一勝千金億女   作:ぽぽちん

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ハートマーク多め。
これってもしかしてえっちな作品じゃねえのか…?


第七話「テクニシャン」

(あのクソ女……ッ! ハラハラさせやがって……!)

 

 交流会終了後。

 熱気残るホテルの会場を、足早に後にする男がいた。

 惨歯組は組長、井上菅谷。

 インテリヤクザであり、殺戮武闘会の運営である彼は、カレンと承久の試合を誰よりも真剣に観戦し、誰よりもその結末に安堵していた存在であった。

 もとより、交流戦を通じてヴァルキュリア組をコテンパンにするつもりだった。

 そのためメンバーは、滅多に試合に出せない曰く付きばかり選んでいた。

 交流とは名ばかりの凄惨な結末が待っている?

 そんなの構わない。

 とにかく、弱小ヤクザの分際で殺戮武闘会(ウチ)に幅利かせてきた、あの女が気に入らない。

 アイツの苦しむ顔さえ見れれば、それで良かった。

 

 美谷はな。

 

 神宮寺組の組長……いやお飾り組長。

 あろうことかウチの選手を引き抜き、それに飽き足らず、わざわざ自分の前で別の選手も潰してきた、礼儀知らずのガキである。

 

(愛人のガキの分際で舐めた真似しやがって……! いつまでヤクザごっこするつもりだ……! えぇ……!?)

 

 彼の目論見は、しかし奮わなかった。

 殺戮武闘会が1勝、ヴァルキュリアが2勝。

 しかも最後の一試合、あれはどう見ても本気で負けそうだった。

 もしもウチが全敗していたら、惨歯組……ひいては仁和組の面子が潰れていただろう。

 そうなれば自分の立場は、まさしく地に堕ちていたハズだ。

 

(よりにもよって直参(じきさん)を誑しやがるとか……! ビッチの分際で俺を貶めようたってそうはいかねえぞ……!)

 

 直参とは、仁和組会長から直々に盃を受けた、李昭信(りあきのぶ)の事である。交流会直前、その李から直々に警告があったことは、記憶に新しい。

 

 "仁和会長は、美谷組長を実の娘のように気にかけておられる"

 

 "彼女が裏格闘技団体を立ち上げた時もたいそうお喜びでした"

 

 "殺戮武闘会と共存共栄。一緒に裏を盛り上げていきたいと仰ってましたよ"

 

 "それを貴方がぶち壊したんです。選手の引き抜きだなんて言いがかりをつけて……選手の団体移籍なんて珍しくもないでしょうに"

 

 "──美谷組長に詫び入れとけや。いいな?"

 

(うるせえッ、うるせえッ、うるせえ──ッ!!!! 知ったことかよッ! 美谷のガキは必ず消す! 俺の顔に泥塗ったアイツは、何が何でも消してやるッ!!!!)

 

 だからこそ、カレンを起用したのだ。

 事故という名目で、今日あのガキを殺せと。

 試合中に殺せればよし。

 よしんば殺せずとも試合後に消せばよし。

 どう転んでも、美谷は死ぬ。

 さぁ、後は結果を待つだけ……!

 握りしめたスマホを何度も確かめる。

 しかし、まだ鳴らない。

 何を手間取ってるんだアイツは。

 舌打ちしながら、会場を後にしようとする井上。

 そんな井上の前に、誰かが立ち塞がっていた。

 

「おや、どこへ行こうと言うのですか?」

 

「へ?」

 

 聞き覚えのある声。

 それは、つい先日に会合し、謁見したあの男。仁和組若頭、李昭信(りあきのぶ)だった。

 高級スーツに身を包んだ黒髪オールバックの男は、落ち着いた様子で彼に話しかけていた。

 

「今日はお疲れ様です。お陰様で大盛りあがりでしたよ。祝勝会は参加しないのですか?」

 

「あ、り、李さん! あ、ありがとうございます! せ、せっかく何ですが実は少し急用がありまして……」

 

「そうですか。どう思いますか? 剛野組長」

 

「どうもこうも。主賓がおらんでは、盛り上がるものも盛り上がらんじゃろ」

 

「へひっ!?」

 

 急に背後から肩を回してきたのは、剛野と呼ばれたスキンヘッドの大男である。

 名を剛野剛(ごうのごう)

 仁和組本部長を務める、まさしくヤクザ然としたヤクザだ。

 

「カシラも誘っとるんじゃ。是非お主には参加してもらわんとあかん」

 

「こ、光栄ですっ、光栄ですし、せ、折角のお誘いですが……! 本当に急を要しまして……!」

 

「そう言わずに。せっかく美谷組長もいらっしゃるのですから」

 

「こんばんわぁ~、今日はありがとうございました~」

 

 ひょこっ、と李の後ろから現れたのはハナである。

 彼女は満面の笑みで手を振っており、井上が歯ぎしりを抑えられたのは奇跡にも近かった。

 

「殺戮武闘会さんはほんに粒ぞろいの選手ばかりで、実に危ない所でしたわぁ。今回は勝たせて頂きましたけど、次はどうなるか分かりませんなぁ」

 

「い、いえいえ。こちらこそ。ヴァルキュリアさんもとても魅力的な選手ばかりでしたね。全く羨ましい……危うく全敗するところでしたよ」

 

 内心反吐が出るヤリ取りを続ける中、井上は悔しさに腸を煮えくり返らせていた。

 畜生ッ、これじゃ殺れねえ……! 

 一刻も早くこの女が消えることを願っていたのに!

 ……仕方がない。もう翌日でもいい。

 ただ確実にコイツが死んでくれれば……!

 

「あ。そうそう。話は変わるんやけど、井上さんに少し紹介したい人がおってな?」

 

「はて。美谷さんの知り合いですか? ……あぁ、もしかしてあの覆面の彼女ですかね?」

 

「よぉ分かってますねぇ。その子もそうなんやけど……もう一人、井上さんも知ってはる方がおって……」

 

「? はて、どなたなのか……」

 

 言うが速いか、物陰から現れる二人組。

 覆面プロレスラーのシャドウ・ジャンヌ。

 そして、そんな彼女の隣には──、

 

「ちょりーっス」

 

「ぁ、あはは……♡」

 

 渡辺カレンがいた。

 腰をジャンヌにガッチリ掴まれた彼女。

 しかも伸ばされた腕は、臀部を撫で回しており。

 彼女は小刻みに体を震わせ、顔を赤らめていた。

 

「ご、ごめんね菅ちゃん。()()()()()()()

 

「──……は?」

 

「この子、ウチに用があるとかで試合後に来てくれたんやけどなー。理由はわからんけど殺気立ってたみたいなんよ。でもな、そん時偶然居合わせたウチのジャンヌと気が合ってもうたみたいで……それで、事情を教えてくれたんよね~」

 

 大口を開けたまま、目が点になる井上。

 全身からとめどなく汗が漏れ出て。

 心臓が嫌な音を立てて激しく脈打つのが聞こえた。

 なんで、なんでコイツがここに……!?

 動揺を隠せない井上。

 すると、ぐ。ぐ。ぐ。ぐ。ぐ。と、掴まれた肩に万力のような力で指がめりこんでいくのを感じた。

 

「いかんな~()()()()。美谷さんを逆恨みで殺そうとしたそうじゃなぁ?」

 

 こちらの顔を覗き込む、剛野。

 その顔は獲物を見つけた大型獣の様相。

 男の黒目の中に、魂の抜けた自分の顔が写っていた。

 

「話は変わるが、ワシのシノギで遠洋漁業をやっとる奴がおってなぁ……人手が足りとらんで困っとるそうじゃ。……おのれ手伝ってくれんか? あ?」

 

 荒い息が勝手に漏れ出る。

 力が、抜けていくのが分かる。

 何か逆転の目はないのか、慈悲はないのか?

 そう考えて周りを見渡すが、誰も彼も、井上に笑顔を見せるだけで。

 慈悲を見せようとする者はいなかった。

 

「一度だけ選ばせたる。『乗組員』と『餌』。どっちがええ?」

 

 最終通告を前に、彼は膝を落とし。

 自らの運命を悟るのだった。

 

 

 § § §

 

 

 ──話は遡ること、30分前。

 

 ノゾミと姫奈は医務室に赴いていた。

 目的はもちろん敗北した承久である。

 ベッドに寝転がっていた彼女は、二人の思った通りピンピンしていた。

 

「やっぱり……お前、勝手に負けてんじゃねえよ!」

 

「あ? いいだろ別に。()()()()()()()?」

 

「いい訳あるか! ヴァルキュリアの勝敗はもとより、交流会も賭けの対象だ。八百長を疑われたら団体の存続に関わるんだよ……!」

 

 しかし全く媚びず、悪びれない承久。

 外傷もほとんどない彼女は、頬杖をついて余裕をかましている。

 

「契約分は真面目にやってただろ。それに、契約書には八百長するなとは書かれてなかったぞ?」

 

「無気力試合はペナルティーだって書いたよな?」

 

「無気力? 客は盛り上がってた。あれ以上何求めんだ? 相手をボッコボコのフルボッコにしろって? それとも容赦なく括り殺せって?」

 

 そんなのナンセンスだ、と吐き捨てる承久。

 彼女は体を起こし、ノゾミを見つめ始めた。

 

「弱いものイジメは大好きだ。だが、あんまりにも弱すぎると()()()()()()()()()()()()。分かるか? 今日の相手は物足りねえ。まだ二戦目のツギハギ姉ちゃんの方がよっぽど美味そうだった」

 

「……くっ、だが」

 

「お前。約束したよな。"強い奴を用意してくれる”って。まさかアレは嘘だったのか?」

 

 "ここは、自分にふさわしい場所なのか?"

 そう訴える強い眼差しだった。

 強者故の飢え。

 その渇きを満たすに足りぬなら、他を当たるぞと言外に言っていた。

 ノゾミは苦い顔をし、姫奈は分かるなぁ、と頷いていた。

 

「それにお前さん、俺が仮に勝利してたらどうなってたか、分かってるよな? 交流戦で相手の面子潰したらいかんだろうに。何の相談もなく送り出したから驚いたぞ。だから仕方なく空気を読んで負けてやったんだ。ホント俺様って偉いよなぁ」

 

「うッ……」

 

「まだまだケツが青すぎる。もっと考えろよ。俺の手綱を握りたかったら、特にな」

 

 ノゾミは言い返せずに沈黙し。

 承久は正論でノゾミをボコボコにして気分良くすると、姫奈がずずい、と乗り出してきた。

 

「じゃあ承久さん。私とやりましょうよっ☆」

 

「あ? お前と?」

 

「はいっ♡ 貴方と戦いたいとず~~~っと思ってたんですよっ☆」

 

「ふーん……ベッド上なら大歓迎なんだがなァ──」

 

 言うが速いか。

 地面を踏みしめる音と、破裂する音が重なった。

 

 見れば姫奈の右ストレートが、承久に放たれていた。

 彼女の左足のギプスは、今の踏み込みで壊れかけ。

 そして鋼と化した右腕は、承久に手首を掴まれ、その威力を完全に抑えられていた。

 

「──いいな、お前。だがヤるならその怪我を治してからだな」

 

「そのようですね~。じゃあ、治ったらいいんですか?」

 

「あぁ。若造の鼻っ柱を叩き折るのも、年長者の努めってヤツだろ」

 

「あはっ……♡ 約束ですからね?」

 

 ニィ、と笑みを強める承久と、興奮に頬を染める姫奈。

 二人の空間がぐにゃり、と歪み始め、ノゾミは急に息苦しさを覚えた。

 

(……化け物共が。やっぱり、ウチの中でも頭2つ分抜けてやがる……!)

 

 未だ本気を見せない姫奈と、手負いとはいえ、あの姫奈の一撃を軽々と受け止める承久。

 二人の底知れなさに身震いしてしまうノゾミだが、ふと承久が思い出したようにベッドから降り、身支度を始めたので慌ててしまう。

 

「お、おい。どこ行くんだお前?」

 

「野暮用だ。ちょっと約束があってな」

 

「今勝手に出歩くとまた要らん事起きるだろ……!」

 

「うるせーな。ちゃんと仕事しただろ。今日の仕事は終わったんだから好きにさせろや」

 

 ノゾミが必死に止めようとするが、承久は聞く耳を持たない。

 せめてマスクを被っていけ、と言う前に、承久はダサマスクを被り直して、その場を後にした。

 

「……何するつもりなんでしょう?」

 

「わからんが……なんか嫌な予感がするな」

 

 取り残された二人が、懸念をあらわにする。

 姫奈が多分女でも漁りに言ったんですよ、というと、試合終わってすぐに? とノゾミが疑問を浮かべた。

 

 ──事実、姫奈の言う通りだった。

 

 不完全燃焼で終わった承久。

 先の試合の八百長報酬のうち、カレンの体を早速堪能しようと思ったのだ。

 対戦相手としては不足も不足ではあったが、その体つきはとても承久好み。

 細すぎず、程よく肉がついていてとても美味そうだった。

 

(若い女はとにかく細く細く、とムキになるが……筋肉までそげ落ちたタダのガリじゃ素っ気ねえのよ)

 

 ムリダイエットした女は触り心地が良くない、というのは承久の持論である。見た目ピチピチでも触ったらまるで老婆のようだった時の絶望感は図りしれない。

 承久は女の好みにうるさい方であった。

 

(やっぱり程よく筋肉乗ってた方が抱いてる感がある。うむ。そういう意味で言えば天馬とか、本郷もまあ美味そうっちゃ美味そうなんだが……)

 

 通路を足早に歩く承久。

 その間、脳裏に浮かぶヴァルキュリアメンバー達を品定めする。

 ノゾミは……全然ありだ。本人は自分に魅力がないと信じているようだが、かなり見目はいい。ストライクゾーン圏内。

 姫奈も非常にピチピチしてるし可愛いし、体も最高なんだが、目がイってしまってるのがマイナスだ。やや外れてるがアリ。

 やっぱり一番美味そうなのは美谷ハナにはなるが……。

 

(ヤクザ女で組長だから色々五月蝿さそうなんだよな。やっぱり女抱くなら後腐れない方がいい。しがらみなくただ性欲ぶつけられる相手だったらな~……お)

 

 ただ勘のままに突き進んだ承久は、ついに発見する。

 渡辺カレン。

 闘技衣装から一点して赤いドレスに身を包んだ彼女。

 その進行方向には、運営として働くハナの姿があった。

 声をかけに行くのか?

 それにしては相手に悟られないように慎重に歩いている。

 まるで、背後から驚かせるような。

 あるいは、背後から襲いかかるような。

 

(……ふぅーん)

 

 ピンと来て、そっと近寄っていく承久。

 カレンがハナの真後ろに近寄り、すっと手を差し伸ばしたところで……彼女は腕を掴んでいた。

 

「ねえねえ。おねーちゃん。何してんの」

 

「えッ!?」

 

「あら?」

 

 カレンは勿論仰天し。

 ハナも何があったと振り返る。

 そしてハナは、二人の姿を確認すると首を傾げた。

 

「どないしたん? 二人してこないな所で……えっと、カレンさんやっけ」

 

「なぁに。コイツとはちょっと約束があってな。なー?」

 

「え。ええっ、そ、そうだったかしら? 私はただ挨拶しようと……うッ!?」

 

「あ? お前約束反故(ほご)にしようとか思ってねえよな?」

 

 ギリリッと、手首を捻ってお仕置きをする。

 それと同時に承久は何かに気付き、さらに笑顔を深めた。

 彼女の指先についた金色の指輪。

 その指輪に、非常に見辛いがのトゲのようなものが伸びている。

 恐らくは毒。

 なるほど、やはり暗殺対象とはハナだったのだ。

 

「なーんか面白い指輪つけてるなー。これって今の流行り?」

 

「ッ!? こ、これは……」

 

「あぁ~……なるほど、そうみたいやね。ウチも見たことあるよ? これ、今どきの流行りモンみたいやなぁ」

 

 ハナはカレンをフォローするので、およ? と承久が意外そうな顔を見せる。

 殺されかけたっていうのに随分剛毅だなと。

 しかしハナは人好きする笑顔を見せたまま、ゆっくりと指輪を抜くと、優しく、説き伏せるようにカレンに伝え始めた。

 

()()()()()()()()()()。これでも極道やからね、そういうのには敏感なんよ」

 

「ほーん……わざと泳がせてたのか?」

 

「うん。承……ジャンヌちゃんが助けてくれるとは思っとらんかったけどね」

 

 カレンの口から、ヒッ、と悲鳴が漏れた。

 よく見ると目が笑っていない。

 人をゴミとしか思っていないような冷徹な表情に、カレンはガタガタと震え始めた。

 

「ちょぉっと場所変えてお話しよか?」

 

「……あ、あいにくだけど、用事があって! この手、は、離して貰っても!?」

 

 ハナが承久に目配せをしたので、面白そうだ、と承久はノリノリで応じる。

 すると彼の左手が閃き、すぐにカレンの全身が震えた。

 両膝の内側。そこに熱が走ったと同時に、痺れるような快楽が腰に走ったのだ。

 

「が、ハ……ッ!?♡」

 

血海(けっかい)っつーツボだ。血流改善、生理痛にも効く」

 

 膝が震え、カレンが何をしたと承久を睨む前に、今度は腹部に熱を感じた。

 見ればヘソより下に指二本がめり込んでおり。

 全身がかぁッとなり、心臓が強く脈打ち始める。

 火照りが出始め、熱い吐息が否応なく漏れていく。

 

気海(きかい)。冷え性の改善に効果的」

 

「なにっ♡ 何してッッ!?♡ あぅッ!?♡♡」

 

三陰交(さんいんこう)。ホルモンバランスを整える」

 

「っひ!?♡ いやっ、これ待っ……♡ っはぁっ!!♡」

 

 足の付根をぐっと掴まれる。

 ただそれだけで腰が震え、カレンは疼きを止められなくなる。

 若干の痛みと、それを上回る強烈な快感!

 腹部の奥がずくん、ずくんと疼き始め、カレンは気付けばハナにもたれかかっていた。

 

「えっ? えっ? えぇ……っ?」

 

関元(かんげん)。丹田とも言う。全身の力が集まる場所。疲労に効く。で、これが──」

 

「ぅあッ♡ あっ♡ くっ♡ ふ、うぅっ♡ うぅぅぅッ……♡ やめ、やめへ……やめっ……♡♡♡」

 

中極(ちゅうきょく)だ。子宮の動きを活発にさせる」

 

「~~~~~~~ッ!?♡ !?♡ !?♡ !?♡」

 

 ゴリッ、と手慣れた仕草で股間のすぐ上を指で揺らした承久。

 それと同時にカレンがビクンッ! と大きく震え、すぐに水漏れのような音が始まった。

 ハナの肩を掴んで痙攣を繰り返す彼女の目は涙に潤み、殺意など感じ取れないほどに本能に支配されているのが見てとれた。

 

「──ひっ……♡ ひぐっ♡ うっ……♡ あ、あぁ……♡ あぁ……♡」

 

「何だよお前、ユルいな~、この程度で音を上げてたら今晩はついてけねえぞ?」

 

「……ジャンヌちゃん。これは流石に……」

 

「要望通り無力化したろ。あ。良かったらお前もやってみるか?」

 

「う、うーん、遠慮しよかなぁ……」

 

 ハナは、承久のテクニシャンぶりにゾっとしながらも、衆人環視で粗相をしたカレンに少しばかり同情の目を向けた。

 その後、三人は李と合流し、冒頭に繋がるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ。来てたんだレイちゃん」

 

「──姫奈ちゃん。何で革命しないの?」

 

 人気のない通路。

 松葉杖をついた姫奈の前に、黒ずくめの女がいた。

 オーバーサイズの黒パーカーと、黒のおかっぱ頭。

 頬には黒星のタトゥーが彫られていた、陰の強い少女であった。

 

「なんだったら私が仕切るよ? 残ってる化学兵器を『神の軍勢』の残党にバラまかせる?」

 

「ん~~~」

 

 二人の会話は、不穏そのものだった。

 姫奈の活動……神の軍勢の目的である『人類救済』を助長する趣旨。

 レイが熱烈に後押ししようとするが、一方の姫奈は興味がなさそうで、のらりくらりと躱していた。

 

「そろそろ『他の子供達』も動き出すよ? 姫奈ちゃんはどうするの?」

 

「ん~~~……? どうしようかなぁ。別に、今の生活にも不満はないんだよね~」

 

 気の無い反応。

 それに焦れたのか、レイと呼ばれた少女はとうとう本題を切り出す。

 

「ねえ姫奈ちゃん。私と、『星取り』をしよう」

 

「うん。別にいいよ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 その返答はイエス。

 しかしあっさりし過ぎた返答に、レイは拍子抜けした。

 レイにとっては一世一代の告白のようなものである。

 よりにもよってそんな告白を、そんなに軽々しく受けられるとは、予想外だった。

 

「別に断らないよ~。レイちゃんとの星取り、すっごく楽しそうだし」

 

「あ……うん。嬉しい。私、姫奈ちゃん以外考えられないと思ってた。他の子に頂点を取られるなんて耐えられない……けど……」

 

 なぜ、彼女はこんなに自分に対して気がない?

 どうして?

 どうして……?

 どうしてッ!?

 そんなの嫌だよッ!

 姫奈ちゃんは何で興味がないのッ!?

 ……まさか。

 

「……誰?」

 

「んん?」

 

「今……誰のこと考えてるの姫奈ちゃん」

 

「ん~~~……」

 

「答えてよッ!!」

 

 怒りを顕にしたレイに、姫奈は困ったように笑う。

 まるで聞かん坊を相手にするような態度は火に油を注ぐ結果となり、とうとうレイは姫奈を壁際に追い詰めてしまう。

 

「誰? 誰なの? 教えてよ……姫奈ちゃんを盗ろうとする、その不届き者の名前……ッ!!!!」

 

「別に盗られてないよ。落ち着いてよレイちゃん☆」

 

「いいから答えてッ!!!! 姫奈ちゃんが、私以外考えるなんて、そんなの嫌なの……ッ!」

 

 ギリギリと、その可愛らしい顔を歪めて迫るレイに、しょうがないなぁとため息をつく姫奈。

 彼女はその耳元に、囁き始めた。

 

「承久國俊さん」

 

「……承久?」

 

「うん。最近ヴァルキュリア(ウチ)に入ってきた格闘家さんなの。合気道の使い手なんだよ☆」

 

「……」

 

「性格はすごいひねくれてて、ちょっと態度とか嗜好は目に余るんだけど……とにかく()()んだ〜☆ それこそ私よりも♡」

 

「姫奈ちゃん、より……!?」

 

「あっもちろん速いだけじゃなくてね、実力も凄いんだよ。触れただけで相手を投げる。抑える。動けなくする。対応力も抜群だし、私の本気の一撃も軽々受け止められちゃった。あは☆ しかもまだまだ余力はありそうで、今日の試合も無傷でいなして、それでいて物足りないって本気で言ってたんだよ。すごいよね。そそるよね。多分ね、今の私だったら叶わないって思うくらいには底が見えないの。あは、あっ、あ~~~……早くヤりたいなぁ……♡ ふふ、あの人とだったら私──」

 

「──もう、いい。もういい! もういいから、やめてッ、やめてェッ!!!!!」

 

 もう聞きたくないと遮るレイ。

 ずっと恋焦がれてきた姫奈が、自分以外の誰かに熱を上げることを、信じたくなかった。

 そして、その思いの分だけ、憎悪が深まる。

 姫奈が懸想する相手へのとっておきの憎悪が。

 殺す。

 その承久とやらは絶対に殺してやる……!

 

「星の子供達、『最後の星』になるのは姫奈ちゃん以外ありえないの……! 私が姫奈ちゃんを殺して、代わりに私が姫奈ちゃん(神様)になるんだから……!」

 

「ふふふ……うん、楽しみにしてるね、レイちゃん☆」

 

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