聖龍伝説:現政奉還記 創生の章:昔語り編 作:セイントドラゴン・レジェンド
当初は冷酷な殺し屋として犯罪組織に育て上げられたクリスタルが如何にして今の表情豊かな人柄に変わっていったのか。
まずはその長兄であるガイア・スコーピオンとの話を聞かせようという聖龍隊。
今回はガイア・スコーピオンとの初接触の話。
[エッフェル塔からの監視]
処はフランス、パリのエッフェル塔から話は始まる。
今宵、エッフェル塔の許でマフィア達が裏取引を行おうと集結していた。
その群がる様に集まってきたマフィア達を、エッフェル塔を少し上った高所から見下ろす様に監視していた者が居た。
それは誰でもない、愛の戦士キューティーハニーだった。彼女は双眼鏡で地上のマフィア達が違法な物を取り出した所を一斉検挙する為に、合図を送る算段だった。
と、そんなキューティーハニーの元に、一本の通信が入った。それに受け答えすると、彼女は渋々地上まで降りていく。
すると地上でキューティーハニーを待っていたのは、恋人である早見青児だった。この頃の早見青児はしっかりと両目が開いていた。
「ほら、ハニー。疲れただろう。ジュース買ってきたから少し休めよ」
「もうっ、青児さん、私は監視の任に就いているんだから其処を分かってよね」
「はいはい、でもいくらスーパーヒロインとはいえ、夜更かしは美肌の敵だぜ。まあ、聖龍隊の仕事に昼も夜も関係ないけどな」
文句を言いながらも恋人である青児からジュースを受け取るハニーに対して、青児は愚痴を零しながら缶コーヒーを口に運んだ。
「しっかし、正義のヒーローがいつまでも戦う宿命にあるって、ホントに厳しいぜ。パンサー・クローは壊滅したけど、世界中にはまだ数え切れない悪党達がのさばっている。嫌になるな」
「そうね……だけど信じましょう。こうして私たち聖龍隊が活躍して行けば、いつの日か本当に犯罪が……人が罪を犯さなくなるって事を」
「ハニー……そうだな、信じてみよう。人を信じられない、あいつの分までもな」
青児とキューティーハニーが会話に花を咲かして、少しばかり気を緩めたその時。エッフェル塔の上部から巨体な影が急接近してくるのに二人は気付かなかった。
そしてキューティーハニーと青児がちょうどドリンクを飲み終えたその時。二人の背後、そうエッフェル塔の真上から接近してきた紅蓮の陰が二人に襲い掛かってきた。
キューティーハニーと青児は後ろからの気配に気付いて振り返ってみると、其処には人ではない異形の存在が迫っていた。
異形の存在から発せられる敵意から、此方も戦闘態勢に入ろうとキューティーハニーはフルーレを手にし、青児は拳銃を身構える。
そしてエッフェル塔から放散される光の中で戦い始めたキューティーハニーと青児は、対峙する異形の存在が何なのか気付いた。
紅蓮の炎の様に赤い甲殻、屈強な体躯に頑丈な尻尾、そしてがに股の二本足とハサミ形状の両手を持つ厳つい顔の蠍の怪人だった。
ハニーは速攻で赤い蠍に攻撃をするが、蠍はハサミ状の手でフルーレを掴み受け止めると、ハニーと力押しし合いながら言葉を交えた。
「お、お前ら……ッ、マフィアの裏取引を監視していたな」
「! あなた、言葉が分かるの!?」
すると次の瞬間、力勝ちした怪人はハニーを投げ飛ばし、彼女は草むらを突き抜けて人通りの多い場所へと放り出されてしまった。
一方、現場に残された早見青児は拳銃を発砲して蠍の怪人を撃とうとする。が、そんな彼に蠍は言った。
「おいおい、今ここで銃なんか撃っちゃっても良いのか? 折角の裏取引の現場が押さえられねェぜ」
これに対して青児は余裕を感じさせる笑みを口元に浮かべて蠍に言い返した。
「フッ、大方お前は裏取引をしている何処かのマフィアが雇っている用心棒かなんかだろう。それなら今さらバレてもしょうがない」
「へっ、気付いてやがったか」
そして早見青児は遠慮する事無く蠍の怪人に向かって拳銃を発砲。しかし銃弾は蠍の甲殻に弾かれ、無傷に終わった。
「何!?」
驚く青児。彼はまた2発3発と連続して発砲。しかし蠍の甲殻には貫通する事無く、蠍は無傷を保ったまま。
「フッ、オレ様の体に傷を付けるなんて百年早いよ」
そう気障っぽく蠍の怪人が青児に唱えたその時。
「どうした! 銃声が聞こえたぞ!」
裏取引をしていたマフィアが騒ぎ出した。これには人前に放り出されたキューティーハニーも、早見青児も動揺した。
すると蠍の怪人は駆け足でマフィア達の元に駆け寄っては、彼等に告げ口した。
「旦那旦那! なにやら露出度の高い美形のねえちゃんと、男がかぎ回っているみたいだぜ!」
「な、なに!? まさか、聖龍隊の奴等では……総員、今すぐにこの場から離れろ!」
蠍からの告げ口を聞いてマフィアのボスは動揺すると、スグに部下達に現場から離れる様に言い渡す。
この非常事態にキューティーハニーは予定を変更して、地元警察に突撃の合図を出した。
すると付近に隠れていた覆面パトカーが何十台も現場に駆けつけて、マフィア達の動きを封じる。
「大人しくしろ!」「嫌だね! テメェら撃て撃て!」
地元警察からの投降を拒否したマフィアは、激しい銃撃戦を展開し始めた。
だがキューティーハニーは民間人にも流れ弾が当たる可能性を示唆して、即行でマフィア達が連射する銃器をハニーフルーレで一刀両断して使えなくした。
こうして次々に逮捕されていくマフィア達であったが、例の蠍の怪人を用心棒に雇っているマフィアだけが逃げ果せようとする。
「あ! 待ちやがれッ」
青児はマフィアのボス達が搭乗している車に向けて銃を発砲。タイヤを狙撃してパンクを狙ったのだが。
「あらよっと。そう易々と撃たせはしないよ」と、あの蠍の怪人が真上から青児の目前に着地して、彼が撃っていた拳銃を足で押さえ付けて使用不能にしてしまう。
青児は拳銃を取り返そうと、怪人の足を退かそうとするがピクリとも動かず、焦燥するばかり。
やがて痺れを切らした青児は、直接素手で蠍の怪人とやり合おうと拳を構える。これに蠍の怪人も腰に手を、いやハサミを置いて迎え撃つ。
青児の一発目の拳は軽くかわされ、二発目の拳も軽々と避けられてしまう。勝ち急ごうとした青児は、蠍の怪人の顔を狙うフェイントをかけて怪人の腹にボディ・ブローを炸裂させる。
だが青児が放った拳での一撃は、硬い甲殻を持つ蠍には歯が立たず、逆に殴った拳が青く腫れてしまった。
「もうお終いかい?」
蠍の怪人は拳の激痛に悶える青児に呟くと、踏み付けていた青児の拳銃を遠くに蹴り飛ばして今度は自分から即行で青児と格闘戦を始めた。
「おらおらおら! どうした! さっきの美形のねえちゃんに笑われるぞ!」
青児を遠慮なく殴りつけていく蠍の怪人に、青児はただただ殴られるばかり。
すると、その青児の危機にキューティーハニーが駆け付けた。
「そこの怪人! いい加減、青児さんから離れなさい!」
「おおっと、いやいや、近くで見るともっと美人だぁ」
ハニーフルーレを振り付けて強引に青児から引き離したキューティーハニーの美貌を前に、蠍の怪人は改めて見惚れる。
すると其処に先ほど逃げたマフィアの部下達が車で戻ってきて、蠍の怪人に進言した。
「ガイア! そいつらを生かすな! 特に女の方を殺して、早く戻って来い!」
「へいへい、承知しました」
蠍の怪人は腑抜けた返事で答えると、キューティーハニーに向けて自分の長い尻尾の先端を狙いすました。
そして次の瞬間、蠍の怪人の尻尾の先端から一本の小さな針が射出され、それがキューティーハニー目掛けて飛ばされた。
その瞬間を目撃した早見青児は最愛のキューティーハニーを庇おうと、彼女を押し退けるように抱き締めた。
すると針はキューティーハニーを庇い立てした青児の背中に突き刺さった。
「う、うぅ……」
針が背中に直撃した瞬間、青児は顔を真っ青にしてキューティーハニーの元に倒れ込んだ。
「青児さん……? 青児さん、青児さん!」
「……男の方に当たったか……」
意識が低迷になり気を失う青児を必死に呼びかけるキューティーハニーの様子を見て、蠍の怪人は狙いを外したかと内心気にかけながらもマフィアの車の屋根に飛び乗ってその場から撤退する。
[毒針のサンプル]
場所は変わって聖龍隊本部。
フランスで急に容態が変化した早見青児の治療を行おうと、聖龍隊は総力を挙げて青児を治療した。
だが決定的な治療方法は見出せず、青児は辛うじて生と死の境を彷徨っている現状を維持していた。
自分を庇ったが為に、未だ意識の戻らない青児を心配し、顔を俯かせる如月ハニー。
すると其処に聖龍隊総長小田原修司が馳せ参じた。
「修司くん……!」「ハニー、フランスじゃ大変だったな」
フランスにハニーたちを派遣した修司と、派遣されたハニー。二人は互いの顔をジッと見詰め合って数秒だけ黙り込んだ。
「……青児の様子は?」「まだ目を覚まさないわ……」
修司の問い掛けにハニーは静かに答える。
青児は一人、集中治療室で生命維持装置を付けられたまま生死の境を彷徨っていた。
青児を気にして、一人不安なのか身震いし始めるハニーを前にして、修司がハニーにある報告を告げた。
「じ、実はだ、ハニー……青児が助かる方法が一つだけあるんだ」
「……え、本当なの?」
「ああ、本当だ! 青児の背中に打ち込まれた毒針、その毒針でまだ生きた人間に刺さる前の状態……つまり針の中に毒素が残っている状態で手に入れれば、後はどうにか血清が作られるらしい」
「血清ね……あの蠍の怪人から毒針を手に入れて、それから血清を作れば青児さんは……」
「ああ、スグに良くなるさ」
修司からの報告を聞いて、ハニーは居ても立ってもいられなかった。
「ハニー、お前……!」
「スグにパリに戻って奴等の……取引現場から逃げ果せたマフィアの捜索に当たるわ! そのマフィアが雇っている用心棒こそ例の蠍! 必ず毒針を手に入れて戻ってくるわ……!」
そういうと如月ハニーは駆け足で行ってしまわれた。
「ふぅ、やれやれ……しょうのない奴だ」
またフランスにまで戻り、マフィアの探索を行おうとするハニーの行動力に呆れ返る修司。
しかし彼もまた、仲間が生死の境を彷徨っている非常事態に黙っている訳には行かなかった。
「……修司様、今夜はどちらへ向かわれるのですか?」
側近である執事のウッズから問われた修司は、真顔で答えた。
「ちょいとフランスまで行ってくる」
「ああ、青児さんの解毒剤の元となる毒針のサンプルを入手するのですね。承知しました」
ウッズと少しばかりの会話をした修司は、焼け爛れたような網目状の黒い部品が収納されたカプセルの前に立った。
そしてカプセルから、足,腕,胴体,そして頭のパーツを取り出してそれぞれ装着すると厳つい鬼の風貌でジャッジ・ウィングへと搭乗した。
「ジャッジメント」
口癖の様な決め台詞を発した修司、いやジャッジ・ザ・デーモンはキューティーハニーを追って、一路フランスのパリへと向かった。
その頃、ハニーは聞き込みなどで逃げ果せたマフィアまたは蠍の怪人の目撃情報を集めていた。
実際は収穫無しだったが、こうして人目を憚らず行動していれば向こうから何かの形で接触してくれる事だろうとハニーは目論んでいた。
一刻も早く青児を回復させたい。その一心でハニーは日夜問わず懸命に聞き込みを続けた。
しかし一向にマフィアはもちろん蠍の怪人の目撃情報が入らず、昏迷するハニー。
このまま探し続けても、何の収穫もないのだろうか。
そんなハニーが日も沈んだ夕暮れ時、一人街路を歩いていると、後ろから彼女の後を付いてくる謎の二人組の男が。
ハニーは背後の男二人に気付いたのか、少し歩く速度を速めると、男達も足を速めた。
そして遂にハニーは二人の男に追い詰められてしまう。
「あなた達なんなの! 私の事をつけて来て」
「へっ、強気な女だ。テメェこそ、なんでウチのファミリーの事を嗅ぎ回っているんだ?」
「ファミリー……? あなた達ね、例の赤い蠍の怪人を雇っているマフィアは!」
「それがどうした! 少し痛い目見ないと立場ってのを解らねェらしい」
二人組の男はハニーにナイフを向けて、彼女を壁際まで追い詰める。
ハニーも抵抗しようと、思わず自然とチョーカーに触れてキューティーハニーへと変身しようとする。
だが、ハニーが変身しようとしてた矢先、二人組の背後から男達の後頭部目掛けて遠投武器が投げ付けられた。
「うあッ」
後頭部を強く強打されて怯む暴漢二人。彼等が後ろを振り返ってみると、その瞬間暗闇から一つの影が男の一人に跳び蹴りをお見舞いして気絶させてしまう。
残された男は、蹴りを見舞ってきた異形の存在を視認して非常に怯えた。
「ばっ、バケモノ……!」
焼け爛れたような網目状の黒い皮膚、顔面の半分以上の大きさはあろうかという赤い瞳、卵の様な丸い頭には小さな角が二本。この異質極まる怪物を前にして、暴漢の一人は逃げ出そうとするが、怪物が投げ放った重り付きロープで足を絡み取られてしまい、身動きが取れなくなって倒れこんでしまった。
如月ハニーの危機に駆け付けた、この異様な怪物を前にハニーは呆れながら声をかけた。
「別に助けてなんて言ってないわよ、デーモン」
ハニーを助けたのは他でもないジャッジ・ザ・デーモンであった。デーモンはハニーからの台詞に小さな声で返した。
「お前こそ、迂闊に変身するな。変身はあくまで、最後の手段として隠し持ってろ」
そうハニーに言うと、ジャッジ・ザ・デーモンは足に紐が絡み付いて身動きが取れなくなっている暴漢へと歩み寄った。
「何する気?」「なぁに、俺流に尋問するだけだ」
何か不穏な事を仕出かそうと察するハニーからの問い掛けに対し、ジャッジ・ザ・デーモンは尋問するだけと言い切るばかり。
そしてジャッジ・ザ・デーモンは、身動きが取れなくなっている暴漢の胸倉を両手で掴み上げると、暴漢を脅し始めた。
「さあ、お前さんの口から出ている舌は正直者の舌か、それとも嘘つきの舌か……喋ってみろ」
すると次の瞬間、ジャッジ・ザ・デーモンの手甲から鋭利なカギ爪が突出して暴漢の目前に鋭利な刃物形状の爪が飛び込んだ。
これには暴漢も激しく動揺するが、ジャッジ・ザ・デーモンの尋問は終わらなかった。
「さあ、正直な舌で話してもらおうか。例の蠍の怪人を雇っている貴様らマフィアの隠れ家は何処だ?」
「だ、誰が言うものか!」
しかし暴漢も負けじと抵抗する。
「……正直に言った方がいいぞ。俺は気が短い方なんだ。それと一つ朗報だ。俺が狙っているのは、お前らの様なチンケなマフィアではない、あの蠍の怪人を追っているんだ。知っている事を全て吐けば、命までは奪わない。約束しよう……」
だが、このジャッジ・ザ・デーモンの並々ならぬ威圧感と言動による尋問から暴漢は恐れを感じながら答えた。
こうしてジャッジ・ザ・デーモンとハニーは、暴漢から蠍の怪人が潜伏しているマフィアの隠れ家の情報を入手した。
ジャッジ・ザ・デーモンは尋問を終えると暴漢の顔面に激しい打撃を一発打ち込んで完全に気を失わせた。
[隠れ家への奇襲]
早見青児の解毒剤こと血清を作るため、ジャッジ・ザ・デーモンと変身を済ませたキューティーハニーは夜のフランスの屋根伝いを駆けて紅き蠍の怪人が潜伏しているであろうマフィアの隠れ家に直行した。
マフィアの隠れ家から少し離れたところから、双眼鏡を用いて隠れ家の様子を窺うジャッジ・ザ・デーモン。
「羨ましいわね。そのスーツ、なんでも揃ってて」
「お前の空中元素固定装置を使えば、双眼鏡だって作れるんじゃないのか?」
「簡単には上手くいかないわ」
キューティーハニーがジャッジ・ザ・デーモンが着用しているデーモンスーツの装備の多さに指摘すると、ジャッジ・ザ・デーモンはハニーが持つ空中元素固定装置を用いれば良いではないかと説き返すが、ハニーはそれは難しいとキッパリ返事。
と、ジャッジ・ザ・デーモンが双眼鏡で隠れ家の様子を調査してみると、1階ではマフィアの下っ端達がワインでのんびりと寛いでいる様だったが、肝心の紅い蠍だけは姿が目視できなかった。
(何処だ。あの蠍は何処に居るんだ……?)
ジャッジ・ザ・デーモンは1階には不在である怪人に気付き、今度は熱感知センサーに双眼鏡を切り替えて、建物ごとに温度差で人影の場所や状態を確認できる様に調整した。
そして改めて熱感知式の双眼鏡で隠れ家を遠目から窺ってみると、2階の薄暗い、おそらく屋根裏部屋で大の字になって寝転がる高温反応がある人影が確認できた。
「ビンゴ! 蠍の怪人は、他の人間よりも高温体質なのか見付かりやすかった。急いで毒針のサンプルを入手しなければ……」
「えっ、し、修司くん、あなた……」
「シッ、今はジャッジ・ザ・デーモンだ」
「そ、そうだったわね。でもあなた、まさか毒針のサンプルを手に入れる為にわざわざ応援に駆け付けてくれたの……?」
「罪もない者が苦しむのを見ていられるほど、俺の中の制裁は黙っては居ない。俺がマフィア達を引き付ける、その間にハニーは隠れ家の屋根裏で蠍を確保しろ」
「わ、分かったわ! 毎度の事だけど修司くん、無茶はしないでね」
キューティーハニーから無理はするなと念を押されるジャッジ・ザ・デーモンだったが、彼は時既に行動を起こそうと姿を忽然と消していた。
このジャッジ・ザ・デーモンの行動に遅れまいと、キューティーハニーも活動を開始した。
「わはははははッ、いやあ、この前の取引上手く行って良かったすね、ボス」
「ふふふふふ、いやまさか、わし等が取引をしようとしていた矢先に聖龍隊やら地元の警察隊やらが突入してきたとは……だが、そのお陰で、まだ金の入ったトランクケースをブツが入ったケースと交換する手前だったからこそタダで手に入ったんじゃがな」
高笑いする下っ端とボス。彼らは取引が行われている途中で警察隊が踏み込んできた混乱に乗じ、金の詰まったトランクケースも、麻薬や違法武器が詰まったケースも全てネコババして儲けていたのだ。
そんなボス達の賑やかな場とは裏腹に、二階の片隅では紅い蠍がボロボロのベッドの上で寝そべっていた。
すると其処に蠍をマフィア組織に引き入れた幹部らしき男が上がってきては、蠍に言った。
「おい蠍。お前は宴に参加しないのか? 貴様が聖龍隊の若造を始末してくれたからこそ、今度の二重の儲けが成立したといっても過言じゃねェんだぞ」
するとこれに蠍は不満げな態度で幹部らしき男と話し始めた。
「始末はしてねぇ。今でも、その若造は生きているだろうよ。まあ、オレ様の毒で苦しんでいるだろうが……」
「ガハハ、良くやったじゃねぇか! そのお陰で金で取引しなくても、麻薬や武器が調達できた!」
「タクッ、麻薬なんて毒害オレ様は好きにはなれねェ」
「よく言うぜ。お前さんが愛用している葉巻だって、立派なヤクなんだぜヤク」
「……それに、血生臭い話題は好きじゃない。誰を殺ったか殺らないか、もうウンザリするほど聴いたよ」
「人外のバケモノのお前には言われたくないな。それにお前さんはもう、俺たちから金で雇われた身分だってのを忘れるな」
「………………」
幹部らしき男からの台詞に、蠍の怪人はベッドに寝そべったまま何も言い返そうとはしなかった。
と、その時だった。
「! 停電か?」
突如として1階と2階の電気が消灯した。これにはマフィア達は騒然とした。
2階の蠍も、突然の消灯に戸惑うが、その次の瞬間。
「うわあ!」
突然、1階から悲鳴が聞こえてきた。
「何事だ!」
2階に上がっていた幹部らしき男が怒鳴ると、部下の子分は怯えた様子で答えた。
「わ、分かりません。暗闇から何かが急に……」
と、子分が幹部達に報告している間も、続々とマフィアの下っ端達が暗闇の中へと消えていった。
「ど、どうなってるんだ!?」
「落ち着け! とにかく今は灯りだ、灯りをつけろ!」
動揺する幹部達と違い、年季の入ったマフィアボスは灯りを回復させるように指示を投げる。
この1階の騒動を聞き付け、2階でふて腐れていた蠍の怪人は行動を起こそうとしていた。
「何がどうなってるんだ? 何者かが奇襲を仕掛けたのかな……」
そう呟くと蠍の怪人は1階に移動しようとした。が、その瞬間、暗闇から紅き閃光が蠍の怪人を襲った。
「うわッ!」
突如として襲われた蠍の怪人は驚いたが、スグに自分を襲ってきた相手を見極める為に、窓から飛び出し建物の屋根へと移る。
屋根に移動した蠍の怪人を追って、怪人を襲った相手も屋根へと移動する。そして襲ってきた者の姿が月明かりに照らされて、鮮明に闇世の中から映し出された。
「あ! あんたはあん時の美女……!」
月明かりに照らされた相手を見て、蠍の怪人は目を丸くした。何故なら
「愛の戦士、キューティーハニー!」
その相手こそ他でもないキューティーハニーだったからだ。
「キューティーハニー!? そ、それじゃ、今下で暴れているのは……」
目の前のキューティーハニーに驚かされた蠍の怪人が屋根上から下を見下ろしてみると、屋内の暗闇の中で格闘した末に外に放り出されていくマフィアの面々の姿が飛び込んできた。
「く、クソッ。なんなんだ、このバケモノは……!」
部下を全員叩きのめされ、追い詰められたボスは拳銃で闇討ちをしてきた相手を倒そうと発砲するが、暗闇に潜むそれは拳銃の銃弾を意図も容易く弾き返す装甲を持っていた。
全ての銃弾を撃ち込んでも平然と立っている暗闇の中の相手に戸惑うボス。すると暗闇からその者が飛び出してきて、ボスの顔面に強力な右アッパーを炸裂させた。顔を強打されたボスは一撃で気絶してしまう。
そして暗闇の中から、たった一人でマフィア達を仕留めた異形の存在ジャッジ・ザ・デーモンが姿を現す。
暗闇から現れたジャッジ・ザ・デーモンは、ふと真後ろ上方を振り返るように見上げては蠍の怪人を凝視する。
「な、なんだなんだ、あの宇宙人みたいな野郎は? あれも聖龍隊の一員か?」
目を丸くする一方の蠍の怪人に、キューティーハニーが言った。
「彼はジャッジ・ザ・デーモン……聖龍隊、ではないけど……協力はしてくれているわ」
複雑な関係を上手く濁しながら伝えると、キューティーハニーはハニーフルーレを蠍の怪人に突き向けて言い放った。
「あなたが関与したマフィアの組織はこれで壊滅したわ。あなたも大人しく投降しなさい、紅い蠍!」
すると蠍の怪人は、このキューティーハニーの呼び方を陽気に批難した。
「って、おいおいキューティーハニーのねえちゃんよ。紅いって、見たまんまの呼び名じゃねェか。言っておくが、オレ様にはもっと素敵な名があるんだぜ」
「へぇ、聞かせて欲しいわね」
キューティーハニーが目付きを鋭くさせながら不敵に笑むと、蠍の怪人は名乗りを挙げた。
「あっ、聞いてくだせえ見てくだせえ……オレ様の名は! ……ガイア、ガイア・スコーピオンと申し候」
[名乗りを挙げる蠍]
自らをガイア・スコーピオンと名乗り挙げる蠍の怪人を前に、キューティーハニーは内心思った。
(コイツ、何を考えているか読めない! 一刻も早く、青児さんに血清を与えないと……!)
内心でガイアが考えている思考が理解できないのと、恋人である青児に早々に血清を与えないといけない使命感から焦りが出始めてしまうキューティーハニー。
するとハニーフルーレを構えてから何もしてこないキューティーハニーを目前にして、ガイアが不思議そうに言った。
「おやおや、オレ様の名前を聞いちゃっただけで驚いちゃったの? まあ、悪いけど悪党である以上、ヒーローとは戦わないといけないのよね」
そう言うとガイアは、キューティーハニーに急接近して彼女に強固な外殻で応戦し出した。
「ッ!」
キューティーハニーはガイアからの打撃を全てハニーフルーレで受け止めるが、ガイアのハサミの部分はアメフトのボール並みに大きくて、しかも鋼鉄並みに硬い甲殻だったので完全に防ぎ切れず、キューティーハニーは容易く弾き飛ばされてしまった。
それでもキューティーハニーは絶えずガイアに攻撃しようと、ハニーフルーレを振り上げてガイアを斬り付けようとする。が、ガイアの甲殻が頑丈なのとハサミの部分である片手で容易にハニーフルーレを受け止める始末。これには闘っているキューティーハニーも、観戦しているジャッジ・ザ・デーモンもガイアの強度な甲殻に驚かされた。
そしてガイアは平然と受け止めたハニーフルーレを押し返すようにして離すと、その隙を突いてキューティーハニーを尻尾の部分を鞭の様に振り下ろして屋根に叩き付けた。
「きゃあっ」「キューティーハニー、加勢しようか!」
屋根に叩き付けられたキューティーハニーを見て、ジャッジ・ザ・デーモンが加勢しようかと問い掛けると、キューティーハニーは「いいえ! 大丈夫」と加勢を拒否。
そして態勢を立て直したキューティーハニーは、再度ガイア・スコーピオンを打倒しようとハニーフルーレで斬りかかる。
しかしガイアの甲殻は異常なまでに硬く、歯が立たなかった。
すると、ここでガイアが奇妙な行動を取り始めた。
「ふぅ、やれやれ。女と本気で戦うのは気が引けるが……そろそろお終いにしないとな」
そう言うとガイアは、何と両手のハサミの部分からオレンジ色の球を出現させてはキューティーハニーに投げ付けた。
「あらよっと」
ガイアが投げ付けてくる球を、キューティーハニーは余裕でかわす。するとその球は、屋根に着弾した瞬間に小規模な爆発を起こして周囲を焼いてしまったのだ。
「ひ、火の玉!?」
キューティーハニーが驚いていると、ガイアは次から次へとオレンジの発光球を発生させてはお手玉の様にそれを扱っていた。
「へへへ、オレ様をタダの丈夫で紅くてイケメンな蠍と思ったら大間違いだぜ」
そう得意げにガイアが言うと、彼は次々にキューティーハニーに向けて火の玉を投げ付けてきた。
「ッ!」キューティーハニーは火の玉を避け続けてガイアの攻撃を寸前の処で回避していく。
ガイアの投げ付けた火の玉は、そのまま隠れ家の屋根に着弾して引火してしまう。
「あ、ああ……! わ、わしらの隠れ家が……!」
先ほどジャッジ・ザ・デーモンに気絶させられていたマフィア幹部の一人が、火事に至っていく隠れ家を見て愕然とするも、スグにジャッジ・ザ・デーモンに殴り付けられ再び気絶させられてしまう。
一方のキューティーハニーは、ガイアの火の玉攻撃を回避しつつ、ガイアに接近して攻撃を浴びせようと画策するが、ガイアは右のハサミを紅蓮の炎で纏わせると同時に叫んだ。
「ヒート・ナックル!」
灼熱に熱したハサミの拳での一撃を、キューティーハニーは寸前の所で退いて回避するが、その代わりその一撃が炸裂した屋根には大きな穴が。
と、拳を下に突き出したまま唖然としているガイアの隙を突いて、キューティーハニーはガイアに向かってハニーフルーレで突きを放った。
キューティーハニー渾身の突きと、ガイアの頑丈な外殻が反応して強い光が生じた。だが、ガイアの体にはひび一つ入る事がなく、その代わりガイアはハニーフルーレを両手のハサミでしっかりと加え込んだ状態で抜けないように力を入れていた。
キューティーハニーがハニーフルーレを取り戻そうと引っ張るが、ガイアの怪力は並大抵の物ではなかった。
するとキューティーハニーがフルーレを引き抜こうとしている隙に、ガイアは自分の尻尾を頭よりも高い位置に上げると、その尻尾にも炎を纏わせた。
「キューティーハニー気をつけろ! 何か仕掛けてくる気だぞ!」
闘いを見守っていたジャッジ・ザ・デーモンからの助言に、キューティーハニーも気付いたが時既に遅かった。
「ヒート・ウィップ!」
ガイアは今度は尻尾に炎を纏わせて、灼熱の尻尾を鞭の様に振るうと、それをキューティーハニーの頭に振り当てた。
「きゃっ」
激しい打撃を頭部に受けて、キューティーハニーは屋根を貫通して隠れ家屋内へと突っ込んでしまう。
「ううぅ……っ」
頭の激しい痛みを抱えながらも懸命に立ち上がろうとするキューティーハニー。すると其処に後を追ってガイア・スコーピオンが屋内に降りてきた。
「どうだい、お嬢ちゃん? もういい加減に降参したらどうだい? オレ様、正直女と闘うのは余り好きじゃないんだよ」
御調子者の風貌でキューティーハニーに降参を迫るガイア。するとキューティーハニーは、ガイアとの戦闘で受けた激痛に堪えながら訴えた。
「そ、そうはいかないわ……! あ、あなたの毒針のサンプルを入手して、青児さんを……!」
「セイジ? 誰だ、そいつは? ……ッ! ひょっとして、エッフェル塔でオレ様の毒針を受けたあの若造か……」
ガイアはキューティーハニーが切実に訴える青児の名を聞いて問い掛けると、キューティーハニーは小さく頷いた。
「そうよ……! 彼を助けるには、あなたの毒針が必要不可欠なの……だから、あなたに負ける訳にはいかないわ」
「………………」
キューティーハニーの切願に、ガイアは黙然と口を閉ざしてしまう。
と、その時だった。屋内へと場を移したガイアとキューティーハニーの元に、地上からフックショットで上ってきたジャッジ・ザ・デーモンが駆け付けてきた。
「ハニー、大丈夫か?」
ジャッジ・ザ・デーモンは問い掛けながら、ガイアに向けてけん制のジャッジ・ラングを投げ付ける。
「うおっ?」
ガイアの顔面に直撃したジャッジ・ラングは内蔵されてた火薬により、直撃した瞬間爆発してガイアを激しく怯ませる。
その一方でジャッジ・ザ・デーモンはキューティーハニーに駆け寄り、彼女に声をかける。
「キューティーハニー、加勢しよう。時は一刻を有する」
「わ、分かったわ。ここは青児さんの為にも協力しましょう……」
本来は殺人をも厭わないジャッジ・ザ・デーモンとの共闘に多少の抵抗も感じられるキューティーハニーだったが、恋人の青児を救うには無駄な時間を避ける必要があった為に渋々共闘を許した。
と、キューティーハニーとジャッジ・ザ・デーモンが共闘の意思を示した所に、ガイアが待ったを掛けた。
「ちょっ、待った待った! 二対一ってズルくない? それに戦うの、ちょっと待った……」
「悪党の戯言など、信じられるか!」
しかしガイアの言い分を聞かず、ジャッジ・ザ・デーモンはガイアに攻撃を仕掛けていく。それに続いてキューティーハニーもガイアへと攻撃を再開した。
「おいおいおいおい……まぁ、仕方ねっか」
戦闘が再開された事に致し方ない真情で受けて立つガイアは、ジャッジ・ザ・デーモンとキューティーハニー双方から繰り出される格闘技を全て受け切り、受け流して激しい攻防を展開する。
するとガイアは打撃に威力を上乗せしようと、自らが振り翳すハサミや尻尾に炎を纏わせて、炎の打撃を二人に打ち込んでいく。
ガイアから繰り出される炎の打撃技の数々に圧倒されるジャッジ・ザ・デーモンとキューティーハニー。
しかし三人が激しい乱闘を繰り広げているマフィアの隠れ家屋内に、ガイアが発する炎が引火して至る所から出火。隠れ家は次第に火の手に包まれていった。
先ほど外でジャッジ・ザ・デーモンによって痛め付けられたマフィアの幹部や下っ端達が目を覚まし、自分達の隠れ家の現状を見て愕然とする。
「ああ! アジトが……!」
次第に火の手に包まれる隠れ家を目の当たりに、下っ端たちは茫然。
「お、俺の……俺の隠れ家が……」
マフィアのボスも、隠れ家が次第に燃え盛っていく現状に目を丸くして唖然とするしかなかった。
一方その燃え盛る隠れ家の中で乱闘を続けているジャッジ・ザ・デーモンとキューティーハニーとガイアの三名は、次第に崩落していく隠れ家に気付いて口々に言う。
「な、なあ、この家もそろそろ火事で崩れそうだし、此処は場所を変えて……」
「そう言って逃げるつもりだな? それに火事って……元々はお前が原因だろッ」
「悪いけど逃がさないわ……毒針のサンプルは絶対手に入れてみせる!」
火事で崩落寸前なので場所を移そうというガイアに対し、ジャッジ・ザ・デーモンとキューティーハニーはガイアを逃がさない気で戦闘を続行する。
と、その時。燃え盛る炎で家屋が遂に限界に達して、天井の燃える木片がキューティーハニーの頭上から落下してきた。
「ハニー!」
その寸前、ジャッジ・ザ・デーモンがキューティーハニーを庇って彼女に覆い被さるようにウィングスーツの膜を広げて火の手から守り切る。
だがジャッジ・ザ・デーモンがキューティーハニーを守り切った次の時、今度は巨大な木材が炎を纏って二人の真上に落下してきた。
[仁義を通す蠍]
だが、その二人を守る様に、頑丈な外殻を持つガイアが落下してきた燃える木材を両腕でしっかりと受け止めたのだ。
「!?」「あ、あなた……!」
突然のガイアの救済行為にジャッジ・ザ・デーモンもキューティーハニーも一驚した。するとガイアは落ちてきた燃える木片を持ち上げたまま二人に言った。
「は、早く退くなり移動するなりしてくんねェかな……オレ様だって体力には限度がある」
このガイアの問い掛けに二人は小さく頷くと、ガイアの脇下を通って移動する。
そして二人が移動したのを視認したガイアは、燃え盛る木片を下ろすと肩を回しながら一息入れた。
「ふぅ、やれやれだぜ……」
そう一言呟いたガイアは、自分と死闘を展開した二人に言った。
「そんじゃ、場所を変えて話すっか」
そう言うとガイアは窓から飛び出して、向かい側の建物へと飛び移った。
「「あ……!」」
ジャッジ・ザ・デーモンとキューティーハニーが屋根に飛び移るガイアを前に唖然としていると、地上で火事になった隠れ家を目の当たりに愕然としていたマフィア達がガイアに言葉を投げ掛ける。
「コラぁ、ガイア! テメェ、よくも俺たちの隠れ家を……アジトを燃やしてくれたな!」
「いくらなんでも、やりすぎだぁ!!」
怒号が飛び交う中、ガイアは地上のマフィア達に申し訳なさそうに言った。
「すんません、オレ様、今回の仕事やめます」
『えぇーーーーッ!?』
「おいっ、やめるってどういう事だ!?」
ガイアの発言に下っ端たちは騒然となり、幹部達は何故なのか問い詰める。
すると其処に、ジャッジ・ザ・デーモンからの通報を受けて地元警察が大軍で押し寄せてきた。
「警察だ! マフィア共、観念しろ!」
「や、ヤバイ! ポリ公だ!」
「ガイア、助けてくれッ」
包囲していく警察に囲まれ、身動きが取れないで困惑するマフィア達はガイアに助けを求める。
しかしガイアは時既に姿を消していて、影も形もなかった。
同じくして、ジャッジ・ザ・デーモンもキューティーハニーもガイアを追って現場には居なかった。
そして場所を移してから、再び三人は対峙した。
戦意むき出しで対峙するジャッジ・ザ・デーモンとキューティーハニーの二人に反し、ガイア・スコーピオンは戦意を出さずに何やら恥ずかしそうにキューティーハニーに手渡そうとする。
「ほら、これ」「?」
ガイアが右のハサミで摘みながら差し出してきたのは、一本の鋭利な返しがついている毒針だった。
「そ、それは……!」
「これが必要なんだろ。さっさと持って帰って、彼氏の具合よくしてやんな」
何とガイアは無償でキューティーハニーに自分の毒針を差し出したのだ。
だがこれにジャッジ・ザ・デーモンが異議を唱える。
「ハニー、気をつけろ! 罠かもしれん!」
「罠じゃねェよ。オレ様…………その、あれだ。男に惚れている女ってのは、どうも苦手で……」
照れ臭そうに語るガイアは、更に語り続けた。
「一途に惚れる女の底力ってのは、何者よりもおっかなく、そして強い。戦ってみて改めて実感されたよ」
そう照れ臭そうに語ると、ガイアは摘んでた毒針を弾いてキューティーハニーの方へと飛ばした。ハニーは毒針を落とさないよう、慌てながら手で針を受け止める。
「あなた、なぜ毒針を自分から……」
キューティーハニーがジャッジ・ザ・デーモンと同じ疑問を問い掛けてみると、ガイアは真剣な真顔で言った。
「さっきも言ったろう。誰かに惚れた女の底力は末恐ろしいと。だから決着がつく前に渡しておこうかなと……」
「だからこそ見逃せというのか? おめでたい話だぜ」
ガイアの話にジャッジ・ザ・デーモンが鋭利な三本のカギ爪で攻めようとした瞬間、キューティーハニーがジャッジ・ザ・デーモンの前に腕を伸ばして抑制する。
「待って、デーモン…………本当なら私もデーモン同様、あなたを見過ごす訳にはいかないけど………………それでも、感謝はしてるわ。ありがとう!」
素直に毒針を譲ってくれた事を感謝するキューティーハニーに、ガイアはニヤリと微笑んだ。
そんなキューティーハニーの率直な感謝の気持ちを前にして、流石のジャッジ・ザ・デーモンもガイアを取り押さえるのを躊躇ってしまう。
するとガイアは二人に向かってこう話した。
「いやいや、礼は言わなくていいよ、キューティーハニーのお嬢ちゃん。オレ様はこう見えても、直向きな愛を持っている女には弱いだけよ」
そう言って去ろうとするガイアだったが、その直前になって何かを思い出したかのように二人に問うた。
「あっ、そういえば……なあなあ、お二人さんにお聞きしたい事があるんだけど」
「「?」」
きょとんとするジャッジ・ザ・デーモンとキューティーハニーの二人に、ガイアは尋ねた。
「実はさ、オレ様にそっくりな蠍の獣人を知らないか? 裏社会では結構有名みたいなんだが……水晶の様な体をしている奴なんだけど」
このガイアの話を聞いて、ジャッジ・ザ・デーモンは思い出した。
「あ、そいつってもしかして……以前、聖龍隊の施設を襲撃した事のある奴かも」
「え! 知っているのか? 何処にいるんだ!?」
ガイアに問い詰められて、ジャッジ・ザ・デーモンは遂知っている情報をガイアに伝えてしまった。
「ふむふむ、なるほど……カリブ海の聖龍隊施設を襲った後、ある政府の収容施設に隔離されているって訳だな。こんだけ分かれば儲けモンだな!」
話を聞いたガイアが頷いた後に立ち去ろうという時、キューティーハニーがガイアに訊ねた。
「あなた、その水晶の蠍を知っているの?」
するとガイアは平然と答えてくれた。
「ああ、オレ様の双子の弟だ」
「お、弟!? で、でもその水晶の蠍は、収容施設の最深部に閉じ込められているのよ。あなた一人では、どうする事もできないわ」
このキューティーハニーの台詞に、ガイアは燃え滾る様な熱い眼差しで申し開いた。
「無謀だろうとなんだろうと、挑戦してみなけりゃ分からねェだろう? それに、弟と再会するだけなのに邪魔されて堪るか」
このガイアの台詞に、キューティーハニーは感銘を受けた。
そして遂にガイアはキューティーハニーとジャッジ・ザ・デーモンの前から去っていった。
「今度会うときは、また敵同士かもしれねえが……そん時はそん時で楽しもうぜ!」
そう最後の台詞を二人に投げ掛けたガイアは、屋根伝いで夜の街並みの中へと消えていった。
ジャッジ・ザ・デーモンとキューティーハニーは、ガイアの性格や言動に最後まで驚かされっ放しだったという。
そして夜の街を駆け抜けるガイアは、己の決意を表すかのように言い放った。
「待っていろ……兄弟!」
ガイア・スコーピオンが弟と再会するのは、少し経ってからの物語であった。
[オマケエピソード]
その後、ガイア・スコーピオンは生き別れた双子の兄弟と思われるキラー・ウォーター・クリスタル・スコーピオンが収容されている施設に強襲。
単身で施設を半壊させてから、弟のクリスタルを救出した兄ガイア。
だがクリスタルは、産まれて間もない頃から殺人兵器として育てられた過去から、兄弟の情が分からず再び自分を育んだ組織へと出戻ってしまう。
しかしガイアはそれでも弟を組織から抜け出させる為に単独で組織に反抗。血みどろの戦いを展開する。
そして組織の全てを壊滅させたガイアは、組織首相に、クリスタルを兵器として育てた人間に言い放つ。
「そいつはァ…………オレ様の弟だァ!!」「弟……!」
ガイアの放った弟という言葉に、クリスタルはようやく兄弟の情を少しばかり理解した。
そしてガイアとクリスタルは、遂に組織を壊滅させて晴れてお互いに自由となったのだった。
無鉄砲で無知な所があるガイアに反して、裏社会で育てられたクリスタルがそれを補い合い、二人はやがて息の合う犯罪コンビへと成長していく。
ガイアとクリスタルが犯罪兄弟を結成した後の話。
とある一件からガイアは聖龍HEADの一人である最終兵器ちせと二人っきりで瓦礫の中に閉じ込められてしまう。
瓦礫を無理やりにでも退かせば一気に崩れ、生き埋めになってしまう現状に難癖を付けて体力温存と言いつつ何もしないガイアとは反対に、最後まで希望を捨てないちせの言動にガイアは最初は嫌気が差していた。
「おい、お嬢ちゃん。むやみやたらに掘り返さない方がいいぜ。瓦礫で埋まって、お互い生き埋めになっちまうよ」
半ば生き延びる事に諦めを持っていたガイアに反して、ちせは懸命に生きる為の術を手探りで探し続ける。
そんな彼女の前向きな姿勢に感化されて、ガイアも次第にちせと協力し合うようになる。
その間、ガイアは元兵器でありサイボーグであるにも関わらず、懸命に今を生きようとしているちせに心を惹かれてしまう。
やがて二人が協力して掘り進めた瓦礫から月明かりが照らされて、二人は瓦礫の中から生還できた。
ガイアはこの時、ちせに多大な感謝と恩を感じ、この時は完全に捨てていた自分の夢「仁義ある悪党」という夢を取り戻す切っ掛けとなった。
ガイアは脱出後、スグにちせと別れたが、自分の夢であった仁義ある悪党道を再び貫く決心を固めたのだった。
この仁義ある悪党道が、後に多くの版権悪役や敵役を仲間に受け入れる切っ掛けとなったのは、また別のお話。