キーカードを抜いたらデッキにブチ切れられた件   作:小名掘 天牙

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前話はご感想ご評価お気に入り登録どうもありがとうございます。
とても嬉しく、また励みにさせていただいております。
今回は下の方に少しおまけを付けておりますので楽しんでいただけたら幸いですノシ


ぼく流デッキ構築論

「取り敢えず生酒でいい?」

 

「オレ様が言うのもなんだが、そこで当然の様に日本酒が出てくるのはどうなんだ。空」

 

「いいじゃん。大学生なんだし」

 

「この国じゃ飲酒が許されんのは二十歳になってからだろーが」

 

「じゃあ飲まない?」

 

「そうは言ってねえだろ。ほら、注いでくれ。正直、素面で出来る様な話でもねえからな」

 

「そう?」

 

半眼でグラスを差し出してくるバベルに酒瓶を傾けると、返盃とばかりにバベルもぼくの前のマグカップにトクトクトクと日本酒を注いでくれる。

 

「それじゃ、まずは乾杯だ。空」

 

「ん。乾杯」

 

チンッとグラスとマグカップの縁が鳴って、バベルとぼくは同時に盃を傾ける。ゴッゴッゴッとビールを飲むみたいに喉を鳴らしたバベルは一息で目一杯注いだ生酒を飲み干すと、空になったグラスをダンッと卓袱台の上に叩き付けたのだった。

 

「豪快だね」

 

「ったりまえだろ。今でこそこんな(なり)だけどよ、オレ様の本体は『悪辣な闘士』なんだからな! それより、大分いい酒だな」

 

「まあ、向こう(地元)から持ってきたやつだからね」

 

「なるほど、そりゃ美味いわけだ」

 

そう言いながら名残惜しそうにぺろりとコップの縁を舐めるバベルに、ぼくは二杯目を注いで渡す。それを「サンキュ」と言って受け取ったバベルは今度は少し味わう様にゆっくりと喉を鳴らしたのだった。

 

「さて……それじゃあ、さっきの続きだ」

 

「うん」

 

そう言って目を細めたバベルに、ぼくも少し背筋を伸ばした。

 

「話を始める前に少し前提の説明なんだが……空は最初、オレ様のことを“付喪神”って呼んだだろ?」

 

「そうだったね。あの時、バベルはちょっと曖昧な言い方をしてたけど……もしかしなくても、あれって重要な話だったりする?」

 

「まあな」

 

頷いたバベルが「もう一杯よこせ」と言うように無言でコップを突き出してくる。明らかにペースが早いんだけど、その言葉の通り中身(闘士)のスペックが前面に出てるのか、バベルの顔には少しも変化が見られなかった。

 ぼくがコップに満杯までお酒を注ぐと、またもそれを一息で飲み干したバベルは「ふぅ……」と溜息を漏らしながらグイッとリストバンドで口元を拭った。

 

「オレ様達“デッキ”は確かに長い年月を過ごして意思を宿した物って意味じゃ“付喪神”だが、単に時間が過ぎりゃこうなるって訳じゃねえ。そこにはもう一つ、必要不可欠なもんがあるんだ。分かるか?」

 

「なんだろ……そのデッキで一杯遊ぶとか?」

 

「当たらずとも遠からずってとこだな。答えを言うと、オレ様達を扱うキャスターの“思念”ってのが必須なんだよ」

 

「“思念”?」

 

「ああ。“思い入れ”って言い換えても良いかもしれねえな」

 

そう言ってバベルは頷く。

 

「だから、空が言う通り四六時中そのデッキで対戦してりゃ基本的に“デッキ”はオレみたいになるし、逆に埃被ったままなら、まずこう(・・)はならねえ」

 

チョイチョイと自分のぺったんこな胸を指差しながら、バベルは少し誇らしそうにニヤッと笑ったのだった。

 

「つまり、オレ様みたいなデッキは“長い年月を経たデッキ”と“キャスターの想い”の間の子って訳だ」

 

「なるほど……じゃあ、バベルも」

 

「当然。何なら、オレ様は空のデッキの中でこうなった第一号まであるからな」

 

お酒のせいか薄っすらと頬を染めたバベルは「お前、オレ様のこと大っ好きだもんな~」と言ってニシシッと笑った。

 

「で、こっからが本題だ。前に付喪神云々の話をした時、一緒にロストについても話したろ?」

 

「うん。確か、デッキを崩すと存在が消えちゃうって」

 

「そうだな。あれは今言った“長い年月を経たデッキ”と“キャスターの想い”のうち、“長い年月を経たデッキ”が失われちまうからなんだが。裏を返せば“キャスターの想い”は失われた訳じゃねえんだ……たとえ当のキャスター本人がそう思ってなかったとしてもな」

 

「……」

 

「まだ自分が自分だった時、込められた“想い”が強けりゃ強いほど、そのデッキの持つ力は強くなる。そうなりゃ必然、デッキが崩れた後も意思はハッキリしていて存在も強固だ」

 

「それは……」

 

「ま、そういう反応になるよな」

 

バベルの言葉が意味するところに思わず言葉に詰まると、バベルは少しだけやるせなさそうに肩を竦めたのだった。

 

「お前のご想像の通り、地獄だろうさ。オレ様もそんな状況になったことはねえが、それでも同じデッキとして多少なりとも想像はつくつもりだ。もし、自分が同じ立場だったら……結末(ロスト)が確定した中で寸刻みで自分が消滅に向かうとしたら、その瞬間までを無理矢理直視させられたらってな」

 

「とても正気じゃいられないね」

 

「だろ? だから、愛情を注がれたデッキは愛情を注がれたデッキであるほどロストに恐怖するのさ」

 

「それは、バベルも?」

 

「オレ様?」

 

一瞬キョトンとしたバベルはすぐにフッと笑って「まさか」と首を横に振る。

 

「考えたこともねえよ。さっきも言ったがオレ様はお前がオレ様のことを最っ高に愛してんのを知ってるからな」

 

そう言って、ニヤーッと笑ったバベルは薄っすらと赤くなった顔を近付けて、うりうりとぼくの胸を小突いてくる。いやまあ、そのバベルが好きっていうのはその通りではあるんだけど、それはあくまでカードゲーマーと愛用のデッキの関係っていうか、そもそもバベルは男だろと。

 そんな、見た目だけなら完璧な美少女の仕草にドキッとしてしまった内心を誤魔化す様にお酒に口を付けると、なんか一層ニヤニヤされた。

 

「ただ、全部のデッキがオレ様みたいに何の心配もなく過ごせるわけでもなけりゃ、実際に平穏無事に居られる訳でもねえ。今言ったように愛情注がれて育ったデッキは、その“想い”がでかけりゃでかいほど、深く自分のキャスターを憎むことになる。まるで、反転アンチみたいにな」

 

「その例えはどうなのさ」

 

適切ではあるのかもしれないけどさ……まあ、うん。

 

「バベル」

 

「あん?」

 

「ありがとう。それとごめんね? 言い辛いことを言わせちゃって」

 

「……」

 

ぼくがそう言うと、僅かに見開かれたバベルの大粒の瞳が微かに揺れた。そして、その仕草が何よりも雄弁に今日の出来事の真実を物語っていた。

 

「バベル」

 

「……んだよ」

 

「今日襲ってきた靄……あのロスト仕掛けのデッキはぼくが作ったデッキで

 

 

 

 ここに引っ越してくる前に全てばらしたデッキ……だね?」

 

「……」

 

 

 

ぼくの言葉にバベルは何も答えなかった。ただグイッとグラスを傾けて、固く口を紡ぐだけだった。けど、それで十分だった。

 大学進学を決めて数日の間、引っ越しの準備に明け暮れていたぼくは自分のMWM(ジグザグ)のカードの山を前に頭を悩ませていた。目の前のカードはあまりにも膨大で、とても引っ越し先には持っていけなかった。かといって、ここに残しておいたらまだ中学の弟達に部屋を明け渡すときに邪魔になるのが目に見えている。それに、進学先で今まで通りカードを対戦できる様な相手や環境があるかも正直分からなかった。

 

だから、バラした。一番大切な初めてのレアカードを主軸にしたデッキ、『バベルズ』だけを残して。

 

「つまり、ぼくが襲われたのは完全に自業自得ってことだね」

 

「そんなんじゃねえよ!」

 

ぼくが呟くと、バベルがダンッとカップを卓袱台に打ち付けた。

 

「別に……空が悪い訳じゃねえよ。ただ、お前も大人になったんだ。オレ様達よりも大事なもんが出来るのなんて仕方のねえことだろうが」

 

「バベル……」

 

俯いてぽつりぽつりと呟くバベル。ただ、その言葉とは裏腹に視線を落としたバベルがどんな顔をしているのか、ぼくには分からなかった。

 

「恨みは無いの?」

 

「思うところが無いって言ったら嘘になるさ。オレ様だって十じゃきかない仲間達が一人一人バラされてロストを待つだけの存在になった時、怖くて震えて、それでもお前が大人になるためには仕方のねえことなんだって自分に言い聞かせてた。けど、ついにオレ様の番が来た時、お前はそうしなかった。他の仲間達と同じ様に一枚残らずスリーブから出されて、バラバラに仕分けられて、誰よりも長くロストに怯えるのかと思ってたのに、そうはならなかった。オレ様だけデッキケースに戻されて引っ越し用の段ボールに入れられた時はまだ状況が理解できなかった。お前が荷ほどきのために段ボールの蓋を開けて部屋の天井が見えた時、オレ様はようやく状況を理解できた。オレ様は助かった。オレ様は生き残った。そして……オレ様はお前の特別なんだって思った」

 

「バベル……」

 

「これでも、空のデッキの中じゃリーダーだったんだぜ? 何せ、オレ様が間違いなく一番お前に使われていたからな。だから、ロストを迎えたあいつらを見ながら、必死に励まして最後を笑い合って、またデッキに生まれてくる時は負けないなんて言い合って……それが一人だけ生き残った時、どうしても怖くなった。あいつらの、仲間の後を追うなんて出来なくなった。オレ様は腰抜けのリーダー失格だ」

 

「……」

 

「だから、オレ様はお前に前に現れた。あいつらが恨んでんのはキャスターだけじゃねえ。オレ様も同罪だ。一緒にロストするって言ったのに、一人だけ生き残っちまった。しかも、そのことに安堵して、もうお前から離れることも出来ねえ」

 

「バベッ!?」

 

思わず制止しようとした瞬間、ふんわりと甘い酒精の香りと一緒にぽすりと熱く柔らかい感触がぼくの胸の中に灯った。

 

「謝るのはオレ様の方だ……愛してるぜ、マイキャスター」

 

そう言うと、グシグシと小さな猫みたいにぼくのシャツに頭を擦り付けたバベルはそのまま少しの間、押し殺すようにグスグスと鼻を鳴らしながら、微かにその身を震わせたのだった。

 

 

 

 

「すまん」

 

 それから数分後のこと、顔を上げたバベルはズズッと鼻を啜るとそう言って気まずそうに頭を下げた。

 

「その、ぼくは気にしてないけど……」

 

「それよりバベルは大丈夫?」なんて言ってみれば、「ああ。平気だ」と明らかに無理をしている表情でそう言って、それ以上の言葉を制する様にオホンッと強く咳払いをしたのだった。

 

「さっきの話に戻るが、お前のデッキはオレ様を含めて十を軽く超える数があった。そして、その内のオレ様を除く全てが一度にロストしたわけだ」

 

「そう……だね」

 

「そして、その内のほぼ全てがお前とオレ様を襲ってくるのも多分間違いないはずだ。少なくとも、それくらいの数のデッキがオレ様の前では意識を持っていたからな。それで確認なんだが空」

 

「なに?」

 

「オレ様はあくまでデッキでしかねえから、はっきりとはわかんねえんだが……もし、お前のデッキ達がこれから襲ってくるとしたら、オレ様で勝てると思うか?」

 

「……」

 

バベルの言葉に、ぼくは一瞬固まった。いや、正直に言えばはっきりと図星を突かれたと言って良い。できれば認めたくない気持ちはあったけど、じゃあ認めなければ勝率が上がるのかと言われればはっきり言ってNOだ。

 

「どうよ?」

 

「そう……だね」

 

一瞬言葉に迷ったものの、言わなければ始まらない。というか、認めなきゃどうにもならないとも言える。

 

「六割は行けると思う。けど、四割は厳しい気がするかな」

 

TCGのデッキというものにはどうしても有利不利というものがある。大抵の場合、デッキとはそのデッキが属するフォーマットでのメタゲームでの立ち位置は意識するけれど、メタ外や他フォーマットのデッキに関しては基本的に意識することが無い。だから当然、想定していないデッキには手も足も出なかったり試合そのものが噛み合わなかったりといった事故が発生する。そして、ぼくの記憶する限り、バベルで確実に勝負が成立して勝ちを明言できるのは良くて六割くらいが限度といったところだ。

 

「そうか……」

 

流石にその辺は予想していたのか、バベルもコクリと頷く。

 

「そういう意味じゃ、今日襲ってきたのが『HELLO・ゲリラ』で良かったかもしれねえな。デッキ自体が素直だし、オレ様でも十分に戦えるデッキだったからな」

 

「それはそう」

 

思わずといった風にぼやいたバベルに、ぼくも深く同意する。

 あのデッキ、『HELLO・ゲリラ』はぼくが初めて買ってもらったテーマデッキの『ゲリラ』を改造して作ったバベルと並ぶ初期のオリジナルデッキだった。

 『ゲリラ』と呼ばれるモンスターはコストを支払って消耗する代わりにデッキから直接、同じ『ゲリラ』に属するモンスターを直接場に出すことが出来るという能力を共通で持っている。カードを始めたばかりの頃のぼくはこの『ゲリラ』に消耗から回復するカードを混ぜ込んで、1体の『ゲリラ』に複数回の能力起動をさせるというコンボを思いついたのだった。

 幸い、コンボとも呼べないようなコンボだったけど、単純ゆえにその発想は正鵠を射ていて、消耗回復の呪文を繰り返し使用することで案外簡単に盤面を制圧することができたのだった。

 ただ、デッキ自体は良くも悪くも古くからある小粒のモンスターをばら撒く面制圧デッキで、それゆえに威力で勝るファッティを入れたデッキには歯が立たなかった。一応、消耗回復のカードを使って、強制的に先頭から離脱させることはできたけど、それはあくまでも時間稼ぎでしかなかった。

 

閑話休題

 

そんな、構造的に相性がいいデッキが初戦の相手だったというのは行幸だろう。実際、ここで相性の悪い4割を引いていたら、二人まとめてあの世逝きなんて可能性も全然あったわけで。

 

「……」

 

「なあ、空」

 

ツーッと背筋に冷たいものが走るのを感じていると、隣のバベルが少し言いづらそうに口を開いた。

 

「お前、自分のデッキを全部思い出すことは出来るか? あと、有利不利をプレイングでカバーすることは?」

 

聞いてるバベル自身も思ってはいたんだろうけど、ハッキリ言ってどっちも無理だ。

 高校時代の最後に使っていたデッキなら兎も角、『HELLO・ゲリラ』みたいな初期からのデッキまでを勘案すると、如何せん数が多過ぎた。それでも、大まかな動きくらいならなんとか出来なくもないだろうけど、個人的なデッキ指向がなあ……

 

「なーんで、変なギミック入れまくってたかなあ……」

 

『HELLO・ゲリラ』もそうだけど、ぼくは昔から変わらず変なビックリドッキリギミックを入れるのが大好きだった。いわゆるガチデッキにも数枚仕込む癖があったし、中にはそういったギミックをコンセプトにしたデッキもあった。何ならバベルを入れた『バベルズ』もそんなギミック搭載デッキの一つだ。そういったデッキは通常のメタ範囲とは微妙に軸がずれることになって、オーソドックスな対策で処理するのはほぼほぼ不可能になる。それでも、物凄く高いプレイングスキルを持つプロプレイヤーならどうにか出来るのかもしれないけど、残念ながら単なる学生でしかないぼくにはそのレベルのプレイングは不可能だ。

 

「まずいなあ……」

 

「やっぱり厳しいか……」

 

思わず呟いたぼくに、薄々勘付いてはいたんだろう。隣のバベルもポツリと漏らした。

 元々、『バベルレス』自体が現環境の『バベルズ』をメタるために思い付いた、狭い環境限定のソリューションデッキだ。当然、雑多なコンボ環境に対抗出来るようには作れてない。端的に言えばコンボデッキの類に襲ってこられたらギミック云々抜きに確定負けだ。

 

「バベル」

 

「あん?」

 

「すぐ、デッキ調整を始める」

 

「……」

 

ぼくがそう言うと、一瞬目を丸くしたバベル。けれど、すぐに白い歯を見せると、

 

「おう!」

 

獰猛な笑みと共にタンッと空のグラスを置いたのだった。で、

 

 

 

 

「なんでこんなことになってんのさ」

 

 

 

 

 あの後、酔い醒ましに氷水を呷ったぼくは、なぜか首でブリッジをしたバベルのお腹の上に座っていた。

 

「なんだ、もう少し高い方が良かったか?」

 

「いや、上げんでいいから」

 

フローリングの上で頭を突いたバベルがぺったんこな胸の前で腕を組みながら、ピンッと爪先を立てて臍の位置を持ち上げる。

 

「それより、ぼくはなんでブリッジしたバベルの上に座ってるのかと」

 

「そりゃ、オレ様が頼んだからだな」

 

「そのバベルはなんでこんな事をしようと?」

 

「もちろんトレーニングのためだろ」

 

「じゃあ、なんでトレーニングを?」

 

「そりゃ空……

 

 

 

 お前と一緒にあいつらと戦うためだ。決まってんだろ?」

 

 

 

そう言ってビシッと親指を立てた右手を突き上げてくるバベルは男らしかった。どこまでも男らしかった。見た目完全に女の子なのに。

 

「なんか言ったか?」

 

「まさか」

 

「……」

 

「……」

 

ジトッとした目で見上げてくるバベルから目を逸らして、ぼくは机の上のディスプレイに向かった。

 

「っていうかさ、バベル」

 

「あん?」

 

「意味あるの……って言ったらあれだけど、バベルってトレーニングの効果とかあるの?」

 

デッキに投入したカード次第で見た目が変わる時点で、あまり効果が見込めないような気も……

 

「もちろんあるぜ?」

 

けれど、意外にも下にいるバベルから上がってきたのは即答のYESだった。

 

「あれ、そうなの?」

 

「おう」

 

思わず聞き返したぼくに、腕を組んだバベルはもう一度親指を立てて見せてくる。

 

「オレ様達デッキは鍛えれば鍛えるほど、キャスターに最高のドローを提供できるようになるんだよ」

 

「滅茶苦茶大事じゃん。それ」

 

「まあ、いくらデッキが鍛えようと、キャスターとのシンクロ率が低いと効果がねえんだが」

 

「エヴァかよ」

 

「ちなみに、オレ様と空のシンクロ率は200%だ」

 

「生命のスープ!?」

 

「ぼく溶けてるじゃん!?」と突っ込むと、下のバベルはケラケラと笑った。

 

「ま、そういう訳だから、オレ様のトレーニングは超重要ってことだ」

 

「取り敢えず了解。じゃあ、そっちの方は任せるから……」

 

「おう。お前はお前のやるべき事を頼んだぜ。オレ様がいくらトレーニングをしようとも、託せるのはお前が入れてくれたカードだけなんだからな」

 

「ん。オッケ」

 

頷いて表計算ソフトを開くと、そのシートの一つに“一覧”と名前を付けて思い出せる限りのデッキ名を書き込んでいく。

 

 

『バベルレス』

『HELLO・ゲリラ』

『アサルト・イクイノックス』

『封殺結界』

『バセドウ』

『波浪コントロール』

『マッチョ・パンプ』

『ダーティ・ポイズン』

『もっとアヘ顔ダブルピース』

『モンキーレンチ』

『デスマーチファクトリー』

『ガーディアンループ2』

『魚雷バーン』

『テイクオフピッツァ』

………

……

 

 

「……」

 

ざっと思い出せる限りのデッキを書き出してみたけど、なんていうか我ながら圧巻だった。圧巻のネーミングセンス()だった。

 ちなみに、一見厨二病全開な『封殺結界』だけど、実際の全盛期は無駄に知識が増えた結果生まれた『バセドウ』の方だったりする。その反動で、高校の頃は逆にふざけまくった名前のデッキや何も考えずにその場のノリで付けた名前が多数輩出されちゃったんだけど……。

 一先ず、並べたデッキのうち記憶に残るデッキの情報やキーカードメインとなる動きを隣の列に書き込んでいく。

 

 

名前:『HELLO・ゲリラ』

属性:波浪、大地

概要:デッキから仲間を呼び出す能力を持った『ゲリラ』に

   波浪の消耗回復カードを投入することで

   複数回仲間を呼べるようにしたデッキ。

   消耗回復カードはコンバットにも使えるため注意。

   消耗回復カードの分のエネルギーが余計にかかる上

   複数回仲間を呼びたいなら『ゲリラ』を複数

   出せば良いだけな上に、使い切りじゃないせいで

   実際の使用感は一長一短が精々。

   しかも出てきたモンスターは純正の同様

   小粒で大型モンスターに対する耐性は変わっておらず

   正直あまり強くはない。

 

 

そして、今度はそんなデッキ群の中から『悪辣な闘士』を主軸にしたデッキ―要するにバベル自身―を別シートに選り分けていく。すると、ものの見事にリストの1/3が削れてしまう。いや、どんだけ『悪辣な闘士』デッキ作ってたんだよ、ぼく。

 

「オレ様とお前の愛の結晶だな!」

 

「やかましいわ」

 

踵で蟀谷を軽く小突くと、足元のバベルがケッケッケと変な笑い声をあげた。まあ、いいけどさ。

 

「で、残りなんだけど……」

 

並べたリストの内、正直ビートダウンは何とかなるだろう。コントロールは多分五分五分。そして、完全に死んでるのがいわゆる瞬殺系のコンボデッキ群だ。

 『アサルト・イクイノックス』はかなり厳しいだろうし『ガーディアンループ2』も多分ムリ。『モンキーレンチ』は比較的遅めのコンボデッキだけど、キルターンを考えたら軍配はやっぱりあっちだろう。あと、まず間違いなく勝てないのは『もっとアヘ顔ダブルピース』。名前は終わってるけど、小中高と順当にデッキ構築能力は上がっていたから、コントロールをベースにしたこの瞬殺コンボ内蔵デッキは書き出したリストの中でも五指に入る強さを誇っている。

 

(……っていうか、高校の頃に作ったデッキって、名前の酷さとデッキの酷さが正比例してるんだよなあ)

 

そんな『アヘ顔ダブルピース』対策を真面目に考えると、冗談抜きでバベルをフル改造する必要が出てくる。

 

「最低でもピーピングハンデスと軽カウンターは必須か……」

 

軽くメモを書いて、一旦隣に置いておいたデッキケースからデッキを取り出す。中に収められているのはもちろんバベルで、表に返したそれをカードの種類ごとにパソコンの前に並べていく。

 

「いや~んエッチ♥」

 

「おい」

 

下から悍ましい声が聞こえてきた。ていうかくねくねすんな。ちょ、バランスが!?

 

 

 

「「あ」」

 

 

 

狭いワンルームに、そんな声が反響した。

 浮遊感に襲われるぼくと下に居るバベル。二人の視線は当然安いLEDが繋がれた天井を仰いで……

 

「「どわっ!?」」

 

そのままお互いを巻き込んで、見事に倒壊したのだった。

 

「……」

 

咄嗟に受け身を取ったものの、背中から落ちた痛みにさっきの自転車でのスリップがフラッシュバックすること数秒。隣を見てみれば物凄く気まずそうな顔をしたバベルが滝の様に冷や汗を流していたのだった。それでも無言の空間に耐えかねたのか、意を決した様にギュッと拳を握るバベル。そして、

 

「……てへ♥」

 

ペロッと舌を出しながら、コツンと自分の頭を小突いたのだった。

 

「……」

 

「……」

 

「……ふん」

 

「あがががががががががががががががががががががが!?!?!?!?!?!?」

 

そんなバベルをうつ伏せに倒して、眼前でクラッチを作り、顔を思いっきり捻り上げる。初めての割りに、ぼくのSTFは上手く極まり、馬鹿(バベル)の絶叫が夜の安アパートに響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 関節技の応酬から数分後、見事に一本勝ちをおさめたぼくとバベルは床の上で向かい合いながら最終的なデッキ方針を決めていた。

 

「取り敢えずだけど」

 

「おう」

 

「『デデデ大王』で行こうと思うんだ」

 

「あれかよ……」

 

ぼくの言葉に、バベルは思いっきり嫌そうな顔をした。

 『デデデ大王』。名前から想像出来る通り、ぼくが高校の頃に制作したデッキの一つだ。

 このデッキのキーカードは3枚あって、1枚は言わずもがなバベル(悪辣な闘士)なんだけど、2枚目のカード『挑発する離反者』がちょっと特殊だ。

 

 

『挑発する離反者』

コスト:2

このカードが場に出たとき、対戦相手1人にコントロールが移る。その後、このカードのオーナーは手札からコストが5以下のモンスター・カードを1枚場に出す。

それは『挑発する離反者』と決闘を行う。

攻撃力500・防御力500

 

 

一見、コスト比で高い攻撃力と防御力を有しているけれど、その代償として召喚者ではなく対戦相手にコントロールが移るという裏切り能力を有している。しかも、その代償として手札から1枚モンスターを無償降臨させる能力が付いているものの、5というコスト制限が付いているせいで並のモンスターじゃ次に行われる『決闘』で生き残ることが出来ない。

 

 

『決闘』

対象のモンスターと別のモンスターを消耗させ、お互いの攻撃力分のダメージを与え合う。

 

 

要するに、挑発で引きずり出されたモンスターと『離反者』が殴り合いをするっていうデザインなんだけど、この時の『離反者』が無駄に強い。何せ500・500というスタッツが5コストの中でも少し上の方に位置しているせいで、普通の優良モンスターじゃ一方的に『離反者』の餌食になってしまう。『暴虐の大蛇』みたいなデメリット持ちのモンスターなら生き残ることは出来るけど、そのデメリットを許容出来るかはまた別問題だ。

 そんな『離反者』から『悪辣な闘士』を出せば、当然5コストの中でもやや小柄な『闘士』は一瞬で墓地行きなんだけど、ここでもう一度『決闘』の効果をよく見てほしい。

 

―モンスターを消耗させ、ダメージを与え合う―

 

そう、“消耗させ”“ダメージを与え合う”だ。つまり、『離反者』に挑発された『闘士』は一度消耗を挟むことで、先に自身の能力を発動させる事が出来る訳だ。そして、出すのがこれである。

 

 

『違法酒場の呼び鈴』

コスト:3

これを付けたモンスターが相手モンスターから与えられたダメージによって死亡した時、あなたはデッキから好きなモンスターを場に出しても良い。その後、デッキをシャッフルする。

 

 

相手モンスターから自分のモンスターが落とされた時に、より大きなモンスターを出せるという疑似除去耐性を付与するカードだけど、その効果は意外と使いづらかったりする。

 何せ、発動するかどうかが相手依存で、これを付けたモンスターが立っている場合、相手はおいそれとは攻撃に移って来ないのだ。しかも、このカードの効果はあくまでも相手モンスターからのダメージに限定されていて、普通に単発除去1枚あれば処理されちゃう都合上、実際には単なるリソース消費にしかならないのだ。

 結果、このカードは一番スタンダードなローテーションのあるレギュレーションでは大きな成果を残すことは出来ず、ファンデッキ止まりで環境を去ることになったんだけど、このカードには当時注目されていなかった大きな利点が一つあった。それは“戦闘ダメージ”ではないこと。と言っても、攻撃を絞れば対策できるカードなのに、わざわざ『咆哮する火炎獣』みたいなモンスターのCIP火力を飛ばす理由もないから、当時は評価を変える理由にはならなかったんだけど、大分時代が下って世に出た『挑発する離反者』が持つ『決闘』はよりにもよってその能力が強制効果だった。

 つまりはだ、

 

 

2ターン目に『悪辣な闘士』と『挑発する離反者』があれば好きなモンスターをデッキから直接場に出せるコンボデッキ

 

 

というのが『デデデ大王』の全容になる。……いや、自画自賛する訳じゃないけど、かなり上手く作れたデッキな気がする。

 構造上、『闘士』と『離反者』にフィニッシャーさえ取れれば成立するため、スロットに大分余裕があるのも良いところで、残りのスペースに大量のピーピングハンデスやカウンター、軽量ドローに除去といった汎用カードを詰め込む事で飛躍的に安定感を向上させることも出来る。

 総じて、スピード、安定感、爆発力の全てが、ぼく製の歴代バベルの中でも最強のデッキだったのは間違いなかったんだけど、あまりにも勝ち過ぎた結果、昔の友達全員から軒並み嫌な顔をされるようになって、最終的に『離反者』が抜けたこのデッキは『供物経典』の加速からバベルを叩き付ける『ザ・マン』を経て、受験期に作るだけ作った『バベルズ』から『バベルレス』という現在に至る。

 まあ、そんな輝かしいデッキな訳だけど、バベルが嫌な顔をするのも分からないではない。デッキの構造上、主役であるバベル(悪辣な闘士)はどうしても一度『離反者』に倒されることになるし、その『離反者』というのが見るからに憎たらしい顔をした、分かりやすく悪辣なデザインなのだ。何なら、凶器攻撃をしているバベル(悪辣な闘士)よりも悪い顔をしている。とはいえ、押し寄せてくるコンボ非コンボの波を泳ぎ切るにはこれ以上ないデッキな訳で。

 

「はあ……わかったよ」

 

諦めたようにバベルが頷いて、デッキ方針は決定となったのだった。

 

「ありがと、バベル」

 

「おう」

 

「じゃあ、骨格は決まってるから、まずはフィニッシャーの確認からかな。……軽量ドローの類は入れなくても行けたりする?」

 

「流石にオレ様も24時間365日ベストコンディションって訳にはいかねえからな。念の為、基本パーツはきちんと入れとこうぜ」

 

「ん、りょーか……」

 

「? どうかし……」

 

言いかけたところで、ふとある事に気付いた。気付いてしまった。思わず固まったぼくに、不思議そうに首を傾げたバベルはぼくの視線の先にあるパソコンの画面を目にして同じくビシリと硬直した。

 ぼく達の目に映るのはカードショップの商品リスト。そして、そこにはハッキリとこう書かれていた。

 

 

 

 

―『挑発する離反者』¥5,000―

 

 

 

 

画面越しに中指を立てる『離反者』の顔が過去一で憎らしく思えた。

 

 

 

 

 




●主人公①
火無(ひなし) (そら)
進学のために上京してきた大学生。
8歳の頃にMWM(ジグザグ)に出会い、以降ずーっとプレイを続けている十年選手。
初めて剥いたパックから出てきた『悪辣な闘士』を愛用している。
プレイ、ビルドどちらも好きたが、どちらかと言えばデッキビルダー。但し、オシャレ枠の無駄コンボを搭載する悪癖がある上にデッキのネーミングセンスも悪い。
特技はシャッフルでどんな体勢でもバラさずファロー&ヒンズーを行える。
好物は日本酒。


●主人公②
バベル
空が2番目に作ったデッキ。(1番目は『HELLO・ゲリラ』。ゼロから手掛けたという意味では1番目)
直近2デッキが『共倒れの塔』を軸にしたものだったため“バベル”という名前になったがその本体は空が初めて引いたレアカード『悪辣な闘士』で、“『悪辣な闘士』を主役にしたデッキ”というコンセプトが維持される限り絶対にロストしない。
初期は割と『悪辣な闘士』そのままの見た目をしており、性別は完全に♂。しかし、空が『悪辣な闘士』を軸にしたデッキを改造し続けた結果外見がとんでもない勢いで変わっていき、現在の見た目は見る影もない。
なんだかんだで空とは十年来の付き合いで、相棒だと思っている。

バベル近影


【挿絵表示】

ストーン、キュッ、バキィ!!!という感じ
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