なんか、寝不足で頭が回らないと小説も中々書けないっすね…
色々とガバってたらすみません…
僕がその空間に足を踏み入れた途端、眼の前に広がる光景に心が大きく昂った。
圧倒されるのはまずその広さ。手狭で散らかった小さな空間がぽつんとあるようなゲーム開発部の部室とは大きく違い、ここは戦闘機を何機も収納できるようなまさに巨大ハンガーそのものであった。小学校の小さな体育館に慣れた状態で、スポーツ強豪校の巨大体育館をこの目でみてしまったかのような、そんなスケールの違いを思い知らされるようだ。
どこからか聞こえてくる、「ゴウンゴウン…」という重いものを動かす重厚感あふれる音が、振動という形で腹に響いてくる。音という目に見えない現象を、耳以外の身体で感じることが出来るのだ。
そしてこの空間に漂う鋼鉄の香り。自然あふれる緑を感じる香りでも、習慣や環境によって多種多様に変わる生活臭でもない、まさに非日常の香りに普段とは違う異世界に入り込んだような錯覚を受ける。
そして何より僕の心を昂らせるもの。それは至る所に置かれている武器兵器であった。
片手間で使えそうな小さなハンドガンから、多くの人間に使われているアサルトライフル、破壊の象徴ロケットランチャー、さらには戦車の主砲のような大口径のものまでありとあらゆる武器が僕の目に映りこんでくる。
──男の子ってこういうのが好きなんでしょ?
まさにその言葉を体現するかのような空間にいつまでたっても興奮が冷めない。
某探偵アニメ映画に出てくる少年探偵チームのガキ大将がビュースポットに訪れては「すっげえええええ!!!」と声高らかに上げているところを見て、なぜ人目をはばからずこうも大きい声をあげるんだろうと疑問に思っていた僕だったが、今では彼の気持ちが理解できる。
本当に感動するものを見ると声を上げずにはいられないのだ。故に僕も──
「すっげええええええええ!!!」
…と声を大にして叫ぶのだった。
ここはミレニアムの発明の震源地。武器兵器のみならず様々な発明品を手掛けるロマンあふれる理想郷──
ミレニアムサイエンススクール、「エンジニア部」である。
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─モモイside
「やあ、来たねゲーム開発部」
「ウタハ先輩!」
部室でアオトと合流した私たちゲーム開発部は、エンジニア部の元を訪れていた。
エンジニア部の部長である「白石ウタハ」ことウタハ先輩は訪れた私たちを見るに笑顔で歓迎してくれた。相も変わらず爽やかな雰囲気を身にまとっており、王子様という言葉が似合うような顔立ちだ。
「先生もようこそ。おもてなしみたいなことは出来ないが、ゆっくりしていってくれ」
「“うん、ありがとうウタハ。今回はみんなの付き添いみたいなものだからね、後ろの方でのんびりさせてもらうよ”」
後ろの方にいた先生にも挨拶を忘れず行うウタハ先輩は、いつもより少し笑顔に見えた。定期的に先生はエンジニア部に顔を出しているのだろうか。たくさんの生徒に手を差し伸べている先生だからか、エンジニア部が困っていたら頻繁に顔を出していそうだ。
「光の剣の調子はどうだい、アリス?」
「はい!問題なく使えています!大活躍です!」
光の剣の調子を尋ねるウタハ先輩に、アリスは堂々と答えた。「むふー」という表情で自慢げに語るその姿はまるで買ったゲーム友達に自慢する子供のようだ。
「そうか、なら結構だ。一応、今回は軽いメンテナンスというか点検みたいなものだからね、少し預からせてもらうよ」
「分かりました!お願いします、ウタハ先輩!」
そう言ってアリスは背負っていた光の剣を作業台の上に軽々と置いた。私たちには持ち上げることすら難しいものをこうも簡単に扱う姿は今でも驚かされる。
そしてウタハ先輩は作業台の上に置かれた光の剣を点検し始めた。工具を使って迷うことなく部品を解体し中の構造をチェックしていく。流れるように無駄なく動く姿はまさに職人だ。私はハード面に関する知識は詳しくないので何をやっているのかは良くわからないが、その手際の良さから相当の熟練度を持っていることは私でも理解できる。流石は「マイスター」と言ったところか。
「そういえば、なんで使い始めてすぐに点検しようと思ったの?別に数カ月使った後とかでも良くない?」
私はそう疑問を尋ねた。流石に使い始めて1カ月もたたずに点検をするのは早すぎるのではないだろうかという疑問は、点検の話を聞いてから感じていたことだったのだ。
「うん?ああ、それは安全のためだと言っておこうか。車だって納車されてから1カ月で点検が入るだろう?あれと似たようなものと思ってくれたらいいさ。使用し始めてから初めて分かる問題というのもあるかもしれないからね」
「ふーん…」
──車って1カ月で点検が入るものなんだ…
私は車を持ったこともなければそもそも免許を持っていないので、車の事情は全く分からない。車検というのがお金かかって面倒くさいというのは聞いたことがあるのだが…
まあでも、ウタハ先輩が安全のためだと言っているのだからこのまま任せるべきなのだろう。
「…ところでなんだが」
「…?どうしたのウタハ先輩?」
作業していた手を止めたウタハ先輩が私たちに声をかける。
「あそこでコトリとヒビキと一緒に発明品を見ている少年は何者だい?」
そう言ってウタハ先輩は後ろを振り返った。
目線の先には、ウタハ先輩と同じくエンジニア部であるコトリとヒビキ、そしてその二人の間で発明品をみているアオトの姿があった。アオトの後ろ姿を見るだけでいつもよりテンションが上がっているようにも見える。
「そういえばウタハ先輩とはまだ顔を合わせていないね。アオトだよ、才羽アオト。私たちの弟」
「…そうか、彼が最近ミレニアムで話題になっている才羽姉妹の弟か」
そう言いながらウタハ先輩は作業の手を止めたままアオトのことを見ていた。振り返っているせいか顔は良く見えないが、その声音からアオトに興味を抱いているのが分かる。
「すみませんウタハ先輩…挨拶もせずにウロウロしてしまって…」
そう申し訳なさそうにミドリは言った。
何せアオトがここに来てからというもの、大きな声で「すっげえええ!!!」と叫んだと思えば近くにあった発明品を勝手に見に行ってしまったのだ。ミドリが勝手にウロウロしてはいけないと行動を注意したものの、興奮していて聞こえなかったのかミドリの御咎めを無視して発明品に熱中してしまっていた。
そこに近くにいたコトリとヒビキがアオトの案内をしてくれることになり、アオトはこうしてエンジニア部に目を輝かせているのだ。
ちなみにコトリとヒビキが案内役を引き受けてくれた後にウタハ先輩が現れたので、アオトとはすれ違い的な状態になっているのである。
「これにはですねアオトさん、自爆機能が…」
「自爆機能ですか?その爆発の威力は…」
「そしてBluetooth機能も…」
「Bluetooth!?何に使うもの…」
遠くから3人の会話が聞こえてくる。かなり楽しそうだ。距離が遠いからか途切れ途切れでしか聞こえないのでどんな会話をしているのかは分からないが、自爆機能という物騒な単語が聞こえてくる。あまり物騒なことをアオトに吹き込まないでほしいのだが。
「いや、いいんだミドリ。あの感じだと私に気づいていないだけだろう。それに私たちの発明品にあそこまで興奮してくれているんだ。私としても嬉しい限りさ……この作業が終わったら私も彼に挨拶に行くとしよう」
そう言ってウタハ先輩は再び作業に戻った。アオトの姿を見て嬉しかったのか、先ほどよりも動きが軽快だ。まるで鼻歌でも歌ってしまいそうだと言わんばかりの軽快さである。
「…そういえば、アオトがミレニアムで話題になっているって言っていたけど、それ本当…?」
アオトが話題になっているという発言が気になったので、ウタハ先輩に尋ねてみた。確かにアオトはキヴォトスでは珍しい人間の男であり、私たちの弟であるという要素も相まって話題性は抜群だと思っている。だが実際にどれほど話題になっていたのかは分からなかった。
「ああ、キヴォトスには珍しい男の子だというのも、あのゲーム開発部の才羽姉妹の弟だというのも相まって話題になっていたさ。だが話題性を強めた要素は別にあったがね」
「他の要素…?」
話題性を強めた他の要素。それを聞いても私はピンとは来ることはなく、首をかしげるばかりだった。
なぜなら、アオトはゲーム開発部の部室しか訪れておらず、こうした他の部活に顔を出すのは今回が初めてだったからだ。他の部活と交流がないとなると、私たちの弟で男の子である以外の要素が他のミレニアム生に知られることはないはずなのだが。
「ダメだわからない…教えてウタハ先輩…」
「ふふ、いいだろう。彼が話題になった一番の要素、それはだな…
───ユウカのご機嫌だよ」
「あっ…」
ユウカのご機嫌。その言葉を聞いた瞬間、一気にストンと腑に落ちた。
「君たちの弟が来ていたときは大体1週間に2~3回の頻度だったのだろう?」
「え、どうしてそれを…ってもしかして…」
「そう、彼が来ていた期間で妙にユウカの機嫌が良い時があってね。大体1週間に2~3日くらいの頻度で機嫌が良かったのさ」
ユウカの機嫌が良くなるタイミング…
私もそのタイミングには覚えがあった。思い出すのはアオトに冗談で「ユウカの機嫌がよくなるからむしろ部室に来てほしい」と言ったとき。その発言をする前からユウカは 部室に顔を出すことがあったのだが、アオトがいるときは特に何も言わずに立ち去ることが多かった。だから冗談であの発言をしたのだが、本当にアオトがいれば何も言わなかったのでアオトを利用していたみたいになって心が痛くなったことがあったのだ。
「ユウカの機嫌が良い時は問題を起こしてもあまり怒らず、物事にも非常に寛容になっていつもの鬼の姿が嘘のように鳴りを潜めていた」
ウタハ先輩は再開した作業を止めることなく、しかし目は遠い目をしながら語っていく。
「流石におかしいと思った一部の生徒が調べたところ、ユウカの機嫌が良くなるタイミングとゲーム開発部に少年がやってくるタイミングが見事に合致することが分かってね。そのことがどんどんとミレニアム中に広まった結果こうして彼の存在が大きく話題に上がることになったのさ」
「な、なるほど…」
一番アオトの近くにいた私たちが気づかないとは何たる不覚だろうか。これがいわゆる『灯台下暗し』というものだろう。意味があっているか自信はないが。そもそもどうして周りの生徒は私たちにそのことを聞かなかったのだろう。ユウカに関係する話題だから触れづらかったのだろうか。
「大きな話題になってからはすごかったぞ?彼が『鬼を鎮めるお
「お釈迦様観音様ァ!!?」
私たちの知らないところで随分と壮大な人物になっていたことに驚きを隠せない。そもそも何なのだその異名は。アオトのことを慈しみ溢れる大仏みたいな存在にして意味が分からない。
少し大仏となって背から千本の手が生えている有難いアオトを想像してみる。目を閉じ少しの微笑みに後光が光るアオトが皆にお手手を合わせられる姿が頭に浮かんで…
───ダメだ、全然似合わない。
最近年頃なのか、妙に大人ぶっているアオト。おかげさまで性格はミドリに似ていると思われがちだ。しかしそうだとしてもアオトが大仏のように「心穏やかなり」と言っているような姿なんて全く想像できない。
「アオトが大仏ですか…少し似合う気がします!」
「えっ!?」
「ぶっっ!!」
そんなことを思っているとアリスが、アオトが大仏なのは似合っていると言ってきた。流石の私も驚きを隠せない。ミドリも同じことを思ったのか、不意打ちを食らったかのように噴き出した。
「…?どうしてそんなに驚いているのですか?」
「いやいや、そりゃあ驚くよ!全然似合わないんだもん!」
私たちが驚いたことに疑問を感じたのだろう。アリスは不思議そうに首をかしげる。ミドリはアオトが大仏に似ているという言葉にツボったのか、顔を背けながら口を押えて笑いをこらえていた。
「そうでしょうか……アオトはミドリに似ていてピンとくると思ったのですが…」
「それってアオトがミドリみたいに物静かな感じがするってこと?」
そう質問するとアリスは「はい」と答えた。確かにアオトはミドリのように物静かでしっかりしているところがある。あまり私には似ていないなんて何回聞いたかわからないほど周りからはミドリよりの性格だと思われるのだ。
「いくらアオトが物静かでもそれだけで大仏に似ているというのは無理があると思うよ?それにミドリだって大仏に似ているかと言われたら全然違うでしょ。ねえ、ミドリ?」
「…ン゛ッッ!……うん……ブッ!…それはッ…同意ッ……んふぅwww」
「いやどんだけツボってんのさ」
私がミドリに同意を求めると、ちゃんと同意した返事が返ってきた。しかし未だにツボっているのか、顔はこっちに向けずに笑いをこらえながらの返答であり、まるで壊れかけのラジオ音声みたいな声音であった。いくらなんでも笑いすぎだろうと私は呆れの感情をミドリに向ける。
「それに、アリスは今日初めてアオトに会ったんでしょ?だったらアリスの知らないアオトの一面もきっと見ることになるから」
「…?それはどういう…?」
「……いずれ分かるよ。というか、機械を見てはしゃいでいる今のアオトの姿もアリスは知らない一面でしょ?」
私がそう言うとアリスはアオトのいる方向を向いた。アオトは今もコトリとヒビキの話を聞きながら発明品を見て目を輝かせている。その姿は最近見せていた大人ぶった姿というよりも、本来の年相応の姿と言ってよかった。
──アオトは昔からああいうのが好きだったからなぁ…
そう思いながら改めてアリスの方を見ると、アリスは子供を見守る親のような顔でアオトのことを見ていた。楽しそうにしているアオトを見ているのが幸せだと言わんばかりに、一言も発することなく、ずっと。
「…どう、アリス?アオトのああいう一面は」
「……その、何というか……可愛いなって思いました」
改めてアオトの姿を見たアリスに感想を求めると、「可愛い」と穏やかな笑顔で答えた。
その笑顔に邪な感情は感じられず、純粋な思いで言っているのが良く分かる。
「………アリスは健全だね」
「…はい?」
どこかの算術使いとは違う雰囲気に私も安心感を覚えるのだった。
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「興味深いことを話しているところ申し訳ないが、点検が終わったよ」
その後もアオトのことで話が盛り上がっているうちに光の剣の点検が終わったようだ。140㎏の重量を誇る武器だからか部品も重かったのだろう。額についた汗をぬぐっている。
「少し補強した方が良い部品を補強した程度で、武器そのものに問題は全くなかったよ。このままいつも通り使うといい」
「ありがとうございます!ウタハ先輩!」
そうウタハ先輩に感謝を伝えたアリスは点検し終えた光の剣に近づいていく。その顔は新しいおもちゃを買ってもらえた子供のようだった。
「すごい…!光の剣が綺麗になって、光り輝いています…!」
「せっかくだからね、外装をピカピカに磨いておいた。洗車サービスみたいなものさ」
光の剣を見てみると、外装の特に一番面積が大きく覆われている白い外装部分が鏡のように磨き上げられていた。目を輝かせて喜んでいるアリスの顔が外装に反射してよく見える。
それにしてもこの短時間で点検、部品の補強、磨き上げの三工程を全て行ったというのか。私たちがアオトの話で盛り上がり時間がたつのを忘れていたとはいえこの早さには目を見張るものがある。
綺麗になって返ってきた光の剣をみてはしゃいでいるアリスの姿は、現在進行形で発明品をみてはしゃいでいるアオトの姿に近しいものがあった。アオトの姿を可愛いなと評したアリスだが、今のアリスの姿も同じように可愛いなと感じる。
「さて、では私も例の彼、アオトに挨拶でも……そして発明品の紹介でもしてこようかな」
「お、ウタハ先輩もついにアオトと……って発明品?」
一仕事終え、工具を片付けているウタハ先輩がアオトと合流しようとしているが、どうやらウタハ先輩も発明品の紹介をしようとしているようだ。
「ああ、彼のように発明品を嬉しそうに見てもらえたら私も何かしら紹介したくなってしまってね。それに…」
「それに…?」
そう言うとウタハ先輩はアオトのいる方へ顔を向けてはワクワクしている悪役みたいな笑みを浮かべた。
「彼は私たちと同族の臭いがする…そう思ってね」
そう言うウタハ先輩の声音からもワクワク感が伝わってくる。趣味の合う同志を見つけたような反応に私は少し心配になった。
「…あまりアオトに変なことは吹き込まないでね?」
ウタハ先輩がアオトにありとあらゆるものに自爆機能を付けたり、予算度外視のロマン武器を作り上げるような感性を植え付けないように釘をさしておく。ウタハ先輩なら大丈夫だと信じたいが…
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「…ミドリ」
「うん?どうしたのアリスちゃん?」
ウタハ先輩の作業が終わってこれからアオトたちのところに向かおうというとき、アリスとミドリの会話が聞こえてきた。
「アリスが、アオトは大仏に似ている言ったら笑っていたので…ミドリも似ていないって思いましたか…?」
「んふっ……うん、全然似ていないかな」
どうやら先ほどの話題を掘り返したようだ。どうやらアリスはミドリにもアオトが大仏に似ている似ていない問題について話したいらしい。ミドリはまたもや噴き出しそうになっていたが、なんとか堪えていた。
「私はお姉ちゃんに比べたら物静かな方だとは思っているけど、お姉ちゃんが言ってた通り物静かだからって大仏に似ているのは無理があると思うよ?」
「やはりそうなのですね…」
アリスは納得したかのようにうなずいた。
「それに、アオトは物静かなところが私に似ているってアリスは言っていたけど……別にそんなことはないんだよ?」
「違うのですか…?」
別にアオトは物静かなわけではないという言葉に少し驚いている様子をみせるアリス。近くで聞いている私も同意するように心の中で頷く。普段は大人しくて物静かな雰囲気があるのは確かなのだが。
「まあね。お姉ちゃんも言っていたけど、いずれわかるよ」
「うーん…想像できないです…」
「あははっ、今のアオトを見てたら確かに想像できないかもね……まあでもあれだよ。アオトは私の弟ではあるけど…
───お姉ちゃんの弟でもあるからね」
最近、ウタハ先輩いいよねってなってる自分がいます…