秘封の話 人生の丸つけ   作:きんつば

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Front:Prologue
一話 解なし


 

 

 

答えを考えよう。

 

何でもいい。でも、出来るだけ難しい問題の答えを考えよう。永遠に存在するモノとか、生きることの意味とか、宇宙の外側とか、生まれ変わりはあるのか、無いのかとか。そんな、分かりはしないモノの答えを導きだそう。きっと、誰もが満足する答えはでないだろうけど、証明することだって出来やしないけど、自分の中で納得はできる。

 

自分なりの答えを考えよう。

いや、それはおかしいと誰かは思うかもしれないけど。もしかしたら、自分以外の人たち皆にそれは答えではないと言われてしまうかもしれないけど。自分の答えを提示していこう。

 

それが、自分らしく生きるってことだから。

 

そして、後は丸つけさえすれば完璧だ。

あの時の自分はダメだったとか、でもその後の自分はらしかったな、って。

そんな自分の丸つけを。

 

正しいか正しく無かったとか、そんなのは誰にだって判断出来ない。同じ人間なんだから。個人の基準はバラバラだからさ。

 

だから、自分らしかったか、自分らしくなかったか、そこで丸つけをしよう。

それだったら簡単だからさ。何よりわかりやすい。

 

そして、そんな生き方の方が『俺』らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

科学は進歩した。

 

今では人類が月面旅行を簡易なものとし、襲いくる自然の脅威に対して耐性を持ち始めている。だか、それでも日本の自然風景は数十年前とほぼ変わっておらず、四季の彩りは不変だ。それは喜ばしいことだが、同時にその事に対して一種の不気味さを感じる自分がいることも事実だ。そんな複雑な感情をちっぽけな自分が抱いていても、世界は滞りなくまわっていくのだが。まぁ、それは当たり前のことか。

 

 

「坂本 一真」

 

夕焼けに染まった教室の中、自分の担任を勤めている男性の声が聞こえた。自分は少し思考にふけていたので、反応が一瞬遅れてしまう。

 

「……なんでしょうか」

 

「ハァ、これはどういうことだ」

 

そういい目の前の担任教師は机の上をトントンと叩く。そこにはある一枚の紙が置いてあった。俺は机を挟み教師と向かい合って椅子に座っているため、それをお互いが見下ろして見るかたちになる。

 

「…この紙には自分のこれからの進路を書いてから提出しろと言ったはずだ。なのに、なんで何も書かずに提出する」

 

その紙には書くべきところに何も手をつけていなかった。ああ、やっぱり気づかれてしまったか、そう思い心の中でため息をつく。

 

「…やっぱりバレちゃいました?」

 

「なにがバレちゃいました、だ。お前だけだよ。名前すら書かずに提出したアホは」

 

そう言い目の前の男性教師は大きくため息をつく。この人のため息を自分はもう何回

見たのだろうかなぁ、とまた今この場では関係ない思考に移りそうになってしまう。これでは目の前の人物に対して失礼だな、と思い思考を切りかえていく。

 

「オレもまさかお前がこういうことをするとは思わなくて驚いているよ。問題だって起こしたことがないし、学業や勉強だって…まぁ良いとは言えないが悪いわけでもない。それなのに白紙のまま提出とは…何かあったのか?」

 

こちらを気づかってくれる姿はとても嬉しかった。教師としてしっかりと生徒に向き合い、対応してくれようとしているのが理解できた。だが俺は、そんな彼に対して偽りの笑みを浮かべて、いつも通りに嘘をつく。

 

「いや、ちょうどその時寝ぼけてたから、書いてあるつもりで提出しちゃったんですねきっと。スミマセン、また、書いて持ってきます」

 

俺はそう言いながら机に置いてある紙を二つに折り畳み、通学用のバックの中にしまう。

 

「夏休み前なのにお手を煩わせてしまって本当にスミマセン。でも、僕は大丈夫です。ありがとうございました。」

 

そして俺は席から立ち上がり、自分のバックを持って退出する。もちろん最後に一礼することを忘れずにして。彼はそんな俺にこう言った。

 

「…お前だけは、その紙の提出期限を夏休み後にしてやる。それまでに自分なりの答えを出してこい」

 

「はい」

 

俺はその言葉を聞いて特に考えることもせずに言葉を返した。そして学校を後にする。今俺は高校の三年生、なのに進路の方向が全く定まっていない。だから先生は心配しているのだろう。それにしても、「答え」とは。数学とかだったらわかりやすいんだけどな。人生とかそんなモノの答えは曖昧いなモノだ。いや、そもそも「答え」があるのか。それすら分からない。

 

「答えって、定まってるものなのかなぁ」

 

そんな俺の独白は、夏の蝉の鳴き声にかきけされて響かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰りに店に立ち寄り、足りなくなったシャープペンシルの芯を買った。その時に足りないものが他に何かあったか考えていたので時間がかかってしまった。その後は、いつもと変わらず真っ直ぐ家に向かって歩いていく。特に何も考えず、何に対しても目を当てることはなく。歩いていった。何時からだろう?何に対しても興味を示さなくなったのは。ずっと昔からだろうか。いや、初めから俺はこうだったけかなぁ。それすら、忘れてしまった。

今では日が完全に沈み、俺の歩いている道を照らすのは、外灯の光と店から漏れる光だけになっていた。昼間よりも蝉の鳴き声が大きく感じる。

家に帰り、今日は早く寝てしまおう。

そう考えていた時、一つの人影が俺の前に現れた。その人物の足どりは定まっておらず、前に進む度に右へふらふらと、左へふらふらと動いている。

 

まだ夜の7時すぎなのに酔っぱらってるのか、と俺は目の前の人物に対し呆れを感じ、その人物をさけるために路の片側によった。俺以外の人たちも同様に、俺と同じ行動をとる。だが、

 

「あぁ~おいそこの男の子ちょっと~」

 

なぜか、俺だけが絡まれた。

運命とは残酷だ。

俺は酔っぱらいに絡まれた経験などなく、これが初めてのものだった。だから適当に受け流すスキルなど持っている筈がなく、故に、まともに対応してしまった。

 

「はい。なんでしょうか?」

 

「わ~たしの家って何処だっけ~?」

 

「いや、そんなの僕は知りませんよ」

 

「ええ~?何で知らないの~?」

 

会話が噛み合わない。こっちの言ったことなど聞く筈がなく、話している話題が次々に変わっていく。

勘弁してほしい。

何で知りもしない酔っぱらいと話し込まないといけないのか。もうこっちは帰りたいのだ。しかし、目の前の酔っぱらいはそれを許す筈がなく、中々話を終わらせることが出来ない。周りの人たちも視線をこちらに向けるだけで、助けに入ってくれない。俺が走って逃げ出すことを考え始めていたとき、目の前の酔っぱらいーー白いシャツに黒いカーディガン、そして黒い帽子を被った茶髪の彼女はこう言った。

 

「ーーあ、やばい吐きそう」

 

…それはマズイ。

俺は今までかつてない程に困った。今この道にいるのは俺だけじゃない。周りにこちらをちらちらと見る視線は先程よりかなり多くなっている。そんな中、吐いたら……黒歴史以上のものだろう、彼女にとって。

 

「すみません。こっちに来てください」

 

俺は彼女の手を引っ張り路地の中に入り込む。幸い、この路地を抜けると河川敷がある。そこの草むらだったら目立つことはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今日は厄日か」

 

俺は彼女を草むらに誘導した後、一人河川敷の斜面の草むらに寝そべっていた。

酷い目に遭った。運がなかったとしか言えないだろう。まさか、ピンポイントで俺だけ絡まれるとは。はぁ、と一つため息をつく。なぜか今日はため息を見る機会が多いな、と漠然とそう思った。

 

「…ああ、ごめん。迷惑かけたよ」

 

そう言い、俺にストレスを与えている彼女が戻ってきた。さっきよりも大分楽になったらしい。謝罪を言えるあたり、冷静に思考出来る余裕も戻ってきたのだろう。

これでようやく帰れる、そう思った俺はすぐに立ち上がりその場を後にしようとする。

 

「いえ、別にいいですよ。それでは」

 

「いや、ちょっと待って」

 

引き留められてしまった。おいおいこちとら早く帰りたいのです。なぜ貴女様はそこんところ理解出来ないのでしょうか?俺がわりと真面目に嫌がって思考が狂って来はじめた時、彼女は言葉をこう続けた。

 

「私は宇佐見 蓮子。少年の名前は?」

 

「…坂本 一真ですけど」

 

「一真ね。うん。突然ですまないんだけどさ、一真」

 

彼女はそこで言葉を区切り、頬を赤らめる。そして頭の後ろに右手を当て、笑みを浮かべながらこう言った。

 

「ーーお花を摘むにいきたいんだけど……場所わかる?」

 

俺はその時こう思った。いや、この場に直面した人なら誰だってこう思ったはずだ。

 

 

 

 

 

 

ーー今まで吐いてた人が、取り繕ってそう言っても意味なくね?と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーこれが始まり。『俺』の「答え」を探す夏の幕開けだった。

 

 

 

 

 

 

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