才羽家長男・末っ子10歳   作:Kyob

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すみません、軽く難産でした……

2部はまだもう少しかかりそうです。気持ち1部と同じくらいの話数を考えていたのですが、どうなるか……ちょっと増えるかも?

少ない文字数で物語をまとめられたら楽なんですけどね……









P編 第18話 ミレニアムへの再訪と再会の会計

 

 

 

 

 テレレレレーン♪

 

 テレレレレーン♪

 

 テレレレレーン♪

 

 テレレ~ン♪

 

≪まもなく、2番乗り場に9時30分発『新快速』ミレニアム方面ゲヘナ行きが、12両で参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。2番乗り場に、電車が参ります。ご注意ください≫

 

 テレテレテレテレテレテレテレテレテレテレテレテレ~ン…♪テレテレテレテレテレテレテレテレテレテレテレテレ~ン…♪テレテレテレテレテレテレテレテレテレテレテレテレ~ン…♪……

 

 

 

 列車の到着を告げるアナウンスと、到着列車の接近を示すリズミカルな音楽が鳴り響き、ホームに入線する列車を迎え入れている。先ほどまで微動だにしていなかったホームに並んでいる人々は、奏でられる音楽に引きずられるように動き始めていた。

 

 ガタン、ゴトン…という音の響きが大きくなり、点が面になるように露になっていく鋼鉄の仮面。人間という種族が持つ貧弱な足を凌駕し、どこまでもどこまでも続いている線路の上を走り続ける鉄道と呼ばれる機械。百合根駅からミレニアムサイエンススクール前までおよそ1時間で送り届けてくれる陸の箱舟の登場だ。

 

 

 

【鉄道…これでミレニアムまで向かうのですね?】

 

 

 

 おそらく初めて実物を見るであろうケイが、近づいてくる電車に興味を示しているところで、僕も乗車する準備を始める。

 

 お姉ちゃんたちが『ミレニアムプライス』の受賞の為にゲーム作りを初めて、そして僕がケイと出会って3日が経った今日。僕たちはミレニアムサイエンススクールへ向かうため百合根駅に来ていた。

 

 まだゲーム制作の途中であり、会うことは出来ないであろうお姉ちゃんたちがいるミレニアムに何故これから向かおうとしているのか。

 

 それは昨日の午後、散歩から帰った後の話だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ、ケイって声は出せないの?」

 

【……はい?】

 

 

 

 散歩から帰り、お昼ご飯を食べてケイと色々とお話をしていた夕方ごろ、僕は今日の散歩で不便さを覚えたケイとのやりとりを思い出していた。

 

 ケイに景色を見せるために画面を外に向けていると、ケイが何かを話すときに表示される文字を読むことが出来ない。ではその文字を読むために画面を自分の方に向けるとケイは景色を見ることが出来ない。ケイに景色を見せつつも話していることを把握するためにはいちいち持っているゲーム機を動かさなければならない。これは非常に鬱陶しかった。

 

 この鬱陶しいやりとりをどうにかするにはどうすれば良いか色々と考えていると、ケイは声を出して喋ることは出来ないのかという疑問が出てきたのだ。この『ゲームガールズアドバンスSP』は音を出すためのスピーカーは付いている。そこから声を出すことは出来ないのかと考えるのは自然なことだろう。

 

 

 

【……確かに、スピーカーから声を出すという考えはありましたし、おそらく可能でしょう。しかし……】

 

「しかし…?」

 

【このゲーム機の性能です。どのような結果になるか予想がつくかと…】

 

 

 

 ケイも元々スピーカーから声を出すという考えはあったようだが、どうやらこのゲーム機の性能が不安要素らしい。

 

 『ゲームガールズアドバンスSP』の対象ゲームから考えられるスピーカー音源のこと。それがどのような結果をもたらすかは何となく察してしまうが、それでも一度は試してみなければ分からないというものだろう。

 

 

 

「でも……一回試してみない…?」

 

【……そうですね。試さぬことには始まらないでしょうから】

 

 

 

 そう言いながらケイは準備する。

 

 

 

【では、参ります】

 

 

 

 準備が出来たようだ。おそらくスピーカーから聞こえて来るであろう声に耳を傾ける。

 

 性能が不安視されているとはいえ、初めて聞くケイの声。果たしてどのような声なのか、心の中で期待しながら待っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪コッ…ココッ……コレデキコエテイルデショウカ?≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞こえてきたのはブツブツ音。低く、鈍い音と共に吐き出された音はまるで接続不良の有線イヤホンから聞こえる破裂音であり、とてもじゃないが言葉として聞き取るのは至難の業であった。

 

 

 

「…………」

 

≪アノ……ナニカハンノウガホシイノデスガ……≫

 

「ストップ、ケイ。字幕に戻して」

 

【……やはりダメでしたか】

 

 

 

 すぐさま元の字幕に戻すように伝えると、ケイは最初から分かっていたかのような反応で戻っていった。なるほど、性能が低いゲーム機で喋らせようとするとこうなるのか。

 

 ブツブツガビガビと、まるで壊れた機械のような音を醸し出しながら話す姿はあまりにも人間の姿とはかけ離れていた。いや、確かにケイは人間ではないと言えば人間はないが、だからと言ってこの声はないだろう。あそこまで人間っぽいケイが、こんなロボットの幻想を固めて油で揚げましたみたいな声をしていたら逆に違和感があるというものだ。

 

 

 

「えー……じゃあ声を出すのは不可能だってこと?」

 

【…まあ現状だと、出すなら先ほどの声になるでしょうね】

 

「そんなぁ……ケイの不思議な力で良い声とか出せたりしないの?」

 

【不可能です。前にも言いましたけど、私はこのゲーム機にいる限りは大したことが出来ないのですよ…】

 

「ぶー……」

 

【そんな顔しないでください】

 

 

 

 それにしたって、どうしてこんなことになっているのだろうか。単純な性能の問題?それとも容量の問題?

 

 性能の問題とは……いまいち考えにくい。さっき疑問に思って色々と調べていた際、この『ゲームガールズアドバンスSP』について調べていたのだが、16bitゲーム機ではあるが内蔵されているCPUとかモニターに関しては高性能なものが採用されていた。僕は詳しいことは理解できないが、最新式のゲーム機と引けを取らない性能をしているそうだ。

 

 でもケイは『低性能ゲーム機』って言っていたけど……言うほど低性能には見えないな……?

 

 だが、容量に関しては貧弱そのものだった。このゲーム機はいわゆる現代の高画質、高性能のゲームで遊ぶことを想定して作られておらず、一昔前のレトロゲームと呼ばれるようなもので遊ぶことを想定して作られていた。一昔前のレトロゲームというのは今のように発展した技術が存在する前に作られたゲームだ。もちろん、それは容量だって例外ではない。レトロゲームというのは、膨大な容量を必要としているわけではなかった。

 

 故にこのゲーム機に莫大な容量というのは必要としておらず、およそ4GBという現代では考えられないようなストレージで開発されたのだ。『プライステーション5』で遊ぶようなゲームならば大問題だが、低容量のレトロゲームで遊ぶこのゲーム機では4GBというストレージは大した問題にならなかったのだ。

 

 だがこのゲーム機の持ち主はモモイお姉ちゃん。三度の飯よりゲームをやらせろ、ゲームで寝落ちは当たり前なモモイお姉ちゃんが使うこのゲーム機で4GBというのは心もとない数字だったのだろう。しかもいくらレトロゲームとはいえ、最新の性能に合わせるように多少改良されたレトロゲームも多く、意外と容量を多く食うゲームが多かったのも相まって内部ストレージのみでは限界を迎えていたようだった。

 

 それ故、モモイお姉ちゃんは8GBのメモリーカードを使って遊んでいたようだったが……

 

 ここでケイがゲーム機のメモリーカードに入ってきた。モモイお姉ちゃんのセーブデータを全消去して。

 

 しかも『G.Bible』のデータファイルとセットにして入ってきたのだ。そう考えると8GBという数字がケイの声出しを邪魔しているのではないだろうか……?

 

 

 

「ねえケイ。もしかしてケイって今すごく窮屈だったりする?」

 

【……はい?どういうことですか?】

 

「いや、本当に8GBのメモリーカードで足りているのかなと思って」

 

【……質問の意図がよく分かりませんが……私が存在するために必要な容量の話をしているのであれば、全く足りていませんね】

 

 

 

 どうやら本当に足りていなかったらしい。

 

 

 

【今の私は様々なデータを圧縮して無理やりメモリーカードに収まるようにしているのです。加えてこのゲーム機の性能……貴方と会話をするだけで限界だということがお分かりいただけるかと】

 

「いや、容量はともかく性能は悪くないでしょ?色々と調べたけどこのゲーム機って中身はだいぶ高性能だよ?」

 

【高性能でもあくまでレトロゲームというものを想定して作られているものでしょう?こんなもの、中身が豪華なだけの薄っぺらなハリボテと変わりませんよ】

 

「ハリボテって……」

 

【大体、ゲーム機というもの自体が私にとって低性能なものなのですよ。こんなものに入っていたところで出来ることなど限られるのですから。私の力を十全に発揮させたいならスーパーコンピューターなるものを持ってきたらどうです?】

 

「そこまで言うの!?」

 

 

 

 なんてものを要求しているのだこのAIさんは。スーパーコンピューターなんて個人で持てるようなものではないだろう。

 

 だが、糸口のようなものは掴めた気がする。容量が問題に関わっているのだとすれば、それを増やせば解決できるかもしれない。

 

 

 

「……もしかして、容量が増えたら声もまともになったりしないの?」

 

【容量……そうですね。容量が倍になれば圧縮しているデータもほんの僅かに展開できます。そうすれば出来るようになるかもしれませんね】

 

「……よし、おっけー!」

 

 

 

 今後のやることが決まった。16GBのメモリーカードを購入してケイのデータを移す。そしてそれを再びゲーム機に挿入すれば声での会話が可能になる…かもしれない。

 

 そうすればあの鬱陶しいやり方を取らなくても済む。会話も非常に楽になること間違いなしだ。

 

 そうと決まれば早速メモリーカードを買いに……行きたいところだが一つ問題がある。それは僕がデータの移し方を知らないということだ。

 

 もし何も知らず、付け焼刃の知識でデータ移行なんてしようものなら下手するとケイという存在が消えてしまうかもしれない。そうならないためにも、僕より知識がある人たちにお願いをしたいところではあるのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ピロン♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう考えていると僕のスマホから通知音。見るとそこにはモモトークの通知が来ていた。そこには……

 

 

 

【やあ、アオト。先日、君が操作してくれた『F-22』の戦闘データを分析していたのだが操縦者である君の感想も聞きたくてね。もしよかったら近いうちにエンジニア部の工房に来てくれないだろうか】

 

 

 

 『G.Bible』の一件で非常にお世話になったウタハさんからのモモトークだ。あの件以降、ちゃっかりウタハさんとモモトークを交換していたのだがまさかこんなに早く連絡が来るとは思わなかった。

 

 そしてその内容は、エンジニア部に来てくれないかというお誘いだ。僕があの時操作した『F-22』の感想を聞きたいらしい。近いうちに来てくれないかというお誘いだが、僕はこれがチャンスだと思った。

 

 

 

【…?誰からの連絡なのですか?】

 

「ケイ」

 

【……アオト?】

 

「明日、ミレニアムに行くよ」

 

【………はい?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【……速いですね。これが鉄道ですか】

 

「そうだよ。しかもこれは新快速だから特に速いんだ」

 

【なるほど……】

 

 

 

 人が住む住宅街から田んぼへ。そしてすぐにまた住宅街へ。およそ分単位で移り変わっていく風景に釘付けになりながら僕とケイは外を眺めていた。いくら最先端の技術力を誇っているミレニアムがある地区とはいえ、中心部から離れると田園風景が広がっているというのは何とも面白いものだ。

 

 自分の部屋の棚の貯金袋からミレニアムまでの往復分の運賃とメモリーカード代の現金を取り出して、コンビニで16GBのメモリーカードを購入してから電車に乗って早30分と少し。僕はこれからの予定を考えていた。

 

 まずは約束したとおりエンジニア部に向かって、用事を終わらせる。そしてヴェリタスにお邪魔してメモリーカードのデータを移してもらってから帰宅という流れが良いだろう。

 

 特に何事もなく終えればいいなと感じながら僕は風景を眺めていた。

 

 

 

「あ、そうそう。向こうに着いたらしばらくケイとはお話しできないからね?」

 

【…そうなのですか?】

 

「うん。だってあんなに人が多い場所でゲーム機を持ちながら歩き続けたら不審人物になっちゃうでしょ?ケイの存在は僕とケイだけの秘密だから怪しまれたくないし」

 

【確かに……そういうことでしたら仕方ありませんね】

 

 

 

 せっかくミレニアムまで一緒に行くのに申し訳ないなとは思うのだが、ケイのことは秘密にしないといけない以上こうするのは仕方がないだろう。本当はケイのことをお姉ちゃんたちだけでも話せたらよかったのだけれど、ケイとの約束だから守ろうと思う。

 

 ……そういえば今日そっちに遊びに行くってことをモモイお姉ちゃんに連絡していないな。でも別にお姉ちゃんたちに会いに行くわけではないし、忙しくて会えないだろうし。ゲーム作りの邪魔をするわけにもいかないし。

 

 

 

 

 

 一回くらい連絡なしでもまあ、いいか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたー!」

 

 

 

 新快速電車に揺られておよそ1時間、ミレニアムサイエンススクール前駅の出口を出た僕は両腕を天に伸ばした。そのまま見上げると目に映るのは空を覆いつくすように並ぶ摩天楼のビル群。豆粒サイズの蟻を見下す巨人のような威圧感で僕を迎え入れた。

 

 

 

「相変わらず人が多いな……」

 

 

 

 視線を元に戻すと、ミレニアムのコンクリートジャングルを歩く無数の人々の姿が映る。ある人は白衣を、ある人は制服を、ある人は私服をというように誰がどういう活動をしているのかが分かるような服装をしていた。

 

 僕が独り言のようにポツリと言葉を漏らすと、それに呼応するようにカバンから縦に入っているゲーム機がブブッと振動した。ゲーム画面の半分はカバンの中に、もう半分は外が見えるようにしまい込んでいるゲーム機を見て我ながら無理のある入れ方をしたと思う。だがこうでもしないとケイが景色を楽しめないのは事実だ。落さないようにしっかりと持ち歩かなくては。

 

 

 

「……よし、まずはエンジニア部に──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら…?あなたは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早速目的の場所へと向かおうとこの足を動かそうとしたとき、横から声をかけられた。その声の方向に振り返ると……

 

 

 

「あっ!やっぱりアオトくんじゃない!!」

 

「…ッ!?ユウカさん!?!?」

 

 

 

 パアッと花が開いたように顔を輝かせながら小走りでこちらに近づくユウカさんの姿が見えた。僕はそのユウカさんの姿を見て、驚きと胸の奥から湧き出る罪悪感が襲い掛かる。

 

 

 

「久しぶりね!元気にしてたかしら?」

 

「あ…えっと……はい、元気です……」

 

「そう、なら良かったわ!もう…1カ月も会えなくて寂しかったんだから……!!」

 

「それは……その…すみません……?」

 

 

 

 勢いと圧を感じる小走りから目の前に来たかと思えば僕の両肩を掴んで顔を近づけるユウカさん。あまりの勢いに足を後ろに下げてしまうがお構いなしに合わせて近づけてくる。

 

 1カ月という時間、ユウカさんと顔を合わせる機会は皆無であった。アリスさんと初めて会ったあの日も、『G.Bible』を巡ったドタバタ騒ぎに巻き込まれたためユウカさんに会える状況でもなかったのだ。そもそもあの日のセミナーは完全な敵対関係、そんな状況下でみすみす会いに行くというのも可笑しな話なのかもしれないが。

 

 

 

「ユ、ユウカが笑ってる…!?」

 

「ここ数日ずっと不機嫌だったあの会計が…!?」

 

「あの過去類を見ないほど各部活に制裁を加えていた鬼のユウカが……!?」

 

「ねぇ、あの子って…」

 

「うん、もしかして…」

 

 

 

 なんだかザワザワと周りが騒がしくなっている。一瞬だけ周りに目線を向けると、僕とユウカさんを囲うように人だかりが出来ていた。ミレニアムの生徒であろう人たちが口に手を添えてヒソヒソと話している。

 

 なんでこんなにギャラリーが……?

 

 そう思いながら僕は再びユウカさんに意識を戻す。

 

 紆余曲折があって1カ月会うことが叶わなかったユウカさんとの久方ぶりの再会。ユウカさんの顔が目と鼻の先というこの状況に、僕は顔を逸らしたくなる衝動に駆られる。しかし僕は、ユウカさんの右頬についている大きめの絆創膏と頭に巻いてある包帯から目を逸らすことが出来なかった。

 

 

 

「あの…ユウカさん……その怪我は……」

 

「あ、これ?これはつい数日前に怪我しちゃって……というか聞いてちょうだいアオトくん!」

 

「あ、はい……」

 

 

 

 突然思い出したかのように手をパンと叩いて僕にお話を聞かせようとするユウカさん。しかもその不満がありそうな顔を見るに明らか文句を言おうとしていた。

 

 

 

「ついこの間ね!ゲーム開発部のみんながセミナーを襲撃してきたのよ!しかもエンジニア部とヴェリタスを引き連れて!」

 

「そ、それは……ごめんなさい……」

 

 

 

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……セミナー襲撃の件ですよね……発案者はお姉ちゃんたちだけど僕もノリノリで協力しちゃいました……

 

 

 

「何で謝るのよ……あなたは悪くないのよ?それでその時に何だかよく分からない小型の戦闘機が襲い掛かってきて……!」

 

「ヒュッ…!」

 

 

 

 あ、やばい。

 

 ユウカさんの言葉に心臓がキュッと締まる感覚が襲う。

 

 

 

「アカネと一緒に戦闘機のミサイルにやられちゃったのよ……全く、エンジニア部かヴェリタスの誰かの仕業なんでしょうけど……彼女たちに聞いても口を割ろうとしないし……絶対に見つけ出して文句言ってやるんだから!!」

 

「は、はひっ……!」

 

 

 

 あの…目の前にいます……

 

 ユウカさんの怨敵がいま目の前にいるんです……!ユウカさんに思い切りミサイルをぶち込んだ馬鹿者がここにいるんですよユウカさん!!

 

 思い出すはあの日の記憶。お姉ちゃんたちの活路を開くために小型の『F-22』を操作してC&Cの人とユウカさんにミサイルをおみまいしたあの日。

 

 いくらお姉ちゃんたちのためだったとはいえ、1人の人間……いや3人だ。その3人にミサイルをぶちかますのはやりすぎだったのではないかと今でも感じる。あの状況を打破するためには仕方が無かったと思っていはいるが。

 

 

 

「ユウカの毒気がどんどん抜けてる……」

 

「今日まで散々不機嫌だったあのユウカがだよ……?」

 

「鬼の権化と化していたユウカの呪いが解けていくようだ……!」

 

「やっぱりあの子って、噂に聞いたあの……」

 

「うん、観音様だ……!」

 

「お釈迦様だ……!」

 

「お釈迦観音アオト様だ……!!」

 

 

 

 ザワ…ザワ…と周りのささやきが大きくなっていく。1羽の鳥が鳴き始めたら呼応するように他の鳥も鳴き始めるような雰囲気がさらに他の群衆を呼ぶのか、チラリと一瞬だけ周りを見渡すだけでギャラリーが増えていることが分かる。

 

 増えるギャラリーと、ユウカさんに対する罪悪感とバレたらマズいと思っている焦燥感。それらが合わさった感情が、バクバクと鳴る心臓という反応として僕の体に襲い掛かる。

 

 

 

「カリンもそのミサイルにやられたって言うし、見つけたら重い罰則を与えなくちゃって思ってたから最近余裕が無かったんだけど……アオトくんに会えてよかったわ。おかげで元気がマンマンに………ってアオトくん大丈夫…?」

 

「え…なんですか……?」

 

「なんだか凄い汗が出てるけど、本当に大丈夫……??」

 

 

 

 ユウカさんにそう指摘されて、僕は頬を流れる滝のような汗に気付いた。意識を体の方に向ければ、着ているTシャツの胸と背中あたりが水場でおぼれた後のようにビショビショになっているし、脇汗も酷くて気持ちが悪い。

 

 

 

「もしかして……アオトくん……」

 

「…ッ!?!?は、はいっ…!」

 

 

 

 そんな僕の様子が怪しいと思ったのか、ジト目で僕のことを見つめるユウカさん。僕のことを怪しむようなその瞳に、僕の身体が縛られるように拘束される。

 

 マズい……バレたか!?

 

 挙動不審な反応に、体から滝のようにあふれ出る汗。それが戦闘機関連の話から出てきているのであれば怪しまれるのも当然と言えよう。

 

 バクバクと鳴る心臓、グラグラと揺れる視界。いま自分が立っているのが地面かどうか分からなくなるこの感覚に僕は限界を感じていた。

 

 これ以上はもう……耐えられない……!

 

 

 

「もしかして……暑いのかしら?」

 

「……へ?」

 

 

 

 だが、ユウカさんの口から発せられたのは暑いからなのではないかという僕の身体を案ずる言葉であった。

 

 

 

「大丈夫?最近は気温も上がっているし、水分もちゃんと取らなきゃダメよ?というか、ここに来てから水分補給はしたの?」

 

「え、いや……あの……その………」

 

 

 

 ユウカさんの身体を傷つけたのは僕なのに、一方でユウカさんは僕の身体を案じている。その状況に僕の罪悪感は限界突破して………

 

 

 

「そうだ、このままじゃ心配だからセミナーで休憩していきましょう?今ならノアもいないし、部室で2人きりで過ごせ──」

 

「ごめんなさい予定があってもう行かなきゃいけないんです失礼します!!!」

 

 

 

 僕は感じていた束縛を振り切って逃げるように走り出した。背後から虚を突かれて驚いたような声が聞こえてくる。

 

 

 

「あ、ちょっとアオトくん!?ちゃんと水は飲みなさいよー!?」

 

 

 

 最後まで僕のことを案じていたユウカさんの声を聞き、より罪悪感が深まっていく。その罪悪感を振り落とすように、僕はさらに走る速度を速めてエンジニア部へと向かう。

 

 

 

「ユウカの機嫌が治ったぞぉぉぉぉ!!!」

 

「うおおおおお観音様ぁぁぁぁ!!」

 

「観音様!青斗観音様!!」

 

「お釈迦様!青斗釈迦様!!大仏様!!!」

 

「「「観音様!観音様!観音様!」」」

 

 

 

 そして遠ざかっていくもはっきりと聞こえる群衆の観音様コール。ファンファーレのように響き渡るその歓声を聞きながら、ミレニアムでの活動が始まったのであった。

 

 

 

 

 ていうか前から思ってたけど観音様ってなにさ…僕のことなんだと思ってるの……??

 

 

 

 

 









ユウカのキゲンは、アオトが決めている




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