才羽家長男・末っ子10歳   作:Kyob

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さあ、じゃんじゃん行きますよー






P編 第6話 僕も一緒に…

 

 

「でも実は問題があって…」

 

「問題?」

 

 

突如決まったヴェリタス、ゲーム開発部同盟によるセミナー襲撃作戦。『鏡』という『G.Bible』のパスワードを開くために必要なプログラムをセミナーから奪い返そうという意図から計画された今回のこの作戦。社会性も秩序もへったくれもないこの作戦を伝えられた僕は頭が混乱状態になっていた。

 

 

「いや、どんな問題だろうとこれからセミナーを襲撃しようとしている僕たちが一番の問題だと思うんですけど…」

 

「まあまあ、そんな無粋なこと言わないで~」

 

 

確かにこのまま何もしなかったらゲーム開発部は廃部になるかもしれない。だからといってヤクザに片足突っ込むようなやり方をするのはいかがなものだろうか。

 

もうモモイお姉ちゃんはやる気満々なので止められそうにないが。

 

 

「まあとにかく、その問題についてなんだけど」

 

「うんうん」

 

「『鏡』は生徒会の『差押品保管庫』に保管されてるんだけど。そこを守っているのが実は……」

 

 

一度言葉を止め、マキさんは目を閉じ息を吸い込む。覚悟のいる話なのだろうか、意を決したかのように話す。

 

 

「メイド部、なんだよね」

 

 

メイド部とは何だろうか。その部活を口にしたマキさんは清々しい笑顔であったが、その笑顔に嫌な予感がする。

 

 

「……え?メイド部って、もしかして……」

 

「ああ、C&Cのことだよね?ミレニアムの武力集団、メイド服で優雅に相手を「清掃」しちゃうことで有名なあの……」

 

「そうそう!まあ些細な問題なんだけどさ~」

 

「そっか~!そうだねー、うーんなるほど~……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めよう!!!ゲーム開発部、回れ右!前進っ!!」

 

「ええっ!?」

 

 

ヴェリタスの部室に響き渡る怖じ恐れる叫び声。凄まじい勢いで放たれたその声に僕の身体は気が付けば右を向いていた。

 

 

「待って待って待って!諦めちゃダメだよモモ!『G.Bible』が欲しいんでしょ!?」

 

「はいはいアオト、素直に回れ右しなくていいから」

 

「あ、うん」

 

 

モモイお姉ちゃんの言葉に慌てるように止めようとするマキさん。「メイド部」という言葉を聞いて恐れ始めたモモイお姉ちゃんとも合わさって、部室は一気にバタバタとし始める。

 

そして僕はミドリお姉ちゃんに身体を正面に戻してもらった。バタバタしている2人以外から生暖かい目で見られて少し恥ずかしい。

 

 

「そりゃ欲しいよ!でもだからって、メイド部と戦うなんて冗談じゃない!そんなの、走ってる列車に乗り込めとか、燃え盛る火山に飛び込めって言われた方がまだマシ!」

 

「で、でもこのままじゃあたし部長に怒られ……じゃなくて!ゲーム開発部も終わりだよ!このままじゃ廃部になっちゃうんでしょ!?」

 

 

何が何でもメイド部と戦いたくないらしいモモイお姉ちゃんは、マキさんの提案を必死になって拒否していた。だからと言って燃え盛る火山に飛び込めというのはやりすぎな気もするが。

 

 

「廃部は嫌だけど……でもこれは、話の次元が違う。C&Cの「ご奉仕」によって壊滅させられた過激団体や武装サークルは数えきれない……知ってるでしょ?」

 

 

マキさんの提案に空腹の獣のように噛みついていた状態から一変、モモイお姉ちゃんは神妙な面持ちで静かに話し始めた。普段はそんな姿を見せない故に少し驚きである。

 

 

「……最後には痕跡すら残さず、綺麗に掃除される。有名な話だね」

 

「…その、メイド部ってどれだけ危険なんですか?名前だけだといまいちピンと来なくて…」

 

「…いわゆるミレニアムのエージェントで最強の武力集団だね。私たちが御三家を貰ったばかりの初心者トレーナーだとしたらC&Cは四天王クラス。つまり私たちはレベル5の御三家を携えて四天王に挑もうとしているってわけ」

 

「うん、普通に無理ですね」

 

 

ハレさんが有名な某モンスター育成ゲームを例に出してくれたおかげで何となく理解できた。つまり僕たちは圧倒的な戦力差のある相手にケンカを吹っ掛けようというのだ。無謀すぎる。

 

 

「そりゃ部活は守りたいけど、ミドリにアリス、ユズの方が圧倒的に大事!危険すぎる!」

 

 

──あれ、僕は?

 

流石のモモイお姉ちゃんもこの戦いが無理ゲーだというのに気付いているが故に、このケンカは乗り気にならないらしい。

 

モモイお姉ちゃんは昔から本当に危険な一線は弁えているところがある。つまりこのメイド部との戦いは超えてはならない一線だということだろう。メイド部……もといC&Cとはそれほどの相手ということだ。

 

 

「おね…ん……や…り…トを巻き……気は…」

 

「…?ミドリお姉ちゃん?」

 

「あ、ううん。何でもない」

 

 

近くで急にブツブツと呟き始めたミドリお姉ちゃん。一体何を話したかったんだろうか…

 

 

「待って待って、C&Cが危険なのは分かってるって!でもあたしたちはゲヘナの風紀委員会でもなければ、トリニティの正義実現委員会でもないんだから、何も真正面から喧嘩しようってわけじゃないよ。あたしたちの目的は「メイド部を倒す」ことじゃなくて、『鏡』を取ってくることなんだから~……」

 

「そんなに変わらないじゃん!」

 

 

僕たちは『鏡』を取りに行くだけだが、『鏡』を取りたければC&Cとの戦闘は避けられないし、倒さないと難しいかもしれない。

 

確かにそんなに変わらないな。

 

 

「……でも、可能性の無い話じゃない」

 

「私の盗ちょ……情報によると、現在のメイド部は完全な状態ではありません」

 

「えっ?」

 

 

……完全な状態ではない?まだ私は変身を2回も残している的なものだろうか。

 

 

「もちろん、メイド部はミレニアム最強の武力集団。どうして「最強」と呼ばれているのか……それはもちろん、素晴らしいエージェントのメイドが揃っているからというのもあるけど……何よりも大きいのは、「彼女」の存在」

 

 

そう話すハレさんに反応するように、ミドリお姉ちゃんが続けた。

 

 

「メイド部の部長。コールサイン・ダブルオー……ネル先輩」

 

「ネル先輩……ダブルオー……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──えっ、ガ〇ダムなんですかその人?」

 

「「「「「「「……はい?」」」」」」」

 

 

僕のその発言に部室にいる全員が一斉に僕の方を向いた。もれなく全員例外なく困惑の表情である。

 

 

「いや、『ダブルオー』って言うから「私が、私たちがガ〇ダムだ」って言うタイプの人なのかなって…」

 

「あ、いや違う違う違う。ダブルオーってそっちの意味じゃなくて…」

 

「そうなの?てっきり他の人のコードネームも『ケル〇ィム』とか『ア〇オス』とか『セラ〇ィー』とかだと…」

 

「いや違うから。『ソレスタ〇ビーイング』じゃないから。ガ〇ダム何にも関係してないから」

 

 

僕の発言に困惑と呆れが混ざった表情でツッコミを入れるモモイお姉ちゃん。それに同調するように他の皆も呆れの表情をしていた。

 

──何だ、ガ〇ダム関係なかったのか…

 

完全に僕の勘違いだったようで、顔に熱が集まってくるような感覚が襲ってきた。お恥ずかしい限りである。

 

 

「……話を戻すね。そのネル先輩だけど、今彼女は……いない」

 

「……えっ、いない!?」

 

「そう、今ネル先輩は個人的な用事で不在なの。だからネル先輩のいない今なら正面突破を避けて『鏡』だけを持って帰れる可能性がある」

 

 

…話の流れは、大体分かってきた。

 

ミレニアムの最強武力集団「C&C」、その最高戦力とされているらしいネル先輩という人物。その人が今、個人的な用事でいないというこの状況。

 

そのネル先輩というのがどれほど強い人物なのかは僕たちの目の前に大きく立ちはだかっている「C&C」という壁。その城壁を乗り越える絶好の好機が今だということなのだろう。

 

つまり裏を返せば、この好機を逃せばもう次はないかもしれないということになる。特に時間的猶予が残されていないゲーム開発部ならなおさらだろう。

 

 

「正面突破を避けて、『鏡』だけを奪って逃げる……うーん……」

 

 

状況を考えると、こちら側に天は味方しているように思える。C&Cに関して、まだ詳しくはわからないが、少なくとも勝率が低すぎる戦いには感じられない。

 

──チャンスは今しかないだろうな…

 

……正直、少し怖い。そもそも生徒会という学校トップの組織を襲撃するという行為自体が恐ろしくかつ悪いことなのに、最強のエージェント集団まで相手にするとなると尻尾を巻いて逃げてしまいたくなる。

 

きっと上手くいかなかったら、賞を取りに行く前にゲーム開発部の存続が絶望的になってしまうだろう。

 

だが、ゲーム開発部が生き残る道があまり残されていない以上、わずかな希望にも縋らなければならないのも事実。そのわずかな希望に、手が届きそうな可能性が出てきたのならなおさらだ。

 

 

……けどやっぱり怖い。怒られちゃうかも。痛い思いをしちゃうかも。それに僕はゲーム開発部じゃないし…

 

でも、僕は部員じゃないけど…あの場所で過ごした日々は、とても楽しくて、居心地も良くて、まるで雲一つない澄んだ青空のような気持ちでいつも過ごしていた。

 

だからかな……生徒会に喧嘩を売ることよりも、圧倒的な相手に立ち向かうよりも、ゲーム開発部という楽しくて大切な空間がなくなってしまう方が、僕は……

 

 

 

──よっぽど怖い

 

 

 

「……やってみよう、お姉ちゃん」

 

 

静かに僕が覚悟を決めていると、腹をくくったように感じられる声が近くから聞こえてくる。その声がミドリお姉ちゃんから発せられたことに、僕は少し意外に感じた。

 

 

「えぇっ!?でもネル先輩がいないからって、相手はあのメイド部だよ!?」

 

「分かってる、でも……このままゲーム開発部を無くすわけにはいかない」

 

 

少し震えているような声でミドリお姉ちゃんは続ける。

 

 

「ボロボロだし、狭いし、たまに雨宿りもするような部室だけど……」

 

「もう今は、私たちがただゲームをするだけの場所じゃない」

 

「……みんなで一緒にいるための、大切な場所だから」

 

「だから、少しでも可能性があるなら……私はやってみたい」

 

「ううん、もしメイド部と対峙することになっても、それがどれだけ危険だとしても……!」

 

 

 

 

 

 

「守りたいの……アリスちゃんのために、ユズちゃんのために、私たち、全員のために……そしてこの場所を好きでいてくれるアオトのためにも!」

 

 

曇りなき眼でモモイお姉ちゃんを見つめるミドリお姉ちゃん。緑色に輝くその瞳に、一瞬桃色の光を見た気がした。

 

 

「ミドリ……」

 

「私たちならできます」

 

 

ミドリお姉ちゃんに続いて、優しい笑顔でアリスさんがモモイお姉ちゃんに語りかける。

 

 

「伝説の勇者は……世界の滅亡を食い止めるために、魔王を倒します。アリスは計45個のRPGをやって……勇者たちが魔王を倒すために必要な、一番強力な力を知りました」

 

「一番強力な力……レベルアップ?あ、装備の強化?」

 

 

確かに重要だろう。力を付けないと敵も倒せないのはRPGの基本だ。けどアリスさんの反応を見ると、そうではないらしい。

 

 

「盗聴ですか?」

 

「EMPショックとか!?」

 

 

…随分物理的なものを感じる回答だ。それでいてRPGとして微妙すぎる。アリスさんも困った表情をしているではないか。

 

……というか盗聴はコタマさんの趣味なのでは?

 

 

「ち、違います………一番強力な力、それは…

 

 

 

 

──一緒にいる、仲間です」

 

 

「アリス……」

 

 

……なるほど、仲間か。確かにどのRPGでも、1人だけで戦うような勇者はいない。かならず、それを支える大切な仲間がいて…その仲間がいるからこそ、勇者は立ち上がることが出来る。

 

モモイお姉ちゃんにその言葉がどう伝わったかは分からない。けど、頼りになる人を立ち上がらせるには十分だったようだ。

 

 

「……うん、よし。やろう!生徒会に侵入して、『鏡』を取り戻す!」

 

 

決意を固めたモモイお姉ちゃん。その表情にもはや迷いは何一つ感じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

皆が大切なものを守るために決起している。だから僕も、置いていかれるわけにはいかない。

 

 

「…僕も協力するよ、モモイお姉ちゃん」

 

「…アオト?」

 

「僕もゲーム開発部を守りたい…だから一緒に連れてって…!」

 

 

僕もモモイお姉ちゃんに覚悟を示す。

 

決意は既に固めてある。正直足が少し震えているような気がするけど、一緒に戦いたい。

 

だって僕も、ゲーム開発部が大切だから。

 

 

「アオト…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ごめん、アオトはお留守番かな…」

 

 

 

「……………え?」

 

 

お留守番。その言葉を理解して数秒、僕は空気が漏れたような声しか出せなかった。

 

 

「……どう、して…?僕だってお姉ちゃんたちの役に…!」

 

 

納得いかない。僕は飛びかかるほどの勢いでモモイお姉ちゃんに噛みつく。

 

 

「うん、その気持ちは嬉しいよ…?でも……アオトには危険すぎる」

 

「ッ!!」

 

 

モモイお姉ちゃんは、飛びかからんとする僕の肩に手をそっと置いて、僕と目線を合わせるようにかがむ。

 

 

「アオトはまだ体も小さいし、力もそんなに強くない。銃撃戦だって、そこまで経験していないでしょ?」

 

 

優しく、諭すように話しかける。

 

 

「それに、相手はあのメイド部。アオトのことを傷つけるような人たちではないと思うけど、どう対応してくるかは分からない。それに…」

 

 

一拍置いてモモイお姉ちゃんは語りかける。

 

 

「アオトが傷ついちゃったら、私もミドリも……」

 

 

………やめてくれ。そんな顔をされたら、何も言えなくなるよ…

 

 

「…やっぱりお姉ちゃん、最初からアオトを巻き込む気はなかったんだね。あの時アオトの名前を出さなかったから、何となく察してたけど」

 

「あの時…」

 

 

 

──『そりゃ部活は守りたいけど、ミドリにアリス、ユズの方が圧倒的に大事!危険すぎる!』

 

 

 

………そうか、だからあの時僕の名前を…

 

 

 

「…正直、これに関してはお姉ちゃんに賛成かな。やっぱり危険なものは危険だし…それにアオトはゲーム開発部所属どころかミレニアムの生徒ですらないからね。余計巻き込めないよ…」

 

「ミドリお姉ちゃん…」

 

 

僕を見つめる2人の顔が、覚悟にストップをかける。これ以上、深く踏み込む気になれなかった。

 

 

「さっきアリスが仲間が大切だって言った手前、アオトを仲間に入れないのは変な話になっちゃうけど………でもアオトが待ってくれているってだけでもパワーが湧いてくるから!だから私たちの帰りを待っていてほしいな?」

 

 

歯を出してニコッと笑うモモイお姉ちゃん。屈託のないその笑みに僕は何も言うことはなかった。

 

 

「……うん、分かった…」

 

「…ごめんね、アオト………よし、ハレ!何か良い計画とかない!?」

 

 

…確かに僕は高校生の人たちよりは体は弱いかもしれない。でも僕だって徒競走で負けたことはあまりないし、スポーツだって大抵出来る自信がある。

 

そんな僕も、高校生に比べたら守られるようなか弱い存在でしかないということだ。どんなに動ける自信があっても、それは結局同年代の中でしか通用しない能力なのだ。

 

 

 

そんな事実を突きつけられた僕は、ただそれを受け入れるしかない。

 

僕にそっと謝ってからハレさんのもとに向かうモモイお姉ちゃんの姿。

 

僕が見つめるその姿が、徐々に滲んで見えなくなっていった。

 

 

 

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