才羽家長男・末っ子10歳   作:Kyob

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どうも、今回から第3部の始まりです。

第3部はどんな物語になるのか、乞うご期待!……ということで、お願いします……


にしてもいきなり暑くなりましたよねぇ……暑いよ本当に……









第3部 キミと編むは絆の絢
P編 第25話 キミと過ごすいつもの日常


 

 

 

 変わった日常というのは、時間が経てば当たり前になるものだ。

 

 お姉ちゃんたちがまだ家にいた頃、近隣からクレームが来てもおかしくないほどの賑やかな時間は僕にとって当たり前のものだった。

 

 僕が産まれて10年、物心がついて6年くらい。この賑やかな家族の時間というのは永遠に続くものだと思っていた。決してなくならないと信じて疑うことなく。

 

 だが、そんな日常は数カ月前に終わりを告げた。お姉ちゃんたちがミレニアムサイエンススクールに入学すると同時に、向こうの寮に入寮したからである。

 

 賑やかな日々は終わることが無い、そんな願望は打ち砕かれた。

 

 テレビでゲームをしながら一喜一憂し、僕を振り回して遊ぶ無邪気なモモイお姉ちゃん。そんなモモイお姉ちゃんを咎めるも、なんやかんや一緒に騒いでいたミドリお姉ちゃん。

 

 僕の視線の先に当たり前に存在した家族の姿。耳を震わす2人の声。

 

 そんな日常をこの家で見聞きすのはもう当たり前ではなくなっていた。

 

 会いに行こうと思えば行ける。実際に、週に何回かは会いに行っている。それでも、家で1人過ごす時間というのはその時間と比べて圧倒的に多かった。本当に、前の日常には戻れないと感じていたのだ。

 

 でもこれは、自分で選んだ道。こうなったのはある意味、自業自得なのだ。だから文句は言わない、受け入れて今日まで過ごしていた。

 

 変わった日常。喧騒から静寂へ。

 

 数カ月も経てば慣れたものだが、それでも心の中で願いたいものがあった。それは何てことない、純粋な願い。僕にとって、今までが当たり前だった日常に対するほんの少しの渇望。

 

 

 

──もう少しだけ、賑やかな日常をください

 

 

 

 別にお姉ちゃんたちがいた時なみの賑わいは求めていない。苦情が来るんじゃないかと言われるほどの喧騒も、なくたっていい。

 

 ただ……蛇口から落ちる水滴の音が気にならないくらいの賑わいが欲しい。ただそれだけの願いだった。

 

 自分で選んだ道なのに、今更何を言っているのかというのは分かっている。それでも、やっぱり願わずにはいられないのだ。

 

 でも、それは叶わないだろうと思っていた。お姉ちゃんたちはミレニアムの寮にいるし、見ず知らずの誰かが訪れて一緒に過ごし始めるなんてイベントなんか起きるわけがない。そんなことが起きたらヴァルキューレ案件だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、そんな叶わないはずの願い…諦めていた現状に、何かが起こる。

 

 それは転機なのか、神様が僕にくれたプレゼントなのか。何も分からないけれど、それを見た時、何かが変わる予感がした。

 

 映し出される文字。そこから僕は、また日常が変わるような……そんな予感を感じたのだ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【貴方は…何者ですか?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケイと過ごした日常は、それはそれは愉快なものだった。

 

 出会って間もないころにやっていたお話や散歩は今でも普通にやっている。今日学校で起きたことをケイに話したりすると、《なんでそんな話を聞かなければ…?》という態度を見せつつも最後まで話は聞いてくれる。

 

 散歩に行けば《またですか……》と言いつつも、外の世界の興味を隠しきれずに色々と僕に聞いてくる。あのお店は何なのか、こっちに進むと何があるのか、偶には違うルートに進んでみたらどうか……口では仕方なく付き合ってくれている雰囲気は見せていたけど、実はケイ本人も楽しんでいるのは僕にも伝わっていた。

 

 そして前までは気にしていなかった天気に関しても、今ではケイもすっかり気にするようになっていた。晴れれば気分は良くなるし、曇りの日は気持ちテンションが下がる。雨の日なんかは随分と気分が右肩下がりだなと思う場面も多かった。

 

 そして散歩の最後は必ずと言っていいほどゲーセンに立ち寄った。あの日は失敗したクレーンゲーム。そのリベンジの為にケイは毎回クレーンゲームに挑戦していたのだ。

 

 それでも僕の財力は無限というわけではない。せいぜい一度の訪問で出来るプレイ回数なんて2,3回程度だ。そんな1000円分のプレイが出来るほど僕はお金持ちじゃあない。

 

 そのせいか何度訪問してもケイは景品が獲れずに苦戦を強いられていた。毎度毎度アームから景品がポロポロと落ちれば《ああ、もう!》と悔しそうに呟くし、今日はもうおしまいと言うと《もう一回です!》と駄々をこねる子供のように反抗する。

 

 それでも諦めずに挑戦し続けたおかげか、この間ついに……

 

 

 

《あ……と、獲れました………獲れましたよアオト!!》

 

 

 

 景品が捕えられ、落ちることなく進んだアームが穴まで近づいて、そのまま落とされた。何回、何十回も挑戦してついに掴んだ勝利の光景。その光景をみたケイはご褒美を貰えた子供のようにはしゃいだ声をあげた。

 

 今の今まで見たことのなかったケイの嬉しそうな声。そんな声を聞いた僕も、温かくて嬉しい気持ちになった。その後のケイの機嫌は、それはそれはよかったものだ。

 

 その景品であるペロロ人形は、僕のベッドの枕元に置いてある。ケイが初めて獲れた歓喜の証。それに寄り添うように、僕は毎日その人形と一緒に寝ている。

 

 

 

 嬉しそうな声といえば……ケイは笑うようになった。そんなにたくさん笑うわけではないけど、嬉しい時とか面白いと感じた時とか……無機質に反応していたことの多かった目に比べてとても感情が豊かになったのだ。

 

 初めて笑ってくれたのは何時だったかな……確か僕が晩御飯にカレーを作ろうと思った時だったっけ……?ケイと出会って10日くらいの経った時だったか…?

 

 普段カレーなんか作らないからあたふたしながらカレーを作っていて、途中で水の分量を間違えてしまった時だったような……ルーを何個入れても全然水っぽさが無くならなくて……

 

 

 

《水っぽさがなくならないって……そんなに水をたくさん入れるからでしょう?あと何個ルーが残って……え?これが最後の1個?この1個でトロミが付くとは思えないのですが……ああ、そんな涙目にならないでくださいよもう………ふふっ》

 

 

 

 何か僕の失敗した姿が面白かったからなのかは分からないが……でも確かにあの時初めてケイの笑い声を聞いた気がする。

 

 こんな大量に出来るシャバシャバしたカレーを作ってどう消費すればいいのか困ってちょっと泣きそうになったけど……ケイの笑い声を聞いた時に嬉しくなって涙が引っ込んだのを覚えている。

 

 これがキーポイントになったのかは分からないけど、そこからケイは笑う時は笑うようになった。笑うようになって、会話ももっと楽しくなって、毎日が賑やかになって充実していった。

 

 外の音が良く響き、足音がハッキリと聞こえる今までとは違う、確かに願った賑やかな空間。お姉ちゃんたちがいた時に比べたら静かな方だけれども、僕にとってはこのくらいで十分だった。

 

 ケイとの絆も深まって、毎日が楽しく過ごしていれば時間が経つのはあっという間だ。気が付けば僕とケイが出会ってから今日にいたるまで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──1カ月の時が流れていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ピッ、ピッ、ピピッ、ピピッ、ピピピッ、ピピピッ……

 

 

 

 深い夢の世界から叩き起こされるように、部屋に電子音が鳴り響く。鳴ってもらうのは有難いけれど、鳴ったら鳴ったでうるさいと感じてしまうあの音が。

 

 僕は混濁した意識の中、その音を止めるために右手で枕の近くにある目覚まし時計を叩いた。クイズの回答ボタンを叩きつけるように、強く。

 

 しかし……

 

 

 

──ピピピピピピピピ………

 

 

 

 夢から目覚めさせる不快な音が鳴りやまない。僕は何度もバンバンと目覚まし時計を叩くが、一向に鳴りやむ気配が見えない。

 

 薄ら目を開けて時計をみると、時計は8:02を示していた。学校に行く日の割には、随分と遅い目覚ましだ。

 

 僕は違和感に苛まれる。叩いても叩いても鳴りやまない目覚まし音、学校がある日の割には遅い目覚まし。夢と現実が入り乱れている意識の中、僕は頭を必死に回す。

 

 そういえば……今日は何曜日だ?昨日は確か金曜日だったから今日は土曜日のはずで……

 

 ……ん?土曜日……??

 

 

 

「んぅ……??」

 

 

 

 僕は更に頭を回した。今日が土曜日だということは学校なんかあるはずがない。学校が無い日にわざわざ目覚ましをかける必要性もない。

 

 つまり昨日の僕は目覚ましを設定していなかったというわけで…道理で目覚ましを止めようと思っても止まらないわけだ。設定してもいない目覚ましを止めるなんてそんな意味のないことがあるだろうか。

 

 じゃあ……この部屋に鳴り響いている電子音はなんだ?どこから……誰が鳴らしている……?

 

 そう頭で考えていると、思い当たる人物を思いつく。というか、その人物以外に考えられない。

 

 そういえば……こうやって勝手に目覚まし音を鳴らされて叩き起こされるのは今回が初めてではなかったな。もうかれこれ3,4回はこれで起こされている。

 

 

 

「うぅ……」

 

 

 

 僕は呻き声を上げながら起き上がり、学習机に近づく。近づけば近づくにつれ、大きくなっていく電子音。耳に入り込んでくる細くて大きな音が、鼓膜の振動を通じて頭に響いてくる。

 

 そしてのそのそと学習机の前に立つ。漫画やプリントも何も置かれていない、非常に綺麗な状態を保った机の上に置いてある『ゲームガールズアドバンスSP』を手に取った。

 

 そして「すぅ…」と息を吸い込んで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるさ~~~~いぃぃぃ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はこの音を止めてくれと懇願の想いを一緒に込めて、鳴らしている張本人に文句を言った。

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

《もう、いつまで寝てるんですか?遅いですよ!》

 

 

 

 

 

 

 電子音がピタリと止み、お説教のような声がこのゲーム機から聞こえてくる。

 

 

 

「いつまでって……まだ8時じゃん!今日は休みなのにどうして起こしちゃうの!?」

 

《まだ8時じゃありません、もう8時でしょう!?小学生が休日に惰眠を貪るつもりですか?それに、昨日あなたが何時に寝たのか忘れたわけではないでしょうね?》

 

「えぇ……10時には寝たけど……」

 

《なら10時間睡眠じゃないですか!そんなに寝たらもう十分でしょう!?全く貴方は私が居ないと本当に起きようとしないんですから……!ほら、早くシャキッと起きて顔を洗ってきてください》

 

「……ぶー」

 

 

 

 朝は早起きをしろと説教をするゲーム機の住人に、僕はぶーたれて不満を表す。

 

 もうこのやりとりをするのは何回目だろうか。休日の朝に叩き起こされて、なんでこんなに早く起こすのかと反抗しお説教を喰らう。1カ月前だったら起こりもしなかったこのやり取りも、絆が深まった今なら日常茶飯事になっていた。

 

 そんな僕の姿をみたゲーム機の住人ことケイは、有無を言わさずに続ける。

 

 

 

《ぶーじゃありません!全く……ほら、朝ごはんを食べますよ》

 

「むー……はぁ…分かったよ……おはようケイ」

 

《はい、おはようございますアオト》

 

 

 

 いつもと変わらず僕が折れて、ケイの言うことを聞く流れ。まあでも、ケイの言っていることはごもっともだし、何かと僕のことを案じて言ってくれているのは伝わっているから文句はない。

 

 朝の挨拶を交わし、カーテンを開ける。隙間に差し込んでいた光が大きく放たれて、部屋の時間を夜から朝へと塗り替えていく。その輝きはあまりにも眩しく、目を薄めて刺激を弱めるがそれは一瞬の出来事。慣れた眼は澄み渡る空を捉え、心も体も新しい朝を迎え入れた。

 

 僕は『ゲームガールズアドバンスSP』を手に取り、部屋を出て階段を下りる。まだ意識が半ボケのせいか、足取りが少々おぼつかない。

 

 洗面所に向かい、絶妙にぬるいお湯で顔を洗う。おもりでも付いているのかと言いたくなるほど重い瞼を洗うと、そのおもりがポロポロと取れていくように瞼が軽くなる。鏡に映る自分も、洗う前とは天と地の差があるほどスッキリとした顔だ。

 

 洗った顔をタオルで拭いて洗面所を出てリビングに入り、キッチンへと向かう。朝はそこまで食事について考えることは無い。ただ冷蔵庫から牛乳を取り出し、棚からお椀とコーンフレークを用意して準備をするだけだ。

 

 山のように積もるコーンフレークに、牛乳を注ぐ。雪崩のように注がれたミルクは山を崩し、その一帯を水没させた。棚からスプーンを取り出してお椀と一緒にリビングのテーブルへと持っていった僕は、「いただきます」と呟いてコーンフレークを口に入れた。

 

 ミルクの表面に浮かぶサクサクとした部分と、水底に沈んで柔らかくなった部分。二つの食感に、シリアルから溶け出た甘みが混ざる牛乳の味わい。そんな確かな甘みが心を満たし、朝の訪れを再確認させる。

 

 量は大して多くはない。「ごちそうさまでした」と数分でお椀を空にした僕はキッチンで食器を洗い、リビングに戻ってソファに座った。

 

 

 

「ふぅ……さて、今日は何をしようかな…?」

 

 

 

 今日は特に予定はない。お姉ちゃんたちがいるゲーム開発部のところへ遊びに行くのは明日の予定だから今日はフリーなのだ。

 

 だから一日ずっと暇というわけで、僕は今日やりたいことを色々と考えるが……

 

 

 

《……宿題は?》

 

 

 

 一言、容赦ない現実をケイが突きつける。

 

 

 

「え」

 

《え、じゃありません。学校から宿題とか出されているんでしょう?私知っているんですよ?》

 

「ダ、ダサレテナイヨ……?」

 

《ダウト。休日前に宿題を出さない学校がどこにあるというんですか?》

 

 

 

 僕はケイを誤魔化すため言葉を紡ぐが、視線があっちこっちと動いてしまう。その姿が分かりやすかったのか、ケイは全く疑うことなく嘘を看破して問い詰めてきた。

 

 

 

「うぅ……やりたくないよぉ………」

 

《やりたくなくてもやってください。今すぐ、ここで》

 

「ぐぐぐ………あ、あとで!後でやるから!」

 

《ダメです!貴方は後でやると言ったら忘れてやらないでしょう?そんなに量も多くないはずですから今このタイミングでやってしまってください》

 

「うわあああん!ケイのおにぃ!あくまぁ!」

 

《嘆いても宿題は終わりませんよ。早く持ってきてください………終わったら遊んであげますから》

 

「うううぅぅ……分かったよぉ………」

 

《よろしい》

 

 

 

 僕はヨロヨロと立ち上がり、足取り弱く自室に戻る。そして部屋から宿題のデータが入っている教育BDを持ってリビングへと戻った。

 

 そして宿題を始める僕。あーでもないこーでもないと言いながら宿題を進めていく。ケイは僕の勉強を邪魔しないでいてくれるのか、静かに僕の宿題をやっている風景を見守っていた。

 

 そしておよそ20分が経ち、最後の問題を終えて僕は体を伸ばした。

 

 

 

「んーー、終わったーーー!!」

 

《お疲れ様でしたアオト》

 

 

 

 無機質さを感じない、穏やかなケイの声。そんな労いの言葉を貰い、より達成感に浸る。これでもう心置きなく遊べるというものだ。

 

 ……どうして早く宿題を終わらせてから遊んだほうが開放的になれるのに、後回しにしてしまうのだろう。ケイに言われなかったら明日の夜に泣く泣くやっていたところなのだが……本当に不思議だ。

 

 

 

「さーって、何しようかなー?何して遊ぶ何して遊びたい何して遊ぼうか!?」

 

《落ち着いてください。やるべきこと終わったからってテンション上がりすぎでしょう》

 

 

 

 なんだろう、このやることやって後は自由だってなったときのこの異常なまでの開放感。普段よりもテンションが一回りも二回りも上がっているような気がしてならないのだけれど……僕の気のせいだよね?

 

 

 

「いやーでもどうしようかなー?最近やってないゲームもあるしそれをやるのもアリかなぁ……」

 

《あの…アオト。散歩とか行くつもりは……》

 

 

 

 僕が思考を巡らせている中、ケイの控えめな提案。どこか期待を含んでいるような、そんな提案だった。

 

 

 

「うーん…散歩かぁ……行けなくはないけど……」

 

 

 

 そう言って僕はスマホをみる。画面に映るロック解除画面を解除してホーム画面が映り、そのまま検索サイトへ向かった。そこで僕は『天気』と検索し、お天気サイトを見ると……

 

 

 

「……うん、やっぱりだ。今日は最高で32℃だって。お散歩行ったら汗だくになっちゃうよ」

 

 

 

 初夏の時期と言われていた季節から早1カ月、既に季節は夏に入ろうとしていた。夏の風物詩と言えば海やらバーベキューやらお祭りやら色々とあるが、盛り上がるアウトドアとは別に、そんなアウトドアな活動を縛り付けるような季節であるというのも忘れてはならない。

 

 それこそが夏の高気温だ。夏と言うだけあって、日中の気温と言うのは30℃を余裕で超えてくるのがこの夏という季節。とてもじゃないが、外で活動しようとするのは回避したくなるような季節だ。

 

 だが寒い季節よりかはマシだろうということで、アウトドアなスポーツや活動が盛り上がる季節でもある。結局人間は、汗をかくという行為が好きなのかもしれない。

 

 

 

「ちょっと暑すぎるねぇ……あまり外に出たくないかも」

 

 

 

 そしてこんな暑い日は散歩に行くのも億劫になるというもの。ケイと出会う1年前のこの季節だって、散歩に行った回数なんて両手の指に収まる程度しかしていないのだ。

 

 散歩は好きだが……やはり夏の暑さには耐えられん……

 

 

 

《そう……ですか。なら仕方ないですね……》

 

 

 

 ケイの沈んだ声。まるで散歩に行けずに落ち込む子犬のような反応に僕も罪悪感が刺激される。

 

 

 

「あ、いや……もう少し、もう少しだけ涼しくなったら行こう!せめて30℃切ってからさ!」

 

《別にそこまで気を遣わなくても……それに悲しくなんかないですし》

 

「いや嘘だ!絶対悲しんでるじゃん!何かゲーム機から負のオーラがむんむんに出てるもん!」

 

《いえ……そんなことはないですよ?》

 

 

 

 口ではそんなことはないと言っているが、あまりにも説得力のない強がりだ。何だかゲーム機の周りの温度がどんどんと下がっていっているような気がするし、ケイの感情と言うのは本当に分かりやすいものだ。

 

 

 

「あ、あー!なんか猛烈に外に出たい気分だなー!外に出て太陽の光を浴びて肌を黒くしたらカッコいいだろうなー!そうと決まれば今いこう、すぐ行こう!ほら行くよケイ!」

 

《へ。いや、ちょっとアオト……日焼けはあまり肌によくないのでせめて日焼け止めを……ああちょっとアオト!?気持ちは有難いですけどそんなに急いだら……せめて水分補給をしっかりしてからって、聞いていますかアオト!?》

 

 

 

 まあでもケイの気持ちも分かる。最近散歩とか出来ていなかったし、ケイの好きなクレーンゲームとか出来ていなかったからね。せっかくだし少し多めにお金を持っていこう。久しぶりのクレーンゲームだからいっぱい楽しんでもらおっと。

 

 僕は急いで準備をして、玄関に向かい靴を履く。

 

 

 

「よし、じゃあ行くよポチ!」

 

《うう…なんだか私が我儘を言ったみたいじゃないですか……って誰が犬ですか!?こらアオト!訂正しなさい!アオト!!》

 

 

 

 イヤホンとマイクとカメラ。ウタハさんに作ってもらった三種の神器を付けて接続する。イヤホンからギャーギャーとケイが何かを訴えているが、多分これは聞き流しても良いやつだ。

 

 僕はそのまま玄関の扉を開け、外の世界へ足を踏み出す。

 

 天から差し込む日差しは、強烈な熱気と共に僕の身体を突き刺した。

 

 

 

 










1ヶ月って今じゃ凄くあっという間ですけど、昔は凄い長く感じましたよね………





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