聖龍伝説:現政奉還記 創生の章:昔語り編 作:セイントドラゴン・レジェンド
[あらすじ、そして温泉郷での出会い]
前回、バーンズたち聖龍隊から数多くの武勇伝と共に語り継がれたルミネ率いる新世代型二次元人との激戦。
ルミネは旧き世代の二次元人を滅ぼし、自然の摂理に則って三次元人すらも淘汰しようと画策していた。
聖龍隊は何とかルミネを討伐する事ができたが、ルミネが言い残した不吉な言葉、そして当初は懸念されていた改正された生誕ロットによる新世代型二次元人の生誕再開。
小田原修司のクローンという事だけでも生き辛いと言うのに、ルミネという自分達の子孫や親族にあたる存在が起こした一大事件を知って愕然とする、新たな新世代型たち。
そんな中、新世代型達は不吉な夢を見た。黒武士が横行し、夢の中に現われたルミネからの言葉の数々、そして何よりも何十人といる黒武士の素顔が自分達と同じである光景を見て、新世代型達は酷い寝汗を掻いて目覚めた。
しかし、そんな目覚めの悪い夢を見た新世代型達は、自分たち新世代型だけでなく二次元人そのものが持つ「人を導く力」はどういったものなのかを考え、答を求めてアジアの名立たる武将達に訊ね回った。
モンゴル軍が忍 猿飛佐助、中国漢族郷士の大軍を委ねられるタク・モンジュロ、その漢族の長にして若きカリスマ性とリーダーシップを持ち合わせるデイ・マァスン。彼らに次世代の王とは何なのかを訊ねる。
そして最後にミラールからは、どんな集団にも必ずはリーダーといえる人材はおり、リーダーではなく皆で話し合って物事を決める民主主義的な思考も世の中には溢れ返っていると告げられる。
新世代型達はシバ・カァチェンからも、かつて自分達を窮地に陥れた新世党の面々の様に、今の新世代型達も変化してしまうでは無いかと疑われてしまう始末。
そんな新世代型やカァチェンの前で、バーンズは皆に己の中の可能性を見出せと強く主張しつつ熱弁する。
バーンズからの問いに、新世代型達は更に昏迷を極めてしまうのであった。
所と時は変わって、現地は中国のとある地に在る温泉郷。
聖龍隊と、その聖龍隊と同盟を結んでいるアジアの名立たる軍はこの温泉地にて、しばしの安らぎと休息を求めてやって来ていた。
「ふぅ……いやぁ、いい湯だったな」
「ホントホント。少しは戦いでの疲れも汗と一緒に流れてくれたかな?」
風呂上りに一息入れるバーンズとジュニア。彼らの周りには、既に先に温泉に入り、そして上がった男達の姿が在った。
「……温泉に連れてきて貰ったのは嬉しいけど……」
「うん、あまりサッパリできなかったね」
聖龍隊と同行してもらい、一緒に温泉に浸かった新世代型の瀬名アラタとイオリ・セイの二人は湯上りなのに複雑な面持ちを浮かべるばかり。
それもその筈。新世代型は、武将達から聞いた王と言う名のリーダーの素質についても、国の在り方や体制、何より自分たち新世代型自身の中に眠る驚異を指摘されて、未だに頭の中が整理できていないからだ。
そんな新世代型達は複雑な心境を抱えたまま、聖龍隊とアジアの武将達と共に温泉地に連れて来て貰ったは良いが、自分達の先行きの見えない未来や運命について悩まされ続けていた。
すると湯上りで温泉街を散策している新世代型達に、遠方から俊足で此方に向かって来る一人の武将の姿が飛び込んできた。
「姉上ーーッ! 姉上ーーーーッ!」
「あれ? あの人は確か……」「韓国将軍の……」
俊足で向かってくる人物に見覚えのある新世代型の神浜コウジや速水ヒロたちは注目する。
そして皆の前に駆けつけてきたのは、新世代型達には見覚えのある韓国将軍のサイ・チョウセイその人であった。
「おおッ、諸君! 確か我が兄者、小田原修司のクローンである新世代型の皆々だな!」
『っ!』
チョウセイは駆け付けてきては否や、新世代型たちを義兄である小田原修司のクローンとして略称する傾向にムッとするが、相手は将軍でもある事からグッと堪えてチョウセイに訊き返した。
「貴方は韓国将軍のサイ・チョウセイさんではないですか? 一体どうされたんですか?」
「貴殿は確か、斉木楠雄と申されたな。いや、温泉地にて休息中に皆の者済まない! じ、実は……我が姉、マリアがこの温泉地に足を運んでいると聞き及んで……」
斉木から訊き返されたチョウセイの返答を聞いて、新世代型達は一驚した。
チョウセイの実姉マリアは、その容姿端麗な美貌ながらも、かなりの悪女と評判の悪い女性であり、今現在は聖龍隊を含む多くの異世界やアジア武将達と対立する黒武士を召抱えている国連総長、足正義輝に降っている人物なのだ。
そんなマリアが何ゆえに、国連総長や黒武士の許を離れて中国の奥地にある温泉郷に滞在しているかというと、単なる気紛れと休息の為だという。
事実上、敵側に降っているマリアに対して実弟であるチョウセイは、彼女を自分達の母国韓国に連れ戻そうと躍起になって、この温泉地へと赴いたという。
チョウセイからマリアがこの温泉地に赴いていると聞かされた新世代型達が愕然としていると、そこに話を聞き付けたバーンズとジュニアが、浴衣に手ぬぐいと言う定番の湯上りスタイルで駆け付けた。
「お、おい、チョウセイ! 今の話ホントか!?」
「あ、バーンズさん」
「あの愛染艶花マリアがこの温泉地に来ているだって!?」
駆け付けてきたバーンズにジュニアの二人に、新世代型達が注目してるとチョウセイは皆の前で言い切った。
「は、はい、恥ずかしながら……実は先刻、姉上から以下の様な書状が届きまして……」
チョウセイが語るには、姉マリアは以下の手紙をチョウセイに向けて届けてきたという。
「チョウセイへ 妾は最近、心から癒される事が滅法無くなってきたの。それ故に、いま聖龍隊やアジアの武将達が癒されに来ている温泉地に赴く事にしたわ。貴方は貴方の思うがままにしてちょうだいね」
サイ・チョウセイはこの姉からの実に自分勝手な書状に腹を立て、強引にでも韓国に連れ戻そうと遥々やって来たと言う。
「あ……姉上のわがままには、私は今まで散々堪え凌いできました……が! それも
完全に姉を連れ戻す事に躍起になっているチョウセイを前に、その怒りや闘志の燃え様を目前にしてバーンズ達は途方に暮れる。
すると其処に、韓国兵が血相を変えてチョウセイに報告しに来た。
「チョウセイ様、チョウセイ様!」
「おお、どうしたのだ我が理の兵よ。姉上は見付かったのだろうな?」
「そ、それが……どうやらマリア様は温泉郷の奥地にある秘湯に現在浸かっている御様子の様で……」
「むっ、そうか……! 姉上め、今度こそ縛に付いてもらうぞ」
「しっ、しかしチョウセイ様……! マリア様は現在、温泉に入浴中なのですよ? 攻め込むなんて真似しても良いのでしょうか……そ、それに、話によると聖龍隊や新世代型の女性まで一緒に入浴しているみたいで……」
「なに! アッコ達が!?」
チョウセイに報告する兵士の話に、バーンズは思わず反応してしまう。
誰もが魅了される聖龍隊や新世代型たちの女性の裸体を想像して、思わず顔を赤める男達。
と、単身で姉の元に乗り込もうとするチョウセイに、バーンズが慌てて制止する。
「お、おいおいチョウセイ! マリアだけでなく、他の女たちも一緒に入浴中なんだぞ? 今乗り込めば、お前は完全な変質者……」
「な、何を申されますか! 私は姉上に用事があって、他の
「は、はわわ……みんなの逆鱗に触れたら、大変な事に……」
身内の問題だとしてバーンズの制止を無視するチョウセイに、ジュニアは下手すれば聖龍隊の女性達の逆鱗に触れかねないと怯えてしまう。
そしてサイ・チョウセイはそのまま実姉マリアの元へと誰の制止も聞かずに走っていった。
「や、ヤバイ! 下手したら大惨事になっちまうかも……オレ達も後を追おうぜ!」
「待ってやした!!」
バーンズの下心丸出しの呼びかけに、同じく下心丸出しの大将たち赤塚組のむさ苦しい男達も歓喜した。
そしてバーンズはチョウセイを追いながら、湯上りの聖龍隊士達を招集して共にマリア達の元へと向かおうと企む。
そんなバーンズの下心を察しながらも、新世代型の男達も興味本位でマリアの元へと共に向かうのだった。
[マリアの考え]
その頃、温泉郷の奥地に在る秘湯では、加賀美あつこを始めとするHEADの女性達に導かれて一緒に秘湯を堪能しようと新世代型の女性達も同行していた。
だが、秘湯に入浴前に、彼女達は温泉地を訪れていたマリアと遭遇。そのままの流れで一緒に湯に浸かってしまう。
自分達と敵対している黒武士を召抱えている国連総長に降っているマリアとの入浴は、最初は息が詰まるものだった。
しかし、しばらくしていると、温泉の効能からか気持ちが穏やかになっていき、そんな中でアッコがマリアに問い掛けてきた。
「ねえ、マリアさん? 国連総長の許に居なくてもいいの?」
するとマリアは微笑みながら答えた。
「フフ、心配しなくても大丈夫よ聖女……義輝も黒武士も、今ではお互いにこの先の大戦に備えて自身を整えている最中。妾も己が体を癒しにこの地まで足を運ばせただけ……戦うなんて無粋な真似、少なくとも今の妾にはないから安心してちょうだい♪」
「そう、それを聞けたのなら安心してお湯に浸かれるわね」
マリアからの返答を聞いて、アッコは少し安心した様子で湯船に身体を浸す。
そのままアッコたちとマリアは温泉女子会の如く、談話を始めた。
そんな湯に浸かる女子達の現状など知らず、姉マリアを追ってチョウセイが温泉地に乗り込んできた。
「はぁ、はぁ……み、見つけたぞ姉上……!」
チョウセイの掛け声を聞き付け、姉マリアは温泉に浸かりながら愛想を尽かす。
「……そう、来てしまったのね……仕方のない男」
マリアたち女子らが入浴している温泉地には、同じく女風呂を利用している中国の女地頭イン・ナオコが従える軍隊が警護していた。
イン軍の戦乙女たちが警護する温泉地を、チョウセイが姉を追って奔走し、そのチョウセイを制止する目的かはたまた女子風呂を覗きたい一心でか、バーンズら男達が追走する。
「我らなでしこ! ナオコ様を護る、白虎の爪!」
チョウセイを筆頭とした男達を追い払おうと、なでしこ隊が奮闘するも。
「そ、其処を退くのだ! 私は姉上に用があるのだ!」
と、チョウセイが進行を邪魔するとして、なでしこ隊と交戦を開始してしまう。
チョウセイの振るう剣捌きに、なでしこ隊は一掃され、チョウセイと彼を追うバーンズたち男共は奥へと突き進む。
「お、おいチョウセイ……ここは完全に女達が独占している秘湯だぞ? このまま進めば、オレ達は覗き魔……ぐへへへ」
完全に色目を使っているバーンズの、制止にもならない声に対してチョウセイは強く反論した。
「何を申されるか! 姉上を韓国に連れ戻す……この戦、私の方に義がある!」
「い、戦なの!?」
チョウセイの発言にジュニアが驚くが、チョウセイの進攻は止まらない。
そんな女湯の外から聞こえてくるチョウセイの戦闘音を耳に入れ、マリアは愉悦に浸る。
「妾を求めて争っているのね……いじらしいわ♪」
マリアが自分を求めて進攻してくる男達に愉悦を感じている最中も、その弟であるチョウセイは俄然と進軍していた。
「ああっ、大丈夫か!? ……貴様らッ、乙女の柔肌に何という無体をッ!」
そんな進軍するチョウセイたち男共の横暴を見かねて、ナオコが怒りを発する。
しかもナオコの目には、チョウセイ達が自分の所の女兵を卑しい目付きで見ている風に捉えてしまう。
「お前達……うちの娘達を疚しい目で見たな!? この、痴れ者がッ!」
「ええッ!? ち、違いますよっ!」
「ウソをつくな! この……少し顔立ちが良いからって、このスケベぇ者め!」
ナオコの叱咤に新世代型の燃堂力が否定するが、それでもナオコの疑りは収まらない。
サイ・チョウセイと共に男達が進攻していると、彼らは温泉地の「つるの間」へと辿り着いた。
「ここか、姉上!」
チョウセイは有無も言わずに扉を乱暴に蹴り飛ばして開けてしまうが、そこに居たのはマリアではなかった。
「へへっ、男子の皆さーーん。この奥は男子禁制ですよーー♪」
つるの間に待機していたのは、これから温泉に浸かろうかとしていた、文字通り巫女姿の鶴姫であった。
「こらっ、そこの男子! 女の子達の裸を覗こうだなんて、この破廉恥!」
「ち、違います。僕らはバーンズさん達と一緒にチョウセイさんを引き止めようと……」
「言い訳はいけませんっ」
鶴姫の注意に訂正しようと返事する瀬名アラタ達に対して、鶴姫は言い訳無用と強く言い返す。
そんな鶴姫は、バーンズたち卑しい考えが混ざった男達の次に、チョウセイへと話を振った。
「理さん、ここはぜーーったいに通しませんよ! ……この言葉、一度言ってみたかったんです……♪」
「貴殿は、
チョウセイを絶対に先へと進ませない姿勢の鶴姫に対し、姉マリアの味方をする鶴姫の行動を悪と決め付けるチョウセイは激しく闘い始めた。
しかし鶴姫はチョウセイに対して、実に奥が深い話を説き始めた。
「貴方は、大事な人を……独りぼっちにさせていませんか? 私にはまだ経験ありませんけど、それはいけない事だと思います」
「?」
突然の鶴姫からの問い掛けに首を傾げるチョウセイに、鶴姫は更に訴え掛ける。
「奥さんの傍に居てあげて下さい! それが、きらきらねえさまの望みでもあります!」
「あら……、廻り過ぎる口は美しくないわよ」
「ひ、ひえっ!?」
真意を喋り過ぎたとしてマリアから冷たい眼差しを受けた鶴姫は、自然と背筋に悪寒を感じ取った。
しかし、そんな鶴姫の説得もチョウセイには聞き入れられず、チョウセイは鶴姫を突破して先へと進軍してしまう。
「ごめんなさい、きらきらねえさま……わたし、追い返せませんでした……」
チョウセイの鋭い太刀筋を受けて、鶴姫は目を回しながらマリアへと謝罪すると温泉で一休みに入った。
「……やれやれね、相変わらず融通の利かない男ね。あれじゃ、あなたの真意を話さない限りは止まらないわよ」
「そうね……全く、困った弟だこと」
「私には、どうにも嬉しそうに見えるんだが……」
迷わず進軍するチョウセイを遠視して聖龍隊のミラールが呆れていると、嬉しそうにそれを眺めているマリアにナオコが口を差した。
一方のチョウセイは、韓国軍の兵士を味方に躊躇わず温泉地を進軍。姉マリアの元へと急ぎ馳せ参じる。
「家庭内乱世、巻き込まれても俺らに勝ちはねえぞ……」
そんな韓国軍は、何かと家庭内で問題や派閥が起こるチョウセイの事情を知ってか、不安に苛まれる一方。
「とにかく彼を止めるわ、それでいいでしょ?」
「悪いわね……後で何かお礼をするわ」
「フフ、身内同士のいざこざにまで聖龍隊は口出ししないわ……故に、不要よ」
進軍するチョウセイを制止しようと、聖龍隊のミラールが出撃の準備に取り掛かる。
そして準備を終えたミラールは、単身チョウセイの前に飛び出て彼と一騎打ちに挑む。
「な、何ゆえ聖龍隊の精鋭たる貴殿までも私の邪魔をするのだ!? 私はただ、姉上を迎えに参った次第……」
「おいおいミラール、さっきの鶴姫といい、お前までもマリアの味方してチョウセイとオレ達の進攻を妨害する気か?」
チョウセイとバーンズが問い掛けると、ミラールはバーンズたち同行する者たちには目を向けず、一直線に視線をチョウセイに向けて頑として問い掛けた。
「チョウセイ……あなたは奥さんよりも姉を優先するの?」
「身内は全て同列だ! 私の方針には口出し無用と言わせて貰おう!」
「常に共に在る、そういう約束を交わしたのが夫婦ってもんでしょ?」
「何故それを……よもや姉上が語ったのか!? ……おのれ姉上……!」
鶴姫に続いてミラールもマリアの考えを伝えようとするが、血の気が上ったチョウセイの耳には真意は入らなかった。
ミラールの二丁拳銃から繰り出される弾幕を、勇敢に潜り抜けて接近戦に持ち込むチョウセイは、ミラールの二丁拳銃を剣で弾いて強引に彼女を突破してしまう。
「悪いが、ここは通させてもらうぞ。話があるのは姉上だけだ」
そうミラールに言い残したチョウセイは、再びマリアの元へと直走るのだった。
「変わった身内ね、マリア。……だけど、だからこそあなたの決断も解る気がするわ」
真っ直ぐ過ぎる性格のチョウセイを身内に持つマリアの心境を、同じく兄が居るミラールは薄々理解していた。
[制止する撫虎]
イン軍の女兵達を退かせ、更には鶴姫とミラールも突破したサイ・チョウセイは絶えず姉マリアがアッコや新世代型の女子達が入浴している温泉へと向かった。
温泉地を駆け抜けるチョウセイを制止しようと、イン・ナオコは普段から頼りにならない男衆に出陣させる。
「ここの守りは男衆に任せる。……期待してやる、応えてみせろ!」
「りょ、了解ですぅ!」
ナオコの指示を受けて、男衆は実に弱々しい物腰でチョウセイを迎え撃つ。
しかしチョウセイは、その凄まじい剣捌きで男衆を蹴散らして強引に突破する。
「無言即殺! 悪と無駄口、削除なり! ええい、退け退け!」
チョウセイが決め台詞を発しながら進攻しているのを見て、男衆が呟いた。
「あんたらが正義で俺達が悪、か……結局、見方次第だぜ」
しかし、そんな愚痴を零す男衆も結局は倒しては先へと進んでしまうチョウセイ。
そんなチョウセイを、女子達の裸目的に成りつつあるバーンズたち聖龍隊や新世代型の男達は黙って追走するばかり。
「絶対に逃がさんぞ、姉上! 今回ばかりは一言言わねば収まらん!」
「ふふ……本当に仕方ないわね、チョウセイは……」
いつも身勝手な姉マリアに文句を言おうと決断するチョウセイに対し、マリアはそんなチョウセイの言動を微笑ましく思う。
すると此処で湯上りばかりなのか、身体から湯気を昇らせて少し薄着になっている、なでしこ隊がチョウセイの前に立ちはだかった。
「こ、この者達は一体……!? 女性の凜華を刃とするなど、悪にも程がある!」
「……その言葉、お前の姉に突き付けてやったらどうだ……?」
思わず動揺するチョウセイの言動を聞いて、ナオコが自分の姉に言ってみろと文句を返す。
しかし動揺したチョウセイであったが、すぐに態勢を立て直してなでしこ隊に挑んでは勝利をもぎ取る。
そんな弟の進軍を眺めては優雅に温泉を堪能するマリアに、ナオコが質問をしてきた。
「……男に求められるって、やはり心地良いものなのか? 私には縁が遠すぎて解らないな……」
「そうね……いずれ知る日も来ると思うわ、勘だけれど」
ナオコの愚直な質問に、マリアはいずれ知る日が来るかもしれないと勘で申した。
そして乙女達が風呂上りの憩いの場にしている大広間へと辿り着く直前、そこに通ずる扉を警護するなでしこ隊が進軍を阻む。
「この先、ナオコ様の命により通す訳にはいきません!」
しかしチョウセイは、これを即決で断る。
「否! 私と身内の問題を阻む壁を作ろうものなら、それは断固として悪! 邪魔立てするなら、この刃を振るうのみ!」
チョウセイはなでしこ隊に斬りかかった。
「それは……私達への挑戦だな? いい度胸だッ!」
チョウセイと門番をしていたなでしこ隊の乱戦が始まってしまった。
それを少し離れた場所から観戦するバーンズたち男は、黙然と見届けるのみだった。
その頃、マリアはというと。
「そうね……十二単を用意しなさい? まぁ、重そうだから着ないけど」
「が、頑張りまぁす!」
重いという理由で絶対に着ないであろう十二単を部下である兵士に命じていた。
一方でチョウセイは。
やっと門番を突破して、乙女大広間へ強行突入した。
その大広間に陣取っていたのは、若かりし女地頭の猛将イン・ナオコだ。
ナオコは躊躇わず進軍してきたチョウセイを前に、マリアの考えをハッキリと伝えた。
「マリアはお前たち夫婦に気を遣って弟のお前の前から消えたんだ! 当のお前が追い掛けてちゃ示しがつかないだろうが!」
しかしナオコの説得を、温泉で時間を潰すマリアは少しばかり否定した。
「……違うわよ、チョウセイも、韓国も、零れてゆくなら捨てるだけ」
一方でナオコから姉の真情を伝えられたチョウセイは、そんな姉の気持ちを信じられずに反論した。
「私への気兼ねだと……? 何故そんな必要がある? 唯我独尊、それが姉上の正義ではないか!」
「お前……ッ! それを本気で言っているのか……!?」
姉の真情を悟ろうとはしないチョウセイの本心に、ナオコは怒りに滾った。
「お前ほど女心を知らない奴は見た事がないッ! そこに直れ、私が性根を叩き直してやる!」
感情が昂ったナオコは、巨剣を振り上げてチョウセイに襲い掛かった。
チョウセイも必死にナオコの巨剣をかわしていくが、何ゆえ自分が責められているのか疑問視してた。
「誰も彼もに非難されようとは……私が一体何をした……!?」
それでもチョウセイは必死にナオコと抗戦。
「男衆を当てにした私が愚かで間抜けだった……と、言わせたいのか?」
睨みを利かせるナオコの猛攻に、チョウセイは華麗な動きで撹乱する。
「刮目すべし、サイ・チョウセイ……輝く剣、我が胸に在りッ!!」
チョウセイの剣とナオコの巨剣がぶつかり、激しい火花が散る。
そんな二人の闘いに助太刀に入ろうと、なでしこ隊も突撃するがチョウセイはこれを見事な剣の一振りで薙ぎ払ってみせる。
が、そんなチョウセイの華麗な技が女達を傷付けた行為にナオコは激怒する。
「貴様……乙女の玉肌を傷ものに……! 相応の覚悟はできているなッ!?」
「な、何を言う……? そちらが仕掛けてきたのではないか」
「問答無用ッ!」
ナオコの怒りの巨剣が、チョウセイに襲い掛かる。
しかしチョウセイは寸前でナオコの猛攻を回避して、反撃といわんばかりに凄まじい剣捌きでナオコに攻撃。
このチョウセイの反撃を受けて、ナオコは一旦退いた。
「何だ、マリア……お前の弟、それなりにやるじゃないか……」
「………………………………」
ナオコはチョウセイの腕前を認めた上で先に進ませたが、ナオコからの賞賛に対してマリアは無言だった。
こうしてサイ・チョウセイと彼を追走するバーンズたち男勢は温泉郷の奥地、更なる秘境へと進行した。
[覚悟の時]
迷う事無く邁進するサイ・チョウセイに、彼を追走するバーンズたち下心丸出しの男達。
そんな進行するチョウセイは、遂に姉マリアとアッコたち聖龍隊や新世代型の女子達が入浴する温泉の手前まで辿り着いた。
チョウセイは実姉マリアが休まっている風呂の前まで歩み寄ると、その背後でバーンズたち男勢が窺うばかり。
「姉上! 遂に追い詰めましたぞ! 聖龍隊や新世代型の女性達も居るようですが……姉上が自ら出頭してこない以上、私はそちらに乗り込む次第!」
下心など微塵も無いが、姉マリアを韓国に連れ帰る為なら強行的な行為も辞さない事を主張するチョウセイ。
するとそんなチョウセイにマリアが風呂場の中から声をかける。
「ねえ、チョウセイ……貴方が正義を言い出したのも、元は妾の所為だったわね」
「……どうした、姉上? 何故今更、そのような事を口にする……?」
突如として昔の事を言い出す姉の言動に、チョウセイは戸惑いを隠せない。
「……話をはぶらかす御積りだな! 開けるぞ、姉上!」
と、チョウセイは風呂場と室外を隔てる引き戸に手をかけ、風呂場に乗り込もうとする。
「待てーーーー…………!!」
上手くいけば女性の裸を拝めると踏んだ、バーンズたち男勢はその瞬間を見逃さず、一気に雪崩れ込んでチョウセイが開けた引き戸から風呂場に入り込んだ。
チョウセイの真横を通り過ぎ、バーンズたち男勢が女子風呂に雪崩れ込んでみると、視界を遮る湯煙が次第に晴れて、目の前の全貌が明るみになっていく。
男達は生唾を呑んで、誰もが女性の裸体に期待して胸を高鳴らせる。
そして湯煙が完全に晴れて、男達の視界に女子風呂の光景が飛び込んだ。
「……どうしたの? バーンズたち」
と、足だけを湯船に浸からせるアッコがきょとんとした顔で風呂場に雪崩れ込んできたバーンズ達に声をかける。
「ここのお湯は最高ね♪」
そう足を湯船に浸からせていたマリアが、温泉に満足した様子で呟いた。
足湯ですが、何か? という顔で、足湯に浸かってた女性達が男達に視線を送る。
『どっしぇ~~いっ!!』
期待していた女風呂とは一転、単なる足湯だった事実に残念がり、ズッコける男一同。
そんなズッコける男勢を尻目に、チョウセイは力尽くで姉マリアを連れ帰ろうと剣を握る。
「さあ、姉上! 共に韓国に帰還するのです!」
しかしマリアは、足湯から上がり、その絹の様に美しい肌を輝かせながら、湯で濡れた素足を拭うとチョウセイに面と向かって問い掛ける。
「解るでしょう、チョウセイ……姉離れの時なのよ」
「……貴女の話はまともに取り合うだけ無駄だ! 無駄口は祖国に、韓国に帰還してからにして貰うぞ、姉上……!」
しかし姉マリアの話をまともに取り合う気がないチョウセイは、剣先を向けて強引にマリアを連れ帰ろうとする。
「さあ姉上、潔く縛に付くがいい! 有沙と私がどうであろうと、帰るべき場所は韓国のみだ!」
「いいえ、違うわ……少なくとも、もう韓国は妾の
韓国に連れ帰ろうとするチョウセイに対し、マリアは既に韓国を故郷にしてはいないと述べ返す。
更にマリアはチョウセイに、彼の夫婦仲についても問い質した。
「チョウセイ、どうして有沙を一人にしたの? 何かの拍子に夫婦の関係が壊れても、妾は知らないわよ」
「そ、それは……姉上さえ身を隠さなければ……」
突然の姉マリアからの説法に対して動揺するチョウセイ。
足湯に浸かるアッコたち女性陣も、女性の裸を期待していたバーンズたち男勢も二人の姉弟の会話を傍観するばかり。
「貴方は覚悟を決めなければならないの……有沙という
「それが、例え姉上であってもか……? そのような不義……私、私は……!」
妻である有沙だけを選ばなければならない覚悟をチョウセイに求めるマリアに対し、チョウセイは身内を捨てる事を不義として受け入れ難く思っていた。
だが、そんな苦悩するチョウセイに、姉マリアは告げる。
「妾は多くを欲するけれど、それは妾が特別なだけ……普通はそうはいかないのだから……一つを大事になさい」
「……姉上に、そのような事を諭される日が来ようとはな」
特別な自分が多くを望むのは当然だが、普通はそうはいかないのが現実ゆえに、たった一つの大事なものを選ぶように説くマリアの言葉に、チョウセイは姉から事実を述べられた事に驚いた。
そしてチョウセイは、妻である有沙との誓いを思い出す。
「共に在ると誓った……その約束は必ず果たす! それが……それこそが私の正義だッ!」
「それでいいのよ……男になりなさい、チョウセイ」
有沙との契りを思い出して、本当に自分が大切にしなければならないものが何なのかを気付いたチョウセイに、マリアは薄らと笑みを浮かべる。
妻である有沙との契りこそ、自分が果たさねばならない本当の義であると気付かされたサイ・チョウセイは、その事に気付かせてくれた姉マリアに感謝した。
「ありがとう……世話になった、姉上ッ!」
「ああ、はいはい……良いから、さっさとお行きなさいな……」
弟チョウセイに自らの真意を伝えたマリアは、チョウセイに早く妻の許に帰るよう手払いすると足湯で火照った体を冷やす為に給水場に足を運んだ。
[己の役割を果たす責任]
実弟であるサイ・チョウセイに、姉よりも妻である女性を大事にする事こそ男としての正義だと気付かせたマリア。
そんなマリアがチョウセイを見送った後に、給水場で冷たい水を飲んで体を潤していると。
其処に温泉地を警備していた女武将達と、アッコたちマリアと共に足湯に浸かってた聖龍隊や新世代型の女性達がやって来てマリアに声をかける。
「マリアさん」
「あら、聖女達じゃない? どうしたの? 妾は一息入れたら、もう義輝達の元に帰ろうと思ってるの♪」
マリアに声をかけたアッコは、そのまま話し出した。
「弟さんであるチョウセイに、奥さんである有沙ちゃんの方を大事にするよう気付かせるなんて……あなた、自分勝手な人かと思ってたけど案外弟思いのいいお姉さんじゃない?」
「………………」
アッコからの賞賛の言葉に対して、マリアは気難しい顔のままだった。
「まっ、あのチョウセイって奴は奥さんそっちのけでアンタばっかりに気が向いていたと思っていたから丁度良かったよ」
以前からサイ・チョウセイが実姉ばかりに気を向けていた事実をギュービッドは指摘する。
「これで少しは、あのチョウセイ将軍も奥さんを一層大事にしてくれたら良いわね」
「そうね、あなた達の始祖である小田原修司の妹なんですものね……あなた達は妾よりも有沙を心配するのは当然ね」
「い、いえ……別に、そんな意味では……」
イオリ・リン子の言葉に、マリアは彼女達が所詮はチョウセイの妻・有沙の実兄である小田原修司のクローンである事実を持ち出すと、エイミーが慌て出す。
するとマリアは、アッコたち女性陣に告げた。
「妾だって、少しぐらいは姉としての役割を果たすわ。何より、もうチョウセイだっていい歳。いい加減に自分と契りを結んだ女と添い遂げるのが実情でしょ? 正直、妾もチョウセイにはうんざりしていたから、ちょうど良かったのよ」
そう何だか照れ隠しの様に告げるマリアの台詞を聞いて、アッコ達は呆れながらも笑顔を浮かべた。
そんなマリアは更に新世代型の女性達に告げる。
「……新世代、あなた達こそ自分の役割、そしてそれに対する責任を果たしているの?」
「え? 何を突然……」
突然言い出すマリアに、新世代型の琴浦春香たちが戸惑うがマリアは続け様に告げた。
「この世に生きる者には、誰しもそれ相応の役割と責任が生じているものなの。あなた達、新世代型は鬼の申し子と呼ばれているだけで、自分の役割に気付いているの? そしてその役割に責任を果たしているのかしら?」
『………………………………』
マリアからの質問に新世代型の女性達は、何も答えられず無言になってしまう。
アッコたち聖龍隊や新世代型の女性達から賞賛の眼差しをマリアが浴びる中、マリアとは親しいイン・ナオコが問い掛けた。
「……本当にこれで良かったのか?」
するとナオコの問い掛けにマリアは優雅な物言いで微笑を浮かべては言い切った。
「ふふ……妾はね、妾の
「………………………………」
と、質問したナオコや聖龍隊に新世代型の女性達を尻目に、マリアは既に此処は用済みと言わんばかりに立ち去ろうとする。
すると去り際に、マリアは先ほど自分に賞賛の言葉を贈ったアッコに向かって実に意味有り気な台詞を投げ掛けた。
「あ、そうそう………………加賀美あつこ」
「? はい?」
「実は、妾は少し楽しみであり、期待しているの♪ あなた達……特にあなたが、真実を前にした時どんな顔を浮かべて、どんな行動に打って出るのか。今の妾はそれだけで心が躍るのよ♪」
「は、はぁ……」
マリアの謎めいた台詞に唖然とするアッコ。
そんなアッコを尻目に、マリアは薄らと微笑みながら立ち去っていった。
(ふふ♪ 真実を知っても尚、愛する男と真正面から向き合う覚悟が聖女や聖龍隊にはあるのかしら……ホントに楽しみだこと♪)
そう一人で密かに思うマリアなのであった。