秘封の話 人生の丸つけ   作:きんつば

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二話 約束の場所で

 

 

 

 

 

 

「えー、皆さん。明日から夏休みに入るわけですがー」

 

 

 

 

明日は7月25日。高校は夏期休暇へと入る。

今終業式を迎えている周りの同級生は、先生にバレないように静かな声で「今回も海行く?」「でも今年受験だよ?行くの?」等と楽しみ半分、悲しさ半分の様子のようだ。

そんな周りの空気の中俺だけは全く別の心持ちで、完全に上の空でこの終業式に出席していた。

楽しみでもなく、悲しいでもなく。ただこの前の酔っ払いの彼女の顔を頭に思い浮かべながから、ただただ、愚直にまで真っ直ぐに「ああ、今日も厄日になりそうだ」と、この後の用事のことを今になってすごく面倒くさがっていたのだ。

 

 

 

終業式を終え学校を出た後、俺は近くのファミレスのような店に入った。始めてきた店だが、中はとても綺麗で入っている客はあまりいなく、騒がしくない。こんな店が近くにあったのかと驚きつつも、ある人物を捜し店内を見る。

……見つからない。どうやら、俺の方が早く来てしまったらしい。右腕に着けている腕時計を視ると、約束してある時間の5分前を指していた。まだ来てないようだから先に席をとっておこう思い、空いている4人用の席に腰を下ろした。来る人数は一人の筈だが、備えておいて損はないだろう。そして、この席は入口から見えやすい。彼女だってすぐに気がつくはずだ。後は静かに読書でもして待ってればいいか。

 

 

 

 

「おー。一真君早いね」

 

約束した時間から一時間後。ようやく、ようやく彼女は現れた。昨日と似た服装で、元気よく笑いながら、彼女はこちらに向かってくる。

そんな彼女ーー宇佐見 蓮子に対して、俺は笑いながら挨拶をする。

挨拶はとても大事なモノだ。だからしっかりと心を込めてしなくてはならない。たとえ、相手から約束した事なのに相手が遅れてしまっていても。たとえ、遅れたくせに反省している様子など相手から微塵も感じられなかったとしても。心を込めて対応する。誠意をもって、対応を。

 

「……いや、私が悪かったから。だから顔に青筋をたてて笑わないで?もう顔に『お前殴るぞ』って描いてあるから、許してください」

 

ああ、心を込め過ぎてしまったようだ。でもしょうがない事だと思う。この状況だったら誰でもこうなってしまうと思うからだ。

前日、俺は結果的に彼女をトイレに連れていった。その後帰ってきた彼女が、「何かお詫びをしたい」と言いだしたのだ。そんな彼女に対して俺は『このままお礼だけを言って立ち去るのが貴女の僕に対する最高の贈り物です♪』という本心は言わず「いえ、その言葉だけで充分ですよ。では」日本人らしい言葉を言い、立ち去ったのだ。

 

ーーしかし、結果はこの通りである。何故こうなってしまったのか。その理由は良く言えば『彼女の熱心な気持ちに負けた』と、悪く言えば『超しつこかった』と言える。いや、良く言っても超しつこかった。

 

だって俺が何回断っても「ちょ、ちょっと待って、ちょっと待って」と言いつつ進路を妨害してくるのだ。流石の俺もこのパターンが何回も続いてしまうと誠実な態度を保つことができず、50メートル走6.6の体力テストぎりぎり十点満点の俊足を繰り出し彼女のディフェンスから脱出を試みた。

だが、奴はーー宇佐見 蓮子は信じられないことにそんな俺を追い越し前に立ち続けたのだ。「ゾーンに入った私は……止められないわよ?」とか中二臭いことを言い出した時、結局俺は折れることにした。絶対彼女の呪縛からは解放されないと、この中二病の進み具合を診て察したのだ。酒が飲める年になってこれだと末期である。救いようがないだろう。

まぁ本当のことを言うと、こんなに真剣に頼み込んで来てくれたのだから、その気持ちを無下にするのは人間としてどうなのか?と思ったから彼女のお礼を受けようとし、酔いが覚めてきた彼女の態度はそれほど嫌なものでもなく、別に面倒なことはないだろうと思ったからこそ、そのお礼の約束を了承したのである。

 

ーーそして、その結果が、これである。

 

……許されざるよ。これは絶対、許されないと思う。もし俺が時間に厳しくない外国人だったとしたら「オゥ!来てしまったのか!今から君の分のランチも食べるところダッタノ二!」なんて言う軽快なジョークを交えて彼女に反応出来たかもしれない。だが生粋のジャパニーズである俺は、怒って髪の毛が金髪になり目が緑色になっても可笑しくないのである。光る雲を突き抜けフライアウェイである。しかし、そこを上手く隠しながら余裕を見せるのも日本人なのではないのだろうか?これは俺自身の偏見かもしれないけどもね。……まぁ、結果として俺は自身の日本人像を体現することが出来ず顔にモロに出てしまい、まだまだ自分も子供だなと再認識することになったしまったわけだが。

 

「だからごめんなさいって。……お詫びとして、今回このお店の値段は年上の私が請け負ってやろう」

 

「何様だこの野郎…です。ハハッ」

 

一瞬、素が出そうになったが何とか堪える。けっこうはみ出してしまった気がするが、まだ大丈夫だ。俺は常識のある人間、常識のある人間。間違っても草むらで胃の中のものを逆流させた後、ゾーンに入る常識殺しではないのである。

 

「じゃあ改めて自己紹介しますか」

 

宇佐見 蓮子は俺の向かいの席に座り、被っていた黒の帽子を座っている椅子とは別のもうひとつの椅子の上に置いた。彼女は先程と変わらず自分のペースで話を進めていく。

 

「ーー私は宇佐見 蓮子。この辺りに住み始めたばっかりの大学生よ。」

 

「僕は坂本 一真。今年で高校三年生です。」

 

「へぇー、三年生。ってことは受験だから大変だねぇ」

 

「まぁ、そうですね」

 

 

ーー会話が始まって数分、自分が会ったばかりの人とスムーズに会話していることに驚いた。

最初はぎこちないモノになるだろうと思っていたのだが、気まずい雰囲気にならずに会話は進む。普通は『よく知らない相手だから一歩を踏み込めない』そんな警戒心が表に出てしまうものなのだが、全くと言っていいほどそれはなかった。

それは無意識の内に彼女が発しているモノ。謂わば人間が稀に持っている天性の才能から来るモノだろう。このタイプの人間には人がよく集まる。やれ「理由はわからないけど、この人といると楽しい」だの、やれ「この人なら信用できる」だのと言う人望を集める才能。それを彼女が持っているのではないだろうか。

……でも、俺はそのような人と話すのが苦手なタイプだったはずなのだが。不思議なものだ。

もしかしたら彼女とは何かしらの波長があっているのかもしれないな、と思ったが直ぐにその考えを頭の外へ振り払う。

いや、絶対にそれはないだろう。彼女との出会いを思い返すと確信することができる。リバース・レディ(酔っぱらった女の末路)の異名を持つ彼女と俺では比べることすら、おこがましい。

 

「この辺りに住み始めたばかりと言うことは、大学一年生ですか?」

 

「うん、東京から引っ越してきたんだ。高校生の頃は早く一人暮らししたいなって思っていたんだけど。いざ始めてみると大変でね」

 

「そうなんですか。でも、それはそれで楽しいんじゃないですか?」

 

「まぁ、色んな経験が出来て楽しいね。宇佐見 蓮子19才、今まさに青春真っ只中っでございます!って感じかな」

 

「ハハッ、それは良かっーーうん?」

 

ーー会話が弾んでいた中、俺の常識センサーが頭の中で鳴り響く。しかし直ぐにはその原因が何であるか気づけない。それほどまでに彼女との会話を楽しめていたという事だが、その事は今は置いておこう。

何故、警鐘は鳴り響いたのか。思い当たるキーワードを羅列していく。

 

遅刻した彼女。

弾む会話。

引っ越してきたばかり。

リバース・レディの異名を持つ(と言うか勝手に俺がつけた)彼女。

宇佐見 蓮子19才、今まさに青春真っ只中。

その内のいくつかのキーワードが、俺の頭の中で噛み合った。それは本当に当たり前のことだ。

前を視る。今俺の目に映るのは、夏の向日葵のように明るい彼女の笑顔。それを見て俺は一種の清々しさを覚えながら、そして彼女ならやってしまっても不思議ではないなという納得を多大に感じながら、気持ちを抑えずに叫んだ。

 

 

 

 

 

「ーーお前ッ未成年じゃねぇかッ!!!!!」

 

 

 

素が出てしまったことは反省しよう。だが、最後に一つだけ言わせてほしい。

 

未成年の飲酒、ダメ、絶対。

 

 

 

 

 

 

 




次回は後編みたいな感じになると思います。
感想、疑問点などは気軽に言ってくださると嬉しいです。
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