ヘルメット団に属していた少女、現在はCというアルファベットで呼ばれている少女は自らに課せられた目的、不良生徒の誘拐の為にアビドスに来ていた。アビドスを選んだ理由は単純であり、市民の数が少ないにも関わらず学校を占領しようと元同胞であるヘルメット団の分派が襲撃を仕掛けており、不良生徒が一定数存在するためである。
グループは違うが元同胞を襲うのはさすがのCも思う所はあったがそれも何度も誘拐するうちになくなっていた。彼女にとってはそれよりも大切な事と、それ以上の恐怖心が内心にあったからだ。
家が貧乏で学費が払えなくなり、学校を退学となった彼女は妹と共に不良の世界に飛び込むしかなくなっていた。その結果としてヘルメット団のとあるグループに所属する事が出来、極貧ながら安定した生活を手に入れる事が出来ていた。とはいえ、もともと不良とは縁のない普通の生徒であったCは不良の世界になれるのに苦労したがその甲斐あってヘルメット団でもそれなりの立ち位置にまで上り詰める事に成功した。
しかし、全てはあの日、Cの日常は崩れ去る事となった。自らを喰種と名乗る男、銃弾も効かない上に素手で圧倒的な実力を見せるそいつにCを含め補給に来ていた面々は手も足も出ずに全滅し、誘拐された。誘拐後は仲間たちが食い殺されていく場面を見せられ、反抗する意思を奪われる事となった。仲間の大半が脱走する気力も奪われていく中でCだけは脱走の機会をうかがっていた。全ては妹に会う為に。
だが、誘拐から数日後、Cが属していたヘルメット団は喰種の襲撃を受けて壊滅。ほぼ全ての団員が捕縛され、連れてこられることとなった。その中には妹の姿もあった。その事実にCは絶望した。このままではいずれ妹が化け物に食われてしまうと。妹に与えられた番号が3番だったことも合わさりCは死ぬ覚悟で化け物へと直談判したのである。
-どうか、どうか妹だけは……!
そう懇願するCだが心のどこかで聞き入れられる事はないだろうと予測していた。目の前の化け物はここにいる全員でかかっても絶対に敵わない相手である。そんな化け物が非常食の一つのいう事を聞くわけがないと。
-ならば妹の代わりになる子を取ってきてよ。そうすれば取ってきただけ妹の番号を後ろにしてあげるよ。
しかし、意外な事に化け物はCの直談判を受け入れたのである。無論、条件は難しいものであり、当時のCでは熟すことが難しい内容だった。それでもCはその条件を受け入れ日々誘拐できそうな子を襲撃する日々を送った。最初はブラックマーケットを出入りする不良生徒に目を付けたが当然失敗した。所詮ヘイローも普通の彼女では複数人で徒党を組む不良相手に敵うはずがなかったのだ。
化け物が使わない銃火器が大量にあったために武器には困る事はなかったことだけは幸いしていた。おかげで彼女は誘拐するために必要なスキルを急速に学習する事に成功し、ついにはヘイローの形が変わり、ネームド化する事になったのだ。
そのころには彼女なりの戦闘スタイルが確立し、効率よく誘拐する事が出来るようになっていた。おかげでCの妹の順位は後ろから数えた方が早い状態にまで行くことが出来るようになっていた。
だが、それでも化け物に対する恐怖は消える事はなかった。むしろ実力が上がったが為に余計に化け物との力の差を理解させられることとなり、反抗する意思は完全に砕かれる事となった。今の彼女の中では妹の代わりの生贄を用意し、化け物の食糧庫の中で安全に暮らす事が最大の目標となってしまっていた。
そのことが世間から見ればよくない事はCも理解していた。だが、自分達ではどうしようもない、それどころか勝てる相手すらいないとさえ思える化け物に捕らえられた時点で自分達にはどうしようもないと諦めを抱いてしまっている彼女にはそれが最善手であったのだ。たとえそれが最悪の道だと理解していたとしても。
「……見つけた」
Cは今宵のターゲットを確認するとスニーキングを駆使してゆっくりと近づいていく。ターゲットはかつて自分も所属していたヘルメット団の別グループの団員3名である。アビドス砂漠に拠点があるようでアビドス周辺ではよく見かける事があった。実力はかつての自分と同程度と想定して一気に畳みかける。
彼女の戦法はいたってシンプルだ。催涙グレネードを投擲し、怯んだところを得物のトンファーで気絶させる。銃火器も持ってはいるが隠密性を考えれた結果のこのスタイルだった。実際、彼女はこのスタイルを確立してから誘拐をスムーズに行う事が出来るようになっていた。
彼女はフードを深く被るとコロコロと彼女たちの足元にグレネードを転がした。
「なっ!? なんだ!?」
「まさか最近噂の!」
「……!?」
驚きで反応が送れた事で催涙ガスを大きく吸い込み、せき込んだところをCは即座に接近。一番近い団員の首を狙ってトンファーをぶち当てる。
「ぎっ!?」
「次」
本人次第ではあるが場合によってこの一撃で首が折れて死亡する者もいたがその場合は冷凍保存される事になっている。殺してしまった場合に妹の番号が後ろに行くことはないが死体を残しておくよりも化け物の糧になる方が機嫌がよくなるために彼女は容赦なく殺す気で当てている。
「こ、この!?」
「次」
二人目はガスをそこまで吸い込まなかったためか銃を発砲しようとしたが彼女は銃を持っていた腕をへし折るつもりでトンファーを当て銃を落とさせる。続いて反対側の腕で鳩尾に深々とトンファーの先を突き刺す。銃弾すら耐えうるキヴォトスの生徒故に貫通する事はなかったものの、重い一撃を受けた団員はそのまま気絶した。
「最後、は必要ないか」
「……」
Cは即座に最後の不良に視線を向けるが最後の不良は思いっきり催涙ガスを吸い込んだせいか小刻みに震えて気絶していた。口から泡を吹き白目をむいているその姿はどう見てもただ事ではないがCにとってはこれまでの中でも同様の事があり、見慣れた光景であった。そもそも、ブラックマーケットで売られていた物である為に内容量が変なのは今に始まった事ではないのだから。
「……」
Cは最後に周囲を確認してから不良たちを物陰に移し、四肢を縛り上げた。後から車を持ってきて詰め込む予定ではあるがその姿を誰かに見られるわけにはいかないからだ。でなければ……。
「っ!?」
「貴方ですね。ここ最近の不良の失踪事件の犯人は」
気づかぬうちに近づかれ、背中に銃弾を叩きこまれたCのようになるのだから。
「誰かは分かりませんが大人しくてください」
「っ!!!」
Cは背中の痛みを押し殺し、発砲してきた相手と距離を取る。暗闇の中、Cは相手の正体を確認し、歯噛みする。
「小鳥遊、ホシノ」
「私を知っている? まさかアビドス高校を狙っているわけじゃないですよね?」
妹よりも小柄な少女、小鳥遊ホシノとの相対にCは
「っ!」
「逃がさない!」
Cは最初に建物の陰に隠れるように逃亡を開始する。それを当然ホシノは追いかけてくるがそれはCとて予想出来ている事であり、彼女から死角になると同時に再び催涙グレネードを投擲する。丁度ホシノが追い付くタイミングで。
「っ!?」
目の前で爆発し、周囲に催涙ガスが広がり一瞬怯むホシノ。その絶好のチャンスを生かしてCはそのまま裏路地に入っていく。いくつもの角を曲がり追跡を困難にさせる。
凡そ10分ほど裏路地を疾走したCはこれで大丈夫だろうと先ほどとは違うとおりに出るが瞬間、彼女の体は再び銃弾の雨にさらされた。
「なっ!?」
「私から逃げようなんて甘いですよ」
驚く視線の先にはいつの間にか待ち構えていたホシノがいた。Cにとっては予想外の出来事であるが日々アビドスの治安を守っているホシノからすればどのような逃走に入り、何処に出るかを予想するなど簡単な事であった。
「くっ!」
「だから逃がさない!」
「がはっ!!」
こうなってはCに出来る事はなかった。再び逃走しようとすればホシノが持つショットガンより発砲され、Cの体に銃弾がいくつもの当たる。至近距離で受けたそれにCの体は吹き飛び少し離れた場所に倒れこんだ。腹部を中心に彼女の体は激痛に襲われる。痛みは彼女の動きを鈍らせ、立ち上がる行動を阻害する。そうしている間にホシノがゆっくりとちかっづき、銃口をCの顔面に押し付けた。
「答えて。貴方が犯人?」
「……」
「……そう」
ホシノの冷たい視線と共に放たれる質問にCは一切の返答をしない。化け物と遭遇する前の彼女であれば震えあがる程の恐怖を感じるそれも今の彼女には恐怖は一切感じさせなかった。
「っ!」
「しまっ!?」
そして、ホシノが引き金を引く瞬間、Cは漸く動けるようになった腕で銃をはじくと立ち上がると同時に蹴りを放ちホシノの体制を崩す。そのままトンファーによる接近戦を行うべく構えて接近した。逃走が難しい以上戦って勝つ以外に道は残されていなかった。
キヴォトスではまず行われない近接武器を用いた本格的な近接戦闘を行うCに対してホシノはショットガンを棍棒代わりに使用して対処しつつ距離を取って発砲のチャンスをうかがっていた。
「くっ!」
「しっ!」
接近戦における戦いはCの方が優勢であったがホシノも小柄な体躯を用いた素早い動きでCを翻弄し、チャンスさえあれば距離を取ってショットガンによる発砲を行った。
それが十数回と続けられるうちに勝負の流れは完全にホシノに傾いていた。接近戦では多少なりともホシノを凌駕し、ダメージを与える事が出来ていたがその大半は防ぎ、流され大きな隙を作りだし、そこをホシノのショットガンによる至近距離の発砲でCが大ダメージを受けるのを繰り返していた。
元々Cはダメージを受けておりボロボロになっていたところにこの戦闘であり、息が上がりつつあるとはいえまだまだ余裕を残しているホシノと比べ、Cは意識を保つことさえやっとの状態になりつつあった。体中が震え、トンファーを握る力さえなくなりつつあり、倒れるのも時間の問題だった。
「っ! ああぁぁぁぁぁっ!!!!」
「これで、止め!」
だが、それでもCは負けるわけにはいかないと渾身の一撃を込めてトンファーを振るうが大ぶりのその一撃はホシノによって軽くかわされ体制を崩したところにショットガンを発砲。それが止めとなり、Cは吹き飛ばされ気絶した。
一方のホシノも久しぶりと言える強敵と呼べる者との戦闘で疲労を感じており、捕縛する前その場にへたりこんでしまった。
「ふぅ……。一体、彼女は……」
「まぁ、俺の連れだな」
ホシノが気を抜き、Cの正体について考え始めた瞬間だった。第三者の声と共に倒れていたCが忽然と姿を消したのである。
「なっ!?」
突然の事態にホシノは銃を構えて周囲を見渡すがCの姿はなかった。漸く、上にまで目を向けたところで平屋の建物の屋根にCを担いだ人物がいるのを発見した。Cと同様にフード付きの外套を羽織り、顔には変な模様の仮面をかぶったその人物はホシノを見下ろしていた。
「……誰?」
「言っただろう。こいつの連れだよ。本当は出るつもりはなかったがこのままだと危なそうだったからな。回収しに来たわけだ」
飄々と話すその人物にホシノの警戒心は限界まで上昇する。気が抜けていたとはいえ接近を気づかせることなく、そして視界でとらえる事が出来ずに目の前からCを攫っていった身体能力。そのどれもがあり得ないレベルで完成されており、強者という事をホシノに見せつけていた。
「安心しろ。こうなった以上アビドスで活動をする気はない。お前に顔を見せる事も起きなくなるだろうさ」
「それを信じろと? ここまで犯罪を犯してきたお前たちを?」
「どちらにしろお前に出来る事はないさ。今回は大人しくこれで失礼するよ」
目の前の人物はそれだけ言うとものすごい跳躍力で屋根の上を飛び跳ねて遠ざかっていく。その速度はホシノでも追い付く事は出来ない速さであり、追跡を諦めざるを得なかった。
「一体、彼女たちは何者……」
そして、後に残された行方不明事件の犯人との出会い、更なる謎をホシノに残す結果となった。
だが、この事件を最後にアビドスで行方不明事件が発生する事は無くなった。発生したとしても他の不良同士の抗争などの結果であり、この日の夜に出会った者達の犯行は一切発生しなくなった。アビドスはかつての様相を取り戻し、再び不良のたまり場となっていくことになるが小鳥遊ホシノの活躍によりそれも直ぐに駆逐されていくことになるのだった。
因みにCが捕えた不良三人はオリ主により回収済みです。