ごめんなさい、本編を投稿しないといけないのは分かってるんです…
言い訳になりますけど最近、疲れとか何か色々と溜まっていっているせいでキチゲを解放しなくちゃいけなかったんです…
そのキチゲ解放がこのバカ話を書くことだったんです…
もしかしたら今後もバカみたいな番外編を投稿することがあるかもしれません。その時は「ああ、作者疲れてるんだな」って思って頂けたら幸いです…
本編のほうも執筆は続けていますので、今はこのバカ話をお楽しみくださいm(_ _)m
そしてデカグラ完結の感想を一言で。
なんか、心が切ねぇよ……
窓から照らされる太陽の光が、今日はいつもより眩しく、さらには熱く感じます。窓の外を見てみれば、青空の広がる快晴だというのに外を歩いている生徒の数は非常に少なく、どこか静かで閑散とした雰囲気が流れていました。
そんな熱い日光を浴びたセミナーの部室では、今日も休むことなく仕事を続ける私とユウカちゃんの姿がありました。室内の温度は朝からお湯が沸くように上昇していき、温度計には30℃と記録されています。
本日のミレニアムの天気は快晴。気温は34℃。まだ初夏とされているこの時期にしては異常の真夏日を記録しており、熱中症警戒アラートが発令されている事態にまで陥っていました。
かつてないほどの異常気象。ミレニアムの生徒が外に出ず室内に籠っているのもこれが理由です。この時期の私たちはまだ高気温に対する耐性が不十分であり、そんな状態での活動は熱中症のリスクを高めてしまいます。
なのでミレニアムの生徒たちは基本的に室内での活動を余儀なくされているのですが……私たちセミナーはとある問題に直面しているのでした。
先ほども述べましたように、セミナーの部室の室温は30℃。外の気温との差は4℃しかありません。一般的に真夏日と記録される30℃という高温、これは人間が一日中活動するには非常に危険な温度です。熱中症のリスクが非常に高まります。そのため早急に室内の温度を下げる必要があるのですが……
ここでセミナーが現在抱えている問題、エアコンの故障が私たちを襲います。
昨日の段階で故障が判明したセミナーのエアコン。翌日の気温が真夏日になるということ知っていた私たちはすぐさまエンジニア部に修理の依頼を出しました。
ありとあらゆる機械を開発、修理することが出来るミレニアムが誇るマイスター集団。そのエンジニア部はいつもなら早急に修理に来てくれはずでしたが、どうやらエンジニア部の方にもトラブルが起きてしまっているようでした。
それは、ほぼ同タイミングでのエンジニア部のエアコンの故障、それの修理というトラブルです。
特にエンジニア部の工房は他の部室に比べ非常に広く、その関係上エアコンも非常に大きなものを使用していました。加えて高機能であり高性能のエアコンであるが故、修理は難航しているようであり私たちのエアコンを見てくれる余裕が今は無いと言っていました。
結果、エアコンは壊れたまま今日という真夏日を迎えてしまったのです。
本来、このような高気温の日に私たちを守ってくれる頼もしい存在であるエアコン。そのエアコンが壊れた今、私たちを暑さから守ってくれるのは小さな扇風機の1台のみ。
『ないよりかはマシ』という言葉がこの世に存在している通り、少なくとも滴る汗が風に冷やされる感覚で何とか乗り切れてはいますが……室内の温度を一気に下げることが出来るエアコンと比較しますと頼りなさを感じてしまいます。
それに加え仕事の膨大さから私たちは三徹目を迎えており、体力思考力が著しく低下しているこの状態でのこの高気温。仕事が進む速度は徐々に低下してきているのでした。
エアコンのある他の部屋で作業したいという想いはもちろんあります。しかし機密文書を扱っている以上、この部室以外での作業は避けるべき行為です。
そのため、今はとにかく耐えなければなりません。エンジニア部がエアコンを修理しに来てくれるまでは。
「大丈夫ですか…?ユウカちゃん……」
私は対面に座っているユウカちゃんに声をかけます。
既にセミナーのジャケットを脱ぎ、ネクタイを外した半袖ワイシャツ一枚のみの姿になっているユウカちゃんですが、その額からは滝のように汗が流れ落ちています。ワイシャツも汗ですっかり湿り、ワイシャツが肌にピッタリと張り付いていました。
机の周りには空いた500mlの水のペットボトル10本以上が散乱しており、この部屋の暑さを物語っています。
「ええ……大丈夫よノア……」
俯いたままいつもより非常に弱々しい声で返答してくるユウカちゃん。明らか暑さにやられてしまっています。
このままでは危険です。ユウカちゃんが倒れてしまいます。
ここは一度ユウカちゃんを休ませるべきでしょう。仕事が止まってしまう恐れはありますが、そんなことを言っている場合ではありません。なによりもユウカちゃんが大事です。
「ユウカちゃん、少し休みましょう…気分転換ついでにクーラーのある部屋に……」
そこで私はエアコンの置いてある場所としてゲーム開発部を勧めようと思い……止まりました。ここでゲーム開発部の名前を出すのは危険です。
思い出すのはいつかの記録。今日と同じように三徹目を迎えていたあの日。
仕事に追い詰められて非常に辛そうなユウカちゃんに、私は気分転換にユウカちゃんの大好きなアオトくんに会うよう勧めました。その選択が大きな過ちだと気づかずに。
あの日、アオトくんに会いに行ったユウカちゃんは唐突にアオトくんを弟にすると宣言。結果的にゲーム開発部全員を巻き込んだ大暴走へと繋がりました。ゲーム開発部の証言では、その時のユウカちゃんは何やら赤い蒸気のようなものを纏い、アリスちゃんを超えるパワーを有していたとのこと。
最終的になぜかコユキちゃんを持って帰ってきて可愛がるという結末に落ち着きましたが、ゲーム開発部とアオトくんにとってあの出来事がトラウマになったのか、しばらくユウカちゃんを避ける時期が続いていました。その時のユウカちゃんの落ち込みぶりは凄まじかったです。
そんな出来事があったせいか、今のユウカちゃんをむやみやたらにゲーム開発部に近づけるのはリスクがあります。しかも今日はアオトくんが遊びに来ている日。ユウカちゃんの暴走トリガーはそろっているのです。
「ヴェ、ヴェリタスなんてどうでしょう?あそこは日も入らないですし、きっとクーラーも強めに効いていますよ?」
「ヴェリタス………ねぇ……」
ヴェリタスならきっと涼しいはずです。あそこはコンピューター等の熱で暑くなることがあるので、エアコンを強く効かせることが多かった記録があります。この前訪れた時も、設定温度を18℃にしていたので今日もエアコンをしっかり付けているはずです。
「クーラー……クーラーのある部屋……」
「……そうしましょう?ヴェリタスなら涼しいですよ?綺麗な青空が見えないのは残念ですけど……」
非常に暑い日なのは間違いないのですが、それ以上に今日は快晴。まさに透き通るような青空が広がる日です。
ヴェリタスでその青空が見れることはないのですが、涼みにいくだけなら問題はないでしょう。
「綺麗……青空……青……」
「……ユウカちゃん?」
私がその提案をユウカちゃんにしたところ、急にブツブツとユウカちゃんが呟き始めました。俯いたまま、何かを唱えるように。
「青空……青……アオ………アオト……」
……あら~?
気のせいでしょうか…いまアオトって言ったような……
私がユウカちゃんの言葉に耳を疑っていると、ユウカちゃんはおもむろに席を立ち始めました。
そしてそのまま部室の出口に向かい……
「……ありがとうノア。ちょっとゲーム開発部に顔を出してくるわね」
「……へっ??ヴェリタスじゃなくて……?」
「ええ。ちょっと……」
「アオトくんを弟にしてくるわ」
………えっ、嘘ですよね?
『青空』という言葉から連想ゲームのようにアオトくんに繋げたというのですか……?
そしてアオトくんという言葉を連想させてヴェリタスではなくゲーム開発部を選んだと……?
「ちょ、ちょっと待ってくださいユウカちゃん!」
───バタン
慌てて私はユウカちゃんを制止しようと試みますが、時すでに遅し。ユウカちゃんは既に部室から出て行ってしまいました。
……これは非常にまずいことになってしまいました。三徹目のユウカちゃんにアオトくんのいるゲーム開発部。まさにあの事件の再来を予感せざる負えません。
さらに今回は暑さによる思考力のさらなる低下というおまけ付き。これが一体何を意味してしまうのか……想像するだけで頭を抱えてしまいそうです。
果たしてこれからゲーム開発部で何が行われてしまうのか……どのような悲劇が待ち構えているのか……
まあ、どうにでもなれ~♪(三徹目)
―――――――――――――――――――――――
「ハイサァァァァァァァァァイッッ!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああっっ!?!?!?!?!?!?」
私はいま、轢き殺された。
懇切丁寧に育て上げたウイングスターが、アオトの駆るハイドラによって。
「ウ゛ッ゛キ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!!!今年は申年ィ!!!!」
「ああっ、ダメ!アオトに近づけない!!」
「こ…こういうときは逃げ一択…」
いま起きた惨状を目の前にミドリとユズは逃げを選択。散らばるように、ハイドラから離れるように走っていくミドリたちだったが…
「あっ、ミドリお姉ちゃんみーーーっけ!!」
「ひっ!?」
一瞬でミドリのデビルスターを視認したアオトが、ミドリに向かってハイドラを走らせていく。
必死に逃げるミドリだったが、持っているステータスの差、そして何よりマシンの性能の優劣は埋まることなく距離が近づいていき……
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛っ゛っ゛っ゛!!!!!」
「きゃああああああっ!?!?!?」
ミドリも無様に轢き殺された。赤子を捻るように、一撃で。
私とミドリ、二人して実の弟に粉砕されるこの状況。一体なぜこのようなことになってしまったのか。
つい先日、発売された『クービイのエアライダー』。おそらく私たちが生まれるよりも前に存在していた『クービイのエアライド』のリメイク版であり、長年ファンに待望されていたゲームである。
実際、このゲームが発表されてからというものネット上では酔いどれ踊り狂えのお祭り騒ぎ。SNSでは連日話題となり、いかにこのゲームが待ち望まれていたのかがよく分かるほどの大盛り上がりであった。ゲーム好きの私たちも、エアライドを何回も遊んでいたのも相まって発売を心待ちにしていたのだ。
そして発売日に購入し、私とミドリとアオトとユズとアリスの5人でシティトライアルを遊んでいたのだが……
既に何十回目かのプレイでアオトが伝説のエアライドマシンである『ハイドラ』を完成させたのだ。
ここまでのプレイで大体みんな一度は伝説マシンに乗っていたのだが、アオトだけ未だ乗れずという中でのハイドラ完成。おそらくアオトは舞い上がったことであろう。
そして完成してからというもの、近くにいたCPUを一撃で粉砕してからアオトの様子はおかしくなった。今までウイングスターを使って安全に浮島を狙う戦法を取っていたアオトが、何かに目覚めたかのように他プレイヤーの破壊に方針を変え始めたのだ。
しかも当たればほぼ必ずマシンを破壊できる攻撃力。目に映った敵を一方的に蹂躙できる爽快感。それらの要素にアオトのテンションが上がらないはずもなく、ハイドラ完成後ものの数秒でアオトのテンアゲモードも完成してしまったのである。
そこからはご覧の通り、奇声を発しながら私たちを粉砕するために襲い掛かってくるモンスターと化したアオトに少々引き気味になりながら逃げ回る地獄絵図の完成だ。
「ギャハハハハッ!!ごめんねぇ、強くてさァ!!!」
「ちょっと、誰かアオトを止めれないの!?このままじゃパワーアップアイテム全部アオトに搔っ攫われちゃう勢いなんだけど!!」
「無理無理!!ハイドラに勝負を挑むのは自殺行為だよお姉ちゃん!!」
まさに阿鼻叫喚の嵐。暴走状態のアオトを止めるすべは何処にもないのか…!?
「いえ、アリスに任せてください!」
「アリス!?」
「アリスちゃん!?」
そう思っていた所で、やあやあと声を張り上げたのは我らがゲーム開発部の勇者担当のアリスであった。
皆が逃げ回るように走る中、アリスだけは勇猛果敢にハイドラへと近づいていく。
「私にはこの……攻撃力をモリモリに上げたバトルチャリオットがあります!」
そう自信満々に宣言してハイドラへ突撃していくアリス。
しかし待ってほしい。確かネットの情報だと最強と謳われるバトルチャリオットでもハイドラには……
「ほう…向かってくるのか……逃げずにこの僕に近づいてくるのか……」
「近づかないと……アオトを打ち倒せませんから!」
こうして向かい合うハイドラとバトルチャリオット。小細工なしの力比べになるのだが……
「ま、待ってアリス!バトルチャリオットじゃハイドラには……!!」
私はアリスを止めるために叫ぶが、その叫びは虚しくも届かず……
「ユニバァァァァァァス!!!!」
「URYYYYYYYYYY!!!!!!」
両者の叫びと共に、想いがぶつかり合った。
「……!?なんで…どうして……!?」
そして両者がぶつかり合った結果、そこには大ダメージを受けてボロボロになったバトルチャリオットと、ピンピンしているハイドラの姿があった。
「フハハハハッ!!貧弱貧弱ゥ!!ちょいとでも僕に敵うと思ったかマヌケがァ!!」
確かにバトルチャリオットは強い。攻撃力はトップクラスに高く、ぶつかり合いになればこのマシンに太刀打ちできるものなど存在しないだろう。
しかしそれは通常マシンの中での話だ。
伝説マシンとは、通常マシンとは比べ物にならないほどの高性能である。特に破壊の権化、暴の化身と言っても過言ではないハイドラの攻撃性能はバトルチャリオットを優に上回る。
たかが通常マシンのバトルチャリオットで、伝説マシンのハイドラに勝てるはずが無かったのだ。
「ダ、ダメです……一度引かないと……」
既に満身創痍となっているバトルチャリオット。何か一撃でも掠れば簡単に破壊されてしまうこの状況で、アリスに再びハイドラに挑むという選択肢は存在していなかった。アリスはハイドラに改めて向き合うことはせず、そのまま逃げるように加速していく。
しかし、アオトはミリ体力のバトルチャリオットを見逃すつもりはないようだ。
「どこへ行こうというのかね?」
アオトはハイドラを反転させ、バトルチャリオットに狙いを定める。そのままブーストマックス状態を維持したままバトルチャリオットへ突撃を開始した。
ハイドラは暴の化身。それ故に性能は攻撃力に全振りされていると勘違いされているがそれは間違いだ。彼は伝説のマシン。通常マシンとは格が違う。
つまり何が言いたいか。ハイドラは攻撃性能だけが優れているのではない。スピード性能まで優れているのである。最高速度まで乗るのに時間が掛かったり、チャージに時間が掛かったりするという癖もあるが、最高速度はありとあらゆるマシンの中でもトップクラスの性能なのだ。
つまり……
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!!」
「うわああああああああん!!!!!」
逃げるバトルチャリオットには、簡単に追いつけるということだ。
追いついたハイドラはそのままバトルチャリオットを轢き殺し、アリスもまたハイドラの犠牲者となってしまった。
徹底的に全員のステータスが下がっていき、アオトのステータスだけがどんどん上がっていく。もはやアオトに敵など存在していなかった。
「うう…とにかくアオトに近づかずにパワーアップアイテムを集めないと……」
私は近くにあったワープスターに乗りながら青コンテナを破壊していく。近くにもう一つ青コンテナがあるのでそれも破壊しに行きたいが、さっきアオトに蹂躙されてからステータスが落ちてしまっているため初期状態かと言いたくなるほど速度が遅い。
しかし嘆いている暇はない。シティトライアルとはそういうゲームなのだ。誰にも干渉せずスタジアムに向けて虎視眈々とパワーアップアイテムを集める者もいれば、ひたすらに相手を狩りつくして悦に浸る戦闘狂のような者もいる、まさに有象無象が蔓延る魔境。
それがシティトライアルだ。いちいち癇に障っていては保たないものも保たなくて……
「はいドーンwwwwwwwwww」
「はああああああああっ!?!?クソがああああああああっ!!!!!」
青コンテナを破壊し、次の青コンテナに向かおうとしていた矢先、画面外から現れた一般通過ハイドラに破壊されるワープスター。まさか後ろから狙ってきているなんて思ってもおらず、つい汚い言葉を吐いてしまった。
アオトめ…2回もやりやがったなコノヤロウ……!この恨み、晴らさでおくべき…
……いや、落ち着け落ち着け。まだ30秒は残っている。早くマシンを探して少しでもステータスを整えなければ……
近くにあるマシンは…ペーパースターだ。
ペーパースターは防御力が文字通り紙性能な代わりに、軽さと飛行能力の高さで空中戦が得意なマシンだ。これに乗りさえすれば、ステータスが低くても空中系スタジアムで上位に入ることが出来るはず。
すぐさまペーパースターに近づいて乗り込む。乗り込む際に「ペーパースター!」という男の声がゲームに響いて……
───その声の途中で、ふと画面内に現れた一つのマシン。それは暴の化身と評される破壊神。
一体なにをとち狂ったのか、私を轢き殺した後すぐさま旋回し、近くにあったペーパースターに照準を合わせたというのか。
そのままその破壊神……ハイドラは、私が乗りこんでいる最中のペーパースターに近づき………
「ホゥアwwwホゥアwwwファーッハッハハォゥwwww」
「あああああああああっっ!?あああああああっっ!!!テメェェェェ!!!!なぁにしてんだァァッ!?!?!?」
見るも無残に破壊された。ただでさえ乾きかけている雑巾のようなステータスの低さだというのに、搾りカスのようにパワーアップアイテムが散っていく。
3回もやったぞ!?あのやずやですら2回なのに!!
2回どころか3回も私を破壊したアオト。しかも3回目はリスキルという容赦の「よ」の字もない鬼畜の所業。あまりにもあんまりな私の扱いにフラストレーションは臨海突破を起こしかけていた。
そして近くにマシンがあるわけでもなく、残り数秒となったタイミングでマシンが現れても時間が足りず、私はマシン無しステータス無しでタイムアップとなったのだった。
「ふぅぅぅぅぅぅ……快ッッ感……」
「何が快感だ貴様ァァ!!」
シティトライアルを終えて快感とほざくアオトに向かって、私はコントローラーを投げ捨てて爪を立てた猫の如く飛びついた。アオトを倒し馬乗りになりながらアオトを押さえつける。
「そうだよねぇ!あれだけ暴れればそれは快感だよねアオトォ!!」
「ちょ、ちょっとモモイお姉ちゃん!?重い!重いよ!!」
「うるさい!!私を3キルして気持ちよくなりやがってぇぇぇ!!!」
「気持ちよくって…!モモイお姉ちゃんもさっきハイドラで気持ちよくなってたじゃん!!普通に僕を2キルくらいしてたよねぇ!?」
「関係ないんだよそんなのっ!!それとこれとは話が別!!くらえっ、こちょこちょ攻撃ィ!!!」
「理不尽ッ!理不尽だよモモイお姉ちゃ……あはははっ!!ちょっ…やめて!こちょこちょしないでぇ!!」
フハハハ!!いい気味だよアオト!!
私に押さえつけられて逃げられないこの状況でのこちょこちょ攻撃はさぞ辛かろうて!!
私のこちょこちょを喰らってドタドタと暴れまわるアオトをひたすらイジメる快感に浸っていると、後ろからミドリに声をかけられた。
「ほら2人とも、次スタジアムだから準備して……」
「なるほど…これが形勢逆転……いえ、一転攻勢ですか…!」
ミドリにそそのかされ、私は渋々アオトから離れてコントローラーを握る。
ちぇっ、せっかく心地よくアオトをいじめてたのに……
そんなことを思いながら私はリザルト画面に映っている各プレイヤーのステータスを見る。その画面に映っていたのは、絶望的と言えるほどのステータス格差であった。
アオトの駆るハイドラのステータスは140。その上攻撃力と最高速がマックスである。飛行性能も申し分なく割り振られており、向かうところ敵なしという盛っぷりであった。
対して、私のステータスは何とたったの15。マシンもライトスターと貧弱そのもの。これでどうやって戦えばいいんだ……
他の皆のステータスも大体50近くであり、唯一アオトの被害を受けていないユズが80くらいという結果であった。そんなユズのリザルトを見て、本当によくあの状態のアオトから逃げられたなと感心してしまう。
「いやー、これはスタジアムも勝ったでしょ?ムキムキだもん僕」
独り言のようにつぶやくアオト。まだ勝負は分からないと反論したいところだが、ぶっちゃけアオトの勝利は約束されていると言っても間違いではないほどのステータス格差があるので何も言えない。
何となく各々も、次の戦いに期待しようという諦めムードが漂ってきており、戦う前から試合終了といえる雰囲気になってきていた。
そして誰かがAボタンを押し、スタジアム選択画面へと移動する。ハイドラの絶対有利なデスマッチは避けたいなとか、ボス戦だったら勝確だよなとか思いつつ次の画面が表示されるのを待つ。
どんな四択が出るのだろう。少しでも勝率の高くなりそうなスタジアムが出てほしいと願いつつ画面を見ると、そこに表示されていたのは……
ごちそうを食べまくれ!
「……あれ?今回は強制ランダムだったんだ」
強制的にスタジアムが決定したのを見て、目を少し開きながら受け入れる。まさか今回は四択から選べないパターンだったのは思わなかった。
エアライダーのシティトライアルは、後半のスタジアム決戦場を四択の中から選ぶシステムになってはいる。しかし、偶に強制的にランダムで一つのスタジアムが選ばれてしまう場合があるのだ。今回はそれが適用されたパターンだったらしい。
グルメレース。クービイシリーズではお馴染みと言えるようなミニゲームの一つであり、ルールはご飯を食べまくるという単純明快なものになっている。そして、誰が一番ご飯をいっぱい食べれたかが勝敗の基準だ。
これに関しては最高速とか攻撃力とかそういったものよりも、いかに旋回力を鍛えて小回りが利くようになるかが勝利の分け目になるというスタジアムである。食べ物を取るためにはいっぱい曲がる必要があるからね。
これなら希望が数%は残っているかもしれない。なにせ物理的な殴り合いや直線的な速さ比べは必要ないからだ。
私の心に少しの余裕が出来たのを感じて、みんなの反応はどうだろうかと周りを見る。ミドリもユズもアリスも悪くない反応だ。特にユズ、結構余裕そうな表情を浮かべていた。
「あー、そういえばユズが乗っていたマシンって…」
「うん、ウィリースクーターだよ…」
小回り性能トップクラスのスクーターに乗っているのか。道理で余裕そうな表情を浮かべるわけだ。
でも別にユズだけが有利というわけではない。アリスはあの後チャリオットに乗り換えていたし、ミドリはワープスターに乗っている。どのマシンも乗りやすさに関しては申し分ないだろう。
これは案外良い戦いになりそうだと感じる。それくらい皆の表情が生き生きとしていたのだ。
───たった一人を除いて。
アオト。さっきまで散々ハイドラで暴れ散らかしていたアオトだけは生き生きといた表情とはかけ離れた、負の感情が見え隠れしていた。
目をガン開きさせながら顔は笑顔で。しかしピシッと音が聞こえるような、石のように固まった佇まいで画面を見ている。そのまま押したら倒れてしまうのではないだろうか。
その上、纏う雰囲気は真っ白であり、アオトの周りだけ負の空気が霧散している。
同じくアオトを見ていたミドリと目が合う。数秒間見つめ合った後ミドリは私から顔をそらし、口元を押さえながら俯いた。プルプルと体が震えており、明らかに笑いを堪えている。
最高速が最大かつ加速も高めのハイドラに乗っているアオト。これがグルメレースでどのような影響をもたらすか、何回もこのゲームを遊んでいた私たちは予測出来てしまったのだ。
そして画面が切り替わり、いよいよ始まるグルメレース。私は緩む口元を必死に抑えながらグルメレースの戦いへと臨むのだった……
―――――――――――――――――――――――
「あははは……えーっと、ハイドラのグミ貰っていくね?」
「ぶえええええええええ!!!!!!」
グルメレースの決着がついてすぐ、部室にアオトの泣き声が響き渡る。
画面には、1位ユズ、2位アリス、3位ミドリ、4位アオト、5位私という順位が映し出されており、ステータスを盛に盛ったアオトがなすすべなく撃沈したであろうことがよく分かった。
ハイドラは攻撃力と速度はトップクラスであるが、小回りが利くようなタイプのマシンではない。むしろ、速度を上げすぎてしまえばプレイヤー側の制御が利かずに暴走してしまう危険性があるのだ。
そして今回のスタジアムが『グルメレース』という小回りが重要視されるスタジアムであったが故、最高速が最大値にまで高まった制御不能のハイドラではあまりにも分が悪かったのである。
結果として、小回りのよく効いたマシンを選んでいた3人が順当に上位にランクインし、ハイドラを使ったアオトが4位に落ち着いてしまったというシティとライアルの結果にしては少々可哀そうなものになってしまった。
……え、私?どうして私が最下位なのかって?ステータス15のライトスターではお話にならなかったからだけど?なんか文句ある?
そこはまあ、置いておいて。先ほどから泣いているアオトがいる方を見ると、ミドリのお腹に顔をうずめて泣きわめくアオトの姿がそこにあった。ミドリはそんなアオトの頭を撫でつつも笑いと呆れの入り混じった表情でアオトを慰めている。
「はいはい、ハイドラ使ったのに勝てなくて辛かったね~……でもアオトも少し調子乗りすぎたから反省しないとね?」
「う゛う゛ぅ゛…………ズビッ…う゛ん゛、ごべんなさい……」
そういってアオトは顔を上げて鼻をズビズビ鳴らしながら皆に謝った。友達同士のゲームならあれくらい普通なような気もするけど、一応謝罪は受け取っておこう。なにせこの戦いにおいて一番の被害者は私だから。
ユズもアリスも気にしていないだろうし、そもそもこのゲームは友情破壊ゲームの一面もあるから今更感あるし。
とにもかくにも戦いは終わり、直ぐにまた新たな戦いの火蓋が切られる。エアライダーとはそういうものだ。さくさくと連戦が出来る良いゲームです。
「ほら、次いくから準備してー」
「次こそは良いマシンに乗りたい…もうライトスターは勘弁!」
「アリスも久しぶりに1位が欲しいです…!」
「…次はバトルチャリオットで戦ってみようかな……?」
「うう…僕は浮島狙いが性に合ってるのかな……」
鼻水の付いた服をティッシュで拭きながら皆に準備を促すミドリと、それに応えて準備を完了させるみんな。もはや数えきれないほどシティトライアルで遊んでいるが、誰も疲れたとも飽きたとも言わない。ずっと遊んでいられるゲーム、それがエアライダーだ。
全員の準備は完了。あとはスタートを押すだけ。
「よーし!もう何回やったか覚えてないけどまだまだ行くよー!じゃあ、はりきっていこ────」
バアァン!!!!
「「「「「!!!?」」」」」
突如響いた、謎の爆音。あまりの唐突さに心臓がビクンと弾け、体も飛び上がりそうになる。そして部室に流れてくる生暖かい空気。どうやら部室の扉が開かれたようだ。
何が起きたと思い後ろを振り返ると、そこには1つの人影があった。あまり見ない半袖のワイシャツを身にまとい、軽く息を荒げているその正体は……
「はああああああ………涼しいわねこの部屋………」
セミナーの会計担当、冷酷な算術使いこと早瀬ユウカであった。
「…え?ユウカ??どうしたの急に??」
「ユウカさん?こ、こんにちは、お邪魔していま………ッ!?!?!?」
皆も振り返って、ユウカのことを見つめている。そしてアオトがお邪魔していると言いかけていたその時、唐突に声にならない声をあげるアオト。
いきなり何事かとアオトの方を見ると、ユウカから思い切り顔をそらしているアオトの姿があった。ここからでは顔が見えないが、なんだか顔全体…耳まで真っ赤に染まっているように見える。
「ど、どうしたのアオト…?そんなに顔を真っ赤にして……??」
「ユッ、ユユユユユユウカさん!?すっ、すけっっ、すけけけっ!?!?」
「……はい?すけけけ??」
「すっっ、透けてますユウカさん!!」
透けている。そう言ったアオトの言葉を意識しながら改めてユウカを見ると……
「……あーーーっ!!!ユウカ、ブラが透けちゃってるよ!?!?」
確かに透けていた。汗なのか何なのか分からないが、湿ったワイシャツが肌にぴったりと張り付き、中に付けていた黒色のブラがしっかりと見えてしまっていた。まさにセクシーユウカである。
どうしてブラの上にキャミソールとか着ていないんだ……?
「…本当だ!?ちょっと、隠してくださいよ!!アオトにこういうのはまだ早いんですよ!?」
「はあ?嫌よ、暑いし」
「いいから隠せこのバカユウカァ!!」
ミドリも気づいたのだろう、慌ててアオトの眼を両手で塞いでユウカに文句を言う。しかしユウカは何故だか嫌とほざく。暑いからとか言っているが、年齢的にまだこういうのが劇薬になる男の子がこの空間にいることが分からないのだろうかこの女は。
私はせめて隠せと、とりあえず近くにあったジャケットをユウカに投げつける。
なんだか不服そうな表情であったが、いいから着ろと念を送るように睨みつけたら渋々と着てくれた。今日は外が凄く暑いみたいだけど、クーラーをガンガンに効かせているこの部屋ならその格好でも暑くはないはずだ。
そしてちらっと周りを見る。ミドリはアオトの目を隠していたが、ユウカがジャケットを羽織ったのを見てアオトから手を離した。ユズは普通にアワアワしていたし、アリスはそもそも何が何だか分からないような表情を浮かべていた。
「はあああああ……いきなりドッっと疲れちゃったよ……」
「本当だよお姉ちゃん………で?一体なんの用なんですか?」
深い深いため息をついた後、改めてユウカを見る。一体ユウカは何をしにここまで来たのか……
そう思って見ていると、ユウカの顔に違和感を覚えた。目元の深い隈、赤く充血した目、そしてやつれているような表情。まるであの日と同じようなユウカのコンディションに、私は非常に嫌な予感に苛まれる。
思い出すのはあの日、赤い蒸気を身にまとい、私たちに襲い掛からんとするユウカの姿……
「あーそうそう、ちゃんと要件を済まさないとね」
そう言いながらユウカはこちらに近づいてくる。いや、具体的に言えばアオトに向かって近づいてきていた。
そしてそのままアオトの右腕を掴もうとして……
「ちょっとアオトくん貰っていくわ…「「はいストップストップストップ」」
その手がアオトに届く前に払いのけてユウカの手を拘束する。この女、またしてもやろうとしやがった。また何の問題もないようにアオトに目を付けやがった。
「ねえユウカ、もうやったよねこれ?2回目だよね??」
「おかしいですよね??本当に出禁にしますよいい加減にしないと??」
ミシミシという音をたてながらユウカの腕を握る私とミドリ。握られているユウカはというと、平然とそれでいて「なぜ?」と言いたげそうな顔でこちらを見つめていた。
「…なによ?アオトくんは私の弟になってこれからハネムーンに行くのよ。邪魔しないでくれる?」
「『邪魔しないでくれる?』じゃないですよ?勝手に人の弟の戸籍をいじろうとしないでもらえませんか??」
「そうだよ?ていうか弟にしてからハネムーンってなんなのさ。弟にしたいのか夫にしたいのかどっちなの??」
「それは……望むべくは両方ね。弟と夫、両方合わせて『おっとうと』なーんて……フフッ」
「殴るよホントに?」
何が『おっとうと』だよ、クソつまらねぇギャグ披露しやがってこの女。
「はあ……本当にアオトくん関連になると貴方たちは頭が固くなるわよねぇ?そんなに私は信用がないのかしら?」
「うん。少なくともアオト関連の信用度は地の底まで落ちていると思ってくれてもいいよ?」
「酷いわねぇ……私はただアオトくんに優雅な日々を過ごしてもらいたいだけなのに……まあその時間を一緒に過ごすのはユウカなんだけどね……フハッ」
「アリス~、スーパーノヴァいけるー??」
「はい、既にエネルギーは100%ですが……良いのですか?入口まで吹き飛ばしてしまいますけど……」
「いいよいいよ。どうせセミナーの経費で直させるから」
あまりにもクソつまらなくてやかましいギャグを突っ込んでくるユウカには、アリスのスーパーノヴァをおみまいしてあげよう。
アリスもユウカの横暴な態度とつまらないギャグに対して無に近い表情をしていた。そして何のためらいもなくスーパーノヴァのエネルギーチャージをしていたのだから恐らく私たちと同じ思いを抱えていたかに違いない。確かに前回も酷い目に合っていたからね、仕方ないね。
その横でアワアワしているユズは相変わらずだが、止めようとしないあたり多少の思うところがあるのではなかろうか。
そんなことを思っていると、スーパーノヴァの射線上に人影が飛び込んできた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいアリスさん!ストップ!ストーップ!!」
アオトだ。アオトがアリスと止めようと射線上に飛び出してきたのだ。
「え…?しかし……」
「いいから止めて!気持ちは分からなくもないですけど1回止めてください!」
「は、はい……」
そのままアリスを止めた。なぜ止めたのだろう…狙われているのはアオトだというのに。
「なんで止めたのアオト?いま撃っておいた方がアオトのためになると思うんだけど…?」
「そうかもしれないけど……少し気になることがあって…」
「気になること?」
「うん。ちょっとユウカさんの様子のおかしくなり方が前回と少し違うから、前回と変わったところがないかなーって観察してたの」
観察…?確かに前回と違って、クソつまらないギャグを連発するタイプのイカレ方だと思うけど……
そう思考を巡らせていると、アオトはユウカにピシッと指をさした。
「まずはユウカさん。また徹夜したんですか?」
「…?ええ、三徹目よ」
「やっぱり……」
ユウカの三徹目発言に顔を項垂れるアオト。相変わらずユウカは忙しそうだ。忙しいならなおさら私たち相手に暴走しないでほしいのだが…
だが三徹だけだったら前回と変わらない。今回のユウカ変異型の説明にはならないだろう。他の理由があるのだろうか…?
そしてアオトは、項垂れた顔をすぐに戻して続けた。
「そしてもう一つ。ユウカさん、顔が少し赤いような気がするんですけど……暑いんですか?」
「……アオトに発情してるからじゃない?」
「モモイお姉ちゃんは黙ってて」
アオトの言葉を理解するために、今一度ユウカの顔を見た。確かに少し赤くなってはいるが……
「……ええ、暑いわ。正直このジャケット脱ぎたいんだけど」
「それは僕の精神衛生上の問題でダメです……それにしても、やっぱりそうでしたか…」
「いや暑いって……この部屋クーラーかなり効かせてるよ?それにユウカだってさっきまでセミナーの部室にいたんでしょ?部室のクーラー回してなかったの?」
「それは……壊れているのよ、セミナーのクーラー………」
「へ?壊れた??」
クーラーが壊れたって……それは今日に限ってはかなりな死活問題なのではなかろうか…?
今日の気温は確か最高気温が34℃だったはず。そんな日にクーラーなしで過ごすのはサウナの中で1日過ごしてくださいと言っているようなもの。つまりあのワイシャツがびしょびしょだった理由は暑さによる汗のせいだったということ…?
「だからまあ、ユウカさんがいつもよりもおかしい理由は……」
「……素直にイカレてるって言っていいと思うよ?」
「僕は遠慮しておくよ……で、ユウカさんがいつもよりもおかしい理由は……」
「暑さにやられた……いわゆる軽い熱中症だと思うんです」
熱中症。暑さによる影響で体に異常をきたし、場合によっては命に係わる症状だ。
見た感じ命に影響を及ぼすような状態には見えないので、熱中症とはいえ軽度だというのも頷ける。もしくはそもそも熱中症ではないのかもしれないが、暑さにやられているのは確かなのだろう。
「なので……とにかく今は涼しい場所にいてもらいましょう。水分も摂って体を休めた方が良いと思います。それでいいよね、モモイお姉ちゃん?」
「……はあ、仕方がないなあ。大人しくしてくれるなら、しばらくここで休んで行ってもいいけどどうするユウカ………ユウカ?」
とりあえず熱中症の疑いがあるのなら今は涼しいこの場所にいてもらったほうがいいだろう。アオトもユウカの身を案じてかそのような提案をしてきたし、仕方がないからユウカには休んでもらうとする。
そう思ってユウカにも声をかけたのだが……
「熱中症……ねっちゅうしょう……」
「……え、どうしたのユウカ?」
急に俯いて『熱中症』と連呼し始めたユウカ。ブツブツと呪文のように呟くその姿は中々の恐怖だ。やはり暑さでかなりおかしくなっているのだろう。
私とミドリはユウカから手を離し、私は冷蔵庫から水を、ミドリはクーラーの温度を下げに行く。
「おーいユウカ?とりあえず一回水飲もうか?ユウカー?」
「ねっちゅうしょう……ねえちゅうしょう……」
……ん?なんだか熱中症の単語が変わっていっていないか?
気のせいだよね……?
「ねえちゅうしょう……ねえ、ちゅうしょう……ねえ、ちゅう、しょう……」
「──ねえ、チューしよう…?」
「「「「「は??」」」」」
今、とんでもないこと言わなかったかこの女。
何かの聞き間違いではないかと耳を疑っていると、ユウカがニチャア…と顔をゆがめてアオトの方を向き……
「あはっ…♡仕方がないわねアオトくん…♡そんなにしたいなら……してあげる♡」
大量の白い蒸気を噴き出しながらこちらに近づいてきた。
「……え?ちょっ……えっ!?嘘嘘嘘嘘嘘!?嘘だよねユウカ!?!?」
「いや…いやいやいやいやいやそんな小学生みたいな言葉遊びで……!?と、止まってください!止まれ!!」
『熱中症』をゆっくり言うと、「ねえ、チューしよう」という言葉に聞こえるという言葉遊び。
小学生のとき誰もが一度はこれで遊び、「えー?チューしたいの?きもちわるーwww」とか「みんな聞いてー!モモイが私とチューしたいんだってーwww」などのからかいを一度は受けたことがあるだろう。そして誰もが一度は恥ずかしい思いをしたはずだ。私もあの時は恥ずかしかった…
そんな言葉遊びは小学生の時は皆で楽しんでいたが、中学高校では餓鬼の遊びと揶揄されるようになってしまう。年齢を重ねていくうち、くだらない遊びへと成れ果てるのがこの言葉遊びなのだ。
しかしユウカの暴走トリガーを引いたのは、よりにもよってこのくだらない遊びだった。まさかアオトの発した『熱中症』が「ねえ、チューしよう」に変換されるとは誰もが思わなかっただろう。
キュピッ…キュピッ…っと足音をたてて近づいてくるユウカ。歪んだ笑顔と噴き出す白い蒸気の熱さも相まって下手なホラゲーよりもよっぽど怖い構図が出来上がっている。
「匂い立つわねぇ……堪らぬ匂いで誘うアオトだ、えづくじゃないの……♡」
「ヒィィィィィッ!?!?!?怖い!!怖いよユウカさん!?!?これ僕が悪いの!?僕なにも変なこと言わなかったよねぇ!?!?」
「お、落ち着いてアオト!!大丈夫、今回のアオトは全く悪くないから!悪いのはクソみたいな言葉遊びで誘われたと勘違いしたあのバカだけだから!!」
すっかり化物と化したユウカに怯えちゃったアオト。目には涙を浮かべ、体をガックガクに震わせながら恐怖を感じている姿は、とても1人の人間を見ている姿には見えなかった。
「ア、 アリス!今こそスーパーノヴァを!!」
「は、はい!エネルギー充填率100%!!いきます、光──」
「だーめっ♡」
アリスがスーパーノヴァをユウカに撃とうとした瞬間、ユウカが視界から消えた。
何事か、何が起きたと思い後ろを振り返るとそこにはユウカがアリスの目の前に立っていたのだ。
……嘘…まさか一瞬であの距離を縮めた…!?
「じゃあまずはアリスちゃんからね♡」
「な、なにをするんですかユウカ!?顔が近いで──」
そのままユウカはアリスに顔を近づけて……
「ちょっ、待っ…!?」
───ズキュウウウウウウウン!!!!
「────」
アリスの唇とユウカの唇がふれあい、離れた。
アリスは白目を剥き、魂を失ったかのように後ろに倒れて動かなくなる。
そしてユウカは舌なめずりをしながら私たちの方へ振り返り……
「──次♡」
一言、死刑執行の宣言が下された。
「に…にっ───」
「逃げろおおおおおおおお!!!!」
「いやあああああああああ!!!!」
「うわあああああああああ!!!!」
「ひいいいいいいいいいい!!!!」
各々絶叫をあげながら部室を出て逃走を図る。まるで天敵に追われる獲物のように。
「あはっ♡待ちなさい?」
少し後ろを振り返るとユウカが追ってきていた。私たちを絶対に逃さんという意思を、食らいつくしてやるという野望を感じながら。
理性を失った獣と、それから逃れる私たち。生死のかかった恐怖の鬼ごっこは、かれこれ数十分は続いたのだった……
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結局その後、ユウカが途中でビターンと床に倒れたことで鬼ごっこは終わりを告げた。
今日まで三徹していた疲労と、暑さによる体力の大幅な消耗も相まって体力の限界が来たユウカは、鬼ごっこの最中に意識を失ってしまったのだ。その後駆けつけた保健委員と、ちょうどミレニアムを訪れていた先生がユウカの救護にあたった。
救護されたユウカは特に体の異常はなく、ただ疲労が蓄積していた影響か三日三晩爆睡していた。起きた後は非常にスッキリとした顔で目覚め、体が嘘みたいに軽くなったと話していたらしい。まあその後、事情を知った先生とノア先輩によってユウカは小一時間の説教をされていたみたいだが……
それとユウカはあの日の出来事を覚えていないらしい。あれだけ好き勝手暴れ散らかしておいてふざけるなよ本当に。
そして私たちゲーム開発部も、もうあのような事件はこりごりだということでユウカの出禁を本気で検討したのだが、ノア先輩が「それをやってしまってはユウカちゃんが死んじゃいます」と止めに入ったので、『徹夜したユウカの出入り禁止』という方向性で妥協した。これでも温情な判断だということをユウカは是非理解してもらいたい。
そしてアオトはあの事件の後、数週間の間はユウカに対して怯えに怯えてしまったようで、ユウカと顔を合わせると何処かに逃げて行ってしまうという事象が何回も起こってしまいユウカのメンタルが落ちに落ちまくっていた。
さらには私たちの中で唯一ユウカのキス被害にあってしまったアリスは、ユウカと顔を合わせるたび無意識に銃口をユウカに向けてしまう症状が数週間続いた。これもユウカのメンタルに大きなダメージを与えることとなり、この数週間のユウカの落ち込み方は過去類を見ないほどだったのだが、それはまた別の話だ。正直、全部ユウカが悪いので同情の余地は全くない。
ここまで色々と話したが、最後に私がユウカに言いたいことを言って締めようと思う。
───もう、徹夜はやめてくれ
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「なーんてことがあったんだけど……どう思うケイ?」
【バカなんですかあの会計は??】
もしこの小説のパヴァーヌ編が完結して、最終編も書いてデカグラ編も書くってことになったらどんな物語にすればいいんだろう…?
そういえば、この話で『○○side──』という誰の視点かを表す文を無くしてみたんですけど…無しでも読みやすかったですか…?