Epic of spring song   作:日彗

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第三話 スターと錬金術師

 

 なぜ我々は学校に通うのか。

 おそらく多くの子供たちが一度は考えたことのあるこの議題について、俺は一つの解を提示したい。

 即ち、学校は社会の縮図であるから、だ。

 未熟者どもはやれ学業に勤しむための場などとほざいているが、そんなものは理由の一つに過ぎないと俺は思う。

 勉強するだけなら塾でいいじゃないか。なんなら参考書読めば解決じゃないか。

 

「という訳で是非ともお前の意見も聞きたいんだが、どう思う司?」

 

「まずなにが『という訳』なのか一から説明しろ」

 

「いやだからさ、学校は社会の縮図だよねって話」

 

「なぜそういう話になった!?」

 

 目の前で驚いたような声を上げているのは俺の友人である天馬司だ。

 青々とした空が見渡せる神山高校の屋上で、俺たちは揃って昼食を食べていた。

 

「いやあ、今更なんだけど学校って良く出来たシステムだよなぁって思って。だってよ、授業という名目で得意不得意関係なく生徒に強制させてるだろ? 社会に出ればやりたくない仕事もさせられることがある。嫌いな人と関わらなくちゃいけない時もあるだろう。そういう体験をこの『学校』という箱庭で経験させてるんだと思うと……ふん、国の上層部も中々侮れんな」

 

「で、今度は何に影響されたんだ?」

 

「おいやめろよ。俺がいつも何かに影響を受けてるみたいに言うの、やめろよ」

 

「事実だろう。言っておくがオレは去年の文化祭のこと忘れていないぞ」

 

「……あれに関して俺は悪くない。だってここは神山高校だぞ? 神校の文化祭なんだからやっぱやらないとだろ───盗み」

 

「訳の分からん犯行声明が置かれていたおかげですぐさまお前が犯人だと分かったがな」

 

「今年こそは成功させてやる。怪盗十文字の名に懸けて!」

 

「絶対にやめろ!」

 

 今日もまた平和な一日が過ぎて行く。

 司とは中学からの仲だが、ぶっちゃけ俺にとって友人と呼べる相手はこいつくらいしかいない。あれ、俺ってば友達少なすぎ……?

 でもいいんだ俺は。友人っていうのは量ではなく質だ。それに友達が多いと人間強度が下がるって阿良々木くんも言ってるし、うん。

 

 ボーっと空を眺めながら大好物である野菜ジュースを飲む。これさえあれば俺は生きていける気がする。偶に好きじゃないとか囀るゴミ共がいるが、俺は気にしない。アレ等は人権を持たない下等な猿どもだ。そうでなければこれの価値を理解できないなんてありえないだろう。

 

「春樹、今日はなにか様子がおかしいぞ。悩み事でもあるのか?」

 

 隣の司が心配そうに声をかけてきた。

 別に普段と変わらないと思うが、こいつは偶に鋭い時があるからなぁ。何かしら察したのかもしれん。

 

「何もねぇよ。お前は自分の心配だけしてろ。確か明日だろ? 面接」

 

「ああ! この天馬司、世界一のスターになる男としてようやくその第一歩を踏み出す時が来たのだ! 思えば長い道のりだった……」

 

「そーだなー。今まで演技力向上のためにみっちり鍛えてたからなー。今ならどこに出しても恥ずかしくないぜ」

 

 初めて会った時からずっと世界一のスターになると語る司は、明日フェニックスワンダーランドというテーマパークの面接を受けに行くらしい。

 面接で落ちるということはまずないだろう。出会う前から努力を怠らず、出会ってからは俺が直々に指導してきた。そこらの俳優なんかよりずっと優秀だ。

 

「頑張れよ司。受かったら応援に行くからな」

 

「うむ! しかしな春樹よ、お前もいい加減一人で抱え込む癖をどうにかした方がいいぞ。話す気がないのなら無理に聞いたりしないが、力になれる事があれば何でも言うと良い! この天馬司が最大限の協力を約束しよう!」

 

「………………ったく、眩しいなぁほんと……」

 

 司の周りには自然と笑顔が増える。本人が望む望まないに関係なくその笑顔は人を温かく照らし、その背中は人に夢を与える。

 スター()と呼ぶには温かい、まるで太陽のような存在感。多くのものを見てきたつもりだが、司のような人種は珍しい。

 だからこそ、こいつには自分の夢にだけ専念してもらいたい。余計な情報を加えて混乱させることは避けたいのだ。

 

「大丈夫だよ。本当に困った時は声をかけるからさ」

 

「そう言って声を掛けられた記憶が一度もないんだが……?」

 

「ハハハのハ。まぁそれはともかく妹様は元気か? そろそろ復学するんじゃなかったっけ」

 

「咲希はお前の妹ではないが……体調は今のところ問題ない。そもそも問題があったら意地でも学校には行かせんぞ」

 

「まあまあ。でも学校に通うの楽しみにしてたし良いことじゃないか。今度お祝いに何か持ってくよ。……ちょっとお手洗いに行ってくる」

 

「トイレか」

 

「お手洗いだっつってんだろ。せっかくオブラートに包んだんだから空気読めよ」

 

 そう言って屋上を出て行く。

 どうしよう、どうやら俺はあいつにデリカシーというものを教え忘れていたらしい……。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 俺は今、全身全霊でこの世界に存在している! あぁ生きてるって素晴らしい!

 たかがトイレを済ませただけと思うなかれ。このあらゆる楔から解き放たれたような解放感は一言では表せられない。かといって作文にするほどでもないためこの話は打ち切りだ。

 

「戻る前になんか買ってくか……」

 

 脳内マップから直近の自動販売機を検索、ヒット。購買のところか。

 ついでにパンでも買っていくかな~っと……?

 

「…………」

 

 購買に辿り着いたらそこにはニヤニヤと笑みを浮かべた紫メッシュの長身男がいた。

 なにあれ怖っ。なんで購買眺めながら笑ってんの? 怖っ。

 あ、違うわ。購買を眺めているんじゃなくパン争奪戦を繰り広げている生徒たちを見ているのか。いやどっちにしろ怖っ。

  見なかった事にして飲み物買お。司はコーヒーでいいとして俺は……お、ちゃんと野菜ジュース並んでる。これが置いてあるかどうかで俺からの評価は雲泥の差だぞ。心したまえ。

 

「ん? 僕に何か用かな?」

 

 うっわ、紫メッシュが話しかけてきた。どうしよう逃げたいんだけど追いかけられても困るしなぁ。

 そもそもこの人誰だ。そういや隣のクラスに転校生が来たとか聞いたような……。

 

「あ~っと、B組に転入してきた神代くんだっけ? こんな所で何してるんだ?」

 

 目の前でフフフと笑う彼。最近転校してきたという神代何某。駄目だ苗字しか思い出せない。だが噂は色々と聞いている。

 

 曰く、名門学校からわざわざ転校してきた

 曰く、授業中、休み時間問わず何かを弄り笑っている

 曰く、ロボットやドローンを操り、道端でショーをしている

 

 実に訳の分からない噂が多いものだ。まぁ変人であることに疑いはないけど。

 

「僕はちょっと観察中と言ったところだね」

 

 何をだよ、怖えよ。

 

「ほら、自らの生存の為にパンを奪い合う人々。……カタストロフィ、いわゆる世界の破滅を描く際の参考になるかと思ってね。生々しい人間の様子を観察できて面白いんだ」

 

「……ああなるほど」

 

 その言葉に思わず納得してしまった。

 別に俺の性格が悪いとかではない。いや、良いか悪いかで言えば悪い方なのかもしれないが、なんなら人間って醜いなぁ、ぶっちゃけちょっと賢いだけのチンパンジーだよなぁとか思ってるがそうではない。

 

「人間観察は大事だよな。何からインスピレーションを得られるかは人それぞれだし」

 

「……まさか理解を得るとは思わなかったな」

 

 僅かに目を見開いた紫メッシュがこちらを見てくる。やめろあっち向け。

 

「別にそういう訳じゃない。ただ、考え方なんざ人それぞれだろ? それを頭ごなしに否定したりしないさ」

 

「それが意外だったわけなんだけどねぇ……」

 

 フム、とこちらを見つめる神代何某。何やら考え事のようだが俺としてはそろそろ切り上げたい。司も待たせてるし。

 

「どうやらキミも僕に劣らず変人の様だね。そういえば自己紹介がまだだった。知っているかもしれないけど二年B組の神代類(かみしろ るい)です。よろしく」

 

「あぁこれはどうもご丁寧に。二年A組の朝比奈春樹です。こちらこそどうぞよろしく」

 

 差し出された右手を掴み取る。なんで握手?とも思ったが別段断る理由もない。

 だが俺は変人ではない。失敬にもほどがあるだろが。

 

「じゃあ用も済んだし帰るわ。また話す機会があればどこかで」

 

 もはやパンを買う気分でもなくなったため踵を返す。

 気が付けば時計の針も進み、手に持っている飲み物も温くなってしまっていた。

 

「ああ、ではまたね朝比奈くん」

 

「春樹でいいよ。次はもう少しゆっくりと話そう類くん」

 

 神代類、噂以上の変人だった。

 だが司との相性は悪くないかもしれない。そう思ってしまったのはやはり司もあっち側だからだろうか。あーあ、カワイソー。

 

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