聖龍伝説:現政奉還記 創生の章:昔語り編   作:セイントドラゴン・レジェンド

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「あ、あのガイアとそんな秘話が隠されていたのか……!」
 ガイア・スコーピオンとの初めての接触に関する話を聞いて、一驚する新世代型の真鍋義久。
 他の新世代型たちもジャッジ・ザ・デーモンとキューティーハニーそしてガイア・スコーピオンの戦いに白熱した。
 そして何よりも事情を知って、恋する乙女の気持ちを察したガイアの粋な計らいに新世代型たちは感銘を受けた。
 また、対決の後日談として語られた弟クリスタルや最終兵器ちせとの思い出話も知られて、新世代型たちは大変満足した。
「へぇ、あのガイアとジャッジ・ザ・デーモン、それにハニーのねえちゃんとの間にそんな昔話があったのかい」
 新世代型たちと同様、昔話を愉しげに聴く大将たち赤塚組も、ジャッジ・ザ・デーモンやキューティーハニーの活躍に聞き耳を立てた。
 そして今回語られるのは、三次元人からの偏見の眼差しを浴びて、見るも無残な姿へと一変してしまったザ・インク。その誕生秘話である。
 三次元人からの非難と偏見、それらを浴びた為に人間ではなくなったザ・インクの話に誰もが耳を傾けた。



現政奉還記 創生の章 昔語り ザ・インク:誕生

[切っ掛けはMrフェイク]

 

 まず何故インクという怪人が誕生したのか、その始まりについて語る必要があった。

 狂気のエンターティナーMrフェイクは、ある日アニメタウンにて無機物を粘土状に変質させる「ネンドロイター」なるモノを発明し、それを駆使して犯罪を重ねていた。

 そんなMrフェイクは、ふとした思い付きで三人のブラック・リストに名前が載っている犯罪者予備軍を拉致した。

 その三人こそフランツ・ノルシュタイン/江頭哲文/ジョー・ギブソンの三名だった。

 Mrフェイクは三人を、自分同様に凶悪な、そして新たな犯罪者へと変貌させるべく彼らの精神を汚し、洗脳した上で侵食した。

 三人はどうにか精神を保とうとするが、Mrフェイクの執拗な洗脳暗示は幾度となく繰り返された。

 そして遂にMrフェイクは物質を粘土状に変質させるネンドロイターを手に、三人に言い迫った。

「君たち君たち。このボクちゃんが発明したこのネンドロイターを、もし人間に使ってみたらどうなるか解る……?」

 茫然とする三人に対し、Mrフェイクは首を傾げて言った。

「ふむ……実を言うと、僕も人間に使ってみた事が無いんだよね。だから君たちで試しちゃうのも悪くないかなと思ってね」

 Mrフェイクは三人をネンドロイターの実験台にしようと目論んでいた。

 と、Mrフェイクが企む悪事を聞いて三人が愕然としていたその時。暗闇からMrフェイクが得意気に持っているネンドロイターを遠投武器で弾き落とした者が暗闇の中から。

 Mrフェイクと三人が暗闇の方に目を向けてみると、その瞬間に暗闇から飛び出て来たのは闇の制裁ジャッジ・ザ・デーモンであった。ジャッジ・ザ・デーモンは暗闇の中から天敵Mrフェイクに奇襲を仕掛けた。

「ぐはっ」

 ジャッジ・ザ・デーモンに蹴り飛ばされて暗示をかける為の螺旋模様が施された回転盤に激突して転倒してしまうMrフェイク。

 そんな闇から急襲してMrフェイクを吹き飛ばしたジャッジ・ザ・デーモンに江頭が訴える。

「た、助けてくれ……!」

 しかしジャッジ・ザ・デーモンから掛けられた言葉は冷たかった。

「黙れ罪人共。お前達への制裁は、後々与える」

 ジャッジ・ザ・デーモンに見捨てられた三人は愕然とする。

 そんな中、Mrフェイクはジャッジ・ザ・デーモンに反撃。ジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクの攻撃を受け止めると、同じく反撃に転ずる。

 二人の怪人の格闘を前に、唖然とするしかなかった三人だったが、その乱闘の最中、ジャッジ・ザ・デーモンが先ほどMrフェイクが落としたネンドロイターを踏み付けて、ガラス容器を割ってしまった。これにより容器内のネンドロイターが空気と触れた事で化学反応で気化し、怪しい煙が立ち昇ってしまった。

「ゴホッ、ゴホッ」

 帰化したネンドロイターの空気を吸って咳き込むフランツ・ノルシュタインたち三名。

 その間もジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクと凄まじく闘い合い、遂に二人は外へと飛び出て行った。Mrフェイクを追って外に飛び出したジャッジ・ザ・デーモンは縛り上げられた三人が逃げられない状況でいる事を知っている上で彼らを放置して追跡をした。

 ジャッジ・ザ・デーモンがMrフェイクを追って外で格闘している最中も、ジャッジ・ザ・デーモンがMrフェイクを取り押さえて一件落着した最中も、三人は気化したネンドロイターを吸い続けて心身ともに害をなした。

 

 それから数時間後、ジャッジ・ザ・デーモンからの通報を受けて聖龍隊が現場に到着。

 Mrフェイクは拘束された上で連行され、Mrフェイクによって捕らわれていた三名は無事に自由となった。

 だが自由となった三人は実に不快な想いに満ちていた。

「えーー、今回Mrフェイクが気まぐれに誘拐した人々は、幸運にもブラックリストに名前が記されている犯罪者予備軍の三名であり、いわゆる一般市民では無かった事が幸いでした。これにより、我々聖龍隊の活動もスムーズに進み、Mrフェイクを無事に逮捕できた訳でありまして……」

「我々が一般市民ではないだと……!」

「俺達は護るべき市民ではないと言いたいのか!」

「それに聖龍隊の活躍じゃない! ほとんどジャッジ・ザ・デーモンが活躍したんじゃないか」

「あーー、ちょっとすみません」

 聖龍隊総長小田原修司が駆け付けたテレビ局の取材班に受け答えしていた時、横からMrフェイクに拉致されたジョー・ギブソンや江頭哲文、フランツ・ノルシュタインの三人が割り込んできた事に、修司はカメラに向かって一言謝ると三人を取材班から死角になる所に連れ込んだ。

 そして修司は三人を聖龍隊の軍用車に叩きつけると脅し文句を並べた。

「いい加減に出しゃばるな! 異常者(ヒール)の分際で偉そうに……貴様らは過去に大罪を犯した下種だというのに、それを俺が敢えて生かしてやっているんだ。減らず口じゃなく……生かしてくれて、どうもありがとうございます、の一言ぐらい返してもらいたいもんだぜ」

 修司は過去に大罪を犯した三人を軽蔑しており、異常者(ヒール)として殺めずに生かしてやっている事だけでも礼を述べてもらいたいと悪態をつく。

 この修司の言動に、三人は一様に修司への底のない殺意が湧いた。

 そして修司に殺意の眼差しを向けると、修司は彼らの殺意を感じ取ってか「なんだ? やるのか?」と腰に携えている日本刀を右手で逆手に握り締めて抜刀の態勢を取る。

 普通に考えれば修司に反抗しただけでも斬られて文句の言えない現実の中、三人は殺意を修司に向けてしまう。

 そんな三人の殺意を制止する者が。それは聖龍隊スター・コマンドーの隊士であり、殺意を向ける三人の一人フランツ・ノルシュタインの息子であるトーマ・H・ノルシュタインだった。トーマは三人と修司の間に強引に割り込んで、修司に言った。

「総長、この三名は僕が責任を持って自宅に送ります」

 トーマの眼を見詰め、修司は三人を処罰する気を失せた。

「ふんっ。トーマ、お前も大変だな。こんな役にも立たないクズな親父の世話しなきゃならないんだからな」

 この発言に、フランツは更に怒りを露わにするが、息子のトーマに制止され、何も言い返せなかった。

 そして修司は三人を見下したまま、Mrフェイクの護送の手配をした後、書類仕事の為にアニメタウン本庁へと活路を進めた。

 一方の三名は、容赦ない警護の元、それぞれ自宅へと送り返された。

 

「クソッ、小田原修司め……クソ、クソッ」

 自分を異常者(ヒール)と見下す小田原修司の言動に、アパートの一室で苛立ちを抑え切れない江頭哲文は怒りで興奮状態だった。

 そして怒りの感情を抑え切れず、思わず洗面所の鏡面を殴り付けて破させてしまう。

 すると思わず鏡を破壊した江頭が、自分の拳を見入って傷を負ってないか視認した。すると彼の拳には微かな損傷が見られたのだが、その傷口からは黒い液状の物質が流れ出ていた。

「?」傷口から滲み出る黒い物質を障ってみると、何やら粘り気が感じられた。

 そして次の瞬間、その黒い物質は大量に傷口から噴き出して江頭の体を包み込んでいった。

 

 同じ頃、高級ホテルの一室にマスコミを避けて篭城していたジョー・ギブソンも。

 小田原修司への苛立ちと怒りに気が動転していた。

 自分達を軽蔑するあの眼差しにギブソンの怒りは込み上げていた。

 そしてホテルのベッドの上で座り込むギブソンは怒りの余り両手を強く握り締めて手汗を握っていた。

 だがその時、ギブソンはある異変に気付く。両手から滲み出ている手汗が異様なまでに粘り気を持っており、異質な触感を感じ取っていた。

 ふと我が手を見詰めてみると、なんと手から滲み出ているのは透明な汗ではなく闇の様に漆黒の粘り気のある液体だった。

 ギブソンが両手から謎の黒い液体に気付いた次の瞬間、その液体は一気に膨張するかの様に溢れ出て、ジョー・ギブソンの肉体を呑み込んで行った。

 

 ノルシュタイン邸。

 息子でもあるトーマが配属されているスター・コマンドーに補導されながら帰宅したフランツは静かな怒りを内心に込み上げていた。

 自室で一人、小田原修司への静かな怒りを内心に抑え込もうとするフランツ。

 小田原修司に軽蔑されても仕方のないように、自分は今まで悪党の悪事に加担した事もあれば、それを見てみぬフリをしてきた罪人には違いない。何より、小田原修司の弟子の一人でもあり、自分の息子でもあるトーマを見下していた自分の行いからも、小田原修司から軽蔑の眼差しを向けられるのは致し方ない事かもしれないと自分に言い聞かせていた。

 しかし小田原修司の「生かしてやっているんだから、どうもありがとうございますの一言ぐらい返してもらいたい」という発言に言い様のない怒りと興奮を覚えてしまってた。

 そんなフランツは自分を落ち着かせようと、自室の鏡台の前に移動すると自分の顔を見詰めて、目の下を軽く押し開いた。

 すると、ここで異変が。フランツの押し開いた瞼は、その形を残したまま戻らず、変形したままだった。まるで粘土の塊を指で押した跡の様に残ったのだ。

 そして次の瞬間、フランツの顔は瞬く間に粘液の様に崩れ落ち始めた。

 

「「「うわあああああああああああああああ……!!」」」

 この時、三人に起きた異変は、同時刻のものだったと考えられる。

 

 

 

[ザ・インクの悲劇①]

 

 体を黒い粘液に呑み込まれた、または体が崩壊してその黒い粘液に変異してしまった三人は一様に戸惑い、驚き、動揺した。

 

 一流ホテルに篭城していたジョー・ギブソンは黒い粘液に呑み込まれて苦し紛れに部屋と廊下を隔てるドアの前に行き着いた。

 だが扉を開けようにも、既に黒い粘液で覆われた自分の腕では取っ手を掴む事すら難しく、自力で扉を開けられなかった。

 ギブソンはどうにか扉の向こうに行きたいと強く念じると、なんと彼は扉の下の隙間から体を液状化させて潜り抜けたのだ。

 扉の向こう側に行き着いたギブソンは、助けを求めようと叫ぼうとしたが、声帯も液状化の影響で潰れて声が出せずに苦しんだ。

 と、ギブソンが助けを求めようとしていたその時。

「きゃあっ!」

 変異したギブソンを見て、ホテルの女性スタッフが悲鳴を上げた。

 ギブソンは彼女に助けを求めようとしたが、女性スタッフは黒い液体の塊同然に変異したギブソンを見て非常に怯えた。

 そしてそのまま彼女は助けを求めながら逃げていってしまった。

「助けて……助けてぇ!」

「チ、チガウ……ハナシヲ、ギイテグレ……!」

 必死に逃げ出す女性スタッフに助けを求めるギブソンだったが、そのスタッフの悲鳴を聞いてホテルの警備員が駆け付けてしまった。

「な、なんなんだ、このバケモノ!?」

「タ、タズケテグレ……オネガイ……」

 警備員に助けを求めるギブソン。だが、警備員に彼の嘆願は届かなかった。

「なんか言ってるぞ?」

「ど、どっちにしろ、俺たちの装備じゃ勝てっこない! 聖龍隊だ、聖龍隊に連絡して異常者(ヒール)を退治してもらおう!」

 この警備員の発言を聞いたギブソンは恐くなり、咄嗟にスグ手前にあった非常階段へと逃げ出した。

「に、逃げたぞ!」

 警備員も後を追うが、液状化したギブソンは階段の手すり横の隙間を通って、逸早く一階へと逃げ果せた。

 だがホテル一階に辿り付いたギブソンの前に立ちはだかったのは、従業員の連絡を受けて主任が通報して呼び寄せた警官達だった。

「と、止まれ、バケモノめ!」

 拳銃を構えて止まるよう言い渡す警官に対してギブソンは大人しくするつもりだった。

 だが警官に近寄ろうとしたのが間違いだった。

「と、止まれ!」

 警官は変異したギブソンを恐れて思わず発砲。しかし銃弾は液状化したギブソンの肉体を貫通して、彼には直接的なダメージを与えられなかった。

「じゅ、銃が効かない!」「怯むな! 絶えず発砲するんだ」

 銃弾が効かない結果を前にして、一段と恐れ戦く警官達は銃を連射。

 これには銃弾が効かないと身を持って解っていても戸惑っているギブソンは堪らず外へと飛び出した。

 外には既に野次馬や報道関係者などの民衆が湧きだっていた。

「うわあッ!」「ば、バケモノだ!」

 人々は完全変異したギブソンを見て、恐れ上がり絶叫した。

 ギブソンは、そんな人々の目から逃れようと、道路中央に在るマンホールに近付き、蓋と道路の隙間から地下下水道へと逃げ出した。

 

 同じ頃、江頭哲文のアパート近くでも。

 同じ様に変異した江頭は自分の身に何が起こっているか理解できず、昏迷していた。

 そして思わず部屋の扉から外に飛び出して、助けを求める様に奇声を上げた。彼もまた、液状化から声帯を潰して発声できなかったのだろう。

 すると、奇声を聞きつけ、アパートの部屋から出てきた大家が変異した江頭を見て絶叫した。

「なんだい、こんな遅くに…………っ、きゃあああ!!」

 大家の悲鳴を聞いて、振り返る江頭。だが大家の目には、人間の姿は入ってなかった。

「このバケモノめ! あたしのアパートから出ておいき! このっ」

 大家は辺りにあるゴミや傘などを投げ付けて、変異した江頭を撃退しようと必死だった。

 大家の攻撃に、思わず戸惑う江頭は外に出てみると、そこには不運にも徘徊中だった警察官と鉢合わせしてしまう。

「うわっ、なんだバケモノめ!」

 警官は変異した江頭に拳銃を向ける。江頭は必死になって自分は人間であると唱えようとするが、声が潰れて思うように主張できなかった。

 そして警官に近付こうとした江頭に怯えて、警官は江頭に発砲。例の如く銃弾は肉体を貫通して無傷だった。

「か、怪物が……モンスターが現れました。至急、応援を……!」

 警官は銃弾の効かない江頭に対して無線で応援を要求し始めた。

 江頭はこれ以上、警官と戦いたくない一心から、側に在ったマンホールから下水道へと逃げた。

 

 また同じ頃、ノルシュタイン邸で。

「ううう、あああぁぁぁ……」

 黒い粘液のように体が崩壊する現象にフランツ・ノルシュタインは今の自分の状況に混乱してた。

 そして彼は何かに突き動かされるかのように自室の窓から外へと飛び降りた。

 二階から真っ逆様に落下したフランツだったが、液状化した肉体が衝撃を和らげ、無傷で立ち上がった。

 そして彼は一階の窓ガラスに映る自分の姿を見て愕然とした。彼の姿、それは重油を頭から被ったような、黒い油の塊だったからだ。

 自分の今の姿を見て愕然とするフランツだが、その時、そんな変異し切った彼と目が合った人物が屋内に居た。

「きゃあっ」

 それはフランツが溺愛している娘のリリーナだった。彼女は外で窓ガラスを見詰めている異形の存在が父親だと気付かず、悲鳴を上げてしまう。

「リリーナ、どうした!?」

 腹違いの妹の悲鳴を聞いて、トーマが彼女が居る部屋に飛び込むと、リリーナは窓を指差したままトーマに泣き付いた。

「お、お化けが……真っ黒い、インクの塊みたいなお化けが外に……!」

 トーマが窓に目を向けてみると、そこには誰も居ないように見えた。だが実際は変異したフランツが、窓枠の下に身を潜めていただけだった。

 トーマは怯えるリリーナに言い聞かせた。

「大丈夫、外には何も居ないよ。きっと恐い夢でも見たんだ。大丈夫、僕がついているから」

「お、お兄様……!」

 抱き合う二人の兄妹の姿を、変異したフランツは外から眺めていた。

 今の自分は娘が見ただけでも化け物に見えてしまう姿。そう感じ取ったフランツは、救いを求めるかのように夜の街へと向かっていった。

 

 

 それからしばらく経って、アニメタウンの各所で重油の塊の様な怪人が出没したという経緯を知って、小田原修司が緊急会見を開いた。

「今現在、アニメタウンに潜伏している重油の塊の様な怪人を……我々聖龍隊はザ・インクと補足しました。このザ・インクはおそらく悪質化した二次元人が突然変異を起こした上で、異常者(ヒール)へと変貌したものと見られます。今現在、被害などは報告されていませんが、市民の皆様はどうか気をつけてお過ごしください。現在このザ・インクの消息及び行方は我々聖龍隊が追跡しています」

 報道機関の前で力説する修司の討論を、副長のバーンズと参謀総長のジュニアは傍らで謁見していた。

 しかし、その修司の力説を建物の陰から傍聴していた者がいた。それは黒い塊に変異した江頭哲文だった。彼は修司の力説を聞くと、表情を強張らせながら近くのマンホールへと姿を消した。

 その頃、聖龍隊の隊士は総動員でマンホールに逃げ込んだという目撃談を聞いてザ・インクの追跡に奔走していた。

 細長い下水道管に特殊な機械を差し込み、僅かな生体反応を模索してザ・インクの追跡を行っていた。

 

 その頃の突然変異してしまった三人はというと。

 彼等は何かに導かれるように、または共鳴し合うかのように同じ所の下水道で遭遇した。

 すると液状化してた三人の体に変化が。なんと液状化してた三人の体が瞬く間に一つに融合して、一体化し始めたのだ。

 三人の意思とは反対に、同一化していく三人の液状化した肉体。

 そして遂に完全に一体化した上で同一化した三人は、その場でもがき始めた。

「ウッ……くぅ……ワ、ワタシハ……私は……」

 一体化してもがき始めたザ・インクが最初に変身したのは、フランツ・ノルシュタインだった。

 フランツは自分の肉体が元に戻ったのを喜ぶが、それも束の間、次にフランツの意思とは反対に肉体が変異して姿形が変わったのは江頭哲文だった。

「わ、私の体……私の体だ!」

 一体化したあとの二人に言い聞かせるように主張する江頭だが、その次に肉体を変化させたのはジョー・ギブソンだった。

「わ、私の体だ……! 私の……」

 もはや同一化した三人は、自分の体だと主張し合い、まるで多重人格者の様に言い争い始めた。

 そして度々変身しながら言い争う三人は、ある一つの提議に辿り付いた。

「こうなったのは……全てMrフェイクのせいだ! あいつのネンドロイターを吸い込んだから俺たちはこんな事に……!」

「それだけじゃない、小田原修司……あいつが我々を異常者(ヒール)として扱ったからこそ、こんなインクの怪物になってしまったんだ……!」

「小田原修司、Mrフェイク! そう全ては………………三次元人の軽蔑が生んだ悲劇だ!」

 こうして三人は意気投合し、全ての憎悪を小田原修司やMrフェイクら三次元人に向けたのだった。

 

 

 

[ザ・インクの悲劇②]

 

 ザ・インクへと変貌を遂げた三人は、思想の一致から小田原修司に近付く為に計画を練ろうとノルシュタイン邸に戻った。

 ギブソンが泊まってたホテル、そして江頭が使ってたアパートには既に聖龍隊や警察の手が回っていると考えたからだ。

 彼等の考えた通り、既に江頭のアパートその自室では本人が不在なのと大家の目撃情報から手が回っていた。そしてギブソンが泊まってたホテルでも、廊下に設置されている監視カメラからギブソンの部屋からザ・インクが滲み出てきた所かハッキリと映し出された事と、彼の部屋から重油の痕跡が発見された事からギブソンも同様、ザ・インクと睨まれていた。

 そんな中で唯一、自分がザ・インクだと知られていないフランツは、変異した際に飛び出してきた二階の自室の窓へ壁を這い上がって、自室へと侵入。

 すると其処に一晩経っても部屋から出てこない父を心配してトーマとリリーナが訪問しに来た。

 フランツは急いで自分の姿に戻ろうとしたが、形だけは変身できるものの、色などが再現できず困惑する。急いでいたフランツは、どうにか声だけでも再現しようと声帯を変化させて扉向こうの我が子達に反応した。

「私に構うな! 向こうに行ってろ! 一人にさせてくれッ」

 怒号で反応する父親に、リリーナもトーマも戸惑うが、二人とも言われるがままに父親の自室から離れていってしまう。

 二人が離れていくのを確認したザ・インクは再び姿をインクの塊に変化させるとまたしても窓から飛び出して曇天の街中に消えていった。

 

 その頃、アニメタウン本庁では。

 江頭哲文の自室に残されたインクの痕跡、そしてジョー・ギブソンが寝泊りに使っていたホテルの監視カメラの映像と部屋に残されたインクの痕跡から、二人が今現在街を騒がしているザ・インクだと確信した聖龍HEADは速やかに行動を起こしていた。

「相手は異常者(ヒール)だ! 何を仕出かすか解らん、早急に取り押さえろ! 無理なら射殺しても構わん!」

 聖龍隊士の東京ミュウミュウやマーメイドメロディーズに指示を出す修司の指令を傍らで聞いて、アッコが囁き掛ける。

「ねぇ、修司。相手はまだ何もしていないのよ? それなのに射殺だなんて……」

「何かをしてからじゃ遅いんだ! あの二人は過去にも悪行を行った異常者(ヒール)、また問題を起こす前に対処しなけりゃ、二次元人の存在意義にも響く……!」

 アッコからの問い掛けに対して、修司は何か問題を起こす前に対処しなければ二次元人の存在意義までも問われかねないと指摘する。

 そんな二人の二次元人、いや異常者(ヒール)化した二人を聖龍隊が追っている頃。

 アニメタウン本庁で勤務していた聖龍隊のウェルズは廊下で一人の黒人職員を目撃する。

「あれ、おかしいな。本庁に、あんな黒人男性勤めてたっけ?」

 首を傾げるウェルズだった。

 そんなウェルズが目撃した黒人男性職員は、HEADが作戦会議を行っている一室へと入室してきた。

「失礼します」「どうした? なにか捜査に進展でも」

 部屋に入室してきた黒人男性に、エンディミオンが問い掛けると男性は顔を見上げてHEADを睨み付けた。

 次の瞬間、黒人男性は瞬く間に全身から夥しい程のインクを滲ませ、ザ・インクへと姿を変えた。これはおそらく黒色にしか変身できなくなった現状から、肌が黒めの黒人にしか変身できなかったからであろう。

 変身を解除したザ・インクに一驚する聖龍HEAD。するとザ・インクは「ウヒャーーッ」と甲高い奇声を上げてHEADに襲い掛かった。

 この時、小田原修司を始めとする瞬時に危険を察知し、回避した聖龍HEAD以外のメンバーはザ・インクのねっとりとするインクに絡み取られて身動きができなくなっていた。

「みんな!」

 インクに絡み取られた仲間を見て、愕然とする修司。

 するとそんなインクに絡み取られた仲間の一人でもあるアッコが修司に言った。

「修司、あなたは逃げて!」

 アッコに言われ、戸惑う修司。すると此処でインクに捕まっているバーンズが、何とか回避して逃れたセーラージュピターに言った。

「せ、セーラージュピター! 電気だ、電撃でザ・インクを攻撃しろッ!」

「で、でも、そんな事したらみんなも感電しちゃうんじゃ……」

「躊躇うな! このままだったら、全員捕まってオジャンだぞ!」

 バーンズに急かされ、セーラージュピターは意を決してザ・インクの体に電撃を流した。

「ウギャアアア」

 電撃を浴びて苦しむザ・インクと同じく電撃を浴びて苦痛に耐えるバーンズたち。

 しかし、その間もザ・インクは最も憎んでいる小田原修司を捕えようと、腕を伸ばして捕まえに来た。

「修司、コイツの目的はお前だ! 早く逃げろ!」

 バーンズの叫び声に反応した修司は、ザ・インクの伸ばしてきた腕を回避して早急に部屋から自主退去しようと走り出す。

 部屋から逃亡する修司を見て、彼を追おうとするザ・インクに現場に残ったHEADが総攻撃。修司を追わせないように図る。

 一方の修司は、ただ逃げていただけでなく、一階にある市長室へと駆け込んでいた。修司は其処で席に座ると、隠しスイッチを押して地下へと急降下。そして最深部の地下に辿り着くと其処で足、胴体、腕、そして頭部の順でデーモンスーツを着用してジャッジ・ザ・デーモンへと姿を変えた。

 そしてジャッジ・ザ・デーモンになった修司は、ジャッジモービルで急ぎ現場である本庁へと大回りして駆けつけて行った。

 

 同じ頃、小田原修司に軽蔑の眼差しを向けられていたジョー・ギブソンや江頭哲文と同様に軽視を向けられていたフランツ・ノルシュタインにも捜査の手が回っていた。

 スター・コマンドーは仲間のトーマの了解を得て、フランツを尋問しようとしに来たが、既に彼の姿は自室から消え失せていた。

 そして代わりにフランツの自室から、彼の遺伝子を含んだ重油の痕跡が発見された事で懸念が確信へと変わった。

 すると其処に、アニメタウン本庁にザ・インク襲撃の報告がスター・コマンドーに伝わってきた。

 トーマは村田順一たちスター・コマンドーの仲間達に父を説得する為にも一緒に連れて行って欲しいと嘆願。これに順一は承諾し、共に現場へと向かった。

 

 アニメタウン本庁では。

 HEADの総攻撃を受けても、流動体質系の肉体を持っているザ・インクには歯が立たず、HEADはザ・インクの猛攻を受けて全滅していた。

 そして本庁の地下室で、HEADを全員インクで絡み取って壁に固定したザ・インクが無線で外部の聖龍隊に伝える。

「小田原修司だ! 小田原修司を連れて来い! でなけりゃ、HEADは全員インクの海で溺れ死ぬぞ!」

 本庁外部で突撃の機会を窺う隊士たちにザ・インクは脅しをかける。

 すると其処にジャッジモービルに搭乗して駆けつけたジャッジ・ザ・デーモンが到着。ジャッジモービルから飛び出た彼は、即行でザ・インクが篭城している本庁へと飛び込んだ。

 その直後に、村田順一率いるスター・コマンドーも現場に駆けつけた。軍用車から降りてくるスター・コマンドーの中にはトーマの姿も確認された。

 その頃、ジャッジ・ザ・デーモンはセーラー戦士,ナースエンジェル,キューティーハニー,木之元桜,魔法騎士,コレクターズ,最終兵器ちせ,ウォーターフェアリー,ジュピターキッド,そしてミラーガール達をインクの粘り気で捕獲したザ・インクと激しい接戦をしていた。

 ジャッジ・ザ・デーモンはザ・インクに対してジャッジラングなどの遠投武器を投げ付けて動きを止めようとするが、自身の粘り気のある身体の硬度を高める事もできるザ・インクの戦術に苦戦していた。

 一刻も早く捕えられている聖龍HEADを救おうと、ジャッジ・ザ・デーモンは自力で抜け出したメタルバードと共闘を重ねてザ・インクを打倒しようとする。

 ジャッジ・ザ・デーモンの武器や体術が効かない以上、電撃で苦しめるしかないと判断したメタルバードは片腕を砲口に変形させて電撃のシャワーをザ・インクに浴びせる。電撃を浴びたザ・インクは苦しむが、彼は自分にだけ電撃が浴びせられるのを防ぐために、壁に固定しているHEADを縛り付けている自身の身体の一部と接合してメタルバード達に脅しをかける。

「動くな! 俺に電撃を浴びせれば、コイツらも感電してタダでは済まない!!」

 自分に電撃を浴びせれば、自身を通電して捕えている聖龍HEADも感電してしまうと脅し掛けるザ・インクに、メタルバードとジャッジ・ザ・デーモンの動きが止まる。

 すると此処でジャッジ・ザ・デーモンは耳元のヘルメットを右手で押し付けて、無線通話で完全機械化になっているメタルバードに密かに話し掛けた。

「バーンズ、構う事はない。HEADはお前が思っているほど軟な存在じゃない。躊躇わず、電撃をお見舞いしてやれ」

「そうは言っても……! さくらや魔法騎士、それにミラーガールたちみたいに電撃には耐性の無い奴らだっているんだぞ! 迂闊に電撃をお見舞いできないぜ」

 ジャッジ・ザ・デーモンからHEADは強靭ゆえに電撃を直撃しろと告げられるメタルバードは、如何にHEADとはいえ電撃に弱い面々もいるから迂闊に攻撃できないと説き返す。

 すると其処にスター・コマンドーが特攻してきた。まず先手として壁に固定されているHEADと繋がりを持っているザ・インクの片腕を村田順一が刀で切断し、そのままザ・インクと交戦する。その間に他のスター・コマンドーがインクで全身を雁字搦めにされて身動きできないで気絶しているHEADの上役達を救出する。

 HEADの救出が行われている最中、村田順一はザ・インクと日本刀で交戦。この頃の村田順一は異常者(ヒール)相手なら致し方なく愛用している日本刀で戦う傾向が有った。

 しかしザ・インクも両腕の硬度を高めて、順一の日本刀を両腕で受け止めて交戦する。

 この乱入してきたスター・コマンドーの一戦にジャッジ・ザ・デーモンとメタルバードも加勢する。

「助太刀する!」

「なんで貴方まで此処に居るんだ!? 殺人鬼の癖に……!」

「ジュン、今はこのザ・インクを止める事だけに専念してろ! ジャッジ・ザ・デーモンの事は後だ!」

 加勢に入って来るジャッジ・ザ・デーモンに対し、この時はまだ正体や素性を知らない順一は殺人にも手を染めているデーモンを軽蔑してたが、メタルバードの指示で仕方なく共闘する。

 だがジャッジ・ザ・デーモンの体術と武器、順一の剣戟、メタルバードの電撃を受けても尚、倒れる様子を見せないザ・インク。それどころかザ・インクの興奮は上昇する一方だった。

「小田原修司……! 三次元人……!!」

「ダメだ、完全に三次元人への恨み辛みしか頭にねェ」

 うわ言の様に三次元人への恨みを口にするザ・インクを目の当たりにして、テレパシーでザ・インクの思考を読み取ったメタルバードは彼が完全に憎悪に憑りつかれている事に気付く。

 

 と、メタルバード/ジャッジ・ザ・デーモン/順一の三名がザ・インクと激戦を繰り広げている時、HEADの救出を終えたスター・コマンドーもザ・インクの前に出撃した。

 その中で、ザ・インクの一角であるフランツの息子トーマが、ザ・インクに訴え出た。

「やめてくれ、父さん!」

 トーマの一言に、ザ・インクは停止する。

「トーマ……」

 息子の一声に、ザ・インクは姿をフランツに変えて息子と対峙する。

「フランツさん、いま混乱しているのは解っています。早く治療して、元の人間に……二次元人に戻りましょう」

 トーマに続き、動きをようやく止めたザ・インクに早々の治療を受けさせて人間に戻す作業を進める村田順一。

 しかしフランツは不敵な笑みを浮かべて、眼前の面々に言い渡した。

「……私が治療を受ければ、世間は私を……いいや、三次元人は私を異常者(ヒール)と見なくなるのか?」

 この発言に、その場にいた誰もが一驚する。

 そんな中、フランツは更に説いた。

「どんなに足掻こうと、私は……私達は一度異常者(ヒール)として見做された以上、後々も永遠に人々から軽蔑の眼差しを浴びる事になるだろう」

 そうフランツが言うと、次に彼はジョー・ギブソンに変身して説き続ける。

「過去の栄光も、それまでの道のりも……全て三次元政府の、いいや小田原修司の異常者(ヒール)認定で帳消しにされる!」

 すると今度は江頭哲文に姿を変えて説き続けた。

「それならいっそ、正真正銘の異常者(ヒール)として憎悪の対象者である三次元人を襲い続けてた方が何倍も得だ」

 そう江頭の姿で説くと、再び姿をザ・インクの姿に戻して語り続けた。

「解るか!? 全ては三次元人の勝手な偏見と決定で人生が終わったんだ! オレ達の気持ちが解るか? Mrフェイクに苦しめられ、小田原修司にすら見放され……挙句の果てにはインクの怪物だ! 人生をメチャクチャにされたオレらの気持ちなんて、貴様らに解るもんか!!」

 そう怒鳴り散らすと、ザ・インクは片手をボウガンに変形させて矢を射出する手前まで来る。

「私たちは本気だぞ! そこを退け、今すぐに小田原修司を呼ばないとお前達を一人ずつ嬲り殺しにするぞ!」

 完全に暴走状態のザ・インクの言動を前にして、フランツの息子トーマは切実な面魂でザ・インクに迫った。

「確かに僕たちは貴方たちの苦しみは理解できない。体がドロドロに溶け、インクの怪物に変貌した悲痛も理解し難い」

「「「………………!」」」

「……でも、その苦しみを、悲しみを分かち合い、共に背負う事はできる。父さん、帰りましょう。僕たちの、リリーナが待つ家に。そして一緒に苦しみを分かち合いましょう」

 苦痛や悲しみを共に背負う事はできると説くトーマの言葉に、一瞬救いの光を垣間見たザ・インクは、トーマが差し出す手を取って投降しようとした。

 が「罪を償え、ザ・インク」このジャッジ・ザ・デーモンの一言にザ・インクの感情は逆戻りしてしまった。

「「「私達は好きで罪を被った訳じゃない! 全部、全部……三次元人のせいだッ!!」」」

 ジャッジ・ザ・デーモンの一言に逆上したザ・インクは、手を差し伸べてくれたトーマを殴り飛ばして再び暴走状態に入ってしまう。

「トーマ!」

 大門大や順一たち仲間は、殴り飛ばされてしまうトーマを見て愕然とする。

 そして再び暴走状態に陥ったザ・インクを制止しようとジャッジ・ザ・デーモンは電撃の効果を持つジャッジラングを投げようと身構えるが、その前にザ・インクに殴り飛ばされて壁に激突。気絶してしまった。

 それからメタルバード、村田順一率いるスター・コマンドーがザ・インクを制圧しようと跳びかかるものの、全員が伸縮自在な肉体を持つザ・インクに叩きのめされてしまった。

 現場にいる聖龍隊全てを力でねじ伏せたザ・インクは此処でようやく落ち着きを取り戻して、冷静に辺りを見渡した。

 屈強な聖龍隊を、それも大勢を力でねじ伏せて気絶させたこと。そして救いの手を差し伸べてくれたトーマを殴り飛ばした事。

 これらの事実にザ・インクは衝撃を受けて悲しみにくれた。彼は面妖な面構えになった瞳からインクの涙を零した。

 流れる涙もインクなのかと、ザ・インクは自分の置かれた現状を更に嘆いた。

 そして再び彼は床に転がるトーマを見て悲愴に駆られる。「苦しみや悲しみを共に背負う事はできる」そう言ってくれたトーマに暴力を振るった経緯に、ザ・インクは絶望に駆り立てられる。

 

 それから数分後、現場に倒れた面々の中で最初にジャッジ・ザ・デーモンが目を覚ました。

 彼が目を覚ましてみると、周りには未だ気絶している聖龍隊の面々が。

 そして壁に目を移してみると、壁にはインクで殴り書きされた大きな文字が。

「私達にかまうな」

 そう大きな文字がインクで殴り書きされていた。

 その文字を見たジャッジ・ザ・デーモンはザ・インクが精神的に大人しくなるまで放置しておこうと思い立った。

 

 

 後日、とある歩行者天国の大通り脇にあるカフェにて。

 ムスッとした面の小田原修司と共に、憩いの場であるカフェで面談する人々の姿が。

 それは今回、ザ・インクへと変貌してアニメタウン中に脅威を晒したフランツ・ノルシュタインとジョー・ギブソンの身内トーマにリリーナの兄妹とジョー・ギブソンJrの三人だった。

 四人はザ・インクへと変貌してしまった身内に対して、修司から厳しい決断を聴かされる為に集まって来た。

「結論から言えば……ザ・インクへと変貌した三人は指名手配犯として対処するつもりだ。精神や言動だけでなく、肉体までも異常者(ヒール)に変貌してしまった三人をそのままにしておく訳にはいかない。お前達には非常に残念な事だが……放置できる問題ではなくなっている」

 三人は黙って修司の話に耳を傾けるが、未だ合点がいかない事も多々あった。

「それで、総長。父は……ザ・インクに処分決定は下ったのですか?」

 トーマが修司にザ・インクを異常者(ヒール)として処分する決定事項が下ったのかと訊ねる。決定事項が下れば、逮捕よりも殺害を優先されるからだ。

 これに修司は、両目を右手の親指と人差し指で擦りながら答える。

「ああ、それなら一応、お前達の心意気を汲み取って、処分だけは免れる様にしておいた。今の所、端正に落ち着いている」

 この修司の話を聞いて、リリーナは安心した。

「だが、奴は……いいや、ザ・インクは神出鬼没だ。全身をインクの様に液状化させて、どんな所にも出入りできる奴だ。見つけるのも、至難の業だ…………っ、まさか?」

 と、修司が三人に語っていると、彼は突然カフェ屋外の大通りその人混みの中を見詰めた。

 三人も修司の視線を追って人混みに目を凝らして見てみると、なんと大通り向こうの人混みの中にフランツ・ノルシュタインの姿が。そのフランツの前を人が通ると次はジョー・ギブソンの姿が目に入って来た。

 修司,トーマ,そしてギブソンの息子であるJrが現場に駆け付けるが、既に見知ったザ・インクの姿は消えていた。

 これを受けて修司は不安を駆りたてる発言を述べる。

「よくアッコにも言っているんだが……アッコの様に他者変身ができる奴は敵に回したくない。何故なら、いつ何処に姿を現してもおかしくないんだからな」

 

 いつ何処に姿を現すか。神出鬼没の存在ザ・インクへと変貌した三人の二次元人は、いづこかへと消え失せた。

 

 

 

[融合する2体のインク]

 

 ザ・インクの事件後、同様の二次元人液状化事件が発生していた。

 それは【世界名作劇場】の世界で、多くの悪役達を収監していた刑務所。其処は前々から辛辣で衛生的にも万全とはいえない収容施設だった。

 そんな収容施設に監禁されている名作劇場の悪役達に、ある日異変が起きた。一人、また一人と身体から黒い液体が滲み出てきたのだ。

 しかし施設の所長はロクに診察もさせずに囚人達を放置し続けた。

 それが災いとなって、収容施設に収容されている囚人でる悪役達はある晩、肉体が液状化してやがて獄中で一体化してしまう。

 そして一体化して巨大なインクの塊に変貌したそれは、看守達を襲い、収容施設をインク塗れにして逃亡した。

 この緊急事態を嗅ぎ付けてやって来たジャッジ・ザ・デーモンは以前自分も関与したザ・インクと同様の現象が起きた事に逸早く気付き、インクの塊へと変貌した悪役達を追って市街地へと赴いた。

 一方、自身が巨大なインクの塊に変貌してしまった事に気付いた悪役達は、自力で身体を変形させようと努力するが、結局の所4本足のオオトカゲの様な体付きの怪物に変形するしかできず困惑していた。

 そんな4本足の怪物へと変貌した囚人達を捕獲を飛び越して殺処分しようと目論む収容所の所長が先頭に立ち、囚人達を追い詰める。

 しかし追い詰められた囚人達は、街の人々を人質に取り、自分達がこんな異形の怪物に変貌したのは醜悪で陰湿な収容所の環境が悪かったのだと所長に抗議。しかし所長は全く耳を貸さず、一方的にインクの怪物へと変貌した囚人達を殺害する様に手配を進める。

 だが、そんな時悲劇が起きた。あるアクシデントからインクの怪物は誤って所長を殺害してしまう。この事態に非常に戸惑ったインクの怪物は逃げ出し、所長の傘下にいた多くの武装兵も所長を殺害したインクの怪物に恐れをなして一気に怪物を殺処分する意識を高める。

 この事態を受けて、ジャッジ・ザ・デーモンは街の心優しき市民達から、怪物へと変貌してしまった同じ作品のキャラクター達を救ってほしいと嘆願される。

 市民の要望を聞き入れて、ジャッジ・ザ・デーモンが助けに向かったが、インクの怪物はジャッジ・ザ・デーモンを完全に敵視して言う事を聞かず暴れ出してしまう。

 と、そこへ武装兵達が火炎放射器を手にインクの怪物に業火を放ち、インクの怪物は火達磨に。

 全身を火達磨にされたインクの怪物は苦し紛れに海に投身しようとするが、其処をジャッジ・ザ・デーモンが手を差し伸べ救おうとする。

 しかし液状化した怪物の腕を掴むのは至難の業であり、簡単に引き上げる事は難しかった。しかも其処に武装兵がトドメと言わんばかりにロケットランチャーを発射して、怪物を吹き飛ばしてしまった。

 爆発の衝撃でジャッジ・ザ・デーモンは後方に吹き飛ばされてしまい、怪物は粉々に吹き飛んで、その破片は全て海へと消えていってしまった。

 後日、収容施設を管轄している三次元政府は、収容所の悪辣な環境を認めないまま、一体のインクの怪物に変貌した囚人達を総称して【ブロッドン】と呼び、武装兵の活躍もあって処分したと報道に伝えた。

 インクの怪物ブロッドンへと変化を遂げた悪役達の詳細や真実は、報道されないままこの事件は幕を下ろした。

 

 しかし、実はブロッドンは生存しており、海に飛び散った破片が時間を重ねて散り散りになった肉片が再び一体化したのだった。

 そんな折に、再生したブロッドンが遭遇したのがインクの怪人ザ・インクだった。

 インクの怪人とインクの怪物はスグに意気投合し、その2体が融合すると、なんと彩り豊かな変身が可能となっていた。1体では全身がただ真っ黒なだけの変形しかできなかったのだが、2体が融合して変形すれば服の色から髪の色まで自由自在に変えられる事が判明した。

 この融合の末の変身能力を手に入れた2体は、自分達を怪物へと変貌させた切っ掛けを作った男に復讐しようと決意した。

 その男こそ、ザ・インクに変貌した三人を軽蔑した上に罵倒し、ブロッドンたち悪役達を劣悪な収容施設へと押し入れさせた人物、小田原修司だった。

 ザ・インクとブロッドンは小田原修司に復讐を果たす為に、修司が不在のときに彼に変身して聖龍隊が所有する空母へと簡単に侵入してしまう。

「修司どうした? お前、例の仕事で海外に行ってたんじゃ……」

「あ、ああ、ちょっとな……」

 副長バーンズからの問い掛けに、偽の修司は何とか誤魔化す。実は本物の修司はこの時、例の仕事すなわちジャッジ・ザ・デーモンの責務から海外に飛んでいたのだ。

 どうにかHEADや聖龍隊士たちを惑わして、空母に侵入したザ・インクとブロッドンの2体。彼等は外から持ち込んだ、盗んだダイナマイトで空母を爆破しようと目論んでいた。

 だが完璧に小田原修司に変身していたつもりの彼等にも一つだけ間違った解釈があった。

 それは傲慢さだった。

 聖龍隊の仲間に厳し過ぎるほど劣悪な物言いで怒号を飛ばす偽修司。

 更に空母に爆弾を設置しようと、進入禁止のところで警備兵にまで「俺のいう事が聞けないのか……!」と傲慢振りを発揮する偽修司の言動に、違和感を覚えなかった隊士はいなかった。

 そして遂に偽修司は聖龍隊に追い詰められてしまう。

「修司は……あなたみたいに傲慢な人間じゃないわ!」

 設置した爆弾も既に撤去されてしまった直後にアッコから言われたこの一言が、偽修司の怒りを買った。

「なんでだ……小田原修司……アイツほど、アイツほど傲慢な人間はいないだろうがッ!!」

 怒りの末に正体を現した偽修司は、インクの塊となってアッコや周囲の聖龍隊に襲い掛かった。

 ザ・インクとブロッドンは共闘して聖龍隊と過激な戦いを展開。彼等は融合して変身する事で、様々な姿や好きな硬度にもなれる事から多くの戦術で立ち向かってきた。

 ある時はブロッドンが硬度の高い武器に変身して、それをザ・インクが使用したり。またはブロッドンが馬の姿に変身すると、ザ・インクは騎士の姿に変身して跨り槍で攻撃したりと、その戦術は選り取り見取りだった。

 しかしザ・インクとブロッドンの2体の異常者(ヒール)を排除しようと、一般の聖龍隊士が火炎放射器でザ・インクとブロッドンに攻撃。

 その結果、引火しやすい重油から作り出されたインクの特製から、インク塗れになった空母は一面火の海に。

「や、やめろ! アイツらは燃えやすい! 火炎放射器なんかで攻めたら、空母が火事になる!」

 バーンズは慌てて隊士たちに火炎放射器の使用を停止させる。

 すると次は、バーンズの指令を待たずに行動した隊士が、2体の異常者(ヒール)を倒そうとミサイルランチャーを構えて、全弾発射してしまう。

「うおおおおおおおおおおッ」

 ミサイルランチャーの弾を全て直撃された融合した状態のザ・インクとブロッドンは、そのまま空母が停泊している海へと粉々に吹き飛ばされて消えてしまった。

 それから炎上している空母の離着陸場を消化して、事なきを得た聖龍隊。

 事件を聞きつけ、ザ・インクの身内であるトーマにリリーナ、そしてJrが空母に駆け付けるが既にザ・インクの姿もブロッドンの破片も見当たらなかった。

 バーンズは三人に「ブロッドンが粉々になっても生きていた様に、ザ・インクもまた生存している可能性が高い」と言い付けた。

 

 実際に海へと吹き飛ばされたザ・インクとブロッドンは死んではいなかった。

 

 

 

[溶けた心]

 

 ザ・インクとブロッドンが協力して聖龍隊が所持している空母を爆破させようとした事件から数ヵ月後。

 アニメタウン郊外にある精神疾患のある犯罪者を収容する施設で事は起きた。

 この晩、収容施設に勤めているであろう一人の医師が、ある患者の元へと夜遅くに訪れた。

「ハーーイ、グットナイト。どうしたんですか、先生。こんな夜遅くに」

 一人の医師が訪れたのは、悪名高いあのMrフェイクが監禁されている独房だった。

 Mrフェイクが医師に訊ねると、医師はMrフェイクの胸倉を掴んで変身を解いた。

「うあああああああ……!」「!?」

 医師に変身していたのは、ザ・インクとブロッドンの融合体だった。初めてザ・インクの姿を見たMrフェイクは驚愕した。

 そしてザ・インクはMrフェイクを捕まえたまま、彼に怒号で訴え始めた。

「Mrフェイク……! 貴様のせいで、貴様のせいで私達はこんな姿に……!」

 Mrフェイクが発明したネンドロイターを吸い込んだ影響でも、肉体が液状化したのだと訴えるザ・インク。だがMrフェイクは自分が発明したネンドロイターの気化したガスを吸い込んで、三人の二次元人が変異していた事を全く知らなかった。

「ああ、ちょっと待って、いま思い出すから……う~~ん……」

 Mrフェイクは必死に思い出そうとするが。

「……やっぱごめん、思い出せない。キミ誰だい?」

 このMrフェイクの言動と態度に、ザ・インクの怒りは頂点に上った。

「うあああああ……!!」

 獣の様な唸り声を上げて怒りを露にするザ・インクはMrフェイクを殺そうとする。

 が、そこにザ・インク達と同様に医師に変装して潜入していたジャッジ・ザ・デーモンが、変装を解いた直後に独房へと突入。興奮状態のザ・インクからMrフェイクを引き離すと、スグにザ・インクとブロッドンの融合体に向けてインク凝固剤を投げ付けて2体をカチカチに固めて身動きを止めた。

「ウウゥ……」

 全身を隈なくカチカチに薬剤で固められたザ・インクとブロッドンの融合体。2体の融合体の動きを封じたジャッジ・ザ・デーモンは、先ほどまで捕まっていたMrフェイクに向けて発言を述べる。

「Mrフェイク、これでお前も少しは懲りただろう。少しは大人しく……」

 と、ジャッジ・ザ・デーモンが独房の隅に投げ飛ばされたMrフェイクに問い掛けながら振り返ると、既に独房内からMrフェイクの姿は確認されなかった。

 ジャッジ・ザ・デーモンは呆れながら途方に暮れた。自分がザ・インクとブロッドンに気を取られている間に、Mrフェイクはまんまと脱走してしまってたのだ。

 そして施設出入り口で。Mrフェイクはジャッジ・ザ・デーモンが潜入の為に使用していた医師の変装道具で、自分を変装させて、まんまと脱獄を果たしてしまっていた。

「うはははっ、いやぁ、まさかこんな形で脱獄できちゃうとは……今日はラッキーデーかな? ははは……」

 Mrフェイクは笑いながら笑顔で夜の闇へと姿を晦ました。

 

 それから数日後、ジャッジ・ザ・デーモンの働きで捕えられたザ・インクとブロッドンの2体が裁判にかけられる事となった。

 2体は強靭なガラスのケースに収められたまま、裁判を受けた。そのガラスケースの中には、2体の代表としてかフランツ・ノルシュタインの姿で席に座っていた。

 ザ・インクの弁護士には、トーマとギブソンJrが雇った凄腕の弁護士が就いていた。

 弁護士は必死にザ・インクが厚生できると主張。更に聖龍隊の隊士も、ザ・インクやブロッドンが置かれていた環境の劣悪さを唱え、彼等が何ゆえにインクの怪物に変貌してしまったのかを訴えた。これに傍聴席で大人しく着席していた小田原修司はムスッとした顔で裁判を見届けていた。

 更に研究者達から、ザ・インクやブロッドンの肉体変異に関する報告も裁判では告白された。

「我々研究班が調べた結果、ザ・インクやブロッドンの変異する重油の様な細胞にはある特性がある事が判明しました。それは変身する能力を使用すれば細胞は増加の一途を辿る傾向にありますが、逆に能力を使用しなくなれば細胞は元の人間の状態へと戻っていく現象です。これにより、彼等が……ザ・インクやブロッドンが能力を使わなくなれば、いずれは細胞も元の人間の頃に戻り、結果、同一化していた肉体も別離する可能性が高いと言う事です。要約すれば、彼等が能力を強い精神力で自制すれば人間に戻れ、普通の生活に戻れると言う事実です」

 インクの様な変身細胞は、能力を使用しなければ減少する事から、強い自制心で能力を使用しなくなれば人間の姿に戻れると訴える科学者。

 更に続けて、精神科の医師も貴重な意見を申した。

「ザ・インクとブロッドンに変異した二次元人たちの精神状態は、確かに初期の頃は凶暴化して大変危険でした。ですが、今ではその傾向も見られず、落ち着いた状態へと見受けられます。まあ、精神科である私の意見から申しますと、肉体には確かに異常性が見られますが精神的には……全くの無害で大人しい状態へ落ち着いたと見られます」

 これらの意見が認められ、裁判所は次の様な判決を2体に言い付けた。

「被告、フランツ・ノルシュタイン、江頭哲文、ジョー・ギブソン、そして数多の悪役達を……無期限の観察処分に言い渡す。これから被告は、その自制心で変身能力を使わず、一般市民として生活できるかを常に観察されながら過ごしていく事」

 この判決が下った直後、観察処分にされながらも自由の身となった2体はガラスケースから解放された。

「父さん」「と、トーマ……」

 ガラスケースの外で待ち侘びたトーマに、フランツの姿で出て行く融合体は喜びを表すかのように抱き合った。

 一方、2体のインクの異常者(ヒール)が自由の身となった顛末に、傍聴席に着席していた小田原修司は不満そうに立ち去っていった。

 

 それからザ・インクとブロッドンの融合体は、いつの日か元の人間として戻れるよう、そして分離も可能なぐらいに変異した細胞を減らすべく努力を積み重ねた。

 しかし周囲からの偏見や白眼視、いいや恐れにも近い眼差しに晒されながら過ごしていくのは並大抵の精神力では及ばなかった。

 常に周囲からの眼が、2体の融合体に浴びせられる。

 そんなある日、気晴らしにと一人で夜の街を散歩していた融合体は、なんと脱獄中だったMrフェイクとばったり遭遇してしまった。

「ヤッホーーッ」「み、Mrフェイク……!」

 自分をインクの怪物に変異させた張本人Mrフェイクと遭遇してしまい、フランツ・ノルシュタインは愕然とした。

「おやおや? 君は確か……ああ、スター・コマンドーのト―マの父親のフランツじゃないか! いやあ、久しぶりですね。こんな素敵な夜に再会できるとは」

「う、うるさい! お前のせいで、こっちは色々と大変だったんだぞ」

「まあまあ、良いじゃないですか。自分の息子を蔑にしていた毒親の貴方と異常者(ヒール)である僕、気の合う者同士仲良くしましょう」

「だ、黙れ! お前なんかと一緒にするんじゃない!」

 言い合いになってしまうフランツとMrフェイクはそのまま喧嘩に発展。Mrフェイクはフランツの拳をひょいひょいと軽くかわしながら移動し、二人は歩道橋の上まで移動してしまった。

 だが、これがいけなかった。もみ合いになる二人だったが、Mrフェイクは足を引っ掛けさせて、フランツを歩道橋の上から下の車が行き交う道路へと落とそうとする。辛うじて手すりに掴まって落下を免れるフランツ。だがMrフェイクは面白半分でフランツの手を引き離して彼を道路に落とそうとする。

「君みたいに能力も、何の取り柄もない異常者(ヒール)はつまらな過ぎる。なあに、心配しないで。息子さんの事も、娘の事も僕に任せて。親が死んだ後でもハッピーになれるよう僕が仕掛けてあげるからさ」

 息子だけでなく溺愛する娘にまでも何かを仕掛けると豪語するMrフェイクの言動に、フランツの怒りは込み上がった。それにつられて他の人格の面々も、自分達の死を面白がるMrフェイクに怒りが込み上げる。

 その瞬間、彼らが掴んでいる手が液状化に変化してしまう。が、これにより歩道橋の手すりに掴んでいた手の摩擦が弱まり、インクの融合体は歩道橋から落下してしまった。

「うわあッ!」

 歩道橋から真っ逆様に落下してしまうフランツ。普通なら頭から落下すれば頭部を激しく損傷して瀕死の重体に陥るのが常識。

 しかし道路に落下する直前、融合体は自己防衛の意識からか、肉体を液状化させて道路との衝突の衝撃を和らげた。

「!?」

 道路に直撃した途端に液状化した様子を見下ろして、Mrフェイクは唖然とした。

 そして肉体を変異させて衝撃を和らげたインクの融合体は、フランツの姿に戻ると、車が来ない内に道路の端に駆け寄っていく。

「ほほうっ! これは驚いた、あれザ・インク! それにブロッドンじゃないか!」

 Mrフェイクは変異した様子を見て、フランツが複数の二次元人の融合体であるザ・インクやブロッドンである事を逸早く察した。

 一方のフランツは禁じられていた変異を使用してしまった事に罪悪感を覚えながら、歩道橋の上を見上げてみると既にMrフェイクの姿は消えていた。

 フランツは、いいや複数の二次元人たちは今夜の事を誰にも告げないままノルシュタイン邸へと帰参した。

 だが、この時の一部始終を実はジャッジ・ザ・デーモンが遠視していたのには気付かなかったという。

 

 後日、この日インクの融合体は身内の一人であるジョー・ギブソンJrと喫茶店で対面していた。

「調子はどうだい、ダディ」

「ああ、お陰さまで何とか……姿を変える時だけは変身しなくてはならないから、細胞が増えないか怖いが」

 息子であるJrと対話する父親のジョー・ギブソンは、変身能力の過度を恐れながら対話していた。

「お前はどうだい……今は、確か……」

「ああ、今は少年野球の監督を務めさせてもらっているよ」

「ああ、そうだったな……私のせいで、メジャーリーグから追放されてしまったんだな」

 実はJrは、父親のジョー・ギブソンがザ・インクに変異してしまった事からマスコミからパッシングを受けて、既にメジャーリーグ界から追放処分を受けていたのだ。

 ギブソンは息子に謝罪するが、実はこの時Jrはある事実を父親には隠していた。それは先日、ジャッジ・ザ・デーモンが訪れて父親であるギブソンと対面するのならとインク融合体を捕えた際に使用したインク凝固剤のカプセルを手渡された事だった。ジャッジ・ザ・デーモンはインク融合体がまた変異して暴走した際に身内であるJrでも止められる様にとカプセルを手渡したのだ。

 この事実を父親には打ち明けられなかったJrだったが、それよりも彼ら親子を見て周囲の声が聞こえてきた。

「ザ・インクよ」「大丈夫なのか、自由にさせて」「変身しないか?」

 二人が周囲に目を向けてみると、周辺の人々は口を噤んだ。

 周囲からの偏見や恐れの眼差しや意見を前にして、親子は大変戸惑った。

 

 そんなインクの融合体に悪い報告が入った。

 なんとインク状の変異細胞が減少してはおらず、それどころか逆に増加していると報告が入ったのだ。

「……研究者の報告によると、変異細胞は減ってはいないみたいだ。それどころか増加している傾向だそうです」

「ま、待ってくれト―マ! 何かの間違いだ、変身能力は殆ど使ってない、ちゃんと自制して生活しているのはお前も知っているだろ!?」

「分かってますよ。とりあえず、研究者たちには結果を焦らない様に伝えておきますから」

 息子ト―マからの報告に、父親のフランツは必死に嘆願。これにト―マは研究者達に結果報告を先延ばししてもらうよう取り計らうと承諾してくれた。

 

 しかしこの結果は規則上、聖龍隊の上層部の耳に入ってしまう事に。

 ザ・インクやブロッドンの変異細胞が減少せずに増加してしまっている傾向を聞いて、悲痛な想いを隠せないHEADたち。

 そんな中、小田原修司はこの結果を聞いて呆れながらも納得していた。

「だから俺が言ってるだろ。一度、異常者(ヒール)に成り下がった連中が簡単に改心する訳ねェって。所詮、異常者(ヒール)異常者(ヒール)なんだよ」

「お前は相変わらず潔癖症だな」

 テーブルの前でソファに座り込み、目の前のミルク入りコーヒーを手にする修司にバーンズが言う。

 そんな悪党には情け容赦ない修司に、アッコや月野うさぎ、如月ハニーが歩み寄って声を掛けてきた。

「修司、インクの塊になってしまった人達はそれぞれ、更生に向けて頑張っているんだからその努力は認めてあげて」

「アッコちゃんの言う通りだよ修司くん。悪い人たちが改心しないだなんて、考えが偏ってるわ」

「うさぎちゃんの言う通りよ。修司くん、どんな人にだって良心の欠片ぐらいはあるんだし、偏見しない方が良いわよ」

 しかしアッコ達の言い分を聞いても尚、修司の考えが改まる事は無かった。

「アッコ、ハニー、うさぎ。お前達は純粋無垢な思考の持ち主だ。そこは評価に値するが……だからこそ、そこに就け込まれてしまうという失点もある。人間は決して万能な生き物ではない。故に、一度道から踏み外すと正しい道に戻るのは至難の業だ。人は弱い……それ故に強大な力を手に入れたら、その力に呑み込まれてしまうかもしれん。あのザ・インクにブロッドンの二組も、周囲からの恐れの眼差しに自制心が崩壊して正真正銘のバケモノに変わっちまう可能性もある」

「「「………………」」」

「……まあ、お前達の言い分も解らない事はない。とりあえず、今はあの二組が元の人間に……普通の二次元人達に戻れるのを待ち侘びよう。全ては其処からだ」

 アッコ達三人に、半ば犯罪者と成り得たザ・インクとブロッドンの二組に対して警戒心を解かない修司は反論しつつも彼女たちの言い分を妥協してやったその時。

 コンピューターがアニメタウンで犯罪が起こっている事を知らせてきた。

 修司が目の前のテーブルに内蔵されているコンピューター画面を起動して視認してみると、画像には一人博物館にと侵入する逃亡中のMrフェイクが映し出された。

「またアイツか……」

 修司はそう呟くと、颯爽と移動して地下へと舞い降りる。そして其処でデーモンスーツを着用してジャッジ・ザ・デーモンへと姿を纏うと現場である博物館へと急行した。

 

 その頃、その博物館の近くをジョー・ギブソンの姿に変身している融合体が、身内であるトーマ・H・ノルシュタインとリリーナ、そしてジョー・ギブソンJrとかつての好敵手である茂野吾郎と夜道を歩いていた。彼らは先ほど、レストランで一緒に食事をした帰りだった。

「まさか、君と一緒に食事をする日が来るとは思ってなかったよ」

「ははっ、俺もあんたやJrと肩を並べて食事する日がやって来るとは夢にも思わなかったよ」

 かつて因縁を巡らせていたギブソンと茂野吾郎の二人が語り合っていると、トーマとJrがギブソンに話し掛ける。

「いつの日か、ジョー・ギブソンとフランツ・ノルシュタインが揃って食事できる日が来るといいですね」

「ダディ、少しでも変異細胞を減らして、また普通の生活に戻れるよう、これからも頑張ろう」

 トーマとJr、二人の息子からの激励に思わず笑みを零してしまうジョー・ギブソン。

 すると、そんな彼らの横をジャッジモービルが駆け抜け、目の前の博物館前に停車したのが目に入ってきた。そしてモービルの中からジャッジ・ザ・デーモンが飛び出て、博物館内へと駆け込んでいくのを捉えた。

「なにがあったのかな?」

 トーマや他の皆がきょとんとしている中、ジャッジ・ザ・デーモンが博物館へと駆け込んでいくのを目撃したギブソンは視点を博物館の窓に移した。すると彼の目に飛び込んできたのは、自分達をインクの怪物に変貌させた張本人Mrフェイクの姿が一瞬だけ入った。

(Mrフェイク!)

 ギブソンは憎きMrフェイクの姿を優れた動体視力で捉えると、自然と足が博物館へと赴いた。

「? ダディ!」「父さん……?」

 思わず駆け出すギブソンを見て、Jrとトーマが声を掛けると、ギブソンは彼らに返事した。

「ちょ、ちょっと待っててくれ……すぐに済む」

 そう言い残すと、ジョー・ギブソンの姿は博物館へと消えていった。

 そんなギブソンの姿を見届けた一行。すると此処で茂野吾郎が咄嗟に思い付いた考えを述べ始めた。

「な、なあ……いま、思ったんだけどよ。ギブソンやノルシュタインとかに変身する回数とかも変異細胞が増殖する原因の一つだよな? それなのに個人個人に変身を許可させている三次元政府の思惑って何だろうな」

 皆が心の片隅に置いていた疑問を指摘する吾郎に、他の一同は一驚した。

 

 その頃、博物館内では。

 博物館に侵入したMrフェイクは手頃な金目の物を盗もうと、博物館に飾り付けされている装飾品を袋に詰めて盗み出そうとしていた。

「ひゃははっ、金なのかメッキなのか分かんないけど、この金ぴかのお星さま全部頂いちゃおうっ」

 と、Mrフェイクは次々と装飾品を袋に詰めて盗んでいく。

 すると其処に互いに接合した姿で現れるザ・インクとブロッドンの二対が登場。Mrフェイクの前に出る。

「おやおや、きみ……いや、君たちはザ・インクとブロッドンのインクコンビじゃないか!」

「Mrフェイク……!」

 互いに向き合うMrフェイクとザ・インクたち。するとMrフェイクは颯爽と駆け寄ってきては2体に言い放つ。

「おめでとう!」この言葉を言った瞬間、Mrフェイクは所持していたクラッカーを鳴らしてザ・インクとブロッドンを祝福する。

 この行為にザ・インクもブロッドンも唖然とするが、そんな2体にMrフェイクは喜々と言った。

「ホントにおめでとう君たち! 何の取り柄もない、ただの異常者(ヒール)だった君たちが、こうして異質で恐ろしい悪役へと変貌したとは嬉しい事だ! 特にザ・インク。詰まらない人間としての人生から解放された君たちは僕の誇りだ。いいや、君たち自身も誇りに思うと良い!」

 人間からインクの怪物へと変貌した経緯を称えるMrフェイクの言動にザ・インクもブロッドンも怒り、そして一瞬の間を空けてからMrフェイクを伸縮自在の腕で薙ぎ払うように殴り付けて気絶させた。

 そして2体は、目の前に放り出された盗品を見て血相を変えた。

 2体は盗品が詰まった袋を掴むと、そのまま逃亡を図ろうとする。だがそこのMrフェイクを止めようと駆け付けてきたジャッジ・ザ・デーモンが制止の声をかける。

「待つんだ! ザ・インクにブロッドン」

 制止を呼び掛けたジャッジ・ザ・デーモンは2体の前に姿を現し、彼らを説得し始める。

「どうしたんだ? 今は贖罪の時では無かったのか? ……その袋を置いて、此処から離れろ。本当に後戻りできなくなるぞ」

 ジャッジ・ザ・デーモンはザ・インクとブロッドンに無期限の観察処分では済まなくなる事実を伝えて、盗品を置いて去る様に言い渡すが。

「私たちはこれで人生を取り戻すんだ……確実な方法でな!」

「盗みで人生は取り戻せん、早く此処から立ち去れ」

「ウルサイ! 俺達に命令するな! その上から目線、前々から気に食わなかった!!」

 次の瞬間、ザ・インクとブロッドンは共闘してジャッジ・ザ・デーモンに攻撃を開始。ジャッジ・ザ・デーモンは2体の攻撃を避けながら、暴走した2体を止めるべくインク凝固剤のカプセルを投げ付けた。しかしザ・インクもブロッドンも自身の体を硬くさせてカプセルを弾いてしまう。

 2体がインク凝固剤が詰まったカプセルを弾いた次の瞬間、ザ・インクはジャッジ・ザ・デーモンの上半身を、ブロッドンは下半身にインクを飛ばしてジャッジ・ザ・デーモンの動きを封じた。

 インクを全身に絡み付かれたジャッジ・ザ・デーモンはそのまま博物館屋内の壁へと固定されて磔状態にされてしまう。その隙にザ・インクとブロッドンは再び融合して博物館から逃亡を図ろうとする。

 2体は博物館から人目を避けるかのように忍び足で出てきた。するとそんな2体に声が届いた。

「お父様!」「ダディ!」

 その声に振り向くと、そこには身内であるリリーナ・ノルシュタインとジョー・ギブソンJrにトーマ、そして今宵のディナーに心配して付き添ってくれた今や古き好敵手である茂野吾郎の姿が飛び込んできた。

「……お前達、来てたのか」「ええ……! 何だか胸騒ぎがしてね」

 ザ・インクの言葉に、トーマが返事を返す。

「……まさか装飾品集めが趣味では無いですよね?」

 ト―マはザ・インクとブロッドンの二組がMrフェイクから強奪した盗品を指摘すると、他の面々も盗品が詰まった袋を見詰める。

 そして一同はザ・インクとブロッドンの二組に訴え掛けた。

「罪を償うんじゃなかったのか!?」

「元の生活に戻る気では無かったの?」

「ザ・インクにブロッドン……そんな異形の存在から抜け出したかったのでは?」

 しかし、そう問い詰められたザ・インクは姿をフランツ・ノルシュタインに変えると目の前の皆に告白した。

「フランツ・ノルシュタイン、ジョー・ギブソン、江頭哲文……そんな人間で居続けるのには並大抵の力がいる。けれどザ・インクやブロッドンになるのには……造作もない」

 もはや変異した二次元人たちは限られた自制心を酷使するよりも、その自制心を開放してインクの怪物で居続ける道を選んでしまってた融合体。

「さあ、そこを退け! そうでないと本気で殺すぞ!」

 そして挙句の果てには右手をボウガンに変形させて、目の前の身内達を脅迫するザ・インク。

 4人は今やガラリと性格が豹変してしまったザ・インクとブロッドンのコンビに愕然としてしまう。

 と、その時。こう着状態に陥った双方の緊迫から逃れようと、ザ・インクはジョー・ギブソンに姿を変えて目の前の茂野吾朗に告白し出した。

「そうだ、ミスター茂野。こうなったら君に一つ、告白しようじゃないか」

「?」突然の申し開きに戸惑う茂野吾朗。そんな中、ジョー・ギブソンは告白した。

「あの日、そう私と君の父親、本田茂治が球場で対峙した時の事……あの時の私は、ジャップ共の卑劣なバンドによる被弾や攻撃で自棄を起こしていた。神聖な野球を……ベースボールを低俗なバンドなどという戦法で戦う日本人プレイヤーのやり方に腸が煮えくり返っていた。そんな気持ちが昂ぶってか、私の投げた158kのボールが運よく茂治の頭にヒットしてくれた訳だ!」

「!」

「お前の父親、本田茂治は……私の怒りと不満のボールに直撃して、死んじまったのよッ!」

 この故意に自分の父親である本田茂治を殺害したと受け取られる言動を目の当たりにした茂野吾朗は愕然とした。事実、過去の対決でギブソンは被弾のショックやバンド攻めで、すっかり自暴自棄に陥り、それによりコントロールを失い対戦相手の本田茂治の頭部にボールが直撃してしまったのである。

「そうそう♪ お前のおとさん、死んじゃった♪ それ死んじゃった♪」

 告白したギブソンは、姿をザ・インクに戻した途端、再び茂野吾朗を挑発するかのように歌い出した。

 このギブソンの告白を受けて、一瞬頭の中が真っ白になった茂野吾朗は次の瞬間、ザ・インクに駆け寄ろうとした。

 が、ザ・インクは再び右腕をボウガンの形状に変化させると接近して来ようとする茂野吾朗に向けて矢を発射した。

 矢はまっすぐ茂野吾朗に向けて射出されたが、次の瞬間ギブソンJrが茂野吾朗を庇って前に飛び出し、インクで作られた矢を自身の右腕で受け止めた。

「Jr!」

 右腕で矢を受け止めたギブソンJrの咄嗟の行為に茂野吾朗は、右腕を負傷したJrを心配する。

 そんな自分の息子であり、今ではメジャーリーグから追放されたとはいえ少年野球のコーチに納まっているギブソンJrの負傷を前にして、ザ・インクは最初は驚きながらもスグにJrを小馬鹿にし出した。

「馬鹿だな、お前は。スポーツマンにとって大事な腕を怪我するとは……ああ、そうだった。お前もうメジャーリーグから追放されちまったんだっけ、ギャハハハ」

 遂には庇ったJrを嘲笑するザ・インク。

 だが、そんな嘲笑まで高々と上げるザ・インクとブロッドンの二体を前に、矢を受けたJrは父親に向かって切実に訴えた。

「……スポーツマンの……スポーツマンの誇りまで失ったのか、ダディ!」

 Jrは堪え切れなくなった涙を流して、ザ・インクに訴える。するとJrに続いてリリーナも悲しみの涙を流して切に訴え出る。

「お父様……お父様も、もういないのね。人としての良心は、もう溶けて無くなってしまったのね……!」

 そんな涙する二人を前にしながらも、ザ・インクは態度を改めず脅し続ける。

「オラオラッ、ガキみたいに泣いていたら許されるとでも思っているのか? そこを退くか、矢を受けるか……どっちにするんだ!」

 既にザ・インクにもブロッドンにも良心の欠片は見受けられなかった。そんな二組の良心を失ったインクの怪物に、Jrとリリーナは涙を流しながら最後の言葉をかけた。

「お別れです……お父様」「さよなら、ダディ」

 そう悲痛な言葉を呟いた二人は、同時にザ・インクとブロッドンにジャッジ・ザ・デーモンから手渡されたインク凝固剤入りのカプセルを投げ込んだ。

「ヤメローーーーッ!!」

 ザ・インクとブロッドンの融合体が訴えるも、自身の体を硬化させる暇もなく流動するインクの身体にカプセルは飲み込まれていく。そして次の瞬間、凝固剤が反応してインクの体を持つザ・インクとブロッドンの肉体は瞬く間に固まっていった。

 そして全身が凝固剤の反応で硬直したザ・インクとブロッドンの前に、凝固剤を投げ付けてきたリリーナとJrの後ろからジャッジ・ザ・デーモンが現れて、固まったインクの融合体を見詰めた。

 身内がジャッジ・ザ・デーモンと裏で繋がっていた経緯を察して、ザ・インクは全身を硬直させながら呟いた。

「新しい……家族(パートナー)……か……」

 こうしてザ・インクとブロッドンの犯罪は儚くも身内が投げた凝固剤で止められ、のちに駆け付けた警察によって博物館内でのびていたMrフェイクと共に連行された。

 

 後日、刑務所にて。

 特製の独房に、それぞれ収監されたザ・インクとブロッドン。二体が融合すれば、どんな姿にも変身できる事から、別々に押し込められているのだ。

 そんな特別房に収監されているザ・インクとブロッドンを、強化ガラス張りの廊下から様子を窺う身内たちと修司。

「……こいつらは世間の蔑視に耐えうる精神力が備わってなかったんだな。それでまたしても罪を重ねてしまったんだろう」

 部屋を行ったり来たりするザ・インクをガラス越しに傍観する修司が呟くと、独房内で苛立つザ・インクは威嚇するかのようにガラスを叩き付ける。

 

 そんな凶暴化してしまったザ・インクとブロッドンを見て、リリーナやJrたち身内達は思った。

 ザ・インクにブロッドン、インクの様に体が溶けたのと同じく、彼らの良心も溶けて消失してしまったのだと。

 

 

 

[3体目のインク]

 

 ザ・インクにブロッドン。彼らの良心が完全に溶けて消失してから1年後のこと。

 その間も二組のインクの存在は数々の犯罪を行い、英雄や警察に追われる日々を過ごしてきた。

 そんなある日の事、とある工場内であの犯罪者が新たなる犯罪を行おうとしていた。

「ひゃーーはっは。このMrフェイク特製のドッグフードを全世界に輸出して、ワンちゃん達を皆ボク特性の狂犬病にさせちゃうかんね! そんでもって僕特製のワクチンを販売して大儲け……!」

 ドッグフードに危険な物質を練り込ませて、多くの犬を狂犬病にさせた上で特製のワクチンを販売して儲けようと企むのはMrフェイク。

 しかし、そんな喜々とドッグフードを生成する機械を動かすMrフェイクに、精神疾患を患っている二人の子分が申し出た。

「でもよ、ボス。この犯罪は上手くいかないとオレは思うぜ」

「そうだよ、狂犬病にさせる物質をドッグフードに練り込んで販売する前に、聖龍隊に止められるがオチだと思う」

 これを聞いたMrフェイクは目を丸くして言った。

「あれれ、君たちが僕に意見するだなんて珍しいね。あれ? でもその前に君達って……喋れたっけ?」

 普段は精神疾患の為か、一言も言葉を発することなく黙って命令を聞く部下の二人に唖然とするMrフェイク。

 すると二人の子分の一人がウィンクすると、次の瞬間子分二人は姿を怪しく変形させてMrフェイクに迫った。

 子分達の正体は、他でもないザ・インクとブロッドンの二組だった。

「ザ・インク! ブロッドン!」

 Mrフェイクは、子分たちがいつの間にかインクの融合体と入れ替わっていた事態に驚愕した。

 そんな中、ザ・インクがMrフェイクに迫ると彼の胸倉を掴んで言い迫る。

「Mrフェイク! 久しぶりだな……よくも私達の人生を滅茶苦茶にしてくれたな……!」

 自分をインクの怪人に変貌させたMrフェイクに不満をぶつけるザ・インク。するとMrフェイクはザ・インクに述べ返した。

「なにを言ってるんだい。在り来たりで詰まらない人生と縁を切らせてあげたんだよ。今の君たちはホントに素晴らしい! ミラーガールの様に他者変身のプロだよ、ホントに素晴らしい!」

「私たちは……私たちは好きで、こんな人生を歩んだ訳じゃない!」

 自身を犯罪の道に追いやったMrフェイクの言動に、怒りを露わにするザ・インク。彼らはMrフェイクをインクで伸縮自在の腕で捕えたまま下に降りていく。

 すると下に降りた途端、そこにはザ・インクやブロッドンそしてMrフェイクを待ち伏せていた集団が。

「スター・ルーキーズよ! そこまでよ異常者(ヒール)!」

 待ち伏せていたのはミラール率いるスター・ルーキーズの一団。ミラールは二丁拳銃を構えてザ・インクやMrフェイクを討ち取るつもりでいた。

 スター・ルーキーズに囲まれたザ・インクとブロッドンの二組は、捕まえているMrフェイクを身体の一部で拘束させて地面に置いた次の瞬間、ジョー・ギブソンの姿に変身してルーキーズに言った。

「分かった分かった。大人しく投降するよ。その為に私たちはMrフェイクを取り押さえに来たんだ」

「何ですって?」

 ギブソンの発言にミラールが険しい表情を浮かべると、ギブソンは続けて唱えた。

「私たちは以前から独自でMrフェイクを追っていた。こいつの犯罪を止めて、警察に突き出してやろうかと思ったのが、私達の復讐だ」

 ギブソンはMrフェイクの犯罪を未然に妨害するのが、自分達の復讐だと唱えた。

 このギブソンの提唱にミラール達は唖然としつつも警戒を怠らない。相手は今まで罪を重ねてきた異常者(ヒール)、迂闊に信用できなかった。

 と、その時。現場にパトカーのサイレン音が接近してくるのがミラール達の耳に入ってきた。

「! 誰? 警察を呼んだのは?」

 ミラールは突然の事態に驚き、誰が警察を呼んだのか仲間のワイルドタイガーやナツ・ドラニグルに顔を向けると、そこにザ・インクが姿を変えて申した。

「私が呼んだんだよ」

 そう言ったのは、フランツ・ノルシュタインの姿だった。

「Mrフェイクを警察に引き渡す為、そして自ら出頭するために先んじて呼んでおいたんだ」

 なんとザ・インクとブロッドン達は、Mrフェイクを捕まえただけでなく自ら出頭するために警察を呼んだという。

 そして現場に警察が到着。聖龍隊の前で警察はMrフェイクに手錠をかけ、ザ・インクとブロッドンが変身しているフランツにも迫る。

「聖龍隊士の身内だった男か。まあいい、とにかく中に入れ」

 警察はザ・インクとブロッドンに、特製のガラスケースに入るよう指示するとインクの融合体は素直にケースに入って行った。

 

 後日、収容施設の特別房の中にザ・インクとブロッドンは別々に容れられてた。

「……この一年間、ずっと警察や聖龍隊のヒーロー達に追われ続けた日々を過ごした。正直に言って、ホントに疲れた。いつも誰かに追われる毎日、犯罪を繰り返してばかりの日々……私達は絶えず、誰かに追われる日々に恐れていた……」

 そう語るのはフランツ・ノルシュタインの声を模写してるザ・インクだった。そして彼らが独房の内側からガラス越しに話しているのは、今回自ら大人しく投降した聞かされて馳せ参じた身内であるジョー・ギブソンJrとその付添いの茂野吾朗、そしてト―マ・H・ノルシュタインだった。

 そんな三人にザ・インクは声をジョー・ギブソンの声に変えて語り続けた。

「みんなに暴言を吐いてからの1年間、あの後から後悔の念だけが深く心に刻まれた。皆への罪悪感と、生きていく為には犯罪をしなければならなかった毎日……そんな日々を少しでも変えて、どうにか罪を償えないか考えていた……」

 するとお次は江頭哲文の声でザ・インクは語った。

「もう、程々疲れたんだ。犯罪ばかりの日々に……そして警察に追われる毎日とおさらばしたいんだ。もう治療に専念して、普通の人間に戻りたいよ」

 ザ・インクへと融合した三人の意思を大人しく聞き入れるJrと吾朗とト―マ。

 そんな三人と三人だったインクの怪人の話を、少し離れたところで面会に赴いた三人と同伴してきた修司とバーンズが見守っていた。

「……ザ・インクもブロッドンの連中も、どちらとも本心から犯罪に対して心労を抱えている様子だぜ。本気で犯罪が嫌になったと見える」

「………………」

 テレパシーでザ・インクとブロッドンの思考を読み取ったバーンズからの伝言に、修司は険しい表情のまま聞き受ける。

 本当にザ・インクとブロッドンは犯罪から手を洗いたいのか、贖罪を果たしたいのか。それを見極めようとする修司。

 と、そこにザ・インクはジョー・ギブソンの声で息子のJrと同伴している茂野吾朗に

「1年前、お前達に言ったのは半分は真実だ。私は日本人のバンドばかりするプレイに自暴自棄になっていた。それで半ば興奮した私は、コントロールを失って本田にデッドボールを投げ付けてしまった。しかし、本意を言えばあのデッドボールはわざとでは……故意では無かったのは本当だ、信じてくれ。自棄になっていた私の過失は認める……本田へのデッドボールは、今でも忘れられない私の犯した最初の大罪だ」

「「………………」」

 本田茂治へのデッドボールを心から詫びるギブソンの意思を黙然と聞き入れるJrと茂野吾朗。そんなJrにギブソンの意思は伝えた。

「Jr、野球に限らず、どんなスポーツも少しでも理性を失えば恐ろしい狂気へと……殺人に繋がってしまう。私があの時、本田たち日本人選手のプレイに憤りを感じて苛立ちさえしなければ、おそらくは本田は今でも生きていただろう。そして多くの二次元人の運命も狂う事はなかっただろう。Jr、お前もこれから……私の様に理性を失うことなく、平常心で野球をしてくれ。私と同じ過ちを繰り返さないでくれ」

 そんなギブソンの意思を伝え聞かされたJrは、一通り父の意思を聞いたところで立ち去ろうとする。

 そして去り際に独房に容れられたザ・インクにJrは捨て台詞を残した。

「ああ、分かってるよ。今までのダディを見てきて、それが嫌ってほど分からされた」

 そう言って去るJrの背中を見て、ザ・インクことジョー・ギブソンは完全に息子からの信頼を失っている事に痛感する。

 

 処は変わって聖龍隊本部。

「……お父様は最初、不本意で今の様なインクの怪物に変貌してしまった。元から危険な異常者(ヒール)だった訳じゃない」

「だけど、今は異常者(ヒール)じゃないの。もしまた脱獄したら、今度こそ処分するべきだと私は思うわ」

 先輩であり、ザ・インクの身内であるト―マからの話を聞いて、ミラールは容赦のない断罪を行うべきと断言する。

 そんな二人の会話を、近くでコーヒーを飲んでいる修司も聞いていた。

「俺も正直あの二組、ザ・インクとブロッドンは信じられない。インクの怪物に変異する前から、あいつらは罪を重ねてきた。俺の中では、あいつらを許す気は未だに起きない」

「総長、あなたは僕が父に蔑にされていたのを根に持っているんですよね、アッコさんから聞きました。僕の事はもういいです、もう父への反発は抱いていません」

「それでも俺の中でアイツらの罪が許せねえのよ。悪かったな、潔癖症な男でよ」

 ト―マからの訴えに対しても、自分の考えを改めずに過去の罪を根に持つ修司。

 修司が罪を犯したザ・インクとブロッドンに対して偏見を強める一方、修司はト―マへの妥協を含めて言った。

「……まあ、それももう少しの話だ。今、研究所でザ・インクとブロッドンの細胞を元に治療薬を作っている段階だ。この薬が完成すれば、ザ・インクもブロッドンもこの世からいなくなる……また普通の二次元人として過ごせるだろう」

 無愛想な面構えで唱える修司の言う事には、研究中の治療薬を投与すればザ・インクもブロッドンも元の普通な二次元人達に戻れるだろうとの事。

 

 ザ・インクとブロッドンが収容施設の特別房に収容されている頃。

 軽食店である男が嘆いていた。

 男の名は役野勤、売れない三流の役者。だが本人は自分には才能があり、周りがそれに気付いていないと思い込んでいた。

 今日もまた、役野は役者を選ぶ試験を受けたが、余りにも不出来な演劇に当然の如く不評を受けた。

「あ~~あ、なんで俺の様な天才的な役者が芽を出さない。それもこれも、見る目の無いプロデューサーのせいだ」

 そう愚痴りながら役野は食事していた。

 するとそんな役野の目に、軽食店のテレビの報道が飛び込んできた。

「世間を騒がしたザ・インクおよびブロッドンのインクコンビが自ら警察に出頭しました。現在、二組は収容施設の最深部に設けられた特別房に隔離されており……」

 そんなニュースの報道を視聴した役野は思った。

(あ~~あ、ザ・インクにブロッドン。何にでも変身できるコンビか……ちぇっ、俺にだって変身できる特別な能力があれば、スグに役が得られるっていうのに……)

 と、役野が自分も他者変身が可能ならばどんな役回りも得られると内心豪語していた時、彼の中でトンでもない閃きが浮かんでしまった。

(! そうだ! 俺もザ・インクやブロッドンの様に、どんな姿にも変身できる能力を手に入れれば……!)

 そう閃いた役野の目には、ちょうどテレビでザ・インクとブロッドンの治療薬を研究している施設が映し出されていた。

 役野は、この研究施設に目を付けた。

 

 そして夜遅く、役野勤はザ・インクとブロッドンの変異細胞を研究している研究所に忍び込んでいた。

 役野にとって都合が良かったのは、ここの研究所の警備が思ったよりも手薄だった故に安易に忍び込めたことだった。

 そして役野はザ・インクとブロッドンの細胞を研究している部屋に侵入。恐る恐る身を潜め、隠れながら目的の細胞を手に入れようと進む。

 そして役野はようやく細胞が容れられた容器に手を伸ばして、ザ・インクとブロッドンの細胞を入手した。

(や、やった! これで俺の夢も……)

 念願の役者への道が開かれたと半ば興奮する役野だったが、研究中の研究員に見付かってしまう。

「君は誰だ!」「!」

 研究員に声をかけられ、役野は急いで逃げ出した。

 役野の侵入と研究している細胞の盗難を認識して、研究員たちはすぐさま非常装置を作動させて役野を追う。

 必死に細胞を持って逃げる役野。するとそんな逃げ出す役野の前に、非常装置の一環である鉄格子が降りてきて逃げ道を絶つ。

 追い詰められる役野。後ろからは研究員たちが彼を追い詰め「さあ、それを渡すんだ」と役野が持ち逃げしようとしたインクの細胞を返すよう促す。

 だが、追い詰められた役野は切羽詰まって思い切った行為をした。

(っ、一か八かだ!)

 なんと役野はその場で、ザ・インクとブロッドンの細胞を口から直接飲み込んだ。

「ああ! なんて事を……!」

 細胞を飲物の様に飲み干す役野を見て、愕然とする研究員たち。

 すると役野の体に異変が。彼が突然苦しみ出すと、そのまま肉体が溶け出して、液状化した状態で鉄格子の隙間から外部へと逃亡。

 研究所の外に逃げ出す役野を、警備員が追うが曲がり角のところで老婆と遭遇して見失ってしまう。

「きゃっ」

「し、失礼。今し方、ここに男が逃げてきませんでしたか?」

 老婆は驚いた様子で、警備員に震える指で指し示し、逃げた方角を教える。

 そして警備員が役野を追って去っていくのを見届けた老婆は、姿を変えて役野に戻る。

「へへ、やったぜ。これで俺も明日から大スターだ」

 役野は自分の思う通りに事が運んでいる事態に満足していた。

 

 それから後日。役野は再びキャスティングの現場を訪れていた。

「どうだ! オレはその気になれば、どんな役も演じられるスターの卵だ!」

 今までと同じく自分の演技をダメだしされた役野は、インクの怪物に変貌してプロデューサー達を恐れさせた。

 しかしスグにそんな自分の行為に後悔する役野。

「あ~~あ、なんで暴れちまったんだ、おれのバカバカ。これじゃ犯罪者だよ」

 自分が暴れてしまった経緯に加え、研究所から細胞を盗んだ事柄もテレビ報道されている現状に苦悩する役野。

 だが、彼はテレビの報道を見て気付いた。今まで評価されずに、日の目を見なかった自分に世間が注目している事を。

「俺……俺……有名になってんじゃん!!」

 今まで感じた事のない注目願望が満たされる感激に興奮する役野。

 すると彼が屯っていた軽食店の店内のスタッフや客が役野の存在に気づく。

「おい、あれって役野じゃないか?」「新たなザ・インクか?」

 そんな陰口を叩かれた役野は、客やスタッフを驚かせようと敢えて人前で変身して脅威を感じさせる。

 客やスタッフが変身した役野を前に、阿鼻叫喚を上げて逃げ惑う中、役野も外に飛び出して言い放つ。

「うはっはは! 俺はもうチンケな三流役者じゃない、新たな大物犯罪者、第二のザ・インクだ!!」

 自らの注目願望が満たされた事で、歓喜に沸く役野は自らを第二のザ・インクと自称した。

 

 その頃、聖龍隊本部でも新たなるザ・インク、役野勤の情報が入ってきた。

 聖龍隊は自在に変身変形できる役野を捕まえるために更なる情報をかき集めていた。

 そしてジャッジ・ザ・デーモンである修司は、アニメタウン中の監視カメラをハッキングして役野が現れる場所を特定していた。

 すると役野は、なんと人気のなくなった銀行の内部カメラに姿を現して、自らの犯罪の様子をカメラに向かって伝えていた。

「あーー、今宵、このザ・インクの……アッと驚く犯罪の手順を、一から十までカメラに収めて見せます」

 かなり棒読みな台詞で自らの犯罪の様子をレポートする役野。

 そして役野は銀行の巨大金庫の前に移動すると、全身インクに変身して自力で金庫をこじ開けようとする。

 が、別に怪力になった訳ではないので、自力で金庫をこじ開ける事は難しかった。

 役野が金庫破りを果たそうとした、その時。変身した役野の眼前の金庫の扉にジャッジラングが飛んできて爆発。金庫破りをしようとしていた役野を軽く吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた役野が起き上がって目視してみると、目の前にはジャッジ・ザ・デーモンが立ちはだかっていた。

「くだらん演劇は終わりだ、役野勤。大人しくしていてもらおうか」

 ジャッジ・ザ・デーモンが役野に告げるが、役野は当然抵抗する。

「ウルサイ! 俺はこの能力で成功するんだ! 次は金持ちになってやる」

 すると役野はインクの塊をジャッジ・ザ・デーモンに向けて投げてきた。これにジャッジ・ザ・デーモンは素早く回避、避けた瞬間に役野に接近し、彼にインク凝固剤を投げ付ける。

 だが役野は体を硬直化させてインク凝固剤を受け付けない肉体へと己を変化。そのまま現場から逃亡しようと図る。

(逃がさん……!)

 ジャッジ・ザ・デーモンは役野を追って外へと飛び出す。

 巨大なインクの怪人に変貌している役野が屋外に出ると、既に銀行前には出動した聖龍隊が待ち受けていた。

「無駄な抵抗はするな! 大人しく投降しろ!」

 犯罪現場で指揮を飛ばすウェルズ・J・プラントが役野に投降をするよう指示するが、役野はこれを拒絶。

「ウオオーーッ、俺さまを止められる奴なんかいないぜ!」

 役野は興奮し、周辺で包囲している聖龍隊の隊士や駆け付けた警察官を液状化している伸縮自在の腕で薙ぎ払った。

 巨大な鞭の様な腕で軍用車やパトカーを薙ぎ払って見せる役野はさらに興奮する。

「うははっ、これは凄いや。簡単に車なんかを薙ぎ払える」

 すると駆け付けている聖龍隊の隊士であるスター・ルーキーズが役野の前に立ちはだかる。

「攻撃開始!」

 総部隊長ミラールが役野への攻撃を指示、自らも二丁拳銃ミラージュ・ガンを連射して役野を処分する気でいた。

 しかし液状の肉体を持つ役野に弾丸などの物理攻撃は効かず、逆に役野を興奮させてしまう。

「うはは! お前らの攻撃なんか屁じゃねえよ! これでも喰らえッ」

 役野は腕を振り付けてインクの塊を前線のルーキーズ隊士に直撃させる。

 粘着性のあるインクの塊を受けて身動きを封じられてしまうルーキーズのワイルドタイガーとバーナビ―。二人は自力で体に纏わり付くインクを引き剥がそうと躍起になる。

 そんな中、ルーキーズのナツ・ドラニグルとファイヤーエンブレムの炎能力者二名が役野に向けて業火を放射した。

「うわわわ、わあ!」

 インクの体ゆえに簡単に引火した事で火達磨になる役野は困惑する。

 そして燃え盛る炎に全身が焼かれる苦しみを味わう役野だが、彼は機転を利かして全身を大回転させて引火したインクのみを周囲に散らし出す。周囲の聖龍隊士が燃えるインクの雨に戸惑う中、燃えているインクのみを振り払った役野は炎から逃れる。

 するとルーキーズが変幻自在の役野勤に苦戦している所に、初代ザ・インクの子であるト―マ・H・ノルシュタインが駆け付けてルーキーズと戦っている役野に問い詰める。

「役野勤! その能力で悪事を働いても虚しいだけだぞ! 今からでも遅くはない、治療して元の人間に戻るんだ!」

 しかしト―マの訴えに、役野は反発した。

「黙れ! おれはお前の父親の様に……そして何よりも聖龍隊の多くの隊士の様に変身し放題の能力を手に入れたんだ! この能力は俺のもんだ!」

 役野は先ほどと同じくインクの塊をト―マに向けて投げ付ける。ト―マはこの攻撃を回避しつつ、もはや能力に心酔している役野に説得は意味がない事を理解する。

「うおおおっ、おれは最強だ! 最高の能力を手に入れた。聖龍隊はズルイぞ、こんな能力を自分達だけで使っているなんて」

 役野はそのまま周囲の隊士や警官、そして軍用車やパトカーを蹴散らして建物の角を曲がって姿をくらます。

 そこへジャッジ・ザ・デーモンが、自分の素性を知らない聖龍隊士や警官達が退避したのを確認して役野を追跡し出す。しかし役野が曲がった角を見渡しても、行き止まりである現場に役野の姿は消えていた。

 ジャッジ・ザ・デーモンが現場である行き止まりの路地を注意深く観察すると、現場にはマンホールが在ったのが確認できた。役野は肉体を液状化させて、マンホールを通じて逃亡したのだと容易く推測できた。

 一方でマンホールに逃げ込んだ役野は、心を躍らせていた。

「うひひ、簡単に逃げられた……やっぱりこの能力は凄いや」

 警官や隊士はもちろん、ジャッジ・ザ・デーモンからも逃げ果せた現状に心を躍らせる役野だった。

 

 この役野勤の起こした事件はスグにアニメタウン中に広がった。

 人々は新たなるインクの怪人に恐れを感じていた。

 その一方で、収容施設で身内であるト―マやギブソンJrそして好敵手だった茂野吾朗たちから役野勤の経緯を聞いたザ・インクはこの事態を重く捉えていた。

「そんな……! 我々の細胞を取り込んだ男が、新たなインクの怪物に変貌したっていうのか!?」

 身内達から事情を聴いたザ・インクは激しく動揺していた。

 そしてザ・インクはジョー・ギブソンの声で身内達に訴えた。

「私達を解放してくれ! アイツを……私達の能力を得た役野勤を止められるのは私達だけだ!」

 しかし当然の事ながら、信用を失っていたザ・インクの言葉はスグに受け入れられなかった。

 その晩の事。

 監視がザ・インクとブロッドンが収監されているガラス張りの特別房を見回っていた時の事。

 なんと特別房の中にザ・インクとブロッドンの姿が消失しているのを視認した。

 監視は急いでザ・インクが容れられている部屋の密閉扉を開けて中を見渡した。しかしザ・インクの姿が影も形もなかった。

 続いて監視はブロッドンが収められた密閉室の中も見渡した。だがザ・インクと同じくブロッドンの姿も消えていた。

 だが、二組はまだ室内に存在していた。監視が戸惑っている最中、なんと部屋の床と同化していたザ・インクとブロッドンは監視が立ち往生している隙に室外に忍び出て、そのまま脱獄してしまった。

 

 収容施設から本家のザ・インクとブロッドンが脱獄した事で、人々の恐怖は更にかき立てられた。

 ジャッジ・ザ・デーモンは役野勤に加えて施設から脱走したザ・インクとブロッドンの二体も追跡していた。

 そんな日が続いたある晩。

 新たなるインクの怪人に変貌した役野勤は今宵も暴れ回っていた。

 聖龍隊の隊士たちが暴れ回る役野勤を取り押さえようとするが、既に自身の能力を使いこなしている役野を取り押さえるのは至難の業だった。

「うははは! 聖龍隊の雑魚共じゃ、俺の相手は勤まらねえな! うははは……」

 自身の能力で自由に暴れ回る役野を相手に、苦戦を強いられる聖龍隊士たち。

 と、そこに颯爽と駆け付けるジャッジ・ザ・デーモンが登場。ジャッジ・ザ・デーモンは彼の登場に戸惑う聖龍隊士を援護しながら、研究者達が開発した薬を役野に投与して制止しようと試みる。

 しかし役野は巨大化し、更に肉体を硬化させて治療薬の投薬を受け付けない。

 ジャッジ・ザ・デーモンはどうにか役野の隙を作って、治療薬を投薬できないか検討しながら立ち回る。

 と、物陰から何かが巨大化した役野勤に飛びかかった。

 それは逃亡していたザ・インクとブロッドンの融合体だった。彼らは自分達の能力で犯罪を繰り返す役野勤を制止するべく、今この場で役野に飛び付いたのだ。

 激突するザ・インク&ブロッドンVS役野勤。三体のインクの存在は互いを激しく殴り合い、その戦闘によりインクの液体が激しく現場に散る。

 役野勤がザ・インクと組み合っている所に、四足歩行のブロッドンが長く逞しい尾で役野の足を後ろから振付けて役野を転倒させると、ザ・インクが追い打ちと言わんばかりに役野の顔を殴り付ける。

 展開する激しい攻防に聖龍隊の多くがただただ茫然とする中、ジャッジ・ザ・デーモンは三体のインクの変異体に如何にして一つしかない治療薬を投薬すれば良いか考え込んでいた。

 すると、ジャッジ・ザ・デーモンが立ち往生しているのを視認したザ・インクとブロッドンの二体は、ジャッジ・ザ・デーモンに駆け寄っては訊ねる。

「それが例の治療薬か?」

「ああ、そうだ」

「それをアイツに投薬すれば、もうインクの怪物は居なくなるんだな!?」

「……そうあってほしいものだ」

「それなら……私達が奴の動きを封じるから、その直後に投薬してくれ」

 そうジャッジ・ザ・デーモンに伝えたザ・インクは相棒のブロッドンと協力して再び役野勤に襲い掛かった。

 するとなんと三体のインクの変異体が融合してしまい、今までにないほどに巨大化してしまった。

 三体のインクの変異体が融合して巨大化した事で、現場である鉄橋が崩れてしまう。

 しかし融合しても尚、役野勤の動きを阻害しようとザ・インクとブロッドンは役野の肉体に入り込んで動きを封じていた。

「は、早く薬を……!」

 ザ・インクは役野の身体に滲み込んだ状態で薬を所持しているジャッジ・ザ・デーモンに投薬するよう嘆願する。

 このザ・インクとブロッドンの活躍を目の当たりにしたジャッジ・ザ・デーモンは、彼らの覚悟を高く評価した。

「お前達の覚悟……確かに見届けたぞ」

 ジャッジ・ザ・デーモンはザ・インクとブロッドンにより身動きを封じられている役野の口の中に治療薬入りのカプセルを射出させて呑み込ませた。

「ヤメローーーーッ!!」

 役野の絶叫が響く中、体内に投下された治療薬は効果を表し、次第に役野勤と彼に融合していたザ・インクとブロッドンの体を瞬く間に縮み込ませていった。

 そして崩れ落ちた鉄橋の瓦礫の中、役野勤も、フランツ・ノルシュタインも、ジョー・ギブソンも、江頭哲文も、多くの【世界名作劇場】の悪役達も元通りの姿に戻り、全員が裸体で気を失っていた。

 こうして辛くも役野勤の一件はザ・インクとブロッドンの活躍によって落着した。

 

 その後、役野勤を含むインクの変異体だった人物達は搬送され、それぞれが刑務所に送られる事となった。

 ザ・インクにブロッドンだった多くの二次元人達は、元に戻ったとはいえ積み重ねてきた罪に加えて脱獄したが故に最初は刑期を加算されそうだったが、マスコミ等が流した役野勤の逮捕劇に協力したとあって、刑期は加算されなかった。

 そんなザ・インクから元の人間に戻れたフランツ・ノルシュタインとジョー・ギブソンの二名は後日、身内であるトーマやJrそして茂野吾郎と面会した時には晴れ晴れとした顔でこう伝えていた。

「まさか、私達が逮捕に協力しただなんて報道されるとは思ってなかった。どちらにしろ、もうこれで普通の人間に戻れたんだ……次はお前達の、いいや、家族の信頼を取り戻せるよう、努めたい」

 フランツもギブソンも、家族の信頼を取り戻せるよう努めたいと穏やかな顔で身内に伝えたという。

 

 一方の能力を失ってしまった役野勤は、精神的に問題が有ったと見られて精神疾患者の収容施設に容れられてた。

 そんな彼と自由時間にチェスで遊んでいるMrフェイクは、キングの駒を弾いてテーブルから落とすと役野に言った。

「ほら、君の負けだよ役野。早くキングを取って来るんだ、ヒヒっ」

 不敵な嘲笑を役野にぶつけるMrフェイクに言われるがままに、役野は床に落ちて転がったチェスの駒を拾いに行く。

「たくっ、なんで俺さまがあんな狂人と一緒なんだよ」

 役野は自分の置かれた現状に不満を愚痴りながら駒を探していると、駒は柵の向こう側まで転がっていた。

 役野は腕を伸ばして柵の向こう側に転がった駒をどうにか掴もうと必死になる。

 すると此処で彼にとって幸運なことが。なんと彼が伸ばしていた右腕がインクの様に変化して、駒まで手が伸びたのだ。

 この現象を目の当たりにした役野は心の中で自分の幸運を大いに喜んだ。

 三体分のインクの変異体に治療薬を投与した事で、役野にだけ完全には効かず能力が残ってしまっていたのだ。

 

 果たしてニュー・インクである役野勤はまた犯罪を犯すのだろうか。

 

 

 

[受け入れる運命]

 

 役野勤が捕まり、三体のインクの変異体に治療薬が投与されて獄中に容れられてから1カ月後の事。

 度々、刑務所に訪問しては面会してくれる身内のトーマやJr達に、元ザ・インクであるフランツ・ノルシュタインやジョー・ギブソンが体の変化を訴えてきた。

 それは皮膚が荒れ、その箇所から黒ずみの様な垢がボロボロと零れ落ちて行くという現象だった。

 実はこの時、フランツやギブソンだけでなく江頭や【世界名作劇場】の悪役達にも同じ様な現象が発生していた。

 彼らの生体を研究・管理している囚人観察者の研究者たちは何もないと身内たちに答えるが、この事態を怪しく思ったジャッジ・ザ・デーモンは単独で調査に乗り出した。

 その結果、ザ・インクにブロッドンだった囚人達の細胞が、インクの変異体だった時の変異細胞に似た症状に変化しており、しかも細胞と細胞を繋ぐ力が弱まっている事が判明。

 このままではジョー・ギブソンやフランツ・ノルシュタイン達は肉体が崩壊してしまう事実を突き止めたジャッジ・ザ・デーモンは肉親達にこの事実を打ち明け、共にこの事実を隠ぺいしていた研究者の所に訪問した。

 すると研究者は、既にザ・インクやブロッドンだった二次元人の肉体が崩壊し始めていた事実を知っていた事を白状させられた。

 そして何故この事実を隠していたのかと言うと、肉体の崩壊を止める唯一の手段が、再び個人個人が融合してザ・インクやブロッドンに戻る以外、手立てが無いのだという。

 更に研究者は、自分達にとって上役である三次元政府にこの事実を伝えた所、三次元政府は再びインクの変異体という脅威が再来するのを恐れて、事実を隠ぺいしたまま刑務所内でザ・インクやブロッドンだった二次元人達を獄中で死亡させるよう手筈していたという驚愕の事実が明らかになった。

 

 一方、獄中では。

 自らの身体の変化に戸惑うばかりのザ・インクだった江頭哲文が、囚人の自由時間内に刑務所内を徘徊していた時、たまたま看守達の話を聞いてしまってた。

 それは自分たちザ・インクやブロッドンであった二次元人の肉体が次第に崩壊し、最終的には消滅してしまう事実。そしてそれを防ぐには、再び融合するしかないという残酷な現実だった。

 実は看守達も実質、三次元政府と結託している立場であり、三次元政府からザ・インクやブロッドンだった二次元人を監視し続け、最終的には獄中で始末するよう言い渡されていたのだ。

 この話を聞いてしまった江頭は、看守達の目を盗んで同じザ・インクだったフランツとギブソン、そしてブロッドンだった【世界名作劇場】の悪役達にこの事実を伝えた。

 事実を知らされた彼らは、看守達の目を盗んで集団脱走する計画を立てる。

 そして先ず最初に集団脱獄した江頭哲文/ジョー・ギブソン/フランツ・ノルシュタインの三名は脱獄した直後、生き延びるために再びザ・インクと化す決心を固めた。

 そして三人は自らの意志の元、再びザ・インクへと融合した。

 それから続けて、今度は【世界名作劇場】の悪役達が集団脱走するが、この集団脱走に流石も看守も気づき、これによりザ・インクだった三人の脱獄も明るみになってしまう。

「急いで追うんだ! 射殺しても構わん、見つけ次第発砲しろ!」

 三次元政府から派遣された追跡部隊の隊長は、ザ・インクだった三人にブロッドンだった悪役達を見つけ次第、射殺するよう命じる。

 この刑務所の混乱の中、収監されてた二代目ザ・インクとも言える役野勤はこの混乱に乗じて自らも再発した変身能力を駆使して刑務所から抜け出た。

 追跡部隊が三人と悪役達を処分する気で追跡する一方、同じく脱獄に成功した役野はある犯罪者と遭遇する。

 それは先に脱獄していたMrフェイクであった。Mrフェイクは犯罪者として成功を収めたい役野勤に、今までのインクの変異体とは全く違う名が必要だと説く。

 これに役野勤は、自らをMrインクと命名し、Mrフェイクの口車に乗せられて彼の宿敵であるジャッジ・ザ・デーモンを討伐しようと夜の街に飛び出た。

 

 同じころ【世界名作劇場】の悪役達も生存する道を選び、各々が再び醜い容姿のインクの怪物ブロッドンに変化する覚悟を決めていた。

 そしてザ・インクと同じ様に自分達の意思で融合を果たしたブロッドンは、油が浮き出た様なインクの塊同然の四足歩行の怪物として、まず最初に他者変身を可能にするべく相棒のザ・インクを探し出す。

 その一方で脱走した二次元人達を射殺する勢いで追跡する部隊。彼らは再びザ・インクやブロッドンと言った脅威が再発するのを非常に恐れていた。

 だが、その追跡部隊の前に新しくMrインクと襲名した役野勤が登場し、犯罪者として名を挙げる為に追跡部隊を襲った。

 この襲撃に追跡部隊は武器で応戦するが、Mrインクを止める事は出来なかった。

 其処にジャッジ・ザ・デーモンが参上し、Mrインクと名乗り始めた役野勤と戦闘を開始。

 激しい攻防を展開するジャッジ・ザ・デーモンとMrインクを前に、追跡部隊はどちらを攻撃すれば良いのか判断できず困惑していた。

 するとこの騒ぎを聞き付けて、現場に到着したザ・インクとブロッドンの二体。彼らは自分達から派生したMrインクの暴走に憤りを感じ、彼を止めるべく自らも参戦した。

 加勢してきたザ・インクとブロッドンを前に、ジャッジ・ザ・デーモンは平静を保ち、共にMrインクを止めるべく共闘した。

 

 そして辛うじてMrインクを止められたジャッジ・ザ・デーモンとザ・インクとブロッドンは、激しい戦闘を終えて人気のない港まで移動してから話を始めた。

「……生きる為に、自ら再びインクの怪物へと姿を変えたのか」

 これにザ・インクとブロッドンは融合した状態でジャッジ・ザ・デーモンと対話した。

「ああ、そうだ。この悍ましい姿に戻る以外、生き残る術はなかったのだからな」

「………………」

「我々が生き続けるのが罪だというなら、この場で我々を捕えても構わない」

「……いいや、今は捕まえない。今はな……」

「そうか……ジャッジ・ザ・デーモン、一つ頼みを聞いてくれないか?」

「なんだ?」

「……子供たちを……トーマにリリーナ、Jr達をよろしく頼む」

「……心得た」

 ジャッジ・ザ・デーモンからの返事を聞いた直後、ザ・インクとブロッドンは自らの体を液状化させて何処かへと姿を消した。

 この情景を少し離れた所から傍観していた追跡部隊の隊長は、立腹してジャッジ・ザ・デーモンに言い寄った。

「なんたる様だ! 悪党を容赦なく惨殺するジャッジ・ザ・デーモンが、悪党を逃がすとは……!」

 この隊長の発言と態度に、ジャッジ・ザ・デーモンは隊長の胸倉を掴んで言い放った。

「俺はな……! アンタ達のお手伝いをしている積りはこれっぽっちもないんだよ……!!」

 厳つい鬼のマスクで責め立てるジャッジ・ザ・デーモンの迫力に、隊長は言葉を失う。

 すると其処に、駆け付けた追跡部隊がジャッジ・ザ・デーモンの頭部に銃器のレーザー標準を直射して狙い撃つ姿勢を構える。

 ジャッジ・ザ・デーモンは無暗な争いを避ける為に、煙幕を撒いて隊長と共に姿を消した。

 隊員達が慌ててジャッジ・ザ・デーモンと隊長の姿を必死に探索する。

 すると其処に「助けてくれぇ~~……」と隊長の声が何処からともなく聞こえてきた。

 隊員達が見上げみると、なんとコンテナを移動させる巨大クレーンの天辺に、隊長が吊るされて助けを求めていた。

 

 それから後日。

 ノルシュタイン邸に集ったザ・インクの身内たちはジャッジ・ザ・デーモンから言伝を聞いた。

 ジャッジ・ザ・デーモンから生き延びる為にザ・インクに戻ったフランツやギブソンの意思を伝え聞いたトーマにリリーナ、そしてJr達は黙って話を聞き入れた。

 するとジャッジ・ザ・デーモンはザ・インクの肉親達に語り明かした。

「奴らはまたしても変身を遂げた事で、何かが成長したんだろう」

 ザ・インクへと戻って行った者たちは、再度変身を遂げた事で心境に何か変化が現れたのであろうと語るジャッジ・ザ・デーモン。

「成長とは変化、変わる事の一種だ。二次元人である奴らは、体だけでなく心にも何かしらの成長……変化の兆しが現れたんだろう」

 成長と変化は紙一重、故に肉体だけでなく精神にも何かしらの変化の兆しが現れたのだと説くジャッジ・ザ・デーモンは最後に身内達に言い付けた。

「二次元人は変わり続ける、ゆえに成長し続ける」

 二次元人は変わり、そして成長し続ける存在と位置づけるジャッジ・ザ・デーモンの格言を受けて、リリーナやJrはジャッジ・ザ・デーモンの威厳に圧倒される。

 すると、ここでJrがジャッジ・ザ・デーモンの発言を聞いて一つの答に辿り着く。

「……? 待てよ、その二次元人って呼び方……まさか、あなたは三次元じ……!」

 と、ギブソンJrがジャッジ・ザ・デーモンに問い掛けようとすると、ジャッジ・ザ・デーモンはギブソンJrに向けて人差し指を立てて物申した。

「それ以上の愚問は不必要だ、ギブソンJr。世の中、知らない事の方が幸せだっていう現実も少なからずある」

 そうジャッジ・ザ・デーモンに指摘されて、ギブソンJr達は唖然としつつもそれ以上の質問を留まった。

 そんな中、唯一ジャッジ・ザ・デーモンの真実を知っているト―マは一人夜空を見上げながら呟いた。

「ふぅ……二次元人は変わり続ける。ゆえに成長し続ける、か……」

 先ほどジャッジ・ザ・デーモンが言った格言を聞いて、ト―マは人知れずザ・インクに戻った父親の安否を気に止めていた。

 

 後日、ザ・インクとブロッドンがスコーピオン同盟と共に居るのが報告された。

 この時のザ・インクにブロッドンは、以前の様子からすっかり変わってしまっていたという。

 おそらくは既に記憶が曖昧になってしまったと思われた。

 

 

 

[Mrインク]

 

 Mrインク

 本名:役野勤

 鳴かず飛ばずな三流の役者だったが、ザ・インクとブロッドンの治療のために取り出された彼らの遺伝子を培養した液体を盗み出し、それを飲んで新たなインクの変異体に変化する。

 変化した際の体色はやや焦げ茶色で、単体のザ・インクよりも巨大な姿になることができる。

 後に脱獄後、兼ねてより先に脱獄を果たしていたMrフェイクから「新たなる名前」が必要と論され、自らをMrインクと名乗り始めた。

 

 

 

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