はい、番外編です。
すみません、ここ最近で環境が少し変わって疲労が溜まっていたので、少し暇をいただいてました…
今回のこの番外編はリハビリの名目が強いので、まあ頭を空っぽにして読んでいただければ大丈夫です。
本編もちゃんと書いて進めてますので、そちらはもうしばらくお待ちくださいませm(_ _)m
それと一応、キャラ崩壊注意です。
三徹ユウカシリーズよりかは、狂気度は低い………かも?ですので、そのつもりでお願いします。
では、どうぞ!
──カタカタ…カリカリ…カタカタ…
セミナーの部屋に響き渡るキーボードを叩く音、そしてペンを走らせる音。
この空間には私とユウカちゃんだけ。小さいながらも強く響くその音を聞きながら、私も目の前の業務を進めていきます。
いつもと変わらず、毎日の業務に加えてその日にやってくる業務まで一切の狂いなく、淡々と。2年目という年月が築き上げてきた練度を、惜しげもなく振るうように。
順調。そうと言える速さで、着々とタスクを片付けている私とユウカちゃん。そして残りの量を見るに、今日の業務は残り3時間で終わると言ってもいいでしょう。
現在時刻が14時。17時には終わると考えると、今日は非常に余裕を持って終わらせることが出来ます。ここ数日の多忙の嵐を考えると、いまいち実感が湧きづらいところはありますが、終わりは終わりです。
なのでもうひと踏ん張り、頑張って作業を進めましょう……
「………ッ」
……いけません。執筆ミスです。文字が乱れて、全体が崩れてしまいました。これでは提出する書類の体裁を保てませんから、書き直しです。
普段ならこんな簡単なミスはしないと自負しています。簡単なミスを減らし、効率よく業務を遂行することが素早く仕事を片付けることだと知っていますから。それ故に、簡単なミスはしないと意識をし、それが当たり前の習慣となっています。
しかし、執筆ミスをはじめとした簡単なミスは今日だけで4回はやっています。これは普段の私では考えられない頻度のミス。とてもではありませんが、酷い体たらくといえるでしょう。
ですが……こんなミスが多くなっている原因はもちろん存在します。
それは、私の徹夜が3日目に入っているということです。
俗に言う、『三徹』状態と呼ばれるこの状態は、私の身体と脳を大きく疲弊させていました。身体は気怠く、迅速な行動が出来ない。頭は回らず、考えが上手くまとまらない。
とても人間が活動するには適してなさすぎるこの状態を抱えたまま、私は業務を進めていたのでした。
どうして三徹状態になってしまっているのか。それは単純に、業務量が多かったというのもありますが、二日連続で私が外回りに行かなければならない日があったというのも大きいでしょう。
私が外回りに出ている間は、ミレニアムでの業務進行は止まってしまいます。故に外回りが終わり次第、帰ってきてから業務を進めるとなると徹夜しなくてはいけなくなるというのは当然の摂理でした。
私が帰る前に、ユウカちゃんが頑張って業務を進めていてはくれましたが、ユウカちゃん1人の力では限界があるのも当たり前。結局、17時過ぎくらいから普段の業務が始まるという夜勤のような働き方になってしまっていました。
リオ会長は、ここ最近はセミナーに顔を出しませんし……コユキちゃんは基本的に反省部屋……
セミナーで業務を回しているのが実質私とユウカちゃんだけとなると、こうなってしまうのも仕方のないことなのです。
ではユウカちゃんは大丈夫なのか。ユウカちゃんも三徹をしているのではないかと思われるかもしれませんが……そこは問題ありません。
「……よし、次はこれとこれを同時進行で進めれば──」
左手でパソコンを、右手でペンを走らせながら時にはタブレットを操作する。このような器用なことをやってのけるユウカちゃんを見てもらったら分かりますが、ユウカちゃんは十分な睡眠を得て元気に活動しています。
それはなぜか、答えは単純です。ユウカちゃんには有無を言わさず寝てもらったからです。たとえどんなに業務が溜まっていたとしても、ユウカちゃんは絶対に睡眠時間を取らせました。
どんなに私も手伝うと言って作業を続けようとしても、私はあの手この手を使って寮の自室へと戻し、ベッドで寝かせていたのです。
なぜそこまでするのか……他の人から見たら疑問に思うでしょう。ただでさえ少ない人数、膨大な業務……ユウカちゃんにも手伝ってもらった方が早く終わって余裕が出来るはずですから。
ですがそれでも、私はユウカちゃんを徹夜させるわけにはいけませんでした。理由は、もちろん……
──ユウカちゃんに徹夜をさせたら危険だからです。
危険と言うのは、暴力的な意味ではありません。社会的な意味で危険だからです。
そしてこの社会的に危険と言うのが、暴力よりも危険な類であると私は考えています。
ユウカちゃんが徹夜をした回数は多いです。それこそ、1年目の時点で34回はしていました。でも、別にユウカちゃんが徹夜をしても、ユウカちゃんの身体以外の部分で危険なことはありませんでした。
徹夜をしても身体がダル重くなるだけで、休めばすぐに元に戻る。ユウカちゃんはそういう普通の一般的な徹夜状態を持つ人でした。そう、普通の人だったんです。
──彼と、出会うまでは……
才羽アオトくん。モモイちゃんとミドリちゃんの末っ子の弟で、年齢は10歳。
まだ小学生の可愛らしい少年。その子に出会ってから、ユウカちゃんの様子はおかしくなり始めました。
元から小さい可愛らしい子供が好きそうな雰囲気はありました。微笑ましそうに子供を見ている目……それは、孫を見る祖母のようなものだと私は勘違いしていたのです。
アオトくんと出会い、ユウカちゃんがアオトくんに見せる表情はとても孫を見るようなものではありませんでした。そう、まるで獲物を食らいつくさんとする獣のような……
しかし、ユウカちゃんも心のどこかでは分かっているのか、普段はその衝動を抑えて生活していました。理性も働き、普段の状態なら問題はないと思われていたのです。
──しかし、ユウカちゃんが三徹をした日……ユウカちゃんは弾けました。
アオトくんを弟にすると言ってはゲーム開発部を襲撃し、アリスちゃんを超えるパワーで周りを抑え込みアオトくんを我が物の手にしようとしたという報告が、ゲーム開発部を通じて伝えられました。
しかも1回のみならず、2回も。
そのおかげで、一時的に恐怖を抱えたゲーム開発部+アオトくんはユウカちゃんとの接触を拒んだり、徹夜したユウカちゃんはゲーム開発部に入ってはいけないなどのルールが決められたりなど、色々な意味で爪痕を残してしまった出来事があったのでした。
そういった出来事のおかげで、私はユウカちゃんを徹夜させるわけにはいかないと判断したのです。
確かに業務的な意味では辛い思いをしましたが、きっとミレニアムの平和のためにはこれが最善の方法だったに違いありません。
──私も、親友が猥褻罪で捕まる姿は見たくありませんから……
「……ア…!………ちょっとノア!?」
「ッ!……どうしました、ユウカちゃん?」
「どうしましたかじゃないわよ、手が止まってボーッとしてたから……」
ボーッとしていた……書類を見ると、確かに新しい書類を用意したのに手が全く付いていません。色々と考えていたことが無意識に作業の手を止めていたのですね。
「……ごめんなさい、ユウカちゃん」
「いや、謝らなくても別に…………もう休んだらどう?ずっと寝ずに頑張っていたんだし……」
「いえ、あと少しですから。頑張りましょう」
やっぱりユウカちゃんにも私の疲れが強く映っているみたいですね。私を見る表情が、いつにもまして心配していそうです。
私の頑張れるという言葉でも、表情が晴れるようには見えません。これは相当ですね。
でも確かに、疲れがあるのは事実です。頑張りましょうとは言いましたけれど、一息つきたいと思っているのも事実。
ですが休憩と言って数秒目を瞑ってしまえば、恐らく起きた時には朝日が顔を出しているでしょう。それは避けなければいけないと考えると、このままノンストップで進めた方が良いような気もします。
それ以外で休憩する方法は、難しいでしょう。油断をすると、直ぐに目を瞑ってしまいそうですから。だから目を瞑ることなく休憩できる方法を……出来れば癒し成分が含まれるようなものを摂取できればもっと良いのですけれど……
………そういえば、今日はアオトくんが来ている日でしたね。
先ほど色々と思考の中に存在していたアオトくん。彼は非常に可愛い子で、見ているだけでも癒しになります。
ユウカちゃんがお熱になるのも理解できるほどで……私はあそこまで深く執着しているわけではありませんが。
それにしても、今日はアオトくんが来ているんですよね……アオトくんが………
アオトくん…………
……………………
「……あら?どうしたのノア、急に立ち上がって」
「いえ、やっぱり小休憩をいただこうと思って……ちょっと席を外しますね?」
「あら、やっと休んでくれる気になったのね。でも……どこに行く気?」
「ふふっ……それはですね………」
「──秘密です♪」
――――――――――――――――――――――
──ナデナデ…サラサラ…
温かい身体……サラサラな髪の毛……お日様のような香り……
そして、とても科学では説明できないような、心の温まる不思議な何か……
ああ、ここがエデンなんですね……
「………ねぇ」
もっとこの温かみを感じたくて、もっと強く抱き寄せれば……ふふっ、温かいです……
けれど……もっとこの温かみを体全体で味わいたいのに……胸がつっかえて邪魔に感じてしまいます……
なら……もっと強く抱きしめて、もっと全体に温かみを……
「……ちょっと、ねぇ」
……あら?急に感じる体温が熱くなりましたね?まるで揉んだら熱くなるカイロのような……もっと抱き寄せれば熱くなるのでしょうか…?
……なんだか湯気が出てきているような気もしますけれど…でも、温かいから問題なしです。
これ以上は強く抱き寄せられませんね……胸もさらしを強く巻いた時のような感じになっていますので、これが精一杯でしょう……
「ねぇ、ねぇちょっとねぇ!」
ああ、本当に癒されます……三徹した後の疲れが一気に吹き飛ぶような……心の底から生き返るような……
これが、エデン……平和、天国、憩い……楽園を象徴する全ての要素がこの子の中に………もう、トリニティやゲヘナなんて関係ありません……今ここで、私が新しいエデン条約を制定して───
「ねぇってばぁっ!!!!」
「ひゃんっ!?」
び、ビックリしました……モモイちゃんとミドリちゃんが凄い必死の形相でこちらを見ていますけど……どうかしたのでしょうか?
「いや、なに『何か用ですか』みたいな顔してこっち向いてるのさ!?なんでこの状況に疑問を抱いていないわけ!?」
「そうですよ!とりあえずまずは離してください!」
この状況…?疑問…?離してほしい…?私はミドリちゃんを抱きしめているわけではないですよ…?
「いやなんで『?』マークを浮かべてるの!?いいからまずはその腕を離す!」
「そうですよ!いいから早く───」
「アオトを離してください!!」
アオトくんを離してほしい……?
私は抱き寄せているアオトくんを見ます。力なく、だらんとして動く気配のないアオトくん。そして、首筋や耳が燃えるように真っ赤に染まり、湯気が温泉のようにあふれ出ていました。
本当に、人形のように動きません……大丈夫でしょうか…?
「早く離してあげて!もうアオトのキャパは限界を超えてるの!」
「早くしてください!アオトが爆発します!」
爆発する。そう聞いた私は腕を離しました。
フラァ…と私の拘束から解放されたアオトくんが、力なく床に落ちていきます。それを慌てて受け止めるモモイちゃんとミドリちゃん。
受け止められたアオトくんは、目をグルグルに回しており、顔全体…いえ、身体全体を真っ赤に染め上げていました。
口は半開きになり、気のせいか魂のようなものが口から出て行っているように見えます。
「ほら、しっかりしてアオト!」
「もどってこーい!」
姉の2人が、必死にアオトくんの頬を叩いて意識を戻そうとしています。ビシビシビシビシという音が鳴り、アオトくんの顔が左右に振られ、頬がまた違った赤色に染まっていきます。
「………ハッ!?」
「あ、戻ってきた!」
「大丈夫!?私たちが分かる!?」
はっと目が覚めるように目を開けたアオトくん。赤かった体は次第に落ち着いていき、張り倒されていた頬の赤みだけが残っています。
アオトくんは頬に手を当てて、「いたい……」と呟いていました。
「よかったぁ……帰ってきたぁ……」
「危ない危ない……アオトの魂が昇っちゃうところだったよ………ごめんアリス、ユズ、ちょっとアオトを預かってて」
そう言うと2人は後ろにいたアリスちゃんとユズちゃんにアオトくんの身体を明け渡しました。アオトくんはまだボーッとして何が起きているのかよく分かっていなさそうな反応をしていますね。
「ふぅ、これでよし…………さて」
アオトくんを明け渡した後、モモイちゃんとミドリちゃんが私を見つめてきます。ジト目で、怪しむように。
「いきなりどうしてこんなことをしたんですかノア先輩は?」
「そうだよ。突然『お邪魔します』って入ってきたと思ったらアオトを持ち上げてソファに座って膝に乗せて……うちの弟は愛玩動物じゃないんだよ?」
そうですね……確かにお邪魔していきなりアオトくんを抱き寄せたのは突然すぎたかもしれません。せめて一言でも伝えるべきでしたね。
「いや……なに『一言伝えればよかった』みたいな顔してるのさ。そういう問題じゃないんだって」
「……あら?どうして分かって……?」
「なんかそれっぽいこと考えてそうな顔をしていたから………じゃなくて、私たちは何でいきなりアオトを抱きしめたのかって聞いてんの」
「そうですよ。どうしてユウカがやりそうなことをノア先輩がやっているんですか」
「大丈夫ですよ?私はユウカちゃんと違ってアオトくんに〇▲×■とか(自主規制)したいとは思っていませんから」
「そういう問題じゃねぇんだって」
少し、圧を感じます。2人の目線に力が入り、意地でも私に説明させようとしている気概がヒシヒシと伝わってくるようです。
なのできちんと、理由を説明しましょう。そう、これは私のためではない……アオトくんのための行為なのですから。
「……私、思ったことがあるんです」
「思ったこと……?」
私は、ユウカちゃんといつも傍にいるからこそ思った、あることについて語ります。
「ユウカちゃんは……アオトくんに対して好意的な感情を抱いています」
「好意的……好意的?」
「いや確かに好意的と言えば好意的だけど、その一言で済ますにはあまりにも………まあいいや、それで?」
『好意的』という言葉にいまいちピンと来ていない顔をする2人。気持ちは分かります。でも、とりあえずその一言でまとめさせてください、面倒ですから。
「そしてその感情は、徹夜を重ねれば重ねるほどに凶暴になってしまいます」
「そうですね。身に染みて理解できます」
「熊よけスプレーも最近買ってきたしね?」
熊よけスプレーですか。これはユウカちゃんには効果的……でしょうか本当に?ユウカちゃんは熊と言うわけでは……まあいいでしょう。
「……ならユウカちゃんを徹夜させなければいいとはなりますが、セミナーの現状を考えると難しい話です」
「難しいって……大変なんですねセミナーって……」
「はい……ですからユウカちゃんが徹夜をしてしまうのは大いにありえるのですが、それはつまりアオトくんに対する暴走頻度も多くなるということ」
これは計算するまでもない、簡単な考えです。ユウカちゃんの徹夜を完全に防ぐのは今のセミナーでは不可能に近い。
「暴走頻度が多くなるということは、アオトくんに対する被害も多くなるということ。そして、アオトくんが1人きりの時に暴走ユウカちゃんと出会う確率もまた、頻度に比例して大きくなってしまいます」
「それは、確かに……」
「言えてるね……いや、言えてるねじゃないわ。檻にしまっとけよそんな魔物」
モモイちゃん、言葉が強いですよ。流石に檻にしまうのは可哀そうですから、やめておきましょうか。
「アオトくんが1人きりの時に出会ってしまう……これがネックなのです。モモイちゃんやミドリちゃん、アリスちゃんにユズちゃんが常に付いているわけではないですし、私もユウカちゃんを毎回止められる保証はどこにもありません」
「確かに、エンジニア部とかヴェリタスに1人で遊びに行く時もありますからね」
「そのタイミングを狙われたら……おしまいだね」
そう、そのタイミングを狙われてしまう…もしくは偶然出くわしてしまったなどの事態が起きてしまえば、アオトくんの純潔が汚されてしまう可能性が大きく高まってしまいます。
もしユウカちゃんの理性が残っていて、流石にマズいとブレーキが掛かってくれたら何とかなるかもしれません。しかし今までの経験上、その理性ブレーキには期待できないでしょう。
「だから……考え方を変える必要があると思ったんです」
「考え方を……」
「変える……?」
2人の視線が、より強くなりました。
そう、考え方を変えなくてはなりません。防ぐ手立てがない、襲われる可能性が残っているという状況なのであれば、防ぐとはまた別の方法が必要です。
そう、その方法こそ……
「防げない可能性があるというのなら………」
「──免疫を付けてもらうしかないと」
「「………はい?」」
……あら?2人の目が丸く……?
もしかして……上手く伝わっていないのでしょうか?
「……防ぐ手立てがないのなら、ユウカちゃんに対する耐性を上げてもらおう……そのために免疫を付けてもらいたいという意味なのですが……」
「えっと……つまり……?」
「どういう……?」
……どうやら、いまいちまだピンと来ていないようですね?まるで石のように体が固まって動いていません。
なら、例を出しましょうか。
「……インフルエンザってありますよね?冬になると流行るあの病気です。あれって感染したくないためにワクチンを打つ人が多いと思います」
「ワクチン……はい」
「注射は嫌だけど……そうだね?」
はい、そのワクチンが肝なんです。
「ワクチンというのは、あらかじめ無毒化されたウイルスや病原体の一部を体内に入れて抗体を作り、ウイルス感染の発症を抑える仕組みです。つまり……」
「私というワクチンによるスキンシップであらかじめ耐性を作ってもらおう、というわけです」
───シーン……
……あら?なんだか時間が止まったかのように静かに……余計に悪化してしまったような?
2人の目も丸から点になって、言葉を失ったかのように口を閉じています。
すると急に2人の首が下がり、顔が俯くような形になっていき…
「……っと待って。ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!?なに、それ本気で言ってるのノア先輩!?」
「いや、いやいやいやいやいやバカじゃないですかノア先輩!?」
ば、ばか……?バカって言われちゃいました私……?
プルプルと顔を震わせながらガバッと顔を上げてツッコまれてしまいました……私そんなに変なことを言ったでしょうか……
「言ってることが頭おかしいよ!?なんで『ユウカから守る』という方向から『ユウカから耐えろ』という方向性にシフトチェンジしているわけ!?」
「しかもなんでよりにもよって根性論に片足突っ込んでる方法を取ろうとしているんですか!?運動部でもここまで酷いことはさせませんよ!?」
こ、根性論……確かに言われてみれば根性論かもしれませんが、でもアオトくんの今後を考えると耐性を作るのは悪くない発想のはずでは…
「何その反応!?なんでそんな分からないみたいな反応をしているの!?というかなんか自分のことを『ワクチンです』みたいに語ってるけどさぁ!ノア先輩もアオトからすればウイルスの塊のような人だからね!?」
「そんな……まるで私じゃ毒性が強すぎてワクチンの意味がないみたいな言い方……」
「そうだって言ってんの!!」
「毒性も強いし種類も違うんですよ!ユウカとノア先輩なんてA型とB型の違いみたいなものなんですからね!?」
「ていうか、人によってはユウカよりもノア先輩の方が猛毒に感じる人が多いような……」
2人にまくしたてられて、何も言えなくなってしまう私。
「ハァッ…ハァッ……ていうか、それ建前なんじゃないの?」
「…え?」
「免疫付けさせるために抱きついたっていうのが建前なんかじゃないかって聞いてるの」
ツッコミ疲れたのか、息切れをしているモモイちゃん。そして疲弊した口から紡がれる、私の考えが建前なのではないかという推理。
そんな、建前なんて……
「あんな幸せそうな顔でアオトに抱きついておいてそんな建前が通用すると思ってるの?」
「完全にアオト目当ての行動にしか見えなかったんですけど………どうなんですか?」
そんなこと言われても……
だって、仕方がないじゃないですか。ゲーム開発部の皆さんも、エンジニア部もヴェリタスも、ユウカちゃんも……みんなアオトくんと関わる機会が多くて。
だって、私はそこまで関わる機会が少ないから。
だって……だって……だって……
「……ぐすっ」
「へ?」
「え、泣いて…?」
だってだってだってだってぇ!!
「皆さんばかりズルいじゃないですかぁ!」
ズルいです!本当にズルいですぅ!
「えぇっ!?ノア先輩!?」
「どうしちゃったんですか!?」
2人が驚いたような顔を見せますが、私は止まりません。
「だって、私はいつも仕事とか用事とかでアオトくんと関わることなんて少ないのに……皆さんはどんどんアオトくんと関わって仲良くなって……ズルいです!」
「いや、ズルいと言われても……」
「ズルいです!もっと私にも触れ合う時間があったって良いじゃないですかぁ!」
「いや、そんなこと言われても困ると言いますか……」
「うぅ…ひっぐ……どうしてなんですかぁ?アオトくんがミレニアムで最初に会ったのは私じゃないですかぁ……それなのにこの扱いって……あんまりじゃないですかぁ……」
今でも思い出します……あの時の初々しいアオトくんが……
私のことを『お姉さん』と呼び、私の顔を見て可愛らしく顔を赤らめて緊張しながらゲーム開発部の場所を聞こうとしているアオトくんの姿が……
そしてゲーム開発部に案内して、モモイちゃんとミドリちゃんに飛びつくアオトくんの姿……
アオトくんにとって初めて来るミレニアムサイエンススクールという未知の学園。その学園に1人、右も左も分からないときに初めてアオトくんが声をかけた人物がこの私でした。
そんな特別な立場であるはずの私はあの日以降、大した交流の場が設けられずに月日が流れていく一方で……ただゲーム開発部への道案内をしただけのお姉さんという立場になってきているような気がして危機感を覚えていました。
だからもう……タイミングなんか伺っている余裕なんかあるわけないじゃないですか……自分から会いに行かなきゃ何も交流できないじゃないですか……!
「初めて出会った人にはもっと特別な扱いを受けるのが普通でしょう!?どうしてあの日以降の出番が暴走するユウカちゃんを見送るだけの語り部のみになっているんですかぁ!!」
「いや、えぇ…?」
「そんなこと言われも……」
「ズルいですぅ!!私はチュートリアルに出てくるお助けキャラじゃないんですよぉ!?」
「いやいや、確かにお助けキャラは作中だと大した出番が与えられない立場になりやすいけどさぁ!?」
「案外、作中の重要な場面で神の一手のような活躍をする可能性もあるんですよ!?」
「それでも!私は!いまアオトくんを望んでるんです!!」
私は勢いのまま後ろにいるアオトくんに飛びつきました。アリスちゃんとユズちゃんの間でボーッと休んでいたアオトくんに奇襲という形となってしまいましたが、仕方がありません。
「ぴゃああああああ!?!?!?」
「わっ!?ノア先輩がミサイルのような勢いで突っ込んできました!?」
「えっ……えっ…!?ノア先輩が……アオトくんに…!?」
アオトくんの悲鳴に、アリスちゃんとユズちゃんの驚きの声。でも、そんなものを気にしている場合ではありません。手段なんて、選んでいる暇などないのです。
ああ、本当に癒されますアオトくんの温かみ……モモイちゃんとミドリちゃんは去年までこの温かみを毎日味わえていたと考えたら……ズルいです。
「あーっ!ちょっとノア先輩いきなり飛びつかないで!!アオトがまたキャパオーバーになっているから!!」
「そうですよ早く離してください!アオトがまた真っ赤に染まって………ってなんて顔してるんですかノア先輩!?」
「なっっっさけな!?そんなニヘラッってした情けない顔のノア先輩初めて見たんだけど!?」
えへへぇ……アオトくんあったかぁい……
もうこのまま寝ちゃいたぁい……もう仕事なんて放りだして夢の世界に旅立ちたぁい……
私はそのまま瞳を閉じて夢の世界に……
──コンコン…
「ちょっとノアー?ちゃんと休めてるの……ってああああああああああああああああああああああっっ!?!?!?!?!?!?」
ぴゃっ!?ビックリしました……
いきなりの大声が部室に広がって、みんなもビックリした様子を見せています。大声の発生源である扉の方を見ると……
「ユ、ユウカちゃん!?」
「うーわ、もっと面倒なやつ来たじゃん……」
「このタイミングとか最悪なんだけど……」
モモイちゃんとミドリちゃんのどす黒い呟きが聞こえた気もしますが置いておいて……ユウカちゃんは私とアオトくんの姿を見るなりこちらに近づいてきました。
「ちょっとなにアオトくんを抱きしめているのよ!?アオトくんが可哀そうだから離してこっちに寄越しなさ「「おい」」……じゃなくて離してあげなさい!」
凄いです……モモイちゃんとミドリちゃんから今まで聞いたことのないドスの効いた声がしました。これは完璧に記録しないとですね。
そして私に離してあげてほしいですか……でもそれをしてしまったらユウカちゃん取る気ですよね?そのままユウカちゃんがアオトくんに抱きついてしまいますよね?
ユウカちゃんは徹夜をしていないとはいえ、アオトくんを摂取したら大変なことになりますよね?
だから……
「……いやです。ユウカちゃんには渡しません!」
「え…別に渡してほしいとは言いかけたけど言ってないし……ていうかなんて可愛い膨れっ面してるのよノアは」
「ふんです!今は私がアオトテラピーをしてるんですからユウカちゃんにはあげません!」
「アオトテラピーってなんだよ」
「アオトテラピーってなんですか」
モモイちゃんとミドリちゃんのツッコミが響きますが、アオトテラピーはアオトテラピーです。
「はいはい、とりあえずアオトを離してあげてノア先輩」
「ほら、こっち寄越してください」
「ああっ、私のエデンが……」
ああ……アオトくんが離れていく……
モモイちゃんとミドリちゃんの巧みなコンビネーションで、容易くアオトくんを引き剝がされてしまいました。
今まで感じていた温もりが消え失せ、心と体に寂しさが溢れてきます。
「……ちょっとユウカ、ノア先輩どうしちゃったのさ」
「こんなノア先輩見たことないんですけど」
「これは…ノアはちょっと三徹してて……多分少しタガが外れちゃったんじゃないかしら」
「……まじかー、ノア先輩も三徹したらこうなるのかー」
「盲点……これは要注意人物を増やさなきゃなのかなお姉ちゃん?」
モモイちゃんとミドリちゃんの会話が聞こえてきます。
「いやー、流石にユウカほどではないと思うから様子見でいいんじゃない?」
「なら、まあいいか。それにしても、どうしてアオトってどうしてこんなに皆から狙われちゃうんだろうね?なんか変なフェロモンでも出てるんじゃない?」
「全くだよね。しかも狙ってくる奴は全員セミナーだし、ホントどうなってんのさセミナーって」
「ちょっと、私ほどじゃないってどういうことよ」
「そのままの意味だよ。ていうか、用がないならさっさと帰ってくんない?」
「そうですよ。邪魔なんで早く出てってもらえませんか?」
「な、なによ……私はただノアの様子を見に来ただけなのに……………っていうか、なにこの扱いの悪さ。私、貴方たちに何かしたかしら?」
「「日頃の行い」」
ユウカちゃん、2人からかなり押されていますね。
まあしかし、こんな風に扱われるのも無理はありません。なにせユウカちゃんがアオトくんにしようとしたことは全て私の記録に残っていますから。擁護のしようがありません。
「はぁ……分かったわよ。ノア連れて出ていくから。仕事も残ってるし」
「うぅ……私のエデンがぁ……」
「ほら、しっかりしなさいノア。全く、アオトくんの反応を見ずに抱きついちゃって……いい、ノア?」
「アオトくんが嫌そうなことをやったらダメなのよ?」
「「テメェが言うなこのバカ会計がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
「ふおぉっ!?」
ユウカちゃんの発言に、モモイちゃんとミドリちゃんによるドロップキックが炸裂。くの字に折れ曲がったユウカちゃんの身体がドキュゥゥゥン!!という飛行機が過ぎ去ったような音と共に部室棟の廊下まで吹き飛ばされて、壁に叩きつけられました。
叩きつけられた壁から、ユウカちゃんを中心としたクレーターが出来上がっています。
そしてモモイちゃんとミドリちゃんが吹き飛ばされたユウカちゃんに近づいて、そのまま追い打ちを始めました。
「このっ、このっ!!一番っ、アオトにっ、迷惑をっ、かけてるっ、女のっ、くせにっ!!」
「自分をっ、棚にっ、上げてっ、説教っ、とかっ!!ほんとっ、良いっ、身分にっ、なったっ、ものっ、ですねっ!!」
「ぶへっ!あだっ!あべしっ!ちょっ、ちょっと……ひでぶっ!や、やめ…悪かったからやめて…たわばっ!!」
あ、あらら……モモイちゃんの前蹴りがユウカちゃんの顔とお腹に……ミドリちゃんは壁の破片を持ってユウカちゃんに所構わず殴りつけて……
どうしましょう、流石にちょっと可哀そうです。なんとか止めてあげたいのですけど、今の私はタオルを持っているわけではありませんし……どうすれば……
「……ハッ!?ぼ、僕は一体何を……確かノアさんに抱きしめられて……ッ!?!?」
すると後ろからアオトくんの声がしたので振り返ってみると、どうやら意識が戻ってきたようです。しかし意識が戻った途端、急に耳を塞いで飛び上がりました。
私とアオトくんの目が合うと、アオトくんは申し訳なさそうな顔で私に会釈をしながら後ろを向き始めました。
「あ、ごめんなさいノアさん………いや、どうしたのさ急に。え…?いや、別にイチャイチャしていたわけじゃないよ……?」
すると右耳を塞ぎながら誰かと会話をするような様子を見せ始めました。
一体、誰と話しているのでしょうか…?
「いやいや、だからと言って別にデレデレしてたわけじゃないし……いや、鼻の下も伸ばしてないって!どうしたのさ急にそんな拗ねたようなこと言って……え?拗ねてない?嘘だ、絶対拗ねてるって!」
なんだか他の女の子を意識してしまった彼氏のような言い訳をしているような気が……?アオトくん、もうそこまで進んでいるというのですか…?
「ふんっ!ふんっ!ふんっ!ふんっ!」
「このっ!このっ!このっ!このっ!」
「ぶべっ!ぶぎゃっ!えんでばっ!はんにゃらっ!!」
もう一度ユウカちゃんたちの方を振り返ると、形成変らず一方的にボッコボコにされるユウカちゃんの姿が。そろそろユウカちゃん、気を失いそうになっている気がするのですが気のせいでしょうか?
本当に容赦がないですねモモイちゃんとミドリちゃんは……
「なんで怒ってるの!?いや、怒ってないって……嘘だってそれは!めちゃめちゃ怒ってんじゃん!どうしたのさ急に………え?デレデレしていた僕が悪い……?いや、だからデレデレしてないってばぁ!?」
もう一度後ろを振り返ると、アオトくんは誰かを必死に宥めていました。
そして端にあるロッカーに視線を移すと、ロッカーがプルプルと震えています。どうやらユズちゃんがロッカーに避難したみたいですね。
その近くでアリスちゃんもオロオロとしていました。まるでこの状況をどう納めればいいのか分からない迷子のように。
ユウカちゃんをボコボコにするモモイちゃんとミドリちゃん。必死に誰かを宥めているアオトくん。ロッカーに籠り震えているユズちゃん。そしてどうすればいいのか分からず半泣きになっているアリスちゃん。
状況はまさに混沌を極めていました。
「あわわ…カオスです……まるでモモイが作ったシナリオのようなカオスです……一体どうすればいいのでしょうか……?」
アリスちゃんが、キョロキョロと周りを見渡しながら呟きます。
「アリスには、どうにも…………いえ、アリスは知っています。この状況を打開する方法を、アリスは知っているはずです!」
そう言うと、アリスちゃんは覚悟の決めた顔で銃を構え始めました。それは確か……『光の剣:スーパーノヴァ』でしたか……
エンジニア部の作った武器で、アリスちゃんにしか扱えない重量を誇る代わりに常識を超えた威力を誇るとされているレールガン……
………まさか、アリスちゃん?
「エネルギー充電開始、20%、40%……」
あ、これもしかして……撃つ気ですね。
いわゆる、爆破オチとかいう……
「60%、80%、90%……」
ユウカちゃんも、モモイちゃんも、ミドリちゃんも、アオトくんも、気づいていないみたいです。
ロッカーが先ほどからガタガタと震え始めているので、おそらくユズちゃんは気付いていますねこれは。
「エネルギー充電率、100%!」
どうしましょう……逃げましょうか。いえ、もう遅いですね。もうチャージ完了したみたいですし。
この状況を収める方法を知っていたら、こんなオチはつかなかったのでしょうか。それとも、カオスな状況になってしまった時点で、爆破オチは約束されたものだったのかもしれません。
本当に、何が正解だったのでしょうね。色々と考えてしまいますが……
「このっ、いいっ、加減っ──」
「くたっ、ばれっ、ユウカぁ──」
「ぶべらっ!ちょっ、もう限界──」
「だから、鼻の下なんか伸ばしてな──」
「──光よ!」
まあ、どうにでもなれ~♪(三徹目)
ユウカとノア、どちらか1人を選べと言われた際…貴方はどちらを選びますか?
私は迷わず両方選びます(強欲な壺)