難産気味だったんですけど…気合いで書き切りました。
けど少し雑かもしれないです……
「お姉ちゃん!まだ!?」
「ま、待って、急かさないで!あとこれだけ入力すれば終わりだから!」
ゲーム開発部の部室に、タイピング音が忙しなく響き渡っている。迫る時間は残り約2分。ギリギリの瀬戸際、ほんのコンマ1秒でも遅れたら終わりそうなほどの緊迫した状況。部室に響く重い息遣いも相まって、張り詰める糸が千切れそうなほどに張った雰囲気が流れていた。
モモイお姉ちゃんが必要な情報をPCに打ち込み、ユズさんが作品の最終チェックを終わらせる。残り20秒近く、ファイルをアップロードするのに14秒。早くしろ早くしろという念を各々が送り続けて14秒。迫りくるバッドエンドを振り切ったゲーム開発部のPC画面には、1つのメッセージが残されていた。
──ミレニアムプライスへの参加受付が完了しました。
そのメッセージが表示された数秒後、ミレニアムプライスへの受付時間が締め切られた。ゲーム開発部は、ギリギリ間に合ったのだ。
「間に合ったああぁぁぁ!」
作品の投稿を無事に見届けたモモイお姉ちゃんは、両手を上に広げてガッツポーズを取る。その瞬間、部室に張り詰めた空気は霧散し、糸がほどけるように空気が緩んでいった。
「ギリギリ……心臓止まるかと思った……」
「あとは……3日後の結果を待つだけ、だね」
貯めこんだ空気を吐き出すようなため息とともに、ユズさんとミドリお姉ちゃんはその場で脱力する。ゲーム開発部全員の首筋からうっすらと汗が流れており、今日までの戦いがいかに熾烈であったかを物語っていた。
≪ここまでギリギリになるとは…計画性の無い人たちですね本当に……≫
そんな皆の姿に何を想ったのか、イヤホンから呆れたようなケイの声が聞こえてきた。確かに残り5日で1つのゲームを仕上げるという荒業をやってのけたのは凄いと思うが、残り時間の数十秒まで粘るというのはやりすぎな気もする。これでは計画性がないと思われても仕方がないだろう。
「みんな、お疲れさま」
「ありがとうアオト……わざわざ見届けるために来てもらっちゃって悪いね」
「もう外もこんなに暗くなっちゃったけど……本当にお家に帰るの?」
「大丈夫、泊まる準備はしてきたから!」
「「ちゃっかりしてるね…」」
僕は心配しているお姉ちゃん2人にサムズアップで止まる準備をしてきたとアピールした。正直言って、今日ここに泊まる予定を考えていなかったのだが、ミレニアムプライス参加受付の締め切り時間がだいぶ遅かったことを改めて考えるともしかしたら……と思って軽く泊まれる準備をしてきたのだ。どうやらその予感は正しかったみたいだね。
「“そうなんだ。だったら私もあまり心配しなくて良さそうだね”」
「先生……はい、僕は大丈夫ですよ」
隣に座っている先生も心配してくれていたみたいだ。僕は大丈夫だし、ウタハさんの時のように送ってくれるなんて迷惑はかけられない。ここは素直に泊まろうと思っている。
というか、先生の顔を見るのもおよそ1週間ぶりだ。非常に久々に感じられるのは気のせいだろうか。
ところで……そもそもなぜ僕がこんな夜にミレニアムサイエンススクールにいるのか。ミレニアムプライス締切日にゲーム開発部に来たのか。
正直、僕は今日この日にゲーム開発部を訪れる予定はなかった。今日は行かず、3日後のミレニアムプライス結果発表の日に訪れようと思っていたのだ。
じゃあそうすればよかったじゃん…と言いたくなる気持ちは分かるのだが、締切前日にモモイお姉ちゃんのモモトークが送られてきたから僕はここに来たのだ。
その内容とは、【最後に近くで応援してほしい】という内容だった。いきなりなんだと思ったし、僕の応援が必要なのかと疑問に思ったりもした。それに急に言われたらビックリするじゃん?だがモモイお姉ちゃんが、ゲーム開発部が僕の応援の力を求めているというのであれば、応えようと思ったのだ。
そうして僕は、2日前にウタハさんが作ってくれた小物であるカメラ、イヤホン、マイクの三種の神器を持ってケイと一緒にゲーム開発部を訪れたのだった。
ところで、その小物を作ってもらった翌日、つまり昨日にこの三種の神器を実際に使って散歩をしたのだが、効果は覿面の覿面。まさに完璧の一言である。
まず両手が空いているというのがもう最高だ。やっぱりゲーム機を常に手で持ちながら歩き続けるというのは案外ストレスが溜まるというもの。それが無くなっただけでも快適性が違うのなんの。それに加えてケイも安定して前方の風景に集中することができ、広い視野で散歩をすることが出来たのはきっと快適だったのではなかろうか。
そしてマイクとイヤホンの存在も有難く、ケイの存在を悟られずに会話が出来るのが快適でいつも以上に会話が弾む弾む。ゲーセンでクレーンゲームにリベンジした時も、またアームの弱さににガチギレしていたケイだったが、イヤホンが無かったらゲーセン中に声が響き渡っていたと思うと有難いものだ
そんなこんなで、すっかり散歩や会話が楽になった要因であるこの三種の神器を使って、今日はミレニアムにお邪魔しているのだった。
話を戻して、ミレニアムプライスに無事応募が出来たのはめでたい。だが問題はその先にあるというのは、もうゲーム開発部は分かっているはずだ。そう、3日後の結果発表……そこで何かしらの賞を取らなければ部の実績が認められずに廃部が決定してしまう。
廃部……僕にとってもこれは非常に悲しいことだ。僕もすっかり、このゲーム開発部という空間に居心地の良さを感じている人間である。遊びにいけばいつも楽しくて、帰るのが嫌だといつも思ってしまうものなのだ。そんな場所が無くなるのは僕も…嫌だ。
ということで何としても賞を取らなければいけない状況にあるわけだが、ここでモモイお姉ちゃんがある案を出してきた。それは、先行でweb版の『テイルズ・サガ・クロニクル2』をアップロードしてみるというものだった。
理由は単純、3日間も待てないから。それと審査員の評価より先にユ―ザーの反応が知りたいらしい。その気持ちは、確かに分かるかも。
だがミドリお姉ちゃんは少し怖いそうだ。低評価コメントが心配らしい。前作の『テイルズ・サガ・クロニクル』の時もかなりの低評価コメントが送られてきたのだろう。そのコメントが怖いという気持ちも分かる。
だが、このゲームはミレニアムプライスに出品するためだけに作ったゲームではない、ベストを尽くしたのだから自信を持って見てもらおうというモモイお姉ちゃんの言葉と、それに同意したユズさんの意見もあってweb版『テイルズ・サガ・クロニクル2』のアップロードが決まった。
モモイお姉ちゃんの前向きな姿勢は相変わらずだと思ったが、特にユズさんの意見、もし低評価コメントが来ても皆がいるから大丈夫という言葉が何だか心に響いてきた。ユズさんはかなり内気な性格に見えるが、セミナー襲撃の際に勇気を出してネルさんと向かい合ったりするなど強い心を持っているなと感じるところある。なんというか、凄いなって思う。
そんな感じで『テイルズ・サガ・クロニクル2』がアップロードされて、ユーザーがプレイしてから感想をくれるまで2~3時間はかかるだろうということでしばらく休憩という形になった。
僕はこのタイミングで、荷物をお姉ちゃんたちが暮らしている寮の部屋において来ようと思う。時間的にも、泊まることは確定だろうし。ゲーム開発部のみんなは疲れているのか、部屋から出ようとはしなかったのでとりあえず僕1人だけで行くことにした。
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「いやー、無事に終わって良かったよね~ケイ?」
≪いえ、私は別にそう思いませんけど……≫
「…冷たいねぇ」
≪そんなこと言われましても、私は彼女たちと親交がありませんし。王女がどうなるか意外はどうでもいいので≫
「………冷たいねぇ」
ここはモモイお姉ちゃんとミドリお姉ちゃんが暮らしている寮の部屋だ。壁は無機質な白色で何の手も施されていないが、机の上に置いてあるものやベッドなどは桃色と緑色の装飾が施されたものを使っており、部屋全体が華やかな色彩に彩られていた。
僕はとりあえず床に荷物を置いて、モモイお姉ちゃんのベッドの上に座った。高反発のマットレスが、僕の身体を弾ませながら受け止める。
心地の良い感触のベッドに弾まれながら、ケイの言葉を聞いた僕は冷たいなぁと感じた。まあでも親交が無いのは本当だし、仕方がない部分はあるのだろうけれど。
「でもあれなんだ。アリスさんの動向は気になる感じなんだ」
≪それは……そうですね≫
お姉ちゃんたちには興味が無さげだけど…どうやらアリスさんはそういうわけではないらしい。まあ言い方があれだけど、ケイが狙っているのがアリスさんだからね。動向が気になるのも当然か。
「じゃあさ、今のアリスさんの姿ってケイはどう思っているの?」
≪……というと?≫
「えっと……アリスさんってとても笑顔が眩しい元気な人ってイメージがあるんだよね。その姿って、ケイからすれば意外な姿に見えるのかなって……」
アリスさんのあの姿は、とてもじゃないが悪事をするという雰囲気ではない。ケイはアリスさんを利用して世界を滅ぼそうとしている目論見があるみたいだが、とてもじゃないがあの姿は世界を滅ぼす存在には見えない。どちらかと言えば、真反対の道に進んでいるのが今のアリスさんだ。
今日だって、作業の邪魔をしないようにしつつ応援するというやり方でみんなを鼓舞していたし、自分から飲み物や食べ物の買い出しなどの雑務だってこなしていた。そんな姿を、ケイはどう思っているのだろうか。
≪……別にいいんじゃないでしょうか≫
「えっ、そうなの?」
でも返ってきたのは意外な言葉だった。もっと今の姿じゃ扱いづらくなるから嫌だと言ったりするのかと思っていたのだが……
≪結局、私が王女を戴冠させることに変わりはないので……その間の姿がどのような姿でも構わないのですよ≫
「へ、へぇ~…」
≪まあしかし……陰鬱な姿に比べたら、明朗な姿という方が好ましくはあるかもしれませんけれどね≫
「……へっ?」
好ましくはあるって……まるでアリスさんにはこうなっていて欲しいという願望があるみたいじゃないか。なんだろう、この世界で生きているのだから社交性はあったほうがいいみたいな親のような感情でもあるのだろうか…?
「つまり性格は明るい方が良いってことだよね?どんな姿でも構わないって言っていたけど…もしかして結構アリスさんのこと気にかけてたりする?」
≪……まあ、多少は≫
ちゃんと心配してるじゃん……
なんというか、僕と扱い違わない?お願いを聞いてくれる優しさがあるのは知っているけど、僕のこと心配してくれたような様子はあまり見たことがないんだけど……
これもあれなのだろうか。生まれが同じとか、利用する存在は大切にしたいとかそういった感情なのだろうか。僕はまだケイのことを理解できていないからよく分からないが。
≪まあ、王女の性格とかについては別に気にしていません。私としてはもっと別のところが気になるのですが≫
「別のところ…?それってどんなところ?」
だがケイはアリスさんの性格については必要以上に心配はしていないみたいだ。だが別に気になるところがあるようで…
ケイの言う、性格とは違う気になるところ。それは一体どこなのだろうか…?
≪……ゲーム開発部の部室。あそこはなんですか?≫
「なんですかって…どういう意味?」
≪あの部室、とても生物が居住できる環境とは思えないのですが≫
「……あー」
なんだろう、言わんとしていることが分かる気がする……
≪床にゴミは散らばっている。机の上はお菓子とジュースのカスばかり。至る所にゲーム機が置かれてバラバラ≫
「……」
≪そしてそんな環境を誰も改善しようとしない精神性。貴方の部屋も大概だと思っていましたが…それ以上の酷さですよ≫
「………確かにあの部屋は綺麗とは言えないけど」
そこまで言う…?
だが確かにあの部屋は汚い。多分100人見たら98人は「汚い」と答えるレベルの汚さではある。まるで去年までのモモイお姉ちゃんの部屋を見ているレベルだ。
だが何故ケイがそこまで部屋の汚さを気にするのだろう。ケイはあくまでゲーム機の中にいる存在、部屋の環境はケイ自身には影響がないはずだが……
≪…王女のボディは人間に限りなく近い≫
「え?」
≪体は洗わなければ汚れるし、免疫作用が働けば体にも影響が出る。食事も摂れるし、栄養の問題も無視できるものではない。王女は人間と同じ、デリケートな存在なのですよ≫
「へ、へぇ~…」
≪そんな王女をあの部屋に住まわせるなど…一体何を考えているのですかあの集団は?≫
つまりなんだ。ケイはアリスさんが汚部屋に住んでいることのへの健康とかそういったことを気にしているということか。
それって……
「……めっちゃ気にかけてるじゃん。アリスさんのこと」
≪………そうでしょうか≫
うーん…アリスさんに対するこの気にかけっぷり……ケイってアリスさんのこと好きなのかな?でもそれだと色々と疑問が残るのだけれど……
そもそもケイはアリスさんを使って世界を滅ぼそうとしている存在だ。つまりアリスさんは利用対象ということ。とてもじゃないが、ケイのアリスさんに対する花を育てるような気にかけに違和感を抱く関係性のはずだ。
でもケイの声音に嘘をついている雰囲気を全く感じない。あの分かりやすいケイなら嘘もすぐに分かると思っていたのだが……嘘をつくのは得意なのか?それとも本心でアリスさんのことを気にかけている?
「うーん…なんか僕、ケイのことよくわからなくなってきた気がするよ」
≪はい…?いきなりどうしたというのですか貴方は?≫
「いやだってさ、ケイってアリスさんのことを利用して世界を滅ぼそうとしているんでしょ?それなのにアリスさんのことをこんなに気にかけて……大切にしたいのか利用したいのか分からないよ……」
≪それは………どちらでしょうね。それよりアオト、先ほども話しましたけど貴方の部屋も大概汚いのですよ≫
「あっ、ちょっと!話題を逸らすなー!」
すごい、ビックリするくらい強引に話を逸らされた。それほど触れてほしくないことなのかな…?
≪いえ、逸らします。貴方の部屋は彼女たちの部室に負けず劣らずの汚さを誇っていることを自覚しているのですか?≫
「逸らしますって…堂々としすぎでしょ!ていうか、僕の部屋はあそこまで酷くありませんー!」
≪いえ、酷いです。しかも貴方、机の上の漫画やらプリントやらゲームソフトやらが積み重なっている山の上に私を置いて充電しているではないですか。どうかと思いますよ、私は≫
「うっ……確かに机の上は汚いかも…しれないけど!床はまだ綺麗だよね!?」
≪……カバンが乱雑に置かれている床を綺麗と呼ぶのは驕りが過ぎるかと≫
「うぐぐっ……!」
マズい…話を逸らされて完全に僕の部屋についての話になってしまっている!
ケイの呆れの声音から繰り出される事実の数々にぐうの音しか出ない。このままだと精神がケイに抉り取られる気しかしないので、なんとか話題を逸らさなければ……
「そ、それを言うならこの部屋だってどうなのさ!ぶっちゃけこの部屋って僕の部屋に比べたらだいぶ汚い──」
──ドカアアァァァン!!
「……ッ!?」
≪……爆発音?≫
何とか話を逸らそうとしているところに、遠くの方から爆発したような音が聞こえてくる。音の大きさからして、遠くもなければ近くもない微妙な距離だ。
「何の音…?一体どこでなにが…?」
≪エンジニア部というところが何かやらかしたのでは?≫
「えー?ウタハさんたちが?まあ、機械製作の途中で爆発するってこともありえなくはないと思うけど──」
──ドゴオォォォン!
「…ッ!!また爆発……って違う!これ銃撃音だ!」
≪どこか撃たれているということでしょうか?≫
2度に渡る銃撃音。それも音にしては大きく、砲撃のようなだ。いくら弾丸が飛び交うのが普通のキヴォトスだとしても、砲撃レベルの音が連続で響き渡るのは少ない。つまりこれは普通ではない事態だと察することが出来る。
僕は立ち上がって窓へ小走りに近づき、閉められていたカーテンを開けた。空は暗く闇に染まっているが、見渡す限りの建物の光が輝きを放っている。暗いけれど明るいという相反する現象を体現したこの景色は、心に感動と高揚をもたらすものなのだが、今はその景色を堪能している場合ではない。
外の景色を見ると、感動的な夜景に似合わない煙が右側の建物から上がっているのが見える。あれはゲーム開発部の部室も入っている部室棟だ。そして煙が上がっている場所も、ゲーム開発部と同じ階層にある部屋だった。
ゲーム開発部の部室に近いのなら大変だ。近くの部室が撃たれたというのならゲーム開発部の部室に被害がないとは限らないのだから。だからゲーム開発部の部室からどれくらい離れているかをチェックしなくては。
階層は同じ。だからゲーム開発部の部室がある場所を横から数えて特定する。1,2,3、4……と数えて、ゲーム開発部の部室と撃たれた部室の場所が合致したのを確認した。
「………え?」
………合致したのを確認した?
もう一度横から順に数えていく……やっぱりそうだ。撃たれた場所とゲーム開発部の部室が合致している。つまり2度の銃撃で撃たれたのはお姉ちゃんたちということになるわけで……
「お姉ちゃん……?」
血の気がサーッと引いていくのが分かる。全身が急に冷たくなって、動悸が急に早くなっていく。
間違いない、撃たれたのはお姉ちゃんたちだ。しかもあの大きな銃撃音は、砲撃クラスの可能性があると考えると受けた被害は相当なものになるはずだ。
……今の銃撃でお姉ちゃんたちが大怪我を負っていたらどうしよう…もし当たり所が悪くて、意識を失っていたら……?
そんな思いが頭の中を駆け巡り始めてからは、行動が早かった。
「…ッ!お姉ちゃんッ!!」
≪…なっ!?ちょっと、どこに行く気ですかアオト!?≫
僕は寮の部屋を飛び出し、ゲーム開発部の部室へと駆け出した。
――――――――――――――――――――――
「お姉ちゃん!みんな!」
ここまでダッシュで駆け抜けて、部室のドアを勢いよく開けた。そこに広がっていたのは……
「これって……」
まず感じたのは、割れた窓から入り込む風だった。ドアを開けて空気の通り道が出来たのか、それなりに強い生暖かい風が僕の身体に襲い掛かってくる。
そして目に映る、床を抉りとっている銃痕。その大きさから、砲撃ではないが相当大きな銃で撃たれたのだと推測できる。おそらく、スナイパーライフルクラスだ。その銃に撃たれたであろうゲーム機が、木っ端みじんに粉砕されて無残に床に転がっていた。
そして何より、どこにも見当たらないゲーム開発部のみんな。誰もいない、電気が付いているだけのもぬけの殻だ。ここから逃げることが出来たのか、それとも連行されてしまったのか。
「はぁ…はぁ…」
動悸の音が非常にうるさい。ここまで休みなく走ってきたのも影響しているだろう。心臓の鼓動が何もしなくても分かるほどの強い動悸だ。
≪アオト!聞いているのですかアオト!≫
「わっ…ビックリした……どうしたのケイ?」
≪どうしたのではありませんよ…急に走り出してビックリしたではありませんか……≫
そして耳元からケイの大きな声が聞こえてきた。
「あ…ごめんケイ……」
≪まあ、別にいいですが……しかしアオト、姉たちが撃たれたからと言って急いで部室に向かってどうするつもりだったのですか?≫
「えっ?いやだって、心配で……」
≪心配でって……貴方が心配して現場に向かったところで一体何が出来るというのですか?≫
ケイの呆れたような声。お姉ちゃんたちが撃たれたところで僕に出来ることは何もないとでも言いたげな雰囲気だ。
確かにそうだ。僕が1人向かったところでせいぜい猫の手になるかどうかの戦力だろう。でも、だからと言って何もせずジッとしているのも嫌だった。
「何も…出来ないかもだけど……だからといって──」
──ダダダダンッ!
ケイに反論しようと思ったところで、三度聞こえた銃撃音。だがこれは先ほどの大きな銃撃ではない。どちらかといえば一般的なアサルトライフルに近い音だ。
それがここから少し遠いところから聞こえてくる。音の方向的に場所は……
「旧校舎の廊下…!」
大体の場所を把握した僕は、懐から僕の銃である『M1911A1』を取り出した。マガジンを取り出し、弾が十分に入っているのを確認してからマガジンを入れる。スライドを引いて弾をいつでも撃てる状態にして準備を終えた僕は、お姉ちゃんたちがいるであろう旧校舎廊下に向かって走り出した。
≪なっ!?ちょっとアオト!だから貴方が行ったところで何も出来ないのでしょう!?怪我したらどうするのですか!≫
「心配してくれてありがとう!でもジッとなんかしていられないよ!」
≪ジッとしていられないって……ああもう!≫
ケイの心配してくれているかもしれない声に逆らうように、僕は目的の場所へと向かった。
――――――――――――――――――――――
走り続けて数分、銃撃音は聞こえなくなったが違う喧騒が徐々に大きくなってくるのを感じながら僕は目的地まで近づいていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
だが流石に数分のガチ走りは体がもたなかったようだ。足が止まり、喘息にも似た息が際限なく漏れ続け、甲高い空気の音が響き渡る。流れる汗の量も凄まじく、雨に濡れた後のような汗が床に落ちていった。
≪ちょっとアオト……大丈夫なんですか?≫
「は、ははは……はぁ…はぁ…大丈夫…だよ、はぁ…はぁ…はぁ…ちょっと……はぁ…疲れただけ、だから……」
≪とてもそうは見えない息遣いですけれど……≫
…珍しいね。ケイがここまで心配してくれるなんて……何だか嬉しいや。いつもこれだけ心配してくれたらもっと嬉しいのに……
しかし、話し声がすぐそこで聞こえてきているのだ。心配してくれるのは嬉しいが、止まっているわけにはいかない。
少し止まって息を整え、再び歩き出す。
一体、誰がどんな目的でゲーム開発部に手を出したのか。その正体を見せてもらおうじゃないか。
「お姉ちゃん……!」
少し歩いた先を曲がったところで、お姉ちゃんたちの姿が見えた。僕は2人に声をかけると、ゆっくりとこちらを振り返り信じられないというような顔で見つめてきた。
「……え?」
「ア、 アオト…?どうしてここに…?」
その2人の声に呼応するように、アリスさんとユズさんと先生もこちらを向く。
「アオト…来てしまったのですか?」
「き、来ちゃったのアオトくん?」
「“…そうか、騒ぎに気付いて……”」
どうやら、僕が来ることは想定外だったらしい。皆それぞれ虚を突かれたような顔でこちらを向いていた。
「ちょっ、ちょっとアオト!?なんで来ちゃったのさ!?」
「そうだよ!ここは危ないのに……!!」
そしてモモイお姉ちゃんとミドリお姉ちゃんは、驚きと少しの怒りが混ざったかの表情で問い詰めてきた。それに対して僕はジッとしていられなかったと答えようとすると……
「あん?なんだそのチビガキ以上のチビは?」
アリスさんとユズさんを隔てた先にいる、1人のお姉さん……お姉さん?
赤みのかかった髪に、睨みつけるようなつり目。後ろにいる4人のメイド服を着ている人たちと同じようにその人もメイド服を着ているが、上に派手な刺繍を施したスカジャンを羽織っていた。
おそらく僕……どころかお姉ちゃんたちより年上なんだろうけど……それを疑ってしまうようなほどの身長。おそらくお姉ちゃんたちと変わらないのではないだろうか。
だがそんな身長であっても、放たれる圧は巨大だ。睨みつけられるだけで、委縮してしまうような圧を感じてしまう。
「…って男だぁ?珍しいやつもいるじゃねぇか……おい、そこのチビチビマン」
「えっ、チビチビマン?」
「おう、お前だお前」
その人は僕を見るなり興味深そうに薄ら笑いを浮かべて、僕に問いかけてきた。
「──お前、名前は?」
次回の投稿は少し遅くなるかもです。色々と予定やら仕事やらで書けるタイミングが少なそうなので……
それと何気にアオトくんの銃が初登場な件について