聖龍伝説:現政奉還記 創生の章:昔語り編 作:セイントドラゴン・レジェンド
[ほのぼのとした夕暮れ]
全ての世界を破滅に誘おうとする黒武士の野望を絶つ為、完全に一致団結した聖龍隊とスター・コマンドー。
だが聖龍HEADはその黒武士の不意打ちによって全員が戦闘不能に陥るまで痛め付けられ、現況は最悪のものと化していた。
そんな状況を打破しようと二次元・三次元同盟の先頭に立った村田順一たちスター・コマンドーが大軍勢を率いて黒武士の行方を追う為に進軍の準備をしていた。
その頃、戦乱に巻き込まれないようにと新世代型二次元人たちは中国のとある地に在る本命寺なる寺社にて聖龍隊の一部の隊士達と共に待機していた。
女子や幼子が仲良く戯れる中、兵士達はいつ何時敵方が襲撃してきても良い様にと警戒を強める。
と、琴浦春香と腹違いの妹である小野崎綾香が戯れている所に、世話役を仰せ付かった隊士が夕食の支度が済んだ事を外で遊ぶ子供達に呼び掛けた。
「ごはんですよ~~」
エプロン姿で多少女口調で呼び止める隊士の声色に騒然となって倒れてしまう琴浦春香たち。
『おええぇッ』
そんな声色を変えた隊士に真鍋義久がツッコんだ。
「おいっっ! その呼び方はやめろって! キショい!」
「や、やはりダメでござったか。はは……」
真鍋から駄目出しを受けた隊士は苦笑いを浮かべる。
そして隊士達に導かれて、新世代型と四人のプロト世代は御座敷に上げられた。
配列された御膳には、日本各所の名産で作られた料理の品々が並べられていた。
「悪いな、本当なら俺達が自分で作っても良かったのに……」
「いいえ、幸平殿も大事な客人。客人に寛いでもらわなければ、総長達に顔向けできませぬ」
本来ならば調理人である自分達も食事の準備を手伝わなければと意思を伝える幸平創真に、隊士は客人にその様な手間を掛けさせられぬと申し返されてしまう。
「ほらほら慌てないで。みんなの分は十分にあるから」
小野崎綾香や宮内れんげら幼子達に全員分の食事が十分に用意していると宥める隊士。
「はいはい、そんなに慌てないで。まだ沢山あるから。よぉく噛んでから飲み込んでくださいね」
聖龍隊の隊士達は、各々の配膳に食事を盛りつけ、個々の前に置くと一斉に夕食を開始した。
「では皆の衆! ……いただきます」
隊士の掛け声に、ようやく新世代型達も夕食をここぞとばかりに頬張った。
「幸平殿! あなた方は将来、名のある料理人になるのが夢だと聞いております! そんなあなた方の食通に満足してもらえるか分かりませぬが、それがしの地元の郷土品を食べてみてくだされ!」
「いやいや、まずは拙者の故郷の味を!」
「これさっき、田舎の母ちゃんに教わって作ったおふくろの味だ! たんと食べてくれっ」
自分の故郷の味を自慢したく、新世代型達にここぞとばかりに郷土の料理を振舞う隊士達に皆は困惑してしまう。
「おいおい、いくら何ても、そんなに食べきれねえよ」
隊士達の郷土料理自慢に真鍋義久は戸惑いを隠せない。
そんな和気藹々とする場の空気に多くの者が絆される中、琴浦春香の思想が新世代型二次元人の共有感知を通して他の新世代型に通じてしまう。
(この隊士の人たちは、私たちをどう思ってるのかな? 小田原修司のクローンと知って、どう思ってるんだろう……)
そんな琴浦春香の不安が、共有感知を通して新世代型一同に通じてしまい、皆は揃って黙然としてしまう。
「ん? どうしたのですか?」
突然明るい顔を一変させて暗い面持ちになる新世代型達を見て、隊士達は不思議がる。
すると最初に皆の不安を駆り立ててしまった琴浦春香が隊士達に自分達の疑問を投げ掛けてみた。
「あの……皆さんは、その……小田原修司の事や、その修司さんの夢と理想について、どうお考えですか?」
この質問に隊士達は笑顔で答えていった。
「んっ、ああ、修司殿の事ですか? ははっ、バーンズ総長の仰るとおり、まだ皆さんは修司殿のクローンである事を気にしているご様子ですな」
「確かに修司殿は悪や過ちに関しては、人一倍敏感で気難しい所が御有りでした。しかし修司殿が抱いていた夢……いや、それ以上の理想は実に素晴らしいものでした!」
「誰もが平等に、そして平和に過ごせる差別なき世界と未来……まさしく、我ら二次元人と三次元人が共存できる時代を築こうとしていた修司殿らしい理想でありました」
「今では、我ら聖龍隊がその夢を、理想を受け継ぎ、現実に叶えようと奮闘しているのであります」
笑顔で自分達の、小田原修司から始まった理想を熱弁する隊士達の言動に、新世代型達は箸を止めて聞き入った。
「貴殿らは、確かに我ら聖龍隊の創設者にして鬼神と畏れられた小田原修司を始祖とするクローン……だからと言って、修司殿と同じという訳では無かろうに」
「修司さんは俺たち二次元人を……そう、昔ヤンチャしていた自分にも居場所を与えようと聖龍隊を築いてくれた。みんなの居場所を作りたい思いから聖龍隊を創設したんだ!」
「聖龍HEADからも聞いております。色々と不安に思うところは多々あると思いますが……少なくともこの場では、この聖龍隊という垣根の中では安心して下され」
「ここは心ある者なら誰もが安心できる居場所、云わば宿木なのでございます。小田原修司のクローン、黒武士との関係性、確かに不安要素が強いのが現状ではございますが……此処では誰もあなた方を責めたり非難したりは致しません」
心優しい隊士達の気遣いと言葉に、新世代型達の中には思わず涙が零れそうになる者もいたが、そんな者たちに隊士達が声をかける。
「そう泣かんでくだされ。拙者達はあなた達との出逢いを、一期一会を大切にしているだけでござる」
「この世の多くの者があなた方の始祖である小田原修司を恐れ、または憎んでおられるでしょうが……拙者達は修司殿に救われた掛け替えのない命なのです」
「命ある者同士、助け合い、支え合い、そして生き抜いてみようではござらぬか」
「此処に居る我ら聖龍隊士は皆、修司殿の理想に導かれたのでございます」
この世には小田原修司の所業を恐れ、憎んでいる者も大勢いるが、同時にそんな修司によって救われ、そして今を生きている者たちも存在しているのだと隊士達は説いた。
新世代型達は思った。
こんなにも自分達に、小田原修司のクローンたる自分達に優しく接してくれるの存在が密集している聖龍隊に助けてもらっている現状を。
多くから恐れられ、多くから憎まれる修司のクローンである自分達に限りない優しさを見せてくれる聖龍隊士の嘘偽りのない言動にどれほど勇気付けられた事か。
隊士達の優しい励ましに新世代型達はどれだけ救われた事か。
新世代型達はその温もり感じられる夕食時を、隊士達と気持ちよく会食して過ごしたという。
[日没の奇襲]
聖龍隊の隊士達が用意してくれた夕食を、楽しく会食し合った新世代型達は食後の休憩に入っていた。
本命寺の片隅で、夕日が山向こうに沈んで日が暮れようとしている涼しげな、しかし少し寒い風を実感していた。
「さあ……いよいよ近い内に二次元人と三次元人の連合軍が黒武士相手に戦をするんだな」
「そうだね、ついに始まってしまうね。僕たちと同じ新世代型と思われる黒武士と、聖龍隊との戦いが……」
沈みかける夕日を眺めながら、真鍋義久と斉木楠雄は忽然と腰を据えていた。
「……本当に黒武士は俺たちと同じ新世代型なのかね? 何だか違うような気がしてならねえよ……」
「僕もテレパシーが効かないから分かんないけど……けれど、僕達を含め自らを破滅の血族と言い占めている限り、僕らとは無縁とは思えない」
「その破滅の血族ってなんだよ!? 破滅の化身メシアだった小田原修司のクローンだから、そう言っているのか? それ以前に、黒武士の言う事を素直に信じていいものかね?」
「まあ、確かに信憑性は低いけど……だけど、僕達とは無縁の関係でないような気がしてならないんだ。テレパシーがどうのこうのとかいう問題じゃなく、もっと根本的に何かが繋がっている様な気が……」
「ふぅ、まあ、俺たち新世代型を追い詰めて危険に晒している奴には違いないけどな……」
現政奉還が始まってから世界で猛威を振るう黒武士について議論し合う真鍋と斉木の二人。
「それにしても……あれから数か月しか経ってないのに、随分と俺たちの周りの環境は変わっちまったな」
「今となっては懐かしいね。アニメタウンの公園で、君らと出会って……それからタイの研究施設に誘拐されてから、アジアを回ったり、ジャッジ・ザ・シティに行ったり、宇宙に連行されたり……挙句の果てには自分達が小田原修司のクローンである事を知って、それから悪い事ばかりだったね」
「ホントに懐かしいぜ。何も知らず、アニメタウンでのびのびと暮らしていたのに、それが小田原修司のクローンだって事実を突き付けられて途方に暮れちまったよ」
「……真鍋、君はどうするつもりだい?」
「何が?」
「もし、今後無事にアニメタウンに帰れたら……向こうでどうするつもりだい?」
「あ? ああ、そうだな……でも、アニメタウンに俺たちの居場所があるかどうか。小田原修司のクローンである俺たちを、普通の二次元人達が受け入れてくれるかどうか」
「そうだね。それが問題だね」
小田原修司のクローンである事実を知ってしまった今となっては、もはや普通の生活に戻るのは難しいのではないのかと思い悩む二人。
しかし、そんな苦悩を斉木が割いた。
「まっ、今は考えていても仕方がない。取り敢えず今は、聖龍隊やアジアの武将達が黒武士を倒して、そして少しでも早くこの現政奉還を終わらせる事を祈るしか僕たちにできる事はない」
そう真鍋に言う斉木は、立ち上がり更に言った。
「さぁ、明日もある事だし、早々に寝るとしよう。お寺な為か、テレビも何もないし、やる事がないしね」
「フッ、そうだな。今は悩むのをやめるとするか」
斉木に言われて真鍋も立ち上がると、二人は本命寺の中に戻ろうとした。
が、その時だった。
ヒュッと微かな物音が。
真鍋と斉木はそれに気づくと、斉木は真鍋の顔を見て更に気付く。
斉木に見詰められ、真鍋もその異変に気付いた。自分の頬に何かが掠めたのか、血が零れている事に。
すると次の瞬間、激しい轟音と共に凄まじい銃弾の雨が本命寺に撃ち込まれた。
「うわっ!」「な、なんだ!?」
突然の轟音や銃声に頭を低くする斉木と真鍋。すると其処に聖龍隊士が駆け付けて、新世代型達に叫んだ。
「て、敵襲! 新世代型を匿っていると、反政府思想の敵方に知られた次第! 皆さんは急いで逃げてくだされ!」
なんと自分たち小田原修司のクローンである新世代型二次元人をも敵視する敵方に所在が知られてしまったというのだ。
この隊士の叫び声に真鍋や斉木以外の新世代型達も慌てふためき、混乱した。
「きゃあっ!」
銃弾が飛来する現状で頭を抱えてその場にしゃがみ込む鹿島ユノたち。
「皆の者! ここは落ち着いて、急ぎ本堂に逃げ込むのだ!」
本命寺では最も最深部に当たる本堂に避難する様お得意のリーダーシップで指揮を執る
「い、急いでください! 敵の進攻は想像以上に早く、既に寺社内に何万と言う軍勢が雪崩れ込んでいま……」
と、聖龍隊士が新世代型達に急ぎ避難するよう呼びかけていると、その隊士の頭部に銃弾が直撃。隊士は絶命してしまった。
「っ……きゃああっ!」
銃弾が頭部を貫通し、絶命してしまった隊士を目の当たりに悲鳴を上げる女子。
「此処も危険か……皆の者! 急ぎ本堂まで退避するぞ!」
皐月は率先して皆を先導して本堂まで走り込んだ。
そんな皐月の言動と、隊士達の懸命な誘導も相まって、新世代型達は急いで本堂へと走る。
しかし敵方の砲撃か、はたまた付け火が原因なのか、既に本命寺の各所から火の手が回り、寺は出火していた。
次第に本堂を繋ぐ通路にも炎が燃え移り、薄暗かった通路や屋外は炎で赤く照らされた。
しかも此処で新世代型達に更なる追い討ちが。付け火をしたと思われる敵方の部隊が寺社屋内にも雪崩れ込み、聖龍隊士と戦闘を開始してしまってた。
「このーーっ!」「ぐっ! ぬおーーっ!」
互いに激しく刃をぶつけあい、接近戦を繰り広げる聖龍隊士と敵方の兵士たち。
そんな戦闘の最中を通過しなければ、本道にまで辿り着けない。故に新世代型達は覚悟を決めて戦闘の渦中を突き進んだ。
すると案の定、敵方は新世代型達の存在を目視してしまう。
「新世代型だ!」「小田原修司のクローン!」
「許せない……小田原修司の、鬼神の申し子め!」
一斉に新世代型達に批難と敵視を向け、罵声を浴びせる敵方は新世代型達に容赦なく襲い掛かってきた。
「うわあっ!」
森谷ヒヨリに敵方の兵士が斬りかかろうと刃を振り上げた瞬間、それを聖龍隊士が未然に刃で防いだ。
「こ、此処は拙者が時間を稼ぎます……皆さんは急いでお逃げを!」
「お、おじさん……」
「早く行ってください! ぐふっ」
ヒヨリを早く逃がそうとする隊士。だが彼に流れ弾が直撃してしまい、苦しそうに声を発する。
我が身を盾にして庇ってくれた隊士に礼を言う暇も無く、ヒヨリは友と共にその場を急いで駆け出す。
「ぐああっ!」「ぐッ!」
新世代型達が通路を駆け抜けようとすると、左側の襖を突き破って取っ組み合う隊士と兵士が倒れ込んできた。
そして隊士は敵兵の小刀で腹部を刺され、命を奪われてしまうが、敵兵は逃げようとしている新世代型達を見て大声を上げた。
「いたぞーーッ! 小田原修司の後釜、新世代型二次元人が此処にいたぞッ! 殺さなきゃ、後々おれ達が殺される!」
そう味方である敵方に叫ぶと、敵兵は続いて新世代型二次元人達に歩み寄り、刀で殺めようとしてきた。
すると其処に敵兵の大声を聞き付け、聖龍隊士が駆け付けては背後から敵兵を斬り付けて倒した。
「あ、あんた……!」
幾多の敵兵の命を奪い、顔を血で染め上げた隊士を愕然とした面持ちで纏流子が見詰めると、隊士は新世代型達に言った。
「もう此処は危険だ……我々の事はいいから、早く逃げて生き延びて欲しい」
そう伝え終わると、隊士は再び炎に包まれた座敷の奥へと駆け抜けていった。食事の時に見た穏やかで優しかった、この隊士の顔を見たのは、これで最後だった。
新世代型達は皆急いで本堂へと駆け込んでいくが、その道中にも危険が忍び寄っていた。
「ぐはっ」
敵兵に命を奪われ、死に絶える隊士。
敵兵を道連れに共倒れを狙う隊士。
どの隊士も会食の時は、みな笑顔で新世代型達を温かく迎え入れてくれた心優しい者たちだった。
そんな隊士達の死に様を横目に、涙を堪えながら本堂へと駆け抜ける新世代型たち。
「がはっ」
と、新世代型達の前に見慣れた顔の隊士が血塗れで倒れてきた。
「お、おじさん!」
それは皆のお椀に炊き立てのご飯を盛ってくれた優しい隊士の男だった。
「おじさん、おじさん……!」
「マコ、ここは危ない。早く逃げねば……!」
「マコ、この人はもう……」
「姉ちゃん、早く逃げないと!」
満艦飾マコは、自分にあれほど優しくしてくれた隊士が目の前で死んだ事に悲しむが、家族がマコを引き寄せて彼女を急かす。
「おじさん……うぅ」
マコは涙を流しながら、自分達に優しくしてくれた隊士達の死を嘆いた。
と、新世代型達が完全に大火に包まれた本命寺の中を走っていた時の事。
「うっ……」
突如として新世代型の頭に激痛が走った。
「ど、どうしたの琴浦さん!? それにみんなも……」
「おいおい、どうしたって言うんだよ! こんな時に……」
「み、みんな!? どうしたの?」
「アラタ、みんな、どうしたんだ?」
同伴しているチョコやギュービッドに桃花、そして海道ジン達プロト世代が心配する中、新世代型達の脳裏に浮かんでいたのは。
(うぎゃあっ)
(お、お願いでございます、退いて下され……!)
なんと聖龍HEADと思われる人影が、同じ聖龍隊の隊士達を襲って殺めていると言う衝撃的な光景が浮かんできたのだ。
何ゆえ新世代型達は、HEADと隊士達が殺し合っている情景が脳裏に浮かび上がったのか。
それは衝撃的な、もう一つの平行世界での出来事だった。
[悪鬼と鬼神]
自分達と親しくしてくれた多くの聖龍隊士の犠牲の下、新世代型達はどうにか頭痛に襲われながらもチョコや海道ジンたちプロト世代の手導きで本命寺本堂にまで逃げ込む事が出来た。
しかし既に敵方によって放たれた種火は本命寺を包み込むほどの大火にまで成長し、本堂もいつ崩落するか分からない状況だった。
だが逃げ場は無く、外には敵方の兵士が生き延びている聖龍隊士や新世代型達を探し求めて徘徊しており、皆が避難できる場所も本堂を残して他に無かった。
そして遂には本堂までも、周囲を炎で取り囲まれて完全に逃げ場を失った新世代型達は途方に暮れていた。
「ど、どうすんだよ、これ……!」
辺りを炎に囲まれて、逃げ場を失った現状に
「そ、そうだ! なあ斉木! お前のテレポーテーションで、前みたいに俺たちを一片に移動できねえか!?」
この真鍋義久の発案に、斉木は困惑の表情で返答した。
「そ、それが……さっきから続いている頭痛の影響か、超能力が使えないんだ……!」
「そ、そんな……!」
斉木の発言に、周りの皆が絶望する。
だが、そんな一同に災難は容赦なく降り注ぐ。
「! チョコ! ギュービッド!」
なんと火事で崩落した木材がチョコたちプロト世代の四人の真上から落下し、四人は瓦礫に埋もれてしまう。
「よ、四人が!」「急いで木片を退けましょう……!」
美都玲奈にイオリ・リン子が急ぎ木片を退けて四人を救出しようと皆に呼びかけたその時だった。
再び新世代型達に強烈な頭痛が走り、皆立ち止まってしまう。
何とか動こうとするが、そんな新世代型達の前にその場に存在する筈の無い者たちの姿が飛び込んできた。
それは39の精鋭である聖龍HEADと、彼女達の前に厳つい面持ちで立ち尽くす小田原修司の姿だった。
「な、なんだ、これは……!?」
猿田学たちが愕然としていると、燃え盛る本堂の屋内の異変に直枝理樹が気付いて指差した。
それは2013年9月6日のカレンダーだった。
新世代型達は、自分達が存在していた時間とは違う現状にただただ戸惑うばかりだった。
「フフフフ……フハハハハハッ」
「はは、ははははははは……っ」
向かい合うHEADと修司。修司も、HEADであるメタルバードも現状に悲観するかのように笑い出す始末。
この状況を、以前に帝から賜った「平行世界を見通せる眼力」で見通している事を察した新世代型たちが愕然としていると、その眼力が更なる視界をも見通した。
それは平行世界の過去を映した視界だった。小田原修司はアジアを実力で支配する為に大勢の武将と対峙して返り討ちにし惨殺。更に巻き起こした戦乱で大事に育ててきた村田順一たちスター・コマンドーを初めとする戦士達も多くが戦死してしまい、其処へ追い討ちをかけるかの如く修司率いる聖龍隊の暴挙を制止しようとした赤塚組までも迎撃されて死亡。そしてHEADの身内や親友もいたマン・ヒールズは野心を高めた小田原修司の謀略によって、戦場で散ってしまったという悲劇。
更に悲劇はこれだけでなく、木之本桃矢/月野進悟/森谷賞といった親族までも戦場で戦死し、白井渚や浜崎雅弘も波音やリナに抱かれたまま死んだ。
そんな多くの武将や戦友まで死なせても、全てを制圧しようと野心を高めた小田原修司を制止する為、HEADは揃って修司を討ち取るべく九月六日の日に彼が寝静まっている本命寺に討ち入りしたのが、いま新世代型二次元人達が観ている平行世界の悲劇だった。
余りにも哀しすぎる平行世界の聖龍隊の経緯を知って、その光景を目撃している新世代型たちは大いに悲観した。
誰よりも理想に生き、その為に自らを穢していた修司の、野心が昂った為に起こってしまった悲劇を絶望視するしかできない新世代型たち。
そして野心昂った小田原修司を制止しようと、聖龍HEADと小田原修司は対峙する顛末に至った。
「『是非もなし!』」
謀反を起こす者も、それを迎え撃つ者も己が運命を受け入れてぶつかり合った。
「人の生は瞬きの如し……!」「黒き腸を喰らぶれば……」
『今生の世は、一際変わる!!』
人の一生は瞬きの如く一瞬であり、その一生の内で腹黒い輩を喰らえば今生の世を見る風景は変わる。と詩を詠い合う修司とメタルバードは刃と刃を哀しく激突させる。
「哮よ! お前らの欲するところを示せ! その果てに俺が直々に黄泉へと送ってやろうぞ!」
「修司と戦っているのね……ふはははは」
お互いにやるせない心境ながらも、昂る戦いへの意欲から激しく刃を交える修司とミラーガールたち。
「それで俺に成り代わったつもりか! まだまだ足りん!」
鬼神たる己に成り代わる心持でなければ勝つことは出来んとHEADに説く修司。
「修司に、私たちに関わった人たちは不幸になる……修司が……修司が、そんな運命を創ったの……?」
自分達に関わった人々が死に至る元凶は、修司がその様な運命を創生したのかとミラーガールは問う。
すると修司は、そんな思いの丈を全てぶつけてくるHEADに修司は強く説いた。
「貴様ら弱者ごときに、俺の吉凶は定められぬ」
するとローゼンメイデンの真紅は修司に訊ねる。
「じゃあ修司……! その証を私達にちょうだい……!」
証たる首を差し出して、全ての呪縛を解放してほしいと嘆願する真紅。
さらに修司を攻撃するHEADは、修司に呼びかける。
「さあ、修司!! 泣いて、哮えて、嘆いて、叫んで!!」
「命乞いをして、あの世の皆にお詫びして……!!」
「俺は既に、涙も情も全て捨て去った強鬼よ……!」
だが、そんなHEADの呼び掛けに修司は、既に己は涙も情も、人としての証は全て捨て切ったと断言する。
押し寄せる哀しみに流されてしまわぬ様に、どこまでも生きたかったであろう聖龍HEAD。
密やかな願いなど、闇に染まった野心の前では無力で、ささやかな呟きもかき消されてしまうほど。
泣かない心で終わらせようと、冷たい祈りに想いは変われど。
緋色の花弁の様に身体を染め上げ、虚無の如き血飛沫が静かに舞い降りる。
今生の世で決められた血の運命と知っていようとも、夢と言う名の約束をいつまでも守りたかった。
泣かない心で終わらせたかった。こんなに綺麗な刹那になるまで放っておいた自分達がいけないというのに。
開け放たれ底の国、連なり来たれ底の闇。
さっきまで震えてた手先も、今は不思議と、もう何も感じない。
「笑止千万! 貴様等は既に我が同士ではない……復讐に燃え滾る、悪鬼そのものよ……!」
仲間であった聖龍HEADの攻撃を聖龍剣で弾きながら咆哮する修司。
「喜べ、悪鬼に成り果てた貴様等は、鬼神である俺が直々に黄泉へと送ってやるわァ!」
既に人の心をも失ってしまった修司を止めるべく、聖龍HEADは覚悟を決めた。
「ぐふっ……!!」
瞳を涙で濡らして、セーラー戦士やキューティーハニーの刃が修司に斬り込まれる。
修司が立ち往生している処に、東京ミュウミュウズの打撃が打ち込まれ、更に修司を追い込む。
更に其処へマーメイドメロディーズの散弾の様な水滴の雨が修司を襲い、修司に無数の風穴を空ける。
そして険しい面持ちで魔法騎士や木之元桜の剣が修司の胴体を貫いた。
数多の刃を、技をその身に受けて、修司の全身は己が血で真っ赤に染まった。だが、それは修司に斬り込んだ多くのHEADも同じだった。
仲間の刃を受けて満身創痍に至った修司は、意識が薄らいでいく中、目の前の聖龍HEADに聖龍剣を向けて説いた。
「それが、お前達の選んだ道か……闇の魂を、心を持つ者を打ち倒す者。それは正しく、歴史に仇名す裏切りの一族そのものよ……その道末に、もはや安息の時は訪れぬ。それでも尚、突き進むと言うのならば……己が目指す世を、創生するが良い……そして天を、全てを、制するが良い……化洛、闇討ちの者ども、よ…………」
これを最後に、小田原修司の命は、尽き果て彼は炎に囲まれた本命寺の一室に倒れた。
[鬼神を打ち倒し……]
大切な仲間を、友を、そして名立たるアジアの武将達を大勢殺めた上にこの世の全てを制圧しなければ合点がいかなかった野心昂った小田原修司。
そんな修司を、最良の友であった修司を手にかけ、血塗れの身体で落胆する聖龍HEAD。
「……遂に……遂に、終わったな……」
「ええ、でも……俺たちは、俺たちは……!」
友や身内そして仲間の敵討ちを果たせたとして全てが終わったと呟くエンディミオンに対し、堂本海斗は総長である小田原修司を殺めた顛末に絶望するしかなかった。
そして誰よりも修司の相棒として、側近として生きてきたメタルバードは変身を解いて修司の亡骸を見詰める。
すると燃え盛る本命寺、小田原修司の亡骸を傍観するHEADの中から一人、修司の亡骸に向かって歩を進める者が。
血塗れで仰向けになって倒れた修司を前に、謀反を起こした聖龍HEADの一人にして修司を心から愛してたミラーガールは大の字で倒れる修司の亡骸に一人歩み寄る。
そして彼女は自らの短剣であるミラー・ソードを手に持つと、次の瞬間HEADの誰もが予想だにしていなかった行動を取った。
なんとミラーガールは自らの短剣で自らを貫いて自害したのだ。
「! アッコ!」
突然のミラーガールの行動に驚かされたバーンズたちHEADが慌てて彼女の許に駆け寄るが、既にミラーガールは虫の息だった。
「ご、ごめんなさい……私、修司を……彼を、独りにはさせたくなかった、の……」
そう言い残すとミラーガールこと加賀美あつこは、自分達が打ち倒した小田原修司の後を追うように息を引き取った。
「アッコ……! うっ……」
小田原修司に続いてアッコまでも失った現実に、バーンズ達その他のHEADは意気消沈した。
女は男を愛していた。故に、自らの手で男を葬っても尚、共に地獄に落ちようとその後を追ったのだった。
自害したアッコを、討伐した小田原修司の亡骸の隣に腕を組ませて横たわらせた後、HEADは死に追いやった二人を前に炎に包まれる本命寺の屋内で呆然とした。
「……はは、はははは……ははははははっ」
野心に漲った相棒を打ち倒して成敗し、その相棒に恋焦がれていた意中の女性を死に追いやった現状にバーンズは笑うしかなかった。
だが、一時笑い飛ばした後、バーンズとその他のHEADたちは優しい瞳から涙を流して、目の前で横たわる修司とアッコの死を嘆いた。
誰かが修司を止めなければ大勢の命が消えていただろう。しかし、友を殺め、その友への愛を貫いた乙女も自害に追いやった事には変わりない。
二人の友の死に嘆く聖龍HEADは燃え盛る本命寺の炎の中に消えていった。
……そんな平行世界の、もう一つの聖龍隊の物語の顛末を、帝から賜った眼力で見通した新世代型達はいつの間にか大粒の涙を瞳から零していた。
理想に夢追っていた小田原修司が、いつの間にかその理想を猛々しい野心へと変貌させて、アジアを蹂躙し、多くの命を制圧する為に虐殺していった、正しくあの織田信長と同じ顛末に至ってしまった平行世界の悲劇に新世代型達は絶望した。
そして修司の行いで死んでいった身内や友人さらに恋人の仇を討ち取るべく、友であった修司を止めるべく彼を打ち倒した聖龍HEAD。
しかし、そんな聖龍HEADは二重の悲劇を更に背負った。
自分たち二次元人の理解者である修司を自らの手で討ち取り、その修司の後を追って自刃したミラーガール。修司とアッコの二人の死をHEADは重責として背負う事に。
二人の掛け替えのない存在の死に、HEADは嘆き、燃え盛る本命寺で泣き崩れるも、火事で崩落する本命寺の炎に飲み込まれ、その姿を消した。
新世代型二次元人は、そんな平行世界の聖龍HEADの悲劇を自らの眼力で見通し、その悲劇に涙してしまう。
と、新世代型達が平行世界パラレルワールドの悲劇を目撃してた所に。
「うわーーっ!」
皆の目の前に広がっていた小田原修司とHEADとの死闘を悲しい面持ちで傍観している所に、火事で崩れ落ちてきた瓦礫が新世代型達に降りかかって来た。
「あ、アラタ! 美都さん、猿田さん!」
燃え盛る木材に埋もれて、炎の中に消えてしまった仲間を見て真鍋義久が叫ぶ。
「うわあっ」「り、理樹! みんな!」
更に【リトルバスターズ!】の面々も、燃え盛る炎の中で行方知れずに。
そして遂に真鍋達にも同じ災難が。
「きゃあっ!」「こ、琴浦!」
琴浦春香たちが降り注ぐ焼け落ちた木片に押し潰されて姿が見えなくなり、絶望視する真鍋。
そんな真鍋本人にも、焼け落ちた瓦礫が天井から落下してきた。
「うわーーっ!」
炎を纏った木片が頭上から降り注ぎ、真鍋も大火の中へと埋もれて消えてしまう。
すると、大火に呑み込まれた新世代型達の耳に、燃え盛る炎の中から平行世界の聖龍隊士の声が響いてきた。
「謀反だーー、謀反だーー!」
「聖龍HEADの謀反なりーー!」
「修司総長は何処だ!? 探すのだーー!」
「HEADめ、よくも総長を……!」
「逆賊、聖龍HEADめ、何処行った!?」
「聖龍HEADを……裏切りの一族、二次元人を許すなーー!!」
聖龍隊総長にして、日本からも確固たる地位を謙譲された小田原修司を討ち取った聖龍HEADへの罵倒罵声。
そして三次元人でもある修司を殺めた事から、二次元人そのものが裏切りの一族としての汚名を着る事に至った現状を、新世代型たちは薄らいで行く意識の中で脳裏に刻み込むのだった。
[破滅の章、到来]
本命寺大炎上。
この大事件を、黒武士に向けて進撃準備を進めてた聖龍隊ら連合軍が知る少し前まで時は遡る。
それは本命寺が炎上し、その焼け落ちた瓦礫に新世代型二次元人達が消えた翌日の事だった。
「起きろ~~、起きろ~~……起きろ、我が子供達。寝てる場合じゃないだろ! 遂に物語りはクライマックスに入る直前なんだ!」
その思い出したくも無い声に導かれる様に、深い眠りに就いていた新世代型二次元人達は目覚めた。
「……う~~ん……こ、ここは……?」
白い布団の中から目覚めた真鍋義久は、頭が茫然としている中、昨晩の出来事を思い出した。
心安らいだ聖龍隊士とのひと時、奇襲を仕掛けてきた小田原修司を恨む敵方の猛攻、燃え盛る本命寺、そして何よりも平行世界で起きてしまった聖龍HEADと小田原修司の戦いと言う悲劇。
これらを思い出した真鍋は、咄嗟にその時崩落した瓦礫に埋もれて生死不明になっている仲間達を思い出した。
「! こ、琴浦! みんな……!」
慌てて周りを見渡す真鍋の声に反応し、彼の隣で同じく布団の中で眠っていた琴浦春香が目を覚ました。
「ま、真鍋君……?」
すると琴浦春香に続いて他の新世代型達が目覚め始めた。
「う~~ん……」
他の者たちも真鍋らと同様、布団の中で眠りに就いていたらしい。
「ここは…………ッ、チョコちゃん!」
と、ここで琴浦春香は友人であるプロト世代のチョコ達の姿を探し回る。
するとチョコたちギュービッドや桃花、そして海道ジンは少し離れた所で寝かされていた。
先に目覚めた新世代型達がチョコ達に駆け寄り、様子を窺うと彼女達は息があった。
「だ、大丈夫みたいだな……」
「ああ、そうだな。でも此処は一体……?」
棗恭介と
と、皆が周りの雰囲気を見渡していると心配されてたプロト世代の四人が目を覚ました。
「うぅ、ここは……?」「ちょ、チョコちゃん」
「どうなってるんだ……?」「ジンさん!」「ジン!」
目覚めたチョコやジンに、琴浦春香や瀬名アラタに美都玲奈が声をかける。
「此処は何処なんだい? と、いうか……アタイら、本命寺の瓦礫に埋もれて死に掛けてたんじゃ……?」
目覚めたギュービッドが、自分達は燃える本命寺の瓦礫に埋もれて死に掛けた経緯から、何ゆえ謎の場所である現在地で安置させられていたのか不思議がる。
全員が不思議そうにお互いの顔を見詰め合っていると、そこに新世代型の脳内だけに見える闇人が声をかけてきた。
「おーーい、お前ら! こっちに通路へと続く扉があるぜ。行ってみないと、いけないんじゃないの? こんな辺鄙なところで寝てばっかじゃなくてな」
闇人の不敵な言動に神経を逆撫でされる新世代型達であったが、この場に留まっては何ゆえ自分達が此処にいるのか解らないままだという事で、闇人の指示に従うのは癪だったが彼の指した扉を開けて兎に角移動する事にした。
扉を開けて先に進んでいくと、そこは長い長い廊下だった。
「な、なあ。このまま進んじゃっても大丈夫なのか?」
「ギュービッドさま、このままウジウジしてたって何も始まりませんよ」
「そうだな。僕たち全員を、此処に移動して介抱してくれたのが誰なのか知らないと」
場所も不明な建物の廊下を突き進むのを不安がるギュービッドに対して、チョコと海道ジンは自分達を此処まで移動させて介抱してくれた人物が何者なのかを知る権利があると主張。
そんな長い長い渡り廊下を進んでいく最中にも、あの闇人が新世代型二次元人達にちょっかいを掛けてきてた。
「さあさあ、昨晩襲ってきた連中からお前らを助け出してくれたのは、果たして善人か悪人か。お前ら新世代型を必要としているのは俺だけじゃない、修司の抗体をも受け継いじまってるお前らの体を研究したいってイカレタ科学者だって五万といる」
闇人の不快極まりない言動を横目にしながらも、一同は前へと進んだ。
そして進んでいくと、目の前に頑なに閉ざされた門扉が見て取れた。
「さあさあ! この先に意外な、あのお方がいらっしゃるぞ。もうじき聖龍隊が連合軍として戦う前ほど会っておきたいって思ってる、あの渋い声の人だ」
怪しげな笑みを浮かべて新世代型達に門扉を開けさせようとする闇人。
新世代型達は意を決して、門扉を押し開いた。
全員が門扉を抜けて奥へと入っていくと、其処はいくつもの蝋燭が設けられた部屋の中央で一人黙々と書類を片付けている、あの武人が座ってた。
「あ、あんたは……!!」
真鍋たち新世代型は衝撃のあまり愕然とした。
「おお、我が同胞達よ! 目が覚めたのだな!」
溌剌とした眩いほどの威厳ある雰囲気を醸し出すのは、他でもない真鍋達と同じく新世代型二次元人にして、この現政奉還を引き起こした張本人、国連総長足正義輝公であった。
「足正、義輝……!」
「なんで、貴方が此処に……!?」
「此処は予の書斎に使用している場所でな。部屋が有り余っていたから同胞達の看病にも使った次第ぞ」
「お、俺たちはなんで此処に……?」
義輝に加納真一が問い掛けると、帝は昨晩の出来事を語ってくれた。
「うむ、此方の情報網に、其方が寝泊りに使ってた本命寺が、我らが始祖・小田原修司を激しく恨む者たちによって襲撃を受けると聞き付けたのでな。昨晩、予は黒武士を引き連れて駆け付けた次第であったのだが……時既に本命寺は敵方の襲撃に遭い、火事で落城……予と黒武士がなんとか瓦礫の中から同胞達を見つけた次第でな。皆の目が覚めるまで、我が宮殿の大部屋で寝かせていたと言う訳だが……ははっ、流石は予と同じく鬼神・小田原修司の遺伝子を受け継いでいるだけあるな。火傷も生傷も、全て一晩の内に完治してしまったぞ、ハハッ」
義輝の言う事が正しければ、自分達は義輝公とその命令で動いている黒武士によって命辛々助けられたという事になる。
と、ここで琴浦春香が、自分達に優しく接し、そして逃げる際も身を呈して庇ってくれた聖龍隊士の面々がどうなったのかを思い出し、帝に問い掛けた。
「あ、あの! ……私たちと一緒にいた聖龍隊の人たちは……?」
涙で目を潤わせ、問い掛けられる質問に対して、義輝は首を横に振って応えた。
「そ、そんな……!」
自分達を小田原修司のクローンとして知っていながらも優しく接してくれた聖龍隊士の死を知らされ、嘆き悲しむ新世代型達。
すると、そんな悲観している新世代型二次元人達に、同じ新世代型の足正義輝が悲しい空気を一刀両断する気迫で話し始めた。
「確かに聖龍隊士を救えなかったのは……出遅れてしまった吾らの方に落ち度がある。しかし、同胞達よ。其之方達に何かあっても問題なのだよ」
「それって……どういう事だ?」
険しい面持ちで帝を睨み付けながら問い返す時縞ハルトの質問に、帝は答えつつも話し続ける。
「皆も知っての通り、今は予の配下に属している黒武士が鏡の朋であるミラーガール……加賀美あつこを殺める事で、二次元人の始祖たる彼女を消滅させる事でより多くの二次元人の生命を消滅させようとしておる。だが、黒武士はその前に新世代型二次元人である吾らに生きて貰わなければならないと申すのだ」
「な、なんでまた! 私たちを生かそうとしてるんだ、黒武士は……?」
猿田学が疑問をぶつけると、帝は答えた。
「黒武士は吾らに……そう、新世代型二次元人である吾らに、この世界と二次元人の消滅を目撃させるのを狙っているのだ!」
「な、何ですって!?」
「なんで黒武士はそんな真似を……!? いえ、その前になんで貴方はそんな黒武士の暴挙を止めないの!?」
帝が明かした黒武士の真意に驚愕する薙切アリスにえりなが問い詰めると、帝は更に答えた。
「うむ、予は……前にも申したが、この安寧という時の中で浸るだけの空虚な人々の生に熱が感じられるのだ。人は滾り、熱く、激しく輝いてこその存在! 世界はまだ、そんな熱気に感化されておらん! 其処でだ、予は黒武士を自らの武力で我が軍門に降って貰い、そして世界中に熱気を吹き荒ぶ為の原動力として敢えて自由に動かしてきた。黒武士は思うがままに世界で好き放題に生きるだけで熱気を起こさん輩を無慈悲に斬り捨て、聖龍隊や世界各地の武将や武人達に宣戦布告を挙げてくれた! もうじきだ……もうじき、この虚しいだけの世界に人々の熱気が溢れ返るのだ! 胸が高まらんか? 我が同胞達よ!」
「す、好き勝手言うんじゃない!」
「大勢の人達が黒武士やあなたの身勝手な行為で苦しんでいるのに、好き勝手な事ばっか言いやがって!」
枇々木丈や一ノ瀬はじめ達が鬱憤を帝に向けて言い放つが、帝は「やれやれ、理解してくれないとは……嘆かわしいぞ、朋よ」と気楽そうに返す。
「それでもう一つの疑問ですけど……黒武士は何故、私たち新世代型に世界と他の二次元人の消滅を目撃させるのですか?」
薙切えりなからの質問に、帝は毅然たる態度で答えた。
「それはだ、薙切えりなよ……黒武士は、吾ら新世代型二次元人にこそ、世界の滅亡とその他の二次元人の消滅を目撃させる魂胆が……そう、目的がある」
「目的?」
斉木楠雄が帝を睨み付けながら問い返すと、帝は困りながら答えた。
「それを予の口から語るには、ちぃっとばかし嗜好を晒す行為なのでな。もう少しばかし時を待っててくれぬか?」
この帝の茶を濁した感じの話の逸らし方に、新世代型達は苛立ちながらも呆れ返ってしまう。
と、帝が語り終わった所で、一人だけ帝に対して激しい敵意を向ける者がいた。
「貴方の……貴方や黒武士の所業のせいで……!! 私も流子も、他の者もどれだけ苦しんできたか、解っているのか……!!」
それは激しい怒りで表情が激変した
皐月は兼ねてより聖龍隊より授け賜った護身用の刀を抜刀して、一直線に帝へと斬りかかった。
誰もが帝と皐月の攻防が展開されると思われた、次の瞬間。
なんと帝は皐月が差し向けてきた日本刀の切っ先を、人差し指と親指で摘んだだけで皐月がピクリとも動けないほど刀を捕えてしまった。
「ムッ……ぐッ……!」
力任せに刀を引き戻そうとする皐月だが、帝は指と指で刀を摘んだまま皐月を称賛した。
「ハハハッ、流石はかつて実の母親の凶事を止めるべく自らを鍛錬しただけの事はあるな、朋よ!」
しかし皐月の方は、刀を指二本だけで止められた事実で衝撃を受け、愕然としていた。
そして帝は摘んでた皐月の刀を前へと押し出すと同時に放し、その拍子に皐月は後ろへと尻餅をついてしまう。
「ね、姉さん!」
急いで流子達が駆け寄るが、皐月は余りの事に茫然としてしまってた。
すると、そんな騒動が起きてスグに治まった所に、一人の甲冑を着た者がのそりのそりと歩いてきた。
皆は、その足音に気付いて振り向くと、その視点の先から歩いてくるのは、あの人物だった。
「く…………黒武士……!」
それは帝の軍門に降り、新世代型達を生かし続けて一同に世界の滅亡と二次元人の消滅を目撃させようと目論む黒武士本人だった。
黒武士は新世代型達の前まで歩み寄ると、普段は無口な彼の口から意外な言葉が飛び出してきた。
「……その男も我の獲物。お前達のモノではない」
なんと黒武士本人も、帝の首を狙っているとハッキリ告げたのだ。
この衝撃的な展開を呼び起こした黒武士は、再び黙然と口を噤んでしまった。
「うむ、この黒武士は実に哀しき者でな……ある事実が切っ掛けとなり、言ノ葉を失いかけていた事もあった」
「言葉を失くしてた?」
皐月が問い掛けると、帝は答える。
「うむ。言ノ葉を失いかけ、危うく人との意思疎通が叶わなかった事があったのだ。しかし、今の変わりつつある世界の現状が黒武士の言ノ葉を取り戻させ、己の意思をハッキリと人に伝える事ができる様になるまで回復した。この先の聖龍隊も加盟している連合軍との戦でも、黒武士は次第に失った多くを取り戻していく事だろう」
「黒武士は多くを失っているって言うのか?」
真鍋義久が問い掛けると、帝は同じく毅然たる風格で答えた。
「うむ! そうであろう……果たして世界が変わるか、黒武士が変わるか。2013年最後の大博打に出ようではないか、同胞達よ!」
帝の宣言に、新世代型達は愕然とする中、黒武士は小さな言葉で呟いた。
「……創世に非ず、これは破滅……破滅の章の、始まりじゃ……!」
果たして黒武士の目的とは?
そして全てを知っているであろう帝・足正義輝は何を目論んでいるのだろうか。