界を穿つ魔法使い   作:黄金の20面ダイス

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多元宇宙では異界からのデーモン侵略が激化し、《赤の魔道士団》はタヴを利用した次元封印の破壊を目論む。その背後では闇の女神シャーと狂気の神シアリックが密かに策謀を巡らせる。一方、オイサースト郊外で修行中のフリーレン一行は、村の坑道で異質な次元装置を発見する。フェルンの魔法とシュタルクの武勇、フリーレンの圧倒的な精神防御でマインド・フレイヤーを撃退、装置の破壊に成功する。


#8:混沌を呼ぶ影

 星々が静かに瞬き、次元を超えた無数の世界がゆるやかに交錯する多元宇宙の中央に、多元安定機構の巨大な監視室が広がっている。そこには壁や天井といった境界がなく、視界の果てまで銀河と星雲が連なっている。

 

 しかし、普段は静かなその空間が、今は混乱と緊張に覆われている。

 

 淡い光のホログラムが無数に浮かび、赤や紫の警告色が不規則に点滅する。低い警報音が途切れず鳴り続ける。星の位置と次元間の接続を扱う調整者たちは眉をひそめ、誰もが脅威の深刻さを理解している。

 

 混乱の中心で、主任調整者アルヴァンが情報群に視線を走らせている。長身で痩せたその男は普段から感情を表に出さないが、紫色の瞳はいつもより硬く、緊迫を帯びていた。

 

 若い調整者フィンリアスが《Sending Stones(送信石)》を握り、アルヴァンのもとへ急ぎ足で来る。緑の瞳は強ばり、声には焦りが混じっていた。

 

「主任、各次元領域からのデーモンの侵攻報告が急激に増加しています。特に深刻なのは次元境界面における侵食の加速です。各地の結界が破られつつあり、各方面からの支援要請が絶え間なく入っています」

 

 アルヴァンは短く目を閉じ、呼吸を整える。続けて、冷静な声で断定した。

 

「やはり組織的な侵攻だ。元凶は赤の魔道士団のオルクス派で間違いないだろう。しかし、この規模は人間の魔法使い集団だけでは説明がつかない。背後には強力な悪神が存在していると考えるべきだ」

 

 周囲の調整者が一瞬息を止める。だが、彼らはすぐに手を動かし、持ち場の作業に戻った。アルヴァンは声を上げる。

 

「直ちに非常態勢『次元危機レベル:アルファ』を発令する。全員、《Clairvoyance(千里眼)》を最大範囲で展開せよ。各次元界の重要地点に観測点を設定し、広域に渡る状況把握と迅速な情報収集に努めよ」

 

 《Clairvoyance(千里眼)》──術者が指定した任意の地点に、目に見えない感知点を形成する魔法である。術者はその感知点を通じて、離れた場所の視覚・聴覚情報を得られる。指示が飛ぶと、監視室全体が即座に動き出す。調整者たちは持ち場につき、複数の《Sending Stones(送信石)》で現場との連絡を始めた。

 

 アルヴァンは室内の動きを一度見回し、監視室の奥にある区画へ向かう。そこには、神々との交信に用いる白銀の祭壇が据えられていた。盆には清浄な聖水が張られ、神託の媒体になっている。

 

 アルヴァンは祭壇の前に立ち、両手を広げて祈念の言葉を唱える。聖水の表面が細かく波打ち、淡い光が立ち上がった。

 

 聖水の上に、秩序と守護の神ヘルムの聖印が浮かび上がる。鋼鉄の眼を象るその紋は、線の一本まで明瞭だ。続いて、死と裁定の神ケレンヴォーの天秤と骨の紋章が隣に形を成した。

 

 圧力のある静けさの中で、まずヘルムが語りかける。

 

「多元安定機構よ。事態は我々神々が予見したより遥かに深刻である。次元境界への侵食が加速度的に拡大している」

 

 続いてケレンヴォーが、冷たい声で告げた。

 

「既に死者の管理を超える範囲に至っている。この侵攻を支える力は尋常ではない」

 

 アルヴァンは頭を垂れ、言葉を選んで問い返す。

 

「我々もその認識は一致しております。ですが、デーモンプリンス・オルクスの配下のみとは到底思えません。《Greater deities(上位神)》級の悪神が背後にいると推測していますが──」

 

 短い沈黙ののち、ヘルムが重い声で告げる。

 

「その通りだ。我々が察知したのは、シャーとシアリックの気配である」

 

 シアリックは狂気に近い性質を持ち、行動の予測が難しい。混乱と欺瞞を好み、目的のためなら他者を欺き、利用することをためらわない。冷たく計画的に策を積むシャーとは性向と行動原理が噛み合わず、この二柱が手を組む例は少ない。

 

 だからこそ、この組み合わせが示す異常さを、アルヴァンたちははっきり認識した。ケレンヴォーが淡々と付け加える。

 

「シャーとシアリックが結託するのは極めて稀だ。それほどまでに、閉ざされた次元には特別な何かが存在するのだろう」

 

 アルヴァンは小さく頷く。

 

「神々のご支援に深く感謝申し上げます。秩序維持のため、我々も全力を尽くします」

 

 聖印の光が薄れ、交信が途切れた。フィンリアスが戸惑いを隠せないまま問いかける。

 

「主任、しかし……たったひとつの閉ざされた次元のために、神々までもが巻き込まれるとは……その世界には、そこまでの価値があるのでしょうか?」

 

 アルヴァンは考え込み、ゆっくりと言葉を返す。

 

「価値か……。神々すら動かす何かが、あの世界にはあるのだろう。秩序と混沌が交差する特異点。それが何なのか、我々にもまだ分からない」

 

 アルヴァンは祭壇から離れ、監視室の中央に戻る。全員に届く声で命じた。

 

「これより全ての次元監視拠点および関連次元組織に大動員令を発令する。これは勧告ではない、強制力を伴う命令だ。《Teleportation Circle(瞬間移動の魔法円)》を即時展開し、各次元間の防衛と侵攻の抑止を最優先に行動するよう通達せよ」

 

 《Teleportation Circle(瞬間移動の魔法円)》──予め特定の場所に描かれた魔法の円を用いて、離れた地点間で瞬時に人員や物資を転送できる魔法。緊急時の迅速な展開や対応を可能にするため、多元安定機構では頻繁に活用されている。

 

 フィンリアスが言いよどみながら確認する。

 

「主任、退役した構成員や既に隠居した英雄たちにも接触を?」

 

 アルヴァンは迷いなく言い切る。

 

「当然だ。これは緊急事態だ。可能な限りの戦力を動員しなければならない」

 

 その直後から、監視室に緊急報告が次々入る。

 

「次元1342-A、デーモン軍勢が数千規模で出現!」

 

「次元2941-D、封印結界の崩壊寸前!即座の追加支援を!」

 

 アルヴァンは報告を受けながら指示を切り返す。最後にフィンリアスを見据え、明確に告げた。

 

「我々が求めるのは勝利ではない。多元宇宙の秩序を守り抜くことだ。例えどれほどの犠牲が出ようと、我々の使命は不変である」

 

 *

 

 地の底深く、人々の記憶から隔絶された闇の聖堂で、青白い炎が淡く灯っている。湿り気を帯びた黒い石壁には鈍い赤の文字が浮かび、一定の間隔で明滅している。天井の闇は照明が届かず、奥行きが判別できない。

 

 聖堂の中央には魔法使いたちが集まり、深紅の高襟ローブをまとっている。ローブには黒と金の縁取りが入り、統一された装いだ。彼らの頭は剃り上げられ、頭皮から首筋にかけて紅と黒の呪紋が緻密に刻まれている。指には印章指輪が並び、金属の光の下で術式の印が鈍く反射した。

 

 胸元には銀糸で織り込まれた髑髏と山羊の角の紋章がある。死と不死の魔王オルクスへの忠誠を示す、赤の魔道士団オルクス派の印だ。彼らは背筋を伸ばし、冷たい威圧を崩さない。瞳の奥には規律と野心に支えられた狂信が沈んでいる。

 

 魔法使いたちの前に立つのは司祭長セヴェルスだ。彼は長く骨張った指をゆっくりと組むと、重い声で語り始める。

 

「兄弟姉妹よ、ついに待ち望んだ刻が訪れた。我らが偉大なる主オルクス様の御心のままに、多元宇宙を真の混沌と死の支配へと導くための扉が、いま開かれようとしている」

 

 声が聖堂に響き、参列者は陶酔したように深く頭を垂れる。セヴェルスは口元をわずかに歪め、言葉を継いだ。

 

「諸君も知る通り、我々は既に各地の拠点で《Gate(次元門)》の儀式を展開している。しかし、それは陽動にすぎない。我々の真の狙いは、あの忌まわしい女神が強固に封じた次元を内側から破壊し、恒久的な道を開くことだ」

 

 列の間に低いざわめきが走る。その中から高位魔法使いが一人、声を震わせて問いかけた。

 

「司祭長、それほどのことを可能にする力とは……まさか、あの嵐の化身、タヴが?」

 

 セヴェルスは冷淡に頷き、問いの主を正面から見据える。

 

「その通りだ。かつて我々が飼い慣らそうと試み、その制御を諦めざるを得なかったあの少年だ。混沌の神ターロス様より明確な啓示を得た。タヴが今もあの閉ざされた次元に存在していることを」

 

 息を呑む気配が広がる。セヴェルスは間を置かずに続けた。

 

「ターロス様は告げられた。『タヴの内に眠る制御不能な魔力を暴走させれば、混沌の嵐が次元の封印を内側から破壊する』と」

 

 抑えきれない興奮が場に満ち、魔法使いたちは歓喜の呟きを交わし始める。セヴェルスは列を見回し、声を強めた。

 

「すでに各地で進められている召喚儀式によって、世界中は混乱と破壊の渦中にある。我々の同志が既に次元内に直接侵入する準備を整えている。世界の目が逸れている今こそ、内側から次元の封印を引き裂き、主オルクス様が望まれる永遠の混沌を呼び込むのだ!」

 

 魔法使いたちは熱狂の叫びを上げ、陶酔しきった表情で声を重ねる。セヴェルスはゆっくりと背を向け、儀式の間へ歩き出した。深紅のローブの群れが後に続き、足音だけが静かに響く。

 

 儀式の間は円形の広い空間だ。床には精緻な魔法陣が刻まれ、中央には巨大で純度の高いダイヤモンドが安置されている。宝石は冷たい白光を鈍く返し、一定の調子で光量が変化している。

 

 このダイヤモンドは《Gate(次元門)》の呪文に必要な触媒であり、少なくとも五千枚の金貨に相当するほど高価な宝石だ。術者たちは周囲を取り囲み、規則的な詠唱を低く続けている。

 

 中心に立つセヴェルスは、魔法的な装飾が施された儀式用の短剣を高く掲げ、重々しく宣言した。

 

「偉大なる混沌の神々よ、この儀式を御覧ください。《Gate(次元門)》を開き、魔界の軍勢をこの世界に招き入れよ!」

 

 《Gate(次元門)》──他の次元界に直接通じる門を開き、その次元から強力な存在を招き入れることができる高位の召喚魔法。その合図と同時に、生贄の若い男女が引き立てられる。二人は目隠しをされ、身体を震わせている。セヴェルスは無慈悲な視線を向け、囁くように告げた。

 

「喜べ。お前たちの無価値な命は、偉大な混沌の礎として有意義な最期を迎えるのだ」

 

 刃がためらいなく振り下ろされ、生贄の悲鳴が途絶えた。鮮血が術式を赤黒く染めると同時に、宝石が強烈に輝き、空間に裂け目が広がる。

 

「来たれ、魔界の尖兵たちよ!我らが《Planar Binding(他次元クリーチャー使役)》に従い、この世界を混乱と破壊で満たせ!」

 

 《Planar Binding(他次元クリーチャー使役)》──別次元から召喚された存在を、術者の意思に強制的に従わせるための魔法である。

 

 裂け目の奥から現れたのは、禍々しい姿のデーモンだ。凶暴なバルルグラやヘズロウたちが姿を現し、血に飢えた咆哮を上げる。《Planar Binding(他次元クリーチャー使役)》に縛られた印が額や胸元に浮かび上がっても、彼らは暴力的な本性を隠そうとしない。

 

「好きなだけ殺し、破壊し、世界を狂気と混沌で満たせ!これは陽動に過ぎぬが、遠慮など無用だ!」

 

 セヴェルスの命令に応じて、デーモンたちは儀式の間から飛び出し、各地へ散っていった。

 

 同時刻、世界各地の赤の魔道士団オルクス派の拠点でも同様の召喚儀式が進み、次元の裂け目が無数に開いている。この一連の儀式は闇と喪失を司る女神シャーと、狂気と欺瞞を司る神シアリックの祝福を受け、召喚の痕跡は巧妙に隠蔽されている。防衛組織や多元安定機構は対応に追われ、世界は混乱に呑み込まれていく。

 

 式を終えたセヴェルスは熱に浮かされた魔法使いたちを見回し、静かに宣言した。

 

「舞台は整った。世界の目が陽動に逸れている今、我々の真の目的が動き出す。閉ざされた次元でタヴを暴走させ、次元の封印を内側から破壊するのだ!」

 

 魔法使いたちは歓喜の雄叫びを上げ、陶酔した瞳で司祭長を見つめる。セヴェルスは静かに目を閉じ、祈りのように囁いた。

 

「全ては主オルクス様と混沌の神々の御心のままに……多元宇宙はまもなく、永遠の死と狂気に包まれるだろう」

 

 *

 

 荘厳な石造りの建物は、堂々たる柱と緻密な彫刻を備え、重厚な存在感を示している。大陸魔法協会北部支部──北側諸国の魔法の中枢であり、多くの優れた魔法使いが集う場所だ。

 

 広大な敷地を覆う石畳の上を、タヴは落ち着いた足取りで進んでいる。数日前、ゼーリエの要請で正式に協会の協力者となった彼は、協会から支給された紺色のローブを身に着けていた。袖口の刺繍は控えめで、余計に目立たない意匠だ。

 

 タヴは協会敷地内の住居の一室を貸し与えられ、そこで日々の生活を送っている。支部本館の大広間には、多数の魔法使いや軍関係者が集まり、抑えた声が行き交っていた。壇上に立つレルネンが、凛とした声で協会の決定を告げ始める。

 

「現在、我々が直面する事態は極めて深刻であり、従来の知識と能力だけでは解決困難な状況です。よってゼーリエ様の判断により、異界の魔法に精通したタヴ様を正式に協会の助力者として迎え入れ、今後の作戦に全面的に参加していただくこととなりました」

 

 その発言で、広間は一気にざわめいた。特に若い魔法使いや軍関係者の間から、不満と困惑の声が広がる。

 

「本気か……?異界人を協会の正式な協力者として認めるだと?」

 

「彼の出自や能力は本当に信頼できるのか?」

 

「なぜ我々を差し置いて、外部の者に任せる必要がある?」

 

 複雑な感情を孕んだ囁きがあちこちで交錯し、タヴへ向く視線は冷えていく。タヴは表情を変えず、壇上のレルネンを正面から見据えた。胸の内には、痛みを伴う緊張が重く積もる。

 

 レルネンはざわめきを抑えるようにゆっくりと手を上げ、淡々と話を続けた。

 

「皆様の戸惑いは承知しています。しかし、ゼーリエ様は慎重なご判断の末、この結論を下されました。タヴ様の協力は、我々が直面する未知の脅威を解決するために必要不可欠なものなのです」

 

 広間の騒ぎは徐々に収束したが、不信感や不満が消えたわけではない。タヴは自分に向けられる警戒と反感を肌で受けながらも、沈黙を守り、冷静さだけは崩さなかった。

 

 レルネンが毅然と締め括った。

 

「我々の目的はただ一つ──大陸の平和を守ることです。そのためには偏見や不信感を捨て、一致団結することが求められます。皆様の協力と理解を強く求めます」

 

 言葉が終わると、広間には重い沈黙が落ちた。誰もがタヴから目を逸らすように俯き、張り詰めた空気は解けない。タヴ自身も、その沈黙に包まれながら、これからの道のりが容易ではないと改めて感じ取っていた。

 

 翌日、タヴはオイサースト郊外の調査拠点へ派遣される。拠点は臨時に建てられた簡素な監視塔を中心に、いくつもの天幕が整然と並んでいた。オイサーストの街から程近く、近隣の森や丘陵を見渡せる場所に設営されたこの拠点は、異界の脅威と蘇った魔族を調べる最前線の一つである。

 

 タヴが拠点に着くと、調査隊を率いる現場指揮官アロイスが険しい表情で出迎えた。中年のベテラン兵士であり、精悍な顔には激戦が刻んだ深い皺が走っている。その鋭い眼差しが、露骨な敵意を含んでタヴに向けられた。

 

「君が例の異界人か」

 

 アロイスは腕を組み、不快そうにタヴを見下ろした。低い声には、隠す気のない嫌悪が滲んでいる。

 

「いいか。我々が今置かれている状況は極めて厳しい。協会の上層部がどのような考えで君のような者を信用しているのか知らないが、現場を預かる私としては異界の者を信用できない」

 

 タヴはその言葉を受けても表情を動かさず、アロイスをまっすぐ見返した。

 

「……俺がここにいるのは、あくまで協力するためだ。邪魔をするつもりはない」

 

 アロイスはタヴの言葉を聞き流すように鼻を鳴らし、冷淡に言い放った。

 

「口では何とでも言える。私は異界からの襲撃で多くの部下を失った。異界人の助言など聞き入れるつもりはない。余計な口出しをせず、ただ指示に従ってくれ」

 

 その態度は周囲の隊員にも伝染し、彼らもまたタヴから距離を取っていく。タヴはこれ以上の摩擦を避けるため、言い返さずに引いた。だが、その日の調査は噛み合わない。助言や意見はまともに取り上げられず、徒労感だけが残った。

 

 数日が経ち、タヴは魔法協会北部支部の資料室で、蘇った魔族に関する過去の調査記録を追っていた。《Comprehend Languages(言語理解)》を発動させ、魔法で浮かび上がる意味を辿りながら読み解いていると、若手の魔法使いたちが数名、示し合わせたように近づいてくる。彼らは嘲笑を隠さず、挑発的に声を投げた。

 

「おい、異界人。調査記録をまともに読めるのか?」

 

 タヴは静かに顔を上げ、《Tongues(言語会話)》を小声で唱えた。声がわずかに魔力を帯び、言語の壁を越えて意図が伝わる。

 

「俺に何か用か?」

 

 それを見た魔法使いの一人が、苛立たしげに舌打ちした。

 

「魔法なしじゃ碌に会話もできないのかよ。協会も落ちたものだな、こんな奴に重要な任務を任せるとは」

 

 別の魔法使いが手にしていた資料を乱暴にタヴの前から奪い取り、軽蔑の眼差しを向ける。

 

「ゼーリエ様や一級魔法使いたちが何を考えているか知らないが、お前みたいな異界人が施設内を我が物顔で歩き回るのは我慢ならない」

 

 タヴは挑発に動じず、淡々と返す。

 

「あんたたちが俺を信用できないのは理解している。だが、協力を引き受けた以上は責任を果たすつもりだ」

 

 落ち着いた態度が、若手魔法使いたちの苛立ちに油を注いだ。彼らは露骨に眉をひそめ、さらに罵倒を浴びせ始める。

 

「異界人風情が責任だと?この事態も元々お前ら異界の存在が原因だろ。俺たちを馬鹿にしているのか?」

 

 騒ぎがさらに膨らみかけた瞬間、偶然資料室を通りかかったゼンゼが足を止め、静かながらも厳格な口調で割って入る。

 

「そこまでだ。侮辱的な発言は慎め。タヴは協会の正式な協力者だ。不満があるなら正式な場で意見を述べるように」

 

 ゼンゼの断固とした声に、若手魔法使いたちは一瞬ひるみ、口を噤んだ。悔しげにタヴを一瞥すると、彼らはその場を去っていく。ゼンゼは背を見送り、タヴへ視線を向けた。

 

「彼らもまた、異界からの脅威に怯えている。お前がその象徴になってしまっているだけだ。あまり気を落とすな」

 

 タヴは小さく頷いたが、胸の奥の重さは残ったままだ。

 

「理解はしている。だが、この状況を放置していては、調査や作戦に大きな支障が出るだろう。早急に何とかしなければ……」

 

 ゼンゼも言葉を挟まず頷いたが、二人の表情は険しい。短く言葉を交わした後、彼女は用事があると言い、その場を離れた。

 

 重い空気を引きずるように、タヴは資料室を出る。足は自然と重くなる。協会内の空気は相変わらず冷たく、すれ違う魔法使いたちの視線も刺々しい。廊下で一瞬立ち止まった彼の背後から、落ち着いた声がかかる。

 

「タヴ様、そろそろ時間です。会議室へ向かいましょう」

 

 振り返ると、淡い眼差しを向けるレルネンが立っていた。彼はいつも通り淡々と告げる。タヴは無言で頷いた。ここ数日で、協会が深刻な危機に直面している事実は嫌というほど分かっている。周囲の不信が強い以上、この場へ出ることが容易でないことも理解している。

 

 それでも、自分に求められる役割を果たさなければ、協会だけでなく、この世界そのものが崩壊の危機に瀕するかもしれない──その現実から目を背けることはできなかった。

 

 ほどなくしてタヴは、荘厳な広間に入った。

 

 重厚な木製の円卓を囲んで座る高位魔法使いや軍の代表たちは、それぞれが張り詰めた空気を身にまとっていた。すでに席に着いていたゲナウが、鋭い眼差しでタヴを一瞥した。その視線には完全な信頼とは言えないものの、一定の協力と期待が混じっているように感じられる。タヴはその視線を受け止め、息を一つ吐いた。

 

 壇上に立つレルネンの視線が、広間の一角で壁際に立つタヴへ向く。レルネンは落ち着いた声で問いかけた。

 

「タヴ様、ギスヤンキとマインド・フレイヤーが用いる具体的な戦術や技術、それに対する対策を話していただけますか?」

 

 タヴは小さく頷いて一歩前へ出た。幹部たちの中に疑念と警戒を抱く者がいるのを感じながらも、口調は崩さないまま語り始める。

 

「ギスヤンキとマインド・フレイヤーは敵同士だが、どちらも次元を渡る手段として位相アンカーと呼ばれる装置を使う。簡単に言えば、次元間に一時的な亀裂を生じさせ、そこから小規模な部隊や物資を送り込むためのものだ」

 

 タヴの言葉に会議場がざわつく。軍関係者の一人が険しい表情で尋ねた。

 

「その位相アンカーというのは、どちらの種族も全く同じ技術を使っているということなのか?」

 

 タヴは首を横に振り、明確に否定した。

 

「違う。基本的な概念としては似通っているが、技術の詳細や運用方法、文化的な背景はそれぞれ全く異なっている。例えばギスヤンキの位相アンカーを鹵獲してその技術を解析しても、それをそのままマインド・フレイヤー対策に応用することは不可能だ」

 

 ゲナウが顎に手を当て、冷静に続けて問いかける。

 

「具体的にギスヤンキが用いる位相アンカーの運用方法や特徴を教えてくれ」

 

 タヴは淡々と続けた。

 

「ギスヤンキは主に戦闘特化型の部隊を送り込むのに使う。短時間のうちに少数で敵地の中枢を攻撃し、司令官や重要施設を速攻で潰す。そのため、位相アンカーも比較的小型で迅速な設置と撤収が可能だ。だが逆に言えば、物理的に破壊されやすい。俺たちの防衛策としては、都市や拠点の重要区画に精鋭部隊を配備し、敵の位相アンカーが設置されると予想される地点に先回りするのが効果的だ」

 

 軍関係者は慎重に頷き、別の魔法使いが問いを重ねる。

 

「ではマインド・フレイヤーはどう違うのだ?奴らが使う位相アンカーはどのような特徴がある?」

 

 タヴは短く頷いて答えた。

 

「マインド・フレイヤーは物理的な侵攻よりも精神的な侵略を主体にしている。奴らの位相アンカーは魔力や精神エネルギーを送り込むための次元通路として機能する。まずは少数のマインド・フレイヤー自身や眷属を送り込み、その後、精神波動を放つことで現地生物を操り、混乱を誘発することを目的にしている。物理的な破壊だけでなく、魔法的な妨害が不可欠になる」

 

 ゲナウが頷きながら周囲を見回し、静かな口調で確認する。

 

「つまり防衛策としては、ギスヤンキに対しては機動的かつ物理的な防衛配置、マインド・フレイヤーに対しては精神的な攻撃や妨害を主軸にする、ということか」

 

 タヴは明確にそれを肯定した。

 

「そうだ。ギスヤンキの奇襲に対しては、司令官や指揮系統を守るため、拠点周辺に防衛部隊を散開配置して迅速に対応できるようにしておくことが肝要になる。加えて、敵の攻撃目標を複数に分散し、戦術的柔軟性を高めることも有効だ」

 

 ゲナウが深く頷くと、別の老練な魔法使いが口を開く。

 

「精神攻撃に関して具体的な防御策はあるか?奴らに操られて味方同士で殺し合うようでは、いくら数を揃えても意味がないぞ」

 

 タヴはその問いに簡潔に応じた。

 

「マインド・フレイヤーの精神攻撃は視覚的または魔力的な接触が必須だ。重要な指揮官や魔法使いを守るには、遮蔽物で物理的に視界を遮断するのが効果的だ。また、精神防御を部隊の基本的な訓練カリキュラムに組み込み、組織的に対応能力を底上げするべきだ」

 

 軍関係者の一人が再び疑念を露わにし、鋭く問いかける。

 

「貴殿の情報は有益だとは思うが、本当に信頼できるのか?異界の者である貴殿が協力する真の理由を知りたい」

 

 一瞬、場の空気が凍りついたが、タヴは落ち着いた態度を崩さず口を開いた。

 

「……俺自身が異界の人間だ。疑われることも仕方ないと思っている」

 

 タヴは意図的に間を置き、幹部たちの視線を正面から受け止めた。その眼差しには、隠さない正直さと、自覚した覚悟が滲んでいる。

 

「だが、ひとつだけ聞いてほしい。俺は、ギスヤンキやマインド・フレイヤーがどれほど危険な存在なのか、嫌ってほど知ってる。奴らは容赦なく世界を喰らい尽くす。俺の世界は、それで既に多くを失った」

 

 声に混じる熱が、会議場の意識を引き寄せる。タヴはそこで言葉を切り、聞き手に考える余地を残した。

 

「俺がここにいる理由はただ一つだ。もう二度とあの悲劇を見たくない。この世界でも、自分が大切に思うものが壊されるのは、我慢ならない。奴らを排除するためなら、俺は知識や力を貸すことを惜しまない」

 

 最後に彼は小さく肩をすくめ、穏やかな声音で言葉をまとめた。

 

「……まあ、俺を信じるかどうかは、そちらの自由だ。ただ、俺はやるべきことをやるだけだ」

 

 その言葉を受け、ゲナウが冷静に続ける。

 

「タヴを疑う気持ちも理解できる。だが現状で最も信頼できる情報源は彼だ。判断を誤れば手遅れになる。まずはこの情報に基づいて各問題への対処策を考え、その中で情報の真偽を見極めるしかないだろう」

 

 ゲナウの言葉を聞いた幹部たちは、徐々に覚悟を固めた表情へ変わっていく。レルネンが場を締めるように結論を告げた。

 

「位相アンカーの破壊、ギスヤンキの奇襲戦術、マインド・フレイヤーの精神攻撃への対処を速やかに進めます。タヴ様の情報を活用し、団結して事態に当たっていきましょう」

 

 幹部たちが頷きを見せる中、タヴはその場に留まり、周囲の表情を改めて見渡した。疑念が消えないことは理解している。それでも、自分の役割を果たすという決意だけは揺らがなかった。

 

 *

 

 森は静まり返り、淡い朝靄が木々の間に漂っている。山間の森林地帯はどこまでも穏やかで、外の気配が入り込みにくい。ここはオイサーストから馬車で一日半ほど離れた郊外であり、都会の喧騒とは無縁の場所だ。フリーレンがこの地を選んだのは、愛弟子フェルンの一級魔法使い試験に備え、集中して魔法修行を行うためだった。

 

 森の開けた場所で、フェルンは真剣な表情のまま魔法の修練を続けている。フリーレンはその傍に立ち、落ち着いた眼差しで弟子の術式を観察している。

 

「フェルン、もう少し魔力の流れを繊細に。雑に扱うと魔法構成に歪みが生じて、術式の効率が著しく低下するよ。魔力は常に最適な経路を選ぶから、僅かな揺らぎでも、結果に大きな誤差が出る」

 

「はい、師匠」

 

 フェルンは呼吸を整え、もう一度繊細な魔力操作を試みる。魔力はゆっくりと流れ、術式の精度が少しずつ上がっていく。フリーレンはその変化を見取り、無駄な揺らぎが減っていることを確かめていた。

 

 一方、シュタルクは二人の修行から少し離れた場所で、気楽そうに薪を割っている。斧を振るう手をときおり止め、フェルンの修練を見守りつつ軽口を叩いた。

 

「なあフェルン、試験前なのは分かるけど、あまり力み過ぎるなよ?」

 

「静かにしてください、シュタルク様」

 

 フェルンは少しだけ不満げに返すが、口調そのものは普段と変わらず穏やかだ。フリーレンはそのやり取りを見て、淡々と続ける。

 

「そうだね、力を抜いて。魔法は集中が途切れると流動性が増して、効果の安定性が下がるから」

 

 フェルンは素直に頷き、再び術式の構築へ意識を戻した。

 

 修練を続けるうちに夕暮れが近づく。橙色に染まった空の下、森の奥から一人の老人が慌ただしい足取りで近づいてきた。

 

「これは皆さん、こんな時間に失礼します」

 

 近くの小さな村の村長だ。フリーレンたちは滞在中に何度か村へ日用品や食料を買いに行き、その際に村長とは顔を合わせていた。村長は恐縮した様子で近づき、フリーレンたちに声をかける。

 

「実は、皆様にお願いしたいことがありまして……」

 

 村長の依頼はこうだった。最近、村近くの古い坑道跡で不気味な物音や人影が頻繁に目撃され、村人たちが怯えている。調査をして原因を確かめ、必要ならば対処してほしい──と。

 

 フリーレンは依頼の内容を聞き、少し考える素振りを見せた後に頷いた。

 

「構わないよ。フェルンにとってもいい腕試しになるだろうし」

 

 フェルンも素直に頷き、シュタルクは軽く肩を竦めながら言った。

 

「じゃあ、明日の朝一番に行くか。丁度退屈してたところだしな」

 

 村長は安心したように頭を下げ、感謝の言葉を繰り返しながら去っていった。

 

 翌日の早朝、一行は村から離れた古い坑道跡地へ向かった。坑道は採掘が終わって長い年月が経ち、入口付近は崩れかけて苔が這い、薄暗く静まり返っている。フリーレンが軽く杖を掲げ、《ルミネーア(灯火で辺りを照らす魔法)》を発動すると、柔らかな魔法の光が暗がりを払い、坑道の内部を照らし出した。

 

 坑道の入り口付近には明らかな異常が見える。フリーレンは魔法の光をゆっくり動かしながら、観察して口を開く。

 

「自然にできたものじゃないね。何者かが意図的に掘り広げた跡がある」

 

 フェルンも魔力を感知し、残滓を丁寧に追いながら応じる。

 

「それに……不自然な魔力の残留物があります。ただの魔物の仕業ではないかと」

 

 フリーレンは短く頷き、杖の明かりをさらに前方へ伸ばした。

 

「注意して進もう」

 

 一行は光に導かれ、薄暗い坑道を奥へ進む。狭く崩れかけていた通路は次第に広がり、前方に奇妙な明るさが見えてきた。

 

 その先に現れたのは、明らかに人工的に整備された巨大な地下空間だった。天井からは規則的に並んだ魔力を帯びた光源が淡く輝き、空間全体を薄明かりで照らしている。広間の中心には精巧に切り出された円形の石壇が置かれており、その上には金属と生体組織が融合した異質な装置が鎮座していた。

 

 螺旋状に絡み合った複雑な金属支柱の内側には、生きているかのように脈動する肉質の組織が見え、そこから淡い紫色の光が規則的に明滅している。魔力を帯びた生体部品から滲み出る力が周囲の空間を歪ませ、不穏な揺らぎが地下空間全体に広がっていた。

 

「あれ……タヴが言っていた次元装置だね」

 

 フリーレンは小さく呟き、《ルミネーア(灯火で辺りを照らす魔法)》を解除した。

 

「マインド・フレイヤーの位相アンカー……ですね」

 

 フェルンが警戒した表情で確認すると、フリーレンはゆっくりと頷いた。

 

「この装置があるってことは、近くにマインド・フレイヤーがいるはずだ」

 

 フリーレンの言葉を受け、シュタルクは緊張気味に斧を握りしめた。

 

「一旦戻った方がいいんじゃないか?相手は精神を操る異界の侵略者なんだろ。まともに戦って大丈夫なのかよ」

 

 フリーレンは少し考え込むような素振りを見せると、小さく息を吐いた。

 

「正直なところ、ここで無理に戦う必要はないよ」

 

 彼女はふと思い出したように、少しだけ眉を上げて二人を見た。

 

「あ、そういえば言い忘れてたけど、タヴから私の精神防御について評価してもらったことがあるんだよ。マインド・フレイヤーとの戦いなら、私の精神防御がかなり有効だろうって」

 

 シュタルクはその話を聞き、わずかに眉をひそめて不服そうな顔をした。

 

「ちょっと待てよフリーレン。そんな重要な話、いつの間にタヴとしたんだ?俺たち、そんな説明全然聞いてないぞ」

 

 フェルンもまた、落ち着いた声色ではあったが、明らかに戸惑いを隠せない様子で尋ねた。

 

「確かに私も初耳です。一緒に旅をしている間には、そんな話題は出なかったはずですが……」

 

 フリーレンはほんの少しだけ申し訳なさそうな表情を見せ、淡々と答えた。

 

「夜の見張り交代の合間にタヴと二人きりで話したんだよ。個人的にタヴに聞いてみたんだ。私の精神防御がマインド・フレイヤー相手にどれくらい通用するかってね」

 

 フリーレンは少しだけ目を伏せ、記憶を辿るように言葉を続ける。

 

「そしたらタヴが実際に軽く精神干渉を試してくれて、『……正直、俺の知る限りじゃ、フリーレンの精神にまともに干渉できるのはエルダーブレイン級の最上位個体くらいだな』って、驚いてたんだよ」

 

 フリーレンはその話を、わずかに得意げな様子で語る。シュタルクは驚いたように目を丸くし、それから軽く肩をすくめてため息混じりに言った。

 

「……そんなことしてたのかよ。聞いてないわけだ」

 

 フェルンは静かな口調でフリーレンに釘を刺す。

 

「事情は分かりましたが、そういうことは早めに共有をお願いします……」

 

 フリーレンはわずかに申し訳なさそうな表情を見せつつ、軽く頷いた。

 

「ごめんて。マインド・フレイヤーと実際に対峙する機会もなかったから、言い忘れてたんだよ。次からは気をつけるね」

 

 シュタルクはやれやれと言った様子で、斧を肩に担ぎ直した。

 

「それならいいけどよ。まったく、肝心なことを忘れないでくれよな」

 

 フェルンはその言葉に静かに頷き、改めて問いかける。

 

「つまり、並のマインド・フレイヤー相手なら、フリーレン様を主軸に立ち回れば十分対処可能、ということですか?」

 

 フリーレンは冷静に肯定した。

 

「うん。あくまで理論上はね。ただ、私一人では皆を完全に守り切れるとは限らない。大量の数で押しつぶされたら、私でも限界がある」

 

 シュタルクは冗談めかして軽口を叩いた。

 

「数が多すぎたら、さすがに俺たちも逃げるしかないってわけだな」

 

 フリーレンは淡々と頷きつつも、真面目な口調で返した。

 

「うん、それが賢明だと思う。今は調査と実戦経験を兼ねているけど、深追いは禁物。危なくなったらすぐ逃げられるように退路は確保しておこう」

 

 フェルンは慎重な眼差しで周囲を見回し、小さく呟いた。

 

「分かりました。無理はしません」

 

 フリーレンは微かに口角を上げ、先を促す。

 

「じゃあ、決まりだね。まずは状況を把握することを優先するよ」

 

 フリーレンの言葉に頷き、一行は改めて注意深く地下空間の奥へ進んだ。同時に、地下空間は強烈な精神圧迫感に包まれる。フリーレンは即座に魔法の灯りを強め、警戒の姿勢を取った。

 

「来るよ」

 

 闇の奥から姿を現したのは、まさに異界の魔物だった。脳をむき出しにした不気味な四足獣──インテレクト・ディヴァウラーが十数匹まとまって地を這い、こちらへ迫ってくる。その背後には、触手を口元で蠢かせ、紫紺の肌を持つ異形の者たちが歩みを進める──マインド・フレイヤーだ。

 

 その中心に立つ存在は、明らかに通常のマインド・フレイヤーよりも魔力と威厳を備えていた。刺繍が施された優雅な長衣を纏い、触手をゆったりと蠢かせる──マインド・フレイヤー・アルカニストと呼ばれる、魔法に特化した個体だ。その両側を通常のマインド・フレイヤー二体が固め、三体はゆったりと不気味な歩調で近づいてくる。

 

 フェルンは杖を握る手が震え、小さく呟く。

 

「これが……マインド・フレイヤー……」

 

 シュタルクは斧を握り締めて身構え、硬い表情のまま緊張を隠せない。フリーレンは敵の陣容を冷静に見定める。

 

 目の前の敵はマインド・フレイヤーが三体。その中心の個体は魔法に特化したアルカニストだが、タヴが言っていた最上位のエルダーブレイン級ではないことは明白だった。ほかに見えるのは多数のインテレクト・ディヴァウラー──脅威ではあるが、所詮は眷属だ。

 

(……最上位個体はいない、相手の数も制御可能。これなら十分勝てるかな)

 

 マインド・フレイヤー・アルカニストはゆっくりと触手を広げ、不気味な魔力を込めて呪文を詠唱する。その左右を固める二体の通常個体も、アルカニストの呪文を増幅するように魔力を送り込み、触手を小刻みに震わせた。

 

 放たれるのは、《Confusion(精神混乱)》と呼ばれる精神魔法だ。これは複数の対象の精神に直接働きかけ、思考を乱し、敵味方の区別さえ奪い去る危険なものであり、二体の補助によって効果範囲と強度が増幅されていた。

 

 三体が協調して放った魔法が空間を歪ませるように広がり、シュタルクとフェルンの精神を直接蝕み始める。

 

【抗うことは不可能だ……その精神を手放し、混沌に身を委ねよ……】

 

 マインド・フレイヤー・アルカニストの念話が冷たく脳内に響き渡った。

 

 刹那、シュタルクとフェルンはその声に引き込まれそうになり、目が虚ろになりかける。しかし、フリーレンの精神は微塵も揺らがない。

 

 彼女は、精神魔法そのものを受け止めている様子すら見せず、平然としている。苦痛の反応も抵抗の仕草もなく、表情は変わらなかった。マインド・フレイヤーたちはその光景に動揺し、触手がわずかに震える。アルカニストは焦りを抑えきれず、即座に思考を巡らせた。

 

(馬鹿な……あのエルフ、そもそも精神への侵入そのものを許していない。……まさか神格に属する存在だというのか?)

 

 フリーレンの精神は、単なる魔法的な防御とは異なっていた。彼女自身が数千年もの旅路と修練を経て形成した精神は、外部からの干渉を拒む領域に等しかった。

 

 フリーレンは落ち着いたまま口を開き、淡々と指示を出す。

 

「シュタルク、フェルン、目を逸らして。精神魔法は視線を断てば影響を受けにくくなるよ」

 

 二人は咄嗟に指示通り視線を外し、意識を保とうと踏みとどまる。その間にフリーレンは指先を動かし、二人へ軽い魔力の波動を送り込んだ。精神を鎮める補助的な魔法であり、二人の精神状態を素早く整える。

 

 意識を取り戻したフェルンは、即座に防護魔法を唱えた。

 

「《ザイヒェンヴァント(外部からの思考を遮る魔法)》!」

 

 フェルンが唱えた魔法は、対象の精神を薄く透明な魔力の障壁で覆い、外部から侵入する自分のものではない思考や意思を遮断するものだった。魔力の障壁はシュタルクにも同時に展開され、彼の意識も保護される。

 

 マインド・フレイヤー・アルカニストが放った《Confusion(精神混乱)》は、フェルンの《ザイヒェンヴァント(外部からの思考を遮る魔法)》にぶつかり、淡い火花のように砕け散って消えていく。その様子を見たフェルンは息を弾ませながらも、微かな笑みを浮かべた。

 

「タヴ様の言った通りですね……!」

 

 フリーレンはマインド・フレイヤーたちを落ち着いた眼差しで見据え、冷静に告げる。

 

「精神攻撃が通じないと知ったら、次は物理的な攻撃に切り替えてくる。備えて、反撃するよ」

 

 その言葉が終わる前に、マインド・フレイヤーたちは次の攻撃へ移る。マインド・フレイヤー・アルカニストは魔力を凝集し、両の触手を激しく蠢かせながら《Lightning Bolt(稲妻)》を詠唱する。左右のマインド・フレイヤーも続けて魔力を練り、《Magic Missile(魔法の矢)》を放つ。

 

 閃光を伴う雷撃と複数の魔力の矢が、直線的にフリーレン一行へ走る。だがフリーレンは表情を動かさず、杖を正面に据えて《防御魔法》を起動する。

 

 フリーレンの目前に半透明の六角形状の障壁が瞬時に組み上がり、蜂の巣状に連結して彼女の全身を覆う。《Lightning Bolt(稲妻)》は障壁へ激突し、爆音を残して散って消える。

 

 フェルンも迷いなく対応する。迫る攻撃を視認すると杖を短く振り、自身の正面に同じ形の半透明の障壁を展開する。飛来した《Magic Missile(魔法の矢)》はそこで弾かれ、光の矢は彼女に届かない。フェルンの動作は端的で、鍛錬で固めた手順がそのまま出ている。

 

「ちょ、なんでこれずっと追ってくんだよ!?」

 

 一方のシュタルクは情けない声を上げつつ、飛来する《Magic Missile(魔法の矢)》から身を守るために走り続ける。だが魔法の矢は単純な軌道ではなく、曲がりながらシュタルクを執拗に追う。

 

 追尾が止まらないと判断したシュタルクは、斧を強引に振り回し、迫る魔法の矢を叩き落とそうとする。だが全ては捌き切れず、数発が彼に直撃する。

 

「いってぇ……!」

 

 派手な炸裂音が地下に反響し、シュタルクは一歩よろける。だがすぐに足を踏み直し、姿勢を立て直す。シュタルクが自分の身体を確かめると、残っているのはわずかな焦げ跡だけで、大したダメージは負っていない。

 

「あれ……?意外と大丈夫だな……」

 

 シュタルクは不満げに振り向き、フリーレンとフェルンへ声を飛ばす。

 

「なぁ、なんで今の助けてくれないんだよ!?」

 

 フリーレンは声音を変えずに答える。

 

「シュタルクなら、当たっても問題ない魔法だって判断したからね」

 

 隣でフェルンが申し訳なさそうに小さく頭を下げる。

 

「すみません、シュタルク様の動きが速すぎて、《防御魔法》の展開位置が定められませんでした……」

 

 シュタルクは言葉を飲み込み、斧を持ち直して敵へ正対する。

 

 マインド・フレイヤー・アルカニストは触手を苛立たしく動かし、念話で指示を投げる。

 

【眷属どもよ、前に出て敵を食い尽くせ!】

 

 指示を受けたインテレクト・ディヴァウラーたちが一斉に蠢き、甲高い鳴き声を上げながらフリーレン一行へ突進を始める。フリーレンは目を細め、落ち着いた声で告げる。

 

「フェルン、シュタルク。好きにやっていいよ」

 

 指示が届くのと同時に、フェルンは前方に視線を固定する。フェルンは短い詠唱動作で杖を構え、魔力を整える。

 

「《ゾルトラーク(魔族を殺す魔法)》」

 

 フェルンの杖先から魔力の弾丸が連続して放たれ、風を切る音とともに先頭のインテレクト・ディヴァウラーを次々に貫く。命中した個体の体はその場で弾け、異臭を帯びた体液が床に散る。フェルンの発動は速く、狙いもぶれない。眷属たちは短時間で数を減らしていく。

 

「こっちは任せろ!」

 

 シュタルクは力強く叫び、斧を振り上げたままインテレクト・ディヴァウラーの群れへ踏み込む。前後左右から爪と牙が迫るが、シュタルクは身をひねってかわし、重量のある斧の一撃で順に叩き伏せる。

 

 その動きを見て、通常のマインド・フレイヤー二体が怒りを露わにして前へ出る。二体は頭部の触手を広げ、前方へ強力な精神衝撃波──《Mind Blast(精神爆砕)》を放つ。目に見えない波動が広がり、シュタルクに迫る。だがシュタルクは危険を直感し、地面を強く蹴って横へ跳び、攻撃範囲から外れる。

 

「うわっ、あぶねぇ!今の当たったら絶対ヤバいやつだろ!」

 

 シュタルクは着地と同時に体勢を整え、勢いを止めずに踏み込む。斧の一撃が正面から入り、マインド・フレイヤーの一体を叩き切る。触手が痙攣しながら崩れる個体を横目に、シュタルクは残る一体へ向けて体を返す。

 

 一方で、フリーレンとマインド・フレイヤー・アルカニストは高速で魔法を投げ合っている。アルカニストは《Scorching Ray(灼熱の光線)》や《Ray of Sickness(不調化光線)》を使い分け、単体を狙う攻撃でフリーレンの防御を崩そうとする。

 

 しかしフリーレンは、飛んでくる術を一つずつ《防御魔法》で遮り、攻撃の通り道を作らせない。

 

「お前たちの魔法は興味深いけど、少し単調だね」

 

 フリーレンは言葉を添えたまま、軽い動作で《ゾルトラーク(魔族を殺す魔法)》を返す。アルカニストは《Shield(盾)》で受け止めるが、魔力の消耗は大きい。触手の動きが乱れ、動揺が隠し切れなくなる。

 

(このままではジリ貧だ……)

 

 アルカニストは退く決断を固める。触手を忙しく震わせ、《Dimension Door(次元扉)》──術者を約百五十メートル以内の望む地点へと瞬時に移動させる魔法──を唱え、この空間の外にある安全な座標へ移動しようとする。

 

 だが詠唱に入った直後、フェルンがその動きを捉える。フェルンは杖に魔力を込め、アルカニストへ向ける。

 

「逃がしませんよ」

 

 フェルンの《ゾルトラーク(魔族を殺す魔法)》が、退避を狙うアルカニストの胸部を正確に撃ち抜く。アルカニストは衝撃で触手を痙攣させ、その場に崩れる。

 

 残った最後のマインド・フレイヤーは動きを止め、触手を小刻みに震わせる。明らかな動揺のまま後ずさり、距離を取ろうとする。しかしフリーレンはその間合いを許さない。

 

「隙だらけだね」

 

 フリーレンは言葉と同時に《ゾルトラーク(魔族を殺す魔法)》を放つ。魔力が最後のマインド・フレイヤーを貫き、異形は倒れる。地下空間には再び静けさが戻る。

 

 フェルンは息を整えながら、小さく頷く。

 

「なんとか……倒せましたね」

 

 シュタルクも肩を回し、短く息を吐く。

 

「マインド・フレイヤーってやつも、意外となんとかなるもんだな」

 

 シュタルクは軽口を言い終え、肩で大きく息を吐き出す。だが直後に、シュタルクの視線が足元のマインド・フレイヤーの亡骸へ落ちる。

 

 そこには、この世界の魔物や魔族とは違う死の形がある。魔物や魔族の体は、倒した瞬間に崩れて消えることが多い。だがこの亡骸は消えず、肉体の形のまま床に残っている。薄紫色の血液が地面を濡らし続ける。

 

「なんつーか……これ、気味が悪いな……」

 

 シュタルクは声を落とし、眉を寄せる。先ほどまでの勢いは消え、表情に戸惑いが残る。

 

 フェルンも死体へ視線を向け、戸惑いを隠せないまま口を開く。

 

「魔物や魔族の死体は、倒した瞬間に消えてしまうものですが……人間や動物と同じように、物理的な遺骸が残るんですね……」

 

 フェルンの口調は落ち着いている。しかし瞳は揺れ、異界の死体を前にした小さな衝撃が残っている。

 

 二人の反応を見たフリーレンが言葉を添える。

 

「異界から来た者は、この世界の理とは違う。生も死も、存在そのもののあり方が、私たちの知るものとは異質なんだよ」

 

 シュタルクは表情を硬くしたまま頷く。フェルンは目を伏せ、再び杖を握り直す。静かな戸惑いは、状況への疑問へ変わっていく。

 

 三人は重い違和感を抱えたまま、注意を切らさず位相アンカーへ近づく。

 

 位相アンカーは地下空間の中央に据えられている。複雑に絡み合う金属の輪と、魔力を帯びた水晶状の部品が薄い紫色の光を絶え間なく放ち、周囲の空間をわずかに歪めている。フリーレンは装置の周囲を観察しながらフェルンに尋ねる。

 

「フェルン、これの破壊方法について、協会から通達が来てたよね?」

 

 フェルンは小さく頷き、懐から協会の封蝋が施された封書を取り出す。フェルンは封を開き、記された細かな指示に目を走らせる。

 

「はい。これが協会から届いた正式な通達です」

 

 フェルンは文面を読み直しながら、表情を引き締める。

 

「タヴ様が提供した情報を元に、この世界の魔法体系で理論を再構築したものらしいですが……まず、装置中央の魔法陣に刻まれている防護魔法を解除する必要があるそうです」

 

 フリーレンは頷き、説明を聞く。フェルンは手紙から目を離さず、続きを述べる。

 

「魔法陣にかけられた術式を無力化して、一時的に装置の防護を解いた後、魔力を供給している水晶部品を破壊します。その破壊方法は《ゾルトラーク(魔族を殺す魔法)》のような攻撃魔法でも、物理的な衝撃でも可能だそうです」

 

 フェルンは一度言葉を切り、小さく息を吐く。

 

「破壊に成功すれば、溜まっていた魔力が一気に放出されて、装置そのものが自壊するようですが……まだ実際に試された事例はありません。なので……確実に成功するかどうかは未知数だそうです」

 

 それを聞いたシュタルクは、不安げな顔でフリーレンを見る。

 

「なぁ、それって結構危ないんじゃないのか?大丈夫なのかよ?」

 

 フリーレンは表情を変えず、首を横に振る。

 

「確かにリスクはあるけど、今ここで試す価値はあると思うよ。放置するのは危険だからね。……フェルン、手順通りやってみて」

 

 フェルンは意を決して頷く。フェルンは封書の記述をもう一度確認し、杖を位相アンカー中央の複雑な魔法陣へ向ける。フェルンは呼吸を整え、繊細な魔力の流れを形作りながら詠唱を始める。

 

「《シュテルングノイル(複雑な構造を解きほぐす魔法)》」

 

 フェルンの杖先から放たれた繊細な魔力が、位相アンカー中心に描かれた複雑な魔法陣へ流れ込む。その魔力は既存の術式構造に介入し、魔法陣を構成する流れを一つずつ解きほぐしていく。

 

 この魔法は、対象の術式の根本構造に干渉し、一時的に改変して制御を失わせる。制御が崩れることで、術式の効果が止まる。

 

 徐々に魔法陣の輝きが乱れ、揺らぎが不規則に増していく。フェルンの額には冷や汗が滲み、魔法の維持に力を要する。やがて魔法陣の光が完全に消え、装置の魔力防護が解除されたことが分かる。

 

「解除できました……理論通りに」

 

 フリーレンはわずかに口元を緩め、頷く。

 

「さすがだね、フェルン。このまま破壊まで頼んでもいい?」

 

 フェルンは小さく微笑んで頷き、杖を構え直す。

 

「《ゾルトラーク(魔族を殺す魔法)》」

 

 魔力の弾丸が閃光を伴って位相アンカーの水晶部品を貫き、中心部に溜まっていた魔力が暴走を始める。装置全体が激しく振動し、内側から爆ぜて破片が飛ぶ。

 

 鋭い炸裂音とともに地下空間を満たしていた異質な歪みが消え、静寂が戻る。フリーレンは散った破片を見届けて息を吐き、フェルンへ視線を向ける。

 

「完璧だったね。これで、この世界の魔法理論によってマインド・フレイヤーの位相アンカーが破壊可能だと、初めて実証されたことになるんじゃないかな」

 

 フェルンは静かに頭を下げる。表情は落ち着いているが、頬がわずかに赤い。

 

「ありがとうございます、フリーレン様。協会にも、術式が正しく機能したことをきちんと報告しておきます」

 

 シュタルクはようやく肩の力を抜き、斧を背中に背負い直して深く息をつく。

 

「これでやっと安心だな……」

 

 だがフリーレンは穏やかな声のまま、戒めるように言う。

 

「今回破壊したのは位相アンカーの一つに過ぎないよ。この世界のどこかにまだ多数の装置があるはずだからね」

 

 フェルンとシュタルクはフリーレンの言葉を受け止め、改めて表情を引き締める。この勝利が終わりではなく、これから先の戦いの一つの区切りに過ぎない。その事実が三人の間に残った。

 

 *

 

 地の底深く、人々の記憶から隔絶された闇の聖堂は、死者の墓標のような静寂に包まれていた。壁面には魔王オルクスを象徴する山羊の角を持つ髑髏の紋章が赤く浮かび上がり、暗闇の中で脈打つように淡く輝いている。聖堂内は濃密な闇と湿った空気が満ち、息を潜める魔法使いたちの気配だけが微かに伝わる。

 

 その最奥の瞑想の間で、赤の魔道士団オルクス派を束ねる司祭長セヴェルスは静かに座していた。痩せた身体を深紅の儀礼用ローブで覆い、胸元には銀糸で描かれた髑髏と山羊の角の紋章が、オルクスへの絶対的忠誠を物語っている──少なくとも、そう見えるように整えられていた。セヴェルスは深く瞳を閉じ、その記憶の底に沈む忌まわしき過去を巡っていた。

 

(あの日から、ずいぶんと時が流れたものだ……)

 

 彼の脳裏に鮮やかに蘇るのは、かつてタヴという名の少年を用いて試みた、禁忌の魔法の記憶だ。強烈な魔力を宿したあの少年は、次元の壁を超える魔法の媒介として完璧だった。だが、制御不能な嵐の如きその魔力は、結果として赤の魔道士団の手に余ることとなった。

 

 瞑想の間に立つ松明の炎がゆらゆらと揺れ動き、部屋全体に不安定な影を落としている。セヴェルスはゆっくりと瞼を開くと、周囲を取り囲む魔法使いたちを静かな視線で見回した。彼らの瞳には狂気と使命感が入り混じり、不気味に輝いている。

 

 セヴェルスは重々しく口を開いた。

 

「我々の準備は整った。今宵、ついに次元を越える禁忌の門が再び開かれるだろう」

 

 魔法使いたちは揃って静かに頭を垂れ、セヴェルスの言葉を待った。瞑想の間には狂気を内包した静けさが満ちていた。

 

 セヴェルスの脳裏に、鮮烈な過去の記憶が再び蘇った。

 

 それは赤の魔道士団が、《Astral Projection(アストラル投射)》を通じて、《Plane of Dreams(夢界)》経由で閉ざされた次元との接触を試みていた頃のことだった。

 

 《Plane of Dreams(夢界)》──すべての次元における知的生命体の意識や潜在意識が無意識に交流し合う場であり、現実世界において隔絶された存在でも、潜在意識がここで交錯することがある次元。

 

 《Astral Projection(アストラル投射)》──本来、術者の精神体を肉体から切り離し、《Silver Cord(銀色の命綱)》で肉体と精神を繋ぎつつ、アストラル界を自在に移動するための魔法である。ただし、アストラル界と夢界は概念的・魔法的に密接な関係性を持っており、魔法的な理論に基づいた術式の調整を行うことで、精神体の存在形態を変換し、アストラル界から夢界へと転移することが可能だった。

 

 赤の魔道士団は、《Astral Projection(アストラル投射)》の魔法に特殊な追加術式、精神体そのものを夢界の性質に同期させる機能を組み込んだ。この追加術式により、術者はアストラル界の精神体を夢界の存在状態へと一時的に再構築することで、精神体を夢界の深層領域へ安全に送り込むことが可能になったのだ。

 

 赤の魔道士団は当初、夢界を利用して、通常の手段では接触できない他次元の生物の潜在意識から情報を抽出しようと考えていた。赤の魔道士団の魔法使いは《Astral Projection(アストラル投射)》を通じて自身の精神体を夢界に送り込み、特定次元の生物が抱く夢を辿り、その意識から魔法的・政治的・次元的情報を収集していた。

 

 ある時、赤の魔道士団の高位魔法使いが、次元的な知識を探して夢界を探索していた際、偶然にも異常な夢の兆候を発見した。それは非常に微弱で、かつ極めて異質な波動を持つものであり、明らかに通常の多元宇宙に属する存在の夢とは異なっている。

 

 赤の魔道士団は好奇心を抱き、《Dream(夢のたより)》──他者の夢に侵入し、その内容を自由に操り、干渉できる魔法──を用いて、この未知の波動を放つ夢に直接干渉しようと試みた。

 

 しかし、それは閉ざされた次元の存在の夢であり、女神による強力な封印の影響で通常の方法で干渉するのは極めて困難だった。

 

 そこで赤の魔道士団は、《Dream(夢のたより)》の魔法を大きく拡張・改良することを計画した。彼らは、膨大かつ制御困難な嵐のような魔力を秘めた少年タヴに目をつけた。タヴの特異な魔力波動は、極めて遠距離にある次元間の接触を可能にし得る強力な媒体として理想的だったのだ。

 

 赤の魔道士団はタヴを魔法的に深い眠りへと誘導し、彼の精神を強引に夢界の深層領域に送り込んだ。その後、自身も《Astral Projection(アストラル投射)》を行使し、タヴの夢を中継点として夢界の深層へアクセスする方法を取る。つまり、タヴの持つ特異な魔力が、閉ざされた次元へ干渉するための「触媒」となり、彼の夢が次元境界を超えた精神干渉の通路として機能したのだ。

 

 タヴの魔力波動によって、閉ざされた次元の存在──無名の魔族の精神が初めて夢界に顕現したのは、この実験が原因だった。本来、女神の封印によって隔絶され、多元宇宙から完全に遮断されていた魔族の精神波動が、タヴの魔力に引き寄せられる形で夢界に微かに滲み出したのである。

 

 赤の魔道士団はタヴの夢を媒介として無名の魔族との精神的接触に成功したが、その交信は直接的な言語や通常のコミュニケーションとは程遠く、感情やイメージ、概念の断片が複雑に交錯するような抽象的なものであった。魔族はタヴの持つ「外的で特異な魔力」に対し強い好奇心を示し、外界からの干渉をさらに呼び込んで自身の環境に変化と進化を促したいと願った。

 

 赤の魔道士団側もまた、無名の魔族との偶発的接触により閉ざされた次元の存在を初めて確信すると共に、強力な次元結界の向こう側に存在する未知の世界へ侵入し、影響力を広げるという目的と合致する可能性を見出したのである。

 

 双方の利害はここで奇妙な一致を見せ、内側から魔族が次元結界を弱める方法を、外側からは赤の魔道士団が次元干渉をさらに高度化させる方法を模索する形で協力関係が生まれた。

 

 やがてタヴは赤の魔道士団の束縛から逃れ、多元安定機構へと保護されたが、魔法使いたちは諦めることなく次元干渉の魔法を精密化し続けた。

 

 高度な魔法研究を重ねた結果、タヴ自身がその場にいなくとも、タヴが残した魔力波動の痕跡を再現した触媒を生成し、《Dream(夢のたより)》と《Astral Projection(アストラル投射)》を通じて再び次元を超えて干渉を行う手法を確立するに至った。

 

 赤の魔道士団はこの触媒を用いて、《Astral Projection(アストラル投射)》で自身の精神体を夢界へと送り込み、無名の魔族と共に次元境界線に直接作用する特殊な実験を行った。

 

 彼らが使用したのは、《Gate(次元門)》や《Plane Shift(次元間転移)》に用いられる理論を高度に応用した魔法だった。本来、《Gate(次元門)》は任意の次元間に直接的な通路を開く高位の召喚術であり、《Plane Shift(次元間転移)》は術者自身を別次元に転移させる魔法だ。

 

 赤の魔道士団はこの二つの魔法を組み合わせて、次元間の境界に局所的に強力な負荷をかけ、強制的に微細な穴を穿つ《次元穿孔》という魔法を導き出していた。彼らは夢界を媒介とすることで、この魔法を封印された次元の境界面に直接作用させ、強固な次元を外から揺さぶることに成功したのだ。

 

 一方、閉ざされた次元内部に存在する無名の魔族もまた、赤の魔道士団から伝えられた強力な魔法──《Dimensional Anchor(次元錨)》を応用した魔法と、《Banishment(放逐)》を逆応用した魔法を同時に展開する。

 

 《Dimensional Anchor(次元錨)》は本来、対象を特定の次元に強制的に固定し、次元間の移動や転移を完全に阻害する魔法である。しかし、無名の魔族はこの魔法の特性を逆に利用し、《Banishment(放逐)》の呪文原理と組み合わせて次元間の境界に対して内側から激しい圧力を集中させることにより、強固な次元境界を部分的に不安定化させた。

 

 内側から逆応用の《Dimensional Anchor(次元錨)》と《Banishment(放逐)》による圧力干渉が行われる一方、外側から赤の魔道士団が《次元穿孔》の魔法を夢界を媒介に行使して、境界面を穿った結果、強固な女神の次元にも、門が開いたのである。

 

 夢界とアストラル界は概念的に非常に近接しており、夢界経由で干渉が行われると、その影響はわずかながらアストラル界へと波及する。夢界を通じて次元境界面に生じた亀裂が、共鳴効果により隣接するアストラル界にまで影響を及ぼしたのだ。

 

 結果としてアストラル界の各所に微細な裂け目が発生し、それを察知した多元安定機構、ギスヤンキ、マインド・フレイヤーが調査に動き出した。

 

 閉ざされた次元は、外部から受けた干渉や亀裂に対して自己修復作用を備えていた。その自己修復機能は一定周期で次元境界を監視しており、損傷や裂け目を感知すると周期的に発動するように設計されていた。修復が始まると、裂け目は急激かつ強烈に収縮し、周囲の空間そのものが急激に圧縮され、引き込み現象が発生する。

 

 運命の悪戯か、ある裂け目を調査していたタヴは、ギスヤンキとマインド・フレイヤーとの戦闘中に、裂け目の自己修復現象に遭遇し、次元の内側へと引きずり込まれてしまったのだ。

 

 閉ざされた次元に一時的だが門を開いたという成功体験は、魔法使いたちに《次元穿孔》の実用性を確信させ、さらなる研究を加速させた。彼らが追求した《次元穿孔》の理論は、ギスヤンキやマインド・フレイヤーが用いる位相アンカーという複雑な装置を必要とせず、術者自身の魔力のみを媒介に、直接次元の境界を穿ち、通路を開く可能性を秘めている。

 

 もしこの魔法が完成されれば、未知の次元への移動や侵入を個人レベルで自在に行えるようになり、これまでの位相アンカーに頼る手法は過去のものとなるだろう。

 

 セヴェルスは深い記憶の海から現実へと戻った。彼の前には選ばれし六人の魔法使いたちが整然と立ち並び、深紅のローブが揺れる蝋燭の灯火に妖しく映えている。彼らの瞳には静かな狂気が宿り、その場に満ちた張り詰めた空気は、儀式の成功を予感させるかのようだ。

 

 彼は静かに立ち上がり、懐から精巧な細工を施された小箱を取り出す。箱の中には、微かな光を放つ魔力結晶が納められていた。その輝きはタヴの特異な魔力特性を模倣し、精巧に再現したものである。

 

「これこそ、我々が長きにわたり研究を重ねて作り出した、タヴの魔力の再現触媒だ。すでに我らの同志数名は、この触媒を用いて閉ざされた次元への侵入を果たしている。諸君、我々も彼らに続くのだ。今宵、再び《次元穿孔》を展開し、閉ざされた次元への道を完全に切り開く!」

 

 魔法使いたちは歓喜と狂気に満ちた眼差しで魔力結晶を凝視し、儀式の準備に取り掛かった。室内の空気は急速に緊張と高揚に満ちている。

 

 儀式の間は広大な円形の空間だった。中央には複雑かつ緻密な魔法陣が刻まれ、その中心に魔力結晶が安置されている。結晶はタヴの魔力を精密に再現した触媒として脈動し、微かな波動を周囲に放ち続けていた。

 

 セヴェルスは魔法使いたちに向かって手を広げ、低い声で命じた。

 

「始めるぞ」

 

 魔法使いたちは深紅のローブから慎重な手つきで準備していた宝物を取り出した。各々が手にするのは、淡く輝く緑色のヒスイの宝石と、複雑な装飾彫刻が施された銀の延べ棒だった。魔法に必要なこれらの貴重な品々は、瞬時に魔力の光に飲み込まれ、淡い燐光とともに消滅していった。

 

 物質的な媒介が消えると同時に、魔法使いたちは深い瞑想状態へと入り、セヴェルスの魔力によって《Astral Projection(アストラル投射)》が展開されていく。セヴェルス自身を含む、計七名の意識がゆっくりと肉体を離れ、タヴの魔力の再現触媒が放つ波動を媒介として夢界へと接続されていった。

 

 夢界に漂う魔法使いたちの意識は、ゆっくりと絡み合いながら、一つの巨大な流れとなって境界を超え始める。

 

 ぼんやりと光る星雲のように漂いながら、徐々に互いの存在を確認し合った。意識は透明な波紋のように広がり、次第に絡まり合いながら一つの巨大な流れを形成していく。その流れの中心には、強力な引力を放つ結晶体のような光が存在していた。それはタヴの魔力の再現触媒が、次元を超えて反響したものである。

 

 魔法使いたちの意識がその輝きに触れると、夢界の空間がわずかに揺れる。闇の中にはかつてタヴを媒介として接触した無名の魔族の痕跡が薄く漂い、幽かな影のように揺らめいていた。

 

 セヴェルスは慎重にその微かな痕跡を観察し、自らの精神を集中させて道筋を辿った。他の魔法使いたちも、細心の注意を払いながらその痕跡を追い、意識の網目を潜り抜けていった。

 

 精神体となった彼らは、意識の架け橋を利用し、夢界の深層を流れる不可視の経路を通じて、徐々に閉ざされた次元の境界へと近づいていく。無名の魔族と接触した際に残された次元干渉の痕跡が、夢界の奥深くに微細な通路のような繋がりを生み出していく。

 

 その繊細な通路を通じて精神が滑り込み、徐々に次元間の境界に近づいていくと、セヴェルスは慎重に合図を送る。

 

「ここだ、《次元穿孔》を開始せよ」

 

 魔法使いたちは迅速に反応し、あらかじめ用意していた魔力の再現触媒を中心に意識を集中させた。《次元穿孔》は、魔力を局所的に収束させて次元境界面を一時的に破る高度な魔法であり、次元封印に微細な亀裂を意図的に形成することを可能にする。

 

 ただし、その亀裂は女神の次元の自己修復機能によって短時間で修復されてしまうため、恒久的に維持することはできない。

 

 魔法使いたちは再現触媒を中心として強力な魔力を一気に放出し、《次元穿孔》を境界に打ち込んだ。刹那、次元境界は激しく歪み、微かな亀裂が急速に広がってゆく。

 

 かつて最初に境界を揺るがした際には、閉ざされた次元の内側から無名の魔族が協力し、《Dimensional Anchor(次元錨)》や《Banishment(放逐)》を駆使して同時に内側から圧力をかける必要があった。だが今回は、前回の次元干渉で境界面に生じた微細な傷跡や魔力の残留痕跡が僅かながら残っており、次元の境界が脆くなっていた。

 

 さらに、タヴの特異な魔力を模倣した触媒を用いて精度の高い魔法を展開することで、外部からの干渉だけで一時的に通路を開くことに成功したのである。

 

「門は開かれた、侵入せよ!」

 

 セヴェルスの指示の下、彼と魔法使いたちは次々と精神体を境界の亀裂へと滑り込ませた。亀裂を通過すると、《Silver Cord(銀色の命綱)》を通じて肉体と所持品が引き寄せられ、即座に次元の内側で実体化を果たす。

 

 全員が侵入したことを確認すると、セヴェルスは安堵とも興奮ともつかぬ息を静かに吐き、周囲に広がる異質な空間を慎重に観察した。樹齢数千年はあろうかという巨大な樹が遺跡を覆い、木漏れ日が枝葉を通じて柔らかな光を降り注いでいる。その美しい光景とは裏腹に、遺跡の内部は何も残っていない空虚な空間が広がっていた。

 

 彼は周囲を見渡した後、ゆっくりと手を掲げ、静かに指示を出した。

 

「我々の侵入は完了したが、ここは既に敵勢力の目が届く可能性が高い。迅速に現地に活動拠点を築き、防衛体制を整える必要がある」

 

 魔法使いたちは即座に行動を開始した。一人の魔法使いが慎重に《Sending(送信)》を唱え、先行して潜入した仲間との連絡を試みた。《Sending(送信)》は内容を心中だけで送ることが可能だが、セヴェルスと周囲に共有するため、あえて声に出して告げる。

 

「司祭長セヴェルス到着、大樹に覆われた遺跡付近。そちらの状況と現在地を報告せよ」

 

 短い沈黙の後、魔法使いの表情がわずかに緩み、セヴェルスに静かに報告した。

 

「司祭長、《Sending(送信)》で応答あり。仲間はすでに安全な拠点を確保済みですが、《Teleport(瞬間移動)》のための位置特定が必要です。これより《Scrying(念視)》で司祭長の位置を特定し、現地で確保した《Associated object(関連物品)》があった場所まで誘導すると」

 

 《Teleport(瞬間移動)》は非常に強力な空間転移魔法だが、移動先の座標を術者が正確に把握していない場合、深刻な問題が起きる危険がある。

 

 最も軽い誤差でも《Off Target(座標ずれ)》となり、本来の目的地から一定の距離と方向を逸れた場所に出現してしまう。逸れる距離は術者が設定した転移距離の数割にも及び、場合によっては危険な状況に陥る。

 

 また、《Similar Area(類似領域)》という現象が発生することもある。これは目的地と視覚的・構造的に類似した別の場所に転移してしまう現象で、最も近くにある似たような環境に出現することになるが、場合によっては海や大陸を越えて遥か遠くへ飛ばされる可能性もある。

 

 そして最も危険なのが《Mishap(大災難)》だ。この現象が起きると転移の魔力が暴走し、対象者は激しい魔力の衝撃に巻き込まれ、深刻な負傷を負う。さらに、この転移事故は一度に何度も繰り返されることがあり、その度に負傷が重なってしまう危険性がある。

 

 これらを防ぐために、術者は《Associated object(関連物品)》──過去六ヶ月以内に目的地から持ち出した物品──を利用することがある。この物品があれば座標が魔法的に明確となり、安全な転移が約束されるのだ。

 

 セヴェルスは軽く頷き、冷静に指示を出した。

 

「よろしい。《Scrying(念視)》を受け入れる。我々を確実に移動させるための座標誘導に協力するように全員に伝えよ」

 

 《Scrying(念視)》──特定の対象を遠隔から魔法的に視覚で捉える強力な占術魔法。対象が術者の意識を受け入れれば、自動的に視覚的な繋がりが確立し、距離を問わず位置の特定が可能になる。

 

 ほどなくして周囲の空間に微かな波動が広がり、目に見えぬ視線がセヴェルスの周囲をゆっくりと探り始めた。彼はその視線を一切遮ることなく、自ら進んで魔法の探査を受け入れた。視線が明確にセヴェルスに固定されると、再び《Sending(送信)》による短い連絡があった。

 

「司祭長、座標が確認されました。これより誘導を開始します。指示された方向へと速やかに移動してください」

 

 誘導されるまま、セヴェルスたちは慎重に歩を進める。魔法使いは繰り返し《Sending(送信)》を用いて詳細な指示を伝え、数分後、彼らは朽ちかけた石柱のある小さな広場へと到着した。

 

「ここが《Associated object(関連物品)》を回収した場所で、今から迎えを送るとのことです」

 

 セヴェルスは魔法使いたちを再び集合させた。ほどなく空間が歪み、紫色の光が揺らめくと、黒いローブを纏った魔法使いが姿を現す。

 

「司祭長セヴェルス、お迎えに参りました。《Associated object(関連物品)》により安全な移動が確定されています。速やかに拠点へお連れいたします」

 

 セヴェルスは無言で了承し、全員に即座に《Teleport(瞬間移動)》への備えを指示した。黒いローブの魔法使いはすぐに呪文を唱え、再び空間が大きく歪む。一瞬のうちに、彼らはすでに構築された拠点の内部へと移動していた。

 

 拠点は巨大な遺跡の一部を補強し、魔法的な結界と防護術が幾重にも施され、外部からの探知を完全に遮断していた。先行していた魔法使いたちが恭しく迎え入れ、深く頭を下げる。

 

「司祭長セヴェルス、お待ちしておりました。拠点の防衛体制は万全です。敵勢力に感知されることはないでしょう」

 

 セヴェルスは周囲を見渡し、満足げに頷いた。

 

「ご苦労であった。諸君、改めて計画を確認する。我々はここを拠点としてタヴを探し出し、その内に眠る魔力を暴走させ、次元の封印を内側から破壊する。これにより、我々の悲願である《次元穿孔》の理論を完全なるものへと導き、その魔法を完成させるのだ。慎重かつ迅速に行動せよ」

 

 魔法使いたちは力強く頷き、深い決意を固めた。セヴェルスは拠点の中央へ進み出ると、荘厳に両手を広げ、静かな威厳をもって魔法使いたちに告げる。

 

「我らが主オルクス様の望みを叶えるため、世界を混沌と死に導かん。我らの行く手を遮るものはない」

 

 魔法使いたちは深紅と黒のローブを広げ、低く力強い声でその誓いに続く。最後にセヴェルスは締め括りの言葉を静かに、しかし力強く唱えた。

 

「Ḫenu isfet em ta(世に混沌のあらんことを)」

 

 その誓いは重々しく拠点の空間に響き渡り、魔法使いたちの狂気に満ちた忠誠の叫びが共鳴し、やがて静かに闇の中へと溶け込んでいった。

 




最後までお読みいただきありがとうございました。
更新は不定期ですが、じっくり丁寧に進めていきますので、気長にお付き合いいただければ幸いです。
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