめまして」

 

 

 突然背後から声を掛けられた。念のためいつでも臨戦態勢に入れるよう心の準備をしつつ振り返る。

 そこには青にも緑にもみえる色をした髪の少女が立っていた。他には誰も見当たらない。この少女一人だけだ。

 

 

「ふふっ。ここに誰かが来るなんて、珍しいな。わたしは初音ミク。キミの名前は?」

 

 

 さぁて、ここで一度状況を整理してみようか。まず自室にいたはずの俺は気が付けばよく分からない空間にいました。はいもうわからーん。何かなこれ、領域展開かな?そういうのはフィクションの中だけにして頂きたい。

 そして次にこの小娘だ。なんか初音ミクとか言ってるけどこれどういう反応を返すのが正解なんだろう。俺としてはふざけんじゃねぇぞってアイアンクロー噛ましたいところなんだけど……。

 

 

「ふざけんじゃねぇぞ何が初音ミクだコラ」

 

「痛い痛い痛い痛いッ! えっ、なんで!?」

 

 

 やっぱ先手必勝だよね。というわけで小娘の顔面をがっしり掴み取り敢えずリンゴが砕けない程度に力を入れる。

 ジタバタと暴れているが仕方がない。疑わしきは罰せよ。この異常事態で現れた異常な奴だ、犯人かどうかは置いておいて絶対に何か知ってるだろ。

 こういうのはまず上下関係をしっかりしてからじゃないといけないのだ。

 

 

「ちょっと教えて欲しいんですけどぉ……ここって一体どこですかぁ?」

 

「教えてもらおうとしてる人の態度じゃない!あぁぁ!!指が食い込んでるッ!?」

 

 

 チッ。ピーピーうるさいな。

 このままだと何も答えて貰えなさそうなため、仕方がなく解放してやることにした。

 痛みが残っているのか両手で頬を揉んでいる自称・初音ミク。なんなんだこの状況。さっさとお家に帰りたいんですけど。

 ……やはり理解が追い付かない。

 目の前にいるのはどう見てもあのバーチャルシンガー、初音ミクだ。

 夢……というにはリアルすぎる。かといって立体映像、ホログラムの類でもなさそうだ。

 俺は意識を切り替えるために一つ息を吐いた。

 

 

「俺は朝比奈。朝比奈春樹だ。いきなり手荒な事をして悪かったよ。こっちも動揺してたんだ」

 

「春樹くん……とっても素敵な名前だね! わたしのことはミクって呼んでいいよ! こっちこそ急に声を掛けちゃってごめんね」

 

 

 ミクが右手を差し出す。握手を、ということだろう。ここは素直に応じることにした。

 だが手を握った瞬間理解する。この感じ、こいつ人間じゃない。かといって他に該当するような生命体を俺は知らない。となると目の前にいるのは完全な未知になるわけだが……。

 

 

「……まぁいい。それでミク、さん?ここはどこなんだ?俺の記憶が確かならさっきまで家に居たはずなんだが」

 

「ここはセカイの狭間。たくさんの想いが集まって、そして、たくさんの『セカイ』が生まれる場所だよ」

 

 

 俺の問いに対して未確認生命体(ミク)はそう答えた。

 何の答えにもなってねぇ。そう言おうかとも思ったが、これ以上怯えさせるとかえって逆効果だ。こういう時こそ飴と鞭を使い分けなければならないのだろうが、なんかもう面倒くさい。

 

 

「もう少し詳しく聞いても?」

 

「セカイはね、想いから生まれる不思議な場所なんだよ。想いの数だけセカイがあって、姿形を変えるの。わたしはここで、それぞれのセカイから歌が生まれるのを見守ってるんだ」

 

 

 ───想いの数だけ生まれるセカイ。そして、セカイから歌が生まれるのを見守る……。

 駄目だ。まるで情報が足りなさすぎる。割と本気で正気を疑っているが、とにかく最後まで聞かない事には進まなさそうだ。

 

 

「歌が生まれる、というのは?」

 

「うん。セカイで、想いの持ち主が『本当の想い』を見つけるとその想いから歌が生まれるの。歌は、強い想いでできているから。だから、『セカイのわたし達』も本当の想いを見つけてもらうために世界で待ってるんだよ」

 

 

 ……ふむ。歌うために造られたバーチャルシンガーである初音ミクが歌を生み出すサポートをする、というのは動機として納得ができる。できるが、だ。動機に納得できても今起きている現象にまで頷けるかといわれるとそうではない。

 だが俺自身理屈で証明できない現象がこの世にある事を知ってしまっている。そのため頭ごなしに否定するわけにも……。

 

 

「……セカイの『わたし達』という事はつまり、ミク以外のバーチャルシンガーもいるのか?」

 

「うん。レンにリン、ルカにメイコにカイト達も本当の想いを見つける手助けをしてるんだ。それに『セカイ』が一つ一つ姿を変えるように、その『セカイ』のわたしたちも姿かたちや性格が変わるんだよ」

 

 

 あー、なるほど? そういうシステムな訳ね。

 となると今目の前にいる初音ミクは限りなくオリジナルに近い容姿をしているが決してオリジナルというわけでもないのか。そのセカイとやらもバーチャル・シンガーも想いの力で生み出されているのならこのミクもまた誰かの想いによって生まれたんだろう。

 

 

「はぁ、りょーかい。大体理解した」

 

「あれ?てっきり『難しい』とか『よくわからない』っていわれると思ってたけど、きみって頭いいんだね?」

 

「それはちょっと違うな。俺はただ『ありえないなんてことはありえない』って知っているだけさ。それに大抵の人間は何かしら強い想いを持ってるものだろうし」

 

 

 そうですよね、荒川センセイ……ハガレンは何度読み返しても名作っす。

 胸に手を当て偉大なる先人に敬意を抱いていると、ミクがクスクスと笑い出した。

 ……なに笑うてんねん。またしばくぞこの野郎。

 

 

「ふふふっ、そうだね。……ねえ、私と一緒に歌ってみない?きっと、歌がわたしとキミの心を繋いでくれると思うんだ」

 

 

 などと意味不明なことをのたまう初音ミク(仮)だった。は~解散解散。

 大人しく回れ右をしてミクとは反対方向に足を踏み出す。しかし歩こうとした時に服の裾を掴まれてしまった。

 

 

「……おい、離せ」

 

「ねぇ一緒に歌おうよ! ね? ね?」

 

「なんでだよ意味わかんねぇよ。歌いたいなら是非歌ってどうぞ。ひとりでな!」

 

「大丈夫!想いが込められていれば上手い下手なんて関係ないよ。さあ、キミの想いを教えて!」

 

「なんなのこの人ぜんっぜん俺の話聞かない!急にバグったのか?おのれ欠陥品め!」

 

 

 

【歌唱後】

 

 無力っていうのは悲しいよね。いやもうホント一発ぶん殴ろうかなとも思ったんだよ。それでもグッと堪えて付き合ってあげた俺の器量を褒めて欲しい。

 

 

「ありがとう、一緒に歌ってくれて。キミは……みんなの想いを、そしてセカイを見守りたいって思ってくれてるんだね。ふふ、わたしと一緒だね。だから、この場所にも来られたのかな」

 

「なんか適当なこと言い始めた……。そんなの知らんから返してくれよぉ……今何時だと思ってんだよぉ……ヤッベもうすぐ日が変わるじゃんクソが」

 

 

 だんだん馬鹿らしくなってきた。そういえば結局元の世界にはどうやって帰ればいいんだコレ。どっかにどこでもドアみたいなものでもあるのか?いや無かったら詰むんだけどさ。

 

 

「あ、ほら! ちょうど新しいセカイが生まれようとしてるよ。キミにも聞こえる?」

 

「うるせぇな、こっちは今考え事して───え、やだなんか聞こえる……」

 

 

 どこからともなく聞こえる音色。否、これは正確には音ではない。音は空気を振動して伝わる波だ。だがその空気が微塵も揺れていない。

 これは俺が勝手に音として認識した別のもの───これがミクの言う『想い』というやつなのだろう。

 そう、例えるのなら希望と苦しみに満ちた、楽しく切ないパワフルな想いが……ってワォ、グッチャグチャだ。

 

 

「良い音色だね~」

 

「そうかぁ?なんか色々混ざってんぞ。何人分だこれ」

 

「あ、ほら! 景色も見えるよ!」

 

 

 んなアホな。と思っていたが残念なことに俺にも見えてきた。これ幻覚とかそういう類のものじゃないですよね?

 見えてきたセカイは全てで五つ。訳の分からんセカイばかりだ。

 

 一面の星空が見守る夕暮れの教室。

 ペンライトの光が溢れるステージ。

 ライブイベントのポスターに埋め尽くされたストリート。

 ファンタジー満載のテーマパーク。

 そして……

 

 

「………あーあ」

 

 

 最後に見た景色に舌打ちを零す。

 昔から器用な子ではなかったが、こんなセカイを生み出すほど追い詰められているのか。

 

 

「春樹くん?なにか気になったことでもあった?」

 

「別になんでも?特段気にするようなことじゃないよ」

 

 

 ミクの問いに正直に答える。

 そう、本当に大したことじゃない。むしろ親友のショーバカが関わっている方が驚いたくらいだ。今更何が起きたところで誤差でしかない。

 

 

「新しいセカイが生まれたみたいだね。ここから先わたしは見守ることしかできないけど……でもきっと、想いの持ち主達は、本当の想いを見つけてくれる」

 

 

 胸の前で両手を握り、どこか寂しそうにミクは呟いた。

 ミクは言った。本当の想いを見つけるとこれらのセカイで歌が生まれるのだと。イマイチ想像がつかないが、それはきっと、美しいことなんだろう。

 それなら、まぁ……多少付き合ってやってもいいか。どうせ暇だし。

 

 

「なにか考えごと?」

 

「だから別になんでもないって」

 

 

 首を振って誤魔化す。どうやらミクはちゃんと誤魔化されてくれたようだ。

 

 

「そう? じゃあ、新しい歌に会いに行こう!」

 

 

 そう言って彼女は、初音ミクは笑顔で走り出した。

 心の底から楽しみでしょうがないというその顔は、見ているとこちらもつられそうになるほど眩しく、美しいものだった。

 

 

「……ま、悪くはないか」

 

 

 だからという訳ではないのだが、正直このタイミングだと言い辛いことを俺は言わなければならない。

 ぐんぐんと背中が遠くなるミクに届くよう、俺は声を張って叫んだ。

 

 

「その前に元の世界の帰り方教えろォッ!!!」

 

 

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