まさかの高頻度投稿。いきなり確変に入ってしまった今日この頃。
絶対どこかでガス欠する……
「あ、やっほーアオト!よく来たね!」
窓が無く、電気がついていない暗い室内。それでも眩しく明るく感じるのは、至る所にあるPC画面が光り輝いているおかげか。そんな陰鬱とも言えそうな雰囲気の部室に響く、明朗な声。
そんなヴェリタスの部室に足を踏み入れた僕は、マキさんに歓迎の言葉を頂いていた。
「こんにちは、今日はよろしくお願いしますマキさん」
「あははっ!硬い、硬いよアオトくん!別に知らない仲ってわけじゃないんだからさ!」
僕がマキさんに頭を下げて挨拶すると、硬いと制される。お姉ちゃんの親友とはいえ、ガッツリ年上だから礼儀正しくしただけのつもりなのだが、マキさんはあまりそういうのは好きではないのかもしれない。
まあ、だからといってフランクに接することが出来るかと言われたら微妙なところではあるのだけれども。
「そ、そう言われても……頑張ります……」
「あはは、やっぱり硬いね……まあいいや、何かデータを移してほしいんだっけ?」
「あ、はい。えっと……」
僕は懐からケイの入っている8GBのメモリーカードと、ミレニアムに行く前にコンビニで買った16GBのメモリーカードを取り出した。16GBの方は、まだ開封していないのでパッケージされたままだ。
今日僕がデータ移行をしてほしいということについては、昨日ミレニアムに行くことが決まった段階でマキさんにモモトークで伝えていた。事前に伝えずデータ移行してくれというのは流石に唐突すぎるからね。
「このメモリーカードのデータをこっちに移してほしいんです」
「なるほどね……ってこのメモリーカードって『G.Bible』が入ってるやつじゃん。何でこっちに移行させようと思ったの?」
「あー…それは……」
マキさんにデータ移行する理由を聞かれて僕は少し悩む。何せ移行の理由が『ケイの声を聞けるようにして会話をしやすくするため』だからなのだが、ケイの存在は皆には知らせないという約束を結んでいるのでどう伝えればいいのか分からないのだ。
でも理由はちゃんと説明しないといけないので……
「えっと…モモイお姉ちゃんのメモリーカードはちゃんと容量を空けた方がいいかなって。あくまでこれはゲーム機も含めてモモイお姉ちゃんのものなので……」
「ふーん…?分かった、とりあえずそういうことにしておくね」
マキさんは「待っててね~」と言いながらマキさんのスペースであろう場所で作業を始めた。マキさんは僕の苦し紛れの理由に不思議だと思っていたような表情をしていたけど、とりあえず納得はしてくれたようだ。助かった……
マキさんはデータ移行の作業をしてくれているので、とりあえず部室の周りを眺めてみると見知った顔がチラホラと目に映りこんできた。
「あ、ハレさん。こんにちは」
「ん?あーアオトだ。いらっしゃい」
ハレさんは僕の挨拶に顔をこちらに向けて朗らかな顔で返してくれた。でも今は仕事をしているのか、すぐに真剣な顔に戻ってPC画面に集中していく。後ろからチラッと覗いてみると、まるで呪文のように英数字がずらっと並んでおり、僕は理解するのを一瞬で諦めた。ハレさんはそんな文字列とにらめっこしながらキーボードを打ち込んでいく。そして数十秒に1度ずつ近くにあったエナジードリンクに口をつけていた。
なんだか、遠く離れた世界をみているようだ……
邪魔しては悪いので僕はその場をそっと離れ、今度は遠くでヘッドホンを耳に当てているコタマさんの方を見る。
「こんにちは、コタマさん」
僕が軽く声をかけるとコタマさんはこちらを向いて軽く笑い、こくんと頷くように会釈を返してくれた。一体何を聞いているのだろうと聞きたくなってみたが、コタマさんも仕事中なのかもしれない。何をしているのかは分からないままだが邪魔しては悪いと思い、その場をそっと離れた。
「お待たせ~出来たよ~」
ハレさんとコタマさんに挨拶をし終えたところで、マキさんが声をかけてくれた。
「えっ、はやっ。びっくりしました…」
「あははっ、容量的にもそんなに時間が掛からないからね、すぐに終わったよ。もちろん、データも消えることなく無事にね」
マキさんは快活に笑った。データも無事ということはケイも無事ということだ。本当によかった。
「ありがとうございますマキさん…こんな簡単なこともやってくれて」
「え?いいよいいよ!むしろ私たちを頼ってくれて嬉しかったよ!」
僕のお礼に、明るい声でむしろ感謝を言ってくれるマキさん。
「データとかはデリケートなものだからさ、こういうのは専門家に任せるっていうのが大事なの。だから今後も全然頼っちゃってくれていいんだよ?」
「あはは……じゃあもし今後も必要なことがあったらお願いします」
「うん!」
…なんだか、マキさんの元気な笑顔を見るとこちらも元気になってくる。毎日がきっと楽しいんだろうなと感じるその笑顔は、先ほどまでお姉ちゃんたちに怒られた後の陰鬱な気持ちを払拭してくれるようだ。モモイお姉ちゃんとミドリお姉ちゃんもこんな親友を持てて羨ましいな。
さて、僕は仕事の邪魔になりそうだからとっとといなくなろうかな。僕は足を出口に向けた。
「あれ…?もう行っちゃうの?」
「はい。ハレさんとコタマさんも仕事で忙しそうなので、邪魔しちゃうかなって…」
「え…?仕事……?」
僕がもう出ていこうとする理由を話すと、マキさんは目を点にした。さっきまでの笑顔は何処に行ったのか、入れ替わるように困惑な顔に変わってしまった。
「し、仕事……仕事かぁ……仕事………」
「…?マキさん?」
「えっ!?あ、ううん!何でもないよアオト!そうだね、2人とも忙しいかも!」
急にいたずらを誤魔化す子供みたいにあたふたし始めたマキさん。なんだろうその反応は。僕は変なこと言ってしまっただろうか……?
「やっぱり忙しそうなんですね……では僕は失礼しますね。お邪魔しました」
「あ、うん!じゃあねアオトくん、気をつけて帰ってね!」
なんだか最後まであたふたした反応を崩さなかったマキさんだが、最後は僕に手を振って見送ってくれた。ハレさんとコタマさんも作業の手を止め、軽く手を振ってくれている。
僕はそんな3人に会釈で返し、出口の扉を潜り抜けた。先ほどまで比較的暗い環境にいたせいか、廊下を照らす電気に目を薄めてしまう。しかし直ぐに慣れて元に戻った後、僕は再びエンジニア部の工房へと向かったのであった。
………仕事なんだよね?
――――――――――――――――――――――
「ふむ、やはりミレニアムの中心部と違って落ち着いた雰囲気だね。何だか安心するよ」
僕の隣を歩いているウタハさんは、穏やかな声音でそう言った。ウタハさんは基本的にミレニアムサイエンススールの敷地内で暮らしているのだろう。ミレニアムのような高層ビルが立ち並ぶ近未来都市で普段暮らしているのなら、こういう普遍的で一般的な住宅街が立ち並ぶ場所というのは安心感を強く感じるのかもしれない。
そんなウタハさんと僕は百合根駅で電車を降り、自宅までの道を一緒に歩いていた。ヴェリタスでメモリーカードのデータ移行を終わらせてエンジニア部に戻った後、爆速で作り上げてくれた『お願いの品』を受け取り、お昼ご飯に配達のピザをご馳走してくれて少しゆっくりした後、僕とウタハさんは家路についていた。
時刻はすっかりおやつの時間。日はまだ暮れる様子をみせず、さんさんと輝く太陽が皮膚を熱く燃やしている。日に日に感じる皮膚の熱さが増しているような気がして、本格的に夏の訪れを感じ始めていた。
コツコツと響く2つの足音。周りの喧騒は無く、ただ遠くの車の通りすぎる音のみが聞こえるこの空間は、大都会の喧騒から大きく離れた憩いの空間だ。
「…静かだね。こういう空間に身を置くのも悪くはないな」
「ウタハさんは大都会の喧騒が好きなタイプなんですか?」
「どうだろうか……今までずっとそういう場所で過ごしてきたから分からないな。でもこういう静かな場所も嫌いじゃない」
そういうウタハさんの顔は、どこか気持ちよさそうで、その姿はそよ風に靡く髪も相まって新鮮な感じだ。そういえば外を歩くウタハさんをこの目で見るのは初めてだったな。
「ところでアオト…本当にお礼はあれでよかったのかい?私はいまいち使いどころが分からないのだけれど……」
「えっ?あー…全然大丈夫ですよ。僕としては相当有難いものを作ってもらったと思っているので」
「そ、そうか。ならいいんだが……」
色々と考えていた所に、お礼の話題を振られた。僕がウタハさんのところを訪れたからそのお礼に何でもしてくれるとウタハさんが言ってくれたので、とある小物のようなものを作ってもらったのだ。どうやらウタハさんはその用途を理解できていないみたいだが、まあ無理もないだろう。僕としても、何も知らない状態でそれを作ってくれと言われたら頭に「?」マークを浮かべること間違いなしだ。
「まあ、深くは詮索しないさ。君にとって必要なものなのだとしたら作った甲斐があるというものだからね」
「あはは…ありがとうございます本当に…………あ、着きましたね」
こんな感じで雑談を電車の中から続けておよそ1時間、ついに自宅に到着した。普段なら少し長く感じたこの旅路も、ウタハさんと一緒だったおかげであっという間だ。
「ほう、ここが君の家なんだね。とても立派で良い家じゃないか」
「ありがとうございます。正直1人で過ごすには大きすぎるとも思いますけどね……」
「そうか…姉と離れてくらすようになってもう2~3カ月くらいかい?」
「それくらい経ちますね。早いような遅いような……」
そうか、もうお姉ちゃんたちと離れて暮らし始めてそれくらい経つのか。
僕はクリーム色を基調とした外壁の二階建てである自宅を見て思った。10年はここでお姉ちゃんたちと一緒に過ごしてきたのに、今ではすっかり静かになってしまったこの家。別に今更どうこう思うつもりはないのだけれど、やっぱりあの時の選択は正解だったのだろうかと今でも感じることはある。そんなこと言ったって後の祭りだけれども。
「あ、そうだ。まだ日も明るいのでお茶していきませんか?せっかくついてきてもらったので、そのお礼に」
「うん?ああいや気にしないでくれ。そこまで気を遣わなくてもいい」
「え?でも……」
「いいんだ。それに君が今日ミレニアムに来てまでやりたかったことの残りがまだあるんじゃないかな?」
「えっ……」
ウタハさんからそう言われて僕の心臓がドクンとはねる。もしかして、ケイの存在を察したのか…?確かにメモリーカードのデータ移行とか、ウタハさんに作ってもらったお礼品とか、どうしてこんなことをしたのか不自然だと感じるであろう要素は多かったが……
「…ふふっ、別に詮索はしないさ。今日の残った時間は君が使いたいように使うといい」
そんな僕の雰囲気を察したのか、ウタハさんはいたずらっぽく笑って誤魔化してくれた。なんというか、ウタハさんには色々と敵わないなと今日一日で感じてしまっているような気がする。
「……なんか、色々とすみません」
「ああ、気にしないでくれ……さて、私はそろそろお暇しようかな」
ウタハさんは、帰る準備をし始めた。準備とはいっても、そろそろ帰る雰囲気を出しているだけに過ぎないのだが。
でもそうか、ウタハさんもう帰っちゃうのか……
今日はウタハさんには本当に色々とお世話になった。お世話になったし、家族のゴタゴタにも巻き込んでしまった。正直申し訳ない気持ちでいっぱいだが、それと同じくらいウタハさんと一緒にいれて楽しかった。
今日のこの交流で、ウタハさんともっと仲良くなれたような気がする。本当はもっと一緒に遊んだりしたかったのだが、今日のところは仕方がないだろう。だからせめて、感謝の言葉だけでも伝えなければ。
「あの……ウタハさん」
「うん?」
「その……今日は本当にありがとうございました…!」
家まで送ってくれたこと、お昼を奢ってくれたこと、お礼品を作ってくれたこと。そして少し前に、『G.Bible』を巡っての戦いに力をくれたこと。その全ての感謝を込めて僕はウタハさんに頭を下げて感謝を伝えた。
「……ああ、こちらこそありがとう。今日は楽しかったよ、本当にね」
「ウタハさん……」
「楽しかったからこそ、今日は疲れただろう?だからゆっくり休んでくれ」
顔を上げてウタハさんを見ると、朗らかでそれでいて爽やかな笑顔で返してくれた。
「それじゃあね、アオト。また会おう」
「はい…!また会いましょう!」
ウタハさんは僕の感謝に応えるように手を上げて、駅の方へと歩いていく。来た道を引き返すように歩くその後ろ姿は、照り付ける太陽からスポットライトのように照らされて光り輝いていた。
僕はその後ろ姿が見えなくなるまで見送り、今日あった出来事を振り返りながら玄関のドアを開けた。
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洗面所で手を洗い、うがいをする。意外と今日は暑かったせいか、水がヒンヤリしていて気持ちがいい。
そしてタオルで手を拭いた後に僕はリビングへと戻った。リビングに置いてあるソファー。そこに腰を降ろすと、足元から全身にかけて力が抜けていくのが分かる。疲れた体で椅子に座った時と同じ感覚だ。それほど今日は疲れているのだろう。
だが疲れているからといって行動を止めるわけにはいかない。僕はテーブルに置いたカバンから『ゲームガールズアドバンスSP』を取り出して電源を入れる。そしてそのまま操作をしてファイルを開き、僕は声をかけた。
「お待たせケイ、帰ったよ」
【……ええ、そのようですね】
その声に反応するように、ゲーム機の中の住人であるケイが喋った。今日の朝ぶりの登場に、そこまで時間が経っていないにも関わらずなんだか久々な感覚に襲われる。
【意外と早かったのですね。もっと日が沈むまでミレニアムにいると思っていたのですが】
「まあ、そうだね。長居することも考えたっちゃ考えたんだけど……ケイと話したかったから早く帰ってきちゃった」
【………そうですか】
そうですかって、せっかく早く話したいって言ったのに素っ気ない反応だなぁ……
まあそれでも【変なこと言わないでください】みたいなことを言われなかっただけでも親しくなれてるってことなのかな?まだケイのことは全然理解できていないけどね。
【私はてっきり、あの才羽モモイとかいう貴方の愚姉に怒られたことがショックでそそくさと帰ったと思っていたのですが】
「ええっ!?流石にそんなこと思っていないよ!?」
【……本当ですか?】
「何で疑ってるのさ!」
ケイはどうやら僕がモモイお姉ちゃんに怒られたことがショックで帰ってきたと思っているらしい。別にそんなことないのに……それはモモイお姉ちゃんに怒られたことに関したは気が沈んじゃったけど、別に怒られたのはあれが初めてってわけじゃないし……
ていうか愚姉って……ケイはモモイお姉ちゃんのことなんだと思っているの……?
「あーもう、とにかく!早く成果を確かめるよケイ!」
【はぁ…分かりましたよ。声を出せばよろしいのでしょう?】
「うん、そう。16GBのメモリーカードにしたからケイも少し余裕を感じているんじゃない?」
【それはまあ……そうですね。これならマシな声が出せると思います】
僕がモモイお姉ちゃんに怒られた話は置いといて、さっさとケイの声を確認しようと思う。
今回僕がミレニアムに行くことに決めた大きな目的であるメモリーカードのデータ移行。自分でやってデータが消し飛んでしまうのを恐れた僕は、ミレニアムの誇るハッカー集団であるヴェリタスにデータ移行をお願いした。そして無事にデータ移行も完了し、今のケイは16GBのメモリーカードに入っている状態だ。
どうやらケイの方も余裕が違うらしい。やっぱり容量が倍に増えればそれだけ楽になるのだろう。
「よし、僕はいつでも大丈夫だから早速始めるよ」
【分かりました。では発声準備を開始します】
そう言ってケイは準備を始めた。何を準備しているのかは僕には分からないが、きっと声を出すのに必要な何かをしているのだろう。
【準備完了。では参ります】
準備が出来たらしい。ついにケイが喋る瞬間が来る。
昨日試してみた結果起きたあのガビガビ音声。とても聞き取ることも出来ず、ケイのイメージにも合わなかったあの声から一体どれだけの変化が起きているのだろうか。僕は期待と緊張を胸にその時を待つ。
そして、その時はついに訪れた……
≪…こ……これ………≫
≪これで…聞こえますでしょうか……?≫
……聞こえた。確かに聞こえた。人間のような、女の子のような声が、このゲーム機から……!
「…き、聞こえる……!聞こえるよケイ!大成功だよ!!」
≪ええ、そのようですね≫
本当に聞こえる!あまり感情の籠っていなさそうな無機質な感じのケイの声が聞こえるんだ!凄い、本当に聞こえる!!
僕は勢いよくソファーから立ち上がった。
「あははははっ!!やったぁ!!やっとケイの声が聞けたよ!!」
≪…喜びすぎでしょう。そんなに価値がありますか?私の声は……≫
あ、ちょっと困惑してる。文字でも分かりやすかったけど、声にするともっと分かりやすいね。
それにしても何だろうこの感動は。本来だったらケイとの会話を楽にしたいという理由で声を出せるように奮闘したはずだった。でもこの声を聞いたら、会話が楽になるというより、『ケイの声を聞けた』という本質的な喜びが非常に大きくなっている。
もしかしたら僕は、初めて会った日からケイの声を聞きたいと心のどこかで思っていたのかもしれない。
「それにしてもケイの声ってあれだね。アリスさんの声を少し低くしたような感じだね」
≪王女の声ですか…?まあそうですね、生まれが一緒なのでその影響かもしれませんね≫
「へー、生まれが一緒なんだ……」
生まれが一緒ってことは、双子みたいな感じなのかな?だったら声が似ているというのも納得がいく。
あ、そういえば立ってからずっと立ちっぱなしだった。座ろっと。
「いやーそれにしても、何でこんなに嬉しいんだろうね?もっと話そうよケイ~」
≪いま話しているでしょう?全く、何がそんなに嬉しいんですか……≫
ケイの困惑したような声。しかしそこには、嫌そうな感情は乗っていなかった。もしかしてケイも、僕とのこういう会話は嫌だと思っていないのかもしれない。
≪ところで……貴方が白石ウタハとかいう人物に作らせたものは使わないのですか?このために作らせたものなのでしょう?≫
「あ、そうだね。使おう使おう」
ケイに促されるように、僕はカバンから3つの小物を取り出した。どれもとても小さく、ビー玉くらいのサイズしかない小物たちだ。
≪本当に小さいですね…これで本当に会話が楽になると?≫
「うん、そうなると思って作ってもらったからね」
ウタハさんにお礼品として作ってもらった3つの小物たち。どれも非常に小さいながらも高性能なものになっている。
まずは小さいレンズが付いているものを試してみよう。
「じゃーん!『超小型高画質カメラ』ー!」
≪…なんですかそのノリは≫
えー良いじゃん、ノリが悪いなぁ…
まあいい、とにかくこの機械の解説をしよう。この機械は『超小型高画質カメラ』と自分が勝手に呼んでいる。四角い立方体の形をしたビー玉くらいのサイズに、レンズがついている。その側面にはスイッチのようなものが付いており、これが電源ボタンだ。後ろには、服に付けることが出来るピンのようなものが付けられている。
カメラというように、これはレンズを向けた対象を映像として映す機能を持ってはいるが、なにより非常に小さい。こんな小ささでは本当にカメラの機能を十全に発揮できるのかという疑問があるがそこはエンジニア部製、高画質で対象を映しだしてくれるという。
だがこれでは、何のために作ってもらったのかよく分からないと感じるだろう。その疑問を解決するのが、このカメラの接続機能だ。
このカメラはとある専用機種と接続しなければ使用することが出来ないものだ。接続しなければ、電源をONにすることは出来ない。では一体なんの機種に接続するのか、それは……
──『ゲームガールズアドバンスSP』だ
そう、このカメラは『ゲームガールズアドバンスSP』のみに対応した専用カメラなのである。それ以外の機種では全く使うことのできない代物だ。
だが、そもそもなぜ『ゲームガールズアドバンスSP』専用のカメラを作ってもらったのか。こんなカメラを使うようなゲームなど存在しないというのに。
その理由こそ、僕がミレニアムに言った目的である『ケイとの会話を楽にするために声を出せるようにする』という中の『会話を楽にする』というものが理由になっているのだ。それは一体どういうことかというと……
「接続設定はもうウタハさんにしてもらったから……電源着けるよ~」
≪はい、どうぞ≫
僕はカメラの側面についている電源のスイッチをONにした。
「どう?見える?」
≪…見えます。今はテレビの方に向けていますね?≫
「正解!じゃあこれは?」
≪…台所が見えます≫
「正解正解!完璧だね!」
カメラの電源を入れて、カメラを自由に向けるとそこが何かを答えたケイ。ゲーム画面からしか見えないはずのケイが、カメラの向いている場所や物を視認できている。
そう、このカメラを使うことでゲーム画面をわざわざ外側に向けなくてもケイに外の風景を見せることが可能になったのだ。つまりこれであの面倒なやりとりや、わざわざ手でゲーム機を持ちながら行動する必要もなくなったということだ。ゲーム機はカバンとかに入れて持ち歩かないといけないことは変わりないが、これでケイとの散歩が非常に楽になる。
そしてこのカメラを服の襟元あたりに付ければ……両手が空いたまま散歩が出来るのだ。これは画期的!しかも小型だから目立たないというおまけ付きだ。
「ふふふふ……どうよケイ。これで散歩も楽になるよ?」
≪はあ……つまり私はまた散歩に付き合わされるということですね?≫
「そゆこと!」
≪……はぁ≫
すっかりおなじみになったケイのため息もでたところで次の小物に移ろう。
次の機械は、『小型片耳骨伝導イヤホン』だ。
これもビー玉くらいの大きさで、形は塩分チャージタブレットのような形をしている。そしてこれには吸盤のようなものがついており、これを耳の穴から外れた部分に押し込むだけで簡単に付けることが出来る。しかも外れにくい。取る時はちゃんと取り方もあり、安心して簡単に取り外すことも可能だ。
そしてもちろんこのイヤホンも『ゲームガールズアドバンスSP』専用機械になっており……
「はい、何か喋ってケイ」
≪何かって……こんにちは、これでいいですか?≫
「おお!聞こえる聞こえる!凄いよこれ!」
≪はあ…≫
こうしてケイの声をイヤホンで聞くことが出来る。これでいくら周りに人がいたとしても、ケイは堂々と話すことが可能だ。しかもこのイヤホン、音漏れしないというのも好ポイントである。そして耳の穴をちゃんと開けているので、ケイの声を聞きながら他の人の会話も可能だ。
そして塩分タブレット型の小さなイヤホンを片耳に付けているだけなので、滅多なことが無い限りイヤホンを着けていると気づかれないのも凄い。
「これでケイも周りを気にする必要なし!気持ちも楽でしょ?」
≪…ええ、まあ……はい≫
何とも微妙な反応だが、最後の小物を紹介しよう。
最後の機械、それは『小型マイク』だ。
これもビー玉くらいの大きさで、モモチューバ―がよくつけている小型マイクによく似たものだ。唯一違うものと言えば、これも『ゲームガールズアドバンスSP』専用機械だというところ。
これを襟元に付けて、リビングから離れて洗面所へ行く。そして電源をONにしたマイクに声をかけた。
「あー、あー、マイクテスマイクテス」
≪…変なこと言わないで普通に喋ってください≫
「お、反応しているってことは聞こえているってことだね?」
≪…ええ、聞こえていますよ≫
こうしてゲーム機と多少離れていても会話することも出来るし、電車の仲や人ごみの中での小声で会話、そしてお姉ちゃんたちと一緒にいても目を盗んで小声で会話をすることが出来るのだ。
そしてこれも非常に小さいサイズなので、大して目立つこともない。だからマイクを着けていると気づかれることも少ないということだ。
これらの小物を作ってもらえた、つまりこれはどういうことか。
カメラ、イヤホン、マイク。これら3つの小物があれば、いつでもどこでもどんなときでもケイと会話が可能になったということなのだ!
いや本当に、ウタハさんには頭が上がりません……
「これでいつでも話せるね、ケイ!」
≪そう……ですね?≫
何だか困惑の色を隠せていないのだが、そんなにこの小物たちは変だっただろうか?それとも、ここまでして僕との会話はそこまで乗り気ではないとか…?
「もしかして…あまり乗り気じゃない感じ?僕だけ盛り上がりすぎちゃった?」
≪…まあ、随分と貴方一人で盛り上がっているとは感じましたが≫
「そっかぁ……」
やっぱりちょっと自分だけテンションが上がりすぎていたみたいだ。ケイは完全に置いてけぼりを喰らっちゃったな。
うーん、でもここまでしないと外でケイと話すの難しいって思ったんだよなぁ…
≪まあでも……≫
「…ケイ?」
そう色々と考えているとケイが口を開いた。
≪せっかくここまで準備したんです。もうしばらくは付き合ってあげますよ≫
「え、良いの?」
≪良いと言っています。それとも、貴方は望んでいないと?≫
「えっ!?いや、ううん!望んでる望んでる!」
ケイの情けなのか、もうしばらく僕との関りは続けてくれるようだ。だったら、ここまで準備した甲斐があるってものだし、ケイともっと話せるのは非常に嬉しいことだ。
「じゃあ、これからもよろしくね!ケイ!」
≪………はい≫
たった一言、「はい」という言葉。素っ気ないと言えば素っ気ないかもしれないが、それでもケイが応じてくれた、肯定的な返事。
何となくだがその声音は、無機質無感情とは少し離れているような感じがした。
▽ケイは声を出せるようになった!
▽レベルが1上がった!