最近なんか暑くねぇすか…?まだ5月の中旬すよ…?
ていうかもう5月かぁ……この小説書き始めてから1年経ったってマジ?
「ああ、来たかアオト……ってどうしたんだそんな汗だくで…?」
「ぜぇ…ぜぇ…ちょっと色々ありまして……」
「そ、そうか……外の騒ぎはやはり君が来たからなんだね」
「え…?僕なんかやっちゃいました?」
「いいや、ユウカの機嫌が治ったっていまミレニアム中がお祭り騒ぎでね。観音様のおかげだという声が多かったからもしかしてと思ったのさ」
だから何なんだ観音様って……ミレニアムの皆さんは僕のことを仏か何かと勘違いしているんじゃないか……?
まあでも、このエンジニア部に来れば観音様と呼ばれることもないだろう。冷房も効いているのか、この工房が涼しくて気持ちがいい。
朝、百合根駅から新快速電車に揺られて1時間。僕はミレニアムサイエンススクールに訪れていた。駅から降りてすぐ、かつてミサイルでボコボコにしてしまったユウカさんと再会し、罪悪感に苛まれながら何とか乗り越えて目的の一つであるエンジニア部の工房に足を踏み入れている。
工房に入ってすぐにウタハさんが声をかけてくれて、その朗らかな笑みに心が安らぐ。先ほどまで感じていたストレスから逃れた後のその笑みはまるで心の棘が取れて丸くなっていくように効いていく。
「こんなに汗もかいて……いまタオルと飲み物を持ってこよう。何が飲みたい?」
「お、お水で……」
「…水でいいのかい?」
「お水でお願いします……」
「わかった、少し待っててくれ」と言ってウタハさんが工房の奥に消えていく。さっきユウカさんから逃げるように走った時、水を飲むようにと声をかけられたことを思い出してお水にした。ちょうど喉も乾き始めている時だし、水分補給には水が良いというのはいろんな人から聞く言葉だから素直に従っておこうと思う。
そういえば、工房の周りを見渡してもヒビキさんとコトリさんの姿が見えない。というか、先ほどまでいたウタハさん以外誰もいない。そのせいか、前回来た時の腹に響くような重低音は何も聞こえてこなかった。
エンジニア部もこんなに静かな時があるんだなと思っていると、奥からウタハさんがタオルと500mlのお水を持ってこちらに小走りで近づいてきた。
「すまない、待たせたね。ほら、お水とタオルだ」
「ありがとうございますウタハさん。わざわざ取りに行ってもらって」
「気にしないでくれ。むしろわざわざここまで来てくれたんだ、このくらいのことはね」
ウタハさんからお水うとタオルを受け取り、タオルで頭と顔と首周りを拭いていく。タオルから香るローズ系の柔軟剤の香りが鼻腔をくすぐり、先ほどまで無意識に昂っていたであろう気持ちが消えゆく火のように徐々に落ち着いていく。
ある程度汗を拭ったあと、お水で喉を潤した。喉を通る清涼感が全身に行き渡り、火照った体を冷ましていく。ペットボトルから口を離して見てみれば、中身が半分ほどに減っていた。
「ふぅ……」
「落ち着いたかい?」
「はい……本当にありがとうございます。タオルは洗って返しますね」
「いや、いいさ。そのまま返してもらって構わない」
「え?でも……」
「いいんだ。小学生が高校生に気を遣うものではないよ」
そう言ってウタハさんは使い終わったタオルを僕から受け取った。僕が使ったばかりの汗が染みこんだ汚いものなのに顔一つ変えずに受け取るウタハさんは凄いなと単純な感想を心の中で呟く。
「さて……じゃあ行こうか」
「ここじゃないんですね?」
「ああ。君に初めて『F-22』を見せた場所があるだろう?そこで色々と話を聞かせてもらおうかなと思ってね」
そう言ってある始めたウタハさんについていく。『F-22』がある部屋は、工房の奥にある部屋だ。
「そういえば……ヒビキさんとコトリさんは何処にいるんですか?」
「うん?ああ、2人は所用があってね。今日はお休みみたいなものさ」
なるほど、今日2人はいないのか。
てっきりウタハさんと一緒に感想やログなどを確認するものだと思っていたから意外だった。
「それにしても、モモトークを送った次の日に来るとは思ってもいなかったな。明日お邪魔しますって返信が来たときは驚いたよ」
「それは…すみません。やっぱりいきなりでしたか?」
「いいや、エンジニア部は年中お客さんを歓迎しているからね。別にどうってことはないさ」
モモトークで【明日お邪魔してもいいですか】と聞いた時は流石にいきなりすぎたかと思ったが、しっかりと対応してくれたウタハさんには感謝してもしきれない。僕としても、今回のミレニアム訪問の理由が出来たことで助かった。なるべく早めに、ケイとの会話を何とかしておきたかったからだ。
「さて、ここだな」
工房の奥にある1つの部屋。その部屋のドアを開けると、真っ暗でそれでいて小学校の体育館と思うような広さの空間が広がっていた。そしてウタハ先輩が入り口近くにあるボタンを押すと、暗闇が嘘のように明るくなる。明るくなってより分かりやすくなった空間の広さ、その空間の真ん中にある台座に鎮座している鋼鉄の翼。
僕がミレニアム襲撃時にお世話になった相棒、『F-22』がそこにあった。
「おー、相変わらずカッコいいですね……」
「ふふふ…君も好きだねこの機体が」
ええ、好きですよ『F-22』。数ある戦闘機の中でもトップクラスの性能を誇り、他とは違ったやや薄型の形をしたフォルムもカッコいい。こんなの嫌いになる理由が無いでしょう。
「さて、早速本題に入ってもいいかな?」
「あ、はい。入りましょうか」
そして本題の話になる。今回僕は、実際に操作してみたことによる感想とかを共有するためにここに来たのだ。
僕とウタハさんは部屋の端の方にある作業机に向かい、椅子が並ぶように置いて座った。
「まずはこれを見てくれ」
そう言うとウタハさんは机に置いてあったノートPCを立ち上げて操作し、出てきた画面を僕にも見えるように置いた。
その画面には、矢印のようなものが三次元的に縦横無尽に動き回っており、まるで空に絵を描いているような様子だ。
「これは……『エースコンバート』のリザルト画面ですか?」
「ああ、そのようなものだ。正確に言うと、これは実際に君が操作した『F-22』のログ画面でね。君がどのようにあの機体を飛ばしたのかという軌跡を見ることが出来るものさ」
…なるほど。つまり僕が操作した『F-22』の戦闘データというものか。
こうして見ると実にウネウネした動きだ。ゲームをしていてもなんだこの機動…って思うことも多々あるが、実際の動きも同じような感想を持ってしまうものなんだなと感じる。まあこういう動きも、あくまで遠隔操作をしている無人機であるというのが前提になりそうだが。
「実戦的にあの機体を飛ばしたのは今回が初めてだからね。貴重なデータを取らせてもらった……と言いたいところだけど……」
「…?なにかあったんですか?」
「いや、なにかあったというか…ツッコみたいところがあるというか……」
「え、一体どこに……」
ウタハさんは画面のログを見ながら少し遠い目をしていた。なんだろう、そんなに変なことをしてしまっていただろうか……?
「私は実際に飛んでいるところを見たわけではないし、このログで初めて動きを見させてもらったのだけれど……」
「はい…」
「……よく機体をビルに突っ込ませようとしたね?」
「……あ」
この機体をビルに突っ込ませる。その言葉だけでウタハさんが何のことを言っているのか理解できた。あの日、ビルの中にいたユウカさんとC&Cの人を攻撃するときに僕が取った行動は、『F-22』をビルの中に突入させるという方法だったのだ。
「いや、ね。本当だったら今回私はこのログを見るだけであの機体の整備と改修を行うつもりだったんだ。でもこのログを見たら何かビルに突入してるし、最後の方に何だかよく分からない機動をしているしでとてもログを見るだけでは理解が難しくてね。これは実際に操作した本人に直接お話を伺わなければと思って君を呼んだのさ」
「なる……ほど?」
「というわけでアオト。なんであの機体をビルに突っ込ませたのか聞いてもいいかい?ああ、怒っているわけではないんだ。ただの興味だから遠慮なく話してほしい」
あのビルに機体を突っ込ませて無理やりユウカさんたちに攻撃をした理由。実寸サイズよりかは小さく作られてはいるものの、建物の中を通り抜けるには大きく感じられるものを無理やり通り抜けさせようとするのは疑問に思うのも当然だろう。
だが、何故そうしたのかはちゃんと理由がある。別に大した理由ではないのだが、それでもやりたかったその理由は……
「それは……『トンネル潜りはエースの必修』だからですかね……?」
「……はい?」
そう、トンネル潜りはエースの必修科目だからだ。正確に言えば僕のやった行為はトンネル潜りではないのだが、難易度的には変わらないだろう。僕のその言葉を聞いたウタハさんは口をポカンと開けて首をかしげていた。ウタハさんもそんな表情できるんだな……
「ウタハさんもエースコンバートシリーズは遊んだことがあるんですよね?」
「あ、ああ。7は遊んだが……」
「7でもあったじゃないですか、最終ミッションにトンネル潜りが。あんな感じのミッションがシリーズでは定番になっているんですよ」
「た、確かに。トンネル潜りは様式美のようなものだと聞いたことはあるが……それが理由でビル突撃の敢行を…?」
「はい。苦い思い出しかないトンネル潜りですけど、いざそれに近いシチュエーションが目の前にあったと思ったら……血が滾ってしまって」
ああ、思い出すなあ。風呂桶にお湯が注がれるみたいに溜まっていくフラストレーションと向き合いながらトンネルに潜るあの日々が……
7のトンネルは……正直自分がある程度成長したときにやったものだから多少の苦戦で済んだ記憶がある。トンネルを潜り抜けた後、秒単位の時間制限の中で何個もある的を撃ち落とさないといけなかったのには中々の苦戦を強いられたが、それくらいだった。
問題は6のトンネルミッションの方だ。あれは僕がまだ小学2年生くらいの時に遊んだ記憶だが、操作がおぼつかずバスケットボールのように上へ下へとバウンドしながら墜ちた回数は両手の指では収まりきらない。他にもトンネル通過時の速度が速いせいか、一回の潜りでTGTを全て墜としきれずにもう一度潜る羽目になっては失敗して墜ちた回数も10を超えてから数えるのをやめた。
しかも何が酷いって、そのトンネルが3つもあるというところだ。何とか頑張って1つのトンネルを潜り切れたと思えばまだ残っているトンネルは2つ。そして進めば進むほどトンネル内のTGTの数が増えるというおまけ付き。これでは壊れる血管の数も1本や2本だけでは収まらないというものだ。
せっかくあの『アイガイオン』を墜として喜びに浸っていたというのに、次のミッションがこの鬼畜ミッションだと達成感も遠い過去になってしまうというもの。それを小学2年生でやっていたのだから誉めてくれてもいいよね?
全く本当に……許さねぇからなラグノ要塞……!
「ま、まあいいさ。理由は何となく分かった。じゃあこの…最後のユウカにミサイルを当てたときのこの動き、これはなんだい?」
「これですか?これはクルビット機動ですね」
とりあえずは納得してくれたウタハさんは、次に僕がユウカさんを倒したときに行った軌道について質問した。ログには、大きく旋回することなく回れ右をするように機体を180度に回転させていた。
クルビット機動。これはいわゆる機体をその場で一回転させる技術だ。戦闘機は基本的に後ろを向くには大きく旋回しないといけないのだが、クルビット機動だと一瞬で機体を180度に回転することが出来るため直ぐに後ろを向くことが出来るのだ。
「ウタハさんがエースコンバートシリーズと同じ操作感にしているって言っていたのでいけるかなって……」
「いや、だとしても……一発で決めれるかい普通……」
「それは、ゲームでこの機動は練習していたので。実際に役立ったのはこれが初めてですけど」
あの場面でクルビット機動を決めることが出来たのは、実際にゲームで何回もやっていたおかげだ。あれがなかったらユウカさんを倒すことは出来なくはなくとも時間が掛かっていた可能性があったから覚えておいてよかったと思う。
だがウタハさんは納得いっていないような、まだ分からないと言いたげな表情をしながら僕のことを見ていた。
「その……確かに動きは『エースコンバート7』を想定して作ったよ。だからクルビット機動も出来ないことはないのも理解している。しかし…」
「しかし?」
「これはゲームではない。いくら慣れ親しんだコントローラーで操作しているからと言って、動かしているのは実際に飛んでいるあの機体だ」
「そうですね…?」
「ゲームとは違うということは。ゲームでは考慮されないものも考慮しないといけないということ。例えば空気抵抗とかがあるね」
「空気…抵抗……」
「そう。そう考えると君がいくらゲームで練習したことがあるとはいえ、実際にこの機動を決めるのは難しいはずなんだ。でも君はゲームと変わらないように一発でクルビット機動を決めてみせた」
「………」
「アオト、君は一体どうやってこの機体を動かしたんだい…?」
ウタハさんは疑問を持った目で僕を見てきた。
確かに言われてみれば、実際のゲームとは操作感が異なっていたかもしれない。ゲームと同じに再現しているとは言っていたが、全くもって完璧に再現するというのは不可能だろう。
だからと言って、どうやってこの機体を動かしたのかと言われても正直返答に困るところがある。なぜなら……
「別に、普通に動かしただけなんですよ……」
「……そうなのかい?本当に?」
「はい。確かに最初の方は違和感が少しありましたけど、直ぐに慣れました」
「………」
僕の答えに、ウタハさんは目を見開いた表情でこちらを見ていた。初めて見る、ウタハさんのレアな表情だ。
でも、そんなに驚かれるようなものなのだろうか。確かに操作感は完璧に同じというわけではなかったが、それでもゲームと同じ感じに操作しても問題ないくらいの操作感だった。これはウタハさんの完璧に近い調整によるものだと思うし、僕の力というよりかはウタハさんの力のような気がする。
「そうか……君はもしかしたら、何かを操作するというものが得意な子なのかもしれないね」
「得意…ですか?」
「ああ。ドローンとかラジコンカーとか、そういったものの操作が得意という意味さ。きっと今後も役に立つんじゃないかな」
そう言うとウタハさんは朗らかな笑みで僕の頭をわしゃわしゃと撫でた。僕よりもおそらく大きな手。それでも鋼鉄の塊を意のままに操り作り上げていくマイスターとは思えない繊細で華奢な手。そんな温かな手が僕の髪を揺らし、温もりが体全体に伝わっていくようだ。その温もりが強いせいか僕の顔はどんどんと熱くなっていくのだが、振りほどく気には一切ならずにされがままその手を受け入れた。
たった数秒だけだったが、頭を撫でる手が止まり僕の頭から温もりが離れていく。離れてく温もりに寂しさを感じるが、離さないでほしいという声を口に出すことは出来なかった。
「さて…なんとなくだが、あの機体の改修ポイントが分かった気がするよ。とりあえず君の操作技術に合わせて旋回性能とかはもっと上げてもよさそうだな」
どこかスッキリとした顔で、ウタハさんは言った。
「旋回性能と…他に何か改修した方がよさそうなところはあるかい?」
「改修ですか?特にそれといって気になるところはないです。強いて言えば特殊兵装があったら便利だなと思います」
「特殊兵装か…」
「はい。特に拡散型広範囲爆撃みたいな兵装があったら楽だなとあの日は思いました。まあビル突撃はかなり特殊なケースだとは思いますけど……」
罪悪感とかは一旦置いておいて、あの日の攻撃手段に広範囲爆撃兵装みたいなものがあったら簡単にユウカさんを倒せたのは事実だろう。味方を巻き込む可能性もあるにはあるが、それは味方に攻撃のタイミングを知らせる等で解決可能だろうから大丈夫。
それに広範囲攻撃は別にビル突撃に限定しなくても強いことが多かったりする。流石に『エースコンバート6』の燃料気化爆弾並の攻撃範囲は求めないが、あったら対地戦闘は楽になるはずだ。対空戦闘に関しては、現状のミサイルのみで大丈夫かはわからないけど。
というより……
「なんか僕が操作する前提で調整を進めようとしてますけど……今後も僕がこの機体を使ってもいいんですか?」
「ん?ああ、問題ないよ。君以外でこれを操れそうな人はいないだろうしね」
そう言ってウタハさんは爽やかに笑った。
「旋回性能の向上と、特殊兵装の追加か……よし、これで調整してみよう。協力に感謝する、助かったよアオト」
「いえいえ、お力になれたのならなによりです」
むしろ感謝を言いたいのはこちらのほうだ。お姉ちゃんたちの役に立ちたいと願って、でも力のない僕は協力できなくて、そんな悲しみに暮れていた僕に翼をくれた。ユウカさんとC&Cの人を倒しちゃった罪悪感を抱いてはいるが、それでもゲーム開発部が前に進める協力が出来たのは間違いなくウタハさんのおかげだ。
しかもその『F-22』を僕に合わせて調整してくれるという大盤振る舞いだ。僕は今後、ウタハさんに足を向けて寝れないのではないだろうか、いや寝れるわけがない。
いつかちゃんと、恩を返せると気が来たらいいな。
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「それで…君はこれからどうするのかな?何か予定は?」
「一応、ヴェリタスにお邪魔する予定はありますよ」
『F-22』が格納されている部屋を出て、僕たちは工房の方へと戻っている。その最中に、ウタハさんから予定があるか聞かれたのでヴェリタスに用があると伝えた。
「ヴェリタスか。一体なんの用で行くんだい?」
「ちょっと大切なデータを移したいんですけど、僕には知識が無くて……専門家の皆さんに任せた方が安全かなって」
「なるほど、餅は餅屋にってやつだね」
そんな感じで色々な話に花を咲かせながら工房へと戻ってきた。先ほどの部屋も、小学校の体育館かと思うほど広かったが、改めて見るとこの工房は一段と広い。大きな高校の体育館は非常に広いと聞いたことはあるが、その体育館と同じくらい広いのではないかと錯覚してしまう。やはりミレニアムの技術力の中心的組織であるエンジニア部、その実力の高さを垣間見ることが出来る空間だ。
「さて、君はもうヴェリタスに行くのかい?」
「そうですね……時間に余裕はありますけど、なるべくさっさと用事を終わらせて帰った方が良いような気がするので」
「ほう、その心は?」
「今日はお姉ちゃんたちには内緒で来ているんです」
「……お?」
僕のその言葉にウタハさんは目を丸くする。
そう、今回はゲーム開発部に用があってミレニアムに来たわけではない。しかも今はミレニアムプライスに向けてのゲーム制作で非常に忙しくしている。だから別に連絡はしなくてもいいかと思って今日は連絡なしでここまで来たのだ。
でも連絡なしというのは流石にマズいかなと心の片隅で思ってもいた。だから今日は用事を早めに終わらせてさっさと帰ろうかと思っていたのだ。そうすればお姉ちゃんたちに出くわすこともないからね。
「つまりアオトは、内緒で来ていることを姉にバレたくないと」
「ははは…そんな感じですね」
まあ正直なことを言うと、お姉ちゃんたちに会わなくてかつ忙しそうだから連絡しなかったというのもあるが、会わないのに連絡する必要あるのかどうか思ったりちょっと面倒くさいなと思ったりしたのもあるのだが……それは内緒だ。
「とりあえず、今日はお忍びなのでお姉ちゃんたちには内緒にしてくださいね?」
「ふーん、やっぱり内緒だっただねー?」
「ああ、内緒にするのは構わないよ………ん?」
「ウタハさん?どうしまし………あれ?」
ウタハさんにお願いをして、了承を貰ったと思ったらウタハさんが何やら固まってしまった。というか、何か僕とウタハさんではない、第三者の声がしたような…?
「アオトー?こっちこっち」
「………………へ」
「あ」
あ、と言って後ろを見ているウタハさんを見て僕は錆びついたネジを回すかのように後ろを振り返る。ギギギ…という音を立てながら後ろ向くと……
「や、アオト」
ニッッッッッッッッッコニコな笑顔で立っているモモイお姉ちゃんと、目をつぶって黙って立っているミドリお姉ちゃんがモモイお姉ちゃんの後ろに立っていた。
二人の姿を目にした僕の心臓が、締め付けられるようにキュッとなる。
「──────」
「や、やあモモイ。来ていたんだね…?」
満面の笑みで立っているモモイお姉ちゃんを見て、心臓の鼓動が早まる。目を逸らしたいのに、逸らしてはいけない圧に押しつぶされて逸らすことが出来ない。
「うん。2人が戻ってくるまでスタンバってたんだー……ところでアオト」
「──今日こっちに来るってことなーんにも聞いていないなぁ?」