聖龍伝説:現政奉還記 創生の章:昔語り編 作:セイントドラゴン・レジェンド
「奴のIQなら、どんな凄い発明品を作り出そうとも、それを犯罪に使って楽しむ事しか頭にないからな」
新世代型の瀬名アラタが残念そうな顔で言うと、バーンズはMrフェイクの思想について語る。
「それにしても、何だかな……修司の奴、ほとんどの悪漢には容赦ないほど寛容じゃねェな」
「修司は過去に過ちを犯し、人心を傷つけた奴を許せない傾向だった。それが仲間だったら、尚更だ」
大将に指摘され、バーンズは修司が悪人を簡単に許せない傾向だったと説く。この話を聞いて、先ほどのザ・インクの話を語った内の一人、トーマは気難しい表情を浮かべた。
「ザ・インクに変異してしまった三人が何だか可愛そう……突然、体がインクに変異して、それなのに周りから怪物扱いされるだなんて……」
「まあ、奴らにとっては大半が自業自得みたいなもんだが……三人の絶望は計り知れないな」
ザ・インクに変貌した三人の二次元人に同情するプロト世代のチョコの悲しげな面持ちを前に、バーンズは三人の絶望の大きさを説いた。
「しかも、別の収容所でも同様の変異が起きていたとは……! 環境の悪循環を認めない政府の意向は、ブロッドンも悔しいでしょう」
「修司も……いや、ジャッジ・ザ・デーモンも最初はその理由からブロッドンを助けようとしたんだが……その後にザ・インクと意気投合した事から三次元人への憎しみが増加しちまって」
新世代型の猿田学の熱弁に、バーンズはブロッドンの顛末を付け加えた。
「融合する事で簡単に他者変身が可能になっちまうのは凄いよな。でも小田原修司に化けたのは、流石のHEADには簡単に見破られちまったけどよ」
「完全に無機物、有機物のどれにでも変身できちまうのは驚きだ。だが、安易に修司に化けたのが失敗だった。修司の性格や素顔は一言では表しかねないからな」
プロト世代のギュービッドがザ・インクとブロッドンの変身能力でもコピーできない小田原修司の性分を唱えると、バーンズは融合体が如何なる姿や物質にも変身できる能力は凄かったが、簡単に言い表せない修司の性格を熟知していなかった事が正体がバレた切っ掛けだったと説く。
「だけど折角、観察処分になったのに、またしても犯罪の道に向かってしまったザ・インクの人達が哀れでならないわ……」
「Mrフェイクによる洗脳や精神欠如が元の発端だが、それ以上に周囲からの偏見なんかも奴らの良心を溶かした要因の一つだったんだな、これが」
周囲からの偏見やMrフェイクとの関わりで、またしても犯罪の道に足を踏み外してしまったザ・インク達を哀れに思う新世代型のイオリ・リン子。そんな彼女にバーンズはMrフェイクの洗脳や周囲からの偏見が彼らの良心を麻痺させた要因だと説いた。
「それ以上に……私達の始祖、小田原修司がそこまで考えの固い人だったなんて……少し悲しい」
「修司は大勢の善良な人々を思うあまり、犯罪者や悪人に対して頭の固いところがあったのよ。そこが修司の良い所でもあれば、欠点でもあったわ」
自分たち新世代型の始祖に当たる小田原修司が犯罪者や悪人に対して考えの固い人物であった事に遺憾を示すキャサリン・ルースに、アッコがその点こそ修司の長所であり欠点だったと優しく話し掛ける。
「そのザ・インクやブロッドンの能力に憧れを持った役野勤って男……まあ、他者変身の能力なら、俺も少しは憧れちまうな」
「何を言ってんだ、真鍋。役野の注目願望が満たされた事で、新たな脅威が現れちまったんだぜ」
変身能力を欲し、その能力を得た役野勤に共感する新世代型の真鍋義久にバーンズ達は呆れ返ってしまう。
「でも、ザ・インクもブロッドンも、最後には暴走した役野勤を止めるべく、ジャッジ・ザ・デーモンと協力したんですよね? ……最後は生き残る為にザ・インクやブロッドンに戻ってしまいましたけど……」
「ああ、そうだな。奴らも最初は犯罪に心から疲れ切り、自首したんだが役野の一件で活躍後、肉体の崩壊を止めるべく再びインクの変異体に戻っていった。残酷な運命だったが、そんなザ・インク達の覚悟を汲み取り、ジャッジ・ザ・デーモンも寛容的に心境が変化した。二次元人はホントに姿形だけでなく、心までも変化して成長する生き物だって事を痛感させられた」
悲痛な面持ちでバーンズに問う新世代型の琴浦春香の台詞に、バーンズはこの一件で二次元人の変化を痛感させられたと唱えた。
そんな皆々がザ・インクとブロッドン、そして二体の能力を手に入れた役野勤ことMrインクの昔語りを聞いた直後。
今度は自分がMrフェイクとの因縁を語ろうと、一人の聖龍隊隊士が前に出た。
それは元悪役部隊マン・ヒールズにも加盟している「しゅごキャラ隊」の一員、月詠幾斗からの話だった。
彼は自分の利き腕である右腕を外して、右腕が既に義手になっている事実を新世代型達に再認識させようと見せびらかした。
そして己の右腕が、バイオリニストにとって大切な腕が義手になってしまった経緯を幾斗は語り出した。
自分たち、過去に醜い争いやいざこさばかり起こしていた【しゅごキャラ!】のキャラ達にMrフェイクが仕掛けた心理戦の数々。
そして自分達を狂わせる為にMrフェイクが仕掛けた余りにもショッキングな出来事を。
更にMrフェイクの悲しき過去も明るみになった一件を。
[アニメタウン市長の絶対権限]
イースター社が起こした数々の「×たま蒐集事件およびエンブリオ捜索事件」に対する処罰が決定したと、【しゅごキャラ!】のメインキャラ達と、元イースター社の元専務である星名一臣と元会長である一之宮ひかるがアニメタウン本庁に呼び出された。
「……以上の数々のイースター社の暴挙は、決して許されるものではない! とはいえ、亜夢達の心意気などでお前たち首謀者、星名一臣と一之宮ひかるへの直接の罰則は撤回してやる」
アニメタウン市長である小田原修司からの言葉に、亜夢たちも一臣やひかるも安堵した。
だが
「……だが、しかし! イースター社が起こした数々の暴挙が赦される訳では無い! これにより、アニメタウン市長の権限にて……イースター社には無期限の業務停止命令を発令する!」
この修司の発言に、元専務の星名一臣が反論した。
「ま、待ってくれ! もうイースター社は×たまを収集する機材も無ければ、その意思もない! それなのに業務停止命令なんか下ったら、株価は急降下して失態! イースター社は倒産してしまう」
しかし、修司は冷然とした顔付きで静かに述べた。
「仕方ないだろ。それもこれも、大罪を犯したお前やひかるの自業自得だ。罰と言うのは、平等に与えなければ意味をなさん」
「そんな……! それで行き場を失った社員達はどうなる? 私や元会長のひかるが訴えられる可能性だってある!」
「だから、それを自業自得だというんだ。少しは己の犯した罰を身を持って受けようという意思がないのか? これだから
「な、なんだと……!」
修司の冷酷な態度に一臣は苛立つが、それでも修司は平然を保つ。
すると此処で日奈森亜夢が修司を説得する。
「し、修司さん! 一臣さんやひかるは、自分の夢を……自分達の過ちに気付いて前を向こうとしているのよ! それなのにイースター社そのものを潰そうだなんて、少しやり過ぎです」
「亜夢、これは個人個人への制裁ではない。イースター社と言う、過去に数々の過ちを犯した企業への社会的制裁なんだ。個人である、お前らの意見は汲み取れない」
「そ、そんな……」
修司の冷たい言動に、亜夢は唖然としてしまう。
そんな唖然とする亜夢たちに、修司は毅然とした態度で申し付けた。
「何かしらの罰を与えなければ、真の平等ではない」
全てに置いて平等な価値観を保つ修司にとって、イースター社への社会的制裁も辞さない方針だった。
こうしてエンブリオ事件後、当時の聖龍隊総長にしてアニメタウン市長である小田原修司はイースター社に対して厳罰的な「業務停止命令」を発令。
日奈森亜夢達の制止も聞かず敢行した。
その結果、イースター社の株価は大暴落し、イースター社は事実上の倒産に追い込まれた。
これにより会社の実質的な首謀者であった元専務の星名一臣と元会長の一之宮ひかるにイースター社という職を失った職員達の非難が集中砲火された。
だが、ひかるだけはこの騒動に巻き込ませない様にと、元専務の一臣はひかるを庇護する形で、イースター社倒産の全責任を被った。これにより賠償金などの出費から星名一臣は無一文となってしまう。
一方の小田原修司は、混迷する一臣やひかる達に一切の同情を見せず、冷然と成り行きを見届けるばかりだった。
さらに小田原修司は、イースター社だけでなく聖夜学園のガーディアン達の可能性にも足を踏み入れた。
彼らの心から成りたいものに変身する能力を高く評価した修司は、学園のガーディアンをアニメタウン市長として保護及び支援すると共に、同時に聖龍隊総長として彼らガーディアンを聖龍隊に迎え入れ、聖龍隊の軍事力強化を図った。
これにより、不本意ながら聖龍隊の戦力に加算されたガーディアン達は、修司の手解きから危険なクライム・ファイターとしての道に足を踏み入れる事となった。
彼らの活動時間はガーディアン達が全員、未成年である事も考慮し、夕方を中心とした昼間の活動時間外に充てられた。
ガーディアン達は昼から夜の合間に時が変化する刻限に活動した。
そんなある晩の事。
あまり気乗りではない夕方の活動時間内で活動していた日奈森亜夢は、アニメタウンが漆黒の夜に呑み込まれていく刻限にとある異形の存在を目撃してしまう。
亜夢は、その異形の存在が指名手配されている危険人物である事を知っていたため、その異形なる存在を確保しようと単身、接近する。
そして建物の屋根の上まで、どうにか駆け寄った亜夢に、その異形の存在は手を差し伸べて亜夢を屋根の上に引っ張り上げようとした。
「ほれ」「じゃ……ジャッジ・ザ・デーモン……」
手を差し伸べるジャッジ・ザ・デーモンの気遣いに、目を丸くして一驚する亜夢。
亜夢は不思議な心持の中、ジャッジ・ザ・デーモンから差し伸べられた手を掴んで、屋根に引き上げてもらった。この時、亜夢が掴んだジャッジ・ザ・デーモンの手は不思議と温かく感じられたという。
そしてジャッジ・ザ・デーモンに引き上げられた亜夢は、自分を引き上げてくれた連続殺人鬼のジャッジ・ザ・デーモンに面と向かって対話した。
「ジャッジ・ザ・デーモン……! あなたは、一体……?」
善人とも悪人とも捉えられないジャッジ・ザ・デーモンに問い詰める亜夢。するとジャッジ・ザ・デーモンは亜夢に表情が捉えられない鬼のマスクで告げた。
「俺は何者でもない。英雄でもなければ、悪の側でもない……全てを監視し、全ての者に平等なる裁きを与える制裁……そして闇……それがこの俺、ジャッジ・ザ・デーモン……!」
自らを平等なる裁きにして漆黒の闇と唱えるジャッジ・ザ・デーモンの言葉を聞いて、亜夢は不思議とジャッジ・ザ・デーモンが完全な悪人でないのではと察する。
すると、そんな唖然と話を聴く亜夢にジャッジ・ザ・デーモンが訊き返す。
「日奈森亜夢、お前やお前の仲間はどうだ? 過去に醜いいざこさや争いを繰り返し、今やっと落ち着きを取り戻せたお前達は果たして正しい道を突き進んでいるのか?」
問い掛けられた亜夢は、一時戸惑いながらも迷いながらジャッジ・ザ・デーモンに返答した。
「私は……ううん、私たちは確かに、ちょっと前までは喧嘩や、傍から見れば醜い争いを続けてしまった。私が思うに、多分それが修司さんの神経を逆なでして、それで私たちガーディアン達がクライム・ファイターとして……そして街の監視者として活動しなければならなくなった切っ掛けだと思う」
(ほほう、其処まで悟っているとは……)
亜夢の力説を聴いて、ジャッジ・ザ・デーモンは心の中で亜夢の心理眼を評価した。
「……それで、お前は俺をどうしたい? 他のヒーロー達の様に俺を捕まえようとするか?」
「いいえ、それで問題が片付くとは思ってないわ」
「?」
「あなたが……あなたが、なんで過激な暴力や殺人に手を染めてまでも悪い人たちを制裁してるのか……それをまず知らないといけない気がするの」
「………………」
「人が過ちを犯すのには、大抵何かしらの理由があると私は思うの。あなたが殺人にまで手を染めてでも犯罪者達を抑制しようとしているのも、何か重大な理由があるんでしょ?」
亜夢からの問い掛けに、ジャッジ・ザ・デーモンは黙り込んでしまう。
「……あなたには夢はないの? 成りたいものとかあるの?」
亜夢からの質問に、ジャッジ・ザ・デーモンは素直に答えた。
「俺の夢は……壮大なものだ。俺一人の手では到底叶えられないが、それでも俺は叶えたいと思ってる」
「どんな夢?」
「……この世の人間全てが平等に、そして平和に暮らせる世界だ。その世界を実現させる為に、俺は自分が成りたいもの……すなわち鬼の姿に成った」
亜夢に己の夢と思想を包み隠さず明かしたジャッジ・ザ・デーモン。亜夢は、そんなジャッジ・ザ・デーモンの夢と思いを聴いて、裁きの鬼が完全な悪人ではないと強く胸に刻み込んだ。
と、その時。ジャッジ・ザ・デーモンは盗聴している無線から事件発生の無線通話を傍受して、移動を開始しようとした。
しかしジャッジ・ザ・デーモンは去り際に日奈森亜夢に告げた。
「日奈森亜夢、お前は周りの月詠幾斗や辺里唯世の様に穢れた心ではない真人間だ。だからこそ、その心を大切に生きてくれ」
そう亜夢に言い残すと、ジャッジ・ザ・デーモンは夜の街へと姿を消した。
[収容所のF]
その深夜、アニメタウン内に在る精神患者収容所。
この収容所には、精神に疾患があると診られた犯罪者を収容する施設だった。
だが施設の警備は並の刑務所以上に強固であり、脱獄はもちろん侵入も困難だった。
そんな収容所内で、看守達はつい最近入所したとある患者について話していた。
「あの男も2年は出られまい」
「奴は異常だ。誰にも理解できる筈がない」
看守達は施設の屋内を見回りしながら巡回していた。
そんな二人一組で巡回している看守の死角を通って、あのジャッジ・ザ・デーモンが収容所屋内を突き進んでいた。
ジャッジ・ザ・デーモンは看守達が通り過ぎたのを確認すると、廊下に着地して徒歩で屋内を進む。
そして施設の一角にある部屋の前に辿り着くと、ジャッジ・ザ・デーモンはその部屋の鍵を予め入手しておいた合鍵を使って室内へと踏み入った。
素早く部屋に侵入すると、室内では一人の男がテーブルの上で一人ポーカーをして時間を潰していた。
ジャッジ・ザ・デーモンはその男の前の席に座り、向き合うと男に言った。
「話がしたい」
しかしジャッジ・ザ・デーモンが話し掛けても、男はカード遊びを止めない。
「俺達の事だ」
それでもジャッジ・ザ・デーモンは男に話し掛け続ける。
「俺たち二人の結末だ。どちらが先に相手を殺すか」
ジャッジ・ザ・デーモンはお互いのどちらが先に相手を殺すのか訊ねる。
「お前が俺を……あるいは俺がお前を……」
淡々とカード並びをして時を過ごす男に、ジャッジ・ザ・デーモンは迫った。
「分かるよな……………Mrフェイク」
ジャッジ・ザ・デーモンが対話していたのは、無表情でFのマークが施されたアイマスクを被ってカード遊びをしているMrフェイクだった。
しかしMrフェイクはカード遊びを止めず、続ける一方。そんなMrフェイクにジャッジ・ザ・デーモンは真剣に対話する構えで話し込んだ。
「……ジャクソン、俺はお前が元のジャクソン・グレイシスに戻ってくれるのを心待ちにしている。元来の二次元人を心から愛しているジャクソン・グレイシスに戻ってくれると信じている。だからこそ、俺はお前の中のジャクソンの意思が目覚める時までお前への殺意を抑えてきた」
ジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクの中に眠る旧友のジャクソン・グレイシスへの想いから、Mrフェイクへの殺意を抑制してきたと唱える。
だが、そんなジャッジ・ザ・デーモンの真意を聞いても尚、Mrフェイクはカード遊びを続けるばかり。
痺れを切らしたジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクの胸倉を掴んで言い放った。
「何とか言ったらどうだ!? Mrフェイク!」
と、ジャッジ・ザ・デーモンがMrフェイクの胸倉を掴んで、彼の顔を間近で視認したその時。ジャッジ・ザ・デーモンは気付いてしまった。
ジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクのアイマスクを外してみると、なんとMrフェイクと思っていた人物は全くの別人だった。
仮面をつけている間、ずっとMrフェイクことジャクソン・グレイシスであると思い込んでいたジャッジ・ザ・デーモンは驚愕した。
すると其処に看守達がジャッジ・ザ・デーモンの侵入に気付いて、Mrフェイクが隔離されている部屋へと踏み入って来た。
「ジャッジ・ザ・デーモン!」「手を挙げろ!」
指名手配犯のジャッジ・ザ・デーモンの出現に施設内は騒ぎ出す一方、ジャッジ・ザ・デーモン本人は無益な争いを避ける為、煙幕を張って施設から逃走した。
これと同時に、Mrフェイクと別の精神患者が入れ替わっていた事実を知った施設の職員達は、かなり前からMrフェイクが施設から逃亡した事を察した。
それからジャッジ・ザ・デーモンはアニメタウンの秘密基地に帰還し、ジャッジ・ザ・デーモンとしては唯一の側近であるウッズに事情を語った。
「Mrフェイクが収容施設から逃亡した。おそらくは随分と前に逃げていたんだろう。それを隠ぺいする為に同じ施設に収監されてた患者を身代りにしていたんだ」
「あの方……いえ、元アメリカ将軍であった人物が、今では悪名高い異常犯罪者へと変貌するとは嘆かわしい限りです」
デーモンスーツを脱いで、水分補給をする修司の傍らでウッズがMrフェイクへと成り下がってしまったジャクソン・グレイシスに驚嘆していた。
「修司様、貴方はアメリカに渡米している間、同じ軍隊でジャクソン氏と長期に渡って共に行動していた筈。ジャクソン氏の……いいえ、Mrフェイクの思考は理解できますか?」
「いいや、俺にもMrフェイクの思考は理解し切れない」
発達障害ゆえに、他人からの愛情を感じられない修司だったがその代わりに他人の感情を察する敏感な感受性を持っていた事からウッズはMrフェイクの思考を理解できるかと訊ねた。これに修司は相手がジャクソンが生み出したもう一つの狂気の人格故に完全に理解するのは困難だと返した。
この修司の返答を聴いて、ウッズは修司の身の周りの世話をしながら述べた。
「そうですか……では、Mrフェイクの方が小田原修司を……いいえ、ジャッジ・ザ・デーモンという人格を理解しているのでしょうか?」
「何年かかっても、奴は俺の事を理解できないだろう」
「本当にそうでしょうか?」
「どういう事だ?」
「あの男を見くびらない方が良いですよ」
ウッズのこの発言に、流石の修司も動揺を隠し切れなかった。
その頃、既に前々から収容所を脱走していたMrフェイクはコミックを読み耽っていた。
「……ああ、ああ……なんて醜いんだろう……!」
Mrフェイクはコミックを黙読しながら、思慮に耽っていた。
「なんて醜い子たちなんだ……! 大人達の身勝手さから醜くなった子供たち。こんな悪童達がのさばる二次元界を救ってあげたい……!」
雷鳴轟く豪雨がMrフェイクが読書を堪能している隠れ家の窓ガラスに激しく吹き荒ぶ。
そしてコミックを読み上げたMrフェイクはスッと立ち上がり、読んでいたコミックを足元に転がすと狂気に満ちた微笑みで宣言した。
「ボクはボクなりに二次元界を救ってみるよ。修司……!」
そう宣言するMrフェイクの足元に転がっている多くのコミック本、それは【しゅごキャラ!】の単行本だった。
[悲劇の始まり]
それから数日後。
この日、日奈森家は久々に家族総出で外出しようと朝から準備を進めていた。
「ママーー、こっちの準備は終わったよ」
「うん、分かった。ほら、亜実。動かないで……」
母親の日奈森緑に自分の方の外出準備は終わったと報告する亜夢に対し、母緑の方は末娘で亜夢の妹である亜実の服を着させていた。
「パパ、いい加減カメラの調子見るのはやめて、準備終わらせなよ」
「ああ、もう少し……(亜夢や亜実の写真を綺麗に、確実に収める為に調子は見て置かないと)」
亜夢はカメラマンである父、紡にも準備を進めるよう急かす。だが娘達を溺愛する父紡はその娘達を写真に収める為にも自前のカメラの点検は欠かせない。
少しずつ、そして着実に家族が揃って外出できる準備が整っていたその時。日奈森家に訪問者が訪ねてきた。
玄関チャイムを鳴らす、その呼び鈴の音に亜夢が反応する。
「あっ、誰か着たみたい」
「私が出ようか?」
「ううん、ママは亜実や自分の用意をしていて。私が出るから」
亜夢は母親に妹の世話や、自分の用意を進めるよう進言すると、自分が代わって訪問者の対応をしようと玄関に向かう。
そして玄関の戸に手を掛けた亜夢は、躊躇う事無く玄関を開けた。
「こんにちは! ごめんなさい、あいにく家は今から出掛けるところ、で……」
亜夢が玄関を開けた矢先に目に飛び込んできたのは、アロハシャツを着衣した頭に麦わら帽子を被った不気味な微笑みの男と、その男が右手に構えているリボルバー銃であった。
目の前の拳銃を持った男に一瞬、唖然とする亜夢に顔を上げて一言発した。
「サプライズ!」
そう発言した男は、誰であろうMrフェイクであった。
亜夢が一瞬の間に訪問者がMrフェイクである事に気付いた次の瞬間。Mrフェイクは手にしていたリボルバー銃の引き金を引いて発砲。亜夢に向けて銃を撃った。
銃声が響き渡った瞬間、日奈森家の中の空気は電流が走ったかのように騒然となり、銃弾は日奈森亜夢の胸部に着弾し、そのまま彼女の体を貫通した。
一発の銃声と共に、胸部に凶弾を撃ち込まれた亜夢は、そのまま玄関の間に背面から倒れ込む。
そして銃声を聞き付けて、家中に散らばっていた亜夢の家族が玄関に集結する。
「きゃああっ!」
集結した玄関先で目撃したのは、血の海の中で倒れる亜夢の姿。その姿を見て、母親である緑は悲鳴を上げる。
「亜夢! 亜夢ゥーー!」
父親の紡は急いで血の海の中を倒れる娘亜夢に駆け寄り、彼女を抱き寄せた。そして必死に声を掛けると、亜夢の表情は微かに動いて辛うじて命を繋ぎ止めている事を表す。
そんな阿鼻叫喚の日奈森家を前に、発砲したMrフェイクは薄ら笑いを浮かべて亜夢の家族に言い放った。
「ハローー、どうも日奈森家の皆さん! Mrフェイクでーーす、君らは今ハッピーかい?」
まるで進行役の様に喜々と表情を浮かべるMrフェイクの凶行に、父親である紡は怒りの矛先をMrフェイクに向ける。
「この野郎、よくも娘を……!」
と、紡がMrフェイクに殴り掛かろうとしたその矢先。Mrフェイクの背後から、待機していた彼の子分であるチンピラ達が日奈森家の中に侵入して、ボスであるMrフェイクを殴り付けようとする紡を逆に殴り飛ばした。
「ブッ!」「あなた!」「パパ!」
殴り飛ばされた紡を見て愕然とする妻の緑と娘の亜実。そして紡が床に倒れ込むと、彼が首にかけていた自前のカメラの紐が切れて床に転がってしまう。
そして二人のチンピラ達は、それぞれ娘を撃たれて怒りに駆られる紡と、緑と亜実を取り押さえて強引に外に引きずり出す。
Mrフェイクは二人の子分が亜夢の家族を強引に家から引きずり出すのを視認すると、近くに転がっていた紡のカメラに気が付く。
Mrフェイクはそのカメラを拾っては、何かを閃いた素振りで先ほど自分が撃った大量出血する亜夢の全身を写真に収め始めた。
「ひひ……ヒヒっ」
亜夢の写真をカメラに収めながら、Mrフェイクは興奮していた。
同じ頃、辺里家でも。
「な、何をするんだ……うわっ」
家に押し込んできた雇用されたチンピラ達に辺里唯世が襲撃されていた。
そして、その騒ぎを聞き付け、集まって来た他の家族。唯世の祖母に母親の瑞恵と父親の唯も拘束されてしまう。
そして日奈森家同様、大型車に無理やり乗せられて何処かへ連れて行かれてしまう。
更に月詠家でも同様の事案が発生していた。
ようやく星名一臣の呪縛から逃れられた月詠一家三人を、Mrフェイクの息がかかったチンピラ達が強引に拉致していた。
だが、その魔の手は日奈森家や辺里家、そして月詠家だけでは無かった。
今や倒産したイースター社の元専務だった星名一臣と、元会長でありようやく普通の少年として生きられる道を得られた一之宮ひかるも同様に拉致されていた。
果たしてMrフェイクは何を企んでいるのだろうか。
日奈森一家を始めとする【しゅごキャラ!】メインキャラ達の拉致事件が発生したその晩。
とある総合病院の一室に、医師が患者を診ていた。
「……我々が成すべき事は全てやり尽くした。後は彼女の意志と生命力に賭けるしかない」
医師が診察しているのは、病室のベットに横たわる日奈森亜夢であった。
彼女は銃声を聴き付けた近所の者の通報から、即座に病院へと搬送された。
しかし傍観者効果による通報の遅れから、傷口から大量の出血した為に意識不明の重体に陥っていた。
傷口も塞がり、輸血などの処置も終えた亜夢であったが、未だに彼女の目は覚めない。
そんな昏睡状態の彼女をベットに寝かせ、医師達は病室から出て行った。
するとその病室の窓から、一人の者が病室に侵入した。
それは他でもない、ジャッジ・ザ・デーモンであった。彼は宿敵Mrフェイクの凶弾に倒れた亜夢を気にして、来訪したのだった。
一人、病室のベットに横たわる意識無き亜夢の姿を見て、ジャッジ・ザ・デーモンは痛感させられた。
己の無力さ、愛する二次元人を護れなかったという現実、そして何よりも治療を受ければ完治していずれ元通りの友好関係を取り戻せると信じようとしていたジャクソンことMrフェイクの凶行に、ジャッジ・ザ・デーモンは途方もない絶望感と吐き出す事の出来ない怒りを覚えた。
ジャッジ・ザ・デーモンはベットに横たわる亜夢を見据えて意識を失った彼女に問い掛けた。
「亜夢……お前はこんな形で終わるキャラクターじゃない筈だ。今は傷を癒す為にゆっくり眠るがいい……だが、お前を家族として、友として待ち侘びている者たちの為にも必ず生き延びるんだ。家族や友の事は心配するな、俺が必ずMrフェイクの……奴が仕掛けた悲劇を終わらせてやる」
そう亜夢に言い残すと、ジャッジ・ザ・デーモンは入って来たのと同じ病室の窓から抜け出して、Mrフェイクに誘拐された者たちの捜索を開始した。
[狂え!]
その頃、そこはアニメタウン郊外に置き去りにされた廃墟と化した遊園地跡。
その遊園地こそ、Mrフェイクが隠れ家にしている廃墟であり、同時に多くのキャラ達が監禁されている場所だった。
キャラ達はそれぞれ、男女に分けられて監禁されていた。
幾斗や唯世、そして亜夢の父親に星名一臣や一之宮ひかるは、服をひん剥かれて裸体の状態で檻の中に閉じ込められていた。
自分達を襲った悲劇、そして亜夢の父親から語られた亜夢への銃撃を聞いて、幾斗達は愕然としていた。
するとその時、彼らを監禁する檻が設けられた部屋に一人の屈強な体格の男が入って来た。
「出ろ!」
男は暴力的な言動で、裸体の彼らに足枷と手枷、そして連なって繋がっている鎖を嵌めさせると彼らを部屋から連れて行く。
そして今や潰れた遊園地の屋外ショーの劇場に彼らは連れて来られたが、同時に連れて来られた女性陣と鉢合わせした。
「緑!」「あなた……!」
なんと女性たちの方も、惨たらしく服を引き裂かれ、強制的に裸にさせられた上で同じ様に鎖で一人一人が繋がっている状態だった。
そんな裸体の男女たちを、客席に強引に座らせるMrフェイクの手下たち。
すると劇場の端から、Mrフェイクが登場してきた。
「グッドナイト! 皆さん、よく休まれましたか?」
「Mrフェイク!」
「この野郎……よくも、よくも娘を……!」
Mrフェイクの登場に怒りを露わにする幾斗や紡たち。そんな彼らにMrフェイクは語った。
「ふふふふ、そう怒らない。ボクらは君たちに現実と言う教養を与えたいだけなんだ」
「教養だと?」
Mrフェイクの発言に星名一臣が反応する。
「そうさ! 夢を、野心を叶える為に×たまを集めようとした意地汚い大人たち……そんな大人に教育されて互いに罵り合うようになった可哀想な子供たち……ボクらはそんな君たちを救いたいのさ!」
「何を言っているんだ、狂人め……亜夢を撃っただけでなく、私の家族になんて惨い仕打ちを……!」
「ふふふ、日奈森紡。君は根底の原因を理解してないようだね」
「?!」
「ボクらが何故、日奈森亜夢を撃ったのか……それは彼女が、この醜い連中を繋ぎ合わせる結束の象徴みたいな存在だったからさ」
「象徴、だと……?」
「イエス! そうさっ、互いに非難し合う月詠家と辺里家……かつてのイースター社繁栄と言う野心の元、暗躍していた星名一臣と彼によって厳しい教育をされた故に心を失った一之宮ひかる……そして双方を極端に罵り合った幾斗Boyと唯世Boyの二人。その一族に現実と言う教養を与える事で、再び彼らを……そして君ら日奈森家を狂気と言う快楽に導こうとボクらは思い立った訳さ!」
Mrフェイクは紡に、イースター社とガーディアンの一件に絡んでいたキャラ達い現実と言う教養を与え、その中心に常にいた日奈森亜夢の家族を狂気へ導こうと支離滅裂な言動を語った。
すると、このMrフェイクの言動を聴いて、星名一臣と一之宮ひかるは反論した。
「も、もう私達が指揮していたイースター社は壊滅したんだ! もうこれ以上の罰を受ける意味は、我々にはない……!」
「僕や……僕が犯した数々の行いに絡んだ人達を巻き込んで、あなたは何をしようというのですか!?」
と、一臣とひかるが反論していたその時。彼らが集められた観客席の背後から、一臣やひかるに物を投げ付けてきた人々が。
頭に物を投げ付けられて、一臣とひかるが後ろを振り返ると其処にはMrフェイクの手下たちが集結していた。
「そうそう、君たち二人が暗躍していた数々の罪状のせいでイースター社は破産に追い込まれた……そして多くの社員を路頭に迷わせた。彼らはそんな、哀れなイースター社の元社員達だよ」
なんとMrフェイクの手下の多くは、イースター社倒産によって行き場を失くした元社員達だった。
元社員達は、会社を倒産に追い込んだ要因を作り出した自分達の元上役の一臣とひかるに怒りの矛先を向けた。
「このクソジジイとクソガキのせいで、俺達は職を失ったんだ!」
「まさか、こんな子供が会長として会社を牛耳っていたとは……!」
「生かして帰さねえぞ……!!」
チンピラ同然と成り果てた元社員達は、武器を手にして一臣とひかるに近付き殴り掛かった。
「このヤロッ」
元社員の攻撃を顔面に受けて倒れ込むひかる。続いて一臣も殴られ、地面に寝転がる様に倒れる。
そして一人の元社員が、一臣とひかるに怒りの鉄槌を下そうと迫った。
「テメェらのせいで、俺は……!」
殺意をむき出しにして迫ってくる元社員を前に、一臣とひかるは恐怖で顔を引き攣らせた。
と、その元社員が一臣とひかるを殺めようと鈍器を振り翳したその瞬間、一発の銃声が辺りに響いた。
なんとMrフェイクが、一臣とひかるを殺めようとした元社員を射殺したのだ。
頭部に銃弾を受けて絶命する元社員を前に、愕然とする一同。
するとMrフェイクは拳銃を懐に仕舞い込むと、目前の手下たちに言い渡した。
「君たち! せっかくのスペシャルゲストを殺すのは勿体ないよ! この二人はもちろん、他の人々も家畜同然に扱って狂わせるんだからさ!」
Mrフェイクの言動と発砲に、手下達は何も言い返せず命令を無視する事はできなかった。
「オレ達を狂わせる……だと?」
Mrフェイクの発言に幾斗が問い詰めると、Mrフェイクは喜々とした表情で返答した。
「そうさ、イクトくん! 君らの様に醜い衝突ばかり繰り返していたキャラクターは、いっそのこと狂った方が面白みが倍増するってもんさっ」
このMrフェイクの言動に、決して服従はしない性分の辺里唯世が突っぱねた。
「僕たちが簡単に狂わされると思っているのか!」
すると、この上から目線の唯世の発言にMrフェイクは言い返した。
「おやおや、服従は嫌いで支配欲満々のワガママな唯世くん。君たち過去にいざこさを起こして、絆と言う繋がりにヒビが入っている連中を狂わせるのは実に簡単な事だよ」
唯世の性分を非難しながら狂人に仕立て上げるのは簡単だと説くMrフェイクは、怪しい笑みを顔に浮かべて目の前の面々に宣告した。
「人が狂うのなんて……ちっぽけな切っ掛けだけで十分なんだよ」
どんな人間も、小さな切っ掛けだけで簡単に精神を崩壊して狂ってしまうと説くMrフェイクの言葉に、誘拐されたキャラ達は誰もが蒼然とした。
と、Mrフェイクの話を淡々と聞かされ続ける一人、日奈森紡が一瞬の隙を衝いて目の前に転がっていた空き瓶を掴んでMrフェイクに投げ付ける。
しかしMrフェイクは舞台の床から一枚のパネル板を足で器用に起こして空き瓶を防いでしまう。そしてそのパネルにはジャッジ・ザ・デーモンの絵が描かれていた。
「ふふふふ、これがボクの最終ターゲット。君らも良く知っているジャッジ・ザ・デーモン……君たちと同じく、異常な輩さ」
「な、何をふざけた事を! そんな……指名手配されている連続殺人鬼と一緒にしないで頂戴!」
「はははは、流石はヒステリークイーンの辺里瑞恵。だけどボクから見れば、君らもジャッジ・ザ・デーモンも平和的な普通の存在じゃない。相手を威圧する傲慢な態度、見下す言動……そんな相手を蔑視する君らの存在は、ジャッジ・ザ・デーモンと同様、正気の沙汰じゃない」
すると此処でMrフェイクは指を鳴らして、手下である元イースター社社員の者たちに目前の裸体にひん剥いた面々を押さえ付けさせる。
更にMrフェイクは手下に自らが作曲した陽気なメロディーを流しながら、喜々と歌い始めようとする。
「ははははっ、さぁってと……ここで哀れな罪人、陰湿で数多くの過ちを犯してきた君ら二次元人にボクから素敵な歌をプレゼント!」
そう言うと、Mrフェイクは皆の目の前で陽気なメロディーとダンスで歌い出した。
「君らはハッピー? 違うのかい。ボクちゃんはハッピー? 君も違う。なんでそんなに悲しむの? 悲しい
するとMrフェイクが予め用意しておいた映像投影スクリーンが作動し、彼が歌う舞台の真正面、更に幾斗たちの周囲に映像が展開された。
その映像とは、他でもないMrフェイクが紡のカメラで撮影した血の海に倒れる日奈森亜夢の惨状だった。
「亜夢? 亜夢……! ……亜夢ゥーー!!」
愛娘の惨たらしい情景を自分のカメラで撮影され、それを忘れられない形で公にされた父親の紡は深く絶望した。
[自分とそっくり]
「イエス! どうだい? ボクからの最高のエンターテイナーショーは!?」
日奈森亜夢の惨状を公開した歌劇を披露し、皆々に声をかけるMrフェイク。
しかしイクト達は大切な亜夢の惨状を目に焼き付けられ、酷く放心状態に陥っていた。
そんな放心状態のキャラ達を前に、Mrフェイクは心ここに非ず状態の皆々に説き掛ける。
「おやおや、君たち。そんなに落ち込んでいる暇はないよ。君らはまだまだ、これから昔の様な陰湿なキャラに戻っていかなきゃならないんだ。これぐらいの悲劇でしょげ返ってる余裕はないよ」
そんなMrフェイクの声にひかる達が反応し、顔を向けるとMrフェイクは不満げな顔つきで語った。
「君たちは日奈森亜夢によって偽りの絆を……幸せを、今の姿に変えられた。それをボクが元通りの姿に戻してあげるんだ。嘘偽りが得意なボクが正しい姿に戻してあげるなんて滅多にない善行なんだから、身をもって改心してよね」
それでも放心状態が続く皆々、そんな彼らにMrフェイクは最後に衝撃的な発言を告げた。
「君たち過去に汚いいさかいや争い、敵対心を秘めたキャラは最後まで醜くなけりゃいけない………………このボクの家系と同じくね」
自らの家計と同じく醜いままでいなければならないと説くMrフェイクの発言に、放心状態だった皆々は驚愕した。
するとMrフェイクはそのまま自分の過去を語り始めた。
Mrフェイクにとって月詠家や辺里家、そして星名や一之宮の過去は自分の幼少期と酷似していた。
数多くの功績を戦場で挙げてきたグレイシス家、その男子として産まれたジャクソンは将来有望な軍人に成長できるよう徹底した教育をされてきた。
それは幼い頃から常識外れの虐待紛れの教育を施され、自分の好きなヒーローの玩具やグッズも親たちに見つかればスグに目の前で焼却されるほど徹底した厳しい教育。
自由のない、先の見えない教育にジャクソンは知らないうちに精神を病んでいき、次第にもう一つの人格「フェイクス」なる自分を構成する。このフェイクスこそ後のMrフェイクの人格だった。
さらに白人主義者だった身内から、黒人などの有色人種を敵視する様な教育も施されたジャクソンは友達も作ることも禁じられた。
泣こうが喚こうが、厳しい教育は留まる事を知らず、遂には「軍人たるもの泣くことを禁ずる」という、幼少の子供にとって惨たらしい禁則事項を付け加えられてしまう。
こうして自分の愛するヒーローものも、子供として唯一自由な泣く行為も禁じられたジャクソンは、唯一の友であるフェイクスと密かに交流を続けたという。
そんな幼少期は、まるで厳しい幼少期を過ごした一之宮ひかるや、イクトを敵対するよう教育させられた辺里唯世と酷似していた。
自分の幼少期が【しゅごキャラ!】のキャラ達と酷似している点が余りにも多すぎる事実から、Mrフェイクは彼らに羨望の念を抱いていたのだ。
「……君たちは今のように、偽りの幸せで満たされちゃダメなんだ。ボクの様に全てから見放され、現実という悲劇で狂わなきゃ生きている意味がない」
亜夢によって改心され、今の様に幸せに満ちた生活は偽りであり、悲劇に苛まれて狂気に駆られる事こそ意味があると説くMrフェイク。
するとMrフェイクは、自分の幼少期に酷似していたひかるや唯世に話し掛ける。
「君たちは昔の様に友達を作る必要はないんだ……ひかるBoyは泣くことも、友達を作ることも無く……唯世BoyはイクトBoyを始め、多くを敵視する、それこそ王様の様に孤独な人生を歩めば、それで良いんだよ」
狂気染みた戯言を吐き掛けるMrフェイクは、ひかるや唯世に昔の様に戻る事を勧める。
しかし、そんなMrフェイクの戯言を聞き続けて、ひかるや唯世の中にある光は一層強くなった。
「……偽りだろうが……あなたみたいに狂ったりはしない!」
「そうだ……! 昔はどうあれ、此処にいるみんなは亜夢のおかげで救われたんだ! 亜夢のためにも、また昔の様に戻る訳にはいかない!」
「その亜夢ちゃんは、今やボクの凶弾を受けて死んじゃったけど?」
Mrフェイクから亜夢が死んだと不確定情報を教え込まれる一同は、一様に言葉を失った。
そしてMrフェイクは指を鳴らすと、彼の配下である元イースター社社員の男達がイクト達を連れていく。
その中で亜夢の父親、日奈森紡は自分は元より自身の家族や愛娘の亜夢を襲った悲劇に対して、次第に精神が侵されている事を実感してなかった。
Mrフェイクが【しゅごキャラ!】のキャラ達を誘拐して、狂気に駆り立てる様に洗脳していた頃。
ジャッジ・ザ・デーモンはイクト達の捜索を続けていた。
街の悪漢共を叩きのめし、僅かな情報でも良いから掴もうと必死に捜索を続けた。
少しでもMrフェイクの情報を、そしてイクトや唯世、ひかる達の目撃情報を掴もうと必死になるジャッジ・ザ・デーモン。
そんな状況下でも、ジャッジ・ザ・デーモンは病院に搬送されて生死の境を彷徨う亜夢の容態を見守る事を忘れてはなかった。
ジャッジ・ザ・デーモンがMrフェイクやイクト達の行方を追い続けて、一週間が経とうとしていた。
[狂い出す父親]
Mrフェイクに誘拐されて、拷問の数々を受けていた【しゅごキャラ!】の面々。
そんな中で、愛娘を撃たれ、絶望のドン底に叩き落された日奈森紡の心境に変化が表れ始めた。
「……ボクを恨んでいるかい? 娘を撃った、このボクを……」
「………………」
「だけど、恨むのは少し筋違いだよ。彼女を撃ったのは、あの子がイクトBoyや唯世Boy、そしてひかるBoy達を変えてしまったからだ」
「……」
「つまり、彼女が撃たれたのは……亜夢ちゃんの人生に深く関与する様になった少年少女、そしてその周りの大人達が根本の原因なんだよ。彼らが関与していなけりゃ、ボクは亜夢ちゃんを撃つ事は無かった」
「………………!」
「よぉく考えてちょうだい。娘が撃たれなければならなくなったその理由を……しゅごキャラに、そしてイースター社との争いに巻き込まれなきゃ、彼女が無慈悲にそして理不尽に撃たれる事は無かった」
「……イースター社……辺里唯世……一之宮ひかる……月詠歌唄、イクト……!」
Mrフェイクの声を聴き、紡の中で何かが壊れ始めた。
そしてある晩。Mrフェイクは一之宮ひかる/辺里唯世/月詠歌唄/月詠イクトの4名を遊園地の迷路に押し込んだ。
彼らを押し込むと、部下達は迷路の出入り口を完全に封鎖してから中に押し込んだ4人にMrフェイクはマイクで告げた。
「さあ! 今宵は趣向を変えて、君らの過去の大罪が一人の真人間を苦しめた現実を君たちに教えてあげよう! 迷路の先に待ち受けるのは、狂気か死か。果たして何方なのでしょうか!?」
喜々と演説するMrフェイクの声に、苛立ちを覚えるイクト達であったが、迷路を抜け出る為にやむを得ず突き進むしかなかった。
そんな彼らをMrフェイクと大人組の面々はカメラ越しでモニター画面を凝視していると、余裕満々で楽しむ様子のMrフェイクに後ろから日奈森緑が問い詰める。
「あ、あなた! ウチの人を……パパをどうしたの?」
「パパはどこ!?」
緑に続いて次女である日奈森亜実も訴えると、Mrフェイクはそんな困惑する居残り組に愉快そうに答えた。
「うふふふ。まあまあ、もうすぐパパはビッグな登場で君らを驚かせるから。楽しみに待っててよ」
Mrフェイクは不敵な笑みを浮かべた。
その一方で、迷路を突き進むイクト達。彼らは長期に渡り、電気ショックや鞭で痛め付けられた身体を引きずる様に迷路を進んでいた。
そんな4人を追走する様に、手にショットガンを持った男も迷路を進んでいる事に、イクト達は気付いていなかった。
やがて男は4人の背後から静かに、そして怪しく接近しつつショットガンを構えた。
と、その時。「危ないッ」背後から迫る殺気に気付いて、イクトが他の3人を押しのけた瞬間、ショットガンが火を噴いてたおれ込む4人の頭上を散弾が飛来した。
そして無数の散弾が頭の上を飛び越えた瞬間、一気に血の気が引いた4人が後ろを振り返ると、そこにはショットガンを撃ち込んだ男が異様な形相で立ち尽くしていた。
「お……小父さん!?」
なんとショットガンを撃ち、イクト達4人を狙ったのは日奈森紡本人だった。
すると紡はショットガンに弾を装填すると、4人を前に静かに語り始めた。
「お前達の……お前達のいざこさのせいで、亜夢は……娘は……!」
怒りの形相で呟く紡は、再びショットガンを構えて4人に向けて散弾を発砲しようと銃を向ける。
「お、小父さん……!」
「今は何を言っても意味がない! とにかく逃げよう!」
正気を失った紡を前に、説得しようと試みる唯世にイクトは逃げるよう言うと、4人は一斉に駆け出した。
そんな4人にショットガンを連射する紡の放った銃弾は、壁に着弾するだけで幸いにも4人に直撃することは無かった。
一方の監視部屋では。突如として現れた紡のショットガン連射に、Mrフェイクは満足気に微笑み、他の一同は愕然としてしまう。
そんな一同の中で、紡の妻である緑がMrフェイクに迫った。
「あなた! うちの旦那に何やったの!?」
するとMrフェイクは不敵な笑みで返答した。
「ボクはただ、彼に現実を教え解いただけさ。自分の娘が撃たれなきゃならなくなった要因を……その原因が、彼女の運命を狂わせた同世代の少年少女だったと手解きしたまでですよ。彼は今、本当に娘を死に追いやった元凶たる4人を制裁しようと怒りの銃口を向けているんですよ」
このMrフェイクの話を聞いて、緑だけでなく4人の身内である大人たちも愕然とした。
その頃、迷路内では。
幾度となくショットガンを連射して、4人を亡き者にしようとする紡の凶弾を必死にかわし続けるイクト達。
しかし紡が武器として使用していたショットガンが遂に弾切れしてしまい、紡は不満そうにショットガンを脇道に捨てた。
すると紡の目に入ってきたのは、前もってMrフェイクが用意しておいた壁にかかっている鉄製の斧だった。
紡は壁にかかっている斧を手に取ると、再びイクト達を追い始めた。
一方のイクト達4人は、今自分たちに降りかかっている理不尽な状況に、時おり仲間割れする事態に発展してしまうが、そこにカメラで監視しているMrフェイクが狂言を吐き散らす。
「そうだ! その調子だ! 昔の様に互いを罵り合え! 敵視しろ! そして最後には狂ってしまえ!!」
そんなMrフェイクの狂言を聞いて、4人はようやく仲間割れを止めた。
「何をしている!? もっと罵れ! 争え! いがみ合え! それこそ君らの本当の姿……!」
Mrフェイクの狂言を聞いて、4人は亜夢のことを思い出していた。自分達の間に入って、共に親睦を深め、最後には改心させてくれた亜夢の思いを裏切る訳にはいかない。そう思った4人は最後までMrフェイクが仕掛ける狂気へ抵抗する決意を固めた。
と、4人が決意を固めていたその時。なんと完全に狂ってしまった紡が斧で迷路の壁を突き破って、強引にイクト達に迫ってきた。
そして4人を前にした紡は、彼らを殺めようと斧を頭上に振り上げた瞬間、友を守ろうとイクトが間に割り込んだ。
するとイクトに悲劇が。紡が振り下ろした斧がイクトの右腕に直撃。イクトの右腕を切断してしまった。
「うああ……ッ!」「イクト!」
切断された右腕の断面から夥しい量の血を噴き出して絶句するイクトを前に、唯世がイクトの名を叫ぶ。
イクトの右腕から大量出血を目の前にした、監視部屋の大人たちや亜実も蒼然としてしまう。
しかしイクトの右腕を切断した紡は、完全に狂っているのか口から唾液を零して言う。
「ウヒヒ……娘も……亜夢も……ヒヒっ」
完全に正気を失った紡は、再度イクト達を斧で攻撃しようと襲い掛かる。
その紡の攻撃を、イクトは右腕の痛みを堪えながら皆と共に駆け出して、その場から逃げ出す。
しかし正気を失った紡は、イクト達4人を追走しながら斧を振り回す。
Mrフェイクの手によって娘を傷つけられ、正気を失った紡。
その紡に命を狙われ、襲われて逃げるしかできないイクト達4人。
その情景を監視カメラで傍観するMrフェイクは満足に笑み、彼の後ろで襲う紡と襲われるイクト達を目撃して愕然とする大人たち。
しかし、まだMrフェイクは満足していない。
何故なら子供達はまだ正気を失っていなかったからだ。
[現れるジャクソン]
必死に正気を失った紡から逃げるイクト達4人。
その中でもイクトは、右腕を切り落とされ、その断面から出血しながらも妹の歌唄や友である唯世やひかるを庇いながら疾走する。
しかし彼らが疾走している迷路は複雑に入り組んでおり、簡単に脱出する事は困難だった。
そして遂にイクト達は行き止まりに追い込まれてしまう。
「そんな!」
逃げ道を失い、絶望の声を上げる歌唄。
そんな4人の元に狂った日奈森紡が追ってきていた。
イクト達4人は逃げ場を失い、途方に暮れ、絶望感に苛まれた。
と、その時。4人が辿り着いてしまった行き止まりの壁が反転して、4人は壁の向こう側へと入ってしまった。
其処に紡が到着して、姿の消えた4人を探し回った。
一方の4人は、壁が反転した事で向こう側に行き付いていると、其処は偶然にも。いやMrフェイクの計算通り、彼が他の人質たちと共に滞在していた監視部屋だった。
Mrフェイクは自分達が見届けていた部屋に辿り着いた4人を前に喜々と喋り始めた。
「いやあ、よくぞ逃げ切れたね。ボクの計算通りだ……あの狂人と成り果てた日奈森紡から逃げられるとは……」
イクト達が室内の大人達の方に目を向けてみると、そこには夫である紡が気がふれてしまった事実に嘆く緑の姿があった。
「でも、まだまだだよ……! 君らはまだ狂ってはいない……もっと、もっと狂ってもらわないと」
このMrフェイクの狂言に、イクトが右腕の痛みを押し殺しながら反論した。
「黙れ、この狂人が……! 俺達はあんたの思惑通り、狂ったりはしない……昔の様に互いを忌み嫌ったりはしない。それこそ、亜夢に……亜夢の想いを裏切る事になる」
しかし、このイクトの発言にMrフェイクは怒り狂い、腰に携えていた棘付きの鞭を彼に打ちつけた。
「そうじゃないでしょ! その言葉を発して良いのは、自分を敵視している唯世か利用しているひかるにだけでしょうがッ! そこが間違っているんだっての!!」
何度も何度もイクトに鞭を打ち付け、辺りに血肉を弾け飛ばすMrフェイクの凶行に妹の歌唄が兄を庇う。
「や、やめて! これ以上やったら死んじゃう!」
しかしMrフェイクはその歌唄にも狂気の矛先を向けた。
「ウルサイ! お前たち兄妹は、一臣やひかるBoyと同じく陰湿な嫌われ者で居続ければ良いんだよッ!」
イクトと歌唄の兄妹にも鞭を振りつけるMrフェイク。するとそんなMrフェイクに唯世とひかるが飛び掛かって押さえ付ける。
「な、何をする!? 君らにとっては邪魔者のイクトやその妹の歌唄を痛め付けてあげているんだよ? 君らには関係ないじゃないか!」
「ち、違う……確かに、イクトとは過去に色々あったし、今でも亜夢を巡って対立する恋のライバルだ! でも、それとこれとは関係ない! 今は掛け替えのない友達だ!」
「僕もそうだ……Mrフェイク、あなたの言うとおり確かに僕らはエンブリオを巡って過去に数多くの争いや衝突を繰り返してきた大罪人かもしれない……だからこそ! 僕らは未来を、前を向いて生きていかなきゃいけないんだ!」
自分の足に纏わりつく唯世やひかるの言動を聞いて、Mrフェイクは焦燥してしまった。
そして焦ってしまったMrフェイクは、自分の足に纏わりつく唯世やひかる達にも鞭を振り付けて強引に引き離す。
「なんで笑わない! なんで狂わない! ……なんで変わろうとしないんだ!!」
狂気の笑みを顔に浮かべ、狂気に支配され、最終的には全てが変わろうとしない少年少女達を間近で見て、Mrフェイクは怒りの鞭を何度もイクト達に浴びせる。
その度に裸体である彼らの身体は鞭の痕で血肉が剥ぎ取られ、その剥がれた血肉が床や壁に付着していく惨状が目の前に広がる。そんな惨状を前にして、大人達は自分の子供達が、身内が痛め付けられていく様を目の当たりにして蒼然と蒼褪める。
そして少年少女達を棘付きの鞭で痛め付けたMrフェイクは、息を切らしながら床の上でのた打ち回るイクト達に告げた。
「なんで君らは変わろうとはしない……なんで昔の様に醜く争い合わない……なんで僕の家族の様にならない!!」
目を血走らせて説き伏せるMrフェイクの言動に、全身を鞭で打たれたイクトが言葉を返す。
「あんたは……あんたは、何をそんなに怖れている……」
「なに?!」
「あんたは何をそんなに怖れている。あんたの家族、身内と瓜二つだった俺ら【しゅごキャラ!】のキャラクターに憎悪を向けるのは好きにしろ……だが、自分の思惑通りに事が運ばないのに喘ぐあんたは、タダの駄々っ子だ」
全身を鞭で痛め付けられたイクトの鋭い指摘にMrフェイクの動きが一時ばかり止まる。
しかしMrフェイクはすぐに狂笑をあげると、イクトに告げた。
「ふふ、ふははは……! いやはや、まさか君みたいなのがボクに説教を言うとは、偉く出世したね」
するとMrフェイクは自分が被っているアイマスクを外して素顔の状態で更に宣言した。
「このMrフェイクが……いいや、フェイクスと僕の饗宴に未だ精神を保っているとは……もしかしたら、君達はもう充分に異常者なのかもしれないね」
この台詞を聞いたイクト達、そして大人達は一瞬で驚愕の事実を察した。
「アンタ、まさか………………ジャクソン?」
イクトから告げられた一言に、Mrフェイクいいやジャクソン・グレイシスはその場の皆に告げた。
「そうさ、僕は正真正銘のジャクソン・グレイシスさ。一之宮ひかるの様に狂った英才教育を受けて、周りを敵視したり見下したりする様に育まれた辺里唯世の様に育ち、不憫な月詠兄妹の様に幼少を過ごしたジャクソン・グレイシスさ! 君達は僕の人格が完全に消えていたとでも本気で思っていたのかい?」
消滅していたと思われていたジャクソン・グレイシスの人格が活きていた事実を語り明かされたイクト達は、衝撃のあまり言葉を失ってしまう。
「そんな……人格は、すっかりMrフェイクの人格に取り込まれていたんじゃ!?」
唯世が愕然と言葉を発すると、ジャクソンは彼らに鞭を床に叩き付けて威圧しながら唱えた。
「ははっ、違う違う! 僕はフェイクスとビジネスパートナーとして受け入れただけさ! 漫画やアニメを遠ざけ様とする家族との決別、そしてこの狂った二次元界で至高のエンターテイナーを作り出す為にフェイクスと手を組んでいただけなのさ!」
「あなたは……あなたは今までMrフェイクとつるんでいた訳?」
歌唄がジャクソンに問い掛けると、彼は喜々とした笑顔で答えた。
「ハハッ、そうさ。僕は敢えてフェイクスと……Mrフェイクと結託して最高のエンターテイメントを作り続けようと決めていたのさ。そして君達を昔の様に狂うほどに可笑しく、更に狂人に仕立て上げようと試みている訳さ」
なんという事か。ジャクソン・グレイシスの人格は消失していた訳ではなく、常にMrフェイクの人格と入れ替わっていただけだった。
そしてお互いに狂人へと成り果てたジャクソンとMrフェイクの人格は、自分達の真意をイクト達に告げながら再び彼らを鞭で痛め付け出した。
「ハハッ、ボクが治るとでも本気で思っているのかい?」
「ぎゃあっ」
「フェイクスが死んでも僕は生き残る。そんでもって、僕が生きている間にまたフェイクスが甦る……僕らは表裏一体、どちらか一方だけが消える事はないんだよ!」
「うぎゃあ……ッ」
双方どちらかの人格が消失しても、Mrフェイクの人格は残り続けると唱えるジャクソン・グレイシスに痛め付けられ、唯世やイクト達は絶叫を上げる。
そしてMrフェイクは徹底的に痛め付けたイクト達を見下ろすと、彼らに告げた。
「そもそも、君らは何も分かっていない! 成りたいものに……夢を叶えられると思えるのは子供時代だけなんだ! 大人になればなるほど、理不尽という名の現実に叩き付けられ、夢は遠く、そして叶えるのが困難なものへと変わっていく物なんだ!」
Mrフェイクに全身を痛め付けられたイクト達4人は、全身を走る激痛で絶句していた。
「ほぉら、辺里唯世。君は誰かを支配したり、服従させたりするのが夢なんだろ? だけどね、大人になれば嫌な奴の命令も聞かなきゃならないほど現実は理不尽なものなんだ。例えば……」
すると此処でMrフェイクは床に横たわる唯世の目の前に自身の足を添えると、唯世に命令する。
「ほれ、靴をなめろ。酷な命令だろ? だけど、大人になるって……成長するって事は、酷な命令に従わなきゃならないって事なんだよ」
不敵な笑みを浮かべて唯世に命令するMrフェイク。
これに唯世はMrフェイクに一睨みするが、睨まれた瞬間振り上げられた鞭を見て、唯世は恐怖のあまり涙をのんでMrフェイクの靴を言われるがままに舐めた。
すると唯世が靴を舐めた瞬間、Mrフェイクは靴を舐める唯世の顔を蹴り飛ばした。
「汚ねぇんだよ!」
顔面を思いっきり蹴り飛ばされた唯世は鼻から血を噴き出した。そんな彼にMrフェイクは言った。
「ほら、命令通りに言う事を聞いても理不尽にあしらわれる……それが現実ってもんなんだよ」
不敵な笑みで唯世を見下すMrフェイクの言葉に、唯世は悔しさと恐怖と自分の無力さを痛感して涙した。
続いてMrフェイクは鞭でのた打ち回るイクト達を前にし、ある物を一之宮ひかるの目の前に置いた。それはなんとひかるのしゅごたま、エンブリオだった。
「ほら、未だに生まれない君のしゅごたま……一臣や君が探し続けていたエンブリオ。君がなんの目標も、夢も希望もないから未だに生まれないエンブリオなんか大人にとっちゃ、何の価値もないんだよ」
するとMrフェイクはひかるの目の前で彼のしゅごたま、エンブリオを踏み付けて粉々に粉砕した。
「大人になるって事はね、夢を諦める事なんだよ」
自分のしゅごたまを、エンブリオを踏み付けられて粉砕されてしまう現状にひかるは放心してしまう。
そんな理不尽な現実を突き付けて、教え込んだ唯世やひかるにMrフェイクは一つの教えを説いた。
「でもね、本当に大人になっても成りたい自分になる方法があるんだよ。それはただ一つ……ボクの様に狂えば良いんだ」
大人になっても夢を叶えるには、自分の様に狂った狂人になればいいんだと説くMrフェイク。
と、その時だった。
イクト達が監視部屋に入り込んできた回転壁を、外側から何者かが斧で激しく破壊して打ち破ろうとしてきた。
そして回転戸は破壊され、外側から強引に入り込んできたのは、Mrフェイクの洗脳で完全に正気を失った裸体の日奈森紡だった。
紡は怒りの形相で、再びイクト達に斧を振り下ろそうと、斧を振り上げた。
「っ……!」
イクト達4人は裸体全身をMrフェイクの棘付き鞭で痛め付けられた為に逃げ出す余力も残っていなかった。
「あ、あなた止めて!」
妻の緑が切に訴えるものの、正気を失った紡にはその声は届かなかった。
そして紡が斧でイクト達4人を強襲しようと迫った、その瞬間。
「ストップ!」
なんとMrフェイクが迫りくる紡を制止しようとスタンガンを押し付けた。
「あ゛あ゛あ゛~~ッ!」
電撃を喰らって獣の様な咆哮を上げる紡は、そのまま後ろへと下がる。
そんな動物の様に退いた紡に、Mrフェイクは言葉巧みに話し掛けた。
「落ち着いて、落ち着いて、Mr紡。この4人は今し方、ボクが徹底的に痛め付けて調教したから。それよりも貴方には大事な役回りをしてもらいたい」
「ウゥ~~……」
「もうすぐ、此処にボクが呼んでおいた狂人がやって来る。あなたの娘、亜夢ちゃんを死地へと追いやったボク以上の狂人がやって来るんだ。あなたには、その狂人を迎え撃つという大切な役回りを担ってもらいたい」
「狂人ですって?」
獣の様に唸る紡を説得するMrフェイクの言葉に辺里瑞恵が反応すると、Mrフェイクは紡を抑え付けながら彼女に答えた。
「そうさ。もうすぐ此処に、君らを助け出そうと哀れな狂人がやって来る。ボク以上に狂ってしまった悲しい狂人……いや、鬼がね」
そういうMrフェイクの顔は、不気味に笑んでいた。
[鬼の登場]
イクト達【しゅごキャラ!】のキャラ達がMrフェイクによって誘拐されて行方知れずになってから早一週間。
ジャッジ・ザ・デーモンは執拗に、そして決して諦めずMrフェイクとイクト達の行方を追っていた。
そんなある晩、ジャッジ・ザ・デーモンは聖龍HEADからの密通に誘われ、彼らの元を密かに訪れた。
HEADの元に馳せ参じたジャッジ・ザ・デーモンに手渡されたのは、今や潰れた遊園地への招待状だった。そしてその招待状をHEADに送り付けたのは、他でもないMrフェイクであった。
ジャッジ・ザ・デーモンは、この招待状は間違いなくMrフェイクからの挑戦状だと認識。単独で遊園地に向かう事を決めた。
「オレ達も加勢しようか?」
聖龍隊副長バーンズが自分たちHEADも加勢しようかとジャッジ・ザ・デーモンに問い掛けると、一言返された。
「大丈夫だ」
ジャッジ・ザ・デーモンは、Mrフェイクの陰湿な罠に飛び込む危険な行為は自分一人だけで良いと判断し、仲間であるHEADの助成に応じなかった。
そしてジャッジ・ザ・デーモンは招待状に記載されている廃墟と化した遊園地へと足を向かわせた。
そして遊園地の廃墟。
到着したジャッジ・ザ・デーモンは遊園地の中を懐中電灯で照らして、Mrフェイクやイクト達の姿を探した。
するとMrフェイクや誘拐された面々を探していたジャッジ・ザ・デーモンに、物陰から銃撃が襲いかかった。
ジャッジ・ザ・デーモンは咄嗟に感じた殺気から、銃弾を回避すると物陰に隠れていたMrフェイクの手下達が襲い掛かってきた。
元イースター社の社員であり、今やMrフェイクの手下に成り下がっている連中を投げ飛ばして応戦するジャッジ・ザ・デーモン。
的確に手下達を投げ飛ばし、銃撃を回避していくジャッジ・ザ・デーモンは確実にMrフェイクの手下達を撃退させる。
と、ジャッジ・ザ・デーモンが続々と襲撃してくる手下達を相手にしながら遊園地の奥へと進行していくと、彼の前にMrフェイクの姿が現れた。
「やあ、デーモン、久しぶり。今宵は良い夜だと思わない?」
そう話し掛けてくるMrフェイクの傍らには、小さな檻の中に押し込められた裸にひん剥かれたイクト達の姿が飛び込んだ。
か弱き者を裸にひん剥き、そして檻に押し込めるMrフェイクの凶行にジャッジ・ザ・デーモンは怒り、Mrフェイクへと飛び掛かろうとした。
が、その矢先「うおおおおっ」とジャッジ・ザ・デーモンの真横から彼に襲い掛かる人影が。
ジャッジ・ザ・デーモンが目を向けてみると彼は驚いた。それはイクト達と同じくMrフェイクに誘拐された筈の日奈森亜夢の父親、紡だったからだ。
「日奈森紡!」
ジャッジ・ザ・デーモンが声を掛けるが、紡は錯乱状態で興奮しており、ジャッジ・ザ・デーモンの声が届かず、斧を振り回し迫って来た。
そんな狂乱状態に陥ってジャッジ・ザ・デーモンに襲い掛かる紡たちの情景を前にして、Mrフェイクは喜々と微笑んでいた。
「フフフフ、狂人同士で好きなだけ殺し合ってちょうだいな」
Mrフェイクの不敵な微笑に気付かないまま、紡はジャッジ・ザ・デーモンに襲い続ける。
「日奈森紡! 落ち着け、目を覚ませ!」
ジャッジ・ザ・デーモンは紡が何かによって錯乱状態に陥っている事に逸早く察し、紡を落ち着かせようと必死に彼に呼びかける。
「うおっ、うおおおっ」
だが紡は娘を傷付けられ、更に長期間Mrフェイクによって精神を汚され洗脳された事から完全に正気を失っていた。
ジャッジ・ザ・デーモンはそれでも紡に呼び掛けるものの、その間にも元イースター社の社員であったMrフェイクの手下達がジャッジ・ザ・デーモンに銃撃をお見舞いする。
銃撃を受けるジャッジ・ザ・デーモン。だが彼の装甲は防弾仕様になっていた為に銃弾は貫通せず、ジャッジ・ザ・デーモンは紡の攻撃を回避し続けられた。
しかし乱射する手下たちの銃撃は紡にも直撃しそうだった。
「危ないッ」
ジャッジ・ザ・デーモンは紡にも銃撃が当たらないよう、敢えて彼を押し倒す。そして銃撃してきた手下達にジャッジラングを投げ付ける。
ジャッジラングは手下達が使用している銃器に突き刺さり、爆発。爆発によって銃器は壊れ、手下達も爆発で吹き飛び、気絶した。
一方でジャッジ・ザ・デーモンは暴走する紡を宥め続けた。
「日奈森紡、どうしたんだ? Mrフェイクに何された?」
必死に紡に呼び掛けるジャッジ・ザ・デーモン。しかし紡はそれでも目の前のジャッジ・ザ・デーモンに攻撃を続ける。
「うおおっ」
そして紡は武器にしていた斧をジャッジ・ザ・デーモンに向けて投げ付けた。ジャッジ・ザ・デーモンは冷静に直立し、眼前に向かってくる斧を冷静沈着に両手で真剣白羽取りの要領で防いでみせる。
斧を防いだジャッジ・ザ・デーモン。すると紡は今度は素手でジャッジ・ザ・デーモンに殴り掛かってきた。
「日奈森紡! 目を覚ますんだ!」
ジャッジ・ザ・デーモンは紡の殴打を避けながら、彼を正気に戻そうと呼び掛け続ける。
そして紡の振り下ろす両手を掴んだジャッジ・ザ・デーモンは、紡の動きを止めて再度呼び掛けた。
「日奈森紡! 今のお前の姿を見れば、亜夢がどんなに悲しむか解るか!!」
「!! ………………ッ」
ジャッジ・ザ・デーモンの呼び掛けに、ようやく紡の目が覚めた。彼はMrフェイクに撃たれた愛娘の亜夢を思い出し、Mrフェイクに利用された悔しさと自分の無力さを痛感して涙した。
日奈森紡の意識を取り戻させたジャッジ・ザ・デーモンは、紡を気にしながら全ての元凶たるMrフェイクに足を向かわせた。
そしてMrフェイクに殴り掛かろうと飛び掛かったジャッジ・ザ・デーモンに、Mrフェイクは喜々とした笑みを浮かべて言葉を掛ける。
「ヒヒっ、やっと来たかい。けれど今回は駆け付けてくるのが、ちょっと遅かったんじゃないかな? ハハッ」
そう呟く様にジャッジ・ザ・デーモンに話したMrフェイクは、持っていたFの形を象ったステッキから硫酸を噴出させてジャッジ・ザ・デーモンの顔に酸を浴びせた。
「ッ!」
顔に硫酸を掛けられ、危うく顔を溶解しかけるジャッジ・ザ・デーモンは急いで鬼のマスクを外した。その間にMrフェイクは遊園地の奥へと逃げて行ってしまう。
マスクを外したジャッジ・ザ・デーモンは、素顔をイクト達に見られない様にと布製の覆面を取り出して、それを顔に被せてからイクト達が押し込められている檻へと歩み寄る。
覆面を被ったジャッジ・ザ・デーモンによって、檻の鍵を外してもらい、ようやく狭い檻の中から解放された面々は自分の裸体を隠す様に体を抱きしめる。
「あなた!」「パパ!」
そんな面々の中で、狂気に落ちてしまった紡を心配して妻の緑と次女の亜実が紡に駆け寄る。
ジャッジ・ザ・デーモンは遊園地の装飾に使用されている布を片っ端から掴むと、その布を裸にひん剥かれた被害者達に手渡してタオル代わりに使った。
手渡された布を身体に巻き付けるイクト達を視認し、ジャッジ・ザ・デーモンは最後に日奈森一家に布を手渡し、紡には自ら布を纏わせて落ち着かせる。
しかしジャッジ・ザ・デーモンの口から紡たち日奈森一家にかける言葉は出てこなかった。いや、出せなかった。長女を撃たれただけでなく、一家の大黒柱までも洗脳され狂暴化された現実にかける言葉が見当たらなかったからだ。
そんなジャッジ・ザ・デーモンの気遣いを察してか、正気を取り戻した紡は己の心境をジャッジ・ザ・デーモンの顔を見詰めて語り始めた。
「む、娘を、亜夢を撃たれて……Mrフェイクから自分の無力さを指摘され、痛感し……全ての元凶はイースター社の専務や会長だった星名や一之宮、そして亜夢の周りを取り巻く子供達だと説かれた私は……いつの間にか子供達に憎悪の矛先が向いてしまい、正気を保てなくなっていた」
「………………」
ジャッジ・ザ・デーモンに語り掛ける紡は、更に蒼然とした面持ちで語り続けた。
「大切な娘を、家族を護れなかったという現実が……亜夢を争いに巻き込んだイースター社や学園の友達という現実が、私を狂気へと駆り立てた。気が付くと私は、銃を手に取り、最終的には斧でイクト君の右腕を切り落とし……挙句の果てにはアンタを、もう一人の狂人だと説かれたジャッジ・ザ・デーモンにまで殺意を向けてしまってた。全てはイースター社との争い、そして亜夢を取り巻く現状と、あの子に起きた悲劇……そんな現実を直視できなかった自分の弱さが招いた狂気だ」
現実と悲劇、その二重性を巧みに利用したMrフェイクの策に溺れた自分の弱さを痛感する紡に、ジャッジ・ザ・デーモンはかける言葉が見付からなかった。
その一方で、ジャッジ・ザ・デーモンは右腕を失って未だに出血している月詠イクトの蒼褪めた症状に気付き、紡の肩を軽く叩いた直後にイクトに歩み寄り、彼の応急処置を施し始めた。
消毒スプレーを腕の切断面に吹き付け、止血する為にきつめに包帯を巻いて行くジャッジ・ザ・デーモンはイクトに言った。
「応急処置だが、これでしばらくは血も止まる筈だ」
そうイクトに言うと、ジャッジ・ザ・デーモンは背中越しで紡に説き始めた。
「日奈森紡よ。人は誰しも弱い。故に、星名一臣や一之宮ひかるが過去に過ちを……罪を犯してしまった。だが、こんな奴らでもお前の愛娘、亜夢によって己の過ちを認め、理解した日が訪れた。人は過ちを犯してしまう生き物、故に罰が必要だが……お前の様に己の過ちに気付き、正気を取り戻した輩なら、きっと更生できる日は早々に訪れるだろう」
「………………」
ジャッジ・ザ・デーモンの話を聞いて暗然とした表情を浮かべる紡に、ジャッジ・ザ・デーモンは更に語り掛けた。
「俺も産まれた時から異常だった。故に、罪人が如何に罰を必要としているのか……そして何よりも俺自身が鬼の姿に成り変わって罪人を罰しているのが、その証拠だ」
自らも異常な存在故に、罪人には罰が必要だと説くジャッジ・ザ・デーモン。
そしてジャッジ・ザ・デーモンはその場から離れる直前、イクトと唯世そしてひかる達に声を掛けた。
「イクト、唯世、ひかる……お前達は過去の過ちや醜い争いから足を洗った人間だ。皆の事は任した。俺は……Mrフェイクを追う」
そう言ってMrフェイクが逃げ去った遊園地の奥へと足を向かわせようとした。
するとそんなジャッジ・ザ・デーモンに紡が声を発して訴えた。
「ジャッジ・ザ・デーモン、待ってくれ! Mrフェイクは……ジャクソン・グレイシスは消えちゃいない! あいつは、いや、あいつ等はお互いに利害の一致を得て共存している人格同士なんだ! もうMrフェイクに、ジャクソン・グレイシスに正気はないんだ! だから……だからあいつ等を……!」
と、紡がそれ以上言おうとすると、ジャッジ・ザ・デーモンは紡に人差し指を立て向けて言った。
「それ以上は言うな、日奈森紡。お前の気持ちは痛いほど解る……だからそれ以上は、家族の前で言うな」
更にジャッジ・ザ・デーモンはその場の皆が聞こえる声量で事実を述べた。
「それともう一つ……日奈森亜夢は生きている」
Mrフェイクから死んだと聞かされていた亜夢が生存している事実を聞いて一驚する一同。
「まだ深い眠りに就いているが……必ず目を覚ますと、俺は信じている。
そう言い残すと、ジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクを追って遊園地の奥へと進行した。
「必ず……必ず、Mrフェイクを……亜夢の仇を……!」
日奈森紡は遊園地の奥へと進行するジャッジ・ザ・デーモンに訴え続けた。
そしてジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクを追って遊園地の最深部、漆黒の夜の闇へと姿を消した。
[本当の狂気]
日奈森一家に多くの【しゅごキャラ!】のキャラ達を救出したジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクを追って遊園地の奥、その闇の中を進んでいた。
遊園地を見渡してMrフェイクが逃げ込んだと思われる建物を捜索するジャッジ・ザ・デーモン。
すると彼の目に「あべこべハウス」と看板が立てられている建築物を発見する。
ジャッジ・ザ・デーモンは直感的にこの建物が怪しいと感じ、あべこべハウスの中へと入って行った。
上下逆に物や飾りが配置されている屋内を進んでいくと、灯りが点いている部屋が目に入り、ジャッジ・ザ・デーモンは部屋の中へと足を踏み入れた。
部屋に足を踏み入れると、そこは天井に台所やテーブルが設置された上下逆様に作られた食卓だった。
するとその部屋にジャッジ・ザ・デーモンが足を踏み入れると、屋内スピーカーからMrフェイクの声が聞こえてきた。
「ハハッ、デーモン。ボクが今回引き起こした悲劇は、彼らを……【しゅごキャラ!】の子達を元の喧嘩塗れの意地汚い子供に戻して、いくら真人間に化けても化けの皮が剥がれて、正気を保てなくする大実験だったんだよ。人と言うのは、必ず狂気に陥る心の闇を持っているものだからね。ボクや君が、いい例だろ?」
スピーカーを使って、屋内に自分の真意を放送するMrフェイクの言葉にジャッジ・ザ・デーモンは聞き入れながらも姿を探す。
するとその時、あべこべ部屋から出ようとするジャッジ・ザ・デーモンの前に、唐突にMrフェイクが現れ、石ころが詰まったぬいぐるみでジャッジ・ザ・デーモンを殴り付けた。
「ッ!」
Mrフェイクに殴打されたジャッジ・ザ・デーモンは体勢を崩してしまうが、Mrフェイクは今度は部屋の天井に設けられた逆様の台所に設置された小物を次々とジャッジ・ザ・デーモンに投げ付けながら問い掛ける。
「この世で起こってることの方が、ボクがやってることよりもよっぽど狂ってるよ」
更にMrフェイクは接着されているフライパンを引き剥がして、それでジャッジ・ザ・デーモンを殴り付けると彼に問い掛けた。
「今の理不尽な現代社会を生き抜こうとする人間の存在は薄っぺらい。そんな狂った世の中で理性を保とうとしている事こそ、本当に狂気なんじゃないのかい?」
過酷な現代社会を生き抜く人間の存在は意味が無い。狂った世の中で理性を保つことこそ、実は狂気なのだと説くMrフェイクの言論を聞き入れるジャッジ・ザ・デーモン。
しかしジャッジ・ザ・デーモンも反撃する。フライパンを得意気に持つMrフェイクを殴り飛ばす。
するとMrフェイクは天井に設置されている椅子を引き剥がすと、それでジャッジ・ザ・デーモンを殴り付けた。
椅子はバラバラになり、それでもMrフェイクはジャッジ・ザ・デーモンを攻め続ける。
「なんで誰も狂わない!」
Mrフェイクは手に装着している電撃を発する指輪でジャッジ・ザ・デーモンに電撃をお見舞いしようと、手の平を押し付けようとする。
だがジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクの手をかわし、顔面を殴打。Mrフェイクは引き続き電撃をお見舞いさせようとするが、ジャッジ・ザ・デーモンに投げ飛ばされて天井のテーブルに直撃。Mrフェイクは床に叩き付けられ、テーブルは粉々になった。
そんなMrフェイクにジャッジ・ザ・デーモンは説いた。
「確かに、今の世は混沌としている……故に、正気を保ちながら生活をするのは至難の業なのかもしれない。けれど……どんな世の中でも自分らしく生き抜こうとする者も少なくはない」
ジャッジ・ザ・デーモンは日奈森亜夢の事を思い返しながら説いていた。
しかし、そんな弁論を流すジャッジ・ザ・デーモンにMrフェイクは興奮した状態で迫った。
「なんで君ばっかり!」
Mrフェイクは唐突にジャッジ・ザ・デーモンを殴り付けると、彼の胸倉を掴んで訴えた。
「なんで君だけが二次元界を先導できるんだ……なんで僕だけが蚊帳の外なんだ!」
この目に僅かながらに涙を浮かべるMrフェイクの訴えを眼前に捉え、ジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクが元の人格ジャクソンに戻っている事を察した。
「僕だって……僕だって……二次元人と幸せに過ごしたいよ」
Mrフェイク、いやジャクソンの切実な訴えを聞いて、ジャッジ・ザ・デーモンは息を呑んだ。
ジャッジ・ザ・デーモンがMrフェイクの人格が変わった事を察した次の瞬間、そのジャクソンがポケットから折り込み式のナイフを取り出して、それをジャッジ・ザ・デーモンの太腿に突き刺した。
「ッ!」
寡黙なジャッジ・ザ・デーモンは声を挙げずに足の痛みに耐え忍ぶが、Mrフェイクは豹変する自分の人格を楽しみながらナイフでジャッジ・ザ・デーモンを切りつけて行った。
しかしスグにジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクが振り回すナイフを手から叩き落とすと、再び激しく組み合った。
そして激しい格闘の中、ジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクの虚ろな瞳を直視して彼の真意を探ろうとしていた。
豹変する自分の人格を楽しみ、何かを怖れている様に、思い出す事に苦痛を強いられているMrフェイクの真意を感じ取り、ジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクの真意に少しばかし近付けた気がした。
そしてジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクに真意を説いた。
「お前は何をそんなに怖れている……いや、嫉妬している?」
「なに!?」
「お前は【しゅごキャラ!】のキャラクター達を狂気に誘おうとしているだけでない……その心の奥底では、彼らに羨望の念を抱いているのが手に取る様に解る。お前は亜夢やイクト達の事が羨ましかったんじゃないのか? 過去に過ちを繰り返し続けながらも、最後には和解して団欒を築いたあいつらの事が羨ましく、そして嫉妬していたんじゃ無かったのか?」
「! …………」
多くの希望を絶望に塗り替え、イクト達を狂気に駆り立てようとしたMrフェイク。だがその実、彼はイクト達に羨望の念を抱いていたのだった。
ジャッジ・ザ・デーモンから事実を突き付けられたMrフェイクは、その場で笑い出した。
すると彼はジャッジ・ザ・デーモンに不敵な笑みを向けて怒号を言い放った。
「それがなんだ!
次の瞬間、Mrフェイクは懐から日奈森亜夢を撃ったのに使ったマグナムを取り出して、ジャッジ・ザ・デーモンに発砲しようと銃口を向けた。
しかし逸早くジャッジ・ザ・デーモンがマグナムを撃つ寸前で、手で弾き落としてMrフェイクの顔面を殴り付ける。
顔を殴られたMrフェイクは床に倒れた。
するとMrフェイクは懐から何かのスイッチを取り出すと、スイッチに気付かれないようジャッジ・ザ・デーモンに問い掛ける。
「ふふふ、ハーーハハハッ! それが何だっていうんだ? ボクにはもっと大きな目的があるんだ。ガーディアン達の欺瞞に満ちた幸せなんか、ボクには必要ない」
と、強がりを言うMrフェイクは、懐から取り出したスイッチをジャッジ・ザ・デーモンの目前で押した。
するとジャッジ・ザ・デーモンとMrフェイクが居た逆さ部屋が突如として爆発。二人とも爆発に呑み込まれて、爆炎の中に消えてしまう。
更にMrフェイクが仕掛けた爆弾は遊園地各所に設置されており、廃遊園地の各所は次々と爆発。ちょうど現場に駆け付けた聖龍隊や警察に保護されたイクトや紡達の目の前で遊園地は炎に呑み込まれていく。
「離れろっ、爆発に呑み込まれるぞ!」
隊士の一人が叫ぶ中、聖龍隊も警察も保護された面々も急ぎ遊園地から距離を置いて離れていく。
そして爆発で跡形も無くなった遊園地跡には、ジャッジ・ザ・デーモンもMrフェイクの亡骸も発見されなかった。
[狂気の共有]
遊園地での爆発、および【しゅごキャラ!】のキャラクター達の保護から2日後。
聖龍隊総本山に深夜、一人の隊士姿の人物が聖龍隊の基地である総本山に赴いていた。
時は既に深夜、もう殆どの隊士が居なくなっている時間帯に訪れたその人物は、聖龍隊のセキュリティゲートの手前で所持していた鞄から何かを取り出した。
それはなんと一本の人間の片腕だった。
その人物は片腕を鞄から取り出すと、その腕をセキュリティゲートの指紋認証装置に翳した。
「指紋認証確認 月詠イクト」
装置は月詠イクトと判別して、その人物を通過させた。
片腕の指紋を翳してゲートを通過した人物はそれから幾度となくセキュリティを通過して、総本山の最深部に辿り着いた。
そしてその人物は最深部のとある場所に到達すると、そこで何やら保管されている品を物色し始めた。
そして其処で何かを見付けたその人物は口元を笑ませて満足気に至る。
それからその人物は、セキュリティを突破した際に使用した片腕を容れている鞄に、物色した品を放り込むと悠々と基地から去ろうとする。
と、その時。薄暗い通路に一体の異形な影が現れ、それを目撃した人物は急いでその場から駈け出した。
異形な影から逃げ出す、その人物は逃走中、盗み出した品を聖龍隊の軍用車に隠したのだが、それには異形な影も誰も気付かなかった。
そして聖龍隊基地に潜入したその人物を、異形なる影が捕えて押さえ込む。
「Mrフェイク!」
異形なる影、ジャッジ・ザ・デーモンはMrフェイクの変装を剥ぎ取る。
するとMrフェイクはジャッジ・ザ・デーモンに喜々と語り掛けた。
「ふふふふ、ジャッジ・ザ・デーモン……ボクの真なる企みに気付いていたんだ」
「いや、お前は単に偶然にも得られたあの腕でもう一つの企みを思い付いたにすぎん。日奈森亜夢を殺める事で、彼女のおかげで一つになれた一之宮ひかるや月詠家や辺里家を昔の様に醜く狂わせた。だが、その計画の中でお前が手に入れたある物が、お前にもう一つの企みを思い付かせただけにすぎん。お前にとっては、ついでみたいだったかもしれんが……お前は狂った日奈森紡がイクトの右腕を切断した時に思い付いたかも知れんが、その切断された右腕を使って聖龍隊のセキュリティを突破した挙句、聖龍隊が秘密裏に保持している機密事項を盗み出そうと目論んだんだろう」
ジャッジ・ザ・デーモンからイクトの右腕を使った企みを指摘されたMrフェイクは不敵に微笑した。
「ふふふ、はははは……! そうさっ、聖龍隊が……いいや、正確には君、小田原修司が秘蔵している世界の秘密を頂いちゃおうって考えただけさ。世界の秘密を握っていれば、大抵の事は叶っちゃうんだから、君も悪知恵が働くね」
不敵なMrフェイクの指摘を受けたジャッジ・ザ・デーモンは、右手の甲の三本の鉄の爪を突出させてMrフェイクの命を断とうとする。
「お前はもう救いようがない……! ここで全てを終わらせてやる……!!」
「ハハハハ……! なに? ボクが【しゅごキャラ!】のキャラ達を痛め付けたのに怒り狂っている訳? 君だって、彼らの過去の醜い争いや衝突を知っているからこそ、その罰としてイースター社を倒産に追い込み、ガーディアンの子たちも君と同じクライム・ファイターに仕立て上げたんじゃないのかい?」
「それはその通りだ。だけどお前はそれ以上の悪態を行った……! 日奈森亜夢を……そして、その家族を破滅に追い込んだ。亜夢を射殺しようと目論み、彼女の父親を狂気へと追い込んだ。これ以上の罪はない……死ね、ジャクソン!」
と、ジャッジ・ザ・デーモンがMrフェイクを殺めようとしたその時。
暗闇から桃色のコスチュームに身を纏った人影が、Mrフェイクを殺めようとするジャッジ・ザ・デーモンの背面に飛び蹴りを食らわし、ジャッジ・ザ・デーモンを制止する。
「何奴!?」
背中を蹴られ、Mrフェイクと距離を置かれたジャッジ・ザ・デーモンが問い質すと、暗闇から蹴りを喰らわした人影が面と向かって返事した。
「ジャッジ・ザ・デーモン、それまでよ!」
「! 日奈森亜夢……!」
それは凶弾によって生死の境を彷徨っていた日奈森亜夢本人だった。
突然の亜夢の登場に激しく戸惑うジャッジ・ザ・デーモンだったが、その場から逃げ出そうとするMrフェイクを認識して彼にトドメを喰らわそうと駆け寄ろうとしたが。
「待って!」と、亜夢がジャッジ・ザ・デーモンに訴える。
すると丁度その時「聖龍隊だ! その場から動くんじゃない、Mrフェイク! そしてジャッジ・ザ・デーモン!」と、聖龍隊士の軍勢が辺りを取り囲んでいた。
その軍勢の中には、Mrフェイクに痛め付けられた一之宮ひかるに星名一臣、そして月詠家に辺里家の面々の姿も。
この状況を前に、ジャッジ・ザ・デーモンは煙幕を張って視界を遮って隊士たちの目をかく乱させて姿を晦ました。
「ジャッジ・ザ・デーモンが消えたぞ!」「探せ! 探し出すんだ!」
隊士達の罵声が飛び交う中、ジャッジ・ザ・デーモンは暗闇の中で人知れず思っていた。
(亜夢、なぜ止めた)
ジャッジ・ザ・デーモンは何ゆえ亜夢が、自分の命を奪おうとし更には父親を狂わせたMrフェイクの殺害を止めたのか疑問に思っていた。
そしてジャッジ・ザ・デーモンが消えた現場では。
Mrフェイクは聖龍隊の隊士達に取り押さえられていた。
取り押さえられたMrフェイクは不機嫌そうな顔で地面に座り込むが、そこに今回の事件で最も被害を被った日奈森亜夢が歩み寄ってきた。
「……Mrフェイク」
「ふふふふ、日奈森亜夢。君のその現実を直視しようとしない輝きは、実に羨ましく、そして妬ましい……だからこそ、ボクの手で消したかったんだが、今回は叶わなかったみたいだ」
不敵な微笑を浮かべるMrフェイクに、今回の件で甚振られたイクトや唯世は非常に憤りを感じた。
しかし亜夢は、そんなMrフェイクに一つの提案を持ちかける。
「Mrフェイク……いいえ、ジャクソンさん。お願い、自分の治療に専念して」
「なに?!」
亜夢のこの提案に、Mrフェイクはもちろん彼女と同様に事件の被害者であるイクト達も愕然とする。
「あなたが私やイクト達を羨ましがって、今回の事件を引き起こしたのは話に聞いているわ。それなら、あなたにだって昔の様に二次元人を本当に愛していた人物に病気を治せる可能性だってあるわ。リハビリに専念して、どうか元通りとはいかないかもしれないけど、また二次元人と手に手を取り合えるあなたに戻ってほしいの」
この亜夢の提案にイクト達は一驚し、目を丸くするが、この提案に対してMrフェイクは拒否した。
「このボクがホントに治るとでも思っているのかい? 希望を絶望に塗り替え、現実という悲劇を世間に晒すエンターテイナーMrフェイクが! 今も昔も、二次元人を愛し、それ故に多くの悲劇という喜劇を構想しているボクが治療をして人格を変えろって? 亜夢ちゃん、君はボク以上に頭のおかしいエンターテイナーだね!」
亜夢を小馬鹿にするMrフェイクの提言に、亜夢は意思がハッキリとした表情で唱えた。
「あなたは過去に多くの苦しみという現実に苛まれていた。だから今、普通で居られなくなっているのなら……私もその現実を共有するわ。あなたの苦痛が、苦しみが少しでも減るなら……」
すると其処にイクト達が歩んできて、亜夢と同じくMrフェイクに訴えた。
「亜夢が現実という苦しみを共有するのなら、俺達もその現実を共有しよう。それが俺達、過去に醜い衝突を繰り返した者の贖罪だ」
このイクト達の主張を聞いて、Mrフェイクは満面の笑みで返事した。
「いやあ、まったく……このボクと理不尽な現実を共有するって? 日奈森亜夢、君達って本当に………………おめでたいほどクレイジーな子だね!」
このMrフェイクのブラックジョークを聞いて、亜夢はMrフェイクと共に笑い出した。
「ふふ、ふははは……」
「ハハ、ハーーハッハ……」
「ははは、はははは……」
「ハハハーーハッハ!」
「はははは……はは……」
自分と自分の家族が被害に被っているのに、その加害者であるMrフェイクと狂った様に笑い出す亜夢を目の当たりにして、イクト達は少し不安になった。
[顛末]
それからMrフェイクは聖龍隊の護送で、精神患者収容所に押し込められた。
その際、Mrフェイクはこう言い残している。
「狭いところは嫌いでね。子供の頃を思い出すのさ」
独房に押し込められた際、Mrフェイクは不敵な笑みを浮かび続けたという。
そしてMrフェイクが捕まってから数日後。
とある港。
「それでは……ひかる達の事、よろしくお願いします」
「ああ、分かったよ星名一臣。一応はお前の代わりに世話してやるよ」
亜夢やイクト、そしてひかる達の同行の元、修司が一臣を送り出していた。
一臣は、孫に当たるひかるの将来を気にしながらも、一人船に乗って外国に高飛びした。
イースター社倒産によって、多くの元社員の恨みを買ってしまった一臣とひかるの両名。これに対して一臣は、せめてひかるだけでも庇おうと多くの責任を自分一人で背負い込む事を決意した。それは贖罪の意味も込められており、一臣はその責任を被って単身外国に逃亡するのだった。
そんな一臣の贖罪の末路を見送る形で港に集まった修司や亜夢たち。
こうして星名一臣は船に乗って、多くの恨みを一人で背負い、単身どこへと分からない船出で国外退去した。
一方の亜夢の父親、日奈森紡は。
Mrフェイクの洗脳によって、著しく精神を病んでしまった彼は精神病院に収容される事に。
一時は正気に戻った彼だが、娘の銃撃に加えて、イクト達を襲い腕を切り落としたというトラウマを抱えてしまう。
しかし、そんな紡を献身的に支える家族の姿には感銘を受けた。
この事件を切っ掛けに、修司は一時考えを改めようとした。
「……俺が亜夢たちを、ガーディアンの連中をクライム・ファイターにしようとしたのは、価値観の押し付けだったのかもしれない……」
修司は亜夢たちガーディアンの面々を、過去に醜い衝突を繰り返してきた彼らへの贖罪としてクライム・ファイターに仕立て上げようとしたのは、自分の価値観を押し付けている行為ではないかと考えを改めていた。
しかし亜夢は、そんな修司に「自分達は贖罪の為だけに戦うのではない。みんなの夢を守る為にも戦っている」と修司の苦悩を振り払う言葉をかけてくれた。
そんな亜夢たちガーディアン達に、修司はこう告げたという。
「人はな、それぞれに心の傷を持っているもんだ……だが、その傷跡が、時には人を優しくもし、支えもする……」
人は皆、それぞれに心の傷を抱えながらも、その傷跡で優しくもなれれば己を支えてくれる力にもなる。そう唱えた修司だった。
そしてある晩、聖龍隊の本部。
其処には亜夢やイクト達、Mrフェイクの一件に巻き込まれた少年少女が集まっていた。
彼らは小田原修司に、いや彼のもう一つの顔に気が付き、その顔に直談判する決意で集まった。
そんな彼らの前に、聖龍隊の基地内であるのにジャッジ・ザ・デーモンが現れた。
ジャッジ・ザ・デーモンは右腕を失い、義手を付けたイクト達の今後の覚悟を目の当たりにして己の正体を晒す決意を示した。
そしてジャッジ・ザ・デーモンは鬼のマスクを外して、イクト達に素顔を晒した。
後にイクト達はジャッジ・ザ・デーモンから犯罪者との格闘の術を手解きされる事となる。
こうしてMrフェイクに、いいや三次元人によって運命を翻弄された【しゅごキャラ!】のキャラ達の葛藤は一区切りを迎えた。
誰の中にも狂気は存在する。その狂気を解放するか否かは我々一人一人に委ねられている。