いやーすみません、頂いたコメントから着想を得ちゃってつい勢いで書いてしまいました…
番外編 三徹ユウカは弟にしたい
─ノアside
窓から照らされる太陽の光が、今日はいつもより眩しく見えます。広がる青空の下では、今日もたくさんの生徒が外で活動を続けていることでしょう。
…そんな生徒たちが少し羨ましいですね。
もう、セミナーの部室にこもり始めてから3日が経過しました。上る太陽と落ちる太陽を見届けながら3日、碌に睡眠も取れていません。机に散らばるエナジードリンクの空き缶が、いま私たちが向き合っている事務仕事との戦いの壮絶さを表しているようです。
流石に3日も徹夜をすると、身体的にも精神的にも異常をきたし始め、思考力の乱れから小さなミスも乱立するようになります。それでも目の前の仕事を終わらせなければ私たちに明日はやってきません。動かない身体、回らない頭を何とか酷使し目の前の仕事を終わらせていきます。
…こうして私の現状を語ってみましたが、これでも私の状態はマシと言ってよいものです。
私の苦労の比にならず、もっと多くの仕事を抱え、もっと辛い現実に打ちのめされている友人が目の前にいます。そう、ユウカちゃんです。
そもそも今回の膨大な仕事量が発生した原因は、ミレニアムの100を優に超える部活のうち、およそ三分の二を超える部活が一斉に問題行動を起こしたことに起因します。これによりミレニアムの財政の見直しを早急に行わなければならなくなったため、会計であるユウカちゃんに膨大な仕事量が回ってきたという背景がありました。
エンジニア部、ヴェリタス、新素材開発部、海洋生物研究部…ありとあらゆる部活が問題を起こしました。ゲーム開発部の名前がそこに無かったのは意外だと思いましたが。
問題が発覚した後、問題を起こした部活にユウカちゃんは顔を出しては鬼のような形相で説教をしていたと聞いています。ちゃんと問題を起こした全ての部活に説教をしたらしく、そういったところはユウカちゃんらしいですね。
その後、ユウカちゃんはその財政問題にかかりっきりになりました。普段2人で回していた日常業務は私1人で行わなければならず、さらに追加の業務も発生したためこうして2人そろって三徹目に突入したということになります。
先生にも応援を頼もうと考えましたが、先生もシャーレの業務に忙殺されて四徹目に入っていたらしく、とても応援を頼める状況ではありませんでした。お互い大変そうで先生のことも心配になります。
こうしてユウカちゃんは今でも1人でパソコンと書類とにらめっこしていて、数分ごとにエナジードリンクを口の中に入れています。とてもハレさんのことを言える状況ではなくなっていますね。
「………大丈夫ですか、ユウカちゃん」
「………ノア」
私の呼び声に応じたユウカちゃんの声は、とても覇気を感じることは出来ません。
目元のクマも相当ひどく、目の充血具合からかなりの疲労が溜まっているように見えます。
「……大丈夫ですかユウカちゃん、そろそろ休みませんか?」
「………………」
私の心配する声を聞いても、ユウカちゃんは答えてくれません。しかし無理もない話です、ユウカちゃんはもう限界を超えています。本当に休みなしでここまで来ているのですから。私の声に反応することすら厳しいはずです。
しかし、そろそろ気分転換を挟まないとマズいと思ってしまいます。このままだとユウカちゃんは無理を重ねて倒れてしまうでしょう。その前に、何とか心の癒しとなるものを挟まないといけません。
そう考えていると、1つ良い案を思いつきました。きっとユウカちゃんなら喜んでくれそうな案です。
「そうだユウカちゃん。アオトくんに会いに行くのはどうでしょう、気分転換に」
「…………アオトくん…?」
才羽アオトくん。ゲーム開発部のモモイちゃんとミドリちゃんの弟で、最近のユウカちゃんのお気に入りの子です。
モモイちゃんとミドリちゃんよりも低い身長にまだ幼い顔立ち。男の子ではあるのですが、非常に庇護欲のそそられる子で、ゲーム開発部の子たちがそもそもお気に入りのユウカちゃんからすれば、アオトくんを気に入るのも納得だと思います。
アオトくんのいる日といない日ではユウカちゃんの機嫌が天と地ほどの差があるとささやかれるほど、アオトくんの存在はユウカちゃんの癒しになっているそうです。
そういえば、アオトくんがミレニアムに初めてやってきたときにゲーム開発部まで案内したのは私でしたね。あの時のアオトくんは私を見るなり緊張しているような、照れているような反応をしていてとても可愛かったですね。今でもたまにお話しする機会はありますが、やっぱり私とのお話は緊張するみたいで非常に可愛らしいです。
「…………」
「…?ユウカちゃん…?」
私がアオトくんとの思い出を振り返っていると、ユウカちゃんがおもむろに席を立ち始めました。
そして席を立ったかと思えばセミナーの出入り口の扉まで歩き、振り返って私にこう言います。
「ありがとうノア。ちょっとゲーム開発部に顔を出してくるわ…
───アオトくんを弟にするために」
「は、はい。いってらっしゃいユウカちゃん………………あら?」
私がユウカちゃんの発言に違和感を持った時には、既にユウカちゃんはセミナーから出て行った後でした。
ゲーム開発部に行くとは言いましが、アオトくんを弟にするとも言っていました。一体どういうことなのでしょうか、何だか波乱の予感がするのですが…
もしかしたら私は選択肢を間違えてしまったかもしれません。ユウカちゃんが向かったゲーム開発部で何が起きてしまうのか、あまり想像はしたくないのですが…
まあ、どうにでもなれ~♪(三徹目)
―――――――――――――――――――――――
─モモイside
「ふふふ…勝負だイビルジョージ…!」
「お姉ちゃん!イビルジョージはいいから早くこっち戻ってきて!」
「大丈夫だよミドリ!私がこいつを仕留めて報酬をもっと美味しくしてあげる!」
「お姉ちゃん!!」
「アリス知ってます!これは死亡フラグですね!」
私たちは今、4人協力モンスターハンティングゲームをやっている。私とミドリとアリスとユズの4人で挑む戦いは苛烈を極めていたが、乱入してきたイビルジョージのせいで劣勢に追い込まれていた。
しかし私は、報酬素材が潤沢になる望みをかけて1人イビルジョージに勝負を仕掛けている。
「食らえジョージ!必殺の最大溜め斬り…って避けられた!?痛ったあ!?攻撃痛ったあ!!?」
「あ、モモイお姉ちゃんの体力ヤバい」
「ちょっとお姉ちゃん!?まさか乙らないよね!?これ以上はクエスト失敗になるよ!?」
「耐えてモモイ…!こっちも足引きずってるから…!」
「光よ!光よ!…うわーん!あと少しなのになかなか倒れません!」
私の武器の最大攻撃を食らわせようとしたが、大きすぎる隙を見せたばかりに反撃を食らってしまった。イビルジョージの反撃を食らって大きく体力を持っていかれた私は、急いで体力回復につとめようとする。しかし…
「…あっ気絶した…ってヤバい!そこで龍ブレスはヤバい!!やられ千葉ァ!─」
[力尽きました]
[これ以上復活できません]
[クエストに失敗しました]
「「「「「あっ…」」」」」
クエスト失敗の無慈悲な文字が表示され、私たちの戦いは敗北に終わった。
私以外の4人の冷たい視線が、鋭い針のように深々と突き刺さってくる。
「…お姉ちゃん?」
「…いや違うんだよミドリ。私は報酬が良くなればと思って…」
「でもそれで負けちゃったら意味ないよね?しかも3乙全部お姉ちゃんだし?」
「……はい、申し訳ございません…」
ミドリの満面の笑みがとても怖い。口元は笑顔だが、目が全く笑っていないのだ。それに言葉の圧まで異常に強く、つい私も改まった言葉使ってしまう。
「はい、じゃあお姉ちゃんはアオトと交代ね」
「えー…しなきゃだめ?」
「ダメだよ!ていうか、クエストごとに一番やらかした人が次の人と交代するルールを作ったのはお姉ちゃんでしょ!?」
「うぅ…分かったよ……アオト、バトンタッチ…」
「うん、待ってたよ」
私のアバターをロビーから退出させ、代わりにアオトがロビーに入っていく。流石にこの状況で一人寂しくハンティングする気にはなれないので、アオトの画面を後ろから見ようと思う。
先ほどは私が三乙してしまったとはいえ、一応あと一歩のところまで追いつめていたのだ。おそらく次はクリアすることができるだろう。
「私は準備できたよ。みんなは?」
「私も準備完了だよ…」
「アリス、準備完了です!」
「準備完了、いつでも行けるよ」
クエストを受注し、各々準備が出来たようだ。ミドリの声に呼応するように、準備完了サインを出していく。
「よし、それじゃあリベンジマッチだよ!しゅっぱ──」
バアァン!!!!
「「「「「!!!?」」」」」
突如勢いよく開かれた部室の扉。あまりの勢いの良さに、地面を潜るモンスターが飛び出てくるほどの大きい音が響き渡った。不意打ちを食らった私たち5人は体をこわばらせて、恐る恐る扉の方へ視線を向ける。
「………………」
「…え?ユウカ?」
開かれた扉の前に立っていたのは、このミレニアムで恐怖の象徴とされている冷酷な算術使い、早瀬ユウカだった。
「な、なーんだユウカか!もう、ビックリしたじゃん!もう少し静かにドアを開けてよ!」
「………………」
私が文句を言っても、ユウカは微動だにしない。普段なら文句を言っても、正論を言い返されて何も言えなくなるがテンプレなのに、今回はなぜか何も言い返されない。そんな姿に違和感を持った私だったが、ユウカの顔をよく見てみるといつもと雰囲気が全然違うことに気が付く。
そもそも今日はいつも以上に怖い表情をしていると思うのだが、特にそれが如実なのは目のあたりだ。目元には深いクマが出来ており、目も悪魔になったのかと錯覚するほど赤く充血している。明らかにコンディションが悪いことが一目でわかる。
ガチャン…
突如何かが閉まる音がしたと振り向いてみると、いつの間にかユズの姿が消えていた。おそらくユウカの覇気に耐えることが出来なかったのだろう、ロッカーに一瞬で避難したものと思われる。
他の皆を見てみても、アリスはアワアワと目の前のユウカの恐怖に耐えられていないし、ミドリは冷や汗をかいて後ろに下がり気味だし、アオトは固まって動けずにいた。
「…………」
お互いにらみ合うような形が数秒程続いた後、ついにユウカが動き始めた。
スタスタと迷いなくアオトの近くまで進んでいき…
「…………」
「…え?」
アオトの右腕を掴んで立ち上がらせた。
「ちょっとアオトくん貰っていくわよ」
「えっ……えっ?」
アオトの腕を掴んだまま一緒に部室の扉まで進んでいくユウカ。アオトは訳が分からないような、非常に困惑した表情で連れ去られていく。
そのままユウカは特に理由を話さずアオトを連れ去っていく。2人は部室の出口へと消えていなくなりそうになり…
「「いや待て待て待て待て!!!!」」
それを私とミドリが止めた。ユウカの腕を掴んで強引に。
「何よ」
「何よじゃないよ!なに急に現れてはスタイリッシュに人の弟を拉致しようとしてんのさユウカは!!」
「それに何が『貰っていくわよ』ですか!そんな強引に人の弟奪おうとしてジャイアンですかあなたは!!」
急に行動を止められてイライラしているのか、表情は変えず睨みつけるようにこちらを見てくるユウカ。
だがこれに関しては睨みつけられる筋合いはないのではなかろうか。そもそも、いきなり人の弟を連れ去ろうとするそちらの方が問題だと思うのだが。
「うるさいわね。今日からアオトくんは3日間私の弟になるのよ、邪魔しないでもらえる?」
「いや初耳なんだけど!?なんで私たちの知らないところで3日間才羽の姓が早瀬になる計画が進められているのさ!?」
「何であなた達が知らなきゃならないのよ?おかしなこと言うわねほんとに…」
「おかしい!?おかしいのはユウカだよ!?」
不機嫌な表情で度が過ぎている発言をしまくるユウカを見て私とミドリのツッコミは止まらない。どれだけ私たちがおかしな部分を指摘しても、決して常識外れであることを認めないその態度は、いつものユウカからは全く想像のできない姿だ。
ちなみに腕を掴まれたままのアオトは未だ「…?……??」という困惑が収まらない雰囲気でされるがままになっていた。
「だいだい!アオトを弟にして一体どうするつもりなのさユウカは!」
「そうですよ!もし変なことを考えていたら容赦しませんよ!?」
私たちが気になっているのはそこだ。唐突にアオトを弟にするとほざくユウカは一体何が目的でアオトを弟にしたいと言ってきたのだろうか。
「どうするって…決まってるでしょう?可愛がるためよ」
「…………可愛がるって、どうやって…?」
「え?それは……
──まずは一緒にお風呂に入って抱き枕よ」
「ピピーッ!ピーッピピピーッッ!!!!」
「アウト!アウトだよ!!」
ユウカのとんでもない発言に余裕のアウトコールだ。ミドリもどこから取り出したのか、ホイッスルを全力で吹いてアウト宣告をしている。
ふざけるな。うちの弟にどんな仕打ちをさせるつもりなのだこの女は。
そもそも一緒にお風呂とか言っている時点で下心が丸出しではないか。その後抱き枕にするとかもう抱き着くどころか抱かれるではないか。
ユウカに腕を掴まれているアオトももちろん今の発言は聞こえている。そのアオトの反応はそれはそれは顔を深紅に染めており、目もグルグルと螺旋状になって見る人によってはへべれけなのではないかと勘違いしてしまう様子だ。
「アウト?どこがアウトなのよ」
「全部だよ全部!!!一緒にお風呂の時点でアウト一緒に寝ること自体もアウト抱き枕宣言も余裕でアウト、3アウト、テクニカルファウル、危険球退場だ出ていけぇ!!!!」
「分かったわ。アオトくんを連れて出ていくから」
「アオトは置いていけぇ!!!!!」
もうだめだ、何を言ってもまともな返答が返ってこない。その辺の不良生徒の方がまだ普通の受け答えが出来るというのに。
「もう本当にどうしちゃったのさユウカ…今日のユウカ変だよ…」
「変どころじゃないよお姉ちゃん、きっとこれはユウカの皮を被ったナニかだよ」
今日のユウカを見ていると非常に頭が痛くなってくる。ミドリも同じ気持ちのようで、二人して頭を抱えるような姿を見せた。
「今日はいつにもましてうるさいわね…いい加減その口塞ぐわよ?」
「…ッ!?……いよいよ実力行使に走る気だね…!」
「どうやって口を塞ぎに来る気なんですか…!」
「え?それは口で塞ぐに決まってるでしょうが」
「口で来るなんて…!警戒してミドリ!接近されたらおしまい……って、え?」
………………
「「くちィ!!!?」」
口で口を塞ぐ、それはすなわちキッスである。つまり私たちの口を塞ぐためにユウカは女である私たちと接吻をしようとしているということで…
「面倒くさいわね…もういいわ、あなた達も来なさい。妹として可愛がってあげる」
「はあ!?いよいよ何言ってんのユウカ…ってやめて!!腕掴まないで!!離せ!!離せぇ!!!」
「何なんですか!!雑食ですか!!もう年下だったら何でも良いんですか!!!」
ついに私とミドリにまで目を付け始めたユウカは、片手で器用に2人分の腕を掴んで引っ張ろうとする。アオトとミドリと私、3人分の腕を両手で掴んで引っ張る力は異常に強く、抵抗しても押し切られるばかりであった。
「こ、怖いです…今日のユウカはいつも以上に恐ろしい大魔王です…!」
「あら、アリスちゃん。それにそこのロッカーにいるのはユズね?良いわ、2人も連れて行ってあげる」
「ヒッ…!」
「(ガタッ!!)」
ユズとアリスにまでロックオンをするユウカ。獲物にされたアリスは恐怖しているのだろう、生まれたての小鹿のように足を小刻みに震わせていた。
はじめにこの部屋にやってきたときはアオトを弟にすると発言していたが、それで満たされないのかゲーム開発部の全てを食らいつくさんとする勢いだ。
「ダメ…アリスちゃん逃げて…!」
「そうだよ…ユズを連れて2人だけでも………ごめんやっぱり助けてほしいかも…」
もはや今のユウカを止めるすべは残っていない。そう判断した私たちはせめてアリスとユズの2人だけでも助かってほしいと声をかける。しかし、その声が届いてもアリスは動けずにいた。
それは自分のあるべき姿が、果たして今ここで逃げることなのかという葛藤があるのだろう。
「…いえ、逃げません。アリスは否定します…!」
「アリス…?」
「勇者は…決して…
──仲間を見捨てることなんてしません!!」
瞬間、アリスの姿が消えたと思えばユウカの腕に瞬時に接近。右手でアオトを、左手で私とミドリをユウカの腕から解放し直ぐにユウカとの距離を取る。
「ッ!?」
神速の如き反撃を食らったユウカは驚きの表情を浮かばせ、ひるみながら数歩後ろに後ずさる。
瞬く間に繰り広げられたアリスの立ち回りは、アリスの身体能力があってこそ可能である神業であった。
「よっと…ありがとうアリス!」
「助かった…ありがとうアリスちゃん!」
「あ、ありがとうございますアリスさん…」
ユウカから解放された我々才羽三姉弟は、アリスにお礼を言いつつ距離の離れたユウカからの警戒を緩めない。危機は脱したが、脅威はまだ目の前に存在しているのだ。
「なんでこう素直に来てくれないのかしら…いい加減にしないと、抱くわよ?」
ユラァ…と体制を立て直してこちらを睨みつけてくるユウカ。その表情は変わらず、淡々としている。
「『抱くわよ』って…もう下心隠せてないよねこのユウカ。もうヴァルキューレに突き出した方が世のため人のためになるような気がするんだけど」
「ねぇ、もう本当に怖いってユウカ。ていうか何が怖いって表情変えずに淡々とヤバい発言を連発しているところが本当に怖いよ…」
ユウカはいよいよ下心の塊を表す言葉と言って良い『抱く』という言葉を使い始めた。こんなところで貞操を奪われてたまるか。
今のユウカは間違いなく普通ではない。目の状態から察するに、徹夜か何かでおかしくなっているのだろう。しかし理由はどうであれ、そんな状態のユウカに付き合っていられない。
今の暴走状態のユウカを追い出そうと臨戦態勢に入る私たち。しかしその横から、私たちを守るように前に割って入る存在が現れた。
「もう…やめてくださいユウカさん…!」
アオトだ。アオトが両手を広げて庇うように私たちを守ろうとしていた。
「アオト…!?何を…」
アオトの急な行動に私は止めようと動く。今のユウカにアオトは劇薬そのもの、非常に危険である。ミドリとアリスも同じ考えだろう、驚愕した表情を浮かべながら手をアオトに伸ばそうとする。
しかし私たちの手が届くよりも先に、アオトの言葉が発せられるのが一歩早かった。
「これ以上みんなに酷いことするくらいなら……
──僕を抱いてください!」
「「「……は??」」」
時が、止まった。
アオトに届きそうになった手は寸前で止まり、無意識に出てしまった困惑の声が私たち3人の口から漏れ出てくる。部室に聞こえる時計の針の音が、いつもより大きく聞こえていた。
空気が凍るとはこのことを言うのだろう。
「ユ、ユウカさんが僕に抱き着いて気が収まるなら…僕はこの身を…!」
「…ん?」
今、「抱き着く」と言っただろうかこの弟は。両手を広げたポーズに「抱き着く」という発言、もしやアオトは…
「ア、アオト…?あのね?「抱く」と「抱き着く」って違う意味なんだよ…?」
「………えっ、そうなの?」
やはり思った通りだ。アオトは「抱く」と「抱き着く」の意味を同じに考えていたらしい。故に今のような問題発言に繋がってしまったみたいだ。
「うん…「抱く」っていうのは結構危ない意味があるんだよ…?だからユウカとかにそんな発言しちゃ………ッ!!?」
殺気。アオトの後ろから感じる圧倒的な殺気。その殺気に心臓がドクンとはねる。
そしてあふれ出ている赤い粒子………否、赤い蒸気がゲーム開発部の部室を包み込んでいく。
「フーーッ!フーーッ!フーーッ!」
異常な殺気と赤い蒸気、その全てを発生させていたのはユウカだった。まるで動物の発情期のような荒い息とともに、こちらを睨みつけている。
「…マズい。マズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズい!!!アオトの据え膳にユウカが!!!!」
「お、お姉ちゃんユウカのあれ何!!?『EX〇Mシステム』『八門〇甲の陣』『龍〇活性』!!?」
「分からないよ!!とにかくまずはアオトを後ろに!!」
「え…ユウカさんどうしちゃったの…?」
「いいからアオトはミドリの後ろに………ってあああああヤバい、クラウチングスタートの構えに入っちゃってるって!!」
「どういうこと!?『夜〇イ』でも食らわせるつもりなのユウカは!?」
「…ッ、ダメだ!アリス、ユウカを抑えてお願い!!」
「は、はい!止まってくださいユウカ………ッ!?アリスのパワーが負けて…!?抑えきれません!!」
「はぁ!!?アリスがパワー負けって一体どうすれば…!!?あーーーーもうっ!!
──どうしてこんなことになるのさーーー!!!!!」
―――――――――――――――――――――――
アオトの据え膳によるユウカの覚醒。アリスですら抑え込むことの出来ないパワーを前に我々ゲーム開発部は万事休すであった。
敗北一歩手前だった戦いであったが、結局この戦いは騒ぎを聞いて野次馬となり部室に顔を出したコユキがユウカに連れ去られることで終結した。
「…え?何で私の首根っこ捕まえて連れ去ろうとしてるんですかユウカ先輩!?私なにもしてないですよね……って強い!力強い!!ちょっと、助けてくださいよゲーム開発部の皆さん!なに敬礼しているんですか!!このままだと私、どうなってしまうのか分からないのに…!!うあぁああああーーーなんでーーー!!!」
そう言いながら連れ去られていくコユキがどうなってしまったのかは現時点では分からない。しかし、コユキがいたから助かった命は確かにここにあるのだ。
今度、アイスでも奢ってあげよう。そう心に決めた私であった。
──3日後、ベンチで冷たくなっているコユキが発見され、ノア先輩とユウカはセミナーで静かに夢の世界へと旅立った。
以上、ユウカ三徹で大暴走編でした。
一応、本編の方も書いてる途中なので遠くないうちには出せる…かも?