秘封の話 人生の丸つけ   作:きんつば

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三話 廻る天体

 

 

 

 

 

 

 

「ーーお前はよぉ、俺よりさ、年上な訳だろ?……俺だって法律くらいしってるよ?駄目だろ?未成年の飲酒は」

 

「……はい。その通りです」

 

「だろ?それがお前、なぁ?」

 

「……はい」

 

「はいじゃないんだよバーロー。」

 

時計の針は、午後ニ時すぎを指していた。店の中にいた俺達以外の客達は、昼食後ののんびりとした時間を過ごしている。席に座ってコーヒーを片手に、向かい合っている友達と談笑などをして。今この時間を楽しんでいる。

だが、俺と彼女は違った。

席に座り相手と向き合うという形は同じだが、他の客と違い流れている空気は穏やかではない。それもそのはず、彼女が自ら犯罪をカミングアウトしたのだ。もう、勘弁してほしい。お家に帰りたい。

何故、俺は年上の彼女に説教をしなくてはならないのだ。

しかも俺は彼女と会って全く日が経っていないのに。仲が良いとか以前の問題なのに。

 

「……ハァ」

 

大きく息を吐き、両腕を頭の後ろに組んで天井を眺める。自分と彼女(宇佐見 蓮子)の現状をどのような方向にもっていけばいいのか、分からなくなってしまった。さっきまでは円滑な会話が出来ていたのだけれども、完全に途切れてしまったなと漠然と思った。

まぁそれは、どちらかというと俺の方が悪いのではないだろうか。たとえ彼女が未成年飲酒をしてしまったとしても、それは終わった話だ。警察でも何でもない俺は彼女に説教する必要はないのである。だって、友達ですらないのだし。むしろいきなり説教しだした俺のことを「なんだコイツ?」と思うのが現代の若者の反応ではないだろうか。それが普通なのだろう。

だが、結果として彼女はそんな不機嫌な態度を表面に出すことなく、俺の話を反省して聞いている。それを考慮して考えると、彼女は誠実だと言えよう。しっかり自分の非を認め、反省することが出来ている正直者。うん、きっとそうなのだ。

 

「……でも」

 

そう俺がプラスに考え始めたのに、彼女はでもと声を小さく出して言う。俺はおいおいこれ以上余計なことを言うなよと思いながら、視線を彼女の方へと戻す。

 

「でも、それにはマリアナ海溝より深い理由があるんだ!!」

 

「理由があればやってもいいの?」

 

「……いや、良くはないですけど」

 

……これぐらいで戻した勢い失うなよ。

 

「…まぁ、一応聞いてみますよ。何故そのようなことをしたんですか?」

 

「!!さすが一真君、話が分かる!」

 

うぜえと思い笑ってしまう。にっこりと。この野郎は本当に調子がいいなぁ。

そして彼女は元気を取り戻しその理由を言った。その理由の要点をまとめるとこうだ。

 

・彼女は彼女の友達とあるサークルを作って活動している

・しかし彼女はその友達にほとんどの雑用(事務系)の仕事をさせている

・そしてその友達がサークル報告書なるものを忙しく作成しているときに軽いおふざけの気持ちでちょっかいをだす。

・友達、ぶちギレて帰る

・その翌日から話そうとしたら無視され続ける

・結果、やけ酒←俺と出会ったときの出来事。

 

「……で、どんなちょっかいをだしたんですか?その忙しい時に」

 

「そのメリーに、あ、いや、それが私の友達の名前みたいなものなんだけど。その友達にね「まだ終わらないのメリー?私はメリーがそれを終えない限り、ずっと一人でジェンガをしなきゃいけないんだよ?」って誇らしげに言ってみただけなんだけど」

 

「バッカお前……貴女何してるんですか?そりゃあ怒りますよ」

 

「えぇ?そう?……まあ私だって調子にのっちゃうことはあるんだよ。しょうがない、しょうがない」

 

彼女が言った返答に対し、お前は何を言ってるんだ、と刹那に思ったがそれは声には出さない。彼女は大物だ。

だが思ったことはもうひとつある。それは、この宇佐見 蓮子の友達はさぞ大変だろう、と言うことだ。何せ、こんな宇佐見 蓮子(自称、「私、いつもは調子にのってないです」←この野郎嘘つけ)の相手を毎日しなくてはならないのだ。俺だったら胃に穴がボッコンボッコン空いてしまうだろう。もしかしたらその友達は髪の毛を気にしなければならないレベルにまで達してるかもしれない。心配だ。

 

「でも、どうすれば良いのか……うーん」

 

「素直に謝ればいいのでは?」

 

「いや~。私もそうしようと思ったんだけどね?まず無視されて話を聞いてくれないのよ。ハハッ!」

 

「なんで笑ってるんすか……」

 

コイツ本当に大物だなと再度思った瞬間である。その友達、結構マジギレしてると思うのだが。きっとずっと我慢していた分が爆発してしまったのだろう。同情します。

 

「でも、今回はやっぱりヤバイと思うんだ」

 

「あ、そこはしっかり分かってるんですね」

 

流石に今の自分と友達の現状がよくなさすぎるのは理解できていたようである。大物な彼女は気づくことができないではと思ったのだが、そんなことはなかった。彼女は力無く、その解決方法を俺に聞いてくる。

 

「どうすればいいと思う?一真君」

 

「僕に聞かないでくださいよ」

 

そう言うことは自分で考えてほしい。その友達のことをよく知らない俺では、確実にするべき行動を答えることは出来ないのだから。

 

「いや、一真君は今の私のような状況になったことはない?その時の対処法を教えてほしいのだけど」

 

「なったことはありません」

 

「ないことはないでしょ~。私だって他の友達と一回似たようなことがあったよ。まぁ、その時は話を聞いてくれたから、素直に謝まって許してくれたんだけどね。」

 

「一度もありません」

 

「またまた~」

 

「僕、友達いないので」

 

俺がそう言うと、目の前の彼女は誰が見ても理解できるほど「しまった!」という顔になった。そして俺から目をそらし、口を開く。

 

「へ、へぇー。そうなんだ。じゃあしょうがないな。うん」

 

「おいやめろなんだその目は。別に悲しいと思った事は一度もないですよ。気にしないでください」

 

まあ今まで学校で行われた全ての行事は、肩身が狭い思いをしたが。でもそんなのは俺が珍しいわけではないと思う。下には下がいるものだ。特別というわけではない。

 

「心中察するよ。……苦しかっただろうに」

 

涙ぐみながらそう言う彼女に対して、俺はただただ殴りてぇとしか思わなかった。苦しくなんかないよ。一人でもいいだろうよ。

 

「で、話を戻しますけど。どうするんですか?」

 

俺がそう言うと、彼女は俺に対して同情の眼差しを止め返答した。

 

「ん?ああ、そうだねぇ。……どうしようか」

 

頬杖をつき、店の外をぼんやりと眺めながら彼女はそう言う。その彼女の行動から、彼女は本当に為す術がないお手上げ状態だということが分かった。

俺もそんな彼女にならい、店の外に見える、歩いている人達や風で揺れる木の葉、騒音を鳴らし走っているであろう自動車を眺める。

ーーこんな時でも、世界は廻っている。

俺と彼女が思考を停止し、なにもしなくても。全ては滞ることなく動いている。

それは当然理解し受け止めていることなのだけれど、俺にはその事が今、どうしようもなくツラく思えた。それはいま見ている風景(リアル)が、この世界に俺が必要ない無いということを鮮明に映し出したモノにしか想えなかったから。だから、

 

「ーーいつもとは違うことを、すればいいんじゃないですかね」

 

だから、彼女と彼女の友達の仲直りの方法を、小さく呟いた。

それが今、自分がここにいる意味に、一時的にはなるのかもしれないと思ったから。それだけのために、声をだすことにした。

その俺の言葉を聞き、彼女は外を眺めるのを止め、目だけをこちらに向けて言う。

 

「…具体的には?」

 

「そうですねぇ……人がたくさんいる場所で土下座とかですか?」

 

「それはやだよ」

 

笑って彼女はそう答える。

俺はそれを見て、笑顔が綺麗な人だなとただ思った。彼女は気持ちのいい人間だ。それは顔を会わせて二回目の俺ですら分かることだった。それは彼女が話しやすく、感情が豊かであるからだろう。そしてそれは、彼女の友達だって理解していたはずのことなのだ。だから彼女の友達は、彼女の友達として今まで一緒にいることが出来ていた。……だったら案外簡単で大雑把なものでいいだろ。そんな彼女達なら、これで大丈夫だ。

 

「だったら、適当に何か食べ物でも買ってきて『ごめんなさい』って笑いながらそれをあげれば、許されるでしょう」

 

「…それで本当に仲直りできるかなぁ?」

 

「出来ますよ、きっと」

 

自信を持ってそう答えた。

それで、大丈夫だろう。大体、友達なら適当に日がたてば、知らないうちに元の仲に戻ってるモノなのではないだろうか。人間は忘れやすい生き物なのだから、一時の感情なんて何時までも覚えているわけがない。余程の事がない限り、確実に薄れていって消失するモノだ。そして本当に友達だというのなら、マイナスを忘れてゼロになった時、自然とプラスに変化していくモノ。それが友達と言えるのだろう。

 

だから、言い切ることが出来るのだ。

 

「僕が保証しますよ。……まっ、僕に友達はいないんですけどね」

 

最後に要らないモノをつけてしまい、カッコがつかないなぁと苦笑いしてしまう。

彼女も俺の言葉を聞き、最初は苦笑いを浮かべるが、次に目を閉じながら、

 

「そうかもね…うん、何か気が楽になったよ。ありがとう」

 

嬉しそうに笑い、そう言った。

それを聞き俺は「どういたしまして」と言い、また店の外を眺めだす。今度の風景は、色のあるモノに視えた。俺はそのことを何となくだけれど、嬉しく思った。

 

「それじゃあ、僕は帰りますね。」

 

「ああ、うん。今日はありがとう。なんか、色々と」

 

「いえいえ、色々なことがあったから、楽しかったですよ。では」

 

そう言って席を立ち、店の出口へと向かい歩く。

そして外に出ると、強い太陽の光が今の季節が夏だということを思い出させてくれた。この炎天下の中歩き、家に帰るのかと思うと悲しくなってくる。でも、俺の浮かべている表情は笑顔だったのだと思う。理由は、分からないけれども。

 

「一真君!」

 

さっきまで入っていた店からほんの数歩離れた距離、つまり、ようやく俺が歩き始めた時に彼女に呼び止められた。

後ろを振り返る。その先に見えたのは、彼女の笑顔だった。だが、それは申し訳なさから作られたモノに見える。

 

「その、ね。ここの代金を奢るって言ったでしょ?……だけどね?」

 

正直、この段階でオチは理解できた。理解出来てしまった。

でも、許されるのだろうか?いや、これはもう許す許さないの選択すら無いに等しい。だって、これじゃあ俺は何処までも救われないではないか。初めはしょうがなく酔っ払った彼女に対応し、次に約束した場所で犯罪カミングアウトに付き合い、そして最後が俺が今予想していることだったとしたら、俺はただ損をしただけではないか。

 

「だけども、その、ね?」

 

彼女は胸の前で両方の手を繋ぎ、せわしなく目を泳がす。その姿は、傍目から見るととても可愛らしいものに思えただろう。だが俺にとってそれは、悪夢だった。彼女は悪夢の化身そのものだった。次に彼女から告げられる言葉が、俺にとってのギロチンの刃にはなりませんように、と願いながら彼女の続ける言葉に耳を傾ける。だが、その言葉に情けは無く、俺に届いた。

 

 

 

「ーー財布、忘れちゃった。テヘッ!」

 

「地面に膝と手のひらと額をつけろォオ!!!!!」

 

 

俺は目を見開き、彼女に言葉を返した。そう、今日も俺は厄日だった!

 

 

 

 

 

 




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