聖龍伝説:現政奉還記 創生の章:昔語り編   作:セイントドラゴン・レジェンド

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 新世代型たちに、彼等を和ませようと敢えて作り話を過去の話として語った聖龍隊。
 当然のことながら、真面目に聴いていた新世代型達はこれに怒り心頭。語ってくれた聖龍隊メンバーに攻撃する有様。
 その件を反省して、聖龍隊は彼等にまずは、あのスコーピオン同盟の蠍兄弟やザ・インク誕生の秘話を語る事にした。
 今回はスコーピオン同盟の参謀でありながら、昔は冷血な殺し屋であったキラー・ウォーター・クリスタル・スコーピオンとの初接触を語る事に。



現政奉還記 創生の章 昔語り:水晶の蠍

[カリブの施設にて]

 

 これは聖龍隊が異次元からの驚異を倒して数年後、世界進出し始めた頃の物語。

 

 カリブ海にて、その海上に巨大な海洋施設が建設されていた。

 中にはキッチン,プール,訓練場など、様々な施設が設けられていた。

 その施設を好きな様に使っていたのは、施設の所有者である聖龍隊でも限られた面子だけだった。

 何故なら、施設のプールは深海などの苛酷な環境も再現できる設備であり、この環境下で訓練ができる特殊な身体や能力を持つ聖龍隊の隊士しか使用できなかった。

「ふぅ、まさかカリブの海上にこんな巨大な施設を造っちゃうだなんて……聖龍隊の財源を上手く使っているって解釈してもいいのかな?」

 プールから上がった所で物議を醸し出すのは、施設の特別利用者として聖龍隊総長から認定された水野亜美、セーラーマーキュリーだ。

 そんな亜美の横には、先にプールから上がって体を休ませている海王みちる、セーラーネプチューンが横たわっていた。

「そう考えて良いんじゃない? ここはあくまで身体を鍛える為に造った代物らしいし、バカンスや遊びで使う積もりで造った訳じゃなさそうだし」

 亜美の物議にみちるは優雅に寝ながら答える。

 すると、そんな水泳を終えたばかりの二人の許に、別の二人がやって来て声をかけに来た。

「二人とも、お疲れ様」

「プールでの水泳鍛錬も中々大変そうですね」

 亜美とみちるに声を掛けに来たのは、同じく此処の利用者として認められた龍咲海とアプリコットだった。

「海さんとアプリコットも、特別室での鍛錬お疲れさまです」

「二人とも、それぞれ自身の能力の向上には励めたかしら?」

「え、ええ、なんとか……」

「海さんはまだ魔法で自分の能力を制御できるからいい方ですが……私は制御した上で操作するのが、なんとも厄介で……」

 亜美やみちるの問い掛けに、海とアプリコットは茫然としながらも答え返した。

 

 と、其処に。

「おらおらっ、どうしたんだいお嬢ちゃん達! もう疲れちまったのかい?」

「あ! う、ウッズさん……?」

「ウェルズだい! アホンダラ」

 扉を蹴破って力技で開けて入室してきたウェルズを見て、海は思わず双子の兄であるウッズの方だと勘違いしてしまう。

 ウェルズはプール場の四人とその周りを見渡すと、四人に紹介し始めた。

「なるほど、今この施設をちょうど使っている四人が現場にいるようだな。それじゃ改めてこの施設に連れてきた特別利用者達を紹介しよう……マーメイドプリンセスである七海るちあと宝生波音と洞院リナ。そしてヒロイン作品ではおまけ的ポジションにいる堂本海斗の、計四人だ」

「おまけって……」

「いや、これは修司が言ってたんだぜ。ヒロイン作品の男なんて、オマケみたいな存在だってな」

「酷ッ」

 と、ウェルズと海斗が言い合っていると、るちあ達は先輩に当たる四人の女性に挨拶を述べた。

「よ、よろしくお願いします……っ」

「ふふふ、また元気そうなのが聖龍隊に入ってきたわよね」

「ええ、これは一緒に訓練して扱き甲斐がありそうだわ……」

 るちあの挨拶を前に、亜美は微笑むが、みちるは不敵な微笑で受け答える。

「よろしく、三人とも! 話は既にHEADの会談で少しは聞いているわ……あなた達は人魚ならではの、歌唱力すなわち歌の力で邪気を払い除けるようね」

「す、凄いですね! 歌の力だけで戦えるだなんて……」

「は、ははは……まあ、総長からは「歌だけでは実戦に向かない」って言われて、それでこの施設にまで連行されて来ちゃって……」

「そう泣くな波音。仕方が無いだろ、戦う相手が邪気を持った魔物じゃない事だってあるんだし」

 歌の力だけで戦える人魚姫たちを前に絶賛する海とアプリコットだったが、当の波音は渋々この施設に連れて来られた様子で、そんな嘆く波音をリナが励ましてやってた。

 

「ふぅ、まあ……他にもミュウレタスや、新入りの白雪やロンリー・バブルスも連れてきたかったが、あいにくみんな出払っているから、今回はマーメイドプリンセスの御三方だけを連れてきた訳だ」

 既に施設を利用している四人に、ウェルズが此処まで来る間の事情を説明しながら連れてきた三人と対面させる。

 双方は互いに、平和や愛を望んでいる二次元人という事で、すっかり意気投合して施設の奥へと7人で向かった。

「さあってと……あの7人の女達を除けば、今この施設に居る男は俺と海斗、俺たちだけだ。まさかハーレム気分で施設に来た訳じゃないだろうな?」

「い、いえ! そのような事は決して……」

 聖龍決死隊として高い位を持つウェルズに反抗できない海斗は、背筋を伸ばして直立不動で答えた。

「よし! それじゃまずは訓練場で、そのサーファーとしての体を改造してやるよ。徹底的にな……!」

「ひっ、ひええぇぇッ!」

 ウェルズは海斗を引きずって、夕暮れになるまで彼の特訓を行ってやったという。

 

 しかしこの時、誰も気付いてはいなかった。

 カリブ海その澄み切った海中に、二つの青白い鋭い眼光が獲物を狙い定めている事に。

 

 

 

[突然の嵐と停電]

 

 その日の夜。急にカリブ海海上の天気が荒れ始めた。

 曇天が空を包み込み、強風が施設の強化ガラスを激しく揺らす。

 海上に建てられた施設は、台風などの影響でも倒壊しない様に強固な造りになっていた。

 そして夕刻。施設利用者として前々から施設に居た4人に加え、今日新入りと共に訪れた5人合わせて9人が施設での夕食を待っていた。

 だが……「なに? 嵐でコックが来れない?」なんと海上施設に渡航する事になっていた料理人たちが、カリブ海を襲った台風の影響で船が出せず、足止めされているというのだ。

 これにウェルズ隊長は頭を掻きながら途方に暮れた。

「チックショーー、これじゃ晩飯はカップ麺しか食えねえじゃねえか」

 このウェルズの発言に、多くの者たちが阿鼻叫喚した。

「えぇーー!」

「冗談だろ、飯が食えないって……」

「ううぅ、海上施設じゃ豪勢な料理が出るからって、少しは期待していたって言うのに~~」

「肝心のコックがいないだけで夕ご飯抜きなんてショック~~」

「まあ、私は別にいいけどな。カップ麺ぐらい普段から食べ慣れているし、ある意味よかったかも」

 夕飯が食えない事実に悲愴感を覚える海斗にるちあに波音、だがそれに比べてリナは普段からカップ麺を食べ慣れているからと上機嫌。

 と、そこに施設を先に利用していた4人がやって来てウェルズに訳を訊ねた。

「どうしたの、一体……」

「おお、みちるか。いやな、台風の影響でコック長を始めとする料理人が来れなくなっちまってよ。仕方ねえが、今夜の俺たちの晩飯はカップ麺に決まったなって決議していたところ」

「あら、別にカップ麺でもいいんじゃないの?」

「そうですよね。コックが来れないんじゃ、仕方の無い事です」

「そ、そうか。そう言ってくれりゃ有りがたい」

 ウェルズは海やアプリコットの気遣いに感激しつつも、肝心の夕飯であるカップ麺を取りに向かい出した。

「それじゃ海斗。俺と一緒に来い。倉庫から非常食のカップ麺を持って来ねえと」

「はいはい……」

 こうしてウェルズと海斗は、食料庫から非常用に常備されているカップ麺を運びに向かった。

 

 そして夕食時。食堂に皆が集まった。

 倉庫から持ち出したカップ麺が大量に入った段ボール箱、食卓に置かれた煮え滾ったお湯が入ったやかん。それらを近くに常備しておいて、一同はインスタント麺を細々と食し始めた。

「あ~~あ、せっかく豪勢な食事を楽しみにしてきたって言うのに……」

「まさか夕飯がカップ麺だけなんて最悪」

「そういうな。どうせ今日だけさ。今夜、夜が明ける頃には台風も過ぎ去っているから、明日には久々に作り立てに料理が食えるぞ」

 カップ麺を頬張りながらも愚痴を零す、るちあと波音にウェルズは明日までの辛抱だと説き返す。

 そんな愚痴を零す二人とは反対に、水野亜美や海王みちる、龍咲海やアプリコットは大人しく目の前のカップ麺に手をつけて食事していた。

「人生、運がない時もたまにはあるわ」

「今、運が無いってことは後々に大きな幸運が舞い込んでくるって言うわよ。要するに逆に私たちはラッキーで事よ」

 笑顔でマーメイドプリンセス達に言う亜美に対して、みちるは不幸な時ほど幸運な事態が舞い込むと逆にラッキーだと皆に伝える。

「それにしても、やな天気ね。さっきからこの施設、波や強風で揺れてない?」

「確かに揺れてますね。でも台風が来ても飛ばされない様に頑丈に造られているって聞いていますし、大丈夫なんじゃないですか?」

 龍咲海の不安に、アプリコットは大丈夫だと唱え返す。

 

 そして9人全員が食事を終えて、少しばかり胃袋を休ませる為にもウェルズが新入りのマーメイドプリンセス達に問い掛けてみた。

「なあなあ、お前さんたち三人から見て……うちの総長、そう修司はどんな男なのか、印象の程を聞かせてもらいたいな」

 唐突にウェルズから小田原修司への印象を訊ねられ、酷く困惑してしまう三人。

「な、なんだ? そんなに修司の事、話したくないほど印象悪いのか?」

 ウェルズが三人に修司への印象が悪かったのかと訊き返すと、三人は慌てて話し出した。

「い、いえいえ!」

「私たち、そんなこと思っていませんよ」

「いやですねぇ、ウェルズさん、はは……」

 普段は冷静沈着なリナまでも苦笑を浮かべて否定する有様に、ウェルズは再度問い詰めた。

「別に正直に話しても構わないぜ。修司に告げ口する気は微塵も無いからよ」

 そうウェルズに言われて、るちあ達は諦めたかのように溜息を衝くと語り始めた。

「修司さんって、確かに私たち二次元人の事を思ってくれているみたいですけど……その、何と言うか。……何を考えているか分からない事が良く見受けられるんです」

 るちあの話に続き、波音も修司の謎めいた部分を指摘した。

「そう、そうなのよね! 何かを企んでいそうにも、何かに落ち込んでいるみたいにも取れる雰囲気っていうか、風貌には声がかけにくいですよ」

 最後にリナも修司の事を語った。

「う~~ん、でも一緒に笑ってくれるし、悪い人じゃないってのは確かな事だよ。あたしと一緒にお笑い番組観てくれた時も、大爆笑してたもん」

「はは、修司もお笑いとかバラエティーが好だもんな」

 リナの話を聞いて、ウェルズも顔が綻ぶ。

 

 と、ウェルズが新人のマーメイドプリンセス達に総長の小田原修司の事を訊ねていたその時。

 突然、食堂の電気が全て落ちて辺りが真っ暗になった。

「!」「停電か……?」

 突然の停電に驚く皆々に反し、ウェルズは少し驚いただけでスグに調査に動き出した。

 壁に設置されている緊急時の懐中電灯を手に持ち、食堂の中や食堂を出た廊下などを一通り見て説いた。

「ううむ、どうやら施設全体のブレーカーが落ちちまったらしいな」

「ええっ? それじゃ、この施設そのものが全部真っ暗って事?」

 施設全体のブレーカーが落ちた可能性を示唆するウェルズの言い分に、波音が不安げな表情で困惑する。

 するとウェルズは、海斗の腕を掴んで言った。

「こうなりゃ、俺たちでブレーカーの……施設の配電盤を見てくるしかねえようだな」

「えっ! 俺もですか?」

「当たり前だろ! 女を暗闇の中に放り出す訳にもいかねえだろうが!」

 こうして海斗は渋々ウェルズに連れ出され、共に施設全体に電力を供給する配電盤へと懐中電灯の灯りを頼りに向かった。

 食堂に残った女性たちは、大人しくウェルズと海斗が戻ってくるのを待機するしかなかった。

 

 だがこの時、暗闇の中から施設内に侵入した異形の者の存在を聖龍隊はまだ知る由もなかった。

 施設を暗闇にしたのも、その異形の者である事に聖龍隊は気付いていなかった。

 

 

 

[停電の原因と暗闇からの奇襲]

 

 懐中電灯の灯りを頼りに、暗闇に支配された通路を突き進んでいくウェルズと海斗。

 迷いそうになりながらも二人はようやく施設に電力を供給する配電盤が設置されている部屋に到達した。

 海斗に懐中電灯を持ってもらって、配電盤の具合を確かめるウェルズ。だふ、懐中電灯の灯りの元で照らされたのは想像もしていなかった現状だった。

 それは何と、配電盤がガラス製なのか透明な小型のナイフで配線を完全に切断された状態で、自分達だけで修理するのは困難だと感じ取ったからだ。

「ひでぇな、これ」「ええ、配線がズタズタに切り裂かれています」

 全ての配線を切断した事で施設全体の電力供給が遮断されて電灯に灯りが灯らない現状に頭を抱えるウェルズと海斗。

「誰がこんな事を……」

 ウェルズがズタズタに切り裂かれた配電盤を見て表情を強張らせていると、その配電盤に突き刺さっていた透明な材質のナイフを手に持ってみた。すると意外な事実が判明した。

「う、ウェルズさん! このナイフ、全部氷でできていやがる……!」

「なに? 氷だと?」

 海斗に指摘を受け、ウェルズもナイフを手に持ってみると、確かに小さなナイフは氷製で、直に触れていると体温で自然と溶けて水に変化していってた。

「氷のナイフで配電盤の配線を全て切断し、施設全体の灯りを奪った上で何かを仕掛けてくる……そんな嫌な予感しか思い付かねぇ」

「またぁ、そんなこと……確かに配電盤を氷のナイフで切ったとはいえ、この施設には俺たち以外はいないんですよ? 大したお宝や貴重品だって無いのに、そんな何の為に……」

 事の深刻さをまだ痛感していない海斗に、ウェルズは彼の胸倉を掴んで強面の顔を間近まで引き寄せると言い切った。

「敵は確実に俺たちの目を……灯りを奪ってから、陽も沈み周辺がすっかり暗闇に飲み込まれたのを好機として狙い、暗闇から一人一人狙ってくる算段なんだ」

「は、ははは、まさか……なんで俺達が狙われなきゃならないんですか? タダの聖龍隊ですよ、聖龍隊……」

「その聖龍隊って言うのが、最大の理由なんだよ」

 このウェルズの発言に、海斗は非常に焦燥した。

「え……ええぇ!? なんで! なんで聖龍隊が狙われなけりゃならないんですか!?」

「世界の表社会に裏社会の連中にとって、俺らの様なヒーロー組織が世界進出で益々活躍するのが気に食わねえんだろうよ」

 海斗に説明したウェルズは、配電盤が他者によって切断され、今この場での修復が困難な事態に陥られた顛末に、考えを過ぎらせる。

「おそらく、誰かから聖龍隊を始末して欲しいと、何処かの犯罪シンジゲートかどこぞの国のお偉いさんが仕事人に依頼したんだろうな」

「し、仕事人? それに依頼って……」

 海斗が顔色を悪くしている一方で、ウェルズはハッキリと断言する。

「もちろん……殺し屋に俺たちの始末を依頼したんだろうよ」

 このウェルズの断言に海斗は顔面蒼白になった。

 と、二人が配電盤の前で話をしていると、そこに二つの蒼白い鋭い眼光を放つ異形の存在が接近してきた。

 そしてその存在は配電盤前で今後の自分達の行動を如何に速やかに行うべきかと熱く説き明かしているウェルズと、それを黙然と聞き及んでいた海斗に急接近してきた。

 天井から、はたまた通路の廊下から幾度と聞こえてくる物音に、ウェルズと海斗は警戒を張り詰めるが、誰の姿も捉える事ができなかった。

 二人は互いに背中を預け合わせて、そのまま静かに女性達が待っているであろう食堂に帰ろうとした、その時。

 二人より離れている廊下に落ちている缶が誰も触れてないのに動き出し、何処からとも無く背筋がゾクッとする様な冷気が流れ込んできた。

「お、おお、可笑しいな。冬でもないのに悪寒が感じられる……っ」

「お、俺も同じっす……!」

 ウェルズと海斗が同意権を述べると、次の瞬間、暗闇の中から二人を見据える異形の存在が蒼白い眼光と蒼く発光する身体から氷の針を無数に発射してきた。

「「う、うわあああああッ!!」」

 暗闇から一気に大量の氷の針が飛んできたのを前に、ウェルズと海斗は慌てて食堂に逃げ出していく。

 しかしそんな二人の後を、異形の存在が睨みを更に利かせて迫ってきていた。

 

 処は戻って、ここは大食堂。

 ここで二人の戻りを待っていた女子面々に配電盤が修理不能までに破壊されたこと、そして目に見えない異形の存在が闇から奇襲してきた事を包み隠さず打ち明けた。

「ほ、ホントなんだよ! 俺達が修理できない配電盤の前で話してたら、突然暗闇から氷の針がもう無数に……!」

「ウェルズさんの話はマジだぜるちあ。此処の施設には、なにかいる!」

 二人の話を聞いて、今日初めてこの施設にやって来たマーメイドプリンセスの三人は激しく戸惑ってしまうが、他の四人は冷静沈着に応対した。

「……分かりましたわ。配電盤が壊れているとなると、無論施設に完備されている無線も使えない。外部への連絡手段は絶たれたも同然ですね」

「携帯も県外って表示されたところを見ると、敵はかなり計画的に施設を襲って連絡手段を使えなくさせた様ね」

「面白いじゃないの。返り討ちにしてあげましょう!」

「取り敢えず、ウェルズさんに海斗さんも無事なようですし、今は皆、離れず固まっているのが理想的ですね」

 亜美,みちる,海,そしてアプリの言動に思考が付いて行かないマーメイド三人。

 すると海斗と共に配電盤を見に行ったウェルズが一声を上げた。

「そ、そうだ。お前達、スーパーヒロインに変身して戦力を増強させておいた方が良くないか? 変身グッズはどうしたんだ」

 ウェルズは万が一という事態に備えて、ヒロイン達に変身の為のアイテムはどうしたのか訊ねると、彼女達は答えた。

「あ、ああ、それならみんなロッカーに置いてきましたけど……」

「おいおい、マジかよ。るちあ達もロッカールームに私物置いてきたばかりで、変身できない状態なんだぞ。早く取りに行かねえと……」

 亜美からの答を聞いてウェルズは唖然とするも、早々に変身の為の道具を取りに行って戦力の増強を進める。

 この切羽詰ったウェルズの返事を聞いて、みちるが言う。

「もう、何も変身する事ないんじゃないの? まだ敵だって確信はない訳なんでしょ?」

「おいおい、俺と海斗が遭遇したのは紛れもなく敵意があった攻撃なんだ。そんな迂闊なこと言っている場合じゃないぜ、みちるお嬢様よ」

 みちるの疑心にウェルズは反論すると、海が皆に言った。

「まあ、誰かに襲われたのは間違いないとして……本当なら一大事よ。ここはウェルズさんの言うとおり、ロッカールームに行って変身用のアイテムを取りに向かわないと」

 この龍咲海の発言に、リナも同意する。

「海さんの言うとおりだ……敵が得体の知れない相手なら、少しでも戦力を増強させないと後々大変ですからね」

 こうして道具を取りにロッカー室に向かう事となった一団だが、そこにウェルズが申し出た。

「な、なあ……よくホラー映画じゃ、一人や二人だけになった時に襲われるパターンがあるし、俺と海斗も一応ながらロッカールームの前まで同行しちゃダメか?」

「ふぅ、そうね。こんな暗闇じゃバラバラになっただけでも危ういものね。ウェルズさん達も付いて来ていいですよ」

 皆が散り散りになるのを避けたがるウェルズの提案に、亜美は同意した。

「でも女子ロッカールームなんだし、海斗やウェルズさんは中に入ってこないでよね」

「わ、分かってるよ……」

「分かってるから、早くロッカールームに行こうぜ。いつ襲ってこられても大丈夫なように、戦力を整えておかねぇと……!」

 女子更衣室に入らないよう伝える七海るちあの問い掛けに、海斗とウェルズは道具を取りに向かうよう彼女達を急かした。

 そして皆は大食堂から出て、女子更衣室に向かったのだが、この時、天井から二つの怪しい瞳がギラリと光っていた。

 

 

 

[急襲の氷]

 

 戦力を整える為に変身してた方が得策と告げるウェルズの提案を聞き入れ、カリブ海の海上施設に集まった聖龍隊メンバーは女子更衣室に皆で向かった。

 不気味なほどの静寂を漂わせる暗闇を懐中電灯で照らしながら一路更衣室に向かう一行。

 何とか無事に女子更衣室の前まで辿り着けた一行は、出入り口前に男であるウェルズと海斗を待たせて、女子達だけは更衣室に入室しようとしていた。

「それじゃ、ウェルズさん達は此処で少し待ってて」

「此処からは男子禁制のエリア。足を踏み入れない事よ」

「分かってるって。それよりも早く道具を取りに行って戻ってくれよな。いつ襲われるか分かったもんじゃない」

 アプリコットと海王みちるの言葉に、ウェルズは悪寒で身震いするのか両肩を思わず抱き締めながら返答した。

 そして女子達だけで更衣室に懐中電灯を持って入室していく。その様子をウェルズと海斗は傍観しつつも部屋の前で大人しく待機する。

 だがこの時、女性も男性も気付いていなかった。彼等の真上、そう、天井を這う様に透明な何かが更衣室に入っていくのを。

 

 そして更衣室の中で、女子達はそれぞれ自分達が使用しているロッカーを探す為に、懐中電灯を交代しながら使用しているロッカーを探した。

「……こう暗いと探すのも一苦労ですね」

「そうね。修司くんも無駄に施設を大きく建てちゃって、ロッカーも数が多いからね……」

 実際に現状で施設を使用しているのは女子だけでも7人だけの状況下で、前々から施設を大きく造り過ぎた修司に呆れてしまうリナと亜美。

 と、最初に自分が使用しているロッカーを探す番だった水野亜美が、ここでようやく自分が使っているロッカーを番号から見つけた。

「あ、あったわ。私が使っているロッカー……」

 亜美は早速、携帯してたロッカーの鍵を使って開けようとした。

 が、その時。「クシュンっ、な、何だか急に寒くなってきたような……」と、水の妖精ゆえに寒さには非常に弱く敏感なアプリコットがくしゃみをした。

 と、アプリがくしゃみをした直後、今度は海王みちるが何かを察した。

「! 亜美、危ないっ!」と、みちるは亜美の腕を引っ張ってロッカーから引き離した。すると亜美が開けようとしたロッカーに、天井から蒼白い冷気が噴射されて瞬く間に氷漬けにしてしまう。

 ロッカーを瞬く間に氷漬けにした冷気に愕然とする女子達。すると天井から放たれた冷気は、角度を変えて今度は女子達そのものを凍らせようと迫ってきた。

「きゃあっ!」

 天井から放射される冷気に辛うじて回避する女子達。だがその代わり、更衣室内のロッカーは全て氷漬けになってしまい、スグに開錠する事が不可能になってしまった。

「ろ、ロッカーが!」

 自分達の道具や装備が仕舞われているロッカーが凍らされて戸惑う水野亜美。

 すると冷気を放射した天井から何か、透明な存在が降りてきて床に着地する。

 女子達が目を凝らして見てみると、それは体躯の大きな人外の存在だった。

 と、天井から降りてきた存在は、目には見えないが両手の様な部分から氷の太い針を発射して、女子達を攻撃してきた。

「うわっ!」

 海やその他の皆が驚きながらも身をそらして回避すると、子供の腕ぐらいの太さはある氷の針は壁に突き刺さる。

 女子達は一丸となって、その場から逃げ出した。

「きゃあっ」

 だが、異形の存在は執拗に女子達を付け狙うかの様に氷の針を連射して攻撃。女子達は慌てて室外へと逃げ出した。

「うわぁ!」「な、なんなんだ急に!?」

 突然悲鳴を上げて更衣室から飛び出してきた女子達を目の前に動揺するウェルズ。

 するとウェルズと海斗が何事かと目を丸くしていると、二人が立っていた更衣室の出入り口その暗闇の中から巨大な氷の巨剣が振り下ろされた。

「う、うわっ!」

 ちょうど両者の間を割って入るかのように眼前に氷の巨剣が振り下ろされたウェルズと海斗は驚きの余り腰が抜けてしまった。

 氷の巨剣は床に激突した衝撃で半壊してしまったが、その巨剣が振り下ろされた更衣室の暗闇の中から体躯の大きい異形の存在がノシノシと歩いてきた。

 薄暗い暗闇に、多少は目が慣れてきた一同が目を凝らして見てみると、それは透明な何かだったのが判った。

「な、なんだコイツ!?」「と、透明人間って奴か?」

 暗闇から現れた半透明な存在に、海斗もウェルズも驚愕していると、その異形の存在は両腕から氷の剣を突出させて目前のウェルズと海斗に襲い掛かった。

「わっ!」「ひえっ!」

 斬りつけて来ようとする氷の剣に海斗もウェルズも困惑するばかりで反撃できないでいた。

「た、退却! 一旦、退却だ!」

 ウェルズは慌ててその場の皆に退却を指示すると、全員は揃って廊下を突っ走っる。それに異形の存在はまたしても氷の針を射出して後ろから攻撃、それをウェルズ達は逃避しながら逃げ去った。

 そんな直撃だけは避けて、退避していった面々を目視して、異形の存在は廊下に突っ立った。

 

「逃がしは……しないぞ」

 

 そして辛うじて急襲から逃げ延びた皆は、廊下の奥の部屋で荒れた呼吸を整えていた。

「はぁはぁ……な、なんなんだ、さっきの」

 目を血走らせて興奮する海斗に、ウェルズが言う。

「さっきの奴、半透明だったが、どう見ても人間の姿じゃなかった。ありゃ、人外の怪人か何かだろう」

 ウェルズが指摘する中、波音が落ち着かない様子だった。

「ど、どうしよう……! 私たち、変身する為のアイテム、ロッカーに置いてきちゃった……」

 そんな落ち着かない波音に海が言葉を掛ける。

「また戻っても、あの分厚い氷じゃスグには溶かせないし、ロッカーは開かない。あの怪物のいい標的よ」

「一体どうしたら……私たちは変身できないし、戦闘力は強化できないわ」

 亜美は自分達が変身できず、怪物に応戦できない状況に考え込む。

 そんな中、ウェルズは皆に進言した。

「い、今は兎に角、俺達ができる最低限の対策で何とか状況を凌ぎ切ることだ。朝になれば聖龍隊の仲間が、通信が入らないという事で迎えに……いや、応援に駆けつけてくれる事だろうし、それまで凌げれば何とかなるだろう」

「そ、そんな! それまで、あの怪物から逃げ切れっていうんですか? 相手は目に見えないのに……」

 ウェルズの進言を聞いた上で、るちあは目に見えない敵から逃げ切れるのか不安で涙目になってしまう。

 するとウェルズが手を打った。

「そうだ、俺に名案がある!」

 皆はウェルズの考案した対策に耳を貸した。

 

 

 

[対決]

 

 ウェルズ達はまず、戦力を上げる為に武器を取りに行った。

 拳銃/機関銃と、様々な武器を装備するウェルズを前に唖然とする女子達は彼に問い掛けた。

「あの……ウェルズさんはその武器とかで闘うつもりなんですか?」

「ああ、そうだ。そもそも俺は、お前等みたいに変身して闘うのは出来ないしな」

 アプリからの問い掛けに、ウェルズは真面目に答える。

 そしてウェルズが考案した作戦に使う物を、海斗たちが調理室へ忍んで取りに行くと、彼等はそのブツをウェルズに手渡した。

 ウェルズが作戦に使うそれは、何と小麦粉であった。ウェルズはそれを床に万遍なく振り撒くと、廊下や床上は真っ白になった。

「これで、あの透明な怪物がやって来ても足跡でスグ分かるってもんだ。あとは俺が装備した銃火器で一斉射撃すれば……」

 作戦が実行される中、他の面々はウェルズが銃火器を展開している射程外からそれぞれバットや鉄の棒などの鈍器を手にして待ち伏せる。

「相手が透明で奇襲して来るってなんなら、こっちも奇襲でお返ししてやれ」

 ウェルズは相手が透明な敵で奇襲を得意としている以上、此方も奇襲で反撃しようと決め込んでいた。

 そしてウェルズ達が廊下の奥の部屋で篭城しているところに、その透明な何かが迫っていた。

 皆は息を殺して、ジッと部屋の片隅で待ち伏せするもの、真正面から銃火器で叩きのめそうとするウェルズの許で敵が来るのを待ち伏せた。

 そして透明な何かは、廊下を一気に駆け抜けて部屋に突入してきた。

 ドアを打ち破って室内に突入してきた怪物。だがその瞬間、ウェルズがありとあらゆる銃火器を連射して撃ち込んだ。

 無数の弾丸が半壊したドアだけでなく、壁にまでも無数の銃痕を撃ち込んで、辺りは蒼然と白い硝煙に呑み込まれた。

 やがてウェルズは全ての銃弾を撃ち尽くして、銃撃をやめた。部屋と廊下には凄まじい銃痕と硝煙が見受けられた。

 その硝煙が次第に晴れていき、皆が懐中電灯を照らしてドアの方に目を向ける、だが、そこには自分達を狙った透明な何かの死骸は確認できなかった。

「た、倒したのか……?」「いえ、それにしては血の跡も見られないわ」

 不安に駆られる海斗に、みちるが血の痕跡もないと告げる。

 皆が硝煙が晴れたばかりの暗闇に懐中電灯を照らして必死に敵の残骸を探し回った。

 するとその時、銃弾を撃ち終わったウェルズが一息入れていると、彼の肩に真上から一滴の雫が垂れる。

「?」

 ウェルズはその雫に気付いた瞬間、何か途轍もない悪寒が背筋に流れたのを感じ取って、不意に顔を真上に向けた。

 するとウェルズの真上には、あの透明な異形の存在が天井に張り付いているのが目に飛び込んできた。

「うわぁッ!」

 自分の真上の天井に敵が張り付いていたのを視認して、ウェルズは思わず叫んだ。その叫び声に皆が反応して振り返った瞬間、天井に張り付いていた透明な敵はウェルズの真上から降りてきては彼に襲い掛かった。

「く、クソッ」

 真上から奇襲を仕掛けられたウェルズは、まだ一発も撃っていないリボルバー銃を怪物に向けて発射して抵抗。しかし怪物の装甲が厚い為か、銃弾は効かなかった。

「う、ウソだろ……うわぁ!」

 銃が効かない敵だと知って愕然とするウェルズを、敵はハサミの様な手で服を摘んでは、そのままウェルズを投げ飛ばしてしまう。

「わあ!」

 投げ飛ばされたウェルズは、壁に激突して悶絶してしまう。

「ウェルズさん!」

 アプリコットや水野亜美が急いで投げ飛ばされたウェルズに駆け寄るが、怪物も投げ飛ばしたウェルズの方に迫ってきていた。

 と、そんな緊急事態に堂本海人が怪物に全身全霊の体当たり。怪物を床に押し付けると、そのまま彼は素手で怪物を殴打していく。

 しかし殴打していく毎に、海斗の拳からは血が滲み出て、却って海斗の方が損傷してしまう。

「か、固ェ……!」余りの怪物の硬度の高さに一驚する海斗。

 すると怪物は自分に圧し掛かる海斗を振り払って、彼を投げ飛ばしてみせる。

「わっ!」「海斗!」

 海斗の声が響き、るちあの悲劇の声が続く中、海斗はウェルズ同様に壁に叩き付けられてしまう。

 一方の怪物は、自分に襲い掛かる周囲の驚異を抹殺するべく、両腕から氷の針を射出して反撃。聖龍隊はこれを回避するものの、銃や打撃が効かない相手をどう対処すればいいか困惑の一途を辿っていた。

 と、皆が怪物の驚異に困惑している中、その怪物に飛び道具を投げ付ける者がいた。

 怪物が自分に飛び道具を投げ付けた存在に目を向けると、其処にいたのは無防備なアプリコットだった。

「あ、アプリちゃん……?」

 水野亜美や海王みちるが唖然としている中、アプリコットは両手を前に突き出したまま皆に言った。

「みんな! 私は元から水を操れる能力があります……変身しなくても技の一つや二つは出せます!」

 そう、アプリコットは元から変身ヒロインではなく、修司の二次元界介入によって能力を得た二次元人の一人だった。

 そんなアプリコットは手から水で作られた手裏剣を射出して透明な怪物に攻撃した。

 だが怪物は水でできた手裏剣を直立したまま凍て付かせて粉々に粉砕してしまう。

 追い詰められたアプリコットは、ここで怪物と同じ空間にいる為に起こっている現象に気付いた。

(ど、どうすれば……それにしても寒い! そういえば、この怪物が現れてから部屋の気温が下がっているんじゃ。どちらにしろ、部屋の気温を少しでも上げる為にまずはどうにかしないと……)

 思い立ったアプリは、まずは室温の上昇と自らが操る水の確保の為に、天井に設置されているスプリンクラーの管内に張り巡らされた水を操って、スプリンクラーを誤射させて部屋を水浸しにさせる。

 するとスプリンクラーから射出された水が透明な怪物の全身を覆い、怪物の姿を鮮明に映し出した。

 二本足で立ち、尻尾にたくましい水晶の様な体、そして厳つい強面の形相に蒼白く煌く二つの瞳。それはまるで人と蠍を足して2で割った様な怪人の姿だった。

 水晶の様に煌く、半透明な体を曝した怪人を目の当たりにして、海斗が声を上げた。

「怪物が……ッ」

 そして怪人に飛び掛ろうとする海斗を、蠍の怪人は海斗の胸倉を掴み返した。

「私の名は……カイブツ、ではない……」

「! (しゃ、喋りやがった……!)」

 水晶の体を持つ蠍の怪人が喋ったのに、海斗はもちろん周りの誰もが驚愕した。

 そして言葉を喋った蠍の怪人は海斗を投げ飛ばして、彼をスチール棚に直撃させる。

「うおッ!」

 スチール棚と共に床に倒れ込む海斗。そんな海斗を心配して駆け寄ろうとする七海るちあに、怪人は氷の針を射出して仕留めようとする。

 るちあに氷の針が直撃しそうになる瞬間、海斗はるちあの足を引っ張り、強引に氷の針から回避させる。しかしるちあは氷の針から逃れたものの、足を引っ張られた為に驚き怯んでしまう。

「きゃっ」

 足を引っ張られたるちあは、先に転倒してた海斗の上に倒れてしまう。

 すると此処でアプリコットは天井のスプリンクラーから放射される無限の水を操作して蠍の怪人に挑む。

「溺れなさい!」

 アプリは大量の水を操って、蠍の怪人を溺れさせようとした。が、蠍の怪人は、彼女が操る水の中を器用に泳いで、難なく外に脱出してしまう。

「お、泳げるのか!?」

 それを観たウェルズ達は、氷の凶器や冷気だけでなく水泳も怪人は得意としている所を目撃する。

 水攻めも余り効果がないと判断したアプリは、怪人の目前に衝突すると霧が発生するミストボールの特大を発射して、怪人の視界を霧で少しばかり奪った。

「い、今のうちだ! 別室に移動しろッ」

 アプリが怪人の足止めに成功したのを目視し、ウェルズは皆に一時退却を指示した。

 このウェルズの指示を受け入れて、皆は一斉に別室へと移動し始めるのだが、蠍の怪人は彼等の足音や音声だけで居場所を特定して太い氷の針を射出する。

「ッ!」「か、海斗!」「大丈夫、掠り傷だ」

 この時、氷の針に僅かながらに直撃してしまった海斗は腕を少しばかり損傷。るちあは心配するも海斗は平然を装う。

 

 蠍の怪人からの追撃から辛うじて逃げ出せた一同。

 そんな面々を見て、蠍の怪人は呟いた。

「……もう、ここまで暴れたら……暗殺する理由が薄くなってきましたね」

 暗殺を意図していた蠍の怪人は、次に何を実行するのだろうか。

 

 

 

[水の攻防]

 

「はぁ、はぁ……ま、撒けたか?」

 追っ手である蠍の怪人を撒けたか後ろを視認するウェルズが息を切らしている中、水野亜美が昏迷する現状を述べた。

「私たちのスーパーパワーは変身できないが為に、使う事はできないわ。今はアプリちゃんの水を操る能力でどうにか凌ぐしかないわ」

 すると亜美に続いて海王みちるが困り顔で真意を説いた。

「だけど、あの蠍の怪人には水の攻撃技はほとんど効果がないわ。そして打撃なんかの直接攻撃でも歯が立たないし……お手上げだわ」

「そ、そんな……勝ち目がないって事じゃないですか」

 みちるの説明を聞いて宝生波音が不安がる。

 一方その時、七海るちあは恋人でもある堂本海人が腕を損傷した事を気にかけていた。

「海斗、大丈夫……?」「るちあ、ああ、大丈夫さ」

 海斗は着衣していたシャツを引き裂いて、その布切れで傷口を縛って応急処置をした。

 皆が今自分が行える手段では、水晶の体を持つ蠍の怪人に歯が立たないと困惑する中、アプリコットは両肩を思わず抱き締めて苦しんでいた。

「あ、アプリちゃん、大丈夫?」

「は、はい……何だか少し……いいえ、かなり寒くなってきて……」

 龍咲海の気遣いに、アプリは素直に受け答える。

「そういえば、やけに悪寒というか背筋がゾクゾクしてきやがったぞ……!」

 ウェルズも、その他の皆も異様なまでの寒さに悪寒を感じていた。

「あ、あの怪人が現れた時は、必ずといっていいほど酷い寒さを感じられるんです」

 アプリのこの訳を聞いて、みちるは一つの答を導き出した。

「ひょっとすると……あの怪人は自身が作り出す武器を精製しやすい為に……いいえ、本能的に自分が馴染める環境を作る為に自己的に気温を下げているのかも……!」

 みちるが導き出した答を聞いて、ウェルズは顔を蒼白させながら言った。

「おいおい、待てよ……それじゃ、今ここの気温が下がっているって事は……!」

 室内の気温が下降する現象が起きている現場を指摘するウェルズ。と、彼が指摘した次の瞬間、上斜めから氷の針が飛んできた。

「危ないッ」

 皆が一目散に散り散りになったお陰で、誰にも氷の針が直撃しなかった現状に安堵する皆々。

 すると天井から蠍の怪人が降りてきて、皆の前に立ちはだかる。

「みんな! ここは私が何とかするから逃げて!」

 一人、能力が使用可能なアプリコットが前に出て一人で闘おうとする意思を示したその時。

「アプリ! お前さんに何かあっちゃ、甥っ子のジュニアに顔向けできねェ! 俺も行くぜ!」

 と、ウェルズが何処からともなく鈍器を持ち出してきて、アプリに助太刀しようと加勢する意気込みを示す。

「ウェルズさんばかりに闘わせるのは申し訳ないわ! 私たちも加勢するわ」

 海王みちると水野亜美の両名も、能力が使えないがその代わりにそれぞれ鈍器を持って対抗しようとする。

「こ、こうなったら……俺も生きる為に闘ってやらあ!」

 堂本海斗も参戦する意思を示し、それに便乗してるちあ達マーメイドプリンセスも弱小ながら加勢する意思を示す。

「み、みんな……」

 変身しなければマトモに戦えない肉体なのに、それでも加勢しようと意気込む仲間達が周りに居てくれる事にアプリコットは内心感激した。

 すると彼女等の目前に立ちはだかる蠍の怪人は、疑問を感じるように問い掛けてきた。

「……理解できない。変身能力を絶った故に、戦力は乏しい筈なのに……何故あなた方は最後まで抵抗してこようとする?」

 この質問にウェルズが返答した。

「へっ、諦めの悪さも聖龍隊の自慢さ!」

 これに蠍の怪人は目を細めて言った。

「理解不能」

 次の瞬間、蠍の怪人は両手から氷の短刀を出現させると、その二丁の短刀で斬りかかってきた。

 聖龍隊は各自的確に動き出し、蠍の怪人から繰り出される短刀を避けながら反撃に回る。

 激しい動きの中、蠍の怪人は確実に相手の命を奪えるように急所のみを狙い続けた。だが聖龍隊は必死に怪人からの攻撃を回避して、おそらくは効いていないであろう打撃を怪人に与える。

 一瞬の隙を衝いて怪人が手にしている短刀を払い除ける事もできたが、怪人はスグに氷の短刀を生み出して鋭利な刃で斬りつけてきた。

「こ、このままじゃ埒が明かない……また下がって態勢を立て直すぞ!」

 勝負の決着が見えない状況の中で、ウェルズはまたも皆に撤退を指示。蠍の怪人と接戦をしていた皆もこれに同意し、一同は応戦をやめて怪人の前から撤退した。

「此方の台詞だ……埒が明きませんよ」

 一方の蠍の怪人も、前の見えない勝負の行方に呆れ果てていた。

 

 そしてまたしても一時撤退をしなければならなくなった一同は、プール場に辿り着いていた。

「く、クソッ。このままただやられるのを待つしかねェのか……!」

 決定的な打開策もなく、このままでは蠍の怪人にやられるのを待つばかりの状況に苛立ち始めるウェルズ。

「変身さえできれば、なんとか……!」

 水野亜美たち三人の変身ヒロインも、蠍の怪人の計略によって封じられた変身ができれば状況を打開できるかもと後悔していた。

 堂本海斗、七海るちあ達も体力や気力が消耗して意識が低迷していた。

「くそっ、こんなに動き回っているのに熱く感じねェ! 寒いばかりだ……」

 氷の蠍の怪人による影響か、室内の気温が低下している現象にウェルズの苛立ちは更に増すばかり。

 するとアプリコットが、そんなウェルズに問うた。

「ね、ねぇ、ウェルズさん」

「?」

「この施設にある設備を使って、どうにかあの蠍の怪人を倒すまでにはいかなくとも、動きを止める事はできないかしら?」

「動きを止めるたってねェ……確かに、この施設には過酷な環境を再現できる設備もあるって言うけど、果たして何処まであの蠍に利用できるのやら」

 と、アプリコットとウェルズが問答をしていたその時。プールの水中から目には見えない影が皆の方に迫ってきていた。

 誰もその影には気付かず、一人一人が低迷した意識を回復させようと少しでも休むことに専念していた。

 そして水中の影が水辺に接近した次の瞬間。大きな水飛沫と共に水中からあの水晶の体を持つ蠍の怪人が飛び出してきた。

 皆は突如として水中から飛び出てきた蠍の怪人に驚愕するが、驚き逃げる暇もなく水辺にたまたま居た洞院リナが蠍に抱きつかれて、そのままプールへと引きずり込まれてしまった。

「り、リナ!」

 るちあがリナの名を叫ぶが、既に二人は水の中。

 一方で水中では、蠍の怪人は人間形態のリナを溺れさせようと離さず、このまま溺死させてしまおうかと高速で水中を跋扈していた。

 だが、いくら時間が経過してもリナが溺れる事はなく、蠍の怪人は困惑した。

(な、何故だ! 人魚に変身していないのに、何故こうも息が続くのだ!?)

 実は変身していなくても人魚は人魚。長時間の水中に居ても溺れる事はなかったのだ。

 するとリナは自分に抱き着いて溺れさせようとする蠍の怪人から離れようと、怪人の蒼白い二つの目を指で強く突いた。

「ッ!」

 眼球を強く突かれた怪人は堪らず、リナを解放してしまい、その隙にリナは水上から顔を出す。

「ぷはっ」「リナ!」

 水上から顔を出すリナを、るちあが激しく呼びかける。

 リナは急いで皆の許に戻ろうと泳いで駆け寄るが、蠍の怪人はそれを防ごうと、プールからわざわざ上がって其処から強力な冷気を放射。プールは忽ち氷に覆われていく。

 すると蠍の怪人がプールに冷気を放射して氷を張り巡らせようとしたちょうど反対側から上がろうとしていたリナの水辺も凍て付き始めてしまう。

「うっ」

 そして水から上がろうとしたリナだったが、運悪く最後に水中に残していた片足だけが凍て付いたプールに取られて身動きを封じられてしまった。

「リナ!」

 るちあ達が凍て付いたプールに足を取られて動けなくなったリナを、引っ張り上げようとするがビクともしない。

「みんな! ここは私に構わず、早く逃げて!」

「で、でも! リナだけを置いて逃げるなんてできないよ!」

 足手まといになってしまっている自分を置いて退避する様に言うリナの言葉に、るちあは悲観する。

 一方で蠍の怪人は、自らが凍て付かせた氷の上を器用に滑って動きを封じたリナの許へと駆け寄ってきた。

「いいから……このままじゃ、全滅しちゃう!」

 るちあや波音の腕を振り解き、押し退けて逃げるよう進言するリナ。

 そんな、るちあや波音の腕を引っ張って、ウェルズが二人をリナから遠ざける。

「リナの言うとおりだ、此処は一時撤退するんだ!」

「そんな……リナ!」

 ウェルズに手を引かれて、るちあと波音は皆と共に撤退を余儀なくされた。

 そしてその場に残ったリナは、接近してきた蠍の怪人に強力な冷気を浴びせられ、瞬く間に凍らされてしまった。

 凍て付いたリナを、蠍の怪人はトドメを刺そうと巨大な氷の槍で彼女を貫いてバラバラに粉砕しようと試みた。

 だが、何故か蠍の怪人はリナにトドメを刺せなかった。

(……何故だ、何故……標的の命を奪えるのに、私はトドメを刺せない。いや、この標的も……そして聖龍隊という獲物も、今まで私が葬ってきた相手とはかなり違う……)

 蠍の怪人は思慮にふけた。今まで彼が殺してきたのは、暗躍する傲慢な政治家や怠慢な悪徳事業家等など。怪人にとって、聖龍隊という標的は今までにない暗殺のターゲットだった。

 そして思慮にふけた怪人は、氷の槍を床に倒して投げ捨てると、先ほど逃げていった面々の追跡に移った。

「まあ、いい……後々でも十分に殺せる」

 蠍の怪人は今この場でリナを殺すよりも、全員を氷漬けにしてから、ゆっくりと一人ずつトドメを刺して行こうと思い立った。

 

 

 

[最後の策]

 

 そして蠍の怪人によって凍らされた洞院リナを除いた一行は、施設の最深部へと突き進んでいた。

「リナ……リナ……っ」

「大丈夫だと信じろ! それが今最善の考えだ!」

 一人置いてきてしまったリナを気にして涙する七海るちあや宝生波音に、ウェルズがリナは大丈夫だと思ってやるのが良策だと言い聞かせる。

 それから一行は再び立ち止まっては、蠍の怪人に対する作戦を練り始めた。

「本気でどうするんですか!? 無線も使えなくさせられた上に、武器も効力がない! このままじゃみんな全滅だ……」

 堂本海斗が切羽詰った状況を訴えるが、皆の表情は暗然としていた。

 すると唯一若干ながら能力を使えるアプリコットが、皆の前でウェルズに問うた。

「ね、ねぇ、ウェルズさん。さっきも聞いたけど、本当にこの施設には、あの蠍の怪人を止める何かはないんでしょうか?」

「止めるったって、アイツの体の頑丈さなら何処かの部屋に閉じ込めてもスグに打ち破って脱出しちまうだろうし……動きを止めるにしたって、どう止めりゃいいのか……」

「……私、さっき……いいえ、皆さんも目撃している筈ですが……あの怪人、プールの水を凍らせる際に、わざわざ水から上がってプールを凍らせましたよね」

「ああ、そうだろうよ。そうしなきゃ、自分も凍っちまう…………! まさか……!」

「そうです。あの怪人だって、自分が氷漬けにされたら身動きできないんですよ! だから上手く凍らせれば……」

 すると、このアプリの提案に龍咲海が物申した。

「だけど……凍らせるってどうしたら? 私たちの能力が使えない以上、あの蠍を凍らせるのは不可能よ!」

 海の言うとおり、蠍の怪人を凍らせる術は見当たらなかった。

 と、皆が黙り込んでしまった矢先、ウェルズが思い出した。

「! いや待てよ……あの装置を使えば、何とかなるかもしれん」

「え! なにか策があるんですか、ウェルズさん」

「あ、ああ……この施設の最深部に最新式の急速冷凍室があって、そこに奴を追い詰めれば何とかできるかもしれん」

 ウェルズの発想に感極まるアプリ。

 だが、この提案に海王みちるが厳しい指摘を告げる。

「けれど、あの怪人の事……スグに冷却装置が作動する直前に、部屋を破壊して強引に突破する可能性だってなくはないわ。部屋に入れた途端に凍らせないと意味がないわ」

 するとアプリコットは、意志の強い面魂で皆に言った。

「それなら……私が一緒に冷凍室入って、あの怪人に水を浴びせて氷漬けにしてやるわ」

「ちょっ、ちょっと待てよアプリ! お前さん忘れたのか? 自分が低温化の環境には極端に弱いって」

 アプリの発言にウェルズ達は待ったを掛けた。彼女は水の妖精ゆえに低温化の環境には極端に弱く、自らも凍ってしまう事を。

 しかしアプリは、真意を衝かれても変わらない面魂で皆に言った。

「私なら平気! あとで解凍してもらえばスグに気がつくわ。何より、蠍の怪人を確実に氷漬けにして動きを封じるには、水を操れる私の力が不可欠! あとはみんなの協力次第です」

 アプリコットからの協力を求められて、皆は考え込んでしまう。本当に作戦が上手くいくのか。そして怪人と一緒に閉じ込められるアプリは果たして無事でいられるのか。そんな自問自答が頭の中を駆け巡った。

 すると考えに考えたウェルズが立ち上がった。

「よし、仕方ないな。他にいい作戦が思いつかないし、ここはアプリに任せるしかないな」

「う、ウェルズさん!」

 ウェルズからの妥協に喜ぶアプリに、続いて他の皆も賛同し始めた。

「もうこうなったら、一か八かやるしかないわね」

「多少、運任せみたいな作戦だけど……やるしかないようね」

「あ、アプリちゃんが心配だけど……他に手立てがないのなら……!」

 水野亜美,海王みちる,龍咲海の三名も不安な要素を感じつつもアプリが立てた妙案に乗る事に。

「わ、私たちも協力します!」

「何処まで協力できるか分かりませんが……最後まで!」

「俺もやられっ放しは嫌いだ。どんな作戦だろうとやり遂げてみせるぜ」

 七海るちあ,宝生波音,そして堂本海斗も協力に乗り出した。

 

 こうして8名は蠍の怪人の氷漬け作戦を実行に移した。

 

 まずは急速冷凍室の室内に大量の水を散布して水浸しにする。これは室内でアプリコットが操れる水分を補う為。

 そして装置の裏手には、いつでも室内の気温が氷点下に下がるように設定する。

 こうして準備が整った後、あとは蠍の怪人を此処まで誘き出す策が必要だった。

 誰かを囮にする策は、余りにも危険と判断したウェルズは、ここで聖龍隊副長バーンズがバカンス用にと運び込んだスピーカーを見つけて閃いた。

 

 そして作戦は実行された。

 その頃の蠍の怪人は、何故かトドメを刺せなかった洞院リナの事など既に眼中になく、他の面子を探し回っていた。

 蠍ならではの感知器官で施設の何処に生命体がいるか識別できる怪人。

 すると、そんな蠍の聴覚に不思議な音色が。

「っ、なんだ、この不思議な歌は……」

 蠍の怪人が歌が聞こえてくる方向へ進路を取り、ゆっくりゆっくりと歩を進める。歌声を発声するのは、どう感じ取っても何かの誘導、囮の様にしか怪人は考え付かなかった。

 そして歌声が近付いているのを識別した蠍の怪人は気付いた。

「この歌……マーメイドメロディーの歌ではないか」

 それは七海るちあの歌声だった。蠍の怪人は一層、警戒を張り詰めて歌の聞こえる方へと進む。

 そしてとある部屋から歌声が聞こえいるのを察した蠍の怪人は、静かにその部屋の戸を開いた。

 そして暗い部屋の奥に進んでみると、そこにはスピーカーが設置されているだけ。

「やはり待ち伏せか!」

 スピーカーから七海るちあの歌声を流して、誘導しているのだと察した蠍の怪人は氷の針をスピーカーに直撃させて破壊した。

 すると次の瞬間、暗闇の中から何かが頭にぶつかった衝撃が怪人には伝わった。

 蠍の怪人が振り返ってみると、そこには堂本海斗の姿があった。

「ターゲット確認、抹殺する」

 蠍の怪人はそう呟くと、海斗の方へと迫った。

 海斗は蠍の怪人を誘き出すように、施設の奥へと走った。その後を蠍の怪人が追走する。

 だが蠍の怪人は、床を凍らせてその氷上を滑走して追尾していた為、前を走る海斗を難なく捕まえてしまう。

 海斗を捕まえた蠍の怪人は、彼を壁に叩き付けると、右のハサミから氷の針を出現させて海斗の心臓を狙う。

 怪人の尋常でない怪力に押さえ付けられて身動きできない海斗は暴れまわるが、怪人は一向に手を離そうとはしない。

 と、海斗のこの危機にアプリコットが駆け付けた。

「怪人! 吹っ飛びなさい」

 アプリは怪人に向けて強力な水の弾を放ち、怪人の横腹に直撃。怪人はそのまま吹き飛んでしまう。

 怪人が吹き飛ばされた拍子に解放された海斗を立ち上がらせると、アプリはそのまま彼と共に施設の奥へと逃げ込んだ。

 一方の吹き飛ばされた怪人も、多少ながら興奮したのか再び床を滑走して二人を追い始めた。

 

 そして作戦通り、海斗は物陰に隠れて、アプリコットは急速冷凍室の出入り口の前で待ち構える。

 其処に蠍の怪人が颯爽と現れる。

 まずは作戦が露見しないように、アプリは蠍の怪人に向かっていった。

 激しい肉弾戦を展開するアプリと怪人。無論、体躯の大きさではもちろん、肉体の強度でも蠍の怪人には遠く及ばないアプリ。

 しばし肉弾戦に耐え忍んだアプリコットは、ここで後退して急速冷凍室の中に入り込んだ。怪人も、彼女の後を追って冷凍室内に入り込む。

「アプリ、済まない!」

 と、二人が入り込んだのを物陰から視認したウェルズはアプリコットに申し訳ない心中で、彼女の真意を汲み取って出入り口を完全に密閉した。

 すると蠍の怪人も出入り口が封鎖されたのに気付いて、急いで脱出しようと駆け出すが「逃がさないっ」とアプリコットが尻尾に抱きついて強引に取り押さえる。その拍子に蠍の怪人は転倒してしまい、その間に冷凍室の扉も完全密閉された。

 そして操作盤の前で待機していた亜美とみちるの両名が、密閉されたのを確認すると冷気圧のパルブを全開で緩めて室内を急速冷凍していく。

 するとアプリコットと蠍の怪人が入っている冷凍室は、瞬く間に急速冷凍を始めて、室内の気温は見る見るうちに下がる。

「! あなた、こんな事して自分もタダでは済まない事が分かっているのですか!」

 蠍の怪人がアプリコットに問い詰めると、彼女は険しい面魂で答えた。

「分かっているからこそ、やっているの。私もバカじゃない」

 次の瞬間、アプリは最後の力を全開にして蠍の怪人に自らが操る水を張り巡らせて、怪人を水で覆い始めた。すると覆っている水は瞬く間に凍り付き、蠍の怪人を氷漬けにして身動きを封じ始めた。

「これであなたは動けなくなる……私の目論見通りね」

「……なぜ、こんな真似を……!」

 完全に自分の思惑通りに蠍の怪人の動きを封じる事に成功したアプリコットに、怪人が何ゆえ氷点下に弱い己自身を囮にした上で共倒れを狙ったのか、氷の中に閉ざされていく中で問い詰めた。

 するとアプリコットは変わらない面魂でこう答えた。

「大切な仲間の為に……体を張るのは結構なことじゃない?」

 このアプリの格言に、氷の蠍は呟いた。

「……理解、できない……!」

 そして冷却室の中で、氷の蠍は水に覆われたまま氷漬けになり、その水を操っていたアプリコットも氷点下によって凍ってしまった。

 

 

 

[凍て付く夜が明けて]

 

 そして夜は明け、カリブの海に朝日が昇った。

 カリブ海上の施設と連絡が取れない事から、非常事態が発生したと判断した聖龍隊本部は急きょ部隊を派遣した。

 施設に到着した部隊を待ち侘びていたのは、ウェルズに水野亜美、海王みちると龍咲海に七海るちあと堂本海斗と宝生波音の7人だった。

 彼等から施設で一体何が起きてたのか聴取した部隊が施設内を探索していると、プールサイドで氷漬けにされている洞院リナの姿を発見。

 そして真新しい戦闘による痕跡が各所に見受けられる中、問題の急速冷凍室の中を調べてみると、そこには巨大な氷塊が存在していた。その氷塊の中には、半透明な体を持つ蠍の怪人と水色の長髪の女子が見受けられた。

 聖龍隊士はすぐさま、水色の髪の少女の救出に乗り出し、電動ドリルなどの工具で本人を傷つけない様、そして蠍の怪人までも解放しない様に慎重に氷を削っていった。

 そしてどうにか氷塊からカチカチに凍て付いたアプリコットの本体だけを取り出した部隊は、急ぎ彼女を搬送した。

 満身創痍で部隊に助けられたウェルズ達に、どうにか解凍してもらった事で一命だけは無事だったリナの横を、凍て付いたアプリコットを乗せた担架が通り過ぎる。

 ウェルズ達は、アプリコットの無事を祈るしかできなかった。

 一方でアプリコットと共に氷漬けになった蠍の怪人は、氷塊に閉じ込められたまま緊急搬送して、そのまま収容施設に入れられたという。

 

 集中治療室で的確な治療を受けて回復に進むアプリコット。彼女は長時間、氷漬けになっていた事から意識を失っていた。

 だが懸命な治療の末、どうにかアプリコットは目を覚ます事ができた。

「あ……アプリ……!」「じゅ、ジュニア……?」

 アプリが目を覚ましてみると、目の前には現恋人であるジュニアの顔が確認できた。

 ジュニアは今回の一件を聞いて、急いでアプリの許に馳せ参じたのだ。

「大丈夫かい? 話は聞いたけど、ホントに無茶しちゃって……氷点下に弱い体なのに、自分から其処に飛び込んでいくなんて……」

「じゅ、ジュニア……うっ」

「あ、まだ寝てた方がいいよ! 完全に肉体が解凍されてから、まだ時間が浅いんだから」

「う、うん、分かった。それよりも、他のみんなは……?」

「ああ、他のみんなかい? 全員、無事だよ。君よりも先に凍らされちゃったリナはスグに解凍されて体力を激しく消耗しながらも無事。他のみんなも満身創痍ながら命に別状はないって」

「そ、そう……良かった」

 ジュニアから皆の無事を聞いて、心より安堵するアプリ。

 そんな二人だけの時間を仲睦まじく過ごしている、いい雰囲気の中、その雰囲気を壊す勢いで一人の男が病室に入ってきた。

「アプリ、無事か!? カチカチに凍らされちまったみたいだが、生きてるだろうな!」

「に、義兄さん……」

 病室に飛び込むように入室してきたのは、ジュニアの兄弟分である聖龍隊総長の小田原修司だった。

「アプリ、大丈夫だったか? 相手は氷を操れる蠍の怪人だったみたいだな」

「え、ええ、どうにかみんなの協力で氷の中に閉じ込められました」

「そいつは良かった」

 修司はアプリの調子が戻ってきた顔を見て、満面の笑みを顔に浮かべた。

 そんな修司はアプリの無事と調子、更にはそのアプリと二人っきりで過ごしていたジュニア達の心境を察して一人病室から出て行こうとする。

「そんじゃ、俺は出て行く。早く快調になると良いな」

「は、はい」

 修司からの言葉にアプリは戸惑いながらも返答する。

 

 すると病室を立ち去る直前に、修司は病室に残るジュニアとアプリコットに告げた。

「ああ、そうそう。アプリ、今回はお手柄だったな」

「え?」

「今回お前が氷漬けにして捕えた蠍の怪人……国際的にも名のある暗殺者だった。透明になれる水晶の体を持ち、透明化した状態でターゲットの許に忍び寄ると小さな針で急所を刺したり鋭利な刃物で首筋をばっさり切り付けたりと、様々な手法で暗殺を重ねていった凄腕の殺し屋だったよ」

「そ、そんなに凄かったの……?」

 アプリやジュニアが唖然としている中、修司は更に語り続けた。

「ああ、その名もずばり………………キラー・ウォーター・クリスタル・スコーピオン。水の中を自在に泳ぎ、水晶の体で接近して命を奪う恐ろしい奴だ」

「そ、そのキラー・ウォーター・クリスタル・スコーピオンは、今どうしてるの?」

 ジュニアが訊き返すと、修司は真顔で二人に言った。

「政府のとある収容施設に氷塊ごと押し込められている。自分を覆う氷が分厚すぎるのか、自力じゃ逃げ出せないみたいだが……巨大な冷凍室で隔離している以上、逃げ出す事もあんめえよ」

「「………………」」

「……まあ、リナやウェルズ達もそうだが、お前もしばらくは休んでおけ。今回の捕り物は激しかったみたいだからな」

 そう言うと修司は病室から退室していった。

 

 修司の言ったとおり、キラー・ウォーター・クリスタル・スコーピオンはとある収容施設の最深部その特別冷凍室にて氷漬けにされたまま隔離されてた。

 しかし、まさかこの時、このクリスタル・スコーピオンと聖龍隊が長きに渡る因縁を後に会う兄と共に張り巡らせるとは、修司も誰もこの時は思っていなかった。

 

 

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