確信犯、という言葉がある。
この言葉はよく「悪いこととわかっていながらされる犯罪・行為」の意味で使われるが、これは誤用である。正しくは「自分が行ったことが正しいと信じ、周りが間違っていると考え行われる犯罪」である。つまりすごく簡潔に言うと、自分を信じ自らの信念を貫き通すということである。だが今回は、この間違った意味での確信犯という言葉ほど、宇佐見 蓮子を正確に表す言葉はないだろう。そう、奴は確実に確信犯なのだ。
左手につけている腕時計を見る。時計の針は10時30分を指していた。今日、彼女と俺が約束した時間は午前9時。場所は前と同じ人が少ない喫茶店のような店。
奴は、また遅刻しやがったのだ。これはもう確信犯確定ですよ。なに?遅刻することがお前のトレンドなの?うわぁい、もう俺絶対約束通り来ないから。もう次誘われても倍返ししてやるから。許さんぞ宇佐見 蓮子。マジで許さん。
第一、誘った本人が遅刻するというのはやっぱりダメだと思うのだ。いや、例え誘われたモノだったとしてもダメだとは思うが。……そりゃあ、5分ぐらいの遅れだったら「ごめ~ん。待ったぁ~?」と言われても「いや、僕も今来たところだよ(微笑み)」という感じで返せると思う。
だが、今現在の彼女のように、1時間以上待たされた場合「ごめ~ん。待ったぁ~?」と言われたら誰でも「はい(真顔)」としか返せないと思うのである。一時間も遅刻するというのはそれぐらい罪なモノだと思う。たとえどんなに余裕があった人でも、素になってしまうと思うのだ。酷すぎてね。
まっ、俺だったら「もちろん(半ギレ)」と遅刻してきた奴に返答するが。俺は正直者だから嘘がつけない体質なのである。困ったものだ。
携帯を手にとり、電話をかける。もちろんかける相手は件の彼女。数回、呼び出し音が鳴る。彼女が電話に出ることを信じて待つが、変化は未だに訪れない。もしかして、何かあったのか?と不安な気持ちを抱きだした頃、ようやく呼び出し音は止み、彼女の声を聞くことが出来た。
「あっ、一真くんごめんごめん!今すごく急いで向かってるから!いや~ちょっと今日は人生と言う道に迷っちゃってね!ハハッ!」
「そうですか。そのまま貴女より強い奴に会いに行って下さい。では」
電話をきる。
ハァと一つ溜め息をつき、携帯をポケットの中にしまった。
(まぁ、今回はアイアンクローで許してやるか)
そう心の中で呟き、冷めてしまったコーヒーを一口飲んだ。砂糖も何も入れてないコーヒーが、いつもより苦く感じた。
ーーその時ふと、通路を挟んだ隣りの席に座っている、少し変わった外国人の女性が俺の視界の隅に映った。
肩まで伸ばした金色の髪に、陶器のように綺麗な白い肌。紫色の服に、頭にはナイトキャップのようなふわっとした白帽子が乗っている。
俺は、彼女を見て動きが静止した。それは何故か。始めに言っておくが、俺は別に彼女の格好に驚き固まったわけではない。まぁ、確かに心の中ではツッコミまくってはいた。「なにその帽子、眠いの?貴女の自国の文化なの?何文明なの?」っという感じに疑問が溢れだしてはいた。だが、それが理由ではないのである。俺が動きを静止しするに至ったのは、彼女が今読んでいる本が目に入ってしまったからなのだ。
そう、その本、『本当はあった!?幻想郷の謎』を彼女が読んでいたからなのだ。
……最近の若い女の子にはブームになってるのだろうか、その本。ベストセラーにでもなってるのだろうか、その本。それ作者には悪いけどダメ本だよ。偏見でも何でもなくダメ本だよ?実際読んだから俺は。その真髄をとくと味わったから。もしかして俺がおかしいのだろうか。俺がその本の面白さを理解できていないだけなのだろうか。
「……。」
俺が心の中で呟き続けている間も、彼女は集中して、熱心にその本を読んでいるように見える。何故そこまでその本を読み続けてられるのか。
まさか……彼女も同じタイプなのか。 蓮子・ザ・ワールドの使い手なのか。 うっへい、彼女は見た目美人、中身は
そう、俺が希望というモノにすがりたいと思った時、パタンと音をたて隣の彼女がその本を閉じた。そして、それを持ったまま大きく一つ溜め息をつき、険しい表情を浮かべ言った。
「これはダメ本ね」
「だよな」
「えっ?」
ーーやばいやばいやばい。
あまりに共感を得られたので、心の声がついでてしまった。やばいぞこれは。
だって彼女からしたら、俺は変人に他ならない。ただ隣りに座ってた赤の他人が、自分の一人言に反応してきたのだ。これは某映画にある、ヒロインが作詞した歌を盗み聞いて「お前さぁ、コンクリートロードはやめたほうがいいと思うぜ?」と言う男の行為と等しい。違うんだ、俺はストーカーじゃない。偶然反応してしまっただけなのだ。あんなジゴロと同類にしてもらってはこまる。急いで上手く誤魔化さなくては。
「だよな、コンクリートロードはないよな」
「……。」
……しまったぁ!ごまかそうと思ったら、某映画を見ていた時の自分の感想を言ってしまった!本当は「だよな、本家の英語版カントリーロードこそ至高だよ」と言おうとしたのに。あっ、どっちこっちジブリがいっぱいコレクション。全然誤魔化せてないじゃないか。
「いや、やっぱりラピュタはあると思うんですよ」
「はい?」
落ち着け落ち着け。なんで自分のジブリ作品ベスト一位について語ってるんだ。彼女、ぽかんとしちゃってるじゃないか。まずは落ち着くんだ。……でもラピュタはあったんだよシータいや違う。落ち着けぇ!!
「そういえば知ってます?ラピュタのビデオのパッケージにある飛行船に、トトロが描いてあるんですよ。びっくりしましたね、見つけたときは。こんなにはっきりと描いてあるのに、気づいたのは買ってから二年後だったんですから。やっぱりジブリは侮れない。ディズニーに対抗できますよ。うん」
「……ふふっ」
やばい、死にたい。ナイアガラの滝に落ちたい。何を言ってるんだ俺は。彼女笑っちゃってんじゃねぇか。いや、何で笑ってるのか知らんけど。それにやっぱディズニーには勝てないに決まってんだろ。ネズミに鼻で笑われちまうよ。ハハッ。いやいや違う、落ち着くんだ。ジブリは忘れろ。
「……いや、すみません。意味わかんないこと言って」
「いえいえ。ーー私もラピュタ好きですよ?」
「マジですかっ」
ガタッ、と席から反射で立ち上がってしまう。
おい、なぜ反応してしまったんだ俺。そして何故乗っかってきたんだ彼女。もうわけわかんないよコレ。混沌が混沌を呼び始めたよ。何で初対面でこの会話の流れになるんだよ。
……だが、悪くない(迫真)
「紅の豚が一番好きだと言う人は、どうかしてると思いませんか?」
「ッ!激しく同意するわ!」
◆
私の友達、マエリベリー・ハーン。彼女のことを、私はメリーと呼んでいる。
彼女は変わった女の子だ。ミステリアス、と言ったほうが聞こえがいいか。まぁ、とにかく不思議な女の子。そんな女の子が、私の親友。
坂本 一真くん。彼は最近私が知り合った年下の男の子。いつもむすっとした顔をしていて、怒ることの方が多いけれど(まぁその原因は私にあるのだが)優しい、そんな男の子。
そんな二人を、私は同じ場所に呼び出していた。もちろん、私が一真くんをメリーに紹介するためである。
何故メリーに紹介しようと思ったか、それは一真くんが、不思議な少年のように感じたからだ。私やメリーとは違う、どこか変わった存在。それを感じたから、彼のことを詳しく知りたいと思い、メリーに紹介しようと思ったのである。メリーは聡明で頼りになるからね。彼女なら何かわかるかもしれない。
ーーまぁ、本当は三人仲良く出来たらいいなと思ったから、こういう約束を二人に取り付け、話し合おうと思ったのだけども。
最初は上手くはいかないと思う。メリーは中々心を開かない人間だ。彼女は無意識の内に、初対面の人に壁をはる癖がついてしまっている。そして例に漏れず、一真くんもそのタイプに属すと思う。いつもむすっとしているし。それが彼の通常な性格なのだろう。
でも徐々に、少しずつ仲良くなっていけたらなと思うのだ。時間は有限だが、まだ私達には余裕がある。だから、もし難しいと途中で思っても、諦めず頑張っていこう。そんな決心を心に秘め、今日という日を私は迎えた。寝坊してしまったが、その決意は未だ揺るがない。確かなモノだ。
……だったのだが、
「始めてゲド戦記を見た時は驚きますよね。なんか始まって早々、主人公が人を殺すし。僕、唖然としちゃいましたよ」
「そうよね。それに見終わって『あれ?結局ゲドって誰?』ってタイトルに疑問を持ってしまうのよね。ゲド戦記なのにゲドが分からないってどうゆうことなのよ。少しやりきれない思いを抱いたわ」
「フッ、確かに」
なんか、紹介する以前に仲良くなってるんだけど……
「あっ、蓮子遅かったわね。こちらは坂本一真くん。この店で知り合ったのよ。」
「どうも初めまして。坂本一真です」
「いや、私達知り合いよね?一真くん。何で初対面装ってるの?」
「ははっ、ジョークですよジョーク。まぁ座ってください蓮子さん」
「う、うん」
戸惑いつつも、促された通りメリーの隣に座る。
あれ?一真くんいつもこんな感じだったけ?なんか違くね?
「時に蓮子さん、ジブリは好きですか?」
「えっ、まぁ好きだけど」
突然一真くんに、そう質問された。聞かれた質問に未だ戸惑いつつ答えると、今度はメリーが私に質問してくる。なんか二人の連携がすごいスムーズだ。
「じゃあ蓮子、ジブリ作品の中で何が一番だと思う?」
「一番かぁ」
そう言われても、あの作品の中で一番を決めるのは難しい。どれも特色は違うと思うし。うーん、でも強いて言うなら、
「やっぱり、平成狸合戦ぽんぽこが一番かな!」
「「いや、それはない」」
「……ええー」
私が言ったベスト一位を聞いたらすぐに、二人にそれを拒絶された。一真くんはいつもみたくむすっとしだし、メリーは落胆したように大きく溜め息をつく。……その反応は如何なものか。面白いよねアレ。なんか私のすべてを全否定されたようで悔しいんですけど。
「全く、これだから宇佐見ぽんぽ子は」
「おい今私の名前何て言った」
「落ち着いて、ぽん子。私はいつものことだから気にしてないわ」
「本当になんでそんなに仲良くなってるの!?」