子供の頃コアラのマーチ振り続けてチョコボールにしませんでした?私はしました。
箸を突き刺して掲げて「聖火ランナァァァ!!!」って叫んでました。美味しかったです。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
「どうした司ァ! もうへばったのか!?」
「へ、へばってなどないわ……!」
翌日、早朝からワンダーステージに集合した俺達【ワンダーランズ×ショウタイム】は司の書いた脚本をもとに本格的な練習を開始した。
中学のころから司には俺の教育を施している。演技も踊りもそこらの俳優より遥かに上だ。
「うーん。とはいえ、それはペガサス王子の戦い方として適切かな? もっと体の使い方を考えてみてほしいな」
だが演出家である類くんのイメージに合わなかったのか、こうしてダメだしを食らっている。
司にはまだ殺陣を教えられていない。それどころか武器の類を使った演技をあまりさせてこなかった。
成長期ということもあり今までは身体作りと基礎を徹底的に叩き込んできたが、これなら少し教えておいた方が良かっただろうか。
そもそもペガサス王子の戦い方ってなんだよ。知らねぇよそんなの。
「じゃあこれで……どうだっ!」
「動きは格段に良くなっているね。ただ……だからこそ、物足りなさを感じるよ」
「くっ! ……揃いも揃ってスパルタだな……!」
「バカやろう。俺はお前のためを思って厳しくしてるんだ。愛の鞭だよ愛の鞭」
「だったら飴も用意しろ!」
「品切れだァ!」
さすがにもう体力の限界なのか、倒れ伏して動かなくなった司。
それでも叫ぶことは出来るのだから大したものだ。
『自称スター、もしかしてスランプ?』
「ええい、そんなわけがあるか! ……だがしかし、何かヒントがほしいな……」
「俺が一度手本を見せようか?」
「お前のは参考にはなるが、自分に落とし込もうとするとな……」
「あっ! それなら、あそこに行ってみようよっ!」
「あそこ? どこかいい場所があるのかい?」
鳳さんがスマホを取り出した。おやおやまさかこの子。
「うん! あたしのスマホに『Untitled』って曲があって、ミクちゃん達のいるセカイに行けちゃうんだよ!」
「『Untitled』って、お前のスマホにもあの曲が……!? えむ、お前まさか、またあの妙な場所へ行くつもりか!?」
「うん! いつの間にか入ってたんだ~。司くん! 類くんとネネロボちゃんのことミクちゃん達に紹介しに行こー!」
「あ、おいやめろ――!」
驚愕の声を上げる司だが、正直なところ俺も驚いている。
あのセカイは冬弥くん達のセカイとは異なり、司ひとりの『想い』から生まれたものだ。だから『Untitled』も司のスマホにだけ入っていると思ったのだが……ま、いっか。
鳳さんのスマホを中心に光が飛び出す。俺にとってはもはや見慣れた光景だ。
この光が収まった時、俺達は揃って司のセカイにいるのだろう。そう思っていたのだが……。
「………あれ、なにも変わってない」
光が収まった時、俺の視界には変わらずワンダーステージの光景が映っていた。
これは、どういうことだ? 『Untitled』の機能に問題でも発生したのだろうか。
だがそういう訳ではないと周囲を見渡して確信した。
「お、俺だけ置いて行かれた───!」
周りに居たはずのみんな、司、類くん、鳳さん、ネネロボ、そして少し離れた場所に隠れていた草薙さんまでもがその姿を消していた。
十中八九、『ワンダーランドのセカイ』に移動したのだろう。俺だけを置いて。
「……ミク」
『───どうしたの春樹くん?』
名前を呼ぶとすぐにホログラムの初音ミクが浮かび上がる。
俺は自分だけが司のセカイに行けなかった理由を彼女に尋ねた。
『うう~ん、それはきっと春樹くんが司くん達と『想い』を共有できていないから、かな……』
「ああ? 『想い』の共有ってどういう………………………ああ、そういう意味ね」
ミクの説明に勝手に納得した俺は、ワンダーステージの縁に腰掛けた。
ミクが言うには、『想いの持ち主』以外がセカイに招かれるのは『セカイが受け入れる』ことともう一つ、『セカイを構成する本当の想いを共有している』ことが必要らしい。
だったらそれは無理だ、と正直思った。
恐らく司のセカイは俺を拒絶しないだろう。だが俺が司の『本当の想い』を共有することはできない。
なんせ俺は『ショーでみんなを笑顔にしたい』などと微塵も思っていないのだから。
「しまったなぁ。取り敢えず司達が帰ってくるのを待つとして、問題はセカイの方か……」
手が無い訳ではない。直感ではあるが、多少時間をかけていいのなら恐らく司のセカイに入ることは出来るだろう。
う~ん、そっちの方もボチボチ進めていくかぁ~。
『暇だったらカイト達も呼んでこようか?』
「そうだな、頼む。どうせ司達も直ぐには帰ってこないんだろ? 類くんとか絶対興味津々だろうし」
司達が帰ってくるまで退屈な時間を過ごすことになりそうだ。
ミクが他のバーチャルシンガーを呼びに行ってる間、そう物思いに耽っていた。
◇◆◇
それからおよそ一時間後。
再びワンダーステージに光が溢れて司達が帰って来た。
セカイに俺の姿がなかったことで心配をかけてしまったらしいが、「信じられないかもしれないが曲を流したら異世界に飛ばされたんだ!!」などと言われても困る。別に疑ってねぇよ。端から心配もしてないし。
だが司はなにかヒントを掴んだらしく、その瞳にヤル気という名の炎を燃やしていた。
まぁ、結果オーライってことでいいか。
◇◆◇
空はどこまでも蒼く澄み渡っており、風が心地良く流れているそんな平日の昼時のこと。
いつも共に昼食を摂っている司が学級委員の仕事でいなくなってしまったため、今日はひとりで屋上を占領していた。
あぁ、風が気持ちいい。ちょっっっと強い気もするが、まあいいだろう。寛大な心で許してやることにする。
硬い床に寝転がり、時間の許す限りのんびりと天空を眺めていた俺は、ふと腰から文庫本を取り出した。
誰もいない学校の屋上。たったひとり孤高に読書を始める少年。……フッ。これもまた青春、か。
「いややっぱ駄目だわ。風が強すぎる、こんな中まともに本が読めるか!」
しかし早々に本を閉じて横に置く。
必死に目を逸らし続けていたがもう無理だ。風つっよい。雲も物凄い速さで流れて行ってるし。
寝そべっていた体勢から身体を起こし、教室に帰ろうかと逡巡する。そんな時だった。屋上の扉が開かれる音が聞こえてきたのは。
別に珍しいことではない。神高は特別屋上を閉鎖しているわけではないし。
だがちょうど背中を扉の方向へ向けるようにして座っている為、誰が来たのかわからない。
知り合いならば声をかけてくるだろう。そうでないのなら無視すればいい。そう頭の端で考えながら脇に置いていた本を腰に戻す。
「…………」
「…………」
さぁて、これはどういうことだろう。
屋上に入って来た人物は声をかけてくることなく、かといって何もしてこなかったという訳でもない。ただ無言のまま俺の背後に腰を下ろしていた。
何故に? 今日は風が強いせいか俺以外に人の姿は見えない。だから場所なんて好きな所を使えば良いのだ。
もっと言えば俺が居る場所はフェンスからは離れ、それでいて入口からも少し距離がある、そんな中途半端でなんの面白味もない場所。
にもかかわらず謎の人物Xは俺の背後を、正確には左後ろに座っていた。
一体誰だ? 司であれば間違いなく声をかけてきたはずだ。類くんならばあるいは面白がってそんなことをするかもしれない。だが足音からして歩幅も体重も大分かけ離れている。
最有力候補としては草薙さんだろうか。だがあの草薙さんが学校という人の目がある場所で近づいてくるか? いくら無人の屋上とはいえいつ誰が来るかも分からないこの場所でそんな行動をするとは思えない。そもそも本人と話したことさえないのに。
結局、考えていても仕方がないという結論に至った俺は、スマートかつエレガントに背後の人物を確認する事にした。
──── チラッ。……チラッチラッ。
はい確認は取れました。もう結論から言ってしまうと、まったく知らない人です。しかも制服から見てどうやら女子生徒のようだし。
ごめんよみんな。一瞬でも疑ってしまった俺を許しておくれ。
「…………」
さぁて、そうなってくると増々持って意味が分からん。
この人物を仮にXと仮称するとして、なぜX氏はこの広い屋上でわざわざ俺の近くに座ったのか。まさか俺に気でもあるのか? でも喋ったことないと思うし……。
だがこの空気は気まずい。せめて何か喋ってくれよ。なんで無言で座ってんだよ。怖いよもう誰かたすけて。
いや待てよ? もしやX氏は俺から声をかけて貰うのを待っているんじゃないか? 草薙さんのようにシャイな子はいくらでもいる。そういう可能性はかなり高いだろう。
フゥ、仕方がない。ここは空気を読んで何か気の利いたセリフでも言ってやろう。俺だって『ワンダーランズ×ショウタイム』のキャストだ。その程度の演技は容易い。
そして流れのままスムーズに屋上を脱出する。完璧だ。完璧すぎて自分が怖くなってきた。
であれば次はどんなセリフにするかだな。例えばそう『夕焼けが綺麗ですね』とか。………いやいやいや、そんなありきたりなセリフはこの状況に合わない。
そう、この状況。何処までも広がる蒼穹に見守られながら孤高に本を読んでいる少年と出会う幻想的なシチュエーション。それに合ったセリフを弾き出せ! 俺の脳細胞!
「今日は……風が騒がしいな……」
さてと、死ぬか。
言った瞬間に後悔した。いつだって明日の俺が後悔しない選択をしてきたつもりだが、このセリフだけは後悔した。
なんでこんなセリフ吐いちゃったかなぁ。まさかこの俺が混乱していたとでも言うのか。そんなまさか。
大体X氏にこのネタが通じるかもわからないのに、これで『キモッ』とか言われてみろ。俺はここから跳び降りるぞ。脳内で『アディショナルメモリー』流しながら盛大に跳んでやる。独りぼっちの作戦だこの野郎。
表情筋をぴくりとも動かさず、静かに死を想いながら正面を見つめていると、意外なことにX氏に動きがあった。
「でも少し……この風、泣いています」
あははははは、この人おもしれーわ。
けどごめんなさい。思いのほかノリが良いのは分かりましたけど、もうホント勘弁してください。
どうしたものかと刹那の思考を巡らせる。誰かに助けを求めようか。司ならばその陽気さでこの空気を見事破壊してくれるだろう。類くんでも良さそうだ。よし、取り敢えず二人に連絡を───
「急ごうセンパイ。どうやら風が街によくないモノを運んできてしまったみたいだ」
お前がぶち込むんかいィィィ!?
ポケットからスマホを取り出そうとしていたその時、X氏はおもむろに立ち上がってそう言った。
バカな、それはこちら側のセリフではないのか! 見誤った。この小娘、自分からペースを作るタイプだ!
ちくしょう、これではもう逃げられない。こうなってしまった以上行くところまで行くしかないというのか……!
「あぁ、その様だな。ならば急ごう、風が止む前に……」
視線を正面に向けたまま音を立てずに立上り、後ろを振り向く。
もう俺はなにも考えない。心を無にしておかないと消えてしまいたい衝動に襲われそうだ。
あぁ、まふゆもこんな気持ちなのか。あの子の気持ちを理解はしていたが、今まで共感する事ができなかった。
だが今なら少しわかる気がする。そうか、消えたいっていうのはこういう……………………いや待てよ? なんで俺が消えなくちゃいけないんだ。俺じゃなくこいつを消せばそれで解決じゃん。
やっぱ消えたいって気持ちはわからんなー、という結論に至った俺は扉に向かって足を進めた。
「フッフフ。アッハハハハハハ!」
しかしすれ違いざまにX氏が狂ったかのように腹を抱えて笑い出した。
やっぱり危ない人ですわ。あまり関わらないようにしよ。
「まあまあ、待ってよセンパイ。もう少し話そうよ!」
「馴れ馴れしく腕を掴むな! つーか誰だお前は!」
「え? ボクの事知らない? 本当に?」
その場を離れようとする俺の腕をがっしりと掴んできたX氏。やめてくださいます? 痴漢で訴えますわよ。
なぜかきょとんとした顔で首を傾げる目の前の人物を胡乱な目で見つめる。ゆるく巻いたピンクの髪をサイドテールにまとめたその容姿は、確かに見覚えのある気が。
「ああそっか、君が暁山何某か」
「な、何某? まぁいいや、一年の
「はいはいよろしく、二年の朝比奈春樹です。それじゃ」
俺は再度、踵を返す。相手が仮に有名人だろうとアイドルだろうと関係ない。そんなもので俺の歩みを止められると思うなよ。
「だから待ってってば!」
「ええい離せ! 休み時間は有限なんだぞ!」
しかし鬱陶しいことにX氏こと暁山何某は俺の腕にしがみついたままだった。
「だってセンパイが勝手に帰ろうとするから……」
「俺は行動の度に一々後輩に許可を取らなくちゃいけないのか? なんでだよふざけんな」
しがみついていた腕を振りほどく。
仮に許可が必要だとしても、相手は冬弥くんがいい。だって冬弥くんは俺を慕ってくれる良い子だし。
そういえばこいつなんで俺の名前知ってるんだ? 初対面であることは間違いない筈なんだが……。
「お前さては俺のファンだな? まったく俺なんかじゃなく司をストーキングすればいいものを。まあ待ちなさい、今サインを書いてやろう」
「なにか勘違いしてることはわかったよ。センパイって自分が有名人だって自覚ないでしょ?」
「俺が? なんで」
「いやいや本当有名だよ? コアラのマーチで作った巨大なチョコボールに箸を突き刺して掲げて校庭を一周したとか、去年の文化祭に現れた怪盗とか、弱小バスケ部が全国───」
「あーあーあー何も聞こえないー俺はなにも知らないー」
両手で耳を塞いで外界の音を遮断する。
なんでこんなに詳しいんだ。違うんだよ、コアラのマーチの件は罰ゲームだったんだ。運が絡むゲームだけは昔から弱いんだよチクショウ。
心の底から遺憾の意を表明したいが、どうも俺の黒歴史たちが後輩連中にまでバレているのは本当らしい。これプライバシーの侵害では? え、違う? そう……。
「それで、有名な暁山後輩は有名な朝比奈先輩に何のようなんだ? サインが欲しいなら書いてやるぞ」
「それはいらないかな。……さっきの茶番で思ったんだけどセンパイって漫画好きだよね? ボクの周りってそういう人少ないからさ、話し相手が欲しかったんだー」
「そっか~。帰っていい?」
「ダメ~」
再びがっしりと固定される俺の右腕。
なんで俺なんだよ。同級生で友達作れよ。
そう思ったが漫画やアニメの話を碌にできる奴は俺の周りでも少ないため、少々同情する。司も俺が勧めた作品中々見ようとしないし。
「わかったわかった、話に付き合えばいいんだろ? で、お題は?」
「センパイの好きな作品について!」
「好きという言葉で一括りとし、そこに順位を付けないことはある一面においては正義であり、また別の側面から見れば悪である。だから俺は俺の正義に従ってそこに順位付けはしない。しないが、それはそれとしてこれはもっと世に広まって欲しいという作品は当然ある。個人的には『ラグナクリムゾン』『リィンカーネーションの花弁』になるが片やアニメ化済み、片やアニメ化決定でこれから知名度も上がっていくだろう。とはいえアニメ化もまた一概に良いと判断するのは早計に過ぎる。アニメ化した結果微妙だった、原作の方が面白かったなんて話はザラだ。『俺ガイル』しかり、『このすば』しかり……俺としてはどっちも名作なんだがな。人は情報の八十%を視覚、十一%を聴覚から取得し、脳にインプットしている。このため映像にし、音声を乗せることで作品に対する理解度を一層深めることが可能になる訳だ。作画崩壊してようが、声がイメージと違っていようが、理解が一段階上に昇華されるのは確かだろう。もちろん解釈違いだなんだと騒ぐ連中もいるが、有象無象の言葉すべてに耳を傾けていたら何も出来なくなる。そういう意味でアニメ化とはやはり一つの境界としてあるわけだ。ただし実写化は許さん。あれだけはマジで許さん。せめて『銀魂』くらいのクオリティがあれば納得できるが『氷菓』だけはマジで許さん。同じ神山高生として、そして文芸部があるからと古典部創設を認められず、代わりに十文字事件を起こそうとしたほどに古典部シリーズを愛していた俺にとってあれはそういえばこれってなんの話だっけ?」
「アッハハハハ! やっぱり面白いねセンパイ! さいこー!」
「いや面白くはねぇよ。なんか語っちまったじゃねぇか」
気持ちのいい笑顔を浮かべてからからと笑う後輩に呆れて溜息をひとつ。
殴りたいこの笑顔。だが生憎と俺は紳士なんだ。そんな酷いことはしない。
だが顔面にドロップキックは出来るぞ。紳士っていうのはそういう生き物だ。
「いやあセンパイのおかげで楽しかったよ! ……今日は学校に来てよかった」
急にしんみりとした声を出す後輩に、俺は心底呆れた目を向ける。
「俺も君のことは知ってるが、まあ、別にいいんじゃないか? そりゃあ最初は面倒臭いとか思ったけど話してみたら結構楽しかったし、俺で良ければ話相手くらいにはなってやるさ」
「……センパイは聞いてこないんだね。ボクの、格好の事とか……」
「聞いて欲しいなら聞くが、そうじゃないんだろ。なら無理に聞く気はないしぶっちゃけ興味もない。言っておくが同情とかじゃないからな」
フェンスに背中を預け、腕を組んで視線を俯かせているピンク髪を見つめる。
同情はしていない。これは本当だ。興味がないというのも本心だ。
初対面かどうかは大して関係ない。朝比奈春樹という男は昔からこういう人間だったというだけのこと。
だからこそ、司のセカイにも弾かれた訳なのだが。
「他人の考えも感情も思想もすべて理解できる。理解した上で心底どうでもいい。悪いが俺は自分の身の丈で生きてるだけだからな」
言外にお前は違うのかと問う。
他者の評価で自分を曲げるのかと。他人の言葉で自分を殺すのかと。
俺は自由を愛する『今』の俺を悪くないと思っている。少なくとも昔よりかは幾分かマシだ。
そこには他者からの影響もあったが、こういう風に変わったのは間違いなく俺自身の意思だった。
「ま、話してみた感じどうやら君は一人で我慢するタイプのようだ。今までも人に言われた言葉を受け入れてきたんだろう。“いつもの事だ”“どうせ理解されない”って。でも、それでも自分を貫き通そうとするところは素直に尊敬する」
少しだけ、昔の自分に似ているから。
その言葉を飲み込み、俺は組んでいた腕をゆっくりと解いた。
この子の抱えている問題は俺やまふゆのそれとはまた別種のものだ。だからこそ面倒な所もあるが。
「……朝比奈センパイはボクに似てるって思ったんだけど、そうでもなかったかな?」
「似てるところはあるかもな。けどそれだけだ。根本的に俺とお前は違う。俺はお前の求めてるものになれないし、お前は俺の求めるものに成れない。ま、それは俺達だけに限った話じゃないのかもしれないが」
朝比奈春樹は暁山瑞希を理解はできても共感できず、暁山瑞希は朝比奈春樹を理解できない。
だが暁山瑞希が求めているものは、かつての俺が渇望していたものと方向性が近い。共感できずとも妙なシンパシーを感じるのはそのせいだろう。
だがやはり、それだけなのだ。その他大勢がそうであったように、俺達がお互いの特別になることはない。
「ま、これも何かの縁だ。俺も暇な時は屋上にいるから、喋りたくなったらいつでも来いよ。愚痴くらいなら聞いてやる」
「ほんとう? でもボクあまり学校にこないからなぁ~…………けど、話し相手にはなってくれるんだ?」
「ドラえもんの秘密道具の話であればいくらでも」
「あはは、考えておくよ」
これ以上は本当に用はないらしいため、俺は扉を開けて屋上を後にした。
この学校も意外と変人奇人が多くて中々退屈しない。何の気なしに屋上に来たがそれが切っ掛けにこんな出会いがあるとは予想外だった。
だが───
──── 個体識別名『朝比奈まふゆ』の記憶情報を解析
──── 個体識別名『暁山瑞希』の声紋認証を開始…………………完了
──── 99.9%の一致を確認
「そうか。お前がAmiaか」
俺の呟きはしかし、誰に届くことも無く軋む扉の音によって搔き消された。
あくまでも春樹くんがショーをする理由は『司に誘われたから』であって、『誰かを笑顔にしたい』訳ではない。
そもそもショーやアイドルには然程興味がない。人がそれらにかける熱や想いを理解は出来ても共感できない。これに関しては生来のもので天馬兄妹と出会ってからマシにはなっている。共感できないのは単に興味がないから。
仮に司くんがワンダショを辞めたら間違いなく春樹くんも辞めます。