今の俺にとって銀行強盗というのは簡単なお金の稼ぎ方だ。基本的に銀行のつくりは何処も似ている為、襲撃は容易だ。
「ちっ、しけてんな。たったこれだけかよ」
だが、襲撃した銀行にどれだけの金があるのかは襲撃しないと分からない。今回は残念ながら外れだったようだ。金庫の中には大した金は入っておらず、来ていた客の財布も合わせて漸く8桁行くか行かないか……。これなら傭兵とかの仕事の方が実入りはいいかもしれない。
『動くな! 貴様がここ最近襲撃を繰り返す銀行強盗だな!』
『大人しくしろ!』
はぁ、本当に最悪だ。大した金もとれない上にマーケットガードのお替りまで来てしまった。
「お前ら程度じゃ話にならねぇよ」
『う、うてぇ!』
5体のマーケットガードから一斉に発砲されるが……。うん、正直痛みすらない。いや、喰種だしその辺は当たり前なんだが感触的には厚木の服の上から発泡スチロールの弾を軽く投げられている感じだ。当たっている感覚すらねぇや。
これがCCGならまだマシな攻撃になっていただろうに。あちらには対喰種兵器であるクインケで武装しているからカッターナイフで表皮を切られるくらいの攻撃はしてきただろう。……そういえばクインケを作れる技術と知識をもらったけど喰種が俺以外いないから完全に宝の持ち腐れだな。自分の赫包を使うわけにもいかないしな。同種の喰種がいない以上赫包を増やす方法はないしマジで使えねぇ……。
「はぁ。いい加減うざいな」
『がっ!』
『ぎっ!?』
ダメージがない代わりにいい加減鬱陶しいと感じてきた為に瞬時に近づいて腕を薙ぎ払う。それだけでマーケットガードは上下を分断されて破壊される。全く。これが人間なら非常食に出来るんだがオートマタは食えないからな。ただただ面倒なだけだな。
「さてと。帰るか」
銀行を出てみれば軽く人だかりが出来ている。流石に何度も見慣れた光景だがぶっ壊した5体以外に今の所マーケットガードは来ていない、か。ならばさっさととんずらするに限るな。あいつら何時までも追いかけてきて鬱陶しいからな。
「うーん。この程度しかないのなら他の場所、自治区の銀行でも襲撃するか?」
これまではブラックマーケットだけで何とかなっていたから訪れる事はなかった自治区。精々ヘルメット団の拠点があるアビドス周辺しか行った事がないがあそこは落ち目でとれるものもないしな。
「襲撃は容易かろうがそれで得られる物……」
確か生徒二人で切り盛りしていたとEが言っていたな。写真を見せてもらったが中々美味そうな二人だったのを覚えている。特に小柄な方はかなりの強者に見えるし食いごたえは抜群だろう。だからと言ってそれ目当てで襲撃……。ないな。
「後はトリニティ、ゲヘナ、ミレニアム等はないな。面倒な事になりそうだ」
ゲヘナは治安が悪くて銀行は一切存在しなかったはずだ。行く価値はない。トリニティはその反面治安はかなりいいがそれだけ警備が厳重という事だ。最悪拠点までトリニティの警備を連れて行ってしまう形になりかねないな。折角大量に集まった非常食がそれでなくなっては困るしな。
「やはりアビドスまでとはいかなくとも規模が小さい所か? ブラックマーケット程稼げるとは思えないが……」
うーん。やはりブラックマーケットの銀行が一番簡単に稼げるんだよなぁ。暫く銀行を襲撃するのは止めて大人しくしているか? そうすれば金が入ってくるだろうし。
「まぁいいさ。どうせ時間はいくらでもある。物語がいつ始まるかさえ分からない現状で適当に生きていけばいいか」
銀行強盗を止めるとして出来る事は何でも屋としての依頼遂行だな。俺に依頼を持ってくるやつは俺がここにきて最初の頃に暴れていたのを知っている奴が基本だ。銃火器を諸ともせずに破壊の限りをつくした俺を見て依頼をしてくるなんて物好きな奴らが多いと思っているがこういったところでは俺みたいなやつでも使えるなら使わないとやっていけないのだろうな。
そんなわけで俺が受けた依頼はちんけな護衛の依頼だ。なんでも連邦生徒会に見つかれば大挙して押し寄せてきかねない物資を運んでいるらしい。何かと思えば外から調達した酒らしい。キヴォトスは学生が統治をしているせいか酒やたばこ、麻薬などの類の規制が厳しい。基本的にたばこは持ち込みすら禁止であり、酒はアルコール度数が3パーセント未満のものしか流通していない。麻薬なんて下手すれば日本よりも厳しい処罰が与えられる可能性がある。
んで、依頼主が運んでいた酒のアルコールはなんと25%! 規制値の8倍も濃いのだ。そりゃ神経質になってもおかしくはないな。依頼を出したのも俺の他にも結構いるしな。ちなみに依頼料の一部をこの酒で支払いにさせたため俺もこの酒を手に入れる事が出来た。もっと飲みたくなったときはこいつを脅して入手させれば問題ないだろう。
「んあ?」
酒を運ぶのは偽装したトラックであり、中身は野菜という事になっている。それを2台で運んでいるわけだが早速襲撃が起きた。とはいえそれは嗅ぎ付けた連邦生徒会ではなく一般の不良によるものだ。キヴォトスの治安は正直に言ってどこも終わっているからな。こういった事は当たり前のように起こる。
「ヒャッハー! 有り金全部おいてげぇっ!!!」
「り、リーダー!?」
「ったく、物好きな奴等だな」
襲撃を仕掛けてきた不良を瞬時に無力化し、護衛を続ける。一応ポジションが決まっており、俺は前から襲撃を受けた際に対処する事になっている。左右や後ろは別の奴の管轄だ。だから両脇とか後ろが抜かれても俺は知らん。自分用の酒はきちんと確保しているからな。荷台の中身がどれだけ駄目になろうと知らん。前方からの襲撃はきちんと防ぐけどな。
「いやぁ。今回初めて組ませてもらいましたけど強いっスね!」
「むしろ襲撃しかけるにしては弱すぎだろ。マーケットガードよりも一瞬で片付いたぞ」
「むしろマーケットガードと比べる方が酷っスけどね」
俺が戻れば運転手役の少女が元気に話しかけてくる。角や蝙蝠っぽい羽根を生やしたこいつは見た目が悪魔っぽい姿をしている割に口調のせいで小悪魔的な感じにしか見えない。本人曰く出身校はゲヘナだが色々とやらかして今ではブラックマーケットの住人と化しているらしい。
今回初めて組んだがやたらとこちらに絡んでくるのが鬱陶しい。酒が報酬になければさっさと殺していたかもしれない。少なくとも機嫌が悪い時に一緒にいたい相手ではないな。
「そういえばなんて呼べばいいんっスかね? 名前聞いてなかったと思うんスけど」
「あ? 名前? あー、そうだな……」
そういや名前考えていなかったな。普段は“喰種”と呼べと言っているせいで名前に関しては全く決めていなかったな。転生してから考えようと思っていたから今までつける事を考えていなかったな。
「……和修タタラ。そう呼べ」
「タタラさんスか? 了解っスよ」
和修はCCGのトップの苗字、タタラはアオギリの樹の幹部の名前だ。東京喰種の様子を名前だけでも思い出せるようにした。まぁ、呼ばれても違和感半端ないから定着はしないだろうがな。
「いやぁ、今回の任務はタタラさんのおかげで楽にこなせそうっスね!」
「知るか」
何でここまで上機嫌になっているのか分からないが俺としてはただただうるさいこいつの話を次の襲撃まで延々と聞かされることになるのだった。
「(いやぁ、本当によくわからない存在っスね)」
喰種、和修タタラの隣で上機嫌にしゃべる脳内で彼女は表面からは読み取れない冷静に隣の人物の情報を纏めていた。
表向きはゲヘナを退学にされたと偽り、ゲヘナにとって脅威となりそうな学外のリストアップを行っている彼女はひょんなことから知る事となった喰種という人物に目を付けていた。
数か月前から突如として現れ、気まぐれに護衛や傭兵の依頼を熟すがそのどれもが100%の達成率と本人の規格外の強さであっという間に人気を獲得した謎多き人物。ヘイローを持たない大人と想定されるがその肉体強度は銃弾を軽く弾き、銃弾すら複数発は耐えられる生徒を軽々と戦闘不能若しくは瀕死に追いやる等戦闘面においては彼女の知る限りトップクラスの実力を持っていた。
不確定情報ながらブラックマーケットの銀行をいくつも破産に追いやるほどの銀行強盗を行っているというものもあったがそちらの情報は実際に会って同じ依頼を熟した後で調べるつもりであった。
そして、そんな彼女が実際に会った結果としてそのやばさを実感していた。
「(正直なところ、勝てるビジョンが浮かばないっスね。風紀委員で頭角を現しているあの人でも1対1じゃ敵わないっスよ絶対に。少なくともゲヘナの戦力を総動員して漸く対等に戦えるレベルじゃないっスかね)」
これまで幾人もの情報収集を行ってきた彼女にはタタラと名乗る男が化け物に見えてしょうがなかった。今隣に座っているだけで冷や汗が止まらず、ハンドルを握る手が小刻みに震える程だった。そのせいでいつも以上に元気に話を振り続け、タタラを不快にさせる結果となってしまっていた。この男から不孝を買うのは不味いと理解しながら。
「(うひゃー。こりゃもう自分も駄目っスかね。何故か知らないっスけどこの人の隣にいると
ちらりと外のミラーで後ろを確認する振りをして自分の顔を見る。その顔は笑顔だったがどこかぎこちない感じになっており、見る人が見れば違和感を感じる状態になっていた。幸いにもタタラは彼女の話に飽きて先ほどから反対側の外の景色を眺めており、彼女の方を見ていなかったため気づかれる事はなかった。
「(はぁ、見るからにキヴォトスの人間じゃないのに何でここに来たんスかねぇ。正直外の世界にずっといてほしかったスよ)」
規格外の化け物としか言いようがない人物。そんな人物が何を目的にキヴォトスに来たのか、一体それだけの力をどうやって付けたのか。調べる事はまだまだあるという事実に彼女は内心で深くため息をつきながら目撃の場所に向かって運転していくのだった。