今回で初めて原作通りの話を書くってマ?
「知っての通り私たち「ヴェリタス」は、キヴォトス最高のハッカー集団だと自負している」
暗い室内に、眩しいディスプレイの光。今が昼なのか夜なのか、時間など分からなくなってしまうような空間に張り詰めた緊張感が流れる。
「システムやデータ復旧については、それこそ数えきれないほど解決をしてきた……」
ある者は緊張しているかのように顔を強張らせ、ある者は期待を隠しきれないようにワクワク感を醸し出し、三者三様の反応がこの緊張感を助長させる演出をしていた。
「その上で、単刀直入に言うね」
そしてついに、長い時間求めてきた結果が出される。
結果が振るえば希望が見え、振るわなければ絶体絶命。天国と地獄の狭間に立たされている僕たちは、まるで判決を待たされている被告人のようだ。
「「「「「………」」」」」
いよいよその時、緊張の糸がピンッと張られる。ゲーム開発部の生死が決まる緊張の一瞬、「小鈎ハレ」ことハレさんの最後の一言が紡がれ──
「モモイ、あなたのゲームのセーブデータを復活させるのは無理」
「うわぁぁぁぁん!もうダメだーーーー!!」
「そっちじゃないでしょ!?『G.Bible』のパスワードの解除はどうしたのさ!?」
モモイお姉ちゃんの悲叫とミドリお姉ちゃんの怒声が響き渡った。
どうやら先の廃墟探索で失われたというモモイお姉ちゃんのゲーム機、『ゲームガールズアドバンスGP』のセーブデータが復活できるか否かの解析をしていたらしい。
先ほどまでの緊張感はどこへ行ったのやら。突如始まった新喜劇のような雰囲気に僕は拍子抜けしたかのように項垂れた。
「『G.Bible』より自分のゲーム機が大事なのか…」
「あ、あはは…まあでもゲームのデータが消えるのは悲しいからしょうがない…かな?」
ゲーム開発部の存続がかかっている中で何を考えているのやらと、この世の終わりみたいに泣き叫んでいるモモイお姉ちゃんを見て思う。『G.Bible』が見られなかったらゲームどころの騒ぎではないというのに。
だがやりこんだセーブデータが消えたときの絶望感は半端ないであろうというのは理解できる。僕は心の中で呆れの感情を残しつつも、ほんの少しだけ同情した。ユズさんも同じように同情しているみたいだ。
「…………」
「…?どうしたのアオトくん?私のことジッと見つめて…」
…正直なところ、モモイお姉ちゃんのセーブデータ問題よりもユズさんが何事もなかったかのように行動出来ていることが非常に気になるところだが。
このヴェリタスに来る前まで、ゲーム開発部のソファーに縛り付けられたかのように動けなかったユズさんが、ウタハさんから貰った『仙〇』を食べただけで完全復活である。
あんなにも今際の際に立たされていたような雰囲気が嘘のように元気を取り戻したユズさん。目にも光が戻り、表情も活気が戻っている。先ほどまでの姿を写真で本人に見せてあげたいレベルの変化だ。
「……本当に大丈夫なんですか?疲労感とか色々…」
「え?うん、全然。元気ピンピンだよ…?」
──いや怖っ…
『〇豆』が出来た原因不明。エナドリという液体物を作る中で、意図せず出来上がったのが固形物という怪異。疲労で死にかけ患者を一瞬で復活させる圧倒的効能。ありとあらゆる要素が僕の恐怖心を煽っていく。
「その…ユズさん…」
「…?」
「……いや、やっぱり何でもないです」
──もう、深く考えるのはやめよう…
これ以上考えたら、おそらく泥沼にはまるだろう。一旦『仙〇』のことは忘れ、お姉ちゃんたちの様子を見ることにする。
「『G.Bible』のことなら、マキが作業中ですよ」
「マキちゃんが?」
モモイお姉ちゃんのセーブデータとは別に、ちゃんと『G.Bible』についての作業は行っていたみたいだ。部員と思われるメガネをかけた女の人がそう語ると、部屋の隅から一人の女性が顔を出してきた。
「あ、おはようミド!来てくれたんだね、ありがと!」
元気で明るい印象を受ける赤髪の女性。ミドリお姉ちゃんを「ミド」と呼ぶその人は、笑顔でこちらに近づいてくる。
「うぅ、私のセーブデータが…汗と涙の結晶が……!」
「モモはどうしてこんなに泣いてるの?」
「気にしないで大丈夫…」
まだ悲しみに暮れているモモイお姉ちゃんを不思議そうに眺めている女性。ミドリお姉ちゃんは呆れたように気にしないでと流す。
それにしてもこの人はモモイお姉ちゃんを「モモ」、ミドリお姉ちゃんを「ミド」と呼ぶとは相当仲が良さそうだ。今の今までゲーム開発部以外に友達っぽい人と出会わなかったせいか、こういう間柄だと思われる人を見るのは新鮮である。
「…お?なんだかモモミドにそっくりな子がいる!君は誰かなー?」
そう考えていると、友達らしき彼女がこちらに気づいたようだ。快活な笑顔で問いかける彼女は、ベクトルは違えどアリスさんと似たようなものを感じ取れる。
「初めまして。『才羽アオト』と言います。モモイお姉ちゃんとミドリお姉ちゃんがいつもお世話になっています」
「アオト…!そうか、モモミドがいつも話してくれる弟くんだ!初めまして、『小塗マキ』だよ!モモミドとは友達なんだ!よろしくね!」
「はい、よろしくお願いします」
本当に明るい人だ。この人と友達でお姉ちゃんたちも楽しいだろうな。
「あははっ!とても丁寧な子だね!モモミドの弟だけど雰囲気はミドに近いのかな…?」
「私に近いか…やっぱりそう思われやすいのかな…?」
「あ、結構よく言われる感じ?」
「うん、そんな感じ」
マキさんは僕とお姉ちゃんたちを見比べている。しかも結構真剣そうだ。だがどれだけ見比べても結局ミドリお姉ちゃんに近いという結論に落ち着くのだが。
確かに僕がモモイお姉ちゃんに似ていると言われたことは、ここ最近を振り返ってみても少ないと感じる。昔のことはあまり覚えていないが、昔はもっとモモイお姉ちゃんに似ていると言われていたような気がする。
「まあいいや。ところで『G.Bible』はどうだった?」
「あ、うん、ちゃんと分析できたよ」
僕のことについては一旦ここまでにし、『G.Bible』についての話に戻る。
「あれはかの伝説のゲーム開発者が作った神ゲーマニュアル……『G.Bible』で間違いないね」
「や、やっぱりそうなんだ!」
「ファイルの作成日や最後に転送された日時、ファイル形式から考えても確実。作業者についても、噂の伝説のゲーム開発者のIPと一致してた。それと、あのデータはこれまでに一回しか転送された形跡がない」
「っていうことは……」
「うん、オリジナルの『G.Bible』だろうね」
「す、すごい!!」
どうやらお姉ちゃんたちが手に入れた『G.Bible』は本物だったらしい。わざわざ廃墟まで行ってユズさんが死ぬほど疲れてまで取ってきた甲斐があったというものだろう。
ミドリお姉ちゃんがあんなに嬉しそうにしているところも久しぶりに見るような気がする。
「でも問題があって……」
「問題ですか…?」
問題がある。そう話すマキさんは真剣な表情に切り替わる。先ほどまでの快活な雰囲気が嘘のように、仕事に向き合う職人のような雰囲気に様変わりだ。
「うん、ファイルのパスワードについてはまだ解析できていないの」
パスワードの解析が出来ていない、つまりそのファイルが開けないということだろうか。
確かに現代社会では、重要なデータはパスワード設定をして簡単に見られないようにするのは基本的なセキュリティー対策の一つになっているものだ。
僕のスマホにだって、他人には見せられない画像やファイルにはパスワードを設定していたりして…
「えぇっ、じゃあ結局見られないってことじゃん!ガッカリだよ!」
「うっ、だってあたしはあくまでクラッカーであってホワイトハッカーじゃないし……」
「モモイお姉ちゃん…せっかく解析してくれたのにその言い方はどうなの…?」
わざわざ部の存続に協力してくれた友達にガッカリとは、いくら切羽詰まっているとはいえ少し言い過ぎなのではなかろうか。
それとも友達同士だからこそ遠慮なく言えるということなのだろうか。でも「親しき中にも礼儀あり」とも言うし、うーん…
「とにかく!そうは言っても方法が無いわけじゃない」
「そうなの?」
「あのファイルのパスワードを直接解析するのは、多分ほぼ不可能。でも、セキュリティファイルを取り除いて丸ごとコピーするって手段なら、きっと出来るんじゃないかな……」
………つまり、どういうことだってばよ?
「で、そのためにはOptimus Mirror System……通称『鏡』って呼ばれるツールが必要なの」
「ぜ、全然話についていけない……」
「すまねぇ、ロシア語はさっぱりなんだマキさん」
「めちゃめちゃ英語だったんだよね、アオト」
頭が宇宙猫になりそうな話に突如混ざる外国語の嵐。僕の頭はキャパオーバーになり、英語をロシア語と勘違いしてしまったようだ。
そんな僕に対して間髪入れずに割と無表情でツッコミを入れてくれたマキさん。ノリが良くて助かる。
「何やってのさ2人とも……つまり『G.Bible』を見るためには、その『鏡』っていうプログラムが必要だってことだよね?それはどこにあるの?」
僕とモモイお姉ちゃんに少し呆れつつも、ちゃんと要点は理解したらしいミドリお姉ちゃんが『鏡』の所在について聞いていた。
「『鏡』はあたしたちヴェリタスが持って………た」
た。溜めに溜めて吐き出された「た」という過去形。正直、嫌な予感しかない。
「何だ、それなら今すぐ……ん、待って?過去形!?」
「……そう、今は持ってない。生徒会に押収されちゃったの、もうっ!」
ぷんすかと聞こえるような雰囲気で怒りを露にするマキさん。その押収が随分と気に食わなかったらしい。
「生徒会…確かセミナーでしたよね。ユウカさんとノアさんがいる…」
「そう、そのユウカがこの間急に押し入ってきて、「不法な用途の機器の所持は禁止」って」
「『鏡』もそうですし、色々と持って行かれてしまいましたね……私の盗聴器とかも」
「盗聴器って…それ結構危ないものじゃ…えっと」
「コタマです。「音瀬コタマ」、3年生です」
「あ、はい。よろしくお願いします…」
メガネをかけた物静かな雰囲気を受けるコタマさん。さも当たり前のように盗聴器を持っていたことを暴露しているあたり、実は結構危ない人なのではないだろうかという印象を受けた。
「その『鏡』って……そんなに危険なものなの?」
「そんなことは無いよ。ただ暗号化されたシステムを開くのに最適化されたツールってだけ……ただ、世界に一つしかない、私たちの部長が直々に制作したハッキングツールで」
「部長っていうと……ヒマリ先輩?」
「「ヒマリ…?」」
誰のことだろうか。僕とアリスさんは同調するように疑問を浮かべた。
「アリスちゃんとアオトはまだ会ったことないよね、ヴェリタスの部長さんなの。ちょっと体が不自由で車椅子に乗ってるから、見かけたらすぐ分かると思う」
車椅子…そんなに体が不自由なのか。少し心配である。
「すごい人でね。身体のことはあるけど、それであの人に同情したり軽視したりするような人は、少なくともこのミレニアムにはいない。天才……って言うのかな。ミレニアム史上、まだたった三人しか貰えてない学位、『全知』を持ってる人なの」
「『全知』……カッコいい…!何だか神様みたい!」
「神…は言い過ぎかなー?……いやそうでもないかも?」
全てを知ると書いて『全知』。つまりそれほど頭が良くて、天才だということなのだろう。全知なんて言葉、神話以外に中々聞かないのではなかろうか。
──一体どんな人なんだろう…とても知的な爽やかクールでカッコいい人なんだろうな…
「うん、本当にすごい……けど、それはそうとして。その先輩がせっかく作った装備を、どうして取られちゃったのさ」
「……私はただ、先生のスマホのメッセージを確認したかっただけです。そのために『鏡』が必要で……不純な意図は、全く無かったのですが」
先生のスマホのメッセージを確認したいとはもはやプライバシーもあったものではない。なぜコタマさんはほぼ犯罪行為を真顔で堂々と言えるのか、これが分からない。
「私には、不純な意図しか感じられないけど……」
「…先生も大変ですね」
「“まあ、うん。こういうのはいつものことだし、普通だよ”」
「いつものこと」
──本当に大丈夫か…?このキヴォトスって…
何だか自分の生きている世界の常識がおかしいような気がしてならない。そう思い始めた10年目の夏であった。
「うわあぁん!早く『鏡』を探さないと、部長に怒られちゃう!!」
部室にマキさんの悲叫がこだまする。『鏡』のない未来が余程怖いのだろう。やはりヴェリタスの部長、彼女たちを従えているほどだ、相当カリスマ性と権威が溢れる存在なのだろうか。
「とにかく……整理すると、私たちも『鏡』を取り戻したい。それに、『G.Bible』のパスワードを解くためには、あなたたちにとっても『鏡』は必要……そうでしょ?」
するとハレさんが、意味深に話を始めた。ヴェリタスとゲーム開発部は『鏡』が欲しいという目的が一致しているということを強調している。
僕にはそれが、同盟を組まないかと歩み寄ってくる言葉に聞こえてくる。まさかセミナーにカチコミに行くって話ではないだろうな。
「なるほどね……呼び出された時点で、何かあるのかなとは思ってたけど、だいたい分かったよ」
「え、も、もしかして……?」
ミドリお姉ちゃんも、何かを察し始めたみたいだ。
いやまさかカチコミなんて…
「ふふ、さすがモモ。話が早いね」
いやそんなまさか…
「目的地が一緒なんだし、旅は道連れってね」
「共にレイドバトルを始めるのであれば、私たちはパーティーメンバーです」
いやいやいやまさか……
「あの、お姉ちゃん、もしかしてだけど……
──まさかヴェリタスと組んで、生徒会を襲撃するつもりじゃ……!?」
あー、おわったー……
おまけ︰小鈎ハレとの自己紹介
「お、来たねゲーム開発部のみんな……ってあれ?見ない子がいるね?」
「あ、はい。初めまして、才羽アオトです。お姉ちゃんたちがいつもお世話になっています」
「アオト……あー、モモイとミドリの弟だね。そして話題の観音様だ」
「ブッッ!!」
「へ?観音?どこの誰が?………てか何で笑ってんのミドリお姉ちゃん…」