才羽家長男・末っ子10歳   作:Kyob

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お待たせしましたァ……すみませぇん……

いや、本当に時間かかりました!この話だけ異常に筆が進まなくて1ヵ月以上かかりましたよええ!!

あいだに書いた番外編は二日三日で書けたのに、この話は1ヵ月ってこの差はなんなんですかぁ!?

しかも筆が重すぎたせいで割と強引に書いた結果、話はかなり粗くなってしまってるかもです……

本当にご容赦くださいませ……



それと今更ですがいつも感想ありがとうございます!
─side無くても大丈夫というコメントも有難く頂きまして、今後は無くす方針で行きたいと思っております!

その他の感想もいつも有難く拝見しています!返すタイミングが最新話を投稿する時と一応自分の中で決めているで、返すのが遅くなりがちではありますが、今後とも感想を書いていただけたら有難いです!モチベーションにも繋がります!

そしてここ最近、高評価も多くて大変嬉しく思っております!おかげさまで時間が掛かろうともちゃんと次の話を書こうというモチベーションに繋がっております!
本当にありがとうございます!!






P編 第14話 今日からお前ケイな!(強制)

 

 

 

 

「<Key>じゃなくてさ、『ケイ』って呼んでいい?」

 

【……はい?】

 

 

<Key>との会話の権利を掴んだ後、僕は一つのお願い事を<Key>に頼んでいた。

 

それは、呼び方の変更。

 

鍵の意味を持つ<Key>という名前、それを何時ぞやモモイお姉ちゃんの口から聞いた言い間違いの名前である『ケイ』にしてほしいということ。それが僕のお願いだ。

 

 

【……なぜ??】

 

 

そんな僕のお願いに疑問を口にする<Key>。まあ、口ではなく文字表現なのだが。

 

 

「えー…だってさ、なんか呼びづらいんだもん。<Key>って名前…」

 

【呼びづらい……??】

 

 

そう、僕がこの提案をした理由。それはただ、呼びづらいからである。

 

『キー』。文字にしてみればそこまで難しく感じないこの単語。発音してみても、ただ「い」の音を伸ばし続ければ良いだけなのだから噛むこともなく、安定した発音が繰り返し出せる簡単な言葉だ。

 

しかし、それが名前となった瞬間、妙な違和感が襲い掛かってくる。

 

ここ最近ずっとキーキー言ってきて分かったのだが、『キー』という発音は人の名前を表現するにはあまりにも適していなさすぎる。名前というよりかは、環境音を表現するものに近いものだからだろうか。

 

ただでさえこの『キー』という発音が鷹の鳴き声に聞こえるのだ。そんな言葉を連呼しようものなら煩わしくてたまらないだろう。何回サ〇ケェが涙を流して木の葉を潰すと言わなきゃいけないのか分からないったらありゃしない。

 

それに、<Key>より『ケイ』のほうが可愛い。

 

そう思って<Key>に提案もといお願いをしたのだが……

 

 

【……拒否します】

 

「え…」

 

 

拒否されてしまった。意外と<Key>という名前に誇りを持っていたタイプだったか…?

 

 

「それは…どうして?」

 

【……そもそも<Key>というのは個体名、私の本質…存在理由を示したものです】

 

【名前は存在の目的と本質を乱します】

 

【故に名前は不要です】

 

「…………」

 

 

えっと、つまり…

 

 

「<Key>というのは名前じゃなくて、君の存在そのものを示したもので…」

 

「そこに名前を付けたら、その存在が薄くなっちゃうから名前は要らない…ってこと?」

 

 

なんだかよく分からないけど……とりあえず自分なりに理解したことを<Key>に伝える。

 

 

【……まあ、そういうことです】

 

「ふーん…」

 

 

存在の目的と本質か……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり『ケイ』って呼んでいい?」

 

【は?】

 

 

何だか色々な理由で<Key>は『ケイ』と呼ばれたくないみたいだが、やっぱり僕は『ケイ』と呼びたかった。

 

 

【あの……話聞いていましたか?】

 

「うん、聞いていたよ?『ケイ』って呼ばれるのは嫌なんだよね?」

 

【分かっているじゃないですか……その通りです。だから……】

 

「でも呼びづらいんだもん」

 

【はあ??】

 

 

嫌だという<Key>を遮るように、僕は自分の願いを主張する。

 

<Key>にとって、『ケイ』と呼ばれたくないその想いは本物なのだろう。僕だって、出来ることなら要望には応えてあげたい。

 

だけど……そうだけれどやっぱり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Key>という呼び方は可愛くない!!

 

しかも呼びづらい!!

 

可愛さはないけれど、文字通り『鍵』という意味を持つ存在だから<Key>という名前だという理由なら多少のカッコよさはあるが……

 

でもやっぱり『ケイ』がいい!!

 

 

【呼びづらいからではありません…それなら我慢して…】

 

「嫌だ!『ケイ』がいい!!」

 

【嫌だじゃありません。我慢して<Key>と…】

 

「いーやーだー!!『ケイ』がいいー!!」

 

 

『ケイ』がいい。絶対に『ケイ』がいい!

 

何が何でも『ケイ』がいいので、必死に<Key>にお願いをする。次第に『ゲームガールズアドバンスSP』を持つ手にも力が入ってきた。身体も少し熱くなり、額に一筋の汗が滲む。

 

 

【………………我が儘言わないでください。いいから私のことは<Key>と…】

 

「ケイ」

 

【<Key>】

 

「ケイ!」

 

【<Key>…!】

 

「ケーイー!」

 

 

怒涛の『ケイ』連呼。

 

熱くなる胸の鼓動に逆らうことなく、自らの欲望を吐き出し続ける。

 

君が、折れるまで、叫ぶのをやめない……!

 

そう心で叫びながら『ケイ』ラッシュをカマしていると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ブチッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが切れたような音がして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【あーもう!!何なんですか貴方は!!】

 

「へっ…?」

 

 

静かに沸き立っていたマグマが一気に噴火するように、<Key>の勢いが増した。

 

 

【ケイケイケイケイと鳴き声のように我儘ばかり…!子供ですか貴方は!一体いくつですか!!】

 

「じゅ…10歳です…」

 

【…そうでした!まだまだ子供なのでした!!】

 

 

さっきまでの冷静沈着でクール系な振る舞いは一体どこへ行ったのやら。気が付けば攻守が逆転し、僕の勢いを食い尽くさんとする勢いで畳みかけるその姿はまさに暴走列車そのもの。

 

気のせいか、『ゲームガールズアドバンスSP』から蒸気機関車のような蒸気がポッポーっと噴いているような気がする。ゲーム機も熱暴走のように熱くなっており、このままでは充電が切れてしまいそうだ。

 

 

「ちょ、ちょっと落ち着いて…どうどう…」

 

【落ち着いて!?こうなった原因は貴方でしょうに、よくそんなこと平然と言えますね!?】

 

「いやだって、ゲーム機熱くなってるし…」

 

【知ったことではないんですよそんなの!むしろもっと熱くして差し上げましょうか!?貴方なんかそのまま火傷して包丁すら握れなくなってしまえばいいんです!よかったですね、もう料理が出来なくなるから大さじ小さじも間違うことなく恥も搔きませんよ!!】

 

「ちょっ!?やめてよ!?大さじ小さじ間違えたの地味にまだ引きずってるんだから蒸し返さないで!」

 

 

<Key>の噴火のような畳みかけに呼応するように、ゲーム機の温度も急激に上がっていく。次第に持っているのも厳しくなり、ついにベッドの上に置いてしまった。

 

しかも<Key>、よりにもよってお昼に大さじ小さじを間違えた焼うどんのことについて蒸し返してきやがった。

 

いいじゃん別に!久しぶりの料理なんだから大さじ小さじくらい間違えるよ!砂糖と塩を間違えなかっただけでも良く出来た方でしょ!焼うどんに砂糖も塩も使わないけど!

 

 

「いやホントにさ、さっきまでの無機質な雰囲気はどこいっちゃったの?そんなに感情的になってさ…」

 

【はぁ…はぁ……感情的ですって…?】

 

「いや疲れてるじゃん。叫びに叫んで疲れて息切れしちゃってるじゃん……」

 

【……この身は人間ではありませんが、叫べば疲れるんですよ】

 

「…最近のAIって凄いんだね?」

 

 

AIは疲労を感じないと思っていたし、息切れなんかしないと思っていた。そんな人間のような機能まであるなんて意外である。

 

 

【それにしても…また私に感情的などほざいて……私に感情は不要と先ほども申したでしょう?】

 

「………え、それまだ言うの?もうだいぶ手遅れだと思うけど……」

 

【何を…】

 

「いや、めちゃめちゃ怒ってたよね?噴火の如く怒り散らかしてたよね?」

 

【…………】

 

 

感情は不要とさっきも言ってはいたが、正直もう無理があると思う。

 

<Key>、彼女は思っていた以上に感情豊かなAIなのかもしれない。まだ出会って2日しか経っていないし、怒りの感情しか見ていないから何とも言えないが。

 

 

【……そうですね、怒っているかもしれませんね】

 

「なんでそんなに他人事なの…?」

 

【知りません】

 

 

どこか投げやりに感じる返答をする<Key>。そこまでして自分の感情を認めたくないのか。

 

感情は無いより有るほうが良いと思うんだけどなぁ?まあ<Key>は感情豊かだけど。

 

 

【はぁ…貴方といると疲れるのですが…どうしてくれるんですか?】

 

「本当に疲れるんだ…AIも大変なんだね?」

 

【ええ、ここまで大変なのも初めてです。どこの誰かのせいで】

 

「あははは…ごめんごめん……ところでさ」

 

【…はい?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり『ケイ』って呼んでいい?」

 

【────】

 

 

ダメ押しのもう一声。これ以上は交渉しないという意思を持ちながら<Key>に頼み込む。正直、だいぶウザがられているような気もするのだが、やはり『ケイ』と呼びたいものは呼びたいのだ。

 

僕の再三の願いを聞いた<Key>は、特に反応することなく黙り込む。いよいよ呆れて返事をする気もなくなったのか、それとも考えているだけなのかは定かではない。

 

<Key>の言葉を待つこと数刻、外の鳥の囀りすら聞こえるほどの沈黙が流れた末、彼女が出した結論は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【………………もう勝手にしてください】

 

 

OKだった。打ち出される文字が非常にゆっくりだったせいか、渋々許可しました感が否めないが。

 

 

「え、本当!?やったー!!」

 

 

けど渋々だろうがOKなものはOK。僕は喜びの声をあげながら左手でガッツポーズをする。

 

やはりお願い事を通すにはゴリ押しが有効だとモモイお姉ちゃんが言っていた通りだった。押してダメなら引いてみろ?違う違う、押してダメならもっと押せということだ。非常に素晴らしい。

 

 

【はあ……本当になんなんですか貴方は……】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【……それで?私と話したいと言っていましたが具体的には何を話したいのですか?】

 

 

僕がケイの呼び方に対して喜びに浸っていたのも束の間、ケイから何を話したかったのかを聞かれる。

 

 

「え?あー…そうだね……」

 

【……まさか何も考えずに話しかけたわけではないですよね?】

 

 

なんだかケイに疑惑の目を向けられている気がする。でも安心してほしい。ちゃんと話したいことはある。

 

けどどの話題から振ればいいのか分からないのだ。いきなり王女のことを聞いていいのか、ケイの目的のことを聞いていいのか。それとも一度たわいのない雑談から始めればいいのか。

 

僕は頭を悩ませた。せっかく貰ったチャンスを、どう生かすべきかを……

 

悩ませて、悩ませて……そこで出た結論が……

 

 

「ケイって何か好きなものある?」

 

【はい??】

 

 

好きなものについて聞くという無難なものであった。当たり障りのない話から徐々に本質的な話に広げようという算段だ。

 

…とか思っているけど本音を言うと、僕にいきなり重要な本質について切り出す勇気はなかった。それにケイと話がしたいというのが僕の目的だったのに、いきなりシリアスな話から始めるのは何か違うじゃん?

 

 

【……ありませんけど】

 

「えぇ…ないの?……じゃあ、嫌いなものは?」

 

【………ありませんけど】

 

「………」

 

 

好きなものと嫌いなもの、そういう無難なものから話そうと思っていたのに話が広がらない。何だか前に進みたくても壁に引っかかるような感覚に胸がムズムズする。

 

そもそも好きなものも嫌いなものも無いという人生って……今まで一体どういう想いで生きてきたのだろうか。

 

 

「じゃっ、じゃあ!好きな食べ物は!?」

 

【私が食事を必要としない存在ということを忘れていませんか?】

 

「あっ…」

 

 

なら好きな食べ物とか聞けばいいと思っていたのだが……ケイはAIだ。普通に考えれば食べ物を食べるという習慣はない。考えれば分かるというのにこれは焦りからか、つい間抜けな声が漏れてしまった。

 

マズい……ケイと普通に話がしたいのに全然話題が合わない……!

 

 

【……あの、本当にこれが貴方の話したかったことなのですか?】

 

「へっ?いや、えーっと……」

 

【……貴方が本当に聞きたいことは別であるのではないのですか、才羽アオト】

 

「いや、そうだけどさ……」

 

 

やはり話題の振り方が不自然だったか、ケイに言いたいことを言えみたいなニュアンスで催促されてしまった。

 

 

【……なんですか】

 

「…なんていうか、まずはお互いのことを知るところから始めるのが大事かなって……」

 

 

やっぱりこういう段階的なやり取りが大事だって僕は思うの。そうすればこの先もスムーズにお話が出来ると思うから。

 

…え?じゃあ何でさっき段階的ではなくゴリ押しでケイ呼びを勝ち取ったんだって?

 

……それだけケイって呼びたかったんだもん。

 

 

【……それ必要ありますか?私はさっさと本題に入ってほしいのですが】

 

 

だがケイは全然乗り気ではないようだ。僕とのお話もさっさと終わらせてほしいのかな……

 

 

「えー…」

 

【えーじゃありません。さっさと本題に入ってください】

 

 

僕は唇を尖らせてみたが、ケイは本当に早く本題に入ってほしいらしい。

 

仕方がない、さっさと本題に入るとしよう。

 

 

「……分かったよ。じゃあ本題に入るけど、王女って結局だれのこと?」

 

【…それは昨日もお伝えしたはずです。『AL-1S』だと】

 

 

『AL-1S』。それは昨日ケイから聞いた王女と呼ばれる存在の名前。あまりにも呼び方が分からない、機械的な存在を想像するような名前だ。

 

昨日、ケイは『AL-1S』とは既に知っているはずだと言っていた。そんな名前の存在と僕は会ったことがないはずだが、どうやら面識があるらしい。

 

だから僕は昨日、その『AL-1S』について考えた。今まで僕が会ってきた人物、見てきた兵器や機械、名前に共通しているところはないか、そう僕は頭を悩ませ考えていたのだ。

 

そして1人、思い当たった存在がいた。僕がミレニアムに行けなかった1カ月の間に現れ、かつ名前にもどこか似ているところのある人物が。お姉ちゃんたちが『廃墟』と呼ばれる場所で見つけてきた存在が……

 

さあ、答え合わせと行こうか。

 

 

「その『AL-1S』ってさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリスさんのこと……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アリス……それは貴方たちが王女を呼ぶ際の名称ですね?】

 

「……それは当たりってことでいいのかな?」

 

【……ええ、そうですね】

 

 

ビンゴ。どうやら僕の予想は正しかったようだ。

 

ケイの言う王女と呼ばれる存在は、アリスさんのことであった。確かに冷静に振り返ってみれば、名前の『AL-1S』がアリスさんの名前に似ていたり、お姉ちゃんたちが廃墟で見つけてきたりと色々と怪しいところが多かったなと思う。

 

もちろん他にも色々と気になるところはある。ケイとアリスさんの関係性とか、なぜアリスさんが王女と呼ばれているのかとかあるが……特に僕が聞きたいのは……

 

 

「ケイは……アリスさんを使って何をしようとしているの?」

 

 

ケイの目的について。それが特に聞きたいものであった。

 

ケイが話していた、自分は世界を滅ぼす魔王であるという言葉。その具体的な意味。それがアリスさんとどう関係しているのか……気になるところだ。

 

 

【……別に、何も難しいことをするわけではありません】

 

「…というと?」

 

【私の目的は王女を本来の姿に戻す、ただそれだけです】

 

「アリスさんの…本来の姿……?」

 

 

つまり、今のアリスさんは偽りの姿ということなのか……?

 

あの笑顔が眩しいアリスさんの姿が……?

 

 

「その本来の姿って…?」

 

【…王女は本来、『名もなき神々の王女』となる存在……王女をその存在へと導くのが私の本質です】

 

 

『名もなき神々の王女』?また何だか意味の分からない言葉が出てきたけど……つまりアリスさんを何か凄い存在にするのがケイの目的ってこと?

 

だが待ってほしい。アリスさんを凄い存在にするのが目的ということはつまり……

 

 

「……ケイは昨日さ、『私は世界を滅ぼす魔王』って言っていたよね?」

 

【はい】

 

「つまりさ、ケイがアリスさんを何か凄い存在に導くことが目的なら……その凄い存在になったアリスさんは世界を滅ぼす存在になるってこと?」

 

【そういうことになります………貴方にしては、よく理解できているではありませんか】

 

 

…なるほど。つまりケイが世界を滅ぼすというよりかは、何か凄い存在になったアリスさんが世界を滅ぼすということか。

 

……あのアリスさんが。

 

ゲーム開発部でお姉ちゃんたちとゲームを遊び、いつも笑顔で明るく太陽のように周りを照らしてくれる存在であるアリスさんが、世界を滅ぼす存在になってしまうかもしれないと……

 

それはとても…嫌なことだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それって……どうやるの?」

 

【はい?】

 

「どうやってアリスさんを何か凄い存在に導くの?」

 

 

ただ僕が気になったのはその手段だ。

 

アリスさんを何か凄い存在に導くと言っているけど、このゲーム機の中にいる状態で一体どうやって導くというのだろうか。

 

 

【……というと?】

 

「えっと…今はさ、ケイってこの『ゲームガールズアドバンスSP』に入っているじゃん?」

 

【はい…】

 

「その状態のケイって何が出来るの?」

 

 

この『ゲームガールズアドバンスSP』というゲーム機は、いわば画質が凄くいいレトロゲーム機だ。画質が良いだけで中身はそこまで高性能ではない。

 

実際、ケイがこのゲーム機に入るためにモモイお姉ちゃんが遊んでいたゲームのセーブデータを全削除しないといけないくらいには容量が少ないのである。

 

そんな高性能とは言えないゲーム機の中で一体何が出来るというのだろうか。

 

 

【……こうして貴方と会話したり、画面の向こうの様子を見ることは出来ます】

 

「それ以外は?」

 

【……………】

 

 

どうやら僕とその周辺の様子を見ることは出来るようだが……それ以外に何が出来るかと聞いたら黙ってしまった。

 

これはもしかして……

 

 

「…なんかハッキングみたいなことは出来ないの?」

 

【……不可能です。通常であれば可能なのですが、この低性能ゲーム機のせいで私の性能は大きく低下しています】

 

「低性能って………じゃあこのゲーム機にアリスさんが触れちゃったら、ケイはアリスさんの身体を乗っ取ることが出来るとかはあるの?」

 

【……それも不可能です。このゲーム機にはそんな機能が存在しません】

 

「それってつまり……このゲーム機にいる限りは何も出来ないってこと?」

 

【………………認めたくはありませんが、このゲーム機にいる限りは…】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【打つ手はないです】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

打つ手なし。そうケイは言い切った。

 

 

「……ぷっ」

 

 

初めてケイから、「私は世界を滅ぼす魔王です」と聞かされた時は、「なんか面白いこと言っているな~」程度の認識だった。

 

だが今日、その世界を滅ぼす方法というのはケイ自身が手を下すわけではなく、アリスさんを使って滅ぼそうとするというのを聞いた時、さすがの僕もケイを警戒せざる負えなかった。

 

なぜならケイが直接手を下さずとも世界が滅ぼせるなら、このゲーム機に入っていても実行が出来る可能性があるということ。それにあのアリスさんが要因になるというのだから警戒して当然というものだ。

 

だが蓋を開いてみれば、ゲーム機の性能が低すぎて何も出来ないというオチ。そのオチを受けた僕は、先ほどまで感じていた少しの恐怖心は何処に行ったのやら……

 

 

「あはははははっ!!!」

 

 

笑いが止まらなくなっていた。

 

 

【……なぜ笑うのです…?】

 

「いやっ…だって…っ!あんなに怖そうなこと言っておいて…打つ手なしって…!」

 

【……仕方がないでしょう?こんなゲーム機にいるのですから……】

 

 

それからしばらく笑いが止まらず、お腹が痛くなってきたところで何とか笑いを収めた。

 

 

【はぁ……全く、笑いすぎはありませんか?】

 

「いやいや、私は世界を滅ぼせますよと言っておいてこのゲーム機のせいで何も出来ませんは笑うしかないでしょ?」

 

【……うるさいです】

 

 

何もできないケイに対して笑っていたせいか、何だかケイの機嫌が悪いように見えるのは気のせいだろうか。

 

 

「じゃあアレだね?ケイは現状、何も出来ないってことでいいね?」

 

【認めたくはありませんけれど………貴方がもっと高性能なものに私を移してくれれば色々と出来るのですが?】

 

「そんなことしないよーだ」

 

【はぁ……】

 

 

そんなことしたらケイの力が戻っちゃうでしょ……

 

そんなことにならないように、ケイにはこのゲーム機で大人しくしてもらわなきゃ。

 

 

「はー笑った笑った……何というか、ケイって面白いね?」

 

【……面白い?】

 

「うん。本当に世界を滅ぼそうとしている存在なのか疑っちゃうくらいには面白いよ?」

 

 

無機質で、淡々と物事を話す存在だと最初は思っていた。でも会話を重ねるうちに、ケイの中にある感情的な部分が見えてきたような気がする。

 

自分には感情が無い。そう言っていたにも関わらず何かと怒っていたし、困惑するときはとても困惑していたようにも見えた。

 

僕がケイと話したいと願えば渋々受け入れてくれたし、ケイと呼びたいとしつこく願えば、結局は受け入れてくれる懐の深さもある。

 

気が付けば僕も、お姉ちゃんたちと話すときのような遠慮のなさでケイと話しているような感覚を覚えていた。ケイは嫌そうにしているかもしれないけど、そんな遠慮のなさを何かと受け入れてくれているような気がする……いや、どちらかといえば諦めているのかもしれないけど。

 

けど世界を滅ぼす存在というのは変わらないだろう。その方法も、アリスさんを使おうとしていることに関しては僕だって思うところがある。だからその辺は、少し慎重に接した方がいいのかもしれない。

 

ただ…その話をしているときのケイは淡々としていて、僕との何気ない会話よりも無機質に感じた。まるで自分の言葉で話していないような、そんな感覚だ。

 

だが世界を滅ぼそうとしているのは事実。本来であれば下手に関わるのはマズいのかもしれないけど……それでも僕はケイと話しているこの時間が、「楽しい」と感じていた。

 

 

【………まあいいでしょう。いずれその時が来れば貴方も理解するでしょうから。私という存在、その真意が】

 

「あははっ、その時が来ないことを祈っておくよ」

 

【………はぁ】

 

 

もう今日だけで何度目になるのかというため息がケイから漏れる。昨日見たため息は衝撃的だと思ったが、気が付けばすっかり慣れてしまっている自分がいた。

 

 

「ふう…これでお姉ちゃんたちにも良い話題が出来たかな?」

 

【お姉ちゃんたち……才羽姉妹のことですか?】

 

「うん。正確に言えばゲーム開発部のみんなだけど」

 

【…彼女たちにも私という存在のことを話すと?】

 

「え?うん、そうだよ?」

 

【………】

 

 

ゲーム開発部のみんなにもケイのことを話すのかと言われたら、それは話すに決まっている。モモイお姉ちゃんのゲーム機に面白い子がいたよという話題にもなるし、アリスさん関連の話もしておくべきだろうし。

 

そう思っていたのだが、何やらケイが考えるかのように黙り始めた。

 

 

「……ケイ?」

 

【………才羽アオト】

 

「うん?」

 

【王女とその周りの存在に私のことを話すのはやめていただけませんか?】

 

「……へっ??」

 

 

やめていただきたい?なぜ…?

 

これはどういうことだろうか。ケイの存在をみんなに黙っていてほしいというのは、秘密にしてほしいということなのか?

 

 

「……なんで?」

 

【理由でしょうか。それは……】

 

「それは……?」

 

【…………】

 

「……ケイ??」

 

 

理由を話そうとしたケイが、なぜかまた黙り始める。どうして黙ってしまうのだろう。

 

 

【……王女に悟られるわけにはいきませんので】

 

「…それが理由なの?」

 

【……はい】

 

 

本当だろうか…?

 

まあ、それが理由と言っているのだからそうなのだろう。ケイの目的を今のアリスさんに悟られるのはリスクがあるのも理解できる。

 

だがお姉ちゃんたちにケイのことを話さないのはリスクがあると僕は思う。ケイの存在を皆が知っていたら、アリスさんの身に何も起こさせないよう予防が出来るからだ。

 

それとケイと皆は案外仲良くなれそうな気もするのだが、それは一回置いておこう。

 

 

「えー、でもなあ……」

 

【なんですか、何か不服でも?】

 

「だって皆にケイのことを話さないのはリスクがあるかなって……」

 

 

僕はケイに、リスクがあるということを正直に伝えた。

 

 

【そうですか……】

 

「うん。だから──」

 

【貴方は私のことを『ケイ』と呼ぶ願いを無理やり通したのに、私の願いは通してくれないのですね??】

 

「うっっ!?!?」

 

 

ちょっと待ってほしい、それを言われたら弱る。

 

確かにそうだ。僕はケイに「ケイと呼ばせてほしい」という願いをゴリ押しのゴリ押しで通したのだ。代わりにケイからも僕に願いを1個通してほしいと言われてしまっては拒否できるものも拒否できなくなってしまう。

 

 

【それで、どうするのです?拒否しても構いませんがその場合、貴方は自分の我儘だけ通そうとする自己中心的な人物だと認識しますが……】

 

「い、いやいやそういう認識は僕も傷つくというか……」

 

【別に貴方が傷つくとか知ったことではないのですよ。それでどうするのですか、暫定自己中な才羽アオト?】

 

「あー分かった!分かったよ!!内緒にしとけばいいんでしょ!」

 

【よろしい】

 

 

結局、自己中な人物というレッテルを張られるのが嫌だった僕はケイの願いを受け入れた。

 

だがまあ、ケイも僕の願いを渋々受け入れてくれたのだ。ケイのお願いが少しリスクのある願いだとしても、受け入れるのが筋というものなのかもしれない。

 

それに、『2人だけの秘密』って少しワクワクするような気がする。

 

 

【……さて、そろそろお開きにしましょうか?】

 

 

僕がケイの願いを受け入れてすぐ、ケイは会話のお開きを提案してきた。まだそこまで時間は経っていないはずだが……

 

 

「…え?もう終わっちゃうの?まだ時間は……」

 

 

そう言いながら僕は窓の外を見る。そこには夕焼けに照らされ、茜色に染まった空が一面に広がっていた。

 

そこまで時間は経っていないと思っていたけど、どうやらそれは錯覚だったみたいだ。

 

 

【貴方の聞きたいことには答えたと判断したのですが……まだ何か?】

 

「えー…もっと楽しい話がしたかったな……」

 

【貴方は私に何を求めているのですか?才羽アオト……】

 

 

今日のケイとの会話は、どちらかと言えばケイが目論んでいる目的のことが多かったような気がする。あとはケイの呼び方だろうか。

 

僕的にはもっと、好きなこととか趣味の話とかしたかったけど、ケイはそういったものは無いらしいから難しいだろう。

 

それにもう日が落ちてきている。ケイの言う通り、今日はとりあえずここまでにしよう。

 

だがその前に……

 

 

 

「ねえケイ」

 

【…?どうしました才羽アオト、まだ何か?】

 

「いや、その『才羽アオト』って呼び方はやめてほしいかなーって……」

 

【……はい?】

 

 

その僕に対する呼び方を何とかしてほしかった。『才羽アオト』というフルネームだと非常に距離を感じるというか、他人行儀な感じが否めなかったのだ。

 

せっかく僕はケイのことを『ケイ』と呼んでいるのだ。だからケイも僕のことをフレンドリーな感じで呼んでほしい。

 

 

「『アオト』って呼んでよ。そっちの方が呼びやすいでしょ?」

 

【……毎度思うのですが、貴方の呼び方に対するその考えは一体?】

 

「え、変かな?別にこれくらい普通じゃない?」

 

【そうでしょうか……】

 

「うん。だからケイも僕のこと『アオト』って呼んでよ」

 

 

何をそんなに違和感を覚えているのだろうか。名前を呼ぶときに下の名前で呼ぶことなんて普通のことだと思うのだが。

 

むしろフルネームで呼ぶことの方が珍しいはず……

 

 

【いやしかし……】

 

「いいから『アオト』って呼んで?ほら『アオト』って」

 

【えっと……】

 

「ほらほら、『アオト』」

 

 

また呼び方に渋っているケイに、僕はまたゴリ押し戦法を仕掛ける。僕の呼び方を変えてほしいというお願いだから別にそこまで渋る必要はないと思うのだが……

 

 

【………はぁ、分かりましたよアオト】

 

「うん、よろしい」

 

 

渋々だが、何とかアオト呼びをしてくれるようになった。これでケイの僕に対する他人行儀な呼び方もなくなり、心の距離も少しだけ縮まったと思いたい。

 

 

【……さて、もういいでしょう。私は失礼しますよ】

 

「えー、終わっちゃうの?」

 

【終わりますよ。これ以上の我儘は受け付けませんから】

 

「ちぇっ」

 

【『ちぇっ』じゃありません】

 

 

今度こそ本当にお開きのようだ。昨日に比べて面と向かって話せたような気がした分、いささか寂しさを覚える。

 

 

「まあ、仕方がないよね……ありがとうケイ、今日は楽しかったよ」

 

【楽しかった……私と話しただけでしょうが……】

 

「楽しかったものは楽しかったの!」

 

【はあ、そうですか……まあいいでしょう。ではこれにて失礼します】

 

「うん…じゃあねケイ、またね!」

 

 

僕はゲームの画面に向かってバイバイと手を振った。ちゃんとケイにも伝わるよう、気持ち大きく見せるように。

 

 

【またね、ですか……】

 

【はぁ…全く貴方という人は……本当に理解できませんね………】

 

 

──プツン

 

最後にボソッと一言残して居なくなったケイ。その言葉は最後まで、僕に対して疑問と困惑が入り乱れたような感情が込められていたように思えた。

 

 

「……ふふっ、楽しかったな」

 

 

ゲーム機の電源を落とし、今日一日を振り返る。

 

初めはケイと話すという目的を果たすため、ひたすらケイにアプローチを仕掛けた。ゲームをしているところを見せたり、料理しているところを見せたり、ゲームしているところを見せたり、とにかくケイに反応してもらおうと色々な手段を使ったのだ。

 

そしてケイが反応してくれて……僕がケイって呼びたいと言い続けたらOKも貰えて……ケイの目的を聞いたらかなり危ないことをしようとしていたことが分かって……でもこのゲーム機にいるせいで何も出来ないと嘆いているケイが面白くて笑っちゃって……

 

特に今日はケイの感情的な姿がいっぱい見れたような気がする。昨日は何だか無機質なAIの雰囲気が確かにあったのだが、今日はどこか人間らしく感情的で、友達と喋っている時と同じような感覚で話せたのだ。ただのAIじゃない、そう思わせてくれるように。

 

確かにケイの抱えている目的というのは危険なものなのかもしれない。本当に起こってしまえば、アリスさんが世界を滅ぼしてしまう。それは僕もゲーム開発部も、ミレニアムのみんなにとっても起こってほしくないものだと思うし、アリスさんも自分の力で世界を滅ぼすなんてしたくないはずだ。

 

だから本当は……ケイとは程々に接して、アリスさんや他のみんなに近づけさせないようにするのが良いんだろうけど……

 

でも、それは何だか嫌だった。理由は上手く説明できないけど……僕はこれからも、ケイのことを知っていきたい。

 

世界を滅ぼす魔王のケイと、なんてことはない平凡な僕との、秘密の関係。

 

いけないことではあるけど……なんだかとても、ワクワクする。

 

 

「……ふふっ」

 

 

……さて、そろそろ晩御飯のことを考えよう。お昼ご飯は焼うどんを作ったし……晩御飯は焼そばにするかな……?

 

僕はベッドから起き上がり、部屋を出てリビングに向かう。日が落ちかけている影響か、廊下は日中に比べて暗く寂しい。

 

けれどいつも感じる寂寥感は、普段よりかは幾分マシだった。

 

 

 








そういえばケイがゲーム機の中にいた時、すぐにアリスの体を奪わなかった理由って描写されてましたっけ?エリドゥで奪った方がいいと思ったから?

私はちょっと記憶が無かったので、ゲーム機の性能が悪いという設定にさせていただきました。

大丈夫だよね…?


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