一勝千金億女 作:ぽぽちん
ないのだ。
プリンセスホテル東京。
東京の一等地に建てられた、客室数全350室を揃える巨大ホテル。『伝統と革新が出会う東京の中心』というコンセプトを元に、日本の伝統美と最新テクノロジーを融合させた空間を提供。ビジネスから一般利用まで幅広い客層をターゲットに据え、根強い人気を誇っている。
そんなホテルの四階。
大宴会場にて、一際大きな催しが行われていた。
『──決着決着決着ウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥッ!!!! 溜めに溜めたダブルスレッジハンマーでぶっ飛ばしたァァァアアアッッッ!!!! 勝者はッッ!!!! チームヴァルキュリア、瀬名りこォオオオオオォォォォォッッ!!!!』
血と汗にまみれたリコが高々と拳を振り上げたと同時に、わッ!!!と客の歓声が部屋を木霊する。
息をつかせぬ激戦、お互いの超パワーをぶつけ合うド派手なバトルは、客の心を掴んで離さず、そして期待通りのフィニッシュを迎えたようだった。
全身をチタン骨格に変えた葉月ユウ。
その巨体は、リコの野生パワーの前に敗れ。
顔を叩き潰されて無様に地面に横たわっていた。
「うおおおおおおッ!!!!」「すっげええええええッッ!!!!!」「リコ見直したぞーッ!!!!」「最高だあああああああッ!!!!」「ママああああああッ!!!!!!」「次はもうちょっと賢くやれーッ!!!!!」「馬鹿野郎賢くなくていいぞーッ!!!!!」
「リーコッ!!!」「リーコッ!!!」「リーコッ!!!」「リーコッ!!!」「リーコッ!!!」「リーコッ!!!」「リーコッ!!!」「リーコッ!!!」「リーコッ!!!」「リーコッ!!!」「リーコッ!!!」「リーコッ!!!」
『場内はこの盛り上がりです! 健闘したお二人に今一度拍手をーッ!!!!!』
「やりやがった! やってくれたぜ!」
「ああ、最高の結果だ」
順風満帆な勝ち進みにノゾミはガッツポーズが止まらず、イチカはそんなノゾミの肩を叩いて喜びを称え合っている。
客にとっても、運営にとっても大満足の結末と言えた。
「イチカ、お前のお陰でもあるからな! ありがとう!」
「バーカ。
と言いつつ満更でもない顔をするイチカ。
実はイチカは先鋒として既に試合に出場していた。
対戦相手は"病魔"、
見た目はいかにも今どきの地雷系少女なのだが、ストイックな空手を繰り出す強敵。
極度のナルシストかつマゾヒストで、苦しくなればなるほどエゲつない空手を披露し、過去には対戦相手を一人殺してしまった曰く付きの選手だ。
しかし、イチカはその相手をなんとか倒した。
決め手は『喉への噛みつき』。
イチカは、あの瀬名姉妹をして"イカレ女"と恐れるほど頭がキレすぎており、その圧倒的な狂気を武器にサラを圧倒したのだった。
「あぁ。だが正直盤石だ。どんな対戦相手か知らないけど、アイツが負けるとは思えないしな……っと、お疲れ様リコ」
「ちーっす! 勝ってきたぜ!」
全身痣だらけで帰ってきたリコに、ヴァルキュリアメンバーが群がった。
「やったなオイッ! カッコいいぜ姉貴!」
「テメェはとことんフィジカルモンスターだな」
「褒美にバナナを進呈するネ」
「盛り上げてくれたな。ファイトマネーは期待してくれよ!」
「
たった今リコが下した相手は"
リコに負けぬ巨体を持ち、その半端ではないボクシングで相手を滅多打ちにする凶悪ファイターである。
彼女はとある事件に巻き込まれて全身を手術し、体内にチタン製の骨格を備えたことで、無敵のパンチを手に入れた……ハズだった。
しかしリコのあまりの鈍感ぶりと、その膂力で無理矢理突破されてしまった、悲しい選手でもある。
正直相手が悪かったとしか言いようがない。
「さて、次は承久さ……じゃない、
「あぁ、あの
「伊織さん、あの
「アタシじゃねえよ、拾ってきたのは希望だ。腕が立つのは事実だがな」
承久を知らぬメンバーが不安がるのも当然だが、実力を知るメンバー……特にイチカ、ノゾミ、姫奈は楽観視していた。万が一に承久が負けるわけがないと。
ただ。
そんな浮かれた顔をするメンバーの中で、唯一真剣な面持ちを崩さないのはハナだった。
「……」
「ハナ? 何かあったか?」
「ノゾミちゃん……。ちょっと、このままやと不味いかもしれへん」
「……!?」
『さぁて、激戦が続いた殺戮武闘会VSヴァルキュリアの交流試合! しかししかしッ、まだ次鋒、中堅が終わっただけッッ!!!! 残す試合は大将戦ッ!!!!! ここで勝って、初めて白黒つくというものッ!!! 泣いても笑ってもこれで最終戦ッ!!! 準備はいいか──ッ!!!!!????』
"イエーッ!!!!" と客の怒号が一斉に飛ぶと、審判が高らかに宣言した。
『最終試合ッ!!!! ヴァルキュリアの猛攻を抑え、有終の美を迎えられるかッ!? 東からは殺戮武闘会が大将! ”
「うおおおー!」「めっちゃセレブじゃん!」
「美人お姉さんだァ!」「付き合ってくれーッ!」
「モデルかよ!?」「踏んでくれーッ!!!!」
壇上にあらわれたのは美しい金髪を優美に伸ばした美女である。
白いスポーツブラとタイツを身に纏っており、スラリとしたスタイルはさながらモデルのよう。しかしその腕、足、ともによく鍛えられているのが見て取れた。
『そしてそして、連戦連勝! このまま勝ち星を奪い続けるか! 西からはヴァルキュリアが大将ッ、謎の覆面プロレスラー! シャドウ・ジャンヌゥゥゥゥゥゥ────ッッッ!!!!!!』
「色物枠かよ!」「なんだその格好!」
「プロレスラーにしては小さくね!?」
「何だよそのマスクはッ!」
「お笑い会場じゃないんだぞお前ーッ!!!!」
そして反対側から現れたのは……青色ベースのド派手なプロレス衣装に、頭にコンドルを思わせるマスクをつけた、承久國俊だった。
マスク越しでは一見して分からないが、めちゃくちゃ不機嫌なようで。肩を怒らせ、ヤケクソ気味に壇上に上がっていた。
「くふっ、く、くくく……! も、もう少しいいの無かったのかよ」
「あれくらい派手に変えたほうが……ぶふっ、わ、分からないだろ?」
それを見てつい笑ってしまうイチカとノゾミ。
何もネタ狙いや、罰ゲームであのような衣装を付けさせたのではない、ちゃんと狙いあってのことである。
何せ承久は仁和会のお膝元で大暴れしたお尋ね者である。
そんな承久を名前はもとより、素顔そのままで出場などさせられない、というイチカとハナの判断だった。
無論承久は嫌がったが、元はお前のせいだと突きつけ、ファイトマネー多めと、神宮寺組の風俗無料券あげるから、と言って渋々受けた形である。
「あらあら、今日は台本はないのよ?」
「……るせえ」
カレンと承久、もといジャンヌが睨み合う中。
じっと対戦相手を見ていた柚芭・リーが語りだした。
「渡辺カレンは元々殺し屋。仁和組の下請けしてたフリーランスのアサシンだたヨ」
暗殺者は極論言えば相手が殺せればいいので、腕っぷしは不要。
毒、武器、ハニートラップなど、様々な手段で目的でのプランを考えるのが普通だ。
しかしながらカレンは、暗殺者でありながら素手でも強い、
「アイツ、殺戮武闘会でも三人殺してるド外道ヨ」
……先の戦闘でイチカに倒された雪平さら。
彼女は殺しを好んでいる訳ではなく、武人気質がリング禍(試合に起因した負傷、死亡事故)に繋がっただけ。しかし、渡辺カレンは性根からの快楽殺人鬼だった。
「如何にプロレスラーしぶとくテモ、アイツ相手じゃ不安ネ」
「あー……実は彼女、プロレスラーじゃないんですよね☆」
「え? じゃあ何でプロレス格好シテル!?」
『──さぁさぁ、泣いても笑ってもこの一戦で終わりだッ、皆さん心の準備はいいかッ!? 最終試合、その火蓋が──今、切って落とされたァッ!!!!!』
審判が大きく腕を振り下げると同時に、カレンが早速突っかかっていった。
先制攻撃は右のミドル。その攻撃を皮切りに、左腕振り下ろし。右エルボーに、左裏拳、膝蹴り……と、よどみない、
「! 良い打撃だ」
「打撃系格闘家ですかねぇ?」
「どうかな? 少し動きに癖がある。もしかしたら総合格闘技の経験があるのかも」
ノゾミの分析が光る。
柚芭は暗殺者と言っていたが、中々どうして真っ当なスタイルではないか。
まず間違いなく裏女子格では上澄み。
下手すれば表でも一線級の動きに近いと言ってもいいだろう。
「だが、その程度なら──」
『さぁラッシュラッシュラッシュ──!!!! カレン選手開幕から淀みないラッシュでジャンヌ選手を追い詰める──ッ! ジャンヌ選手、防戦一方! しかしその攻撃は全て巧みに躱しているぞッ!!!!?』
承久は当然のように一発も喰らわない。
スイスイと、まるでスケートをするように地を滑り。攻撃を躱し。じっとカレンの動きを見定めている。
「プロレスラーなのに、随分避けるのがお上手だことッ」
「残念ながらプロレスラーじゃないんでね」
「それならもっとそれらしい恰好しなさ──きゃあッ!?」
カレンのコンビネーションブロー。
左、右と精密な打撃が放たれたその瞬間。
彼女の視界が90度反転した。
ホールライトが軌跡を描き、観客が全員横向きになり。
そして、自分の顔がリングに強かに叩きつけられていた。
『なな、なーんとッ!!!! カレン選手転倒! 転倒だッ! 勢いよく顔からリングに落ちたぞッ!!!!??』
「今のなんだ!?」「なんか勝手にコケたぞッ!?」
「何やってんだカレーンッ!!」
「ジャンヌが投げたのか!?」「しっかりしろよーッ!!」
「ッ、チィッ!」
今のはただのスリップだ!
即座に立ち上がったカレンが追随する。
左ミドル──いや、三日月蹴り。
承久の脇腹、肝臓を狙った一撃。
当たれば悶絶間違いなしのそれは、当然のように空を切る。
「え……──がッ!?」
そして、またも視界が反転する。
客の顔が消え、ホールの天井が視界いっぱいに広がったと思えば──ばすんッ!
背中を強かに打ち付け、肺腑から息が押し出される。
まるで強力な磁石で地面に引き寄せられたような、不自然な力の流れを、その身に感じていた。
その現象を起こしたのは、勿論承久である。
懐に潜り込み、通り過ぎると同時に首根っこを掴み、片足を狩って無防備にし……叩きつける。それを相手に悟らせずに一瞬で実践していたのだ。
『これは……転倒ではないッ!!!! 合気ッ!!!! なんと合気道です!!!! プロレスラーにみせかけてジャンヌ選手、合気道を使ってカレン選手に攻撃ィィィィ───ッ!!!!!???』
「すげえ……」
瀬名姉妹が妹、リクが呟く。
その気持ちはリコも、柚巴も同じであった。
プロレス技とは全く違う、術理にかなった投げ。
力ずくではなく、相手の力を利用したその理合に、闘技者のみならず観客も心を奪われた。
「合気道じゃねえか!」「プロレスどこいった!?」
「美しい……」「いいぞー姉ちゃんッ!!」
「もっと投げろー! 揺らせ―!」
「胸ばっか見てんじゃねえよッ!?」
ゲホッ、とむせかえるカレン。
受け身が完璧ではなかったせいで、鈍い痛みが全身に残っている。
彼女はヨロめきながら承久を睨みつけた。
(ムカツク女……! こっちはこんなところで体力を消耗してる暇ないっていうのに……!)
カレンは戦法を変えることにした。
真っ当な攻撃が効かないなら、暗殺者らしく戦うべきだ、と。握っていた手を半開きにし、指先に力を籠めると、承久がピクッ、と反応した。
「──シッ!」
フック?
いや違う。これは手刀だ。
五指を並べて、刀に見立てて振るわれる一撃。
下手すればチョップに見えるその攻撃を、承久は大げさに避けた。
その一連の動きをノゾミが不審に思った。
「! 避けたな」
「いや、攻撃されたら普通避けるだろ」
「違う。承久ならあれくらいの攻撃、避けるどころか投げれるだろ? なのに
「避けて正解ネ」
すると腕組して眺めていた柚巴が答えた。
「奴の攻撃、爪での引っかきネ」
「爪か……!」
「通称『
よくよく見ればカレンの爪先は鋭利に尖っており、その攻撃も打撃ではなく、傷を与えることを目的としているのが見て取れた。
五指を獣のように開いて、突き。引っかき。手刀。
俊敏な動きで相手を追う様子は、さながらジャガーのよう。
獰猛な女豹が、目で追えないスピードでラッシュを仕掛けていた。
『カレン選手、スタイルを変えて畳みかけるッ! 速い速い速いぞッ! 先程よりもスナップが効いているッ!? これはジャンヌ選手避けきれるのか──ッ!?』
「カレン、暗殺者。爪に毒塗る可能性十分ありえル」
「流石にそこまでは……! いや、だからこそ警戒せざるを得ないのか」
「
「……チッ、手癖の悪い女だぜ」
事実、カレンの指先には神経毒「ラトロトキシン」が塗られていた。
それはセアカゴケグモから分泌される自然毒の一種で、ひとたび毒に犯されれば、筋肉の痙攣、激痛、しまいには呼吸不全を起こす。
カレンはこの毒爪でどんな相手でも倒し切るつもりだった。
相手は何度も攻撃する必要がある一方で、こちらは少しでも傷をつければOK。
楽な試合である。
いや、楽な試合の
(──ああもう、当たりなさいよ馬鹿!)
当たらない。
とにかく当たらない。
今まで数多の選手を切り刻み、血だらけにしてきた自分の技術が通用しない!
空振り、スカを食らい、体力は消耗する一方。
競技者として鍛えられたカレンも、すでに疲労困憊であった。
こんなにすぐ傍にいるのに、当たらないなんて……!
「試合で毒使っちゃアカンだろ」
「うるッさいわね……ッ、ルールは無いんだからいいに決まってんでしょッ!」
左右の爪が飛燕のように襲い来る中、承久は涼しい顔をして避け続け、それが彼女のイラつきを更に促進させる。
──ズパァンッ!!!!!
「ひゃっ!? ──~~~~ッ!!!!?」
伸びた腕を絡み取られて、再び宙を舞ったカレン。
背中をグラウンドに打ち付けて悶絶してしまう。
自分の技が通用せず、勝ち筋もない。
不味い、本気で負ける……!?
そう考えた所でみぞおちに膝が落ち、ガハッ、と更に息が漏れる。
見れば承久が仰向けのカレンの馬乗りになっている。
両膝で腕を抑え、拳を引き絞り始め、トドメを刺そうとしているではないか!
カレンは露骨に焦り始めた。
「待ッ、待ってよねえ! 私ココで勝たないと不味いのよ! 消されちゃう!」
「あ? そりゃ大変だな。じゃあまた来世頑張ってくれよな」
「待って、待ってってば!?」
観客が最後の瞬間を待ちわびる中、カレンの懇願が続く。
「ああもう、こ、これでどう!? ファイトマネーの三割!」
「お前、こんなところで八百長提案か? 図太てえっつーか見苦しいっつーか」
「ファイトマネーの半額ッ! いや、六……七割ッ!!」
「──」
ピクッ。
承久の腕が止まった。
「そう、七割よ! 七割でどう!? 私このあと暗殺の仕事があるのよ、気絶なんてしてられないって!」
「お前の事情は知ったこッちゃないが……せめて八割だな」
「七割よ」
「ダメだ。きっちり八割」
「せめて七割五分にして……! そうじゃないと手数料にもならないのよ!」
「土壇場で自分の命ケチんなよな……じゃあ+αで一晩お前さんの体、好き放題できるのはどうだ?」
「……ッ、それならいいわよ」
「おーけー。交渉成立」
マウントポジションに移行してから、それなりに攻防を繰り返していたが、その攻撃は手抜きにも近いやり取り。
客はほとんど気付いていないが、ノゾミはいきなりやる気をなくした承久を見て、何かあったのか!? と心配していた。
『さぁ苦しい立場に追い込まれたカレン選手ッ! ダーク・ジャンヌ選手の巧みな攻防の前に陥落してしまうのか──ああッと!? なんだァッ!? ジャンヌ選手が──ッ!!!?』
実況が高らかにホールに響いたその瞬間。
ふらり。
承久の体がゆらぎ、そのまま横に倒れた。
まさかの展開に全員の時が止まった。
カレンはその隙に脱出し、倒れた承久にラッシュをかけていく。
『ジャンヌ選手、一体何があった──ッ!?!?!? 先ほどまで絶好調だったはずが、急にフラつき、倒れてしまったァ───ッ!!!! これは大番狂わせだぞッ!?!? マウントを取り返してパウンドッ、パウンドッ! パウンドッッ!!!! 一方的な攻撃が続くッ!!!! ジャンヌ選手防御するが、おぼつかないッ!?』
「まさか!」
「毒食らったアルネ!?」
「あ~……☆」
承久はひたすら防御を続け、そしてとうとう──
「STOP!!!! STOP──ッ!!!!」
『あぁ~~ッと! ここでレフェリーが止めたアアアア────ッッ!!』
──無情にも試合は終了となってしまった。
『交流戦最終試合ッ!!! ここでまさかの幕切れッ、急転直下の決着ッ!!!! 大将戦勝者はチーム殺戮武闘会、渡辺ッカレェェェェェェェンッッ!!!!!!』
「何があった!?」「大番狂わせじゃねえか畜生!」
「カレーンッ! やったじゃねえかァッ!」
「良いの貰っちまったのか!?」「うおおおおお!」
「プロレス野郎負けてんじゃねえよッ!」
勝者となったカレンは、一転して晴れ晴れしい顔で片手を上げる。
一方で倒れこんだ承久はピクリともせず、すぐに医療班が近寄っていく。
『しかしながらッ! 実力はしっかり見せつけたジャンヌ選手! 臨時選手とのことですが、もっと試合が見たいのは私だけではないハズです!!! 今後が楽しみで仕方ありませんッ!!!!』
実況がそう締めると、途端に観客から惜しみない拍手が送らる。
ヴァルキュリアメンバーも、まばらな拍手を送っていた。
「アイヤーな結末ネ」
「勿体ねえ。勝てる試合だったぜ」
「クソが。毒を使うたぁ……アイツ、しょっぴいてやろうか」
メンバーが承久の健闘を称え、相手の戦法に文句を言う中。一際厳しい顔をするのはノゾミである。
その視線の先にあるのは──担架で運ばれていく、承久。
彼女は思わず、隣の姫奈に語りかけていた。
「……どう思う姫奈」
「ん~~……? 『わざと』じゃないかなぁ。気付いてる人はあんまりいなそうですね~」
「よかった。お前に肯定されると確信が持てるよ──あの野郎。やっぱり八百長しやがったな……ッ!!」
「あははは、相変わらず癖つよですねぇ☆」
しかも予定のない八百長である。
恐らくはあの不自然なマウントで、取引が行われたのだろうとノゾミは推測していた。
あの野郎、好き勝手しやがって……!
ノゾミのイライラが、露骨に溜まっていく。
「その後のお相手のマウント攻撃も手打ちでしたもんね。何か提案されたんだと思いますよ~、多分」
「金か、あるいは女か…………まあ、いい。今回ばかりは許す」
「あれ、怒らないんですか?」
「ある意味助かったからな。それに私達から八百長を持ちかけても、アイツは断ってただろうし」
ノゾミはこの交流会に挑む際に、ある点を失念していた。
それは面子である。
殺戮武闘会は古参の裏格闘。
ぱっと出の新参であるヴァルキュリアが全勝すれば、相手方の興行にも影響がでる。
だから2勝1敗あるいは1勝2敗の形に持ち込む必要があったのだ。
最初こそ盤石のチームに浮かれていたノゾミだが、ハナに指摘されてようやくこの事実に気付いたのだ。
「ただ……きっちり釘指しとかねえとだな」
「私も行きますよ☆」
「お前の場合釘じゃなくて拳が出るだろ」
『──ご来場の皆様ッ、本日はご参加いただき誠にありがとうございましたッ、以上を持ちましてヴアルキュリアVS殺戮武闘会の夢の交流会終了ですッ!!! お忘れ物がないようお気をつけておかえりくださいッ!!!』
未だ試合の熱が残るホールにおいて、盛大な拍手が途切れること無く続き。波乱を呼んだ大会は、そんな歓声と熱狂で幕を閉じるのだった。
なお承久が八百長受けるかは諸説ある。(負けず嫌いだし八百長嫌がりそう)